【砂輝】生贄の村
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/24 04:46



■オープニング本文

●アヤカシ調査
「この『ラマ・シュトゥ』ってのは何や」
「こいつですか‥‥残酷な奴でしてね」
 黒井奈々介の問いかけに、現地の役人は顔を歪めた。
 開拓者ギルドとアル=カマル側で情報交換をやっていた彼らは、上級アヤカシ、大アヤカシについての確認作業を進めていた。
 ラマ・シュトゥは砂漠の集落を襲うアヤカシだ。女性のような上半身と鳥のような下半身を持ち、人里に部下を差し向けては生贄を要求する。生贄を求められた集落はアヤカシによって見張られ、しかも、生贄を奉げていようともラマ・シュトゥの気まぐれで全滅させられる。
「えげつないことしよる」
「外部に連絡を取ったことが発覚すれば皆殺しです。だから、行商人が久々に訪れたら集落が一つ全滅していた‥‥なんてこともあります」
 彼らの話を一通り隣で聞いていたギルド職員が、待てよと思い出したように立ち上がる。
「‥‥集落から頼りが来ない、という依頼を見た記憶があります」
「何やて?」
「まさか‥‥」
 ギルド職員の後ろで、役人と黒井はお互いに顔を見合わせた。


「どうしたのかねぇ」
 一人の老婆が溜息を零した。名をネシャートという。
 彼女は一人であった。夫は先年亡くなった。娘が一人いるが、結婚し、今は遠く離れた村に住んでいる。ハイルという孫がおり、今は月に一度届く便りが唯一の生甲斐であった。
 その楽しみとしていた孫からの便りであるが。それが今月は届かない。気掛かりであった。
 そんな時である。異郷の者達がアル=カマルを訪れたという噂をネシャートは聞いた。そして、その異郷の者達が開拓者ギルドという施設をつくったとも。なんでも難儀した者達の依頼をうけ、その難題を果たすという。
 それでネシャートは依頼を出した。孫から便りが来ないので、手紙を受け取ってきてほしいという内容の依頼を。
「頼んだよ、異郷の人達」
 縋るような眼を、ネシャートは陽炎立ち昇る砂の地平にむけた。


「つぶすか」
 やや苛立った声がひびいた。
 先ほど啜った赤子の血の味が気に入らなかった。それが理由である。
 それともう一つ。ジンをもつ少年が見つかった。名はハイルというらしい。そのガキの目の前で村人を皆殺ししたら気が晴れるかもしれなかった。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
フリージア(ib0046
24歳・女・吟
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
マックス・ボードマン(ib5426
36歳・男・砲
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔


■リプレイ本文


 降るような星空。
 煌とした月。
 銀色の静寂が砂の世界に満ちていた。
 そこは小さなオアシスであった。泉のほとりに六つの天幕がある。
 その一つで、小さな気配が動いた。一人の娘が身を起こしたのだ。
 蒼く長い髪を後で無造作に結んだ、毅然とした相貌の美しい娘だ。どこか気難しげなその顔には当惑の色が滲んでいる。
 娘の名は志藤久遠(ia0597)というのだが、その隣には一人の若者が眠っている。その整った顔をちらりと久遠は見下ろした。
 若者の名はゼタル・マグスレード(ia9253)。天幕を所持していなかったという理由で場所を貸したのだが、今頃になって久遠は後悔していた。
 真面目な――いや、真面目すぎる久遠は普段異性をあまり意識したことがない。が、一度意識するとだめであった。顔が火照る。胸がドキドキする。
「もう‥‥何をしてるんだろ」
 久遠は溜息を零した。

 同じ時、もう一人眠れぬ者があった。
 マックス・ボードマン(ib5426)という男で、どこか翳のある二枚目だ。
 そのマックスは顔を顰めて隣で眠っている少女を見下ろした。小さな寝息をたてている。
 フィン・ファルスト(ib0979)という名の、十代半ばに見える少女で、健康的で可愛らしい。が、その太股は今はむきだしになっている。足先はマックスの腹の上だ。
「なんて寝相の悪さだ」
 マックスは痛む腹をおさえた。フィンに蹴られたのである。
「少し外の空気を吸ってくるか」
 マックスは天幕から出た。
 外には彼以外の人影が見えた。数は四。
「おや」
 一人がマックスに気づいた。
 女だ。名を北條黯羽(ia0072)といい、マックスよりは年下のようだが、とてもそうは思えない艶がある。昼間は隠していた肌を今は露出しており、はちきれんばかりの乳房を惜しげもなくさらしている。
「眠れないのかい」
「ああ。フィンにきつい一発をもらったのでな」
 と、一人の女がやや険を含んだ眼をマックスにむけた。淑やかな娘で、銀色の髪と白い肌が眩しい。まるで、今降っている月光が凝って生まれたかのように人間離れして見えた。名をフリージア(ib0046)という。
「フィンさんに嫌らしいことをしようとしたのですか」
「まさか」
 マックスは苦く笑った。
 彼はかつては悪童で、さんざん悪いことをしてきた。女遊びもそうで、今更子供に興味はない。
 マックスは三つめの人影に眼をむけた。
 女だ。年齢は二十歳ほどか。が、煙管を口に咥え、扇子をひらひらと振っているその姿はこの世ならぬ色気に満ちていた。
 その娘は龍の神威人であった。ねじれた角が左右の側頭部から生えている。
「わらわに何か用かの?」
 娘――椿鬼蜜鈴(ib6311)は口から煙管をはなした。
「いや」
 マックスは、蜜鈴の肩から首にかけた彫られた椿の刺青から眼をもぎはなすと、先に天幕から出ていた久遠の隣に腰をおろした。
 と、銀色の砂漠を見つめていた黯羽が口を開いた。
「見渡す限りの砂の世界。奇観だねえ」
 黯羽は少し身を震わせた。思いの外風が冷たい。寝袋を用意しておいて良かったと黯羽は思った。
 はい、と肯いたのはフリージアだ。
「手紙を届けるだけとなれば簡単な話ですけれど、この砂の世界を行き来するだけでも結構大変ですわね」
「だからこそ数少ない家族よりの文が絶えたとあっては嘸不安じゃろうてな。早う手紙を届けてやらねばの」
 ぷかり。蜜鈴が煙をはいた。その妖艶なる蒼の瞳に瞬く光は意外なほど優しい。
「そう上手くいけばいいが」
 マックスが呟いた。そして蜜鈴に眼をむけると、
「どうやらアル=カマルにはラマ・シュトゥというアヤカシがいるらしい」
「それは私も聞きました」
 久遠が記憶をまさぐるように眼を細めた。
「確か上級アヤカシで、砂漠の集落を襲う、と。そして生贄を要求するとも」
「そうだ」
 マックスは肯いた。
「が、それだけじゃない。生贄を奉げていようとも、ラマ・シュトゥは気まぐれで集落を全滅させるらしい」
「集落が全滅、じゃと?」
 蜜鈴の眼が微かに見開かれた。
 手紙の途絶えた村。ラマ・シュトゥに襲われた村と状況が似てはいないか。
「嫌な予感がする。思い過しならば良いのじゃが」
「ともかく明日は急ぎましょう」
 フリージアは立ち上がった。そして自身の天幕にむかう。
 その時、隣の天幕から囁くような声がした。柚乃(ia0638)のものだ。
「再びラクダさん〜♪ 美味しそう♪」
 どんな夢を見ているのだろう。
 微笑をもらすと、フリージアは首を傾げた。
 後に残った一人。蜜鈴は天を仰いだ。
「さて砂漠での一夜か。満天の星空の下の酒も嘸上手かろうてな」
 その時、星が一つ、流れて落ちた。


「再びラクダさん〜♪」
 ラクダの上で、その少女は揺れていた。
 気品に満ちたその様子は貴族の息女のよう。柚乃であるが。いつもは巫女装束の彼女の身体を、今覆っているのはアル=カマルの衣服である。
 本当は商人風のものが欲しかったのだが、やはりこの儀特有のものがよかろうと勧められたのが踊り子のもので。腹部が露出されており、十三歳らしからぬ瑞々しい肢体をさらしている。
「ちょっと恥ずかしいです」
 柚乃がおなかを撫でさすった。
 この時、すでに彼女の練力は消耗していた。砂漠において幾体かのアヤカシと遭遇した故である。
 その時だ。先頭をゆく久遠がラクダをとめた。
 前方。砂漠の只中に石煉瓦の町並みが見える。方向と距離が間違っていなければ、あれがハイルが住む村だ。
「やっと着いたぁ」
 満面に喜色をうかべ、フィンがラクダをすすめようとした。が、ふいにもれたフリージアの呟きを耳にし、フィンはラクダをとめた。
「今、おかしいっていった?」
 フィンが問うと、フリージアは小さく肯いた。
「村の様子が変です」
「様子?」
 久遠が息をつめた村を見つめた。そして得心した。村の異常を。
 通常、村には生活反応がある。煮炊きの煙や子供達のはしゃぐ声など。が、今村は静寂に包まれ、人の姿はない。
「確かにおかしいですね」
 柚乃が素早く印を組んだ。その全身から淡い光が散り、結界が展開される。
 だめですね、と柚乃は首を振った。ここからではアヤカシの気配はとらえられない。
「任せな」
 胸騒ぎをおさえ、黯羽は符を取り出した。表面に指を滑らせ、真言を描く。黯羽がふっと息を吹きかけると、符は一羽の鳥に変じた。
「では僕も」
 ゼタルが符を放った。それは空で砂蜥蜴へと変じ、ぽとりと砂上に落ちた。
「さあ、村へ」
 ゼタルが命じた。


 村の中央にある広場。
 そこに村人達の姿はあった。全員座らされている。
 その村人達を取り囲むようにして異様な者達が立っていた。豚面の、ぶくぶと太った鬼。そして凶暴な人面に翼の腕をもつ鳥魔。オークとハーピーであった。さらに――
 村人達の前に尊大に立つ異形があった。
 相貌は女であった。黄色く底光る眼は冷酷そうであり、茶褐色の髪は長く、毛先はおおぶりの乳房にかかっている。そう――
 異形は裸であった。灰色の不気味な上半身をさらしている。そして下半身はといえば。
 鳥のようであった。羽毛に包まれており、四つの指には鱗が生えていた。
「よく生贄を捧げてくれた」
 異形――ラマ・シュトゥがいった。そして村人達をぐるりと見回し、
「礼として、皆殺しにしてやろう」
 ニヤリとした。
 次の瞬間である。オークが腕を振り下ろし、村長らしき老人の頭蓋が熟れた果実のように粉砕された。
 悲鳴をあげて、気力が絶えたはずの村人が立ち上がった。はじかれたように四方に逃げ出す。
「ははは。逃がすな!」
 ラマ・シュトゥが叫んだ。オークとハーピーが村人を襲う。
「くそっ。ハイルを放せ!」
 一人の男がラマ・シュトゥに殴りかかった。それをあえてラマ・シュトゥは灰色の身体でうけた。
 びきり、と男の拳が軋んだ。骨が砕けてしまっている。驚くべきことに、ラマ・シュトゥは肌を鋼の如く硬くすることができるのであった。
「くくく。カスが。人間の分際で、このラマ・シュトゥ様の身体に傷一つでもつけられとでも思ったか」
 ラマ・シュトゥの足がはねあがった。眼にもとまらぬ迅さで男の顔をかすめるようにして疾りぬけ――
 次の瞬間、男の身体が分断された。四つに分かれ、血煙をあげつつ地に倒れる。
 絶叫があがった。ラマ・シュトゥが掴んだ少年の口から。
 髪の毛を掴んで少年を引きずり上げ、ラマ・シュトゥは笑った。
「どうだい。ハイル。親父の死に様は。真っ赤で綺麗だろ。今度は」
 ラマ・シュトゥの眼がぎろりと動いた。その先に呆然と立ちすくむ一人の女の姿がある。ハイルの母親であった。
「一人だけ生き残らせちゃあ可哀想というものだねえ」
 ラマ・シュトゥは地を蹴った。瞬く間にハイルの母親との距離を詰める。
「くたばりやがれぇ!」
 ラマ・シュトゥの脚が閃いた。岩をも砕く一撃が、恐怖に身動きもならぬハイルの母親の顔面めがけて疾り――
「ぬっ」
 呻く声はラマ・シュトゥの口からあがった。彼女のつま先は確かに砕いた。が、それはハイルの母親ではなく、眼前に立ちはだかった漆黒の壁であった。
「これは――!?」
「これ以上好きにさせるかよ」
 ニッ、と。笑ったのは黯羽であった。ラマ・シュトゥの満面が怒りにどす黒く染まる。
「なんだい、お前は?」
「北條黯羽。開拓者さ」
「異郷のジンの者かぁぁぁ!」
 ラマ・シュトゥの眼がギンッと光った。豪風にうたれたかのように黯羽の髪が翻る。ラマ・シュトゥから放たれる凄絶の殺気によるものだ。
「うっ」
 黯羽ほどの開拓者が息をつめた。これほどの殺気を、いまだかつて黯羽は感得したことはない。
 まずい、と黯羽は思った。その時には、すでにラマ・シュトゥの姿は眼前に迫っている。信じられぬ襲撃速度の速さであった。
 今度はラマ・シュトゥの手の爪が疾った。空間に光の亀裂が刻まれ――
 戛然!
 光がしぶき、ラマ・シュトゥの爪がとまった。受け止められたのだ。フィンのもつ魔槍アラドヴァルによって。
 ラマ・シュトゥの眼が憎悪に赤く光った。
「ぐぬぬ。小娘ぇぇぇ!」
「小娘じゃない。私はフィン・ファルストだ」
 叫び返したフィンであるが。その膝ががくりと地についた。驚異的なラマ・シュトゥの膂力によって。
 次の瞬間、ラマ・シュトゥの足が唸った。つま先をフィンの腹にぶち込む。フィンの身体が軽々と吹き飛んだ。
「はっはは。カスが。このラマ・シュトゥ様の相手をするなんざ十万年早いわ! お前達、村の者を皆殺しにしてやりな!」
 マラ・シュトゥが叫んだ。応えは凶暴な咆哮だ。一斉にオークとハーピーが村人に襲いかかった。


 久遠が踏み込んだ。その眼には怒りの炎が渦巻いている。ラマ・シュトゥに対する怒りの炎が。
 その怒りが爆発的な力を久遠に与えた。巨大な穂先をもつ槍が、必殺の威力をはらんでオークの腹に叩き込まれた。
 同じ時、ゼタルの手からは符が飛んでいた。わずかに遅れて符の呪的結索解放。カマイタチへと再固定された式はハーピーを切り裂いた。
「やるじゃないか」
 ゼタルをちらりと見遣り、マックスが銃のトリガーをひいた。射撃時の反動で腕がはねあがる。宝珠によってさらに高速化された弾丸はハーピーの頭に着弾し、全パワーをぶちまけた。ハーピーの頭蓋がはじける。
「そっちこそ」
 ゼタルがこたえる。その眼には氷の光がゆらめいていた。ラマ・シュトゥを睨み据える。
「異国の上級アヤカシ。知識欲に従えば、その存在は非常に興味深い。だが、それ以上に外道を許せる程、僕は寛容ではないのだよ。柚乃さん。村の方達を」
「はい」
 柚乃の身体から光が迸り出た。朝日にも似たそれは暖かく眩しく、瞬く間に村人達の傷を癒していく。
「さあ」
 柚乃が村人達を促しした。村の入り口にむけて誘導していく。
「フィンさん!」
 フリージアが叫んだ。彼女の眼は、フィンにゆったりと歩み寄りつつあるラマ・シュトゥの姿をとらえている。
 まずい、とフリージアは判じた。さすがにラマ・シュトゥは上級アヤカシだ。その戦い方をみるに、数人の開拓者でどうにかなる相手ではなかった。
「早く立ってください! あなたは騎士のはずです」
 フリージアは天使の羽のような形をしたハープをかき鳴らした。フィンがゆっくりと身を起こす。肋骨が砕けていたが、不思議な力が全身に満ちつつあった。が――
 ラマ・シュトゥの間合いにフィンは入った。
「遅い!」
「のは、うぬじゃ」
 蜜鈴がラマ・シュトゥに人差し指を突きつけた。その先端にゆらめいているのは凝縮された呪力の光だ。
「残酷な事をし居る。汚らわしい限りじゃ」
「ぬかせ」
 ふふん、とラマ・シュトゥは嘲笑い、ハイルをぐいっと持ち上げた。
「こいつがいるのに、やれるか」
「やれる!」
 蜜鈴がニンマリとした。
 刹那である。蜜鈴の指先から光の矢が放たれた。それは流星の如くラマ・シュトゥに、いや、ラマ。シュトゥの掲げたハイルめがけて疾り――
「ぐおぉぉぉ」
 苦悶する声はラマ・シュトゥの口から発せられた。その身にはホーリーアローが突き刺さっている。
「馬鹿な」
 ラマ・シュトゥが呻いた。
 その瞬間である。轟音が響き、ラマ・シュトゥの腕が震えた。マックスの銃撃だ。
 損傷はたいしたことはないが、しかしその足がわずかによろけた。さらには無意識的に手が開き、ハイルを放した。
 すかさず飛んだのはフィンだ。ハイルを抱きしめ、転がり逃れる。追おうとしたラマ・シュトゥであるが。その眼前に岩の壁が立ちはだかった。
「好きにはさせねえっていってんだろ」
 黯羽の手から符が飛んだ。
 ラマ・シュトゥが走る。同時に肉体を硬化。カマイタチに切り裂かれたものの、上級アヤカシにとってはさしたることもない。
 ラマ・シュトゥの手がのびた。黯羽の首を掴む。
「てめえの面ァ、覚えておいてやるよ。まだやることがあるんでね。皆殺しにしてやりたいところだが、今日はここまでさ」
 ラマ・シュトゥの唇の端が鎌のようにつりあがり――
 その姿が消失した。いや、そのように開拓者には見えた。が、事実はラマ・シュトゥは跳躍していた。まるで飛行しているではないかと思えるほどの高度まで。
 哄笑が遠ざかってゆくことで、ようやく開拓者達はラマ・シュトゥが退いたことがわかった。


「おんしがはいるかの?」
 蜜鈴が少年を抱き上げた。少年の容姿はネシャートから聞いたハイルの特徴と合致する。
 少年――ハイルきただ震えていた。父親を目の前で惨殺された事実が、その小さな胸を蝕んでいるのだ。その傷は簡単に癒されることはないだろう。
 しかし、だからこそ伝えなければならない。少年を愛する者がいることを。その者のため、生きていかねばならぬことを。生きていく価値があることを。
 非力な自分に哀しみを覚えつつ、フリージアは告げた。 
「お祖母様があなたを待っています」