開拓者とうわなりと
マスター名:松原祥一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/05 23:01



■オープニング本文

 年の瀬も押し迫った或る日。
 北面で新たな戦が始まり、年末どころでは無い者も多い。そうかと思えばジルべリア由来のクリスマスを心待ちにする恋人達が居て、大掃除だ掛け取りだと例年通りの日常風景も巷に溢れている。


 開拓者ギルド。
 御隠居さんと係員はギルドの店先で世知辛い話をしていた。
「例の警備隊の一件ですが。村の方から中止して欲しいと連絡が来ましてねえ」
「え?」
 驚きを隠せない係員に、申し訳無いと隠居が頭を下げる。
「まさか、今更取り消せないとは言ったのですが、なんでも警備隊が無くなると困る変事が起こったとかで‥‥何で貴方まで頭を低くしてるんです?」
 畳に額をこすりつけた係員に、訝しげに目を細める隠居。
「勘弁して下さい」
「変な人だね、何の真似ですか。え、訳を聞かせて下さいな」
「わ、訳を話せば許して下さいますか」
「まさか」
 この後、二人の間で喧々諤々のやり取りが起こるが、その話はまた何れ近いうちに。

「――それはそれとして、今日来たのは別の用件でして。あなた、うわなり打ちのことはご存知ですかな」
 後妻(うわなり)打ち。
 離婚した夫が早々に後妻を迎えた際、先妻が後妻の家を襲撃する風習。双方共に身分に応じた手勢を集めるのが普通で、刃物は禁止とされるが女の合戦とも言うべき凄まじきものだ。
「ああ、古い風習でしょう。聞いた事はありますが、見たことは無いですな」
 今回の依頼は後妻打ちの助っ人だという。
「はて? あれは儀式的なものでしょう、開拓者の力を借りるような話にはならん筈ですが」
 得物は竹刀の他、箒やモップと言った掃除道具や、鍋やおたまといった台所用品など。襲撃は前もって日時を予告し、先妻側の手勢がが台所などを滅茶苦茶にした後、後妻側が集めた仲裁役が割って入って手打ちになる。乱闘も起こるが、人死にが出る類の争いでは無い。
 一種の憂さ晴らしの慣習であり、一方的にやられる事で後妻の後ろめたさを緩和させる通過儀礼とも言える。無論、男性は参加禁止である。
「所が――」

 先日、香代の使者が、後妻おゆうの元を訪れ、
「御覚えこれあるべく候、十二月三十日巳の刻参るべく候」
 と口上を述べた。
 慣例に従うなら、おゆうの代理が承知した旨を返答する所だが。
「望む所だ。真剣で相手してやるから遺言を残しておきな!」
 と、おゆう自身が啖呵を切った。
「‥‥あの女、今すぐ冥土に送ってやるよ!」
 これを聞いた香代が抜き身を掴んで立ち上がるのを、親類の者が総出で押さえた。本気で迎撃するなど、後妻打ちの例に無い事である。おゆうの名誉にも関わる事なので、後妻側の親類達も懸命に彼女を宥めた。
 結果、ガチで迎え撃つが刃物は禁止で、殺し合いはしない、という事で落ち着く。

「――ですが、人死には無いと言われてもねえ、真剣勝負となると先妻側も後妻側も、人数が揃えられない訳です」
 後妻打ちは一種の合戦だから、多少の怪我は仕方が無いと参加者も割り切るが、ガチとなれば話が違う。
「‥‥」
「おや、どうかしましたか?」
 沈黙した係員の顔を隠居が覗きこむ。
「い、いや、どこかで聞いたような話ですね」
「そうですか。まあ、開拓者なら有りそうな話かもしれませんね」
 顔色の悪い係員に頷きつつ、隠居は話を続ける。
 双方の親類が話し合った結果、足りない人数は開拓者ギルドに頼むことに決まったのだという。
 開拓者は先妻側、後妻側に分かれて、それぞれに味方して貰う。無論、刃物の使用は禁止である。開拓者が戦って良いのは敵方の開拓者だけで、敵の婦人にやられるのは構わないが一般人に手を出してはいけない。また、真剣勝負だけに度を超す危険があるので、人死にが出ないように味方の婦人達を守るのも開拓者の役割となる。なお、特例ゆえに男性の参加も構わないが、女装すること。
 依頼としては後妻打ちが無事に終われば成功とする。
「とまあ、こんな次第ですよ。‥‥本当に大丈夫ですか、顔色が悪いですな」
「‥‥いえ」
 係員は言葉少なにあれこれと必要事項を聞いて、隠居の依頼を預かった。

 その夜。
「今日は困ったなぁ。しかし、世の中には似たような話があるものだ」
 年末で仕事は立て込んでいる。疲れきった体を引きずって、家路につく係員。
 玄関に入ると、まるで台風の後のような有り様。大掃除でもしてるのかと奥へ進むと、新妻が竹刀を振るっていた。
「お、おゆうさん?」
「ギルドで話は聞いたんだろ。負けないから安心しな」
 夏頃に大きな借金を背負った係員は妻の香代と不仲になり、大喧嘩の末に離婚し、その後でおゆうと結婚したのだった。


■参加者一覧
无(ib1198
18歳・男・陰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文

 係員の自宅。
 川端にある商家の寮を改装した百坪ほどの平屋一戸建てだった。少し前までは。
 現在は郊外の古い農家を、大家の好意でただ同然の金額で借りている。
「ここからギルドに通うのは大変でしょう」
 居間、客間、寝室――間取りを確認しながら、无(ib1198)が声をかける。
「はは‥‥私には分不相応です。長屋で良いと言ってるのですが」
 俗に貧乏長屋と呼ばれる裏長屋は都にもごまんとある。ただ借金で首が回らなくなった後、世話してくれる人が居てこの家に越してきたのだそうだ。
「長屋では困ります」
「は?」
 九尺二間の裏長屋で後妻打ちは無理と話す无。
「壁をぶち抜けば隣の家ですからね」
 壁や柱に手を当てて強度を確かめた。開拓者がその気になれば、民家の解体くらい訳も無い。
「ま、まさか、そこまでは‥‥」
「あら、そっちの方が面白そうじゃない?」
 庭を見て来たリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が裏口から顔を出す。
「一方的にやられるだけって私、好きじゃないのよね。向うがこの家を壊すって言うなら、正当防衛だと思うわけ」
 弄んでいた藁人形を放り投げ、即座に五寸釘で壁に打ち付けるリーゼロッテ。頭に丑刻の五徳をかぶり、見るからに呪術師然とした格好での登場。
「遊びではありませんよ」
「そう? だって天儀で一般的な女の怨みを晴らす呪術っていったらこれでしょ? それに女装が二人も居る時点で十分お笑いだと思うわ」
 本来、女性限定の後妻打ち。戦う司書は艶やかな振袖姿、あと一人の砂迅騎は人目をひくゴシックドレスとケープである。
「これは、しきたりですから致し方無く。係員さんには申し訳ない事をしましたし」
 先日の依頼の詫びで係員宅を訪れたという无。
「僕も。係員さんの借金って、あの時の保障が原因だと聞いた‥‥から」
 派手なドレスに身を包んだ御調 昴(ib5479)の気弱な台詞を、鼻で笑うリーゼロッテ。
「その割には化粧までしちゃってノリノリよね、无。つい引き受けた私も馬鹿だったわ」
 真面目に依頼に取り組みたいからと无に頼まれて、昴と无、それに何故か係員の化粧まで手伝ってしまったリーゼロッテ。見れる昴はともかく‥‥冥府魔道に囲まれる現実に、彼女は激しい後悔を覚えるのだった。

 一方、その頃。
 先妻、香代の家に集まったのは志士のエルレーン(ib7455)と巫女の熾弦(ib7860)、それに補欠参加の小杉半兵衛の三人。
「人数合わせとは言え、居心地悪いな」
 殺気だった婦女子の中におじさん一人、女嫌いでもない半兵衛だが、始まる前からげんなりしていた。
「嫌なら隠れていて。戦意の無い者は居るだけ無駄」
 台詞は厳しいが、熾弦の口調は柔らかい。むしろ、気の毒に思っている様子。
「悪かった。あちらの坊主同様、俺も責任を感じている身でな。気は進まんが、仕事はこなす」
「そうか」
 ちなみに現在の小杉の格好は十二単。アラフォー親父の女装など愉快なものではない故、詳細は省く。
「妙な騒動だと思ったけど、小杉君には縁がある依頼なの。それなら、来る年にはこの因縁を残す事のないようにしたいわね」
「そうありたいものだが」
 曖昧な笑みを見せた半兵衛(女装)。
 さて、ここまで登場した4名+1の開拓者は心情の違いはあれど、縁だったり、仕事だからと仕方なく依頼に参加した口である。今更あげつらうまでもなく、そうした事は少なく無いし、依頼内容を鑑みれば無理もない。
 だが、エルレーンは違う。
(うぅ‥‥愛し合ってたはずなのに、別れてすぐまた別の人と結婚だなんて‥‥男の人って、おとこのひとって‥‥!)
 瞳に闘志を宿したエルレーンはすっかり香代に感情移入し、後妻打ちに参加する親族達の輪に溶け込んでいた。
「わ、私は香代さんの味方なんだからね!」
「分かってるよ、あんたは身内さ」
「あたしらもね、あの男の仕業にはもう我慢ならないんだよ」
 思いを一つにする同志として、エルレーンは御婦人らと意気投合している。それもそのはずで、口先だけでは無い。彼女のみが面頬、袴、羽織、脚甲、小具足という物々しい装いで参加している。
 義を見てせざるは勇無きなりと、香代陣営の士気が高まったのは当然である。
「私も女性として、気持ちは香代君に近いけれど‥‥本来の目的はこの後妻打ちを穏便に収めること。どうしたものかしら?」
 おゆう陣営を血祭にあげようと気炎を吐く味方を眺め、熾弦は思案をめぐらすのだった。


 古い慣習だという後妻打ち。刃物は厳禁にしても、衆人環視の下で振るわれる暴力。
 制止出来ないものならば、吐き出させるべき鬱憤あるならば、それも是とするとして、遺恨残さず如何様に幕引きするや?
 たまりにたまった恨み辛みを、壊し清めて年末最後の大掃除。
 成るか成らぬか、開拓者のお手並み拝見。


 十二月三十日。巳の刻。
 小雪舞う農家の庭先に現れた香代とエルレーン、熾弦、小杉、そして22名の親類縁者の婦女子たち。
「やい香代! 逃げ出さずに良く来たな! 褒めてやるぜ!!」
 家の入口に仁王立つおゆう。大鎧に陣羽織、脚甲、右手に竹刀、左手に武者兜。得物を除けば堂々とした武者姿。
「逃げる? 哀れな声をあげて逃げ回るのは貴女よ、ゆう。痛めつけて差し上げるわ」
 対する香代は巫女服、掲げた右手に扇を持ち、腰に小鼓を付け。
「ふむ‥‥しかとは分かりかねますが、香代の装備も強化されていると考えた方が良いでしょう。巫女なら、刃物は関係ありませんしね」
 家の中から様子を窺う无。ちなみに、見た目の派手さはエルレーンに譲るものの、実は中々良い装備でこの後妻打ちに挑んでいる。振り袖も強化品、リーゼロッテなどに云わせればド馬鹿であろうが、律儀な男だ。
「天儀の風習って変よねー。それに開拓者って妙に金銭感覚がおかしいし」
 リーゼロッテは溜息をついた。
 香代とおゆうがガチ装備なのは百歩譲って当事者同士だから仕方無いとしても、无が握るフライパンが強化されているのは何故だ? お調子者に見えて実は冷めているリーゼロッテは呪殺装備を置き、普段着に近い格好で参戦していた。
「私もねー、金にもならない依頼に出ちゃって、何してるんだかー」
 懐中時計を覗いたリーゼロッテは自嘲を消す。
 刻限だ。
「皆様。私の我儘に付き合わせて申し開きも無いのだけれど、参加して下さって有難う。では参りましょう」
 香代が軍配の如く扇を振り、先妻組がゆっくりと前進した。
「そ、それじゃ、お互いに怪我がないよう、がんばりましょう‥‥なのー!」
 前衛はエルレーン、熾弦、小杉。後妻側が本気の迎撃を行うと知る以上、香代も開拓者を前面に出さざるを得ない。
 香代陣営では或いは敵が突っ込んで来るかもと予想していたが、口上を残しておゆうは家の内部に消えた。
「誘われている? エルレーン君、私が先に行こう」
 熾弦は味方を制し、単身で戸に近づいた。何の変哲も無い農家の戸だが、今は虎口に見えていた。
「――南無三」

「‥‥撃って来ないね」
 壁に張り付いて外を警戒する昴。
「そりゃあね、さすがに精霊砲は無いわよー」
 リーゼロッテは肩をすくめて裏口から消えた。おゆう陣営にとって、懸念材料の一つだったのは香代の術。刃物禁止は巫女に無意味、開拓者達は係員に先妻がどんな術を取得しているのかを確認した。すると、精霊砲まで使えるという。
「‥‥」
 遠距離から砲撃に徹せられたら勝負にならない。農家が灰燼に帰して決着だ。
「術自体は有りだと思うけどねー」
「術を出す暇なんか与えない。オレがおゆうを倒して、しまいだ」
 おゆうは吶喊する気満々だった。ただ、香代が何か罠を用意していると感じた昴が反対していた。
「私は悪く無いと思いますよ。やるのは大将だけで良いのでは?」
「无さん‥‥、煽らないで下さい‥‥」
 昴は視線でリーゼロッテに助けを求める。
「そーねー。良く分からないけど、うわなり打ちは文化なんでしょ? のっけから大将同士でやりあっちゃったら、ただの痴話喧嘩? 天儀って、作法を重んじるんじゃなかったかしら?」
「後妻打ちの作法ですか。一理ありますね‥‥」
 適当を言っただけだが、无は変に納得して前言を撤回。先制攻撃は中止し、まず後妻側の一撃を受けてから反撃する事で話はまとまる。

 ぼとぼとぼと。
 身体を壁に付け、戸をそっと開けた熾弦。无が仕掛けた白粉が虚しく地面に落ちて白い粉が舞った。
「修羅の熾弦、参る!」
 熾弦を先頭に屋内へ雪崩込む香代陣営。
 戸から室内に入ると土間、奥は水瓶や竈等が並ぶ台所。左側には一段高い板の間があり、板戸で仕切られて見えないが、香代の話では手前が居間、奥が囲炉裏のある食事所。居間と食事所の先には客間と寝間がある。この農家を城に例えるとすれば、城主たるおゆうが居るのは寝室か客間だが、彼女の性格的にどこで迎撃して来るか分からない。
「‥‥行かせない‥‥」
 熾弦と共に数名の婦人が突入したのを、迎撃したのは鍋のふたを構えた昴と、数名のモップを手にした婦人。十字硬陣を布いて台所を守る昴。
「くっ、狭い」
 鍋のふたで味方の婦人を守る熾弦だが、地の利は敵にあり、いかな修羅と言えど巫女の彼女に昴との白兵戦はきつい。
「捩れ!」
 熾弦の術で昴を包む空間が歪む。ゴシックドレスが搾られて小柄な獣人を転がした熾弦だが、昴の蹴りを受けて彼女も室外に押し戻された。
「‥‥追撃、を」
 痛みを堪えて疾走る昴。鍋のふたを持ちかえ、体勢を立て直した熾弦に投げつける。
「よく動く、さては君も私と同じか?」
「‥‥瞬脚」
 寸でで避けた熾弦を、瞬間移動で追い越した昴は鍋のふたをキャッチし、そのまま横薙ぎした。腰を強かに打たれて顔を歪める熾弦。
「何の事だか分かりません‥‥」
「熾弦殿を守れー!」
 昴は背後から婦人の箒を受けた。振り返る暇もなく、彼めがけて四、五人の御婦人が襲いかかってきた。

「昴殿、戦死!(注:死んでません)」
 戦いは序盤から乱戦となった。玄関の守りから敢えて先行した昴は、香代・エルレーン・小杉を擁する敵本隊に捕捉されてあえない最期を遂げた(注:死んでません)。しかし、これはおゆう陣営にとって想定内。玄関付近に密集した敵本隊に対し、裏口から回り込んだリーゼロッテの部隊が背後から奇襲攻撃を仕掛けた。
「勝負はこれからよ♪ 後妻だからってねー、やられっぱなしじゃないんだからねー」
 奥さん達と一緒に強襲したリーゼロッテは香代陣営の要をエルレーンと見てとり、影縛りを放つ。
「今です」
「待ってたぜ!」
 同時に、堪えに堪えていたおゆうが无と共に現れる。縁側の板戸を自ら蹴り倒して庭に飛び出した彼女は正面から反攻をかけ、敵本隊を挟撃。屋内に居ながら人魂で状況を把握していた无の指示でおゆう側は的確に動き、香代本隊の包囲殲滅を狙う。
 ――と書くと何だか綿密な作戦があったようだが、申すまでもなく半分以上は流れ任せである。室内でも入り込んだ香代側の婦人が外に戻ろうとしたり、台所を破壊しようとして、ここでも家に残っていたおゆう側の婦人達と乱闘が始まった。
「痛かった‥‥今のは痛かったのー! お返しなのー! えいっえいっ」
 影縛りで手数を封じられ、御婦人の波に呑まれたと思われたエルレーンだが、半泣きながら戦列復帰。おそらく香代の術で、技への抵抗力が上がっていたか。
「どうやら香代は味方の補助に徹し、正面突破狙いのようですね」
 相手の土俵で戦うとは意外な、と思いつつ无はリーゼロッテに合図を送る。遊撃の彼女にもう一度掻き回して貰いたかったが――魔女は居ない。
「この寒い中、裸に剥かれたくはないのよねぇ〜」
 リーゼロッテは戦場を一撃離脱し、離れた場所でお茶の用意をしていた。赤い髪をくしゃくしゃと掻き回し、低く舌を鳴らす。敵の攻撃はアイアンウォールで防ぐつもりだったが、詠唱の隙を突かれて接近され、髪紐を失う。
「敵前逃亡する気ですか!?」
「あとは適当に閃癒ばら撒くからさー、人死には出ないでしょ。多分」
 リーゼロッテは冷静に戦場を眺める。予測通り、香代は皆を回復させるようだ。
「まだだ、まだ終わりませんよ」
 戦闘は早くも終盤。
 无は呪縛符で小杉の動きを縛り、フライパンを振り回して奮戦した。香代とおゆうの本隊は正面衝突する形になり、農家の庭から室内へ移動しながら互いに激しい乱戦を繰り広げる。戦死?していた昴もいつの間にか戦線復帰したが、ドレスは引き裂かれ、他の開拓者もボロボロだ。
「‥‥かな」
「香代っ!」
 全体としては後妻側が優勢だったが、乱戦ではやはり侍が強い。飛び出したおゆうが、竹刀で扇ごと香代を打ちのめし、決着した。
 双方に相当数の負傷者が出た。全身血塗れな女や、全裸に近いような人も大勢居た。無論、无は剥ぎ取られてガタガタ震えていたし、奮戦した昴やエルレーンは地面に突っ伏したまま疲れて動けない。
「わ、私の鞄に、包帯と薬草が」
 无は持参した治療道具を配り、リーゼロッテも巫女の術等で手伝った。香代も熾弦も協力したので、ひとまず全員命に別状は無い。
「うっうっ‥‥あいがあればしやわせになれる、って、みんな言ってるのに‥‥」
 傷は回復したが心が絶望したエルレーンは泣き崩れる。
「雨降って地固まるとも言いますよ」
 嵐の過ぎ去った後のような家の中で、熾弦は取っておいた陣中酒を差し出す。良く分からぬままに注がれた杯を飲み干すエルレーン。
「苦い‥」
 なし崩しで宴会になった。動ける者の中には帰った者も居たが、残って敵味方で酒を飲む姿もあった。あちらでは大虎と化した香代とおゆうが口喧嘩の真っ最中。必死に宥める係員さんは二人にノされてしまった。これが本当のうらなり打ち。
 まったくしまらない話である。



天運:12