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■オープニング本文 「手前があるじの長衛門でございます」 「我らは、開拓者である」 米問屋采海屋に乗り込んだ完全武装の荒くれども。しかし、心当たりがない。 「何か事件でございますか?」 「采海屋長衛門、其の方は飢饉の折に不当な買い占めを行い、米価を高騰させて民を苦しめたな。実に許しがたい」 いきなり何事か。長衛門は仰天した。 「お待ち下さい。それは、あまりといえばあまりなお言葉」 「黙れ、言い逃れする気か」 長衛門の方もカチンと来たのだろう。姿勢を正して無法の輩と向かいあう。 「それではお聞き致しますが、米が少ない時にはどうすれば宜しいのですか」 「あぁ? 何を訳のわからぬことを……左様、お代わりを控えるとか」 「……食べる米の量を節約する以外に手立てはございますまい。ですが、いざ飢饉が起こった時には、ただそう心得ているだけでは足りませぬ。米価が高いからこそ、万民が米を我慢しうるのでございます」 そして少ない米を安く売ってしまえば、たちまち枯渇する。高値ならばこそ、飢饉でも米屋の倉にはお米が残り、いざという時の備えともなるのだと長衛門は力説した。 「農家からの仕入れ値も上がります。いずれの商人も米を確保しようと必死でございますから、どこよりも高値で買い取って米を守るのも、町の皆様のためを思ってのことでございます」 「ふん、さすがに口だけは達者だな。身勝手な屁理屈をこねおって」 勇を振るう商人の眼前に、鞘から抜いた白刃が向けられる。 「だが、俺達は誤魔化されんぞ。悪逆非道に泣かされた多くの民になりかわり、貴様を成敗いたす!」 「ご無体な!」 「問答無用!」 長衛門を突き飛ばし、仰向けに転がった商人の肩に刀を突き刺した。 「ぎぃあああああ!!!」 長衛門は暴れるが、刀身は床まで達しており、貫かれているので、まるで虫のようにあがくのみ。 「安心せい、殺しはせぬ。おい番頭!」 立ち尽くす使用人に、凶漢の仲間が麻袋を放った。 「我らは天儀を救う開拓者だ。大妖討伐の為、軍資金を集めておる。お主らが貯めこんだ悪銭も、金に違いは無い。我らに使われるなら罪業も洗われるというものだ。観念して潔く、有り金を差し出すが良いぞ」 無茶苦茶だ。が、話の通じる相手ではない。番頭と手代は、店の金を残らず渡したのだった。 「――てな、事件が起きたんだが」 半時も経たぬうちに、耳の早い御用聞きがギルドに駆け込む。 「騙りでございます!」 係員は必死。よしんば登録されていたとしても抹消する気満々である。 「慌てなさんな。俺もそんな開拓者が居るなんて思っちゃいねえよ」 十手持ちはまあまあと手を振り、係員を落ち着かせる。 「襲われたのが評判の悪い商人だってんで、今すぐどうこうって事にはならねえと思うが、こういう事は早く片付けた方がいいやな」 「親分、よく知らせてくだすった」 係員は無造作に掴んだ小判を相手の袖にねじ込む。その重さを確かめて、岡っ引きは腰をあげた。 「なるべく面倒は起こさねえでくんな。それを言いに来たのさ」 「勿論」 証拠など塵一つ残さない。あいや、ギルドの手で必ず汚名は返上する。 偽開拓者狩りである。 「御用聞きの言葉を信じるなら、まだ遠くには行っちゃいまいよ。こんなことに役人の手を借りるまでもありません、私達の手で落とし前をつけましょう」 係員は近くにいた開拓者を片っ端からとっ捕まえて強盗捕縛を依頼する。 目標の生死は不問。草の根わけても探し出し、報いを受けさせるのだ。 この種の犯罪は模倣犯が現れる可能性が低くない。なるべく早急に、そして完璧に始末したかった。 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 「入らねぇのか」 野次馬をかき分けて采海屋の前に立つ。 「勢いで来ちゃったけど、この雰囲気は苦手だわ」 暖簾越しに聞こえる啜り泣き。背中に刺さる非難の視線。開拓者が強盗を働いた店、入りづらいなぁ。 「おう、萬吉。どこ行ったのかと思ったぜ」 「ちっ」 中年の同心が顔を出した。正面に立っていた川那辺 由愛(ia0068)は、おっさんに見下ろされて舌打ちする。 「…ほぉ、さすが萬吉親分は仕事が早ぇや」 岡っ引きに付いてきた四人を一瞥。大極図をあしらった狩衣姿の由愛はいかにもな陰陽師。忍び装束を裏返した笹倉 靖(ib6125)は部外者に見えなくもないが、雁首揃えたこの状況では苦しいだろう。 「俺は同心の須垣ってもんだ。早速ですまねえが、中で色々と聞かせてもらおうか」 「勿論よ。だけど、あたし達も偽者が現れたって聞いて駆け付けたばかりなの。色々と教えてほしいわね」 物怖じしない由愛に、同心はちょっと迷ったが。 「番頭さん、済まねえがもういっぺんだ」 襲われた時の様子を聞いていた途中らしい。 「宜しいのですか?」 番頭は怖れと疑いの目を向ける。自称開拓者に襲われた直後、当然といえば当然の反応である。 「騙りの塵屑と一緒にしないことね」 由愛が睨むと、番頭は震えた。 「怖がらなくても良いのに♪ 僕は君達の味方なのだー♪」 場違いなほどテンションが高い野乃原・那美(ia5377)。同心の脇をすり抜けて宙返り、あっと思った時には土間を飛び越えて畳の上に座っていた。 「味方、ですと?」 「仇は討ってあげるね♪」 笑顔で忍刀を抜く。番頭は息を呑む。開拓者らを案内してきた格好の岡っ引きは、しかめっ面である。 「もう少し、空気を読んで下さると有り難ぇんだがな」 「どうも開拓者暮らしが長いと、浮世離れするようだ。困ったものだね」 少しも困った風でない九法 慧介(ia2194)に、岡っ引は溜息をこぼす。察するに係員が同心達との連携を嫌ったのは、こうした面倒を回避したかったのだろう。殊に、憎しみと疑いの目を向けられるのは気分の良いものではない。 「だけど、斬って捨てるだけという訳にもね」 慧介は夜春の術を使う。一種のフェロモンだ。とりあえず、同心が仲間達を番屋にしょっ引こうと考える前に、この場を収めなくては。 「聞いたかい? 開拓者様が采海屋を懲らしめてくれたらしいよ」 「そ、そうなんだ。へぇ…」 店には入らず、野次馬達から聞き込みを始めた星風 珠光(ia2391)。 「いい気味さ。あんな金の亡者、くたばっちまった方が世のためだよ」 「おい声が大きいぜ」 やはり采海屋の評判は悪いらしい。 「やったのは、どんな人だったの?」 「大きな侍が刀でバッサリって話だぜ。って……娘さん、ひょっとして開拓者かい?」 ぶるぶる。 思わず否定した珠光。しかし、おっとり刀で駆け付けたものだから、死神の鎌を背中にしょったままだ。 「開拓者ギルドだ!」 「何ぃ、まさか俺達の開拓者様を捕まえようってのか」 事件現場に開拓者が現れれば、そう思うのが普通だ。 「人を刺してお金を奪った人を捕まえるのが、悪い事なの?」 野次馬の罵声を、珠光は率直に返す。 「相手は人でなしの悪徳商人じゃねえか」 「どんな理由があっても、人が人を刺していいはずが無い。ボクには許せないよ」 売り言葉に買い言葉。本心とは違ったかもだが、公然と言い合いになれば止まらない。 「だそうだ。耳が痛くない?」 暖簾越しに外の喧騒を眺める靖の視線を受け、今にも鯉口を切りそうな那美はケタケタと笑う。 「何で? 人を斬っちゃいけないことぐらいボクも知ってるよ♪」 「あんまり虚ろなことを言われると、不安になるんだけど」 靖は疲れていた。嘘を吐くつもりは無かったが、のっけから開拓者とばれたので采海屋の店員の態度がよそよそしい。重体だった長衛門の命を救ったのは靖なのだが、感謝の言葉さえ微妙に響く。 「事件の前後で、大八車が一台無くなったそうだ」 賊の逃走手段を調べようと、この町の運送関係を当たっていたラグナ・グラウシード(ib8459)。 ところが。仲間は奉行所だと聞き、合流してみると同心達が慌てて捕り物の準備をしている。 「実は、北の方角に飛び去る二匹の飛龍を見たという人が居まして」 「何、本当か?」 慧介の話では目撃者は複数いて、北側の番所にも連絡したところ、確かに事件の後、二匹の飛龍が町の外に飛んでいくのを見たそうだ。 「それでは」 「ええ、偽…かどうか怪しい雲行きです。今、ギルドの係員が呼び出されたところだ」 龍を使うとなれば、一般人の線はほぼゼロ、単なる山賊の類とも考え難くなる。飛龍は稀少だ。 身分の高い者か、或いは開拓者でなければ所持は難しい。 「そうか……で、なぜ那美は小躍りしているのだ?」 開拓者が合法的に斬れる♪と幸せそうなのは彼女だけで、事態は緊迫している。 熟練の開拓者は中級アヤカシ、下手をすれば上級アヤカシにも匹敵する戦闘力を持つ。つまり、本気を出せば町の一つや二つは壊滅させられる訳だ。極端なことを言えば、強盗事件のはずが反乱にまで発展しかねない。 そんな馬鹿なと言いたいところだが、相手は白昼堂々と表通りの大店を襲った凶賊。奉行所も大慌てになる訳だった。 「止むを得んな。私達が先鋒となり、ケリをつけるしかあるまい」 「そうかな?」 意気込むラグナに、慧介は水を差す。 「俺達が受けたのは、あくまで偽者退治です。相手が命知らずの騙りと聞いたから引き受けた依頼だよ。本物だというなら、依頼の情報が間違っていた訳だから、俺達が戦う筋では無いと思うけど」 「き貴様ぁ、本気で言っているのか!」 胸倉を掴むラグナ。一触即発に、周りで聞き耳を立てていた御用聞きが止めに入った。 「九法さんの言うことは、もっともだ。偽者か本物かでは装備も準備する術も違いますからね。無論、まだ本物と決まっちゃいないが、ギルドの方で別の開拓者を用意させてもらいましょう」 現れた係員がそう宣言すると、ラグナは目から火が出そうだった。 「正義は死んだ!」 「はいはい、暑苦しいのはいいから、さっきの話の続きを聞かせてくれる?」 奉行所から出たところで、由愛が小声で聞いてきた。 「さっき?」 「大八車が消えたんでしょ」 「それがどうした。依頼は終わったのだろう」 「ふふふ」 忍び笑いを洩らす那美。 「楽しみはこれからなのだ〜♪」 ??? 呆けたままの武骨な騎士。 「つまり、こういう事です。偽開拓者狩りは、まだ終わっていない」 涼しい顔の慧介。 「これ見よがしに飛龍で逃げるなんて、囮の可能性が高いかな」 珠光の言葉に、おーっと感嘆するラグナ。 「見当違いかもしれんけど、あのまま奉行所と一緒に行動してたら自由に動けないしね」 肩をすくめる靖。係員もそれを分かっていて、あの場で彼らを外す発言をしたのだという。 「偽者でも本物でも、ギルドとしては偽者として片をつけたいってことだね。先輩にこんなことを言うのも、何なんだけど」 後半は珠光に向けた発言だ。靖がギルドに入ったのは、珠光が依頼を受けなくなってからである。 「ボク、足を引っ張ってるかな? 依頼を受けるのは四年ぶりなんだよ」 「全然〜。むしろ、色々と気を遣ってて疲れないかなって思うけど。依頼ばっか受けてると、厚顔無恥な奴ばっかりよ? 誰とは言えないんだけどね。命は惜しいから」 日常的な生と死、細かいことに目を瞑らないと務まらない荒事。 「他人の気持ちに無頓着になるところはあるかしらね。こっちも、あまり余裕はないから」 奔放で無頼な由愛にしては珍しい相槌と言ったら失礼か。由愛も古参の開拓者、実は珠光とも何度か同じ依頼に入った事がある。昔馴染みが減っていく中、復帰する者は数少ない。 「話を戻すよ♪ 僕達は大きな勘違いをしてた。目標は本物の開拓者として、捜査をやり直すんだよね♪」 いい笑顔で話を進める那美。余談だが、この娘は常に笑顔なので実質的にはポーカーフェイスとも言える。暗殺者の素質というものか。 「むぅ、しかし開拓者なら移動手段は龍や飛空船、精霊門まであるぞ。逃げ放題ではないか?」 天儀中を飛び回り、他国はおろか他の儀にすら逃げられるのでは追跡は不可能だ。ラグナの危惧に、ちっちっと指を振る那美。彼女は初めから相手が同業者と考えていた。 「飛空船や精霊門なんてすぐ足がつくよ。足取りを消すのは、初歩の初歩だね♪」 ギルドに所属していても、シノビなどはヤバい仕事を請け負うことがままある。開拓者を続けられるのは証拠を残さないからだ。 「龍も目立つから、追跡しやすいよ。もし飛び去った背中に乗ってたら雑魚だから逃がしても惜しくないかな♪ 多分、まだ町に居ると思うよ」 采海屋を訪れた者が一目で見破られたように、開拓者は目立つ。それが先入観だ。町に潜伏して捜査状況を確認し、ほとぼりがさめた頃に密かに脱出。その間に別の依頼を受けておいて、依頼に遅刻したように頭を掻きながら都に帰還する。履歴の上ではアリバイがあり、足跡さえ消しておけば露見する心配もない。 「凄いな、まるで経験者のようだ」 「とんでもない♪」 開拓者は秘密がいっぱいだ。詮索は野暮か。 「とすると、最初の相談通り、夜陰に乗じて逃げるかもしれないと」 「そういうこと♪」 連中が動きやすいように、奉行所の面々には龍を追いかけて貰った方が都合は良い。その上で、連中がまんまと逃げきるのが早いか、こちらが潜伏先を突き止めるが早いかの勝負となる。 「相手が同業者なら、最強の装備で挑むしかないでしょうね」 美しい兜をぬぐ慧介。彼の装備はどれも逸品だが、それ以上の名品を持ってきているのだろうか。 「皆さん、すみませんが装備はすべて外して、服はこれを」 「みすぼらしい只の服にしか見えないが?」 古着屋で借りて来た一番安い服だという。言うまでもないが、宝珠一つ付いてはいない。 「裸同然が、最強?」 最強のシノビはマッパだ…冗談は置いといて、開拓者とは装備品だと言っても過言ではない。少なくとも外見上は。奇抜なアイテムの数々を外し、ぼろを着込めば、例え知人でも気づかない。 「まあ、依頼中の開拓者とは思わないでしょうね。術が使えないもの」 由愛は落ち着かない。子供っぽくは無いだろうか。気になって仕方無い。 「いやだー、うさみたんと別れるぐらいなら死を選ぶぞー!」 ラグナは兎の縫いぐるみに固執したが、そんなものを背負っていては明らかな異常者なので引き剥がした。 着流し姿になると、確かにまるで別人だ。 「敵は俺達の事を知っていると考えた方がいい。町の噂になっているし、もしかすると顔見知りという事もあり得る」 要するに、現状ではいつもの恰好での聞き込みは無理なのだ。 「この装備はいわば、見えない鎧だね」 臨機応変、千変万化。手品に通じた慧介ならではの、相手の心理に仕掛ける術。 おそらく敵も似たような恰好だろう。但し、潜伏者である敵の方は丸腰では有り得ない。その差に賭ける。 「あっ」 暗い夜道で珠光がこけた。 「夜光虫を出していたら、転ばないのに」 「夜とはいえ、開拓者がこんな道で転ぶ方がおかしいのだが、ドジっ娘か?」 ラグナが手を差し出す。六人は二人一組で聞き込みを続けた。不可視の鎧は存外に効果的で、情報収集は順調だ。 「極悪人の采海屋に天誅を下した正義漢がいるらしいね」 「ああ、これで二木村の連中も成仏できるってもんだ」 靖が聞いたのは飢饉で特に被害の酷かった村の名だった。相当の餓死者が出たらしい。不作の原因を米屋が負うのも妙な話だが、采海屋が悪いという事になっていた。 「使用人達の話だけど、采海屋は飢饉の時、町から一人の餓死者も出さないで頑張ったらしいよ」 しかし、米は足りない。二木村が割を食ったのか。 「もし犯人が開拓者なら、依頼人は誰だろう?」 「偽開拓者に依頼人は居ないよ」 慧介は立ち上がる。奉行所の捜索隊は昼間に出発した。二木村は、町の南にある。 小石を握りしめていた。 父母は飢饉で死んだ。 大人たちは、悪いのはさいかいやだという。 町に行って、この石をさいかいやに投げてやろうと思った。 「そんな事をしても、父と母が悲しむだけだぞ」 「待っておれ。俺達が代わりに懲らしめてやる」 ガラガラと音を立てて、一台の荷車が町を出る。気に留めた者も、荷車を押す人影のみすぼらしさを見れば、興味が失せた。 「待て」 荷車を引っ張る大男が、腕をあげた。前方に、ぼろを纏った六つの影。 「ここまでか」 「そうだ! ここが貴様らの終点と知れ!」 一斉にぼろを剥ぎ取る。先頭は大剣を抜いたラグナ。 「お前らの何が駄目かって、開拓者名乗ったことだよ。ただのチンピラならもう少し逃げられたかもしれんが、自分たちの名が汚されて笑うようなお人よしじゃないんだよ」 輝く扇を広げる靖。そう、開拓者と名乗らなければ。 「逃げ切れる自信があったのかな。綱渡りな計画だったと思うが」 業物を平正眼に構える慧介。考えているようで色々と抜けている。 「僕は君たちに感謝してるけどね♪ 開拓者を斬れる機会なんて滅多にないし」 那美は変わらぬ笑顔だ。 「そうね…大人しく、あたしらの酒代になってもらいましょうか」 死刑宣告のように呪殺符を振る由愛。 「武器を捨てて…投降するなら、命までは奪わない。采海屋も助かったし、今ならまだ」 心情を吐露する珠光。ブランクゆえの甘さか。己にも良く分からない。 「是非に及ばず」 荷車に手を突っ込み、大太刀を引き抜く侍。一味も彼に続いた。 強かった。 フル装備なら危なかった。 「金か?」 「…金など。…成り行きだ、奴が謝れば小金で許すつもりだった。殺したかと思った、そうか助かったか」 地面に突っ伏した侍。慧介の三段突きは致命傷。靖が治そうとするが。 「要らぬ。先に逝った仲間に合わす顔が無い。…なあ、この銭は村に…」 こと切れていた。 「何で、こんな事になったのでしょう?」 「さあね。おおかた、力があって正しければ何をやってもいいとでも思ったんだろう。世間では、そういうのを悪漢というのさ」 戸惑う珠光に、適当なことを言って靖は煙管に火をつけた。 まもなく朝だ。 事件は偽開拓者の仕業として処理される。金は当然、采海屋に戻る。 「そうですか。ご苦労様でした」 報告を受けた係員は、事件の火消に金をばらまいたらしい。由愛の言うことには、その資金源は連中の装備品だという。 「連中にも親兄弟は居るのにね」 「二木村にも金を送ったそうですよ」 彼らの報酬にも少し色がついたが、飲んだらなくなった。 「ボク、呑むとお腹が痛くなるんだけど」 「復帰祝いなのだ♪ 乾杯〜♪」 杯を傾ける娘たち。 「楽しい事ばかりではないけれど、おかえりなさい」 「ただいま」 終わりの始まり、その直前の出来事である。 |