【浪志】白夜
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/24 01:24



■オープニング本文


 ねっとりと足にからみつくものがあった。
 霧。
 そう気づいた時、視界すべてが銀灰色の霧に閉ざされていた。
 何も見えない。重量すらともなっているかのような霧がすべてを塗りつぶしている。
 くくく。
 笑う声が聞こえたような気がした。すぐそばで。
 が、見えない。一寸先すら銀灰色の闇が視界を奪っていたからだ。
 その時、腕が掴まれた。咄嗟に振り放そうともがいたが無駄だった。手は、万力のように腕を掴んで放さない。
 びきりと腕の骨が砕けた。
 悲鳴が発するために開いた口が塞がれた。口によって。その口が悲鳴を飲み込む。美味そうに。
 代わりに息が吹き込まれた。生臭い息であった。腐った魚のような臭い。
 もう一方の腕も掴まれた。またもや握り潰される。再びの悲鳴も飲み込まれた。


 すう、と。手がのび、豊かな胸の間から苦無をとりだした。
 しなやかな肢体。女である。二十歳そこそこといったところか。
 相貌は美しい。とはいえ、どこか冷たさのようなものを感じさせた。怜悧そうな双眸によるものかもしれない。
 女――服部真姫(iz0238)は切れ長の眼を眇めた。くぐもった声。一瞬であったが悲鳴のように聞こえた。
 真姫は眼を閉じた。この濃霧の中にあっては視覚はあてにならない。それよりも他の感覚を研ぎ澄ませる方がいい。
 が――
 わからぬ。何の気配もない。音もしない。それが返って不気味であった。
 手練りのシノビであれば気配を消すこともできよう。が、心臓の鼓動をとめることはできない。もし心臓の鼓動のない存在があるとするなら、それは人ではなかった。
 そう判じた瞬間、真姫は苦無を放った。漆黒の流星はたちまち霧に飲み込まれ――
 気配が消えた。が、手応えはあった。
 しばらくして霧が晴れた時、真姫は、明るい陽光の降り注ぐ路上に横たわる娘の姿を見出した。手、そして首がありえぬ方に曲がっている。人間の仕業ではなかった。
 その娘の傍らには一本の苦無。真姫が放ったものだ。
「‥‥アヤカシか」
 苦無を拾い上げ、真姫は呟いた。そして思い出した。親友ともいうべき森藍可が一体のアヤカシを追っていることを。
「確か凶風連といったか」
 ギルドでの噂。昨今、神楽の都には跳梁跋扈するアヤカシが増えている。それらを総称して凶風連と呼んでいるのだが。
 藍可は意趣返しのためにアヤカシを追っている。そのような酔狂さは真姫にはない。
 それよりも開拓者に興味があった。できるだけ彼らの腕を見ておきたい。
 それに――
 真姫はしゃがむと、娘の眼を手で閉じた。


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ルーンワース(ib0092
20歳・男・魔
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
雪刃(ib5814
20歳・女・サ


■リプレイ本文


 娘の名は純といった。歳は十七。
 白い布を取り去ると青白い顔が現れた。母親のすすり泣きだけが部屋に静かに響いている。
「安らかに眠ってください」
 祈りを捧げたのは少女であった。
 人形のように可愛らしい顔をしている。十代半ばに見えるその肢体は、衣服の上からでもはちきれんばかりの瑞々しさを備えていることがわかった。
 柚乃(ia0638)。開拓者である。
 すると別の少女が手を合わせた。こちらは柚乃よりもなお年下に見えた。どこかのほほんとした雰囲気をもっている。
 鈴木透子(ia5664)という少女は瞑目してから、純の身体を調べ始めた。服部真姫(iz0238)がどのようにして話をもちかけたかわからないが、彼女達は死体の検分を許されていたのである。
「色々な未来も、まだ沢山あったのに‥口惜しかっただろうね」
 男が呟いた。女と見紛うばかりに美麗な若者だ。
 と、眠たげなその眼にうっすらと光が灯った。刃のように鋭い光が。
 くっ、と少女が唇を噛み締めた。無造作に銀の髪を後で束ねただけの、可憐な相貌の持ち主。いつもは太陽のように輝いているその瞳に、今は怒りの炎を燃え上がらせている。
「ごめんね。もう泣く人を出さないから」
 少女――フィン・ファルスト(ib0979)は純の手をとった。手首が砕かれている。痣は指の跡だろう。
「首も折られているな」
 若者――ルーンワース(ib0092)が純の首に手をのばした。そこにも痣がある。触れてみると折れているたけでなく、骨が微塵に砕かれていることがわかった。
「やはりアヤカシの仕業のようだね」
 ルーンワースは背後に眼をむけた。
 腕を組み、うっそりと佇む女が一人。年齢は二十歳そこそこであろう。冷徹な相貌は美しい。真姫である。
「おそらくな」
 真姫は肯いた。
「武器は腕力でしょうか」
 問うたのは少年であった。が、凛然たる輝きをやどす瞳といい、端正なつくりの相貌といい、少女のように見える。それもとびきりの美少女に。
 真姫は、その真亡雫(ia0432)という名の美少年にむかって首を振ると、
「そうとは限らない」
「確かにそうですね」
 柚乃が同意した。
 かつて、彼女の発動する瘴索結界で感知できぬアヤカシは存在しなかった。が、現在は違う。抵抗、もしくは感知そのものができぬアヤカシが跳梁し始めているのだ。アヤカシに対するに予断は禁物であった。
「うん?」
 フィンが首を傾げた。純の口から異様な臭気が立ち上っている。
 最初、遺体の放つ腐敗臭かとも思った。が、違う。もっと異質なもの。そう、それは――
「魚の腐ったような匂い?」
「アヤカシの残したもう一つの手掛かり、だな」
 真姫の眼がきらりと光った。


 神楽の都のやや外れ。
 十七歳ほどの少女が足をとめた。小さく微笑んだ顔は子猫のように可愛らしい。
 その少女を、通り過ぎる男の誰もがじっと見つめている。無理もない。少女は胸と股間を隠す布をまとっているだけの姿であったから。
 名を秋桜(ia2482)というその少女は周囲をゆっくりと見回した。
 家が点々と連なっている。それだけだ。
「霧が発生するような場所とは思えませんね」
 秋桜が傍らに立つ娘に顔をむけた。娘が肯く。
 端麗な娘であった。人ではない。銀狼の神威人である。氷の彫像であるかのように佇んでいた。
 娘――雪刃(ib5814)は眉をひそめた。
「では霧はどこから?」
「突然わいてきたらしいのだぜ」
 少年が走り寄ってきた。名を叢雲怜(ib5488)というのだが。
 何と綺麗な顔をした少年であろうか。美術画から抜け出てきたように整った顔立ちをもっている。
 その怜は、近隣に住む者から霧についての情報を聞き取っていた。
「突然わいてきた?」
 秋桜と雪刃は顔を見合わせた。
 霧の発生しようもない場所に、突如濃霧が立ち込める。どう考えても自然現象とは思えない。であるならば、考えられるのはアヤカシの仕業であるということだ。
「そうなると面倒なのだぜ」
 怜は唸った。
 真姫によると霧は濃密で、一寸先の視界すら効かなかったという。もしアヤカシが自在に濃霧を操ることができるのだとしたら、真黒の闇の中で戦うに等しい。
「問題はそれだけじゃない」
 今度唸ったのは雪刃だ。
 濃霧中での戦い。それは敵を視認できぬだけでなく、味方の位置も把握できなくなるということでもある。それでは迂闊に攻撃できない。
「厄介な相手だ」
「厄介といえば」
 ふと秋桜が声をもらした。
 以前のことだ。秋桜は真姫の依頼を受けたことがあった。凶蝮賊党の隠し金を根こそぎ奪い、その事実を知る蝮党一味を皆殺しにするというものだ。
 その折、秋桜は真姫に問うた。秘密を知った開拓者は始末しないのか、と。
 それに対するこたえはなく、また開拓者も無事であった。果たして真姫は開拓者を見逃したのは情けなのか、それとも――。
 真姫の真意は知れぬ。が、一つわかっていることがある。それは真姫のシノビの腕が疑いようもないほど練達しているということだ。
 濃霧の中の乱戦。真姫ほどの手練れならば苦無の投擲にての暗殺など造作もなくやってのけるだろう。
「獅子身中の虫、ですか」
「真姫姉ちゃんのことなのかだぜ」
 怜が首を捻った。
「悪い人じゃないと思うのだぜ。ただ俺達の実力が見たい感じなのかなと思うのだぜ」
「わたくしたちの?」
 さすがに秋桜の緩やかな笑みが消えた。
 俄かには信じられぬが、怜の想像が当たっているとして、真姫は何を考えているのだろうか。わからない。いや――
 秋桜の脳裏に閃くものがあった。これは噂であるが、浪志隊なる組織を設立するという建策がなされているらしい。もしや真姫はそれを見据えて今回の依頼を――
 その時、微かな擦過音がした。眼にもとまらぬ素早さで怜が短筒――一機当千を引き抜き、かまえたのだ。
「俺の短銃の実力、見せてやるのだぜ。それに面倒な敵であろうと関係ないのだぜ。そういう壁を乗り越えてこそ男の子はカッコ良くなれるって、姉上達がいってたのだぜ!」
 怜の瞳がきらきら輝いた。それは未来を恐れぬ少年のみ持ちうるもので。
「確かにね」
 雪刃が小さく苦笑した。
 都に跳梁跋扈するアヤカシ。それに対し、いつも雪刃は事後での対処を迫られてきた。歯がゆいばかりである。 けれど嘆いていても仕方なかった。まずは一歩である。悩むのは、それからでいい。
「これ以上、都で勝手は、させないから!」
 雪刃は歩み出した。


 数日が過ぎた。開拓者達は神楽の都外れを歩いている。
「大丈夫でしょうか」
 真姫を見上げ、柚乃は問うた。
 柚乃は聡明であるのだが、やはり実年齢は十三だ。さらにはお嬢様育ちであるせいか、人見知りなところがある。初対面の相手に積極的に話しかけるのは異例のことであった。
 真姫は氷の眼差しを送ると、
「大丈夫とは?」
「依頼期間です。このままではアヤカシを見つけられぬまま依頼期間が終わってしまいます」
「そのことか」
 真姫は正面に視線を戻した。
「そのために私がいる」
「真姫さんが!?」
 驚いたように顔をむけたのはフィンであった。ああ、と真姫は肯いた。
「私はアヤカシに傷をつけた。霧に紛れて娘を弄ぶような卑劣な奴だ。このまま私を放ってはおくまい。つまりは餌というわけだ」
「単独行動はだめなのです」
 柚乃の瞳に怯えの色が滲んだ。そしてしょんぼりと肩を落とすと先日の依頼のことを物語った。
 あらゆるものに変化する九尾のアヤカシ。独りとなった柚乃は、危うくそのアヤカシに殺されるところであったのだ。
「それは」
 真姫が何かいいかけた。その時だ。
「これは」
 透子の口から驚愕の声がもれた。彼女は先ほど風向きに注意していたのだが、風上の方向より地を這って流れくる銀色の水流の如きものがある。
 霧!
 そう悟った透子は叫んだ。
「アヤカシです!」
 瞬間、開拓者達が跳んだ。打ち合わせのとおり、二人で組む。
「アヤカシはどこ?」
 フィンが周囲を見回した。すでに霧は立ち込め、視界は効かない。
 秋桜は気配を探った。が、感じることができるのは仲間のものだけである。アヤカシのそれは微かにもつかみとることはできなかった。
「さすがに真姫にもつかませなかっただけはありますね」
 秋桜の口元が綻んだ。


 刀の柄に手をかけ、すうと雫が身をわずかに沈ませた。いつでも抜き打ちできるかまえ。その姿は獲物を狙う豹を思わせた。
 同じ時、柚乃は両手を合わせ、呪唱していた。その身を取り巻くる文字は結界呪紋である。柚乃の呪唱が終わった時、一気に結界呪紋が展開した。
 さらには透子。空に細い指で素早く呪を刻む。
 式、召喚。
 小さな光がふわりと舞った。
「柚乃、真亡、アヤカシがわかるか」
 雪刃が問うた。
「前です!」
 柚乃がこたえた。
「前!?」
 雪刃が眼を眇めた。前、とはどっちだ。柚乃がどこを向いているのかわからない。
「しまった」
 雫が唇を噛んだ。
 第三眼、開眼。彼は確かに全存在の位置をつかんでいる。が、それは即ち、位置だ。正確な方向を指示するためには仲間がどちらを向いているのか知る必要があるが――。
「雪刃さん、あなたたちの近くです!」
 雫が叫んだ。
 彼が捉えた反応。それは全部で九つ。うち八つは二つずつかたまっている。一つだけ離れているものがアヤカシに違いなかった。
「何っ」
 反射的に雪刃が大太刀の鯉口を切った。秋桜は素早く印を組む。
 陰の法、煙遁。次の瞬間、秋桜の足元から黒灰色の煙が噴出した。
 と――
 轟音が霧を震わせた。
 怜だ。空にむけて発砲したのである。
「来ます!」
 柚乃と雫が同時に叫んだ。アヤカシが動いたのである。怜が筒口をむけたが、引金はひけなかった。視認できぬために仲間に当たる可能性があるからである。
 次の瞬間、凄まじい衝撃が秋桜と雪刃を襲った。それはアヤカシの拳であったのだが、感触としては岩である。たまらず二人は左右に吹き飛んだ。
「くっ」
 ルーンワースが杖を掲げた。頭に施された竜が光ったとみるや、ルーンワースの前方に炎の塊が現出し、霧を茜色に染めた。
 次の瞬間、突如炎塊が消えた。アヤカシだ。
 ルーンワースは次なる呪文を選択した。魔導大全第三章、二節。ホーリーアローだ。杖から光の矢が噴出した。が――
 柚乃の悲鳴にも似た声が響いた。ルーンワースの背後から。
「来ます! 前!」
「前!?」
 電光の迅さで怜がかまえた。が、撃てない。視認できぬためだ。
 刹那である。破壊的な一撃に、怜の手がはねあげられた。手首の骨が一瞬にして砕かれている。
「あっ」
 二つの苦鳴があがった。柚乃と怜のものだ。二人の首にの万力のような指が食い込んでいる。骨が軋んだ。
「アヤカシは」
 ここに、という柚の声は途切れた。開いた柚乃の口をアヤカシのそれが塞いだからだ。
 生臭い息とともに、ぬめった舌が柚乃の口腔内に差し込まれた。嫌らしく蠢く。柚乃の悲鳴をアヤカシは美味そうに飲み込んだ。
「このままじゃ」
 薄れゆく意識の片隅で怜は思った。悔しい、と。男の子なのに、女の子も守れないのか。いや――
 怜はじりじりと腕を上げた。肩が脱臼しており、灼熱の痛みが全身を貫いたが、それでも動きをやめない。誇りを守れぬことの方が痛いからだ。怜はやはり男の子であった。
 轟、と。銃が吼えた。アヤカシの腹にむかって。柚乃と怜から手を放し、たまらずアヤカシが跳び退った。


 むくりと起き上がった雪刃が霧を見据えた。歯噛みする。
 予想していたこととえ、これほど手こずるとは。が、雪刃には策があった。仕掛けることができぬのなら、仕掛けさせればいい。
 雪刃は身体に溜めた練力を一気に放出した。咆哮へと変化させて。
 おおお。
 魂を痺れさせる、それは狼の雄叫びにも似た咆哮であった。火に吸い寄せられる蛾のようにアヤカシが雪刃めがけて殺到した。襲う。
「雪刃さん、そちらへ!」
 透子が声を発した。影が、光を含んだ霧をよぎったことに気がついたのである。
 アヤカシの手が雪刃の首をがっしと掴んだ。何でたまろう。細い雪刃の首は細枝をへし折るように――いやねアヤカシの手の動きがとまった。その腕にからみついているものがある。雪刃の手だ。
「――逃がさない」
「き、貴様」
 初めてアヤカシの口から愕然たる声がもれた。瞬間――
 霧が、いやアヤカシの身が炎に炙られた。
「我慢比べでございいますね」
 秋桜がニンマリ笑った。その身が再び炎に包まれる。さらに乱れ飛ぶ聖なる光矢。それはアヤカシの身を抉ったが、しかし同時に皮肉な結果をもたらした。
 ホーリーアローを撃ち込まれ、雪刃の身体を微かな痺れがはしった。それはたいした損傷を与えるものではない。ないが、しかし一瞬雪刃の指が緩んだ。
「ぐおっ」
 アヤカシが雪刃の手を振り払った。同時に背に組みついた秋桜を投げ飛ばす。
 アヤカシが跳躍した。巨体には似合わぬ身軽さで。
 この時、アヤカシは焦っていた。鼠を嬲る猫の優越感をもってアヤカシは獲物を襲ったのである。然るに結果はどうだ。追い詰められたのはアヤカシの方であった。
 霧、そして煙すら見通すアヤカシの眼は、敵中で弱そうな個体を探した。そして、見つけたのである。
 アヤカシはフィンの背後に降り立った。フィンの腕を掴む。
「動くな」
 アヤカシは開拓者達に命じた。が、それはすぐに過ちであったことをアヤカシは悟ることになる。
 獲物の腕を捻り上げるはずが、手が動かない。フィンが怪力の持ち主であることを、無論アヤカシは知らない。
「騎士たる名誉と誇り誓って。――へへ、肉を切らせて骨を断つ、ってね!」
 フィンが後頭部をアヤカシに叩きつけた。顔をひしゅげさせ、フィンからよろめき離れたアヤカシであるが。カレはその時、背後にカレ自身が生み出した霧よりもなお凍てついた冷気の如きものを感得した。
 凄絶の殺気。いや、凄愴の鬼気か。
「逃がさないよ」
 鬼気の主が告げた。
「貴様、俺が見えるのか」
 アヤカシが呻いた。応えには淡い笑みの響きが滲んでいる。
「見えないよ。けれど、僕にはわかる。お前の腐った存在そのものが。さあ、終わりにしよう」
 白く輝いた光流が一瞬霧を斬り裂いた。


「アヤカシを斃しました。でもちっとも嬉しくないのです」
 手をあわせ、透子が瞑目した。純の墓前である。ぼうっと見開かれたその眼に、きらりと光ったのは涙であろうか。
「貴方は、貴方の未来は取り戻せないから。あたしはやっばり無力で‥‥ごめんなさい」
「謝るくらいなら、戦いたくはないか」
 冷然たる声。はっとして振り向いた透子は、そこに真姫の姿を見出した。
「戦う?」
「そうだ。私達と共に」
「それが服部様の狙いなのでございますね」
 今度は真姫の背後で声がした。秋桜である。
 が、真姫は驚く様子はない。先ほどの言葉は秋桜にも聞かせるためのものであったからだ。
 真姫はニヤリとした。秋桜もまた薄く微笑った。