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■オープニング本文 ぬらりと濡れたように黒い闇。 月は瞑目し、墨を溶かしたような天が静かに大地を覆っている。 その中で爛と赤く光る眼があった。立ち込める禍々しき瘴気に一切のものが生き腐れていきそうだ。 それは対峙する若者もまた同様で。全身は高濃度の瘴気によって骨がらみ呪縛されている。 「――!」 息ができない。血が凍りつき、指一本すら動かすことは叶わなかった。粟立った肌にたらりと冷たい汗が滴り落ちる。 きりりと歯を噛み締め、若者は強張った手足を叱咤して一歩前に出た。 背にかばった女の恐怖が伝わってくる。 彼女を守る。その想いだけが若者を異形へと向かわせた。 しかし若者を凝視する異形の眼に敵意はなく。ただひたすら底なしの飢えの光のみがあった。 しゃあ。 異形からもれる呼気が闇を振るわせた。 雲間からわずかに零れた月光に、異形の姿が淡く浮かび上がる。闇の意志そのものが具現化したような悪夢のような姿を。 それは老人の顔をもっていた。体躯は蛇だ。鱗が嫌らしくぬめ光っている。 脚はない。が、手はあった。左右に二対。そのどれもが刀をもっていた。 氷の手に背を撫でられたかのように若者は身を震わせた。たまらず叫ぶ。 「愛子、逃げろっ!」 刹那、月光がはねた。 刃の閃き。 そう気づいた時、若者の口から緋色の霧が散り、身がくず折れた。異形の一刀が若者の腹を貫いている。あまりの斬撃の迅さにかわすことはかなわなかった。 異形が刃を引き抜いた。血とともに、何かが流れ出て行く。 「あい‥‥こ。いま‥の‥‥うちに‥‥にげ」 若者の声が途切れた。 そして―― くちゃくちゃ。 ばりばり。 何かを咀嚼する音が闇の中に響いた。 ● 男手ひとつで育てた、大切な娘であった。 ちょっと力を込めれば壊れそうな小さな命。それがもう今では綺麗な十八の娘だ。 幸せになってほしい。そうずっと願っていた。 が、あの日。婚約者をアヤカシに殺されたあの日にすべては壊れた。 生きのびた娘はあの日から生きるのをやめた。今では傀儡同然だ。 どうすればよいのか。もし己の命を投げ出してすむものならば、幾らでも胸を引き裂いてみせようものを。 父は嘆いた。 その父が娘の姿が消えたことを知ったのは、ある暑い夏の朝のことであった。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
千見寺 葎(ia5851)
20歳・女・シ
亘 夕凪(ia8154)
28歳・女・シ
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
カルロス・ヴァザーリ(ib3473)
42歳・男・サ
玉虎(ib3525)
16歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 開拓者ギルドの片隅に一人の男が座していた。 年齢は四十代後半といったところか。巌のような相貌をしている。 依頼人である、愛子の父親であった。 毅然と背をのばしているが、かたく引き結んだ唇が心中の苦渋のほどをしめしている。 その依頼人を見つめる眼は八対あった。 「只でさえ男親にとって娘ってのは特別な存在だ。男手一つとあれば尚更。‥正に掌中の珠だろうに」 ふっと溜息をもらしたのは女だ。 二十代後半。女とは思えぬほどに鍛え抜かれた身体をしており、腰に刀をおとしていた。 亘夕凪(ia8154)という名の女サムライはギラリと眼を光らせると、 「赦せないねえ」 いった。 空気がびりりと震える。無意識に放たれた夕凪の凄絶の殺気によるものだ。 「けれど」 次に口を開いたのは眩く輝く銀の髪の娘であった。彫の深い顔立ちからジルベリアの者であることが窺い知れる。 煌夜(ia9065)――夜に煌く星の如くなれと願いを込められた娘は小さく笑むと、 「愛子さんはついてるわ。アヤカシと遭遇して、一人だけでも生き残れたんだもの」 「ついてるか」 苦々しく呟いたのは十代半ばほどの少女であった。 名をオドゥノール(ib0479)というのだが、若年には似合わぬ鮮烈の気を放っている。それもそのはず、彼女は騎士であった。 起きてある時――否、眠りたる時もオドゥノールは騎士たることにつめとている。それが彼女から女性的な優美さをはぎとっているのだが、同時に鋭角的な美しさを付与していた。 オドゥノールは少女とは思えぬ冷たい眼を煌夜にむけると、 「愛子さんは愛する者の命と引き換えに生を得た。それがついているとは――」 「いや、ついてるよ」 煌夜に代わって答えたのは玉虎(ib3525)という名の少女であった。 年齢はオドゥノールと同じくらい。その名のとおり、虎の神威人である。 玉虎はオドゥノールを見返すと、 「煌夜さんのいうとおり、アヤカシに襲われて生き残れた者は稀だよ」 冷然として告げた。 と、二十歳をわずかに過ぎた娘がふっと息を零した。 「確かにそうですけど」 娘が眼をあげた。空の彼方を見通すように。 「でも、そのツキを呼んだのは婚約者の方だと思いたいですね。そうでなければ哀しすぎる」 「しかし愛子さんはアヤカシのもとにむかった」 沈鬱に声をもらすと、菊池志郎(ia5584)という名の若者は娘――万木朱璃(ia0029)を見た。 眩しい瞳の持ち主だな。ふっと志郎の胸に好意に似た思いがよぎる。 が、志郎の面に漣はたたない。整ってはいるが、どこといって特徴のない相貌にうかんでいるのは柔らかな表情のみだ。 志郎はひっそりと続けた。 「それは自分に罰を与えようとしての行動かもしれません。恋人を犠牲にして生き残った自分は苦しみながら死ぬべきだと思ったのでは」 「僕にはわからない」 七人めの開拓者が声を発した。玉虎と同じ年頃の、少年のように凛とした雰囲気を漂わせた少女だ。 他の開拓者が見つめる中、その開拓者は眼を開いた。金茶の瞳が謎めいた光を放っている。 「何がわからないんだ」 問うたのは最後の開拓者である。 錆をおびた冷然たる声音。それに違わぬ、声の主もまた虚無的な相貌をしていた。 カルロス・ヴァザーリ(ib3473)という竜の神威人はじろりと少女を一瞥すると、 「確かおまえ、千見寺葎(ia5851)というシノビだったな。何がわからない?」 「彼女の悲しみが、どれほどのものかということです。けれど嫌だということはわかっています。愛子さんが死すこと、まして同じ手にかかって、など‥‥それに」 葎の瞳の光が強まった。 「確かに僕は‥‥蛇骨丸を憎んでいる」 「ほう」 カルロスが思わず唸った。小娘の発する殺気の強さに対して。 斬りたい。 無意識的にカルロスの手が刀にのびた。 かちり、と。 まるで牙が触れ合うような音が響いた。鯉口を切る音だ。 気づけば煌夜がカルロスを見ていた。その眼が告げている。抜けば、斬る、と。 一瞬でカルロスは値踏みした。まともにたちあえば煌夜の方が強い。まあ死合うのもおもしろかろうが――。 ニヤリとすると、カルロスは刀から手をひいた。 「ゆくか」 カルロスはいった。すでに彼の念頭からは依頼人も、またその娘のことも消えうせている。 誰が殺されようと知ったことではなかった。娘がアヤカシに嬲られたとしても自業自得。そんなことにカルロスは一片の興味もなかった。 ただ彼が欲するのは破壊。すべてを無に帰すること。 仲間に背をむけたまま、再びカルロスはニヤリとした。それは死神の微笑みに見えた。 ● 開拓者が辿り着いた時、すでに日は暮れていた。山の端を残照が縁取っているばかりだ。 件の荒れ寺は静かな薄闇に沈んでいた。 その静寂の中に―― 異様な音が溶け込んでいた。 苦鳴のような、あるいはすすり泣くような―― そして、声。 殺して。 死なせて。 依頼人の顔がゆがんだ。噛み締めた歯がきりきりと軋る。 「――愛子」 飛び出そうとした。我を失っている。 「待て」 依頼人の腕が掴まれた。夕凪だ。 「放せ! 放してくれ!」 「いいや、放さない」 夕凪の鋭い視線が依頼人の眼を射た。びくりと依頼人は動きをとめた。 惑乱の魂を縛る、あるいは解く。驚くべきことに夕凪の視線にはそれほどの力が込められていた。 この場合、夕凪はふっと笑んだ。姉というものはきっとこのように微笑むのだろう。そう思わせる笑みだ。 「親父殿、あんたには大事な仕事がある。それまで命をはるのは待っていてくれないかい。もし婚約者殿を奪ったモノと同じ手にかかり後を追いたい、そう望み姿を消したのなら‥私達だけじゃ彼女を止められない。同様に彼女の為に命を賭け、そして打ち勝つ者が必要だろう。‥やってくれるかい?」 「‥‥」 言葉もなく愛子の父親は肯いた。膨れ上がる激情を押さえつけている顔である。 たいした親だ。夕凪は感嘆した。すぐにでも娘のもとに駆け出したいところだろうに。 夕凪はちらりと志郎を見た。志郎が頷く。 志郎が地を蹴った。ある種の肉食獣のような身ごなしで疾駆する。無音。 ひらりと志郎は崩れかけた土塀を躍り越えた。衝撃をひざの屈伸で逃し、音もなく着地。そのまま平蜘蛛のように地に伏せる。 ――どこだ。侵入できるところは? 志郎は素早く周囲を見回した。 夕凪と志郎、そしてカルロスの三人の姿が土塀の裏に消えたのを見届け、残る開拓者達は立ち上がった。本堂表にむかう。 と、依頼人の前に葎が立ちはだかった。 「依頼人殿。ひとつ心にとめておいていただきたいことが。娘さんが生を取り戻す為にも、貴方は貴方を見失わないでください」 「――わかった」 依頼人は答えた。十六歳という若年でありながら、壮年の依頼人が肯かざるを得ぬような迫力が葎にはあった。 が、次の瞬間、依頼人は唖然とした。葎がにこりと笑んだのである。それはとても優しげで。 葎は本堂に向き直った。その顔からはすでに笑みが消えている。刃の鋭さのみその金色の瞳にやどっていた。 ● 煌夜とオドゥノールが走った。地を蹴る音が響くが計算のうちだ。 瞬く間に本堂に辿り着くと、煌夜は戸を蹴り開けた。 「うっ」 呻く声は二人の口から同時にあがった。 本堂の奥、薄闇の中に白いものが浮かんでいる。苦悶にゆがむ美しい娘の顔だ。おそらくは愛子であろう。裸身にむかれているように見えた。 ように――というのは、ほとんどが隠されているからだ。 異様なものが愛子の身体を取り巻いていた。 巨大な蛇身。鱗が嫌らしくぬめ光っている。 にいっと老人の顔が笑った。下半身はその蛇身である。アヤカシであった。 「愛子!」 我知らず、愛子の父親は叫んでいた。 ぎろり、とアヤカシの眼が動いた。愛子の父親を睨み据える。 その瞬間である。本堂の中に気配がわいた。闇中に幾つもの赤光が瞬く。アヤカシの眼であった。 シャア! 一斉にアヤカシが動いた。こちらも半人半蛇。愛子をとらえているアヤカシは二対の腕をもっているが、こちらは一対の腕だ。刃のような爪をもっていた。 「邪魔よ」 蒼光が閃き、一体のアヤカシが吹き飛んだ。煌夜が刀で横殴りに払ったのである。 「愛子さん」 刀を振りかざすと、煌夜は叫んだ。 「生きてる意味の全てを手放すには、まだ若過ぎるわ。この歳になってまともな恋もしてない女がここにいるんだし、まだまだ諦めちゃだめよー?」 再び煌夜はアヤカシをうちのめした。ぶるんと胸がゆれる。煌夜は溜息をもらした。何故か空しい。豊かな肢体をもっているのに宝の持ち腐れだ。 同じ時、オドゥノールは唇を噛み締めていた。 愛子の側にアヤカシがいることは想定内の事であったが、その身を愛子に巻きつけていることは意想外であった。どのようにかしてアヤカシを引き剥がされなければ愛子を救うことは不可能だ。 「来い」 オドゥノールは歩を進めた。青の瞳を四本手のアヤカシにむける。 その時、一体のアヤカシが迫った。オドゥノールが無造作に剣で薙ぎ払う。 赤光一閃。アヤカシの首が飛んだ。 「生きて欲しい、という遺志。それを同じアヤカシに潰えさせてなるものか。来い。雑魚ではものたりない」 オドゥノールがさらに歩を進めた。が、四本手のアヤカシは動かない。愛子を掌中のものとしておく有利を心得ているようであった。 刹那、一体のアヤカシが躍り上がった。反射的にオドゥノールが剣で薙ぎあげる。が、赤い疾風の届かぬ先にアヤカシの姿はあった。 オドゥノールの背後に降り立つなり、アヤカシは殺到した。はたかれたようにオドゥノールが振り返る。 「依頼人を!」 「わかってる」 玉虎は火牛なる弩をかまえた。細身の彼女が満足に扱えるのかと思ってしまいそうな大きな弩だ。 が、軽々と玉虎は矢を放った。真紅の気炎をまとわせた矢を。 玉虎の情熱のこもった矢はアヤカシの額を貫き、微塵と化さしめた。 その間、別のアヤカシが肉薄していた。装矢に時がかかることが火牛の弱点である。 カッとアヤカシが牙をむいた。 ● 波立つ心を、必死になって志郎はおさえつけた。 四本手のアヤカシは動かない。依然として愛子を嬲りつづけている。 闇に埋没した志郎の背を焦慮の炎が灼いた。愛子救出の鍵は志郎である。が、機会が掴めない。 その背後でカルロスは幽鬼の如く佇んでいた。愛子の嬲られている姿にもさしたる感慨は覚えない。熱をおびた眼をじっとアヤカシにむけている。 と――アヤカシの顔が突如動いた。黄色く底光りする爬虫の眼を志郎達にむける。 何故気づいた? その疑問はすぐさま氷解した。四本手のアヤカシはカルロスが無意識的に放つ壮絶の殺気を感じ取ったのだ。 「ちいぃ」 はじかれたように夕凪が動いた。飛ぶように四本手のアヤカシめざして馳せる。 ニンマリ、と。 四本手のアヤカシが嘲笑したように見えた。刃を愛子の胸にかざしている。 夕凪の身が凍結した。 「おのれ」 「今です」 絶叫。志郎のものだ。 はっとして夕凪は気づいた。淡い月光に濡れた本堂の床を影が這っている。志郎の影が。 影縛り! そうと判断すると同時、夕凪は跳んだ。四本手のアヤカシのとぐろの中から愛子を引きずり出す。なまじ身動ぎしたため、四本手のアヤカシの戒めは緩んでいたのであった。 ぎいいい。 呪縛の解けた四本手のアヤカシが動いた。毒蛇の迅さで夕凪を襲う。 刹那である。陰の中から人影が忍び出た。四本手のアヤカシと同等の――いや、さらに禍々しさをもった影が。 ● ずんっ、と。 横から疾った刃がアヤカシの頭蓋を貫いた。葎の刃だ。 「とおさない。僕は彼に生きて貰うつもりだから」 「そう。愛子さんにはまだ大切な人が生きているということを思い出させてあげなければ」 角笛を手に朱璃が愛子の父親の前に立った。 「はっは。死にたいなら死なせてやりたかったんだがな。生憎、依頼を請けたもんでね」 哄笑とともに疾ったカルロスの刃は月光だけでなく四本手のアヤカシの背をも断ち割った。しぶく黒血が霧となって消える。 「まだだ!」 雄叫びをあげたカルロスの刃がはねあがった。 戛然。 四本手のアヤカシの刃がカルロスのそれをうけとめた。続く三条の光芒はカルロスをなますのような斬り裂いている。 「やめろ!」 夕凪の怒号が轟いた。敵愾の炎に眼を光らせた四本手のアヤカシの身がゆらりと夕凪の方にむく。 その時、獣並みの速度で一つの影が疾駆した。志郎だ。瞬時にして夕凪のもとに辿り着く。 「来い」 志郎に愛子を委ねると、すすう、と夕凪が横に動いた。四本手のアヤカシが追う。 一瞬後、愛子を抱きかかえた志郎が動いた。 刹那である。四本手のアヤカシの尾が鞭のようにしなって志郎を襲った。 咄嗟に愛子を庇った志郎の爆発的な衝撃が襲った。志郎の口から鮮血が噴出する。 その時だ。 降る月光よりもなお静かに、それでいて魂に響く声が流れた。朱璃の歌声だ。 その歌は、光をおびていた。傷つき、倒れた者の傷を癒す光を。 ぬう、とカルロスが立ち上がった。志郎もまた。 「さあ、仕上げといこうかねえ」 夕凪の刃が咆哮をあげてたばしった。カルロスの刃もまた。 湖底のような暗蒼の中、四本手のあげる断末魔の絶叫が響いた。 ● 「愛子」 父親が愛子をひしと抱きしめた。が、愛子は呆けたように空をじっと見つめたきりだ。父親の頬を伝う涙が愛子の肩を濡らしたが、熱は届かぬようであった。すでに心は壊れているのかもしれぬ。 と―― 愛子の頬が鳴った。朱璃の平手がはたいたのである。 「これは君の婚約者のぶん。そしてこれは」 再び愛子の頬が鳴った。 「君のお父さんのぶん」 朱璃がにこりと微笑んだ。わずかに愛子の眼が見開かれる。瞳に光がともっていた。 「――どうして」 愛子の唇が動いた。 「どうして‥‥わたし、死にたかったのに」 「いいや」 志郎が首を振った。 「貴方は生きるべきだ。それが貴方の務めなのだから」 「つと‥‥め?」 「そう」 オドゥノールが肯いた。しっかりと。確信を込めて。 「貴方の婚約者は命をかけて貴方を守った。お父さんは命のすべてを込めて貴方を愛した。その祈りに貴方は応えなければならない」 「ここに」 夕凪は愛子の胸に人差し指をかるく押し当てた。 「婚約者殿の愛が生きている。魂が息づいている。愛子さんが幸せになるのに遠慮はいらない。それが婚約者殿の願いなのだから」 愛子の瞼から涙が溢れ出した。打たれた頬の痛みと熱さが凍った心を溶かしていくようだ。 そして愛子は見た。彼女を優しく包む月光の中に愛する人の姿を。笑顔を。 幸せに。 愛する人の唇が告げた。 うん。 愛子が父親の胸に顔を埋めた。ようやく愛子は気づいたのだ。 そう。命をかけ、彼女を愛する者がここにもいた。 もらした泣き声は赤子のものに似て、澄んでいた。 |