【砂輝】星の宝珠
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/20 01:49



■オープニング本文


 武神島。天儀とジルベリア帝国の中間に位置する島である。
 緋ノ衣衆の里はその武神島にあった。
 その緋ノ衣衆の里とは何か。
 それは多くが狐の獣人である緋ノ衣衆で構成された里である。人口はおよそ二百人で、古くから金属や宝石の加工が盛んな職人の里でもあった。
 そのような小さな里であるが。近頃、人々の注目を集めていた。それは、里にある重要な代物があることが判明したからである。
 星のうかぶ二個二対の宝珠。それこそはアル=カマルに眠るオリジナル・サンドシップ起動の鍵であったのだ。
 かくして、伝説の巨船を再び目覚めさせるため、神の巫女たるセベクネフェル・ファティマはメリト・ネイト(iz0201)を緋ノ衣衆の里へむかわせた。

「まだか」
 じれたように呟いたのは二十歳ほどの娘。アル=カマルでよく見られる白の長衣と頭巾をまとっている。
 その頭巾から覗く顔は美しい。鋭い眼といい、意志の強そうな口元といい、多分に気が強そうではあるが。
 さらに特徴的なことは耳。長く、ぴんと先端が尖っている。
 エルフであった。褐色の肌であるところからダークエルフであろう。
 メリト・ネイト。砂漠の女戦士である。
 彼女が立っているのは緋ノ衣衆の里の中であった。緋ノ衣衆との交渉に成功し、開拓者の到来を待っているのである。アル=カマルまで宝珠を移送するために。
「じっとしているのは苦手なんだが」
 溜息をメリトは零した。
 砂漠を縦横無尽に駆け回ることが好きな彼女にとって、一つの場所でじっとしてるは我慢ならぬところがある。それほど日が経ってはいないはずなのに、すでに砂漠をわたる乾いた風が恋しかった。
「まだか」
 再びメリトは呟いた。


 砂混じりの風が砂漠を吹き渡っていく。
 長衣をなびかせた立つ影は三つ。いずれもが鳥に似た砂龍と呼ばれる生き物の背にまたがっている。
「星の宝珠を奪え」
 一人がいった。頭巾の下の顔は鼻から下が布で隠されていて、人相はわからない。ただ、その瞳には赤黒い欲望の炎がゆらめていた。
「メリト・ネイトは?」
 別の一人が問うた。男だ。獅子のアヌビスである。
「殺すことはあるまい。が、痛めつけてやれ。もはや戦えぬほどにな」
「では開拓者は?」
 三人めの影が問うた。こちらも男で、豹のアヌビスだ。
「殺せ」
 冷淡な声が響いた。
「殺せるのならばな。お前達に殺されるのならば、しょせんはその程度の奴ら」
「女がいれば俺のものにしてもかまわねえか」
 豹のアヌビスが舌なめずりした。彼は街で天儀から来たという女を見たことがあったのだ。
 天儀の女は色が白くて細くて、アル=カマルの女とは違っていた。玩具とするに面白そうであった。
「かまわん。好きにするがいい」
 顔を隠した者はつまらなそうにこたえた。


■参加者一覧
香椎 梓(ia0253
19歳・男・志
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
アイラ=エルシャ(ib6631
27歳・女・砂
ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684
13歳・女・砂
ナジュム・アル=ディバ(ib6780
14歳・女・砂


■リプレイ本文


 八人の開拓者が辿り着いた時、緋ノ衣衆の里の入り口に立つ人影が見えた。
 それは二十歳ほどの娘であった。白の長衣と頭巾をまとっており、その頭巾から覗く顔は美しい。そして――
 耳は長く、ぴんと先端が尖っていた。エルフである。
「来たわね、開拓者」
「あなたがメリトさんですね」
 気品に満ちた微笑をうかべ、十代半ばに見える一人の少女が手を差し出した。そして柚乃(ia0638)と名乗った。
「メリト・ネイトよ」
 娘――メリトは柚乃の手を強く握り返した。
 柚乃は淑やかで、宝珠移送などというような荒事にはむかぬように見える。が、小柄の体躯の裡に秘められた膨大な熱量を、砂迅騎たるメリトは敏感に感じ取っていた。
「メリトさん」
 一人の男が口を開いた。
 燃えるような紅髪の若者で、相貌は少年の面影を残しており、端正。独特の軽やかな身ごなしをもっている。
「お前は」
「覚えていてくれたようだな。滝月玲(ia1409)だ」
 こたえると、玲はじっとメリトを見つめた。
「砂の国での信頼は命に等しいと聞いた。俺達が里長と交わした約束も同じだ。何があっても失う訳にはいかない。だから、来た」
「助かるわ」
 メリトはこたえた。その言葉に嘘はない。
 戦士は戦士を知る。優秀なる戦士であるメリトは、前回会った時、一目で玲が尋常ならざる使い手であることを見抜いていた。
「ところで肝心の宝珠だが」
「ここにあるわ」
 メリトが手を開いて見せた。掌の上に円形と六角柱形の二個二対の宝珠がのっている。
「おおっ、それが星の宝珠ですか!?」
 素っ頓狂ともいえる声をはりあげたのは可憐な少女であった。大きな瞳は海の色で、太陽の光をやどしている。
 少女――フィン・ファルスト(ib0979)は瞳の光をさらに強めた。
「それがあれば、あの船が動く。‥‥わくわくしてきましたっ」
「面白いな、あんた」
 さすがのメリトが苦笑した。そうせざるを得ない、魂の温かみのようなものをフィンはもっている。
「もっと見たいのじゃ」
 さっと宝珠を取り上げたのは、柚乃と同じほどの小柄の少女であった。見たところ年は十ほどか。フィンと同じように好奇心に満面を輝かせている。
 少女は宝珠を太陽に透かしてみて、感嘆の声をあげた。
「おおーっ、この宝珠は綺麗じゃなっ♪ 確かに星が見える♪」
「ヘルゥさん、待ちなさい」
 一人の女がたしなめた。
 二十歳後半。艶やかな青い髪を、面倒だという理由だけでぱっさりと短くしている。メリトと同じく、砂漠の戦士の典型ともいうべき女であった。
「それはアル=カマル、そして緋ノ衣衆の里にとっても大事なもの。ぞんざいに扱ってはいけないわ」
「アイラ姉ぇのいうとおりじゃ」
 少し肩をおとし、ヘルゥと呼ばれた少女はメリトの掌の上に宝珠を戻した。メリトはくすりと笑い、
「ほう。聞き分けがいいのね」
「獅子は賢く、そして強くあらねばならぬからの。じゃが一つ頼みがある。ラクダが用意してあるとのことじゃが、砂龍と交換してはもらえんかの。こちらにはベドウィンが三人も揃っておるんじゃから」
「ベドウィンが‥‥三人?」
 メリトはあらためて三人の女を見つめた。
 一人はヘルゥと呼ばれた少女――正確にはヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)という――であり、もう一人はアイラ姉ぇと呼ばれた女――アイラ=エルシャ(ib6631)――だ。
 そして三人め。こちらはヘルゥとあまり変わらぬ年頃に見えた。が、印象はまるで違う。
 若年ながらも泰然自若たるところのあるヘルゥに比べ、その少女にはどこか孤高の趣がある。それは少女が狼のアヌビスであるためかもしれない。
「ナジュム・アル=ディバ(ib6780)です」
 少女が口を開いた。
 こちらこそ、と礼をかえし、メリトは怪訝そうに眉をひそめた。
「どうしたの。気負っているようだけれど」
「いえ」
 ナジュムは言葉少なにこたえた。
 彼女の名は星を意味する。星の宝珠を守ることに運命を感じているなどとは照れくさくて口にすることはできなかった。
 と、メリトはヘルゥに眼を戻し、すまなそうにいった。
「悪いが砂龍は貸せない。すでにアル=カマルの精霊門の近くには、私の砂龍とラクダが用意されているはずだから」
「‥‥そうか。無理かの」
 ヘルゥは、がくりと今度こそ大きく肩をおとした。
 と、同じく肩を落とした者がいる。こちらはアイラと同じほどの年頃で、名は志藤久遠(ia0597)。アイラと同じく、鮮やかな青い髪の美女である。
 この場合、久遠は、良くも悪くも真面目に憂慮している。砂龍を使えぬことについて。
 砂龍を使えぬことは開拓者にとって大きな不利益であった。砂漠戦において、速さに劣るラクダの使用が依頼にどのような翳をおとすか――
「あなたも星が見たくなりましたか」
 笑みを含んだ声がした。久遠はさっと顔を赤らめると、
「い、いえ、私は」
 こたえかけ、相手がからかっていることに気づいた。
 声の主は久遠の知る男であった。女性的な顔立ちの美青年で、久遠よりは年下であるのは間違いない。が、そうは思わせぬ懐の深さのようなものを感じさせる男であった。名を香椎梓(ia0253)という。
 ふふふ、と微笑すると、梓はメリトにむかって歩み出した。
「出すぎないよう、少し釘を刺しておきましようか」


 灼熱の太陽の下、メリトと八人の開拓者の旅がはじまった。その開拓者であるが。
 砂迅騎であるアイラ達三人は当然用意していたが、他の五人は布などで頭や顔を覆っていた。できるだけ露出部分を少なくするためだ。メリトから注意された故である。
「皆、ちゃんと水を飲むんだぞ」
 玲が注意した。
 熱砂の上では想像以上に汗をかき、身体の水分量が低下する。行動力を維持するのに、こまめな水分補給が必要であった。
 その水であるが。柚乃の力が役立った。彼女の呪法により水は凍結されていたので、いつでも冷たい水を飲むことができたのである。
 と――
 メリトの横でラクダを進める柚乃がふっと口を開いた。
「この辺りにはどのようなアヤカシが出るのですか」
「出ないわ」
 あっさりとメリトはこたえた。
「最も安全なルートを私が選んだから」
 そう、と柚乃がこたえた。その肩からは袋が下がっている。中に入っているのは宝珠の偽物だ。玲が緋ノ衣衆に依頼し、作ってもらったものである。
 と、メリトは柚乃が度々額の飾りに手をのばしていることに気づいた。真紅の宝珠のついた綺麗な飾りだ。
「大事なものなの?」
「はい」
 柚乃はにこりと微笑むと、
「メリトさんにも似合いそう。つけてみますか?」
「いや、私はいいよ」
 メリトは含羞むように笑った。
 彼女は生まれながらの戦士であった。多少の装飾品を身につけることはあるが、柚乃のもののような可愛い飾りをつけたことはない。
 その時だ。突如、ヘルゥが叫び声をあげた。
「アヤカシじゃ!」
「何だって!?」
 メリトが愕然として呻いた。このルートにアヤカシが出現するはずはない。
 と、アイラがメリトの前に出た。
「メリトさんにも歯がゆいかもしれないけど、ここは私たちに任せてちょうだいね。皆」
 アイラは仲間にむかって声をかけた。こういうところ、さすがにアイラは旅団の長である。
「敵さんのおでましよ。みんな、準備はいい?」
「ええ」
 久遠がメリトと柚乃の前にラクダをまわした。フィンもまた。その手には短銃が握られていた。
「とほほ、射撃苦手なのに」
 フィンは嘆いた。それもそのはず、本来の彼女の戦い方は突撃殲滅であったのだから。
「二人は任せたよ」
 ナジュムがラクダを進めた。
 彼女の見るところ、メリトは先陣を切るタイプのようだ。ならば開拓者が先に動いた方がいい。
 ナジュムはそう判断した。砂蟲によって一族を滅ぼされ、絶望の淵に沈んでいた彼女であったが、戦士としての勘は錆びついてはいないようであった。
「来たな」
 玲が野太刀を大きくふりかぶった。その眼前に迫るのは人面有翼手のアヤカシである。
「ふんっ」
「キイィィィ」
 鋭い呼気と雄叫びは同時に上がった。直後、振り下ろした玲の刃から真空の渦が迸り出た。人面有翼手のアヤカシ――ハーピーを切り裂く。
「くっ」
 玲の口からも鮮血が流れ落ちた。ハーピーの放った瘴気の一撃をくらったのである。
 再び雄叫びをあげてハーピーが身を翻した。そのハーピーの背がはじけた。一発の弾丸によって。
「逃しはしませんよ」
 銃を握る梓の口元には、いつもと変わらぬ微笑がうかんでいた。


「ふふふ。やはりな」
 嘲るように顔を布で隠した男は笑った。
 全員が宝珠の所持者であるように扮しているため、かえって惑わされずに済んだ。いかに誤魔化そうと、自然と開拓者達は宝珠の所持者を守る。
 そう宝珠の所持者は――


 依然として開拓者の旅は続いていた。
 その開拓者達一行であるが。数は十人に増えていた。旅の途中であるという豹のアヌビスと出会ったのである。名をスワイドといった。
 そのスワイドを、ちらちらと柚乃は盗み見ていた。疑っているのだ。
 そして、久遠。
 久遠もまた当惑の中にあった。先ほど襲ってきたアヤカシであるが、違和感がある。
 それは玲も同じようであった。卓越した彼の戦術勘が告げている。足元に近寄りつつある毒蛇の牙の存在を。
「うん?」
 今度はナジャムが不審の声をあげた。接近しつつある砂龍の一群を見出したのだ。
 砂龍には戦士然とした男達が乗っていた。驚くべきことに、練力により増幅された彼女の眼は一キロメートル先の人の顔を判別することができるのだった。
「気をつけろ!」
 アイラが叫んだ。彼女は獅子のアヌビスが銃をかまえたのを見てとったのである。
 直後、風を切る音が響き、アイラの左腕から血がしぶいた。狙撃されたのである。
「くっ」
 アイラは唇を噛み締めた。これでは得意の両手撃ちはできない。
「大丈夫です」
 柚乃の身体から淡い光が迸り出た。完全とはいえないが、アイラの腕の傷が癒えていく。
「はっ」
 アイラは黒白の短銃を左右手にした。その姿は熱砂に舞い降りた鷲を思わせる。
 が、この鷲はただの猛禽ではない。その翼は火を噴くのである。
 アイラの短銃が轟音を響かせた。黒白の羽根が散り、砂龍に乗った襲撃者二人が転げ落ちた。
「ははは。格好の的じゃぞっ。今じゃ、ナジュム姉ぇ!」
 ラクダを操りつつ、ヘルゥが笑う。
 肯くナジュムの手の短銃――ブラック・ファングは、さらにその牙を鋭くむいた。襲撃者の一人が砂に叩きつけられる。
 本来、この距離でアイラもナジュムも銃撃は困難であった。が、ヘルゥの「戦術攻」がそれを可能とした。
 が――
 襲撃者の数は十。三人は斃したものの、アイラ達だけで敵を防ぎとめることは不可能であった。
 アイラ達を突破し、四人人がメリト達に迫った。狙いは明白である。
 その八人の襲撃者の前に、今度は梓と玲が立ちはだかった。それぞれの手の刃が赤光を放っている。炎をまとっているのだった。
「里長たちと約束したんだ、お前らに渡す宝珠などない!」
 玲から凄まじい殺気が放出された。紅蓮の炎に、燃える紅髪が逆立つ。その様は、まさに炎帝!
 玲の刃が疾った。襲撃者の首がとぶ。信じられぬ威力であるが。
 首を刎ねられた襲撃者を飛び越えて、何かが空に舞った。
 獅子のアヌビス――ナーヒド、と知るより早く、梓もまた空に跳んだ。逆袈裟に斬り上げられた刃はナーヒドを真っ二つに――いや、ナーヒドは身を捻った。が、かわしきれない。
 左腕を切り飛ばされ、しかしナーヒドはメリトめがけて襲いかかった。右腕の銃がメリトをポイントする。
「このボケナスっ!」
 ナーヒドの指がトリガーを引くより早く、何かが彼の身体にからみついた。フィンだ。からまりあったまま二人が砂に落ちた。
「どけい、小娘!」
 ナーヒドがフィンをはじきとばそうとし――愕然として呻いた。フィンが掴んでいるのだが、その腕が動かない。少女とは思えぬ怪力であった。
「ラフファイトなら、むしろ得意なのよ」
 フィンがナーヒドの顔面に額を叩きつけた。続けざまに。戦法も何もない、ムチャクチャな戦いぶりである。
「――スワイド」
 ナーヒドの口からひび割れた声がもれた。
 刹那である。スワイドが動いた。信じられぬ速さでメリトにむかって飛びかかる。
 が、その襲撃を予期していた者があった。久遠だ。盾をかまえ、メリトの前に立ちはだかる。
「させない!」
「はっはは。そう来たかよ」
 スワイドが久遠の盾を蹴った。その反動を利用し、次なる――いや、真の標的に襲いかかった。それは――柚乃!
 もつれあうようにして柚乃とスワイドが砂に落下した。砂をはじいて柚乃が身を起こした時、その首にはナイフの刃がおしつけられていた。
「動くなよ、小娘」
 ニタリとすると、スワイドは柚乃の身体から袋を二つ奪い取った。さらに嫌らしく柚乃の身体をまさぐったあと、
「他には隠してねえようだな。こいつはもらっておくぜ。――メリトよ」
 スワイドがメリトに嘲弄の光のうかぶ眼をむけた。
「てめえも持ってやがるんだろ。宝珠をさ。渡しな」
「貴様」
 久遠が前に出た。が、待て、とメリトが制した。
「命には代えられない。失えば、それきりだ。が、宝珠は奪い返すことができる」
「――さすがはメリトだ」
 呆然とするフィンをはねのけ、ナーヒドが立ち上がった。メリトに近寄り、身体と荷物を探る。そして宝珠の入った袋を奪った。
「安全なところまで逃げたら小娘は放してやる。心配するな。足手まといはいらねえ。少しばかり惜しいが、な」
 スワイドが砂龍を駆った。
「待つのじゃ」
 呼び止める声が凛と響いた。ヘルゥである。その怒りに燃える瞳はナーヒドにむけられていた。
「娘を人質にとるとは。獅子のアヌビスの風上にもおけぬ奴。尋常に戦ったらどうじゃ」
「誇り高き娘よ」
 ナーヒドは可笑しそうに笑った。
「もっと強くなれ。その時、もう一度戦ってやる」
「その言葉、忘れるな。私はきっと強くなる」
 ヘルゥは吼えた。それは己に対する、いや、未来に対する誓いであった。


 悄然たる足取りで開拓者達はステラ・ノヴァに辿り着いた。落日の光に濡れる町並みが見える。
 ぎくり、としてメリトが砂龍をとめたのは、都の喧騒が届いた時であった。
 眼前に立ちはだかる人影がある。
 三十歳ほどの男。龍のアヌビスだ。尊大な顔に嘲笑をうかべている。
 その男をメリトは良く知っていた。
「賊に宝珠を奪われたそうだな」
 男――ジャウアド・ハッジの笑みがさらに深まった。
「どうしてそれを」
 メリトが愕然として眼を見開いた。
 ふふん、と。その様を面白そうに眺めたあと、ジャウアドは掌を開いた。宝珠がのっている。
「俺が取り戻した。オリジナル・サンドシップが起動するかどうかは俺にかかっている。それを忘れるなよ」
 ジャウアドの眼に炎が燃え上がった。それは欲望という名の昏く熱い炎であった。