【負炎】瑞鳳隊
マスター名:御神楽
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/21 00:41



■オープニング本文

●おで娘
 畳敷きの大広間に、大勢の士分が詰めていた。
 老若男女、その姿は様々だが、帯刀はしておらず、また、成りの良い服を着込んでいる。屋敷か、ともすると殿中か。
「不可解ですな‥‥」
「はいっ、どう考えても変です」
 腕を組む初老の男性の前で、女志士が正座し、膝上に手を置いている。
 前のめりにずずいと膝を進める女性。そのおデコが、キラリと輝いた。眩しさのあまり、男は、つい顔を背ける。
「目がっ」
「ああも正面衝突を避け――」
「各々方、殿が参られました」
 敵の動きに関する説明を始めんとした彼女の言葉を遮るようにして、部屋に声が響く。急に慌しくなる大部屋。皆、服を直し、姿勢を正して殿――北面王芹内禅之正の到着を待つ。
「楽にしてくれ」
 芹内の言葉に、室内の空気はやや緩む。
「集まって頂いたのは他でも無い。理穴より届いた援軍要請の件だ。北面は、少数精鋭の援軍を以ってしてこの要請に応ずる事とする」
 室内にどよめきが上がった。
 援軍を出すとなれば、当然、軍役が申し渡される。それらは申し付けられた諸侯の全面持ち出しとなる。だが。さて、しかし、皆が注目しているのは別の問題だ。
「して、同部隊の将であるが‥‥」
 これだ。
 他国へ派遣される将ともなれば、重大な役目である。狭い国土に過剰な士族。故の、実力社会。実力優先の風潮は、彼等士分や貴族の元にも押し寄せている。皆、手柄を立てる機会を窺っているのだ。その機会を、逃すまいと。
「我こそは、と思う者は進み出よ」
 来た。その言葉に反応して、数名が顔をあげた、のだが。
「ただし。先だって申し付けておく。此度の戦、我が北面が派遣する戦力は少数である。従って、理穴国への義理を果たさんが為にも、派遣部隊は、常時最前線にて戦う事を命ずる」
 ぴたり、と動きが止まる。また、芹内王のクソ真面目さが働いた。少しは損得勘定と言うものを働かせて欲しい‥‥参列者の多くがそう嘆き、心中で溜息を吐いた。
 だが、しかし。
「殿! 是非、それがしにお申し付けをっ!」
 同時に、世の中には単純バカっていうのも、いるもので。
(しまった! 先を越された!)
 女性の声に続けて、慌てて数名が名乗り上げるが、一歩遅い。
 今の流れは、完全に、先の女志士に持っていかれた。芹内王は小さく頷き、立ち上がる。
「追って沙汰する。暫し待たれよ」


●求む
「緋赤紅(ひあか・くれない)、お初にお目にかかる。この度、殿より、瑞鳳隊局長の任を仰せつかりました」
「斉藤玄馬に御座います」
 先程のデコっぱち娘、紅の前で、豊かな髭を蓄えた老人がゆっくりと頭を下げた。戦目付だ。
「玄馬殿、私は若輩者故、何卒、ご指導の程を宜しく頼みます」
「この老体で役に立てる事が御座いますれば」
 歯抜けの笑顔を見せる玄馬。
 一通りの挨拶を済ませ、他の幹部数名も交え、彼等は陣割りについての検討を始めた。部隊は、志願した士分の中から実力のある者を中心に選抜して編成される。その他、一部には、芹内王からも出立が命じられている。総数は、およそ二百名。今後、どれだけ増えたとしても三百名が良いところだ。確かに、数は少ない。
「むー」
 唸る紅。
「ところで玄馬殿、少し考えたのですが」
「何で御座いましょう?」
「開拓者の力を借りては如何でしょう」
 幹部達が顔を上げ、ややざわつく。
「彼等は自由人故、隊に組み込んで行動するのは‥‥」
「然様、余計な混乱を招きませぬか?」
「いや、案外良いかもしれぬぞ?」
 皆が、それぞれに意見を口にする。
「彼等の実力を知っておけば、戦の場において協力し合う事は可能かと思うのですが‥‥」
 紅の言葉に、玄馬は小さく頷いた。
「実際に隊に組み込むかどうかは別として、彼等を知っておくのは良う御座いましょう。しかしながら‥‥中々、一筋縄では行かぬ相手ですぞ?」
 言っておいて、にやりと笑みを浮かべる。


●芝居
 どこかの修練場の中。
「普段、女の子って、皆してこんな服着てるの? 窮屈ねぇ‥‥」
 ぎこちなく、身体を動かす紅。
 どうにも居心地が悪そうだった。
「道場の看板、外して来ましたよ」
 男が抱える看板には、斉藤道場の文字。
「こんなもので御座ろうか」
「似合うておらぬなぁ」
「仕方が無かろう」
「うむ。やむを得ませぬ」
 男達が、ガヤガヤとざわつく。
 一見すると、木刀や丸太棒を手にした乱暴そうな町人たち、だが。
「‥‥何だかガラが良すぎる気が」
 彼等を見やって、紅は首を傾げる。
「もう少し、こう、髪をわしわしと」
「こ、こうで御座るか?」
「表情を厳つく! こう、グッと」
「むむむ!?」
「乱暴な言動で!」
「おうおう、てやんでえ!」
 ああでもない、こうでもないとワイワイガヤガヤ。多少はそれらしくなったところで、さてと大きく息を吸い込む紅。修練場出口の辺りで、叫ぶ。
「あーれー! 助けて〜!」
「うわぁ、ワザとらしい‥‥」
 身体をくねくねお尻をふりふり叫ぶ紅に、呆れる他の面々。
「ほら、アナタも早く!」
「や。これは申し訳御座いませぬ。では‥‥ゴホン‥‥やいやい、この娘と看板を返して欲しければ!」
 木刀を突きつけ、怒鳴る。
「返してほしければ! えっと‥‥」
「‥‥何でも良いから!」
「特上寿司を二十人前持ってきやがれえ!」
「なぬ」
 ぴょこんと動く、紅の触角。
「むむ、ごろつきどもめー」
「かんばんをかえせー」
 やる気無さげに踏み込むのは、数名の門人達。
「うるせー」
「やーらーれたー」
 ポカポカと殴られ、道場から叩き出される。
 叩き出されておいてから、門人達は服を砂利で叩き、汚している。
「‥‥」
 ちゃっちい芝居を脇で見ていた玄馬が、小さく溜息をついた。
 でもまぁ、多少ワザとらしい方が、周辺住民も大事に捉えたりはしないであろう――そう思いながら、彼は開拓者ギルドへと歩いて行く。開拓者の力を借りる為だ。


■参加者一覧
静月千歳(ia0048
22歳・女・陰
赤城 京也(ia0123
22歳・男・サ
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
侭廼(ia3033
21歳・男・サ
藤(ia5336
15歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ


■リプレイ本文

「ギャース!」
 往来に響く叫び。
「このクソ忙しい世情で、馬鹿ちーんな事件を起こすとは――」
 声の主は、四方山 連徳(ia1719)。
「お仕置きとかお仕置きとか、折檻が必要でござるよ!」
「彼等に聞こえたら困ります」
 しぃっと、唇に指を重ねる柚乃(ia0638)。
「それにしても、お寿司ですか」
「‥‥ごろつき共も情けないものですね」
 静月千歳(ia0048)と赤城 京也(ia0123)が、立て続けに呟いた。
「きっと、何か事情があるのですよ」
 道場の様子を遠目に眺め、水月(ia2566)は振り返る。そんな彼女の言葉に、首を傾げる柚乃。
「お腹が空いているのかしら?」
「とてもお腹が空いてて、つい‥‥とか」
「気が立って暴れて、つい? ‥‥変なの」
「それはともかくだ」
 そんな二人の会話に割って入って、藤(ia5336)は、真面目な顔で話題を切り替えた――ようにみせかけて。
「いくら何でも特上寿司は無いと思う」
 クールなツッコミ、というより疑問点。
 そんな会話をよそに、千鶴は斉藤へと向き直る。
「とりあえず、斉藤さま、道場の構造等についてお教え頂けますか? それから、人数や実力について、解る範囲で良いのでお願いします」
「間取りについては簡単な見取り図をお渡ししましょう。人数は、十五人程ではなかったかな?」
「二十人前を要求したにしては、少し少ないような‥‥」
「ふむ」
 眉の裏から覗く眼光が、千歳をじいっと見やった。
 完全に姿を確認できずとも、既に、寿司の要求からおおよその人数は検討をつけていた。
「うむ、済まぬの。それから、賊の腕の程については――」
「いやぁ、皆まで言わんでよろしいって」
 その陽気な声に、斉藤が眉を持ち上げた。
 八十神 蔵人(ia1422)は、普段通りのんびりとした笑顔を絶やさない。
「道場の皆さんがあっさり負けたっちゅーことは、相手に志体持ちがおるつー事でええですね?」
「ほほぉ?」
 話を聞く老人の眉が、ぐぐぐと持ち上がる。
「いや、その方が都合がええでっしゃろ」
「はて。どうですかのう?」
「え? 殺したらあかん、と‥‥あぁ、皆、賊のトドメは依頼主はんがやるそうや! 首はあかん、なるべく腕か脚で!」
 大仰な態度で、仲間に告げる。
「切り捨てるのもどうでしょう。峰打ちか、急所を外した方が良いでしょう」
 対する京也は、生真面目な表情を向け、口を真一文字に結ぶ。
 ごろつき共をどうするかはともかく、依頼の目的を一通り打ち合わせ、まずは四方山と菊池 志郎(ia5584)が行動を開始した。


●偵察
(初依頼‥‥油断せず臨まなければいけませんね)
 抜足で道場へと近付く志郎。残念ながら秘密の抜け道こそ無かったが、塀から道場側面へ至る死角は、先程の見取り図で確認済みだ。
(よしっ)
 口元を手拭で覆い、そっと床下に潜り込む。
 気配を悟られぬように、ゆっくりと、慎重に進む志郎。板張りの隙間に近付いて意識を集中すれば、賊たちの会話や様子が見てとれる。
「――拓者達の程度は――」
「いや、侮れぬやも――」
 断片的に聞こえてくる会話に、思わず首を傾げた。どうも、ゴロツキというにはお行儀がよ過ぎる‥‥志郎が考え込みかけた瞬間、かたんと音がした。
「ム?」
 道場内の空気が強張る。
「どうした?」
「いや、気配が‥‥」
 ごろつきの一人が木刀を傾け、志郎のすぐ傍を突いたその時、黒い何かが飛び出した。
「うわっ!」
「げっ」
「何じゃ、ごきかぶりではないか‥‥」
 四方山曰く、黒くてニクいあんちくしょう。
 人魂の術による偵察だ。ぶぶぶと飛び上がって、道場の様子をざっと眺めた――のだが。
「およ?」
 Gと繋がっていた視界が、ふと我に戻る。はたと気付いて、彼女は塀をよじ登った。塀の上から、そっと、道場までの距離を見る。およそ、40メートルに届くか届かぬか、と言ったところ。どうやら、効果範囲ギリギリの距離らしい。
 已む無く彼女は、再び人魂を呼び出した。


●前段
 道場の中には、正面入り口の左右に4人、中央6人、人質の傍に2人。看板は、床の間に。後は、正門から見える限り、正面入り口の前に2名、同じ空間と言える中庭に2名。解っている限りで計16人だ。
 あとは、裏口にも見張りがいると見積もった方が良いだろう。
 とはいえ、それとは別になされた二人の報告に、彼等は皆、怪訝そうに首を傾げた。
「‥‥なんだか、そんなに悪い人達には思えませんね」
 どうも、ごろつきにしてはお行儀が良いのだ。
 元々、道場連中を叩き出した、との前提がある。何か様子が変と思いつつ、余計に気を引き締めざるを得ない。
「で、どうするよ。正面から突撃ってのが世話ねえが」
 くっと一口引っ掛けて、侭廼(ia3033)は、酒の臭いを漂わす。
「人質の救出を考え、当初どおりの作戦で」
 志藤 久遠(ia0597)が続ける。
「私は、その、皆で仲良くお寿司を頂きたいです‥‥」
 わたわたと、身振り手振りを交え、それでいてしょんぼりと頭を垂れる水月。
「いいえ。特上寿司如きの為にこのような不埒な振る舞い、許してはなりません」
 キッパリと返す久遠。かくいう彼女の服装は、既に町娘のそれだった。
 水月と柚乃が寿司を持ち、久遠は人質や二人を心配してついてきた町娘、といった立ち位置だ。
「うん。では、私達は裏口に廻る」
 弓を手に立ち上がる藤。
「後は合図をお待ち下さい」
 続けて千歳が頭を下げて、彼等奇襲班は、裏口方面へと足を向けた。

「頼もーう!」
 柚乃の大声に、ごろつき達が振り返る。
 先頭を進むのは柚乃。たすき掛けに、手拭いを鉢巻に、寿司桶をぶら下げて、正面より堂々の登場だ。隣には久遠。そして水月は、久遠の後ろに隠れるようにしてそっと付いてきていた。
 中庭をうろついていた二人が、遠巻きに三人を眺める。
 入り口の二人が、寿司桶を眺めて顔を見合わせた。
「あの‥‥お寿司を持ってまいりました」
「あっ。お、おう。寿司は持ってきただろうな?」
「はい、これです‥‥」
 付近をどけて寿司を見せ、水月が、おどおどと一歩進み出る。
「よし。それをこっちに寄越――」
「待て! それ以上近付くな!」
 声を張り上げる久遠。がちがちに強張り、肩を怒らせて竹刀を握る様は、とても玄人には見えない。その姿は、無理をして武器を手にする町娘そのものであった。
 水月は、彼女が間に入った状態で、寿司を手にしたままごろつきを見上げる。
「ちゃんとお寿司を持ってきましたから、おデコさんと看板を返して下さい」
「何だとう?」
「で、でも、約束では、寿司をと‥‥」
 いたいけな少女三人を前にすると、流石に良心が痛む。が、ここは止むを得ない。心を鬼にして、食って掛かるごろつき二人。脅したり凄んだりして見せて、対する三人は、怯えたり怯んだりして見せつつ、交渉を退かない。
 そうして、互いが互いを化かそうとする傍ら、裏口では――

 壁からそっと顔を出し、藤は苦い顔をした。
 相手の様子をちらりと見やり、直ぐに顔を戻す。続けて様子を伺う志郎の隣で、藤は、ぼそりと呟いた。
「‥‥まずいな」
 この道場は、屋敷と道場が廊下によって隣接していた。しかもその裏口は、廊下の突き当たりにあるのだ。見張りが警戒すべき方角はかなり限定されている。誰が、壁をじっと見張るだろうか。
 意味無くこちらに背を向ける、という事態はありえないのだ。
「志郎さんに、背後から襲撃していただけると助かったのですが‥‥仕方ありません。表口で騒ぎが起こるのを待って、一気に突入するしかありませんね」
 小声で話す千歳に、藤が頷いた。


●後段
 再び表口。
 三人と二人の押し問答が続く最中、大きな人影が駆け寄った。武器は手にしていない。中庭のごろつき二人は、警戒は解かないまでも、押し留める事もない。
「お嬢さん、戻って下さい、お嬢さん!」
 八十神だ。彼もまた開拓者としての風は極力抑え、胴着に身を包んで門下生を装っている。
「いいえ、戻りません。人質になっている方を放ってはおけません」
 答える柚乃は、どっしりと落ち着いている。
「‥‥まさか中まで行くつもりだったのですか!?」
 竹刀を手放さぬまま、呆れた表情で、久遠も喰らい付く。
 二人に叱り付けられる柚乃だが、彼女も退く様子は見せない。たちまち口論に発展するや、演技の喧嘩というのに、水月が半分本気でおろおろする。ごろつき達を無視して徐々に激昂し、険悪になって行く空気。
 まるで笑い話のようなその流れ。
「お、おい。口喧嘩もそのくらいに‥‥」
 思わず間に割って入ろうとするごろつき。
「何と言われようと私は残ります」
 あくまで強情な柚乃の腕をがっと掴む八十神。
「お嬢さん、お友達が心配なのは解りますけど、危険ですからやめて下されい!」
「‥‥何?」
 その一言に、ごろつきがぴたりと動きを止めた。
 ピンと空気が張り詰められる。
「貴様ら何者だ!?」
 見張り二人が声を張り上げ、木刀を構える。
「何や!?」
 何事かと身構える八十神。彼が不思議がるのも無理は無い。
 相手が気付いたのは、友達云々の一言だ。これが実際の立て篭もり事件であればさして問題にならなかったであろうが、今回の一件はいわば狂言。実際に道場主の娘を巻き込んだ訳で無し、斉藤玄馬も控えていれば、その友達が来る訳が無いのだ。
「ぬかったわ!」
「こやつら、開拓者だ!」
 口々に叫ぶ見張りに、中庭の二人。
 だが――
「何事だ?」
 裏口の見張り二人が、気を散らした。一人が道場の中へ顔を出し、もう一人も道場の方角へと振り返る。
「今だ!」
 Gによる連絡を待つまでもなく、赤城が床を蹴る。
 弓を手に身を乗り出す藤が、矢を引き絞り、間髪入れずに放った。
「ぐあっ」
 油断した男の腕を、矢が貫く。
「――!?」
 表で騒ぎが起こった筈、との意識が抜けきらぬまま、もう一人の見張りは、慌てて廊下へ首を引っ込める。駆け寄る気配に丸太を振りかざすが、一手遅かった。
「ハッ」
 一瞬で懐へと潜り込む志郎。シノビの早駆を活かした素早い動きだ。
 男が気付いた時には、白鞘がその鳩尾へと叩き込まれていた。もろに一撃を喰らって、ぐらりと崩れる男。追いついた赤城が矢に射抜かれた男を弾き飛ばし、裏口より道場へと乱入する。
「いざ――!」
 同時に、表口の久遠が動いた。
 先の一件もあり、表口では完全な奇襲とならなかったが、虚を突くくらいの意味はあった。町娘と侮っていた久遠から突きをくらい、慌てて一歩飛び退くごろつき。八十神は、踵を返して砂利の中を駆けた。
 待機する門下生達に預けてしまった為、自分の手には今、得物が無いのだ。
「行かせるか!」
 丸太を手に立ちはだかるごろつき。
「蔵人! 真直ぐ突っ切れ!」
 そんな二人の背目掛け、怒号と共に、侭廼が切りかかった。木刀の一撃が、一人の背をしたたかに打ち据える。振り返ったもう一人との木刀同士での鍔迫り合い。その脇をすり抜けて、八十神は一直線に駆け抜けた。
 とはいえ、侭廼も今一人を相手にしている。
 久遠達三人を援護する余裕は無い。
「であぁぁぁ!」
 男が振り下ろした木刀を、辛うじて竹刀に受け止める久遠。防盾術によって防御能力を増してはいれど、竹刀では、流石に厳しい。
「久遠さんっ」
 水月が舞った。神楽舞「速」によって久遠の身体が軽くなる。相手の第二撃を紙一重で避け、胴へ一打。続けて柚乃が放った力の歪みに、ごろつきが崩れ落ちた。

 先頭で突入した赤城は、駆け寄るごろつき共を片っ端から叩き伏せる。
 表口で開拓者と悟られる失敗はあったが、それが返って、表への注意を引き寄せたのだろう。裏口からの奇襲に、彼等の対応は後手に廻った。
「くっ、迂闊だった!」
 人質たる緋赤の隣に控えていた男が、振り返る。
 先頭、赤城よりの一撃を木刀で受け止めた。数度の激突。更には、呪縛符にも一度抵抗、無効化してみせるその様子に、千歳の表情が曇った。
「ただのごろつきとは思えませんね」
 再度の呪縛符にからめとられ、赤城の峰打ちにふらつく男。
(強い‥‥!)
 そして、それは他の者も同様だ。
「我が矢は鬼出電入が如く――」
 即射を利用しての連射。まさしく、文字通り矢継ぎ早に矢を放つ藤。対するごろつき共も、一撃で討たれるようではなく、切り払ったり、あるいは身体に矢を受けながら尚も得物を振るう。
 術士と見たのだろう、一気果敢に殴り掛かる。
「そうは簡単に行かぬでござる!」
 四方山の掲げる盾へ叩き込まれる丸太棒。棒が、勢い余って彼女の額を打った。
「あっ‥‥」
「‥‥」
 やりすぎた、とでも言いたげに木刀を持ち上げるごろつき。
「ふむ、ふむ。拙者の呪殺符曰く」
 盾をゆっくり降ろす四方山。笑顔の只中に、真赤な血が滝のように流れる。その血を軽く指でいなして、にっこりと微笑んだ。
「お主が欲しいそうでござるよー」
 吸心符と共に響く男の悲鳴。
「人質を、早く!」
 男達の只中に突っ込んで暴れまわる赤城。
「ぐっ!?」
 肩に木刀を受け、ぐらりと揺れる視界。
 奇襲効果もあり、当初は混乱していた敵も、徐々に状況を把握し、体勢を立て直す。何より、峰打ちの一撃では倒れぬ者も多い、志体だ。確実に。2、3人であれば何とかなるが、7、8人ともなれば対処しきれない。今、道場内の前衛は彼一人なのだ。志郎には、別の任務がある。
「こちらへ!」
 素早く駆け寄って、緋赤を抱き上げる志郎。
 彼を囲む千歳と四方山。藤が即射による牽制を掛け、その中を赤城が退がった。武器を手に彼等を取り囲むごろつき達。数を任せに、一斉に跳び掛からんと得物を振り上げる。
「それまで!」
 その瞬間、老人のしわがれた声が響いた。


●始末
「止めに入らんかったら、脚や腕の一本はばっさりやったったんやけどなぁ」
「それは‥‥勘弁願いたいな」
 八十神の言葉に、志士が苦笑を浮かべる。
「さて、説明願えますか?」
「それは私から‥‥」
 千歳の言葉に、緋赤が応じる。
 縄でぐるぐる巻きにされたまま、ひととおりの謝罪を述べた後、事のいきさつを掻い摘んで話した。
「‥‥という訳なの。だから彼等は半分近くが志体――ってちょっと! やめてよ!」
 話してる間、そのおデコをぺちぺちと叩いていた柚乃に噛み付きそうな勢いで、緋赤が吼えた。
「ついつい」
 と言いつつも手を止めぬ柚乃。
「あの‥‥やっぱり、特上寿司は無いと思う」
 呟く藤。
「して、私たちの評価はどうでしたか?」
 どうしても気になるのか、迷った挙句に告げた彼女の隣、赤城が一歩、前へ進み出た。斉藤が、こくりと頷く。人質を奪還したした時点で勝敗は決している。詰めの甘さを感じた、とは付け加えつつも、個々人の技量には申し分無し。
「それに北面の志士は、どうも生真面目すぎる」
 おデコ芋虫が、柚乃のぺちぺちを振り払う。
 歯以上におデコを輝かせながら、にぱっと笑った。
「地力は引けを取らないと思うけど‥‥実戦経験は絶対に貴方達が上、ね♪」