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■開拓者活動絵巻 |
■オープニング本文 木々を薙ぎ倒して巨体が進む。 アヤカシだ。 そのアヤカシは、どちらかと言えば人型に近い。いわゆる鬼であり、身体には鎧を纏い、刃の欠けた野太刀を手にのしのしと進む。 「‥‥」 そのアヤカシを、少し離れて見つめる者が居る。 男は木々の中に潜みながら、素早い身のこなしで木々を渡る。そうして鬼の後を追跡してたが、その進路がいずこか、大方の見当が付いたのだろう。静かに、しかし素早くその場を後にした。 ●鬼狩り 「ふむ‥‥」 湯漬けをがちゃがちゃを掻き込んでいた男が、ふと箸を止めた。 背後に現れた男からの報告に耳を傾け、首をもたげる。彼は再び湯漬けを掻き込むと、ドンと立ち上がって部屋を出る。 廊下を歩いていくと、脇に一人の志士が控えている。 「報告は確かだろうな。鬼の種別も間違いないか」 「ハ、シノビによるものでありますれば、おそらく」 「うむ」 男は苦々しく歯をかみ締め、腕を組んだ。 廊下を進みつつ、小さな声で言葉をかわしている。 「手持ちの戦力は」 先頭を進む男が、障子を開いた。 「盗賊の討伐へ出発した直後に御座います故、残っておりませぬ。しかし、各地の駐屯地から引き抜けば揃えられようかと存じます」 「‥‥いや、各地の防備を疎かにする訳には行くまい」 上座に座り、下座につくよう、相手に促す。 男は腕を組んだままじっと考え、ややして、よしと顔を上げた。 「開拓者を使え。八人だ」 「‥‥多くございませぬか?」 「いや。馬頭鬼は大物だ。多少の頭も廻るし、武装もしておるという事は、既に犠牲になった者が居るという事だ。なれば、駆け出しの開拓者であれば、手も足も出ずになぶり殺しだろう。数人掛りで確実にしとめた方が良い」 「これは。失礼を致しました」 小さく、相手が頭を下げるのを見て、男は制した。 「構わぬ。とにかく、ただちにギルドへ連絡をいたせ。腕利きを八人。すぐに集めろと」 「御意」 再び頭を下げ、相手は廊下へと退出して行く。 それを見送り、男は、袖に通して腕組んだ。魔の森は徐々にその範囲を広げている。近年はこの北面でも領域を拡大しており、こうして時折、長距離を移動するアヤカシも現れる。 小鬼の2,3匹であれば自警団レベルでもどうにかなるであろうが、馬頭鬼というような強力な鬼を相手にすれば、苦戦は必至であり、犠牲者が出るのも免れぬ。危険の芽は早めに摘むに限る。他のアヤカシと合流したり、あるいは実際に村落を襲撃する前に始末してしまうのが最善であろう。 (開拓者八人‥‥これだけ揃えば、おそらく大丈夫とは思うが‥‥) 目を閉じ、男は煙管を取り出した。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
静月千歳(ia0048)
22歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
巳斗(ia0966)
14歳・男・志
ミル ユーリア(ia1088)
17歳・女・泰
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●人事 「シノビさんとは接触できないか〜」 やれやれといった風に、ミル ユーリア(ia1088)は肩をすくめた。 「仕方が御座いませんわ。幸い、そちらの方がご案内して下さるようですから」 静月千歳(ia0048)の言葉に、志士が頷く。 「なるほどネ」 「あ、道中に村等はございませんか?」 梢・飛鈴(ia0034)の相槌に続き、巳斗(ia0966)が切り出す。 「ここから東へ二時間程歩いた先に」 「少し遠いですね‥‥」 「時間、あんま掛けてらんないよ?」 急ぐべきではと顔を向けるユーリア。 時間が経てば経つほど、頭馬鬼が移動する可能性は高くなってしまう。それも、見つけてからの移動であれば追跡も出来るが、数時間の寄り道では、発見する前に移動されてしまうかもしれない。 「ふむ‥‥まずは、現地まで移動したほうが良いか」 羅喉丸(ia0347)が腕を組み、頷く。 特に反論は無い。彼等は、急いで現地へと向かった。 天目 飛鳥(ia1211)がばさりと紙を広げる。 「この方角で間違い無いな」 地図に記された頭馬鬼の発見箇所。 「‥‥」 理知的な視線を滑らせる志藤 久遠(ia0597)。彼女は広がる森の中に境目を探していた。森の中にある程度開けた空間があれば、それは遠めに見ても解る。山の裾野ともなれば尚更だ。 「あそこが良さそうですね」 ぴたりと、一点で眼を止める。 指差した方角には、確かに森の境界線とでも呼ぶべき隙間があった。 「よし、了解だ」 借り受けてきた農耕具等を担ぎ上げる風雅 哲心(ia0135)や天目 飛鳥(ia1211)達。 一方の静月は手ぶらで身軽な格好をしている。準備してきた道具も、殆ど男性陣に持たせている。こういうのは男の仕事、とは彼女の心中であるが、幸い、男性陣からの抗議は無いようだ。 彼等は森の中を歩く間にも森の様子を見定めつつ、先程定めた方角へと足を進めた。 森の中ともなれば空は狭まり、昼間でもにわかに暗くなる。 「どう思う」 天目に問われて、羅喉丸は辺りを見回した。 それでもここは、ある程度空の広がっている空間だ。 「俺はここで良いと思う」 「少なくとも、戦うのに不自由はしないと思いますわ」 頷く静月。 事実、周囲には背の高い草むら等もあり、隠れるのに別段の苦労は無い。どこから来るか解らぬ敵を待ち伏せる訳ではない以上、これで十分だろう。 「時間が惜しい。急ぐか」 荷物を降ろし、鍬を手にする風雅。 「それじゃ、あたしは馬頭鬼を探してくるアルネ」 「あぁ、待って下さい」 パッと駆け出そうとした梢を、静月が呼び止める。 ひょいと振り向く梢の前に差し出される、短な縄。 「これを、真上の枝に、目立たない様に結んでおきますね」 「了解アル!」 笑顔と共に応じて、梢は森の中へと駆け込んで行った。 「では、ボクとミアさんは見張りに廻ります。異変があればすぐ知らせるようにしますので」 続いて身支度を整える巳斗。 一人になって、森の中へと入っていく。迫る木々に、圧迫感を覚えて、彼は一瞬、不安げに眉を寄せた。 「どうかした?」 「え?」 気が付くと、不思議そうな顔をしてユーリアが顔を覗き込んでいる。 「あ、いえ、すいません‥‥」 「まぁ元気良くいこーよ。ちょーっと厄介な相手みたいだけどね!」 笑顔を浮かべ、行く先を分かつユーリア。 「じゃ、私はこっち行くから」 地に張る根を軽い身のこなしでかわしつつ、彼女はあっという間に森の中へと消えていく。 「うん。そうだ。元気良く‥‥」 呟き、彼は首を振るって足を進める。 (大丈夫。もう迷いはしません‥‥しっかりしないと、です) もう一度心の中で呟き、よしと口元を結ぶ巳斗。 彼は木々の合間に草を掻き分け、罠設置班から離れた場所へと待機した。 「こんなところでしょうか」 出来上がりを確かめに、布を大きく広げる静月。 静月と志藤は四角形をした布に縄と石を括りつけており、その隣では、風雅と天目は地に鍬を振るっている。 「まさか、ここにきてこんな大物と戦えるとはな。気合い入れていくか」 鍬を手に穴を掘る風雅の言葉に、天目が頷く。 「あぁ。奴の所業に相応しい末路を迎えさせてやろう」 掘る穴は浅く狭く。元々、大きな馬頭鬼の身体全てを埋めてしまえるような大きな罠を作る暇は無い。罠はあくまで、足元を乱す為のもの。転倒しやすい作りでなければならない。 そうして掘り返された土を、羅喉丸が掻き分け、辺りへと散らしていく。 土を何処かへ消し去る事は出来ない。そこで彼は、そうして散らした土の上に周囲の落ち葉や小枝等をばら撒き、十分に覆い隠す。 おそらく、注意力が散漫な状態であれば、すぐには気付かれないだろう。 「人事を尽くして天命を待つか」 準備は万端。あとは、馬頭鬼を、自分達の作ったこの戦場へと誘き寄せるだけだ。 ●天命 木々の合間から、ちらりと眼を出す影。 梢だ。 彼女は細心の注意を払い、物陰から馬頭鬼へと視線を向けていた。 「寝ている‥‥という訳じゃ無さそーアルネ」 おそらくは、体力等を回復させているのだろう。馬頭鬼は動かないが、時折周囲を警戒しており、眠っているとは思えない。もっとも、アヤカシは一般的に言って、睡眠を必要としないのだが。 甲高い音が、辺りに響いた。 馬頭鬼と梢は、ほぼ同時に耳を立てた。聞き覚えがある、呼笛の音だった。 「よし、気合入れて行くアル!」 ぱちんと拳を打ちつけて、彼女は顔を上げた。 がさり。 草むらを掻き分けて木の裏から躍り出る梢。 その明らかな動きに、馬頭鬼がぎょろりとまなこを向ける。じりと後ずさる梢に、ぐぐと上体を持ち上げる馬頭鬼。馬頭鬼は、餌を見つけたとでも言わんばかりに牙を剥き出すと、地を震わせ、飛び上がった。 猛烈な勢いで突進する馬頭鬼。 (――来た!) だが、そこは身軽な泰拳士。 その動きを認めるや、直ちに踵を返して地を蹴った。前屈みの姿勢で、軽快に木々の合間を抜けていく。 「文字通り、鬼さんこちらって奴アルな」 口元て小さく、笑いを噛み殺す。 だが、余り引き離し過ぎては、と後方へ視線を向けて、彼女は眼を丸くした。 馬頭鬼は、人間であれば避けて走るような枝の類を薙ぎ払いながら突き進んで来ていた。障害物があろうと、殆ど速度が落ちない。 「鬼ごっこにしては少々命がけアルな‥‥」 ばら肉にされるのはゴメンだとばかり、彼女は駆ける速度を上げた。 「‥‥?」 木々を薙ぎ倒して突進すれば、盛大な破砕音が辺りへと撒き散らされる。 巳斗は、その音に気付いて表情を強張らせた。 「来ましたっ」 後方に位置する仲間達へ聞こえる最低限の声を発してから、彼は素早く草むらの中へと飛び込んだ。 「来たわねぇ‥‥」 遠目に森の奥を見やるミーリア。 「他人から奪った刀を振り回すような輩だ。遠慮はいらんぞ」 「でなくったって、当然ねっ」 刀をスラリと抜いて、天目はミーリアの前へ立つ。視界の中に、梢の赤い服が踊った。その後ろを追って、馬頭鬼が一直線にこちらへ向かってくる。 (目印の縄‥‥見つけたアル!) 走る梢が、地を蹴って飛んだ。 馬頭鬼の手にする野太刀が枝を払う。突き進んでくる馬頭鬼目掛け、ミーリアの放った矢が飛んだ。手にしているのは旧式の弩、機械弓だ。 全力で突っ込んできた馬頭鬼には、避ける余裕が無かったのだろう。一直線に迫る馬頭鬼の肩に、放たれた矢が食い込む。 「ありゃ? 脚狙ったのに」 馬頭鬼が唸り声を上げた。 怒りに染まった唸り声だった。おそらく、待ち伏せされていた事までは理解しただろうが、それ以上どう考えたのかは解らない。彼らには知る由も無い。 飛び上がって落とし穴を越えた梢は、着地し、土煙を巻き上げて振り返る。 「‥‥」 天目が、奥歯をかみ締め、刀を握り締めてぐっと腰を落とす。 唸り声と共に、大きく一歩を踏み込む馬頭鬼。 ばきり。 直後、馬頭鬼の脚が地を踏み抜いた。 がくりと平衡を崩し、前のめりに身をあけだす。直後、その巨体が落ち葉や小枝の散らされた地にどうと突っ込んだ。 「今だ!」 羅喉丸が声を上げる。 囮として待ち構えていた開拓者達と、伏兵として隠れ潜んでいた開拓者達、その両者が一斉に、目頭鬼目掛けて殺到する。 「であああっ!」 最初に、天目が踏み込んだ。 彼の手にした珠刀「阿見」が炎を纏う。狙うは、野太刀を握るその腕。 渾身の気合を込めての、炎魂縛武の一撃が馬頭鬼が腕へと飲み込まれる。吹き上がる血飛沫。天目の掌には、ずっしりとした手応えがあった。だが、骨を断った感覚は無い。 「ならッ、もう一撃――」 「飛鳥さん、危ない!」 巳斗の声と共に、矢が飛んだ。 ハッとして飛びのく天目。 巳斗の矢に腕を射抜かれながら、馬頭鬼の腕は間延びした音と共に空を掻いた。あと一歩飛び退くのに遅れていれば、天目は身体を打たれる所だった。 「すまない!」 奥歯をかみ締める天目。 巳斗は言葉を返さなかった。一杯になった不安で今にも押し潰されそうになっていて、彼は精一杯だった。 (罠に頼りすぎる訳には参りませんが‥‥) 同時に、静月と志藤が錐付きの布を投げた。倒れ込んだ馬頭鬼目掛けて投げられた布は、錐の重みによってぐい広げられ、その馬同然の頭へと向かう。 振るわれる馬頭鬼の腕が一枚を振り払うが、もう一枚が頭へと覆いかぶさる。そして、馬頭鬼が手を伸ばすよりも早く、落とし穴へと舞い戻った梢が、その馬面目掛けて外套を投げ出した。 「一気に畳み掛けるアル!」 「おう!」 被さる外套。次々と視界を覆う布に、馬頭鬼がもがく。 「相手にとって不足はねぇ、やってやるぜ」 その隙を逃すまじと、風雅が一足飛びに駆け寄る。ちょうど脚と尻を向けて倒れている馬頭鬼に駆け寄って、彼は全力で刀を振り下ろした。 鋭い音を立てて飛ぶ刀が、馬頭鬼の脚を薙ぐ。 「ハッ!」 続けて飛ぶ、羅喉丸の槍。 穂先が一直線に飛んで、その脚へと突き立てられる。 そうして、再び我武者羅に振るわれた腕を、風雅と羅喉丸は素早くかわす。彼ら開拓者は無傷だ。だが、対する馬頭鬼もまた、一連の攻撃を受けてなお衰えた様子が無かった。 「流石に、体力はあるようですね」 静月がその細指で符を掲げるや、符はたちまち白蛇へとその姿を変え、馬頭鬼へと飛び掛る。白蛇として生み出された呪縛符が、前後不覚のままにある馬頭鬼の手足へと絡みつき、その動きを阻害する。 「真っ向から体力勝負など。端から、する心算はありません」 二段、三段に構えられた作戦が、これでもかと言わんばかりに馬頭鬼を抑え込みに掛かっていく。 「まともに正対する必要なんて‥‥ありませんからね」 志藤が太刀を掲げて馬頭鬼へと振り下ろす。 彼らの攻撃には、自然と流れが生まれていた。先程、同時に飛び退いた風雅と羅喉丸、その入れ替わりに、志藤と天目が馬頭鬼へと斬りかかるのだ。 「こいつ、どんだけ頑丈なのよっ」 弦が、空気を振るわせる。 前衛による波状攻撃の合間、彼らの隙を埋めるようにして、巳斗とユーリアは矢を放つ。おそらくこの馬頭鬼、普通の馬頭鬼と比べても大型なのであろう。並の鬼であれば瀕死の筈だ。 「大人しく馬刺しにでもなるアル!」 蹴り上げられた落ち葉が、ふわりと舞い上がる。 背後へと詰め寄る梢。骨法起承拳。背中、鎧の隙間目掛けて貫くように拳を叩き込んだ。 「‥‥埒があかないネ!」 一撃、拳を叩き込めば解る。 狙いは正確だった。しっかりと腰を据えて拳を放った。なのに手応えが無い。肉厚な身体に阻まれて、身体の『芯』まで衝撃が届かないのだ。 「諦めるな! 奴とて無傷じゃない!」 羅喉丸はなおも諦めず、自身の槍によってその背を狙うが、彼の穂先が敵の身体に達する瞬間、馬頭鬼は地を踏みしめて起き上がった。 「ちいっ!」 「何て野郎だ」 荒々しく吐き捨てる天目。 「ですが」 志藤は太刀を掲げ、馬頭鬼の側面へ回り込まんとする。 「ここで逃げる訳には――」 その時、地響きのような咆哮が、馬頭鬼より響き渡った。 起き上がり、野太刀を振り上げる頭馬鬼。その頭へと絡みつく布地の隙間から、禍々しい瞳が覗き、志藤を睨みつけていた。まるで、今まで一方的に攻撃され続けてきた恨みの全てを、志藤へと向けているかのようだった。 能動的に払い除ける事無く布が外れかかったのは、おそらく偶然か。 だが、偶然であるか否か等、今はどうでも良い。 馬頭鬼の眼の奥には、明らかな殺意が宿されている。 「退がるんだ!」 羅喉丸が叫ぶ。 「くっ」 悪寒が、背筋を撫でる。 とっさに身を退けんとした志藤目掛け、長大な野太刀が振るわれた。 地を蹴って下がった彼女の肩へ、野太刀が食い込む。骨がみしりと悲鳴を上げる。勢いに押されて姿勢が崩れる。それでも彼女は、自身の脚で辛うじて踏ん張った。自分に、呻き声ひとつあげるを許さなかった。 罠に頼り過ぎまいと己を戒めていたのだ。油断は無かったが、しかし、馬頭鬼の一閃は想像以上に鋭くもあった。 「‥‥」 第二撃を加えんと刀を振り上げる馬頭鬼。もう一撃、それも体勢を崩した今、先の一撃を喰らえばタダでは済まない。 他の開拓者達もそうはさせじと動くが、馬頭鬼の方が一手早かった。 (これも使命か‥‥) 一種の覚悟すら頭へ浮かぶ。 そして次の瞬間――馬頭鬼の悲鳴が、森を震わせた。 「仲間を‥‥やらせはしないっ」 空を切る微かな音と共に馬頭鬼の眼をに突き立てられた矢。茂みの中から身を乗り出した巳斗の掌で、弦と共にロングボウが震えている。炎魂縛武と共に放たれし矢の一閃が、馬頭鬼の眼球を抉ったのだ。 ぐらりと傾いた馬頭鬼がその巨体を震わせ、駆け出した。倒れ込むような勢いそのままに、ユーリア目掛けて突進する。 「んなっ!」 驚きと共に身を翻すユーリア。 脚を負傷してなお、これだけの脚力があるのか。 馬頭鬼は尚も突進し、体当たりを避けたユーリアの眼前を突っ切り、その勢いを殺さぬまま掛けて行く。 素早く弩を構え、馬頭鬼の背目掛けて矢を飛ばす。ユーリアの放った矢は馬頭鬼の背へと突き刺さるが、それにも構わず、馬頭鬼は一直線に森の中へと駆け込んでいった。 静に眼を伏せる静月。 「‥‥逃げられましたわね」 「すまない」 肩を押さえて立ち上がる志藤。袴には鮮血がじっとりと染み出しているものの、持って行かれたのは肉だけだ。 「いや。俺だって、一撃で腕を断てなかった」 刃を鞘へと収める天目。 開拓者達は、馬頭鬼が逃げて行った方角へと顔を向けた。 作戦自体は上手く行った。事実、手傷を負ったのは志藤だけで、命に関わる程ではない。問題は、その作戦を生かす為の攻撃が不足していた。いずれにせよ、あれだけの手傷を負った以上、アヤカシとて暫くは行動を再開できまい。再戦を期して、彼等は一旦、志士への報告へ戻っていった。 |