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■オープニング本文 自在に使いこなすことが可能なら、大アヤカシすら倒せると伝わる刀がある。 その名を、超絶刀。 刃渡り四十尺、重さ一千貫。 その昔、大アヤカシを斬れる刀作りに生涯を費やした稀代の刀工が残した一振りと伝えられているが、非常識に巨大すぎて扱えるものがいなかった。 その刀工が何を考えてそんな刀を作ったかは今もって謎である。 ともかく超絶刀は無用の長物だったので、神社に寄進され、長く社に保管されていたらしい。が、近年の戦乱でその行方が分からなくなり、どういう経緯かはこれまた不明だが、とある空賊の手に渡った。現在は、飛空船の船首に取り付けられて衝角として使われているそうだ。 今回の依頼は、その空賊一味から、超絶刀を入手することである。 素直に渡してくれるはずもないので、戦いになる可能性が高い。もちろん、一味を捕縛できればそれに越したことはないが、依頼の目的は超絶刀だから、壊さないように注意してほしい。 「手に入れて、どうするおつもりなので?」 「長くご神体として祀られていたものですので、神社に引き渡すつもりですが、そちらの方と話がつけば、アーマー用の長巻などに鍛え直せないかとも考えています」 なるほど。人々にあだなす賊を退治し、うまく行けばアヤカシに対する良武具も手に入るとなれば、ギルドの係員としては断る理由も無い。 「くだんの空賊は石鏡の北、理穴との国境近くの森に潜んでいるとか。どうか、よろしくお願いいたします」 「ああ、あの辺りですか」 辺鄙な場所だが、空を駆ける空賊にはその方が都合が良いのだろう。無人の小島をアジトにする空賊も少なくないと聞く。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「火力を集中しろ」 轟龍が連続で爆炎咆を放つ。炸裂する業火が船体を飲み込む。船首に取り付く皇龍は、鋼の巨体を何度も叩き付けた。船は激しく揺れ、外板に亀裂が走った。ラビット号を乱舞するのは二龍のみにあらず。光る鳥と化した開拓者達は拳や剣をふるい、船は墜落寸前だ。 「ああ」 恐るべき大破壊を、空賊達は言葉も無く見上げていた。 「教えて欲しいの」 納得したかった。 「管轄の軍か警備隊で聞いてみるといい」 伊堂で一旦仲間と別れ、百夜の街の辺境警備隊へ。 「どんな御用かな、可愛いお嬢さん」 こくこくと頷き、桃山から借りた資料をそっと隊員に渡す水月(ia2566)。にこにこ。 「届け物かな」 勘違いされた。無口すぎて、知らない人との会話は苦手だ。 「言葉にしないと伝わらないよ?」 おや、フィン・ファルスト(ib0979)が居た。 「調べ物?」 「白兎のこと教えてほしいの」 「開拓者? し、失礼致しました!」 姿勢を正して敬礼する隊員、水月は嬉しそう。 「急いでるの」 「はっ! ご案内致します!」 空賊退治だと話すと、支援を申し出られた。 「悪い人たちなの?」 「良く居る義賊気取りですよ。商船を襲って、金品を貧しい者に配るようなはた迷惑な連中です」 当人は正義のつもりでも、社会を乱す悪党だ。 「森を拠点にしてるみたいだけど、アヤカシは現れないのかな?」 一年ほど前、大きな戦が起きた。この近くでも激しい戦闘があった。 「最近は大人しいものですよ」 天と儀のはざま、雲海を渡る赤金の轟龍。 「雲ばっかで何も見えねー!」 「愚痴るな糞ガキ! 突き落とすぞ」 火太名を操る劫光(ia9510)に怒鳴られ、後部座席のルオウ(ia2445)は首をすくめた。 「はいはい」 「やけに素直…てめぇ、さては白いのを持って来てねえな」 落ちても安心、白き羽毛の宝珠。 「心配ねえって」 劫光は舌を鳴らした。羽毛の宝珠があれば多分死にはしないが、こんな所で重体となれば大事だ。 「油断しやがって」 体を固定するロープを放り、火太名を潜らせる。ぶ厚い雲を突き抜け、眼下に広大な森が現れた。理穴との国境、魔の森に近い場所だ。 「池を探せ。船が確認できれば最高だが、欲はかくな」 空からの偵察は見つけやすく見つかりやすい。本日は晴天、アヤカシの影は無し。 「絶対見つけてやるよ。あ、何か光った」 水面の反射か? 「よし!」 望遠鏡を覗いていた劫光が轟龍を急旋回させた。 「あ」 ちょうどいいタイミングで突風が襲い、ルオウの体が浮く。伸ばした手はロープでなく、蒼天を掴んだ。 呆気ない。 「ヴァイス!」 一筋の光が急降下。激しい風が収まると、光翼を背負った赤髪の少年。 「ルオウ!」 「今度来る時は、持ってくるよ」 轟龍に戻ろうと顔をあげたルオウを、何かが追い越した。 「ん?」 振り返ると、ホバリングする蒼いグライダー。 「拾ってやるつもりだったが、余計なお世話だったな」 「おう、ありがとな」 操縦者は輝くゴーグルをかけた壮年の銃士。 「気にするな。開拓者殿とお見受けするが何か事件か」 「宝刀捜し。白兎って空賊が持ってるらしいんだけど、おじさん空賊?」 「ハルーっ?」 女の声だ。叢雲・暁(ia5363)は地面に伏せる。 暁は少し変わったシノビでNINJAを称する。隠密任務で派手な陣羽織を身に着けるのも、うっかりではない…多分。 「ハぁルぅーー! 本当にもう」 樹の上から若い女性が飛び降りた。前掛けをつけ、黒髪は頭巾でまとめられ、右手に刀。 「誰かそこに居るの?」 周囲を見渡す女。茂みに潜む暁は冷や汗ダラダラ。 「にゃあ」 草むらから白猫が飛び出した。仙猫のねこさんだ。 「にゃあにゃあ」 普通の猫ですよーとアピール。猫かぶりで油断を誘う。 「可愛い子猫さんね」 刀を腰に差して近よる女。そこへ子供が駆けてくる。 「わあ!」 子供はねこさんにダイブ。まだ幼い。泥と草だらけで白猫を捕まえた。 「お姉ちゃん、飛龍だよ。お父さんが帰って来たんだ。お土産は何かな、もしかしてこの猫かな!?」 姉の方は、じーっとねこさんを見つめている。無害な猫ですよと尻尾を振る。 「尻尾が二本あるよ!」 森の入り口付近。 偵察組の帰還を待つ間に、口論が起きた。 「交渉ですか?」 開拓者に同行する桃山真樹と、合流した水月。 情報収集を認めた桃山だが、空賊との交渉には難色を示す。 「空賊さん達、金品は奪うけど人は殺してないの。悪い人じゃないかも、なの」 白兎が起こした過去の事件を調べた結果だ。荒っぽい空賊かと思いきや、あの衝角は使われた形跡がない。 「元開拓者ですし、極悪人とは私も思いませんけど、交渉が上手くいくかは…」 「白兎…名前が可愛いの」 頬が引きつる桃山。 「こらこら、あまり依頼人を困らせるものではないな」 見かねて間に入る水鏡 絵梨乃(ia0191)。 「白兎のこと良くは知らないが、大事な商売道具を素直に渡すと思うか? 大金を提示すれば首を縦に振るかもしれない。しかし、空賊に資金を提供することになるぞ」 理路整然とした絵梨乃に、水月は狼狽える。 「どっちでも良いけど、戦うなら相手がこっちを認識しないうちがチャンスだよ♪」リィムナ・ピサレット(ib5201)はバッサリと言った。彼女は主戦派だ。やられる前にやれは戦場の鉄則である。倒れた敵は仲間を撃たないし、逃がす事もない。 「空賊相手なら奪い取っても良い、とは思えないの」 「律儀だなぁ」 空賊というだけで、開拓者が戦う理由は十分。情けをかける義理も無い。そもそも強襲作戦は既に進行中だったから水月の主張は弱い。彼女自身、ねこさんを偵察に送り出している。 「ううう」 「だったら、こういうのはどうかな?」 フィンが切り出す。助け船か、ドキドキする水月。 「空賊はやっぱり放置できないよ。とっちめて、超絶刀は頂こう」 まさに四面楚歌、水月は泣く。 「それで白兎が反省するなら、開拓者に復帰させる。義賊の真似事なんてやってる暇があるなら、大アヤカシと戦いなさいってね。今は一人でも戦力が欲しい時だし、一石三鳥でしょ」 思い付きで喋った。フィンも主戦派だが、殺すことは無いとも思っていたので水月に乗っかる。 空賊を退治し、超絶刀を奪い、開拓者を増やす。我が儘な話である。 「三兎を追うか、悪手だがさて」 偵察から戻った羅喉丸(ia0347)は唸る。 桃山は賛成も反対していない。落とし所があった方が戦いやすいのも確かだが、ケースバイケースだし、彼女には空賊の処遇にまで踏み込む義理も無い。つまり、開拓者次第だ。 「空賊って開拓者に戻れるの?」 「かなり難しいが、本当に人を殺していないのなら道はある」 約束は無理だが、相手を見定めた上で情状酌量の口添えくらいなら、羅喉丸も考えないではない。 「死者が出ないに越したことは無いよ」 絵梨乃は賛成の様だが、リィムナは不満。何故なら、彼女の使う術は開拓者でも瞬殺する。 「え、死なない死なない、血反吐をはいてのたうち回るだけだよ」 ともあれ、全員が揃わなければ結論は出せない。 「これを見てくれ」 羅喉丸は犬を連れていた。暁の相棒、ハスキー君だ。ハスキー君が咥えていたメモには忍び文字で。 『ネコサンガ ツカマッタ シエンコウ』 と書かれていた。水月は卒倒。 そのうえ、羅喉丸の話では高高度から偵察していた劫光とルオウが行方不明。敵船と遭遇した可能性が高い。 「留守じゃなくて良かったけど、急がないと逃げられちゃうね」 リィムナは気持ちを切り替える。停泊中を襲えなかったのは残念だが、獲物はまだ射程圏内だ。 「超絶刀って性能も分からないんだよね。本当に鍛え直して使えるのかなぁ」 木刀を鍛え直す、その発想自体にリィムナは懐疑的だ。 「本当に大アヤカシに通用するかも…疑問だよね」 フィンも半信半疑。何もしなくても浮く水上船と違い、飛空船に衝角は珍しい。ただの変態だったらどうしよう。 「鍛錬器具の類ではないか? 超絶刀を振れる者なら、何を使っても大妖と渡り合えると思うが」 「それだ」 羅喉丸の推測が、一番近い気がした。 一方、劫光とルオウの二人は、グライダーの案内でラビット号に乗り込んでいた。 「俺が船長のザック・フォレストだ」 握手を求めた男は、筋骨隆々のジルベリア人。 「ラビット号にようこそ。歓迎するぜ、客人たち」 「…おう」 戸惑うルオウ。先刻までこの船を強襲する気満々だったから、気持ちが追いつかない。 では何故付いていったかと言えば「それなら船長と話をしろ」と銃士に言われ、断る理由が思いつかなかった。出直すと言えば、その場で戦闘に突入したか、もしくは逃げられただろう。 「話は聞いた。俺達の逸物が欲しいそうだな」 無論、超絶刀の事である。乗船の際、二人は実物を拝んだ。磨き上げられた四十尺の巨刀が、本当に飛空船に生えている。非常識なものを見慣れた二人も目を見張った。 「意外と、違和感ないのな。かっこよかった」 「分かるか」 ルオウはぶんぶんと首を振る。 「どうやって船体のバランスとってるんだか、さっぱり分からん」 自身も飛空船を持つルオウは興味津々だ。 「やっぱ分散配置か? でも出力の問題あるし……宝珠機関はいいのを使ってんだろうな」 「ふふ、見たいか」 「見せてくれるのか!?」 (目ぇキラキラさせやがって) 劫光は警戒を怠らない。船長は戦士系、出迎えた空夫に弓士が居た。独立した空賊なら、宝珠に詳しい術師も一人は居ると考えていい。いざという時は船長を呪殺する。 「ほう、立花の雷神か! 噂には聞いていたが、お前が持ち主とは」 「へへへ」 船長室に通され、ルオウは脇差を持ち出して武勇談。狭い室内、抜けば殺せる距離である。 「豪胆だな。お前達、さっきは俺達が近くに居ると知ってわざと落ちた振りをしたな?」 二人を値踏みする船長。 「いいや、ただの馬鹿ガキですが何か?」 「謙遜は止せ。俺もギルドに居た身だ、噂ぐらいは聞こえるぞ」 例えばルオウは興志王も一目置く剛の者で、不厳王に止めを刺した者の中にもその名があるとか。劫光はといえばあの朱雀寮を卒業したばかりの逸材で、機械神の窮地を救ったこともある優秀な陰陽師だとか。 「偏った噂だな」 「皆まで言うな」 全てわかっていると、船長どや顔。 「決戦が近いこの時に、お前達ほどの知勇兼備の者が出向いて来たのだ。さぞ重大な依頼なのだろう」 「全然」 「言わなくていい。俺も本当は大アヤカシと戦いたかった。納得できぬ事があってギルドを離れたが、志は今もお前達と同じだ」 拳を固める船長。当惑して視線を合わせる二人。 「どういう事?」 「超絶刀を譲る! 落ちぶれたとはいえ、このザック・フォレスト。天儀の為と言われたのでは断れん!!」 「言った覚えもない」 話が旨すぎる。 「だが、家族だけは見逃してほしい。頼む」 「…なるほど、伊達に船長はやっていないか」 劫光は溜息をつき、汗ばんだ手を陰陽小太刀から離した。そこへ空夫が飛び込んできた。 「大変だ!!」 「客人の前だぞ」 飛空船の窓から、アジトの池が見える。その上空に、赤い照明弾が上がっていた。白兎におけるその意味は、聞くまでもあるまい。 「やってくれたな!」 話は少し前に戻る。 ラビット号は高空に留まっていた。その下を、そうとは知らぬ開拓者達が通り過ぎる。 先導するのはハスキー君。続いて、頑鉄に騎乗した羅喉丸が低空から侵入する。 「俺は囮として、正面から突入する。その間にみんなは敵の裏に回り込んでほしい」 「ルオウ達は?」 「捕まったか殺されたか。逃れていれば途中で合流できるかもだが、楽観は禁物だな」 絵梨乃は冷静だ。フィンは逡巡したが、悩むより敵に聞いた方が早いだろう。 「ちゃちゃっと済ませちゃおうね♪」 「殺しちゃ駄目、なの」 うるうると懇願する水月。猫質が心配、或いは人質も。死者が出ると取り返しがつかない。 「面倒がないと思ったのに」 渋々頷くリィムナ。 「ハスキー君!」 木陰で忍んでいた暁は、駆けて来た愛犬に抱き付く。 「船は!?」 「見てないよ。アジトはあそこ」 羅喉丸は躊躇った、暁はルオウ達も見なかったという。 「止むをえん、制圧する。だが殺すな」 「承知!」 即答した。状況についていけないが、無茶ぶりに応えてこそNINJA。 「僕の縦横斜めの三次元殺法を見せてやるよ!」 「殺すなよ!」 暁と羅喉丸が暴れ出し、急に騒がしくなる。 池の裏手に一番乗りしたのは花月と同化した絵梨乃。古酒をひっかけ、無造作に進む。外に出て来た空賊は、絵梨乃を見て吃驚。その背中から光る翼が生えていた。 「潔く投降すれば、痛い目を見ずに済むぞ」 「畜生!」 遮二無二突っ込んできた手槍を半身でかわし、相手の足を払う。二人目の山刀は腕ごと掴み、背負いの要領で転がす。動きで素人と分かったので出来るだけ手加減したが、空賊にしては弱すぎる。 「お前達では無理だ。開拓者はどこに居る?」 「誰が言うかよ!」 食い違う会話。制圧には元開拓者を倒すのが手っ取り早いのだが。 「お先に♪」 リィムナは絵梨乃の脇をすり抜けた。サジタリオと同化し、足に翼が生えた彼女は追いかける空賊を引き離す。 「ここかな」 大きな家の前で、リィムナの姿が薄れていく。 「間違いねえ、ギルドの開拓者だ」 照明弾を撃った空賊は、防戦には加わらず藪の中へ。茂みに偽装した木の枝を払いのけると、滑空艇が。 「早く船長に知らせねえと」 もどかしそうに宝珠を起動させる。浮いたと思った途端、かくんと機体が傾いた。 「降りて!」 尾翼に黒い鎖が絡み付く。鎖の先、茂みをかき分けて現れたのはフィン。 「さすがは元開拓者ね。池の周り、罠だらけじゃない。怪我したらどうするの?」 「くっ」 空賊が短銃を引き抜く。キニェルの腕輪を胸元に掲げて突貫するフィン。 「行くよ!」 銃弾を腕輪で弾き、魔剣レーヴァテインを大きく振りかぶった。 「何奴!」 「大当たりだね♪」 リィムナは、まるで見えない霧が掻き消えたように忽然と室内に現れた。部屋の奥に縛られたねこさん。あと幼子一人、空賊が四人。 (さてと、黄泉が手っ取り早いけど、釘刺されちゃったし…刺すのも) 錬力切れ用に、鑽針釘を懐に入れてきた。 「げふっ!?」 一番奥にいた空賊が、なぎ倒された。 「え?」 一瞬も目を離さなかったのに神衣を纏った少女はいつの間にか移動していた。振りぬいた小太刀は空を切り、そしてまた一人、殴り倒される。 「あっ」 白猫を片手に抱え、少女は元の場所に戻っていた。ちゃちな幻術では無い。 「…夜、か」 「分かっちゃうか、元開拓者だもんね♪」 恐るべきは秘術よりも、この少女。莫大な錬力を消費するシノビの秘術を、軽々と何度も使う。 「お姉ちゃん?」 不安になった幼子が姉にしがみつく。 「まだやる?」 「残念だが、少しも生き残れる気がしない。降参だ」 「良かった♪」 死者は居なかった。空賊達を殴り倒したのは、リィムナが右手に持つ分厚い古書。すごく高価。 本丸をリィムナが落とし、抵抗を止めない空賊はフィンが手加減で打ち倒す。制圧は無事完了。だが空賊の殆どは非戦闘員だった。山賊や空賊にも生活があるから、アジトが小さな村のようになることはままある。 「船はどこ?」 「近々、戦がありそうだって、都の方に様子を見に出かけたけど」 思案していると捕縛した空賊達がわっと騒ぎ出した。戻ってきたのだ。 「ルオウと劫光は俺達の船に居る。仲間を解放してもらおうか」 ラビット号からグライダーが下りてきて銃士がそう告げる。対峙するのは大いなる翼で飛行する絵梨乃と、頑鉄に乗る羅喉丸、便乗する水月。地上では暁らが捕えた空賊達を見張っていた。 「確かに知った名だが、信用できないな」 絵梨乃が言うと、銃士は合図を送った。すると上空の船の甲板に、二人が現れた。銃口が突きつけられている。 「隙を見て逃げるつもりだったろうが、あてが外れたな」 船長は冷たい目つきで、剣をルオウの胸に向ける。 「…」 「家族を人質に取るなんて、汚い野郎だ。見損なった」 「おい。開拓者は空賊の要求を呑んだりしない。俺達を殺しても、あんたの家族が地獄に落ちるだけだぜ」 劫光が言うと、船長は顔を歪めた。ギルドは武闘派だ。名だたる開拓者を殺されたら、絶対に報復する。 「ぐうう」 地上でリィムナは歯軋りする。飛空船の死角は船底、つまり船の真下。その位置に銃士のグライダーが陣取っている。銃士を倒して皆で襲い掛かっても、飛空船が逃げを打てばおしまいだ。 船の下方では水月が涙ながらに訴えているが、拗れた糸はそう簡単に解けない。進退窮まった。 「あんた達を倒しても奪うつもりだったけど、こんなのは本意じゃねえ。どうやって詫びたらいい。なんか俺に出来ることはねえか?」 ルオウが言う。 「無いな」 船長は空賊達を振り返る。 「野郎ども! こうなったらアレを使う」 「ア、アレをですかい!?」 甲板がどよめく。 「開拓者ギルドに、俺達の心意気を見せてやる。超絶刀は渡さねえ」 「せ、船長」 「さらばだ――総員、退艦!」 舵を握った船長が叫ぶ。空賊達は一斉に踵を返した。 「ええ??」 地上で成り行きを見守っていた暁は言葉を失う。突然、飛空船から人が降ってきた。 「か、火事? 誰かが暴れてるの?」 目を凝らす。滑空艇や龍に相乗りし、ラビット号から次々と離脱する空賊達。羽毛の宝珠を握り締めて飛び降りる者まで。正気の沙汰ではない。 「た、退避〜〜!!」 暁は捕まえた者達の縄を切る。彼女の勘が警鐘を鳴らす。これはきっとアレだ、落ちるやつだ。 「船長、あんた何を」 二人は船長に駆け寄った。計器を見たルオウは目を疑う。制御装置が壊され、宝珠機関が全開にされていた。このままでは、宝珠が暴走する。 「どうなる?」 「出力が全部浮力に回されてる。宝珠が壊れるまで急上昇して」 失速、そして墜落。超絶刀は大地に突き刺さり、木端微塵だ。 「心配するな、人の居ない所に落とす」 「ふざけたことぬかしてんじゃねえ!」 言葉より先に殴っていた。舵を奪い取る。船が振動し始めた。やばい。 「早く脱出しろ!」 乗り込んできた絵梨乃達に、船の暴走を伝える。 「困った空賊ね。羽毛の宝珠を持っていない人は? 人が残っていないか探してくるわ」 ヴィゾフニルと同化したフィンは自分の宝珠を空賊に渡し、船内に入る。 「水月、何をする気だ!」 羅喉丸が止める間もなく、水月は龍から跳躍して船首に取り付く。巨刀に手を伸ばし、ぎゅっとしがみついた。 「プレスティディヒターノさん、お願いなの」 幸いに術は失敗した。重さは無視されないので、万が一、成功すれば悲惨な事になったが夢中だったのだろう。超絶刀と肌を合わせた水月は巨刀から精霊力を感じた。霊木か。 「お持ち帰りは諦めろ」 ふりふり。抱き付いたまま、首を振る水月。 「正体も分かったし、ここまでやって手ぶらで帰るのもつまらんか」 劫光は火太名を呼ぶ。 「分かったのか?」 「簡単な話だぜ。刀じゃねえのさ」 なまじ刀に見えるのがいけない。刀工は、人間に持てない武器を作った。あれは最初から衝角だ。 「超絶刀はくれると言ったな。確かに頂くぜ」 ルオウは機関部に向かった。今からでは暴走は不可避だが、可能な限り遅らせる。その間に、劫光達は船首を破壊して超絶刀を奪う。船と運命を共にしようとした船長は、気絶させて銃士に引き渡した。 そろそろ紙面が尽きた。 最後に、開拓者達が依頼を果たしたことを書き記し、今回の報告を終える。 |