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■オープニング本文 ●畜生働き 暗闇に、白刃がきらめいた。 悲鳴とも言えないような小さな呻き声を挙げて初老の旦那が事切れる。強盗が、男の口元から手を離す。彼の手にはじゃらじゃらと輪に通された鍵が握られていた。 「馬鹿め。最初から素直に出しゃあいいものを」 男は蔵の鍵を部下に投げ渡すと、続けて、取り押さえられた娘を見やった。小さく震える少女の顎を刀の背で持ち上げる。 「‥‥ふん。連れて行け」 少女は喚こうにも口元を押さえられて声も出ず、呻きながら縄に縛られる。縛り終わる頃には、蔵の中から千両箱を抱えた部下たちが次々と現れ、彼らは辺りに転がる死体を跨ごうが平然とした風で屋敷の門へと向かう。 「引き上げだ」 後に残されるは血の海に沈んだ無残な遺体の山のみ。「つとめ」とも呼べぬ畜生働きである。 ●婆娑羅姫 広々とした邸宅。 その一角では、どちらかと言えば小柄な女性が大杯を傾けていた。月明かりに風鈴が鳴り響く中、どたばたと廊下を走る音がする。 「なンだよ、うるせぇなぁ‥‥」 「森様、奴らの盗人宿が割れました!」 縁側に駆け込んできた男の声に、森と呼ばれた女性が振り返る。様相は幼いが、酔った目元はぎらぎらと輝いて喰らいつかんばかり。まるで、飢狼だ。 「ようやくか‥‥あんだけ連日の畜生働きだ。腐れ外道どもめ。たんまり溜め込んでやがンだろうな‥‥」 ふらっと起き上がって、身の丈を越えた十文字槍を担ぎ上げる。彼女は、大杯を飲み干すや、大きな声で人を集めろと叫んだ。 「藍可」 呼ぶ声に、ちらりと女性が振り返った。森と呼ばれた女性だ。 背後に、いつの間にかほっそりとした女性が立っている。いや、痩せてはいるが、胸と腰は大きく張り出しており、むしろ女性らしい身体つきだ。が、その身に弱弱しさなどは微塵もなく。強靭な発条のようなものを感じさせる。 相貌は美しい。とはいえ、どこか冷たさのようなものを感じさせた。怜悧そうな双眸によるものかもしれない。 「真姫か」 藍可はニヤリとした。女とは思えぬ獰猛な笑みだ。 「外道どもを狩るぜ。一緒にやるだろ?」 「いや」 真姫と呼ばれた女性は冷たく首を振った。 「盗賊どもを始末するなどという面倒事には興味はない。それは藍可に任せる」 「なら真姫はどうするんだ?」 「金さ」 真姫の美貌を冷笑が彩った。 「ある商家が蝮党の塒であることを突き止めた。そこに溜め込んだ金が隠してあるらしい。私はそれをいただく」 「さすがは」 藍可は豪快に笑った。 森藍可が唯一同格の者と認める女。ただ一人の親友。服部真姫はそうであらねばならない。 「じゃあ金の方は任せたぜ」 「ああ。ただ私一人ではないぞ」 「一人じゃねえだと?」 藍可の顔に不審の色が広がった。物静かなように見えて、真姫は手練れのシノビである。盗賊風情に手こずるはずはなかった。 「どういう了見だ。臆病風に吹かれたか」 「見くびるな。誰一人逃さぬためよ」 こたえる真姫の声には氷の冷たさが滲んでいた。 「盗人のものとはいえ金を奪うんだ。口はすべて封じておきたい。誰一人逃さぬためには、やはり人手がいる。それに塒には蝮党の副頭目がいる」 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
香椎 梓(ia0253)
19歳・男・志
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
アリア・シュタイン(ib5959)
20歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 「畜生働きしてたら畜生働きされるなんて、笑える連中ね」 くく、と。可笑しくてたまらぬように、その人形めいて美しい顔をゆがめて笑ったのは狩衣姿の少女であった。 名は霧崎灯華(ia1054)。陰陽師である。 「折角だし、後悔しきれない位残虐にヤっちゃいましょ♪」 「では、よいのだな」 念押ししたのは浅黒い肌の、女豹を思わせるしなやかな体躯の娘であった。美しい相貌の中で、黒曜石の瞳が冷たい光を放っている。 服部真姫。依頼人である。 真姫が念押ししたのは依頼においての条件であった。 皆殺し。一人たりとも逃さぬことが絶対の要件であったのだ。 「蝮党さんの所業と同じようにすれば良いのですよね」 呟くが如く。やや抑揚を欠いた声音で問うたのは、綺麗な顔をした十七歳ほどの少年であった。 「そうだ。不服か?」 真姫が問うと、小さく少年――和奏(ia8807)が首を振った。その瞳はどこかけぶっているようで、意志の光は弱い。 和奏から眼をはなすと、真姫は他の開拓者の顔を見渡した。 「他の者はどうだ?」 「私はいいよー。ってか、楽しみ♪」 にっこりと。可憐ともいうべき愛らしさで十五歳ほどの少女が微笑んだ。 鬼灯恵那(ia6686)という名のサムライであるのだが、煌く金髪をさらりと背に流したその様子は妖精のようだ。が、この妖精からは血の匂いがする。肌に染み付き、洗っても決して落ちることのない腐った花のような匂いが。 真姫の眼がきらりと光った。 「それほど楽しみか」 「うん」 無邪気ともいえる顔つきで恵那は肯いた。 「殲滅殲滅、皆殺しー♪ ふふ。燃えるよねぇ。心が躍るなぁ」 「ふふん」 真姫は冷笑をうかべた。 通常、人は殺人に対して禁忌の念をもつ。が、恵那という少女には、その自らを律する思考がまるでない。 人の自然から外れた者。それは、もう化け物だ。 その真姫を、同じく好奇の眼で見つめている者があった。 二十歳ほどの若者。女と見紛うばかりに美しい。顔に妖艶な微笑をはりつけていた。 「面白い」 若者――香椎梓(ia0253)はひっそりと独語した。 盗賊が奪った金をさらに強奪する。それは皮肉で、かつ合理的だ。それを企む服部真姫という女、只者ではあるまい。 と、軋るような声が発せられた。 声の主は娘だ。灰色めいた白銀の髪といい、真紅の瞳輝く鋭い眼といい、いかにも戦風に鍛え上げられてきたように見える。 名をアリア・シュタイン(ib5959)という娘は、独り、ごちた。 「私の父親もそうだったが、男にはろくでもない奴しかいないのか? ああっ、くそ忌々しい!」 真姫はちらりと眼をむけた。 アリアの家庭の事情は無論、真姫は知らぬ。が、察することはできた。 憎まれた父親、憎まなければならなかった娘。不幸であるのは、果たしてどちらであったろうか。 「どうやら異存はないようだな」 真姫は開拓者達を見回した。すると一人の娘がこくりと頷いた。 二十歳ほど。やや気の強そうな顔は可愛く、三つ網の髪を背で揺らしている。豊満な肉体の持ち主で、布を巻いただけの乳房が悩ましい。 梢飛鈴(ia0034)という名のその娘はいった。 「異存なんかないアル。けど、完全に皆殺し前提カ。‥‥血生臭いいくさになるアルな」 「嫌、か?」 蒼い光をためた眼を、真姫は飛鈴にむけた。すると飛鈴は屈託なく首を振った。 「いいや。まあ、応報って奴だろう、シ」 「ならば急ぐぞ。奴らは神楽から逃げようとしている。その前に始末するのだ」 真姫は冷淡に告げた。 ● 「雪刃(ib5814)様」 暗い夜道を疾駆する九つの影。その中から声がひそと発せられた。 発したのは可愛らしい娘で。子猫を思わせる。ただ、時折覗く瞳の光のみ異様であった。刃のように白々と鋭い。 呼びかけられた雪刃なる娘が眼をむけた。 その雪刃であるが。なびく白銀の髪と怜悧な美貌が、純白の着物と良く似合ってた。さらに特徴的なのは、その耳。獣の耳なのである。雪刃は銀狼の神威人であった。 「何?」 ぶっきらぼうに問う。が、気にしたふうもなく少女――秋桜(ia2482)は微笑を深くした。 「最近よく御会い致しますね。奇縁、というものですか。宜しく御願い致しますよ。‥‥に、しても」 秋桜の白い顔から笑みが消えた。まるで睨みつけるかのように前をゆく一人の女の背に視線をむける。真姫だ。 「あの方、どう思います? いくら盗賊だからって、皆殺しにすることは抵抗があるのですけれど」 「依頼人のことなんかどうでもいい」 ひどくあっさりと雪刃はこたえた。元来口数は少ない方である。 「蝮党は許せないし、遠慮なく暴れさせてもらうだけだ」 「そう‥‥ですか」 秋桜は小さく頷いた。雪刃ほど彼女の心は単純ではない。 遠慮はいらぬ奴らであるとわかっている。命乞いをした人を、下卑た笑みを浮かべながら切り捨てる輩であるのだ。たとえ自身刃の露と消えても、それは因果応報というものだ。 「力を持たぬ者が笑って過ごせる世にする為、畜生を黄泉路に落とすが鬼ならば」 鬼になってやろう。そう秋桜は決意した。 ● 神楽の都のほぼ中心。 その家屋は闇の中に浮かび上がっていた。小間物問屋ということだが、実態は蝮党の本拠。中には蝮党の副首領がいるはずだ。 その副首領の名は杉作十三。通称鉄砕き十三と呼ばれる豪の者だ。巨大な金棒を武器としており、その金棒で鉄すら砕くほどの怪力をもっているらしい。 「面白そうだナ」 ニッと笑ったのは飛鈴である。真姫はやや苦い顔をした。 「面白がってもらっては困るな。噂では、かなりの手練れだ。そう簡単に斃せる相手ではない」 「手練れ‥‥鉄砕き十三か」 ふふ、と恵那は楽しそうに笑った。土産を待つ少女のように。が、続いてその口から出た言葉は背筋の凍るようなもので。 「いいなぁ。斬りたいなぁ」 「ふん」 灯華が恵那を一瞥した。敏感に、灯華は恵那に自身と同じ匂いを感じ取っていたのだ。 それは血の匂いであった。 因みに灯華は様々な徒名をもっている。その一つが血狂いだ。その徒名がしめすように、灯華の全身は鮮血にまみれている。 「で、具体的にはどうすればいいのかしら? 隠密で行くの? 派手に討ち入りするの?」 灯華が問うた。 「一気に潰す」 真姫は家屋に眼をむけた。一室だけ明かりがある。 時刻はすでに深夜である。このような時刻、商家に灯りが残っているのはおかしかった。やはの逃亡の準備をしているのかもしれない。 「じゃあ、あたしが」 戸を蹴破るべく、飛鈴が身構えた。と―― 突如、真姫が制した。苦無を取り出し、戸の隙間に差し込む。しばらくして小さな物音がした。芯張り棒がはずれたらしい。 「まだだ」 逸る恵那を真姫はとめた。そしてゆっくりと戸を開けると、地に眼をむけた。 「‥‥そういうことですか」 秋桜が感嘆の声をもらした。 シノビたる彼女にはわかる。入り口の地に罠が仕掛けられていた。何らかの術であろうが、さすがにその正体まではわからない。 秋桜は挑むような眼を真姫にむけた。 ここは蝮党の本拠ともいえる場所である。昼間ならいざしらず、夜ならば当然罠が仕掛けられていると予想して然るべきところであった。それなのに‥‥ 恐るべき奴、と秋桜は思った。 人として、秋桜は何ら共感の念はもたぬ。が、名伏すべからざる相手であることは確かであった。もし刃を交えた場合、果たして生き残るのはどちらか―― そのような事態にならぬことを願いつつ、秋桜は裏にむかった。梓も続く。 「じゃあ、今度こそいくよ」 恵那が罠を飛び越えた。 ● 恵那が上り框に足をかけた。その姿勢でぴたりと動きをとめる。 「気配がする」 恵那の手がすうと刀の柄にのびた。 その時だ。物音を聞いたか、廊下の端に人影が現れた。暗くて良くはわからないが、手には匕首を握っているようだ。 「てめ」 開拓達に気づいたか、人影が叫びかけた。 が、その叫びが完全に発せられることはなかった。月明かりに浮かんだ男の額にぽつと孔が穿たれたからだ。 雷鳴に似た轟音の中、真姫は見た。短銃をかまえてすっくと立つアリアの姿を。その短銃の筒口からはゆらゆらと紫煙がたちのぼり、アリアの真紅の瞳を朧としている。 「何だ」 怒声が響いた。銃声に気づいたのだ。 廊下に別の人影が見えた。部屋の一つから飛び出したのである。 それは浪人者であった。すでに抜刀している。 刹那である。和奏が刃を鞘走らせた。唸る刃風は獣の牙としての鋭さをもっている。 真空の刃をうけ、たまらず浪人者が身を折った。慌てて再びあげたその眼は、眼前にぬっと現れた無邪気そうな少年の顔を見とめている。 「ま、待て」 「いやです。貴方達もこうするんでしょう?」 和奏の手の刃が浪人者を胴斬りした。刃が唸る音は後から響いた。 ● 「はじまったか」 裏戸を蹴破った梓が周囲を見回した。松明の光にぼうっと勝手の様子がうかびあがる。人の姿はない。 「隠れてもむだだ」 梓の手から松明が落ちた。そして、その腰から白光が噴いた。 舞ったのは血煙である。ややあって唐竹に割られた男が音たてて倒れ伏した。その手には匕首が握られている。 「ほほう」 梓の口から感嘆の声がもれた。 さすがは蝮党である。襲撃に気づいた瞬間、もう迎撃態勢を整えつつある。 と、男が身動ぎした。 「ど、どうしてわかった?」 血の泡をふきつつ、男が問うた。慰撫するような笑みをうかべ、梓はこたえた。 「私は眼がいいのですよ」 血風が吹き荒れていた。 灯華の式が乱れ飛んで賊を切り裂けば、恵那の刃は袈裟に賊を断つ。 「くくく」 「ははは」 二人の美しい死神が踊っている。鮮血にまみれて。それは彼女達の血でもあった。 実は灯華も恵那も斬られているのだ。闇の中での戦いは乱戦となる。超人的な戦闘力を誇る開拓者であっても刃を受けるのは仕方のないことであった。 が、それでも彼女達は笑っていた。楽しくてたまらぬように。 「あははは♪ こんなに楽しいのは久しぶりだよ」 恵那が哄笑をあげた。 「どこダ」 薙ぐように視線を巡らせたのは飛鈴であった。探しているのは鉄砕き十三である。端から雑魚には興味はなかった。 さらに飛鈴が廊下を進もうとした。その瞬間である。 壁が粉砕され、何かが突き出された。それが金棒であると知るより早く、飛鈴は金棒が突き出された方向にむかって飛んでいる。金棒の破壊力を逃すためである。 が、金棒の威力は飛鈴の想像よりも絶大であり、かつ鋭かった。吹き飛んだ飛鈴の身体が障子戸をぶち破り、部屋に転げ込んだ。 「くっ」 畳の上に落ちるなり回転、勢いを利用して身を起こした飛鈴の口から苦鳴がもれた。肋骨が砕けている。 その飛鈴を見下ろし、薄闇の中、ニタリと大男が笑った。 重厚な鎧を身にまとい、巨大な金棒を軽々と片手に。蝮党副首領、鉄砕き十三であった。 ● ざわり、と夜気がうねっている。近所の者達が異変に気づいたのだ。 雪刃は、その入り口にいた。さすがに大刀をもった姿をさらすわけにはいかず、家屋の中ではあるが。 びくり、と雪刃の耳が動いた。忍ばせた足音がする。 「待て」 雪刃が刃を突きつけた。びくりとして二人の男が立ち止まる。闇に乗じて逃走をはかった賊であった。 「まだいやがったか」 一人の男の手に短銃が現れた。 「女か。動くなよ」 「それはこちらの台詞だ」 カッ、と雪刃が眼を見開いた。 次の瞬間だ。二人の男が身を仰け反らせた。見えぬ疾風にたたかれたように。それが雪刃の放った凄絶の剣気によるものと誰が知ろう。 「ぬんっ」 鋭い呼気を発して雪刃が身を回転させた。 唸る、刃が。小竜巻と化して。 迸る刃風が家屋の天井すらうった時、しかし雪刃は倒れていた。胸から血がしぶいている。短銃の仕業であった。 むくりと倒れていた男の一人が身を起こした。短銃をもつ男だ。深手を負ってはいるが、動けぬことはないようであった。 「けっ。ざまあみやがれ」 唾を吐き捨て、男が土間に飛び降り――そのままばたりと倒れた。その首には苦無が突き刺さっていた。 ● 飛鈴が嘲笑った。 「なかなかデカいが、オツムの方はどうかいナ?」 「ぬかせ」 十三が金棒を振りあげた。と、轟音が響き、十三が身動ぎした。その鎧で銃弾がはねたのだ。 アリアの鋭い声がとんだ。憎悪と殺意のこもった声が。 「一応聞いておいてやる。無力な一般人を殺してなんとも思わないのか?」 「思わんな」 十三が金棒を振り下ろした。鉄すら砕くと噂された鉄棒を。飛鈴がたまろうはずが――いや、金棒がはじかれた。爆発的な勢いではねあげられた飛鈴の脚によって蹴り上げられたのである。 「うあっ」 飛鈴の口から呻きが迸り出た。咄嗟に十三の金棒を蹴り上げはしたものの、彼女の脚もまた砕かれていたのだ。 「デカブツは中から崩すのが鉄則よね」 ニンマリすると、灯華は素早く印を組んだ。それは異界の封印を解く鍵だ。 祟りともいうべきほどの高密度の熱量を召喚。それを呪詛として再構成すると、灯華は十三にむけて放った。 金棒を振り上げた姿勢のまま、十三が苦悶した。細胞そのものが呪詛に蝕まれているのだ。地獄の苦痛であるに違いない。 「やめてくれ」 十三の口からもれたのは開拓者達にとって意想外の言葉であった。巨体を震わせ、十三は助命を懇願している。 「頭のためになんぞ死にたくねえ。助けてくれ」 「だめ♪」 恵那が迫った。鎌のように唇の端を吊り上げて。 斬る。期待外れのこの大男を、さっさと消しちゃおう。 「くそっ」 十三の金棒が唸った。恵那の肩の骨がひしゃげる。が、同時に疾った恵那の刃が十三の首を刎ね飛ばした。 ● 抜き払った刀を引っ下げて、男は部屋の中央に立っていた。 戻るまで番をしていろと十三に命じられている。床下には強奪した金が隠してあった。 「なるほど。ここですか」 男がびくりとした立ちすくんだ。声は背後からした。 誰だ、という男の誰何の声は、ついに発せられることはなかった。喉が切り裂かれてしまったからだ。 「いるのでしょう、そこに」 崩折れる男から離れ、血濡れた忍者刀を片手にした秋桜がいった。ふらりと障子戸の陰から現れたのは真姫だ。 「気づいていたか」 はい、と秋桜は頷くと、 「金はここ――おそらくは床下に隠してあるのでしょう。ところで」 秋桜は問うた。生き証人が不要なら、と。 「蝮党を殲滅した今、私達も邪魔なのではありませんか」 「お前は」 ニィ、と真姫は微笑った。 「利口だな」 「利口、か」 梓は背を返した。金の隠し場所を探り、彼はこの部屋まで辿り着いていたのだ。 梓はこの依頼の中で服部真姫の真意を掴むつもりであった。が、それはついにはわからない。 「果たして敵となるか否か」 闇に没する寸前、梓もまた笑った。それは真姫と同種の得体の知れぬものであった。 |