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■オープニング本文 もしも、志体持ちでなかったら。 ギルドに入ることもなく、今とは全く別の人生を歩んでいたに違いない。 一度くらいは、夢想したことが無いだろうか。 此度は、そのようなハメに陥った不運で幸運な開拓者たちの物語である。 頭がもやもやする。 やけに重たい瞼をうっすらと開けると、知らない天井を見上げていた。 ここは、どこだ? 仲間は…いや、どうしてこんなところに。 「おや」 見知らぬ家の中だった。 不安そうに私を見つめる家人に、仲間の行方を尋ねてみた。 「は?? いきなり何を言い出すんだ?」 「おおかた、夢でも見たのだろうさ」 まるで取り付く島もなかったが、敵意は無いようで、私への気遣いを感じる。 仕方なく、近くのギルドの場所を訊いてみたが、返ってきた答えに驚いた。 「まるで開拓者様のような言い草だな」 その通りなので頷くと、一瞬の間をあけて、それから酷く笑われた。 「ま、まだ夢から覚めてないらしい」 「お前が開拓者だって? そいつは傑作だ」 さすがに、少し不愉快だ。証を見せようとしたが、おかしい。力が出ない。 気力をありったけ振り絞ってみたが、苦労して覚えた術も技も、怪力も神速も何もかもが、体から消えていた。 これではまるで、本当にただの人間みたいだ。 「どんな夢を見たかは知らないが、諦めが肝心だぞ」 「ああ、俺たちは開拓者様にはなれない。精霊様がお決めになったことさ」 開拓者には志体持ちしかなれない。持たざる者はどれだけ努力しても無意味だ。 そんなことは分かっている。私は、志体持ちのはずだ。 「だから、夢だよ。そいつは夢さ」 馬鹿な。 あの開拓者としての日々が現実ではなく、ただの夢まぼろしだというのか…。 そんなことがあるわけない! 周りの人々のいうことには、自分は志体持ちではない一般人で、もちろんギルドの開拓者でもないという。 信じられなかったが、今の自分が何の力も持たないことは事実だった。 「都から来た行商人が、面白おかしく開拓者様のことを話していたから、お前さんはそれに影響されて、開拓者になった夢を見たのじゃないかね?」 そうなのか。 開拓者だったというのはただの夢で、無力な一般人こそが現実だと。 「ほら、夢ばかり見ていないで仕事しろ仕事」 「そうだそうだ」 「アヤカシなんかと戦わなくていいから、働いて家をしっかり守ってくれよ」 それなりに大変ではあるが、日常的に死んだり殺したりしない。それが自分の本当の人生……。 ここは都から離れた鄙びた小村。 煌びやかな世界とは無縁だが、アヤカシもほとんど現れない平和な集落。 時折おとずれる旅人が天儀の乱世を教えてはくれるものの、それは異世界の出来事のように縁遠いものだった。 ギルドの開拓者とは対極にある世界。 まるで夢のようで、 まさに悪夢だ。 雰囲気はほのぼのとしているが、たちの悪い謀略だった。 開拓者達をまんまと夢に引きずり込んだ夢魔は、隣人に化けて好機を窺っていたのだから。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柄土 神威(ia0633)
24歳・女・泰
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
焔翔(ic1236)
14歳・男・砂 |
■リプレイ本文 「元修羅の焔翔(ic1236)だぜ。よろしくな元開拓者ども」 視線が少年の赤い髪に釘づけだ。 「修羅が人間になるなんて、聞いたことがないわね」 ここは彫師の柄土 神威(ia0633)の山小屋だ。 「私も驚いている。角が無くてもこの美貌とは」 ラグナ・グラウシード(ib8459)の発言は概ねスルーなので、以後は割愛。 「アヤカシの仕業だ! よーし天才のあたいがやっつけてやんよ!」 気勢をあげるルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)。ルゥミは名の通った開拓者だが、年端もいかない幼女だったはず。しかし、目前の彼女は妙齢の女性。 (まさか、あれは私の妄想…) (そんな趣味は無いはず) 男達の狼狽ぶりが面白い。 「アヤカシのせいなのか? 訳が分からない。開拓者の記憶はあるけど。皆も知っているだろう、うちは貧乏農家で弓矢も無いのに」 途方にくれる篠崎早矢(ic0072)。 「篠崎さん、落ち着いて。不思議な状況だけど私達は一人じゃないわ」 平静を装う神威だが、同じ悩みを抱える仲間が居ると知った時は泣いた。心から安堵した。 「まさか夢と現実の区別がつかなくなる時が来るとは。開拓者なら、こんな場合はどう考えるだろう」 羅喉丸(ia0347)は夢の中の己に自問する。 「ギルドで聞いてみるっす」 即答する以心 伝助(ia9077)。 「そうだな、専門家に相談するのが一番だ。この中に陰陽師や巫女は居ないか?」 「残念、あたいは砲術士だよ」 「あっしはシノビっす」 泰拳士、シノビ、砲術士、騎士、弓術師、砂迅騎。どうやら魔術の専門家は一人も居ないようだ。門外漢ながら、開拓者をただの人間にしたり種族や年齢まで変えるなんて非常識すぎる。ルゥミの言う通り、アヤカシの仕業と考えるのが妥当か。 「私達は開拓者だった。だけど強力なアヤカシに力を奪われたのか」 「力を奪えるなら、一思いに殺すんじゃね」 目覚めたら開拓者の記憶と一般人の体だった。直前が良く思い出せないから幻術かとも思うが、それだけでは焔翔達やルゥミの状況は説明できない気もする。 「開拓者の霊が俺達に取り付いて、夢に現れたってのはどうだ」 「これが他人の記憶とは思えん。同じ魂を持った別の存在……そうか、私達は伝説の勇者の転生。戦いの刻が近づいているのか」 若干一名、絵巻物レベルの想像に夢中だが、そこまで飛躍しなくても一つの仮説が可能だ。 「夢魔」 「他に思い当たらないな」 夢を操るアヤカシ。力はたいして強くないが、寝ている者の夢を操り、人を取り殺す。 だが、どっちだ? 夢魔の仕業なら、答えは二つある。開拓者の夢を見せられた一般人か、一般人の夢を見続けている開拓者か。 「開拓者の夢を見せられた、と考えるのが現実的だな」 「そうね」 「どうしてそうなった!」 他に答えがなければ別だが、現実が夢で夢が現実と思う奴はいない。それが逆転した現実だとしても。 田んぼの畦に、体育座りで佇む巨漢がひとり。 「遊んでないで、働いたらどうだ?」 「羅喉丸」 両足を抱えたまま、ラグナは体を横に倒す。暇そうである。 「拳星と謳われた貴公が、いつまで農夫の真似事を続ける」 鍬を打ち込む手が止まる。 「また夢の話か」 開拓者ギルドに夢魔退治の依頼を出すことになっていた。 「私は、都の娘どもにモテモテの英雄だぞ。この姿はかりそめだ…ふああ」 寝ぼけ眼をこすり、起きるかと思ったらそのまま畦に寝そべる。 「それにしても解せぬ。この村の女たちはこの麗しき美青年を見過ごしていて平気なのか」 真顔である。 「何の話だ」 「ハンサムな私の話だが?」 畑仕事を手伝う村の女達が吹き出す。どうしようもねぇ。 「困った奴だな。働いて嫁を貰え。そうすれば落ち着く」 「…働けば今よりモテるか」 正座になった。 「比較する方がおかしい」 「ふふふ、他の男衆が可哀想だが。甘いものでも食べながら話そうか」 「今日はよくこけるっすねぇ」 山道で尻餅をついた伝助は、首を傾げつつ頭上を見あげる。あの枝に飛び乗ろうとした。 出来ない気がしなかった。 「ごめんくださいっす」 足首を痛めた伝助が向かったのは、先日も訪れた神威の山小屋。山姥でも出そうな風情だが、黒髪の美女が出迎える。 「何かあったの?」 伝助の姿を見て、構えていた鉈をおろす。あんな夢の後だ、神経が過敏になっている。 「猟師も木から落ちたっす」 事情を話して休息を請う。山菜の篭を一瞥し、神威は緊張を解いた。 「仕事の途中だけど、どうぞ」 神威は作りかけの木像に向き合い、淡々とノミを入れる。 「へぇ……って、こりゃ何でやす?」 有り難い神霊でも彫っているのかと覗くと、百足と蛇と狐を混ぜたような異形の怪物。 「邪神」 何でそんなものを。 「…魔除けかしら? 理由なんて考えたこともないけれど」 部屋の隅に、名状し難い魔物の像が散乱していた。どれも砕かれるか割られていて完成品は一つもない。心の闇を感じる景色だ。薄気味悪く思われても仕方無いところだが、伝助はちょっと驚いただけ。 「おかげで助かったっす」 応急処置だけして、立ち上がる伝助。 「村へ戻るならこの手紙を届けてくれませんか」 「あっしは飛脚じゃないっすけど、いいでやすよ」 花火師のルゥミ宛だという。 「それでね、小母さんがいうには年頃の娘は早くショタイを持たなくちゃいけないんだって」 「一般論にすぎん」 篠崎早矢は気のない相槌を打つ。 ルゥミが殆ど一方的に話している。ここは花火師の家。話題は年頃の娘らしいガールズトークと言えようが、ルゥミは面白がるばかりなのであまり色気のある話でもない。 「あたい、お見合いするんだって。お雛様みたいになれるかな、ちょーおもしろいね」 娘盛りの花火師がはしゃいでいる。見合い相手はどこかで聞いた名前。ああ、同じ村の若い男なんだから当然か。 「家庭を築き、大地とともに生きる。開拓者などより、真っ当な生き方だな」 子供を多く生んで、沢山の孫に泣かれて生涯を終える。それが幸せというものらしい。養子でも何でも行って、一人でも開拓者を輩出すれば武門の誉れ……貧乏農家には縁遠いはずの思考が脳裏をかすめた。まあ、当たりを引けば一攫千金くらいは誰でも思うことだ。 「良かったら食べてくれ、うちで獲れたかぶらとゴボウだ。そうそう、あの焔翔に犂の修理を頼んでみたのだが」 あまり馬が合うとは思えない二人が友達になった理由は、よく分からない。ただ会った瞬間、死線を潜り抜けた戦友のような感情を抱いた。思い出すのは夢の光景、あれは死を弄ぶ大妖との決戦。 「私が最初に頼んだんだぞ」 何度目かの集まり。焔翔は、犂はまだかと早矢に噛みつかれる。 「だってよ、鍛冶屋は俺一人だし、ルゥミは面倒くせぇ物を依頼しやがるし」 ほぼ全員が焔翔に何かを頼んでいた。いつアヤカシに襲われるかと不安なのだ。 「そんなに大変か」 「人間やったのは初めてだぜ。大変なんてもんじゃねえよ」 きついノルマをこなすため金床の前にへばり付いた焔翔は、筋肉痛で悶絶し、這いつくばって床を舐めた。初めて試すような事も、少し練習すれば何とかなってしまう志体持ちとは違う。例えば鍛冶師は一人前になるのに何十年とかかる。何年ではない。 「なるほど…ルゥミの家が吹き飛んだのも」 「すごい爆発だったね!」 雪のような銀髪は所々焦げて、まるで灰かぶり。それでもルゥミは元気だ。失ったステータスは如何ともし難いが、知識は無事。ならば研鑽あるのみ。 「大丈夫だよ、理論的には! 毎日練習してるし!」 おそらくルゥミは一月以内に爆死する。 「頼もしいが、最後の手段だな」 「ギルドからの返事は来たっすか?」 羅喉丸は首を振る。依頼が受理されても、事前調査、開拓者の募集と色々手間がかかる。現状、本人達の記憶だけの話だから、緊急性が低いと判断されれば、何か月も待たされるかもしれない。 「こちらから出向く事も考えたいが、皆の意見はどうだ?」 「ならば私の出番だな。村の警備にも飽きたところだ」 ごろごろしながら聞いていたラグナが、のっそり立ち上がる。 そろそろ気づいた者も居ようが、今回の最適職は夢見がちな無職である。現実を疑うことに抵抗が無く、変人扱いにも怯まない。人生が破たんしている故に、世界さえ敵に回せる。何故だろう、まったく褒めた気がしない。 「一人は不安ね」 「あっしがお供するっす」 伝助が手をあげた。職人達は手が離せないし、農家は繁忙期。猟師の自分が一番手すきか。 「頼んだぞ」 仲間から路銀を受け取る二人。神楽の都はさすがに遠いので、村から一番近い支所を目指す。 「急ぐぞ伝助」 意気軒高のラグナ。並んで歩く伝助を置き去りに大股で先を急ぎ、体力が無いのでふうふう言っているところに伝助が追いつく。その繰り返しだ。 「なんで有頂天なんすか」 ギルドへ向かう道。気が重い。猟師生活は嫌ではなかった。むしろ山に生かされている気がして、安らぎすら感じた。 「元の世界に戻りたくないのか? 思い出せ、お前は腕のいいシノビだった」 伝助は引きつる。腕のいいシノビ、それは天魔外道と同義だ。口に出来ぬ過去を抱えるという事だ。 「あっしには関わりのねえことでやす」 「つれない奴よ、あの雪空の下で、熱く語り合った仲だろう」 「へ?」 首を傾げる伝助。 「私は覚えているぞ、お前は言ったな――あの木像はいいものだ、と」 不意に視界が開けた気がした。命も凍る真冬、邪淫に耽る魂の熱気に包まれたあの場所で。 「――え、冤罪っす! う、兎の縫いぐるみを連れた残念騎士にだけは言われたくないっす」 「うさみたん! なぜ私は忘れていた。ふむ――やはり、伝助は私の知る伝助だな」 語るに落ちる。夢の内容の暴露は、ともすれば希薄になる現実を明朗に思い起こさせる。ただの夢と片づけさせない。 「普通は躊躇するはずなのだけど。自分すら疑わしく、誰が敵で味方か分からない中で、平然と一線を踏み込えるか。まさに切り開く者の名に恥じぬ馬鹿ですね」 気が付くと、伝助達の前にカエルの着ぐるみが佇んでいた。ちょうど口の所に黒髪の青年の顔がある。 「やあ、おはよう」 「おはよっす。もう朝すか」 首をひねる。何か変だ。 「依頼の件は聞きました。はじめまして、私は四之倉春と言います」 「新入りか」 春は開拓者名簿を見せてくれた。予想通り、7人の名は無い。 「やっぱり」 現実が夢で、夢が現実のわけがない。分かっていたことだ。 「納得するのですか?」 「だって、この通り。それに夢だったら痛くないはずっすよ」 頬をつねる。痛い。 「痛いから現実だと。夢魔の夢は人が死にます。胡蝶の夢をご存じで? 現実と変わらない夢も、あるかもしれないですよ」 「それでも夢っすよ」 もしこれが夢なら、幻であるはずの者が夢だと教えてくれるはずがない。 「おや。敵が敵で味方が味方とは、シノビらしくもない」 「実は、縁談の話が来た。男どもの前では言いだし難かったが、一応知らせておく」 「仲間だね!」 ためらい気味の早矢の告白。 「あなたの所と同じだ。年頃の娘がおかしな夢ばかり見ていたら、さっさと身を固めさせるのが親心か」 だが縁談が進めば身動きが取れなくなる。そもそも、婿候補はあの四人だ。 「私のところにも同じ話が来ているわ。やれやれね、私にはもう夫が居るというのに」 溜息をつく神威。心中は複雑だが、あの二人がギルドに行っている間は話が進む事は無いし、事件が解決すれば枕を高くして寝られる。いや逆か。 「修羅の人生でも、夫と共に歩むなら涅槃を得られる」 答えを得た気がした。 「もっと話したかったのですが、時間切れのようです」 いつのまにか、ラグナ達は村に戻っている。二人の背後にはカエルの着ぐるみ…ではなく、一匹の鬼が居た。 「こっちだ!」 異変に気づいた羅喉丸が二人を誘う。 「鬼野郎!」 投槍器を構えた焔翔が、鬼に向けて短槍を投擲。命中した。 「見たか!」 挑発的なポーズ。だが、ただの人間の粗末な投槍、ほぼ無傷なのは知っている。 村は恐慌状態だ。逃げ惑う人々をかき分け、農耕馬にしがみつく早矢が鬼に接近した。 「近すぎる!」 「今のうちに逃げて下さい!」 二人を逃がす隙をと、馬上で投げ矢を放つ。当たらない。鬼は避けようともせず、たてがみを掴んだ。 「夜空!」 一人目の犠牲者だ。 敵はただの鬼。開拓者なら一対一で倒せる。しかし、相手が一般人となれば話が別だ。 殴られたら腕は千切れ、頭は潰れる。避ける事もままならない。 圧倒的な魔物である。 「いやぁ、こっち来ないでよ!」 這って逃げるルゥミ。現実と身長差が大きすぎる彼女は、必死で走るとバランスを崩した。不器用に何度も転びながら逃げる彼女を追う鬼の足元が、不意に地中に消えた。羅喉丸とラグナが汗をかき、畑の中に用意していた落とし穴。 「落ちろ」 まだ片足。全身を落とそうと羅喉丸は体でぶつかる。 「うさみたーん!」 一人では力不足、ラグナも鬼に抱き付いた。二人の体当たりに、たまらず鬼も大きく傾く。 「大変! 二人とも落ちちゃった!」 「助ける時間は無いわ」 ルゥミは慌てて手を振るが、神威はリンをまぶした彫刻刀を抜き放つ。 火は穴の底にまいた油に燃え移っていく。穴の底には神威や焔翔の失敗作から作った木槍や鉄槍もどき、それにルゥミ渾身の花火爆弾が敷き詰められている。 「逃がしたらお終いっすよ」 篭の下に隠していた網を掴み、穴に駆け寄る伝助。網を投げ込もうとした彼の視界が真紅に染まる。穴から出ようと跳躍した鬼の腕が伝助の体をひっかけ、地中に引きずりおろした。 「近づくと危ねえ! 槍を投げるんだぜ」 焔翔は離れた場所から、ありったけの槍を放った。ルゥミも残った花火を投擲する。火花が顔に当たるが、構う余裕はない。槍や死体を足場にして、凄い形相の鬼が穴から顔を出そうとしていた。 「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」 「私が最後だったと思うわ。半分以下に削ったとは思うけど、倒せてはいないはずよ」 「なら、どうして私達は生きている?」 開拓者達は目を覚ました。 体内を巡る気を、力を感じる。間違いない。 「角が、あるぜ。ま、俺が人間なわけねーし」 修羅は修羅に。 「分からないが。あれほどの妖術、負荷がかかりすぎて破れたのかも」 「正義は勝つ!」 疲労は感じるが、命に別状はなさそうだ。 「体が元に戻ってるー。あはははは」 「帰ってこれたんすね」 係員によると、彼らは辺境の村の依頼を受けた事になっていた。そろって寝坊とは何事だと怒られたが、代わりの者を派遣したという。事情を話すが、証拠が無いので信じて貰えない。 「夢でも見たんじゃないですか?」 「係員なら開拓者を信じろよ」 「はいはい、夢の世界でも冒険とはご苦労なことですな」 「……」 ふと考えてしまう。 本当はまだ目を覚ましてはいないのではないか。 まだ夢の世界が続いているのではと。 |