【初夢】MG偽典 悪党
マスター名:松原祥一
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/19 22:02



■オープニング本文

※注意
 このシナリオはIF世界を舞台とした初夢シナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。

※注意2
 このシナリオはフィクションです。現実の人物とはまったく、完全に、これっぽっちも無関係ですのでご了承ください。


 とかくこの世は住み難い
 正直者の善人が損をして
 大嘘吐きの悪党が高笑い
 勧善懲悪はお伽噺かフィクションか
 間違いだらけの世間様なら
 あの野郎、○○○いいのに


 201X年 地球、日本、都内某所。
 新年を迎えたばかりで、TVを付ければデモやら経済危機やら不景気なニュースが踊っている。
「今年もあまり、いい年にはならないね」
 そんな事を呟きながら、へらへらと嗤うペテン師。
「門松は冥土の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし by一休さん」
「ナニソレ?」
「だから一休禅師の御言葉ですって。知らない? 長くマスターなんてやってる割には、雑学に疎い方ですねえ」
 久しぶりに鳴った携帯を取ると、シナリオの件だった。新年のご挨拶のついで、らしい。暇なのだろうか。
「それで、年も改まった事ですし、1、2本どうですか」
「出せない事は無いんですけど」
 どの口が出せない事は無い、等と言うのであろうか。この男、半年以上、新しいOPを出していない。
「何か問題でも?」
「最近、あまり盛り上がって無いじゃないですか。ゲームが面白くないっていうか、何かシナリオを出そうって気が起きないんですよぅ」
「ははは、冗談きついですねぇ」
「冗談じゃないでしょ」
 絶句した相手は早々に話を切り上げて電話を切った。男は携帯を床に投げ出して、布団に潜り込んだ。


 都内、薄暗い室内。
「頼み人の名は言えないが、信用してくれていい」
 仲介人は淡々とした口調で、今回のターゲットの情報を画面に映し出した。
「殺る相手は、松原祥一。メイルゲームのマスターだ」
 室内には仲介人の他に、数名の男女が居た。彼らは裏稼業の住人。表の職業を持ちながら、金で人殺しを請け負う現代の暗殺者だった。
「度重なる遅刻、独りよがりなシナリオ、劣悪なマスタリングと彼の悪行は数知れない、生かしておいて世の為にならない男です」
「‥‥言ってる意味が良く分からない」
 闇の商売にもルールがある。
 殺人という極刑に値する悪行を生業とする彼らに正義は存在しない。しかし、外道に堕ちた己を戒めるように掟や仁義はあるのだ。納得出来ない仕事は引き受けない。
「オレは受けるぜ。生きてちゃいけねえ男のようだ」
「私も」
 何名かが進み出て、テーブルの上の依頼料を掴み取る。
 暗殺者と言っても、武器が銃や刀剣とは限らない。現代日本においてそのような得物を持ち歩く事には無理がある。彼らの多くは何気ない日常品や、とても殺人に関係するとは思えないアイテムを得物としていた。
「よろしくお頼み申します」
 松原は築30年の古いアパートの二階に住んでいる。アラフォー独身。

 今宵も誰かが冥土に旅立つ。



 フィクションです。モデルなんて居ませんから。


■参加者一覧
/ ペケ(ia5365) / からす(ia6525) / 无(ib1198) / エルレーン(ib7455) / 赤塚 豪(ib8050) / ラグナ・グラウシード(ib8459


■リプレイ本文

 ぽた、ぽた、ぽた――――

「うー‥‥」
 動悸が激しいのは、走って来たから。頬を伝う汗を拭う間も惜しんで、ビルの階段を駆け上るのは小柄な、一人の少女。
「おっとっ‥‥?」
 衝突しかけた宅配業者のドライバーは、疾風のように身体をすり抜けたのが、小学生くらいの娘と気づいて面食らう。
「私としたことが」
 獣のように跳躍しながら、髪を束ねる真っ赤なリボンを解く。長い髪が空に流れた、彼女の通り名を思わせる艶やかな漆黒。黒い鳥獣がふわりと踊り場に着地した時、エレベータの扉が開いた。
「相手は一般人なんだろー、楽な仕事だぜ」
「お前な。そういう台詞は、終わった後に――ぐふっ」
 清掃員姿で魔女っ子モノのお面をかぶった四人組の側面に、濡れ羽色の獣は立っていた。まるでコマ落としの映像だ、気づけばそこに在る。
 三人が動いたのは、ピンクのお面がリボンで絞殺された後。
「や、野郎っ!!」
 黄色のお面が脇の下から拳銃を抜き放つ。気配も無く接近された動揺は隠せないが、正確な早撃ち。肩を撃たれて小さな体が撥ねる。
 カッ
 追い掛けようとした緑のお面の足元で手榴弾がはじける。刹那、色を失った世界でゴーグルを掛けた影が交差する。
「スタングレネードだとぉっ、何者だコラ!?」
 オレンジのお面が仲間の背中を押すと、胴から落ちた緑のお面が床を転がる。四人の暗殺者を翻弄する襲撃者、首筋を掠める長い黒髪に、オレンジは噂話を思い出す。
「からす!」
「え、そんな馬鹿な。奴は20年も前に引退したはず‥‥!?」

「――間に会いました」
「残念。一分遅刻ですから、烏丸さん」
 汗だくで駆け込んで来たからすは、憮然とした髭面の店長と目が合う。にこやかな笑顔で店長に携帯電話を見せる。
「始業時間ジャスト、君の時計は正確ではないよ店長」
「ああ、もう。その議論は散々やったじゃない。それにー、裏方とは言ってもさ、汗びっしょりですぐ入れる? ‥‥で、今日は何で遅れたの?」
 店長の小言には動じず、からすは携帯をずいと前に突き出す。
「一駅乗り過ごした。携帯ゲームが面白すぎて」
「いい笑顔で言うこと、じゃないよね?」
 名前はからす、履歴書によればハタチ、外見は12歳。職業はメイドカフェ裏方、只今解雇の危機。
「クビは困る。携帯ゲーム代が月8万かかるのだが」
「ご臨終です」

「騒がしい店だナ」
 ラグナ・グラウシードは舌打ちして立ち上がる。
「座りたまえ、ラグナ君。こういう店の方が、話しやすい事もあるのですよ。だいたい、興味があると言ったのは、君じゃないか」
 眼鏡をかけた男の言葉に、ラグナは大げさに肩をすくめる。
「そーでした。ハハハ、ホントに素敵なお店でス、无先生」
 ラグナはヨーロッパからの留学生、彼が日本文化に興味があるというので、无が連れて来たのだった。
「先生、では無いですよ。教員免許は持ってますが、本業は研究者で」
「无先生、この店はりあじゅうが居ないのが良い所です。オクテでオタクな日本人の巣窟、いや楽園と呼んでも差し支えない」
「話を聞いて欲しいのですが」
 赤眼碧髪、小麦色の肌の鍛え上げられたラグナの肉体は、細身で中背の如何にも東洋人的な風貌の无と並ぶと、かなり目立った。幅広の剣でも持たせれば似合いそうな、まるでRPGの世界から抜け出た勇者であり、先刻から店内の視線を釘付けだ。
「はぅ‥‥お仕事の話だって聞いたのに‥‥」
 二人の間で、か細い声をあげるエルレーン。制服で店に入ったエルレーンは、メイドと勘違いした客に声をかけられて泣きそうである。
「じー‥‥」
「はぅはぅ」
 店員じゃないのかとまだ疑ってる客の視線に、おどおどと震えるエルレーン。
「いやいや、メイドさんと個人的に仲良くなるケースも少なくないそうですよ」
「ハハハ、无先生ともあろう人が都市伝説を信じるなんて」
「あうー、お仕事の話しないなら、私は帰るのー‥‥」
 頃合を見計らって、无は表情を切り替えた。
「冗談はさておき、依頼の件です」
「いいでしょう。怪しい者は居ないようですし、日本文化も堪能しました」
「ふ、二人ともエルレーンをからかってた訳じゃ、ないですよね?」
 何度もメイドと間違われた半泣きのエルレーンが顔を上げる。
「まさか。実は、もう一人来るはずだったのですが、手違いのようです」
 无は手帳に記された名前に×を付けた。
「今回は警戒すべき相手では無いと聞いています。もしかして、組織はカウンターがあると考えているのでしょうか?」
 ラグナの問いに、无は無言で手帳に挟まれていた写真を取り出した。
「私達とは別件ですが、今から20分ほど前、ロリフォースが何者かにやられました」
「何?」
 そこに写っていたのは少女アニメ好きの変態四人組、もとい同業者の死体。
 色々と疑問が浮かぶ。
 それにしても、妙な話だった。そもそも、エルレーン達とずっと会話していた无が、なぜ数十分前の殺人現場の写真を持っていたのか。
「現場の状況から、おそらく敵は貴腐人同盟を潰した者と同一人物と思われます」
「くっ‥‥言いたい事は山ほどあるが、組織のメンバーは何で変態ばかりなんだ」
 このあと、三人はメイドカフェで真面目に仕事の打ち合わせを行った。物騒な単語が飛び交ったが、客もメイドも不審には思わない。どうせ、ゲームの話だろうから。


「暗殺、は悪くないテーマだと思うわけですよ」
「そうだね。力技にもっていきにくいし、色々と制約がつく中で知恵を絞るのも面白いね。極限条件下でキャラクターの行動が微妙に絡み合う所なんかも楽しそうだし」
「でしょう」
「だけど、肝心な所を忘れてるよ。暗殺はだいたい非合法な、密かな要人殺害計画でしょ。リスクが高い話なのに、失敗した時はどうするのさ。失敗した暗殺者は消されるのが運命じゃないの?」
 失敗しても死なない暗殺は興ざめだが、高確率でキャラクターが死亡したり、海外に逃亡するようなシナリオをガンガン出されては誰も生き残れまい。
「だから、そこは現実と同じじゃないかなぁ。勿論、滅多にない特別な冒険としてならアリだけど、ドラマみたいに毎週暗殺してますなんて身が持たないでしょー」
「いやいやいや。私らマスターなんですから、そんな建て前の話をしたってツマランと思いませんかね。面白そうな話なら、何とかするのがマスターの力量ってもんじゃないですか?」
「ふーん、例えば?」


「かんじーざいぼさつ、ぎょーじんはんにゃはらみったじ、しょーけんごーおん‥‥」
 一見して異形である。
 御経を唱えているのは、すげ笠に黒装束、白足袋、片手に黒鉢という托鉢坊主。
 纏う黒衣は、ふれば埃が舞い上がりそうな襤褸。包み込まれた巨躯は、はち切れんばかりの筋肉の塊。
「昼間から血の匂いが濃すぎるわい。ほんま、都会は怖いとこやで。なんぼ人界は苦界や言うたかて、限度あるやろ」
 坊主は、ビルから運び出される遺骸に手を合わせている。警察官がロープを張り、見えないように目隠ししているが目敏いヤジ馬はパシャパシャと写メを撮ったり。
「ん?」
 不意に真下からフラッシュを浴びて托鉢僧は顔をしかめた。物珍しげに見上げていた男はさっと携帯を背中に隠して目を逸らす。
「どんなんでも、死んだら仏やで。冥福を祈って手を合わせたり」
「あ」
 坊主は行かぬと唸った。携帯を確認した男は、写した画像に、変なものが付いているのを見た。坊主の頭に何かが生えている。
「あ、え、え?」
「ちょ‥‥落ちつきいや!」
 托鉢僧、赤塚豪は片手で笠を目深にかぶり直し、男に腕を伸ばす。赤塚の手から間一髪逃れた男は、転げるようにロープの中へ逃げ込んだ。
「お、おまわりさーん!」
「ご‥‥誤解しなや、わいは怪しい者やない」
 途端に、それまで僧形の大男の挙動を注視していた警官達が近づいてくる。
「話せば分かるはずや」
 そのような綺麗事が通らない事を、その思い上がりが時には惨事を招く事を身に沁みる赤塚は、踵を返して逃走した。
「ごめんな、ごめんな、ごめんな」
 通行人に謝りながら、切ない表情を笠で隠して赤塚は逃げていく。

「本日、午後1時頃。○○区△△のマンション6階にて、4人の外国人と思しき男性の遺体が発見されました。死体には鋭利な刃物で切られた跡や、紐のようなもので首を絞められた跡が残っていて、警察では殺人事件として」
「只今、最新情報が入りました。○○区で起きた4名殺害事件において、現場付近から托鉢姿の不審な男が逃げ出したと」
「逃走した不審者は黒装束に笠をかぶった托鉢姿で、身長は2mほど。目撃者によれば、男は笠の中に鋭い刃物のようなものを隠し持っており、大変危険な」

 サイレンの音が、アパートの側を行ったり来たりしていた。
「火事? 最近、乾燥してるから気を付けないといけないな」
 松原祥一は万年床からもぞもぞと這い出ると、眼鏡をかけて時計を見た。
「まだ三時じゃない。中途半端だなぁ、どうしよう」
 たまには掃除でもするかと思い立ち、十分ほど右に左にゴミを動かして飽きる。そのままぼんやりと固まっていたら、五時近くに玄関を叩く音がする。
「はい、はい。どなたですかぁ?」
 積み上げた本の山に足を取られながら、戸の前に立つ。
「今度、ヒッコシた私です」
「はい?」
 寝ぼけた頭で扉を開けて、仰天した。
 目の前に身長183センチのゆうしゃ様が立っている。
(殺られる!)
 反射的に扉を閉める。正しい判断だったが、理性が扉を開けさせた。
「ラグナ・グラウシードです。ヨーロッパから来ました」
 隣に引っ越してきた留学生であると言う。妙だなと思ったが、ラグナの後ろに見慣れたロゴの引っ越し会社のトラックが見えたので安心する。
「日本の風習と聞き、ヒコシソバをお持ちしました」
 ニコニコと笑顔を張り付けたラグナが、持参した土産を差し出すと寝起きらしい松原は恐縮したように頭を下げて受け取った。
「ご丁寧に有難うございます。はあ、日本語、お上手ですね」
「勉強中です。少し、日本語教えて下さい」
「はぁ?」
 戸惑う松原を尻目に、微笑を浮かべたまま室内に入り込むラグナ。困惑したものの、ネタになるかもなと部屋に上げてしまった松原。ラグナがスーツの下に拳銃をのんでいるとは夢にも思わない。
「散らかしてて、すみません」
「イイエ。男やもめに蛆がわく、と申しますし気にナリマセン」
「はは。凄く上手ですね、日本語」
 室内の会話はスーツに仕込んだ盗聴器により、トラックの運転手に偽装した无やエルレーンに筒抜けだ。
「無事、潜入成功ですね。第二段階スタート」
「了解なの」
 松原がインスタントコーヒーを用意していた所に、再び戸が叩かれた。今度は先程より遠慮がちである。
「引っ越し屋さんかな?」
 無警戒に扉を開ける松原。背後のラグナが懐に手を入れたのに、全く気付かない。
「あ、松原さんなの! ファンなんです、マスターに会いに来たんですぅ」
「え」

 ここで少し話を脇に置く。
 筆者は、マスターは日陰者だと考えている。上善如水、自己を主張せず変幻自在を理想と思う。MS論ほど無意味なものは無いし、どんなやり方でも面白いものは面白いのだけれど、マスターも人の子であるから、あれこれと思う所はある。
 何が言いたいかと言うと、プライベートな所でマスターネームを呼ばれて会いに来ました、等と言われたら、きっと私なら酷く困る。
 リプレイ上ならば例え千人のPCを相手にしようとも一歩も退かないつもりだが、素の己に一人のPLが押してきたならば、それはもう三十六計逃げるに如かず。
 マスターなんぞ、偉そうな事を云っても正体は部屋の隅で震える小動物だ。

「わわわ」
 狼狽した松原は後退しかけて室内の客の存在を思い出し、とち狂った彼はその場で回れ右とばかりに反転した。
「ぎゃっ」
 そこに凶悪な笑みを浮かべた、拳銃を構えたラグナが立っていた。恐怖で思考は凍りついた。命乞いの言葉すら、出てこない。
「はぅ‥‥かわいそうだけど、お仕事だから仕方ない、の」
 エルレーンは髪に付けていたファンシーな猫のヘアピンを引き抜く。凶器と呼ぶにはお粗末な代物だが、針の先には即効性の猛毒を仕込まれている。かすり傷一つで冥土へ直行だ。
「死ね、愚か者め。今すぐ消え失せろッ!」
 素顔をさらしたラグナの拳銃が火を噴く。
 フローリングの上に、松原が不様に倒れた。
「何で‥‥?」
 ラグナに胸を撃たれたエルレーンが、驚きに目を見張る。
「くっくっく‥‥愚者の間抜け面ほどぶまいものは無い。俺が敵組織のスパイだって、気づかなかったお前が悪いんだ。――じゃあな、楽しかったぜ」
 止めの一撃を受けたエルレーンの腕から、ヘアピンが滑り落ちた。
「ひぃぃ?!」
 這うように部屋の隅に逃れた松原に、ラグナは銃口を向ける。
「貴様に恨みは無いが、目撃者は消さないとな」
 引き金に力を込め、しかし不意にラグナは腰を沈める。
「うーん。邪魔はしませんから、先に松原さんを殺して下さいませんか。その方が手間が省けますし」
 声は无のもの。
「情報屋。お前も、暗殺者だったのか?」
 扉を背にして隠れたラグナは相手の気配を読む事に集中する。
「情報屋の方が本職ですよ。刺客は時々」
「上等だ」
 本来のラグナは一本気な男である。状況は決して有利でないが、逃げようとか時間を稼ごうとかは頭に無い。愛用の拳銃を両手に構え、神にも魔にも祈らず、標的めがけて一目散に疾走した。

「依頼、終了」
 アパートの階段にラグナの遺体は縫い付けられていた。剃刀よりも鋭利な無数の紙が、戦士の肉体に突き刺さっている。
「相変わらず、見事な腕だね」
「からす」
 報告書を書き上げた无の側に、闇の少女が忽然と現れる。
「遅かったですね。君が、松原殺しの暗殺者を狩る仕事を受けていた事は知っていました」
「だから、きみは私の店にわざわざ暗殺者を連れて来たのだね」
 くすくすと闇が嗤う。
「期待させて悪いですが、依頼は失敗です。暗殺者はもう死にました。私は君と戦ってまで松原を殺そうとは思いません」
 記録を優先する男はその場を立ち去る。

「怨みを買ったのさ、きみは」
 からすは无を殺し、遺体を焼却した。
「彼も人が悪い」
 无の殺害をからすに依頼したのは、松原殺しを依頼した組織の仲介人である。
 どうでも良い男の殺人依頼、その真意は邪魔な情報屋の抹殺だった。

「なんやなんや? 地獄絵図やないかい」
 パトカーやら付近の住民やらを一手に引き受けて、結果的に殺し屋達の戦場を作り上げた赤塚が現場に到着したのはすべてが終わった後だ。
「う、う〜ん」
「おい、あんた無事か!?」
 気絶していた松原を発見し、声をかける。
「たた、助かったのか?」
 巨漢の托鉢僧はすこぶる怪しい存在だが、良く見れば慈愛に溢れる優しい貌をしている。松原は生き延びた喜びにむせび泣き、泳ぐように赤塚に近づいた。
 チクッ
「あ、イタ」
 散らかし放題の部屋で、彼は何か小さな針のような物に触れる。
「静かにぐっすり、おやすみなさいなの‥‥」
 男は幻聴を聞きながら逝った。
 突然、男が泡を吹いて倒れる。心優しい鬼の慟哭が街に木霊した。



「――というシナリオを思いついたんだけど、どうよ」
「いやいや无さん。問題点解決してないですし。それに全然リアリティ無いじゃないですか」
「え、そうかなぁ。‥‥うーん、現実、ですよ?」
「はぁ? 現実に鬼が居る訳がないでしょう。それにこの、无さんそっくりのキャラクターなんか変な能力使いですよね」
 どこからが現実、どこから虚構。
 現実を基にした虚構、虚構を基にした現実。
 曖昧な境界をゆらゆらとまどろむ。
 朝が明けるまで。