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■オープニング本文 ● 朝日とともに、駿太郎は村の入り口に立った。旅立ちの日だ。 むかうところは神楽の都。そこで駿太郎は開拓者になるつもりであった。 駿太郎は振り向いた。じっと見つめる瞳がある。 瑞紀。駿太郎の許嫁だ。一年後、二人は結婚する約束をしていた。 「迎えに来る」 「うん。でも一年は長いわ」 「長くないさ。これから二人で愛し合う日々に比べたら一瞬だ」 「そうね」 不安そうであった瑞紀の顔に微笑がもどった。駿太郎もまた微笑をうかべると、 「きっと迎えにくる。約束だ」 「うん。約束、ね」 指をからめせる代わりに、二人は口づけをかわした。 ● 日は傾き始めていた。 逢魔が時。そう呼ぶ人も入る。 「美しい」 銀鈴のような声がした。 「瑞紀と申します」 村の老人がこたえた。声を耳にしたのだ。 老人は春のz光のような眼差しを娘――瑞紀にむけた。 大きな黒瞳。蕾のような唇。まさに青春の美の結晶のような娘であった。 鈴が鳴るように、再び声がした。 「楽しそうですね」 「もうすぐ駿太郎が戻ってまいりますからな。神楽の都から。瑞紀を迎えに来るのです」 「それで」 声の主の手が路傍の一輪の花にのばされた。摘み取る。 はっとして老人は振りかえった。すでに声の主の姿はない。 老人は我が耳を疑った。 面白い。確か、声はそういったのだ。喜ばしいではなく、面白い、と。 地に眼をむけ、老人は眉をひそめた。そこには―― へし折られた花が捨てられてあった。 ● 「どうしたんだ」 駿太郎は呻くような声を発した。 故郷の村からは七日に一度くらい、神楽の都に人がやってくる。荷を商うためなど、用件は様々だ。 駿太郎はその村人達に文を預けていた。無論、瑞紀に手渡してもらうためだ。が―― その村人の姿が、ない。 どれくらい前からだろうか。神楽の都を訪れる村人を見かけなくなったのだ。 その村人は瑞紀からの文も預かってきていた。村人の訪れが絶えたということは、瑞紀の様子も知れなくなってしまったということだった。 駿太郎は、ふと不安にかられた。 村の近くで山賊が出たという噂を聞いたことがある。もしやその山賊に村が襲われたのではあるまいか。そうであるなら村人が都にやってこなくなったのもわかる。 「瑞紀!」 我知らず駿太郎は叫んでいた。いてもたってもいられなかった。ともかくも瑞紀の安否を確かめなければ。 走り出しかけ、ぎくりとして駿太郎は足をとめた。 襲撃されたとして、もし山賊が村にとどまっていたなら―― 数人の山賊なら、志体をもつ駿太郎一人で何とかなる。が、山賊の中にも志体をもつ者がいたならどうなる? また山賊が人質をとったなら―― 「俺一人では無理かもしれぬ」 駿太郎は足を別の方向にむけた。村に続く道ではなく、開拓者ギルドへと。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
有栖川 那由多(ia0923)
23歳・男・陰
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
尾上 葵(ib0143)
22歳・男・騎
ルー(ib4431)
19歳・女・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 街道をゆく九つの馬があった。 乗っているのは九人の男女である。 一人はいうまでもなく駿太郎。残る八人は、駿太郎の依頼を受けた開拓者達であった。 「嫌な予感がする。急ごう」 誰にともなく声をかけた者がいる。 中肉の、それでいて巌のような体躯の若者。真っ直ぐな瞳をもっている。名を羅喉丸(ia0347)といった。 「嫌な予感、か」 手綱を手に、すっと眼を眇めたのは、どこかふてぶてしさを漂わせた若者であった。 守紗刄久郎(ia9521)という名のサムライであるのだが、この場合、彼はニヤリとした。駿太郎へのいたわりの思いは確かにある。が、それとは別に迫る来る危機を本能的に感得し、彼の胸は喜びに騒いでいたのであった。 「駿太郎君」 駿太郎の横に馬を進めたのは白銀の髪の若者であった。整った容貌には気品が満ちてはいるが、その黒曜石のような瞳には悪戯っ子じみた光がある。 若者はアルティア・L・ナイン(ia1273)と名乗ると、 「慈童寺という村には君の許嫁がいるんだったね」 「ああ」 視線を前にむけたまま駿太郎が肯いた。その横顔を見つめ、アルティアは溜息を零した。 許嫁の安否が知れぬのだ。平静を装ってはいるが、胸の中は千々に乱れているだろう。 アルティアは強いて笑みを顔に押し上げた。 「心配はいらない。僕達が力になる」 「無理せんでええ」 一人の若者が駿太郎の背を軽く叩いた。かなり上背があり、がっしりとした体躯の持ち主だ。が、その身体に比して、相貌は女と見紛うばかりに美しい。 「好きな女のことや。心配にならん方がおかしい」 尾上葵(ib0143)と名乗ると、若者は春の陽光に似た光をうかべた眼を駿太郎にむけた。 若者――葵は元々シノビであった。が、最後の任務を機に里とは決別している。その最後の任務とは幼子の命を奪うというものであった。 その任務を葵は放棄した。が、そのような真似を長が許すはずもない。故に葵は長と刺し違えた。幼子を守るために。 あの幼子が成長したら、どのような若者となるだろう。駿太郎のような愛にひたむきな若者となってくれたら嬉しいのだが。 駿太郎を見る葵の眼差しは、兄が弟を見守るそれと同じであった。 「でも、こういうときほど冷静にならなくちゃ」 駿太郎の前。燃えるような紅髪を翻らせた少女が振り返った。 名をリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)といい、人形のように可憐な相貌であるのだが、何故か落ち着いた物腰が垣間見える。 駿太郎はこたえた。 「わかっている」 「そう」 リーゼロッテはあっさりと視線を前に戻した。釘を刺しはしたものの、実のところ彼女はそれほど駿太郎の暴走を危惧してはいない。 それよりも―― リーゼロッテは馬の首をぺちぺちと叩いた。 「大切にしてあげるから死ぬんじゃないわよ」 馬は黙したままだ。もしかすると本能的に察していたのかもしれない。リーゼロッテが内に秘めた闇を。 不老不死。それこそが彼女の追い求めるものであった。 その事実は知らず。ただ傍らで馬を疾駆させる娘はリーゼロッテに薄ら寒いものを覚えた。 ルー(ib4431)。一角馬の神威人であるのだが、彼女は心に傷を負っていた。奴隷同然に蔑まれ、虐げられてきた彼女の心の傷は深い。 だからこそ、わかる。リーゼロッテの眼の奥にある氷の光が。 と、一人の男が問いを発した。冷然たる相貌の中で、よく光る切れ長の眼が印象的な若者だ。 「村のつくりはどうなっている?」 「五十戸ほどの家々が山間に点在している」 「点在、か」 若者――御凪祥(ia5285)はわずかな眉をひそめた。 点在となると、調べるに範囲が広くなる。必然的に数人に分かれての行動となるだろう。それは戦力の分散を意味する。 ちらりと祥は振りかえった。アルティアがニッと笑い返す。頼りにしているという意味だ。 祥は溜息を零した。アルティアの技量には不安はないが、それでも気が重いのは確かだ。 「二手に分かれて村に入ろう。俺はアル、ルー、有栖川那由多(ia0923)と組む」 「かまいませんよ」 こたえたのは派手ないでたちの若者だ。那由多である。 羅喉丸はわずかに胸をなでおろした。 ありていにいえば、彼は那由多のことがあまり好きではない。剛たる羅喉丸にとって、那由多のようなふざけた印象のある男は苦手であったのだ。 が、この後羅喉丸は知ることとなる。那由多の実力を。 とまれ―― 九騎は今まさに辿り着かんとしていた。黄昏迫る呪われた村に。 ● 「明かりはない」 ギルドで借りた遠眼鏡から眼をはずし、羅喉丸は呟いた。 村を見下ろす丘の上。開拓者の見下ろす村は薄闇の中に沈んでいた。 「おかしいわね」 リーゼロッテが小首を傾げた。 もし村が山賊に襲われたとしても、多少は生き残りの者がいるはずである。それなら一つくらい明かりがあってもおかしくはない。 「では村は全滅したということ?」 「浚われたという可能性もあるわ」 ルーがこたえた。 人を商品としか考えぬ外道が世には少なからずいる。そのような者達の手により、ルーは生涯消えぬ傷をその胸の奥に刻み込まれたのだ。 と、那由多が立ち上がった。その手には一枚の符が握られている。 「まずは」 ニヤリとすると、那由多は符を放った。それは空でたちまちハチドリに変じた。 「式に偵察させます」 「じゃあ私はこれね」 リーゼロッテもまた符を放った。呪的結界を解かれた符は呪文展開。符は鼠へと変じた。 ● 今は黒々と闇に溶けた小道を、さらに黒い人影が歩んでいた。 四つ。 那由多、アルティア、祥、ルーの四人であった。 いつもは泰然自若たる那由多やアルティアであるが。今は沈鬱に黙している。それは先ほど那由多が放った式の偵察結果によるものであった。 人影を求めて式は幾つもの家を巡った。ほとんどはもぬけの空。が、数件の家で式――那由多は恐るべきものを見出した。 骸。 身形からして村人であろう。子供もあれば、老人のものもあった。眠っているのではない証拠に、横たわる者達の胸は動いてはいなかった。 「慈童寺は‥‥何故こんなことに」 那由多の呟く声が途切れ、闇に飲まれて消えた。 こたえる代わりにアルティアは周囲を見回した。物陰に山賊が潜んでいないとも限らない。 と、那由多が足をとめた。一軒の家の前で。老人の骸が転がっていた家だ。 「待て」 戸に手をかけようとしたアルティアを祥がとめた。眼を眇める。同時に祥は練気を練った。経絡に沿って練気をはしらせ、額に集中。 「大丈夫だ。敵の気配はない」 祥が肯いた。アルティアが戸を開く。 「どこですか、老人の骸は?」 「こっちです」 那由多が奥にむかった。部屋に足を踏み入れ―― 呆然と立ちすくんだ。部屋には何もない。 ルーが部屋を覗いた。 「骸などないわね。家を間違えたんじゃない?」 「そんなはずは」 那由多が部屋を見渡した。そして、部屋の隅にかけてある着物の前で眼をとめた。 その柄には見覚えがある。いや、と那由多は首を振った。 「確かにこの部屋です。中央に老人の骸が横たわっていました」 アルティアは部屋を見回した。争った形跡はない。それでは山賊に襲われたのではないのか。 開拓者達は顔を見合わせた。急に闇の濃度が増したような気がする。 何の痕跡もなく滅びた村。消えた死体。 わけがわからない。頭がおかしくなりそうであった。 そそけ立つ胸をおさえつつ、四人の開拓者達は家を出た。別の骸のある家にむかうために数歩いきかけ、四人は足をとめた。すうと人影が現れたからだ。 老人。身形からすると村人のようである。 ふうと胸を撫で下ろし、ルーが足を踏み出した。と―― 「待ってください」 那由多が制した。 「彼は‥‥横たわっていた老人です」 「旅のお方かな」 老人が口を開いた。 「そうだ」 祥は肯いた。そして、あることに気づいた。 この老人、いやに犬歯が長くないか? ● 闇の落ちた道をゆく五つの影。 こちらは羅喉丸、刄久郎、葵、リーゼロッテ、そして駿太郎の五人だ。 「駿太郎はん」 葵が声をかけ、片目を瞑って見せた。 「むさ苦しいのが一緒やけど、あと少しの辛抱やから」 「誰がむさ苦しいだ、誰が」 刄久郎がむっとした顔つきをした。すると葵はニヤリとして、 「守紗のことに決まっとる。俺や羅喉丸は男前やからな」 「ぶっ殺す」 刄久郎が刀の柄に手をかけた。 と、ポカリポカリと葵と刄久郎の頭を拳が叩いた。リーゼロッテだ。 「いいかげんにしてよね。むさ苦しいのは二人とも。汗臭いったらありゃあしない。みんなが息を吸えるのはこの私のおかげなんだから」 リーゼロッテが胸をはってみせた。くすり、と駿太郎が笑う。それを見て、四人の開拓者達の口辺にも微笑がういた。 「ところで」 葵が笑みを消した。 「駿太郎はんは東房国の出身みたいやけど、泰拳士なんか?」 「ああ」 駿太郎が肯いた。 その時だ。闇の奥から歩み寄ってくる人影が見えた。 はっとして開拓者達は身構えた。この村の中で生きてある者などいないはずであったから。 と、駿太郎は上げていた両拳をおろした。人影に見覚えがあったからだ。 人影は十代半ばの少女であった。華やかな相貌は田舎娘という印象ではない。 駿太郎の眼に不審の光がゆれた。リーゼロッテの見た骸の一つがその少女であったからだ。が、少女は歩き、目の前にいる 「千鶴‥‥か?」 「駿太郎兄ちゃん?」 少女――千鶴の眼が大きく見開かれた。顔が輝く。 「帰ってきたの?」 「ああ。ところで、一体何があったんだ。どうして村の」 千鶴が駿太郎の胸に飛び込んだ。抱きつく。 「嬉しい。お兄ちゃん、帰ってきてくれたんだ」 頬をすりつけてから、千鶴が顔をあげた。見下ろし、駿太郎はぎくりとした。 見上げる千鶴の眼が赤光を放っている。まるで血の坩堝のように。 駿太郎の脳の片隅で警鐘が鳴り響いた。が、もはや身体を動かすことはかなわない。 「嬉しい」 千鶴の真っ赤な唇がすっと開いた。長大な犬歯が覗く。だから、と千鶴は続けた。 「血を吸わせて!」 ● 老人が跳んだ。獣のような身ごなし、そして迅さをもってルーに襲いかかる。閃く爪は呆然と立ちすくんだと見えたルーの首を切り裂き―― いや、空をうった。老人の瞬速の一撃を、それを凌ぐ迅さでルーはかわしてのけたのである。 のみならず、すでにルーは宝珠銃である皇帝をかまえている。銃口は老人の肩をとらえていた。 「私の名は光を意味する。速さで私に勝つことはできない」 動くな、とルーは命じた。 「問い質したいことがある」 しゃあ! 獣じみた唸り声をあげて老人が再びルーを襲った。 躊躇いは一瞬。ルーは引き金をひいた。 轟音が引き裂いたのは闇。老人の身体が仰け反った。 肩をおさえて老人がルーを睨みすえた。その様子に、ルーは違和感を覚えた。 確かに皇帝の威力は弱い。が、それにしても老人は平然としすぎてはいないか。 次の瞬間である。 ルーは――いや、那由多やアルティア、そして祥もまた愕然として眼を見開いた。 老人の足元にぽとりと落ちたものがある。小さな金属の塊。弾丸だ。 老人が手をおろした。傷口が塞がりかけていた。 「皇帝が‥‥効かない?」 ルーの口からひび割れたような声がもれた。アルティアの腰から二条の光芒が噴出する。剣を抜き払ったのだ。 「何なんですか、この老人は?」 「この老人だけじゃない」 祥の緊張をはらんだ声が響いた。彼の心眼は周囲を取り巻きつつある存在を感知している。 「羅喉丸さん達に知らせないと」 那由多が符を取り出した。 ● 牙の先端が駿太郎の首筋に潜り込む寸前、拳が千鶴の顔面にめり込んだ。瞬時にして間合いを詰めた羅喉丸の拳であった。 千鶴が吹き飛んだ。手加減しているとは泰拳士の一撃である。たまろうはずがない。 が―― ここでも那由多達同様、羅喉丸達も愕然とすることになる。 むくり、と千鶴が身を起こした。平然と立ち上がる。 「痛いじゃない、馬鹿。せっかくお兄ちゃんの血を吸おうと思ったのに」 千鶴が駿太郎に眼をむけた。その瞳は欲情に濡れ光っている。 千鶴が駿太郎にむかって足を踏み出した。そうと知っても駿太郎は身動きもならない。ただ混乱していた。 「何が起こったんだ。瑞紀は」 突如、咆哮が轟いた。はじかれたように千鶴が振り返る。刄久郎にむかって。 「俺は血の気が多い。たっぷりと吸えるぞ。こいよ」 刹那、千鶴が躍りかかった。毒蛇の襲撃のようであった。 「あらよっと」 刄久郎が縦一文字に刃を振り下ろした。星よりも眩い光がはねる。 千鶴が飛び退った。呻く声は、しかし刄久郎の口からあがった。 彼は千鶴を両断したと思ったのだ。が、千鶴の肩から股にかけて走る傷は浅い。 「俺の両断剣が効かない‥‥だと?」 「痛いっていってるでしょ、馬鹿」 千鶴が顔を顰めた。その時に至り、開拓者達は気づいた。周囲に幾つかの光点が見える。鬼火のようなそれは、眼だ。 と、葵はある事実に気づいた。空で那由多の式が舞っている。 「むこうでも何かあったようや。いくで」 葵が駿太郎を促した。 その瞬間、再び千鶴が襲った。闇を裂いて爪が疾る。 「させへん!」 葵のバトルアックスが千鶴の爪をはじいた。凄まじい衝撃に葵の手に痺れがはしる。オーラをまとっていなければ、はじかれていたのはこちらであったかもしれない。 「逃がさない」 再び襲撃しようと、しかし千鶴はさらに飛び退った。その頬が浅く切れ裂かれている。 「ふふ」 リーゼロッテは笑った。 「どう? 私のギロチンの刃の味は」 「おまえ」 千鶴の顔が憎悪でゆがんだ。 「よくもわたしの顔を」 「もっと切り裂いてあげるわ」 リーゼロッテの手から刃と変じた式がとんだ。 ● 「じゃっ」 「ぎぃ」 老人と女が跳んだ。一瞬にして間合いに飛び込んだのはアルティアである。 それは猛禽の羽ばたきに似て。アルティアが左右の刃で老人と女の爪をはじいた。 刹那だ。青白い光が闇に亀裂を刻んだ。それは紫電をまとわせた刃の一撃で。 老人が倒れた。身をよじり、もがいている。 「ほう」 祥の顔にわずかな表情がうかんだ。 「雷鳴剣は効くようだな。うん?」 祥が振り向いた。駆けてくる五つの人影が見える。羅喉丸達だ。 「退くぞ」 祥が叫んだ。 それからどれほど時が流れたか。 満身創痍の開拓者達は村外れまで辿り着いた。飛び乗るようにして馬に跨る。 「いくで、駿太郎はん」 葵が馬首を返した。しかし、と駿太郎は躊躇った。まだ瑞紀の安否が知れないからだ。 葵は一喝した。 「今は退くんや! 奴らに俺達の武器が効かない以上、どうしようもあらへん」 「僕達は約束した」 アルティアが駿太郎をまっすぐに見た。 「力になると。必ず僕達はここに戻ってくる」 「わかった」 駿太郎は馬の腹を蹴った。蹄の音は高く、そして遠く。 九つの騎影は呪われた村を後にした。 |