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■オープニング本文 ●浪志隊 家の奥から、唸るような悲鳴が上がった。 家屋を遠巻きにしていた野次馬たちがごくりと唾を飲み込んだ直後だった。ごろんと、血を散らして鬼の首が転がり、野次馬がわっと後ずさる。 「お騒がせ致しました」 奥から姿を現したのは、東堂俊一とその一党だった。彼は刀を鞘に収めつつ、周囲を落ち着かせようと言葉を掛け、皆を引き連れててきぱきと後始末に手を付ける。 「事件を聞きつけてから一刻も経ってない」 「あの礼儀正しい振る舞いも、婆娑羅姫とは大違いだぜ」 顔を寄せ、噂話に興ずる野次馬たち。婆娑羅姫というのは、森藍可などのことだろう。彼らの取り囲む前で、鬼の首はゆっくりと瘴気に還りつつあった。 ●真田悠 「真田さん、アヤカシ騒ぎはまた東堂さんたちが解決したそうですよ」 「うん、そうらしいな」 冬の寒空の中、太陽を頂上に往来を歩きながら、輝くばかりに美しい少年がぼやいていた。天草翔である。 「いいなァ。こんな巡邏ばかりじゃつまんねえや」 ややして、真田はため息混じりに振り返った。 「いいか、派手な斬りあいだけが隊の仕事じゃない。こうやって毎日街を見回って常に眼を光らせることだって大切なことだぞ」 「……バアさんを背負うのも僕らの仕事ですかい?」 「翔っ、ご婦人相手に失礼だろう!」 その背には老婆が背負われていた。翔も老婆の大荷物を背負って後ろに続いている。一方の老婆は耳も遠い様子でうつらうつらとしている。その様子に、翔は、不満そうに頬をふくらませた。 ● 道場に戻ると、翔は奥にむかった。座敷では柳生有希が瞑目し、腕組みして座している。 ぷっと翔は再び頬を膨らませた。こっちは老婆を背負って一働きしてきたというのに、その間有希は日向ぼっこをしていたと思ったのである。 ニッ、と笑うと翔は有希に忍び寄っていった。脇をくすぐってやろうと思ったのだ。いつもしかめっ面の有希が身悶えして笑う姿は見物である。 刹那―― 白光が逆袈裟にはしった。翔の前髪数本が断ち切られて宙を舞う。跳び退った翔は三度頬をぶっと膨らませた。 「ひでえなあ。ほんとに抜くことはないでしょうが」 「ふん」 鼻を鳴らすと、有希は抜刀していた刃をひいた。それから真田さん、と呼んだ。真田は苦笑して翔の背後に立っている。 「どうした、有希さん」 「東堂さんのことだが」 「東堂さん?」 「ああ。どうもきなくさい」 有希はいった。 東堂はよく貴族と会っている。それはいい。浪志組を設立するためにはそれも必要であったろう。が、最近会っている貴族は問題であった。 近衛兼孝。高位の貴族でありながら、あまり朝廷内において評判は良くない。急進的過ぎるというのだ。 「よし!」 勢い良く翔が立ち上がった。 「俺が調べてやる」 「待て」 真田がとめた。 「どうやって調べるつもりだ」 「どうやってって‥‥そりゃあ、東堂の野郎をひっ掴まえてボッコボコにしちゃえば」 「馬鹿!」 真田は怒鳴った。 「東堂さんをぶん殴ってどうするんだ」 「やれやれ」 翔は頭をぼりぼりと掻くと、 「一体どうすりゃお気にめすんですかね」 「普通に、だ。ひっそり、静かに普通に探索しろ」 「あーあ。辛気くせえ」 口を尖らせると、翔はくるりと背を返した。するとその肩を有希がおさえた。 「お前だけで何をしでかすかわからないな。開拓者に依頼を出すか」 「やだよ」 翔はぶるぶると首を振った。 「何故だ」 「だって、あいつら、うるせーんだもん。あれするな、これするなって。せつかく小うるさい真田さんから離れて一人で、あわわ」 翔が慌てて口をおさえた。が、真田はひきつった笑みを浮かべ、 「やっぱり開拓者に依頼を出すしかなさそうだな」 |
■参加者一覧
神凪 蒼司(ia0122)
19歳・男・志
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
カルロス・ヴァザーリ(ib3473)
42歳・男・サ
マックス・ボードマン(ib5426)
36歳・男・砲
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 「悪い事じゃないと良いんですけど……でも、何してるんでしょ?」 綺麗な銀の髪を、動きやすいように無造作に結った可愛らしい娘が首を傾げた。名をフィン・ファルスト(ib0979)という。 すると人間離れした美貌の少年が、ちらりとフィンを見た。天草翔(iz0237)だ。翔は顔を面倒臭げ顰めると、 「わかんねえから、これから調べんだろ。馬鹿か、てめえ」 「馬鹿って……」 ぷっとフィンは頬を膨らませると、 「馬鹿っていう者が馬鹿なんですよ。ばーか」 「てめえも馬鹿っていったじゃねえか。馬鹿馬鹿が」 「馬鹿馬鹿っていった! だったら翔さんは馬鹿馬鹿馬鹿です!」 「そういうてめえは馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿――」 「やめんか!」 一喝。長身の、厳然たる様子の若者だ。これは神凪蒼司(ia0122)というのだが。 蒼司は呆れたように首をふると、 「いったい何をやってるんだ、お前達は。……しかし、翔は元気が良さそうだが…余り先走らぬようにな?」 「そうよ」 苦笑したのは二十歳ほどの娘だ。春風のように、独特の爽やかな色香を放っている。 名を緋神那蝣竪(ib0462)というのだが。実はこの娘、シノビであり、任務として遊女に身をやつしていたことがあった。常人にはない色香を漂わせているのもむべなるかな。 「天草君の出番は、まだもう少し先…きっと貴方が必要になるから。今は無茶はしないでね?」 「でもよ」 ふいと翔は顔をそむけた。 美人で色っぽい那蝣竪にあまり逆らいたくないが、せっかく自由になったのだ。おまけに相手は東堂俊一。どれほどの腕をしているか、試してみたくて仕方がなかった ● 「……翔。無茶してなければいいけど」 呟いたのは豊満な肢体の、しかしそれでいて俊敏そうな印象の娘であった。蒼の瞳には炯とした光がやどっている。名は雪刃(ib5814)。 その雪刃の呟きを耳にし、傍らを行く男が顔をむけた。端正な顔立ちであるのだが、どこか無頼の風がある。こちらは名をマックス・ボードマン(ib5426)といった。 「翔とは、依頼人のことか」 マックスが問うた。ええ、と雪刃が肯く。 「浪志組の一番偉い人が変な動きをしているのだから気持ちはわかるのだけれど」 「ここで案じていてもどうしようもあるまい。それよりも芦屋馨の件、本当に大丈夫なのか」 マックスが確認した。 二人はこれから芦屋馨と会おうとしていた。藤原保家の側用人である芦屋馨であれば、東堂が度々会っているという近衛兼孝について何か知っているかもしれない。その芦屋馨と雪刃は顔見知りであった。 「多分会ってくれると思うけれど」 雪刃はこたえた。 芦屋馨という人物、一見冷徹そうだが、その実心優しい人柄に見えた。 「ならいいが……ところで雪刃。天草翔を知っているようだから聞きたいのだが、浪志組とは何だと思う?」 「浪志組?」 雪刃は首を傾げた。 はっきりいって浪志組そのものにはあまり興味はない。興味があるとするなら翔であった。 「開拓者と一般人からなり、変事への即応能力を持つ集団、と俺はみる」 マックスは自らこたえた。さらに続けて、 「ギルドとの違いは…一人の人間の意志によって全体を動かすことが容易な点だ。では隊に足りない物は何だ? 後ろ盾、権威づけやそういった物かもしれん。こいつは外れてくれればいいのだが…」 一旦言葉を切り、やがて重い声でマックスはいった。 「東堂の名前で隊の結成までこぎ着ける事が可能だったのかどうか。真田某という男がいたから人が集まったのではないのか。では隊が形を為し、動き出した現在、果たして東堂は真田の存在を必要としているのだろうか?」 「それは」 愕然として雪刃はマックスを見返した。 ● 「まったくだな」 苦く笑ったのは小麦色の肌の若者であった。小柄で、少年のように見える。 「何だ、お前は?」 居酒屋の中、若者の金色の瞳を見上げたのは数人の男達であった。全員開拓者である。 「俺は酒々井統真(ia0893)」 若者は名乗ると、男達の卓に酒をおいた。 「あんたらの話を聞いてな」 若者はいった。男達の話とは浪志組に対する愚痴である。 「確かに浪志組が活躍しているおかげで都も平和だが……開拓者としちゃあ、あまり面白くねえ」 「お前も開拓者か」 ニッと笑むと、男達が統真のおいた酒を飲み始めた。 ああ、と統真は肯くと、 「その上、近頃じゃ羽振りも良くなって貴族とも付き合いがあるっていうじゃねえか。どこの貴族かは知らねえが」 「もっと浪志組をでかくしたいんだろうよ」 「なるほど。確かに浪志組のおかげか、近頃じゃ凶風連の噂も聞かないしな」 統真はどこか遠い眼をした。彼にはある疑念があったのだ。 一時期都を荒らしまわった凶風連と呼ばれた強力なアヤカシ達。それが浪志組が大きくなるにつれて姿を見せなくなったのは、果たして偶然であろうか。 「ついてる野郎だぜ、東堂ってのは」 別の男は口を歪めると、 「金持ちの商人の後ろ盾もあるみてえだし」 「商人?」 統真の金色の瞳がきらりと光った。 「誰だい、それは?」 「山科屋林兵衛」 男はこたえた。 ● 「浪志組について聞きたいのだが」 呼び止めたのは蒼司であった。 足をとめたのは二十歳をわずかに過ぎた年頃の娘。美麗な相貌で、俊敏そうな身のこなしの持ち主である。 「浪志組に入りたいのか」 娘が問うた。すると蒼司は曖昧に笑って、 「まあ、そうだ。それで浪志組設立の立役者である東堂という人物について聞きたいのだが」 「なら東堂のところにいけ。ここは森藍可に従う者達が集まっている」 「だからこそ東堂という人物に対する客観的な意見を聞けると思ってな。……最近、近衛とかいう貴族と会っているらしいが、浪志組が成ってなお、貴族と会う意味はあるのだろうか」 「貴族と会う意味、か」 嘲笑うかのように娘は朱唇をゆがめた。そして、意味はある、と続けた。 「東堂には、な。良くも悪くも、あの男は炎さ。あらゆるものを焼きつくさずにはおかない。どうだ。面白いだろう?」 いいすてると、娘は背をむけた。 わずか後のこと。 娘は再び足をとめた。 「私に何の用だ」 「やはり気づいていましたか。さすがは服部真姫様」 建物の陰から、子猫を思わせる可愛い娘がすうと姿を見せた。真姫と呼ばれた娘と年頃は変らない。――秋桜(ia2482)であった。 秋桜はニッと笑むと、 「私の仲間がつかんできたのですが。山科屋林兵衛という男のことです」 いった。 統真がつかんだ山科屋林兵衛のことを、秋桜もまた調べた。近頃武器を大量に買い込んでいるらしい。 「それがどうした。私には関係のないことだ」 「では真姫様ご自身のことについてお尋ねしたいことがございます。何故、浪志組にいるのですか。いえ」 口を開きかけた真姫を秋桜は遮り、続けた。 「東堂という方の人徳に惹かれたなどとはいわないでくださいね。貴女はそんなぬるい方ではない」 「お前の知ったことではない 「私が欲しくはございませんか」 秋桜がいった。背を返した真姫の足がぴたりととまる。秋桜の笑んだ眼に刃の如き光が閃いた。 「貴女のお答えが私の納得できるものであるなら、部下となって貴女の下で働いてもいい。どうですか?」 「……義、さ」 真姫はこたえた。 「義?」 「ああ。シノビであるお前ならわかるだろう。私達シノビは義のない戦いを強いられてきた。文字通り刃の下に心をおいてな。そんなことは、もう真っ平なのだ。だから陰殻を抜け、浪志組に入った。浪志組ならば己の義を貫き、まだ見ぬ地平を見ることができるかもしれぬと思ってな。その方が生きていて面白いだろう?」 冷然たる真姫の顔に、明るい笑みがうかんだ。 ● 「近衛兼孝?」 やや眉をひそめたのは理知的な眼差しの娘であった。芦屋馨である。 場所は馨の住まい近くの茶店。対面しているのはマックスと雪刃であった。 ええ、と雪刃は肯くと、 「どのような人物か教えてもらえないかな」 「雪刃殿には世話になりましたからね。教えぬことはありませんが……なかなか優れた人物です。頭も切れ、また力もある」 しかし、と馨は続けた。 「危ういところがあります。思想的に。彼は天儀の再統一を目指しています」 「それは」 マックスほどの男が声を途切れさせた。ややあって喉にからまる声を押し出した。 「ではもう一つ。もし近衛家の権威と浪志隊の力が一つになった際に、どのようなリスクが生じる可能性があるか。あなたの意見を聞きたい」 「さて」 さすがに馨は返答を避けた。事は高位の貴族に関することである。迂闊なことはできなかった。 ● 「ありがとうございました」 礼を述べて少年が立ち上がった。二人分の代金を卓におき、店を出る。 それは人形のように美しい少年であった。同時に人形のように表情のない瞳をしている。――和奏(ia8807)であった。 和奏が会っていたのはある貴族の門衛であった。本当は近衛兼孝を良く知る人物と会いたかったのだが、高位の貴族が一介の開拓者と会ってくれるはずもなかったのである。 和奏は門衛から聞いた話を脳裏で反芻した。 近衛兼孝の悪評のもととなるものは何か。それについて門衛はこうこたえた。近衛兼孝は朝廷と今の天儀の在り方を良くは思っていない、と。 そこで思い出されるのは浪志組隊士募集の条件であった。 思想や前科については不問。今になって思えば、それは何やら意味深長である。 もしかして東堂の目的は思想犯的な者を集めることではなかったか。もしそうであり、そのような者達に意図的に理想を与え、さらにその邪魔になる壁を提示した場合どうなるか。 ある恐るべき想像が和奏の脳裏をよぎった。が、和奏の胸に漣がたつことはない。和奏はあくまで時代の傍観者であった。 ● 「待て」 木枯らしの哭くような声。裏道を行く女が立ち止まった。身形からして芸妓であるらしい。 と、暗闇から男が姿をみせた。 竜の神威人。昏い眼をしている。カルロス・ヴァザーリ(ib3473)であった。 カルロスは気だるげな声をかけた。 「ある客のことを調べてもらいたい」 「馬鹿?」 女はカルロスを睨みつけた。 「そんなことをしたら客の信用をなくしちまうよ」 「なら、こうするまでだ」 カルロスが女に飛びかかった。背後に素早くまわりこみ、女を抱きしめる。両の手を女の胸元と裾に差し込んだ。 「いうことをきかぬのであれば、きかせるまでだ」 カルロスがニンマリした。気の強い女を屈服させるのは面白い。 次の瞬間―― カルロスの手の動きがとまった。その面を凄絶の殺気が灼いている。フィンだ。 「何をしているんですか?」 「仕事をしている」 「仕事? 女を犯すことが?」 「そうだ。俺は桜紋事件について調べた。十五年ほど前に起こった謀叛事件で、首謀者である楠木は敗死している。その事件に俊と呼ばれる十六歳ほどのガキが参加していた」 「俊?」 フィンの眼が見開かれた。 東堂の名前は俊一。これは偶然であろうか。いや―― 偶然だ。東堂の年齢は二十七歳。俊と呼ばれた少年とは年齢があわない。 フィンはいった。 「その女性から離れてください」 「嫌だといったら」 「ぶった斬るだけだ」 すう、と。翔が進み出た。はじかれたようにカルロスが跳び退る。同時に抜刀した。 「面白えな、おっさん」 ニヤリとすると翔もまた刀の柄に手をかけた。その念頭からは東堂のことは消え去っている。 ある意味、カルロスと翔は似たもの同士であった。ともに裡に獣を飼っている。カルロスは黒い獣であり、翔は白い獣。その獣同士が共鳴しているのであった。 「やめてください、翔さん!」 反射的にフィンが翔にしがみついた。小ぶりの乳房をおしつける。が、翔にはその感触を楽しむ余裕はなかった。身体中の骨が異音を発しているからだ。 「は、放せ、フィン」 「放しません!」 「放して……お願い……」 「馬鹿が」 悶絶する翔を横目に、カルロスが刃をおさめた。そして苦々しく、 「興ざめだ」 「フィンちゃんのおかげね」 屋根の上に伏せていた那蝣竪はくすりと笑った。そして、するりと屋根裏に忍び込む。すでに東堂と近衛は店に入っていた。 ここに来る前、那蝣竪は柳生有希と会っていた。東堂と桜紋事件の関係について知っていることを確認したのだが。 どうやら東堂は楠木氏に仕えていたことがあったらしい。が、それは幼少の時であり、事件と関係があるとは思えなかった。しかし―― 那蝣竪は天井裏を這うのをやめた。彼女の超人的聴覚はある話し声をとらえている。東堂と近衛の声だ。 「用意の方は?」 「着々と。今少しお待ちください」 東堂はこたえると、芸妓を呼んだ。 ● 深夜。 座敷の中。二人の男が相対していた。 一人は東堂俊一である。そして、もう一人は修羅の少年であった。 藤田千歳(ib8121)。人形のように表情は乏しいが、その黒曜石の瞳には強い意志の光がある。 「待たせてしまったようですね」 東堂が微笑みかけた。すると千歳は小さく首を振り、東堂を真っ直ぐに見返した。 「東堂さんに確かめたいことがある。尽忠報国の志を胸に、天下万民の為に剣を振るう…。俺は浪志組の掲げる義に賛同して参加しました。さらにまた、俺も開拓者ギルド以外に即応性の高い攻性の組織が必要だと思っていたから」 「ほう」 東堂はやや驚いたような声をあげた。若年でありながら、ここまで確たる考えをもっている者は多くない。 東堂は問うた。 「何故、そのような組織が必要だと思ったのですか」 「俺が修羅だからです」 千歳はこたえた。 彼が住んでいた隠れ里では、自らアヤカシに対しなければならなかった。が、いかに修羅とはいえ、全ての者が強いわけではない。当然死者は出、その中に千歳の両親も含まれていた。 「ふむ」 東堂が唸った。その眼に蒼い光が灯っている。 「君は、私と考えが似ているようだね」 「だったら教えてください。藤堂さんの真意を。貴方が目指す浪志組の姿を」 叫ぶかのように千歳は問うた。が、東堂はこたえない。口を開いたのは永劫とも思える時が過ぎてからであった。 「朝廷や民を護るための盾であり剣。常に弱き者のそれで有ろうとする集団。それが浪志組です」 「本当……なんですね」 千歳は溜めていた息を吐いた。胸を撫で下ろす心地がした。 が、その時、東堂が口を開いた。 「……今度は私が問いたい。藤田君。もし相手に正義がないとわかった時、それが誰であっても君は斬ることができますか?」 「誰で……あっても?」 千歳は迷った。すると東堂の眼の蒼い光が消え、その顔に穏やかな微笑が戻った。 「戯言です。さあ、今宵はここまでとしましょう」 東堂が立ち上がった。その東堂の背を見送り、しかし千歳は胸騒ぎを覚えていた。 東堂の眼の蒼い光が消えた後、新たに現れた光。それは哀しみの光ではなかったか。 「……東堂さん、貴方は」 続く言葉を、しかし千歳はもたなかった。 |