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■オープニング本文 夕陽の朱光が戦場を照らす。 数百のアヤカシを率いた大鬼と、一人の男が対峙していた。 「――終わりだ!」 水牛の角兜に赤碧の派手な武者鎧を着こみ、血と泥にまみれた金塗りの陣羽織は死闘の激しさを物語る。 男の背には守るべき村があり、そのとき、彼は英雄だった。 「‥‥残る、だと?」 激戦の後、村を救った英雄達は歓待された。 「考え直せ。俺達は依頼を遂行した。まあ、危なっかしい村だとは思うが、後は、連中の問題だぜ」 「冷たい奴だな。お前のそういう所は嫌いじゃないが、もう決めた」 或る者は残り、或る者は去った。 暫くして、兵を集めて警備隊をつくったという噂が届いた。 それから、20年の歳月が流れる。 開拓者ギルド。 御隠居さんと係員が無駄話をしていた。 「御無沙汰でございましたねぇ」 「そうですな、この前来た時は夏でした。はは、御願いするような面倒ごとは無い方が良いのですがね」 目を合わせ、苦笑を洩らす。 「ふむ――というと、今回はどんな騒動なんです?」 「それが、ちょっと訳有りでしてね。警備隊退治ですよ」 ほら来たと、係員は眉間に皺を寄せた。 「警備隊? 盗賊の間違いでしょう?」 「人をもうろく爺みたいな目で見なさんな。正真正銘、警備隊退治です」 面倒な仕事のようだ。どうして、こんな依頼ばかり自分に回ってくるのかと係員は嘆息する。 隠居の話によれば、都から離れたとある村で、アヤカシや山賊等から村を守るべき警備隊が、村人に乱暴狼藉を働いているらしい。 「なるほど。それは許し難い話ですが。しかし、その村の領主は何も対策を取らないのですか?」 「それが、村人が何度訴えても、たまに注意するくらいで、事実上は野放しだそうですよ」 警備隊はアヤカシ退治に実績があり、領主は彼らを敵に回すのも、代わりの兵力を整えるのも大変と、見て見ぬふりをしているようだ。 「ははぁ」 係員はひとりで納得した。隠居には悪いが、この種の歪みはどこにでもある。その歪みを正すのも、開拓者ギルドの使命か。 「つい先日も若い娘が連中に辱められたとかでね」 村人らは考え抜いた末、ギルドに警備隊退治を依頼する事を決し、人づてに隠居の所まで話が回ってきた。 「‥‥回りくどいですな」 「大っぴらにして、警備隊にばれた時の事を恐れているのでしょう」 首尾よく開拓者が警備隊を倒した折には、村役人が領主にこれまでの警備隊の悪行を訴える手筈になっているので、後の心配は無用だという。 「いやいやいや、警備隊が無くなったら、アヤカシが来た時に困るじゃないですか」 「その時は、警備隊を倒したギルドを頼るでしょうな」 係員は少しだけ嫌な顔をしたが、この依頼を預かった。 警備隊の人数は20名程。 ギルドの開拓者並の遣い手は5〜6人と見られるが、詳しい強さは不明。その他は山賊に毛の生えた程度だが、良く訓練されている。アヤカシの現れる森の側の小さな丘に古い砦があり、そこが警備隊本部になっている。 隊長は久留間京之進という四十の侍。隊員は開拓者や山賊くずれ、村出身の者も数名居るらしい。 「うーむ、やはり情報が足りないかな」 隠居からの伝聞だけでは、砦に踏み込むには不十分だろう。 まずは村で情報収集、しかし下準備も兼ねる事になるし、それを砦の警備隊に気づかれぬように、となると――けっこう厄介だ。 「その者達、仕事はしているのだろう。ならば、よそ者の開拓者が村に入って、警備隊の目に留まらぬ筈が無いぞ」 係員に頼まれて相談に乗っているのは、鵜鵯田右兵之介という古参の侍。 「一計を案じる必要があるな。手伝ってやりたいが、済まぬが先約があっての。半兵衛には声をかけたか?」 「はあ。小杉さんにも話したのですが、妙な顔をされて、急用を思い出したからと逃げられてしまいました」 鵜鵯田と小杉は煮ても焼いても食えぬ古参開拓者。古株二人に振られた係員は、一度で解決は難しいと判断し、仕事を数回に割るつもりで依頼書を張りだした。 「狡兎死して良狗煮らる、とは良く言ったものだが‥‥さて、どうするか」 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
時永 貴由(ia5429)
21歳・女・シ
赤鈴 大左衛門(ia9854)
18歳・男・志
无(ib1198)
18歳・男・陰
ネシェルケティ(ib6677)
33歳・男・ジ
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟 |
■リプレイ本文 さて、无(ib1198)のことである。 彼は出立前に現場とその周辺の情報を図書館で調べ、その後で開拓者ギルドの係員や依頼主である御隠居、ベテランの開拓者や他のギルド職員等に今回の依頼に関する情報を訊ね回り、更に領主宛に地歴調査の為と称して警備隊に関して問い合わせる書簡を作り上げて問い合わせの手続きを行い、出発後は道中で依頼地に対する聞き込みを忘れず‥‥。 ――无が村に辿り着いた時、仲間は既に帰った後だった。 「ふむ」 汗でずれた眼鏡を押し上げつつ、途方にくれる開拓者ひとり。 「少々、出遅れたようです。調査活動というと、ついつい根をつめてしまうのは私の悪い癖ですかねぇ」 これから村で聞き込みし、領主に挨拶し、それから砦に向うとなると‥‥次の依頼を受けた開拓者と合流出来そうだ。 「帰りますか」 独断遅行を良しとせず、踵を返す无。 脳裏に、出発前に引いた御神籤を思い出す。彼の引いた数字の紙は切れていて、申し訳無さそうに差し出された御神籤は大吉だったが、無論受け取らなかった。 「たしか、壱番でした、ね」 好運はいずこ。 街道を吹き過ぎる風は肌寒く、无は幾度もくしゃみを発した。 それでは、話を始めよう。 「へぇ、旅芸人の姉妹とは、この辺じゃ珍しいな。姉さん達はあれか、村の誰かに呼ばれたのかい?」 秋桜(ia2482)と時永 貴由(ia5429)が村へ入る直前、気さくな調子で呼びとめられた。梅蔵という中年男は右手で十手を弄び、警備隊だと名乗った。 「いいえ、親分さん。私達はしがない旅回り」 「そうそう、足の向くまま気の向くまま〜ですわ」 梅蔵は笑って頷いたが、目は疑念を解かぬ。村人の話では、警備隊に入る前は街で岡っ引をしていたらしい。身内に優しく、よそ者に厳しい十手持ちは村の門番を自任し、砦よりも村で過ごす時間が多いそうだ。 「さては訳有りかい。姉さん達みてぇなべっぴんが、こんな辺鄙な所に流れて来るはずがねえやな」 「はぅはぅ、べっぴんさんですか?」 秋桜はのほほんとしてるが、時永は手に汗握っている。時永が普通の旅装を用意し、秋桜にも服装の注意をしていたので今は大丈夫だが、詰め所などに連行され、荷物を検められたなら一巻の終わりである。 「ま、大人しく仕事に精を出すこったぜ。妙な真似さえしなかったら、俺も姉さんも笑っていられる」 解放された二人は、その日の宿を探す。 田舎の小さな村には商売で宿屋を営む所が無い。秋桜が旅芸者と自己紹介したので、ひとまず滞在の許可を取るためにもと村長の家に向った。 「‥‥妙だな」 村に入ってから、時永は微かな違和感を覚えていた。 「お姉様、何が妙なのですか?」 秋桜は時永に腕を絡ませ、べったりくっついて歩く。仲の良い姉妹を演出する為で、また小声で話しやすくもある。 「分からない。ともあれ、村人から話を聞いてみないことには始まらないな」 「同感ですわ」 隠居殿も人伝で聞いた事だ。まだ自分達はこの仕事の実態に触れていない気がする。 まずはこの目で確かめるべきだ。 「御免下さい、旅の者でございます。村長様は居られますでしょうか」 旅芸人を通した直ぐ後で、梅蔵は再び知らない顔に遭遇していた。 「俺は偶然は信じねえんだが、おい――何かあるのかい?」 今度の二人は一見して開拓者と分かる出で立ちの赤鈴 大左衛門(ia9854)とネシェルケティ(ib6677)。 「大当たりだなァ。親分さぁには面倒かけるだスが、これも開拓者の仕事だで、村の為だと思って力貸して欲しいだス!」 見知らぬ開拓者が村に突然現れて、吉兆である試しは無い。嫌がられるのも慣れっこなので赤鈴は低姿勢だ。 「実は、私達が追ってるアヤカシがこの辺で目撃されたって未確認情報があってね。それで二人で調査に来たって訳なのよ」 ネシェルケティは女言葉で話す2mの巨漢。華美な女装を好むジプシーは、先の二人より遥かに目立つ。田舎武者の赤鈴とのコンビも奇妙だが、彼らが開拓者で、しかも用件が用件だけに梅蔵は顔色を変えた。 「そいつは全く穏やかじゃねえ。済まねえが、俺達の砦まで一緒に来て貰おうかい」 まさか嫌とは言えない。 「助かるだス」 アヤカシを追っている云々は嘘である。 秋桜ら、他の仲間達と一緒に作った話で、係員に頼んでわざわざ偽の依頼書まで作成している。 「追い掛けているアヤカシは何にしますか?」 「そうねえ、統一しておかないとスグ見破られるわ。无の話だと、昔、村が襲われた時は大きな鬼が出たそうだから、それにしましょうか」 特に考えがあった訳ではない。彼らとしては、すんなりと村に入る為の方便のつもりで、辻褄を合わせているうちに、それらしい筋が出来ただけだ。 その頃、雨傘 伝質郎(ib7543)は警備隊に捕まっていた。 「旦那ァ、怪しいものではございやせんよ」 大紋を着こみ太刀を佩き、一見すれば武士風だが、雨傘の崩れた佇まいと禍々しい相貌は渡世人を思わせる。 「怪しい者でございますよと挨拶する奴は居ねえわな。ふむ、士分と見受けるが、そこもとの氏素性と何用で当地に参られたかをお答え願いたい」 雨傘を捕えたのは、柏木冬真という四名の部下を連れた弓士。 「名乗る程の者じゃあござんせん。見ての通りの屑でございやすよ」 「そうなのか。では村の平和を守る警備隊として、屑殿は屑かごに入れるが上策と存ずるが、異論はあるかね?」 周りを囲まれて、柏木も出来る腕のようだ。突破は無理だろう。 「滅相も。どうせ宿なしでごぜえやすからに、渡りに舟ってやつですなァ」 身ぐるみ剥がされた。 「一張羅がねえと困るんだが」 「後でちゃんと返してやるさ。貴殿が本当の事を話せば、だが」 砦の者に聞いた話では、柏木は歴とした武士の出身で開拓者をしていたそうだが、五年ほど前に砦に現れて、そのまま居ついた。頻繁に街道沿いを巡回し、警備隊の活動資金を集金しているそうだ。 「宜しい。そういう事なら、うちにお泊まり下さい」 村長の大貫仁之丞は三八歳。旅芸人に扮した秋桜と時永を己の屋敷に招き入れた。広場で村人に芸を見せたい秋桜に、村長は危険が無いか確認した上で許可する。素っ気の無い男で、よそ者への警戒感も強そうだ。 「時に、この村には警備隊というものがあると聞き及びましたが」 「ございますな」 淡々と応える村長の顔色を見つつ、時永はすぱっと訊ねた。 「随分と乱暴な者だと聞いておりますが、どのような者でしょうか」 「誰がそんな話をしたのか知らないが、何故そんな事をお聞きになるのか?」 村長の口調は固い。 「失礼はお詫びします。ですが、私達も旅暮らしをしていますと、土地のヤクザ者に絡まれるような事も少なくはないのです」 「なるほど。それならば話しましょう。この村の近くに森がございまして、今はそれほど危険では無いのですが、昔アヤカシがわきだしてこの辺りの村を襲った事がございました。警備隊はその時に出来たものでございます」 ここらは交通の要衝でもなく、寂れた村ばかりなので普通ならアヤカシに滅ぼされておしまいだが、開拓者がアヤカシを退治し、村の為に警備隊を作った。それが今も続いているのだと。村長の話しぶりは事務的で、特に警備隊を貶す事も持ちあげる事も無い。 「最近はアヤカシも山賊も出ず、力を持て余しておるのかもしれません。御心配ならば、長居はされん事だ」 「それで良いのですか。村の娘が辱められたと聞きました」 問いを重ねる時永に、村長は表情を変えぬまま。 「それは村の中の問題。余所の方には踏み込んで欲しくない」 「お姉様、言いすぎですわ」 姉に代わって謝る秋桜に、村長は念を押した。 「芸を見せるのは良いが、今のような話を村の者にするつもりなら出ていって貰う」 村長の許可を取って村の中を散策する秋桜と時永。 傍目には秋桜が時永に抱き付いて甘えているように見える。 「よそ者に村を掻き回されたくない村長殿の気持ちも分からなくは無いが、私には納得できない」 「勿論ですわ。ですが、英雄と呼ばれた人達が、何故このような事になったのでしょう‥‥それを探る事が先決です」 真面目さんな姉の義憤に、秋桜は同調しつつ宥めている。二人は村長との約束は無視して村人に警備隊の事を聞いて回った。さすがに露骨な質問は出来なくなったが、それとなく話を向けると反応があった。 「お香ちゃんも可哀想にねえ」 「ありゃあ四郎の奴が悪いんだ。袖にされたもんだから」 「とは言うても警備隊ではしょうがない。犬に咬まれたと思って忘れることじゃ」 村人の話を整理すると、こうだ。村出身の警備隊員の四郎という青年は幼馴染みのお香に言い寄っていたが、お香は警備隊が嫌いで応じない。怒る四郎を警備隊の同僚がけしかけて、乱暴に及んだ。 「でも警備隊は村を守っているのでしょう? 何で嫌いなんでしょう?」 「‥‥そりゃあ」 この話では皆一様に口が重かったが、何度か聞くうちにぽつりと老人が漏らす。 「都会の者には分からんかのう。こんな貧しい村が、傭兵を持つ苦労なんぞは」 秋桜と時永は顔を見合わせる。 言われてみれば、村の規模に比べて警備隊の規模が大きい。昔は山賊が出たり、アヤカシが襲ってきたりで警備隊は有り難い存在だったが、実入りの少ない村に手強い敵が居れば賊は来ないし、アヤカシも最近は出ないそうだ。 「それで警備隊が重荷に?」 天儀962年、開拓者ギルドが生まれた。 その要因の一つは、傭兵の横暴が治安悪化を招いた為と言われる。 では昔の志体持ちは今と比べて下種だったのか? 否、であろう。 アヤカシの猛威に備えるには強力な傭兵が不可欠だが、小領主や村々にとっては重荷だった。その事もまた、要因の一つだったのではなかろうか。 おぼろげに事態が見えて来たような気がした姉妹は村長の家に戻った。 どうしたものかと二人が思案している所に、二人の開拓者を連れた久留間京之進が現れる。 「仁之丞、いや村長。大変な事が起きたのだ」 「何事だ、久留間隊長。貴方がそれほど取り乱すのは珍しいが」 ここで京之進は村に存亡の危機が迫っている事を村長に語るのだが、話をここで少し戻さねばならない。 警備隊の砦は聞いていた通り、村から半時ほど歩いた小さな丘の上にあった。 道すがら梅蔵が語った所では、昔は辺境警備にあたる傭兵団の拠点だったそうだが、開拓者ギルドが設立されて有象無象の私兵集団が整理された後、長年廃墟となっていた所を今の警備隊が補修して利用しているそうだ。 「隊長を務める久留間京之進です」 京之進の年齢は四十らしいが、初老にも見える沈着な印象の武士だった。 「ギルドの開拓者にお会いするのは久しぶりだ。出来れば色々と都の話など聞かせて頂きたいが、もっと重大な用件があるとか」 「その通りよ。隊長さんは、今まさに北面を覆わんとしているアヤカシの影をご存知かしら?」 北面国の騒動は、現在開拓者ギルドで最も高い関心を集めている事件だ。すわ魔の森からアヤカシの大規模侵攻が、と危惧する声も多い。情報の確認や防衛体制の強化など、開拓者達も各方面に奔走し始めている。 「そこでわしらぁ、この近くの森で大鬼が目撃されたと聞いて確認の為に来ただすよ。来る途中で聞いただスが、むかぁし、鬼が大挙して襲撃して来た事があったそうだすな」 「‥‥如何にも」 繰り返すが、赤鈴らの話は真っ赤な偽り。なるほど各地で不穏な事件が起きているが、この村の近くでは無い。故に隊長は大鬼の目撃情報など初耳、しかし情勢的には十分に有り得る話だった。 「20年前の大鬼は、確かに倒したはず――ですが、その後も数度、村はアヤカシに脅かされて来ました。分かりました、村を守る警備隊として、貴方達に出来る限りの協力をお約束しましょう。もし大鬼が現れた時は村を守るための助勢をお頼みしたい」 「心得ただす」 さて。とんとん拍子で話が進み、倒すべき警備隊と開拓者の間に協力体制が成った。二人とその仲間に対し、村と砦の周辺での行動の自由を警備隊が保障し、必要があれば積極的に協力する約束を交わす。 「とまぁ、すげぇ方向に転がってんでやすよ」 砦の牢屋で寝そべる雨傘が話すのを、砦に潜入したシノビ装束の時永が口をあんぐり開けて聞いていた。 「と、止められなかったのか」 「さあて、嘘吐きは泥棒の始まりなんぞと申しやすが、一度ついた嘘は引っ込みがききやせん。あっしも一晩で皆まではみえちゃいねえんだよ」 雨傘が知った事と言えば、警備隊が旅人から通行料を取っていること。 「私達は要求されなかったが」 「芸人なら稼いだ後で良いとでも思ったか、人を選んでるのでござんしょう。あっしのような筋者なら裸に剥いても誰も困りやせん。後は行商や裕福な旅人が狙い目でさあ」 名目は街道の治安維持費用の徴収である。実際に警備隊は治安維持組織であるから間違いではないが、恣意的な取り立てはヤクザのみかじめ料に近い。 「領主は何をやっているのかと情けないが、それだけ警備隊の力が強いという事か」 村を何度も救った警備隊。英雄が相手では、領主も頭が上がるまい。 「さあて――だけどまぁ、どんな事情があってもねぇ、あっしらのするこたァ変わりありやせんぜい」 世にすれた男の言葉に応えは無く、いつの間にやらシノビの気配は消えていた。 この後、アヤカシ調査で忙しくなるからと雨傘は釈放された。装備も返して貰う。 「ハッ!」 時永を踏み台にして、秋桜の小柄な肉体が宙を舞う。 顔見せとして二人が見せた芸は、シノビの技を元にした体術や、手裏剣投げ等。本職のネシェルケティなら辛口の批評を付けたかもしれないが、娯楽の少ない村だけに結構受けは良かった。特に子供達は目を輝かせ、宙返りする秋桜を真似てコロコロ転がるお子様も居たり。村人らの笑顔に触れて、二人も顔を綻ばす。 途中から子分を連れた梅蔵が現れたが、特に何をするでもなく観客の一人に過ぎなかった。終わった後で近づいて来た梅蔵に、時永は村人が置いていった野菜や小銭の入った籠を渡す。 「場所代です」 「そんなつもりは無かったんだが、今回だけは遠慮なく頂いとくぜ」 開拓者らは、警備隊に存在理由を与えた。 幻の大鬼に対するため、警備隊は動きを慌ただしくし、村長に費用の負担を頼んでいる。どうなるのだろう。 |