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■オープニング本文 石鏡国篠倉郡篠倉。 三位湖の北側、理穴との国境にほど近い辺境域。 ひとことでいえば、どこにでもある小さな田舎町。 数か月前の五行戦ではアヤカシの強襲を受け、村一つが全壊。 いまだ復興の半ばだが、今回の依頼はそうした状況とは無縁である。 「僕を守れ」 篠倉代官所経由で開拓者ギルドにやって来た少年は、思い詰めた表情で繰り返した。 「命を狙われている。とびきり腕の立つ護衛を雇いたい」 「ふむぅ」 係員は唸った。尋常でないのは少年の口ぶりで分かるが、一見して町人の子供がどんな難題を抱えてしまったというのか。 「穏やかではございませんな。いったい、誰に命を狙われているのですか?」 「当ててみろ」 「‥‥皆目分かりません」 少年は冷笑を浮かべた。 「僕の敵だ。そんな事も分からないのか?」 弱った。係員は額の汗を拭いつつ、引き攣った表情を隠す。 「すみません、貴方の敵とは一体?」 「無論、僕の覚醒を恐れる闇の勢力さ」 春だな。 「僕が話しているのにそっぽを向くな」 ふと遠い眼つきで窓の外を眺めていた係員は、慌てて頭を下げる。 「相済みませぬ」 「ふん‥‥真眼を持たぬ木端役人か。僕の力が覚醒しなかったら、この世界は闇に飲み込まれて消滅するのに、安穏と生きることしか知らない無能め」 確かに理解出来ない。が、全くの与太と断じるのは早計か。 「というと、闇の勢力とはアヤカシのことですか?」 「アヤカシなんて、闇の勢力の先兵に過ぎないよ。僕を狙っているのは、おそらく真妖か、もしかしたら魔王かもしれない」 駄目だ。 お引き取り願おう。 「申し訳ございません、急用を思い出しました、お話はまた今度‥‥」 少年の手を掴んだ係員は、予想外の強い力で突き飛ばされた。 「僕に触るな! 覚醒していない僕の力は不安定なんだ。闇の引力に捕われてしまえば、大変なことになるのが分からないのか」 柱に叩き付けられた係員は、痛みで少年の言葉は耳に入らない。だが、事情は理解した。この少年は、志体持ちだ。 「依頼人は篠倉の町に住む植木屋の政三さんの一人息子、英太君十二歳。本人は気付いていないようですが、志体持ちです。自分を特別な存在だと思い込んでいます」 係員は集まった開拓者達に依頼内容を説明する。 「あんた、ちゃんと説明してやったんじゃないのか?」 「それは勿論、志体持ちの事はその場で説明いたしましたが、英太君は自分はもっと特別な存在だと信じ切っておりまして‥‥光と闇の融合がなんたらかんたら」 苦笑を浮かべる開拓者達。彼らにも経験が無いことは無い。突然目覚めた力に戸惑ったり、自分が特別な存在だと考えるのは、思春期の志体持ちには良くあることだ。 「武家ならともかく、一般人となると少しばかり面倒だが。御両親に説明して、然るべき知識と道標を与えてやるのが一番だろう。まあ、一般人のままでも良いが、このご時世だ。武家の養子の口もあろうし、本人が望むなら開拓者にするのも良い」 「ああ、可能性は色々だな。とりあえず、周囲の理解は不可欠だが」 英太本人が力を隠しているので、今のところ周りの大人達は気付いていないようだ。例の無い話ではないが、あまり良い状態とは言えない。 「つまり、依頼としては、俺達がそのガキンチョに志体持ちの事を教えて、ちゃんと理解させればいいのかね?」 「それも一つ。ただ私としては、依頼主の意向も尊重したいと考えていましてね」 「というと」 命を狙われているという少年の言葉、係員はそれを完全な虚言とは思っていなかった。少年が志体持ちと気付いた悪い輩の接触、或いは気付かぬうちに少年がその力で誰かに迷惑をかけた結果、という事は十分に有り得る話だ。 「‥‥なるほど、確かにな」 「ですので、皆様には少年の護衛を引き受けて頂き、その上で彼に志体持ちの事を教えてあげてほしいのです」 「任せておけ。思春期の思いこみなんざ、通過儀礼みたいなもんさ。それを俺達のようないい大人の指導が受けられるとは、運のいいガキだぜ」 さて、どうだろう。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
オリヴィエ・フェイユ(ib9978)
14歳・男・魔
江守 梅(ic0353)
92歳・女・シ
久郎丸(ic0368)
23歳・男・武
篠目つぼみ(ic0839)
16歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「こういう子供の未来は、大概三つや」 植木屋の政三を訪れた八十神 蔵人 (ia1422)。 サムライが来ただけで衝撃なのに息子が当事者と云われては、政三も女房も気が気でない。 「志体の力で調子に乗り、道を踏み外す。ここまでは皆通る道や」 両親の困惑を知ってか知らずか、長煙管を弄びながら淡々と続けた。 「あとはお定まりの、面倒起こして賊に身落とす。何者にも成れんと半端なごろつき人生に沈む。誰も付いてこれんようになったぼっちは変態に染まる。息子さんの将来は、残念やけど最後の奴やな」 紫煙を吐く。無慈悲という他は無い。 「俺の息子が、変態だと」 「ウチの子だけは違うと、みんな言うねん‥‥!」 大仰に嘆息し、準備した紙束を政三の前に置く。 「部外者に見せたらアカンのやけど‥‥ギルドで取り扱った変態の過去事例の報告書の、ほんの一部や。‥‥残酷やけど、これが現実や」 政三は振り上げた拳を下ろし、書類を掴んだ。コピーで事足りる時代とは違う。冗談でこんなものは用意しない。英太が志体持ちでギルドの厄介になっている、少なくともこの事実は動かし難い。 「損な役回りを引き受ける男じゃねぇ」 出て来た八十神に、長屋を見張っていた江守 梅(ic0353)が声をかけた。江守は齢九十を越えるが未だ現役のシノビ。 「まさか」 「はて?」 「家族なんて、壊れる時は一瞬や。わしは、そんなもんに遠慮して時間潰したないから説明しただけや。あとはどうなろうと当人次第やね」 眉を顰める老婆。 「汝も少年と同じ病に罹っとりゃせんかね」 「あん?」 「若造が、良く知りもせんと悟った口を利く病どす。ばぁばは、家族やら人生やら、よぉ口にしませんでのう」 そんな口上はせめて孫の嫁入りを済ませてからにしろと、老婆の茶飲み友達が言ったとか言わないとか。 「語るのは一通り経験してからか‥‥古臭いが、一理ある。せやけど吐いた言葉は戻らん。これが性分や、婆殿勘弁してえや」 軽口を叩いて両手を合わせる八十神に、江守は肩をすくめる。 「僕がこの世界に転生したのは、精霊と闇にも想定外の事態だった。未来記に書かれた破滅の時は十万七千年後。おかげで僕は、本来の十万分の一の力しか発揮できない」 「十万分の一でそれかよ! 凄ぇんだな、英太は!!」 目を輝かせて英太を見るルオウ (ia2445)に、少年は顔を赤らめた。今までそんな相手が居なかったのだろう。 「信じる‥‥難しい。勇者と、精霊の混血‥‥、そ、そんなことが、あるのか?」 深刻に受け止める久郎丸(ic0368)。 「信じられないのも、無理は無い。人は光と闇を併せ持つ希有な存在なんだ。でも僕は超人として生まれる筈だったのに、只の人になってしまった」 「分から、ない‥‥どういう意味、か?」 「光と闇は対極のようで、一つなんだよ。未分化のまま生まれてしまった僕は光にも闇にもなりうるということさ」 「ほう、英太様は難しい事を良くご存知ですね。陰陽師がそのような話をしていたのを聞いた事がございます」 感心した風に頷く篠目つぼみ(ic0839)。 「まあ、ね。彼らも良く勉強しているとは思うよ。だけど、隠された真実には気付いていない。闇の勢力に踊らされているとも知らずにね」 「ほうほう」 三人とも、彼の話を端から怪しんではいない。それが英太には嬉しい。目は口ほどに物を言う、相手が子供だからと適当に話だけ合わせても態度は伝わるものだ。初めて、理解者を得たと思った。 「先の世でも、英太様と一緒だったのでしょうか?」 「え?」 小首を傾げる篠目を、英太はまじまじと見つめた。 「君は、前世の記憶があるのか? ‥‥そんな、まさか‥‥」 英太は苦しそうに左腕を抑えた。 「大丈夫か?」 「ああ‥‥最高の気分だ。君達も、選ばれた戦士だったとはね」 「何話してるんだろ」 英太達から離れた場所で待機するエルレーン(ib7455)、三笠 三四郎(ia0163)、オリヴィエ・フェイユ(ib9978)。 「今のところ、異常は無いようですね。‥‥依頼人とも、打ち解けているようですし、ひとまずは順調ですか」 三笠は主に長屋の周囲を警戒していた。エルレーンは会話が気になったが、英太を刺激しない程度に距離を取っている。 「転生戦士なら、真実を語ろう。先程までの会話は忘れてくれ。あれは一般人に聞かれても問題ない偽装さ。真実世界の真実は、限られた者にしか明かせないのでね」 羽が生えて英太の妄想話がすっ飛んでいることなど知る由も無い。 「ボクにも覚えがあります」 読みかけの本から顔をあげ、オリヴィエは目を細めた。 「父が学者というだけで、この世の全てを知っているかのような気持ちになったものです。周りの大人がとても愚かに思えて、ボク一人だけが真実の扉を開いてしまったような万能感‥‥今思えば、恥ずかしいだけですけど」 照れ笑いを浮かべるオリヴィエ。その仕草は少女のように可憐だが、実は年上っぽいので下手に突っ込むのは止めるエルレーン。 「私には‥‥無かったかな、そーいう時間は」 エルレーンは板塀に頭をくっつけて、近づきたいが警戒されそうだと自問自答して地団駄を踏む。 「古の契約の呪を唱え、真の力を解放すれば君達の能力は百倍に強化される。それも本来の姿と比べれば十億分の一に過ぎないよ。それは真妖と天魔の制限が‥‥」 「今すぐ矯正させる必要はないのでは‥‥無いでしょうか」 躊躇いがちにオリヴィエは話した。 時間が解決する可能性は高い。多くの開拓者が、それで何とかなっているのは事実だ。下手に刺激したが故に裏目に出たケースもある。 「うーん、うそ、ってゆーには、なぁんだか‥‥だけど、いきなりひてーしても、かぁいそうだしね。でりけーとな問題なんだよ、ね」 「天と儀の気を体に通すんだ。体中の力を抜いて、ただ真の姿を強く念じればいい。神気覚醒は初歩にして奥儀と呼ばれる大事な技だ。今すぐ伝授したい」 「‥‥狙われている危険も軽視は出来ませんから。私達は、ただ彼を守れば良い‥‥私はそう思います」 武辺者らしい三笠の言に、エルレーンとオリヴィエは頷いた。三人とも思春期の扱いが得意だなどと嘯く自信は無かった。通り一つ隔てて、仲間達が英太と必死にタコ踊りをしているとは、気付きようも無い。 「おい貴様」 護衛を交替して早々に三笠は英太に問い詰められる。 「何でしょう?」 「何だ、じゃない! 貴様は一体何者だ!」 凄く怒っている。心当たりは無い。 「見張りです」 「目立ち過ぎだ!」 美しい龍の刺繍が鮮やかな龍袍を纏い、頭上には炎火の冠、顔は牙の面に覆われ、両手には三叉戟。殺る気満々の戦士然とした三笠が、貧乏長屋の物影に潜んでいるのは、不自然ではある。 「‥‥」 先程のルオウ達も相当な武装をしていたが、舞い上がっていた英太は気付かなかったらしい。幾分落ち付いて、隣近所の好機の目が気になりだしたか。 「護衛ですから」 「時と場所を考えるんだ。ふん、開拓者に常識は無いのか」 云われ慣れた苦情。三笠の返答も決まっていた。 「御言葉ですが、これが開拓者の常識です。常在戦場、何があったとしても私はあなたを守る。これは、その為の装備です。敵は時と場所を選んでくれませんので」 アヤカシとは原則、命のやり取り以外に選択肢が無いので、常に最大の装備で備える。軽装で不覚を取るよりは、依頼主や町の人々から疎まれる方が良い。それが依頼人の不利益になるとしても、己と依頼人の命が最優先だ。 「‥‥」 武天辺境を生き抜く武家の心根は、石鏡の田舎暮らしの少年とは一線を画する。 「俺の家の前で、大声出してるのは誰だ」 政三が顔を出すと、剣呑な顔付きだった英太が狼狽した。 「こ、これは違うんだ」 「‥‥人様に迷惑かけやがって、この馬鹿野郎が!」 政三の拳は、寸前で三笠に掴まれる。 「俺は親だぞ!」 「誰であろうと、依頼主への危害は許せません」 二人の間に入りつつ、三笠は仲間達に目で助けを求めた。 「ごめん、無理」 と、おどおどした挙動で物影にふぇいどあうとするエルレーン。オリヴィエはルオウ達と付近の聞き込みに出かけている。 「英太様の父君ですか。こんにちは、ギルドより英太様の護衛に参りました。篠目と申します」 状況が分かっているのか居ないのか、丁寧に頭を下げる篠目。十二単に身を包み、弓を背負った少女の挨拶に、政三は。 「お嬢さん、依頼とやらは中止だ。こいつと今から話があるから、済まないが詫びは後日改めてさせて貰う」 「そんな‥‥ハッ、まさかお父君は既に闇の魔の手が‥‥」 速射で矢をつがえた篠目。 「そその手を離しなさい!」 声と手は震え、矢は政三の眉間に――。 「なんか‥‥あっちゅう間に話が横滑りしたのぉ」 滑りこんだ八十神は煙管で篠目の弓を逸らした。その拍子に、放たれた矢は長屋の柱に突き刺さる。 「心優しい勇者様の父親にしては、短気やね」 「汝が煽った結果じゃろうに、冷や汗が出ましたぞえ」 咄嗟に母親を庇っていた江守は忍刀を仕舞う。汗が出たのは防寒装備のせいだろう。季節は初夏。開拓者の装束をいちいち突っ込んでいたらキリは無いが、ちなみに長屋に出入りして不審がられないのは、丸腰で、遊び人風に見えない事もない八十神くらいか。 「早晩ばれることや」 八人の開拓者が乗り込んでいるのだ。両親に露見しないと考える方が嘘くさい。 「道端で長話は近所迷惑やでー、はよ中に入れてんか」 政三は拒否したが、それが通る状況でも無い。外に出ていた仲間も呼び戻し、英太と八人と両親が、狭い長屋にぎゅうっと押し込められた。 「算段があるのかい?」 「これなら傷は残るが誰も死なん。優しい結末なんぞ、ある訳無いやん」 重苦しい沈黙の後、 「志体持ちなのか?」 政三が切り出した。 「違う」 俯いたままの英太。 「英太の力は神体と言うらしいぜ。神代に似てるよな」 ルオウが小声で言うのを、久郎丸が口に指をあてて止める。 「ひ、秘密だと、云われた。約束、守る」 ルオウは頷いたが。政三は知ってしまった。黙秘で凌ぐのは難しくないか。ルオウのアイコンタクトに、久郎丸は唸る。相手がアヤカシなら、雷槍を奔らせる所だが。 ま、まずは、自己紹介、か。 「久郎丸‥‥だ。落ち着け、や、闇の勢力じゃ、ない」 頭巾を取ると、青白い不気味な肌が露わになった。 「神威人、だ。こ、孤児だから‥‥何の神威人かは、判らん、が」 「‥‥何だね?」 政三は煙草盆を引き寄せた。女房に注意され、火を点けずに煙管を咥える。 「英太は‥‥い、異端の血筋に生まれ、争わねばならぬ宿命、とは‥‥さぞ、こ、孤独、だろうに‥‥独りは、辛い。‥‥た、助けが、要る‥‥」 たどたどしい物言い。ただ、開拓者の中で彼が一番親身であったろう。絶望的な劣等感、撥ね退けるでなく甘受している男だ。 「云いたい事はそれだけかい。こっちは朝まで仕事で疲れてるってのに、情けない話になってるねぇ、おい」 政三はどす黒い眼つきで英太を睨んだ。 「志体か‥‥俺が世話になった大工の棟梁の知り合いが、神宮の宮大工をなさってる。頼んでやるから、修行してきな」 「へ?」 「宮の者は志体もよくご存知だ。大工が嫌いでも、性根を入れて励みさえすりゃ身の立つようにして下さる」 父の言葉に、英太は微動だにしない。 「どーいうこと?」 「適切な教育を受けろって話やね。ごろつきや開拓者にするより、まともな選択や」 戸惑うエルレーンに、八十神が教える。助言したのは彼だが、腑に落ちない。 「‥‥ふうん」 エルレーンは、よく分からなかった。英太は優しい少年だ。優しい父母が居て、まともな選択をしてくれる。何と、羨ましい話だろう。 「僕は、安須になんかいかないよ!」 「何だと?」 「選ばれた戦士が集まるのを待たなくちゃいけないんだ」 「この野郎!」 バッ! 止められなかった。政三の平手が英太を打つ。が、英太は倒れない。父親の手を払いのけて少年は立ち上がる。 「打ったな」 「打ったがどうした」 英太は政三に背中を向けた。 「さよならだ」 飛び出した英太を、ルオウ・久郎丸・篠目の三人が真っ先に追い掛けた。 「遠くまではいけない‥‥ことは無いですね、志体なら。町を出る前に連れ戻せれば良いのですが」 溜息をつく三笠。開拓者が八人も居て、護衛対象を逃がすとは。 「腐っても志体‥‥おっと、神体やった。ルオウ達は感情移入しとったし、鮨詰めではしゃーないわ」 八十神は政三に向き直る。 「蛙の子は蛙やな」 「‥‥何の事だ?」 「詮索はそこまでどすえ。まもなく日暮れ‥‥彼が心配です」 満足な聞き込みは出来なかったが、不審な男達がうろついていたこと複数の証言が取れていた。 「志体持ちの子供をかどわかすとか、生成姫がまさにそうやん。案外、妄想も吹き込まれたものかもしれんなぁ」 「大切なのは彼の気持ちです」 オリヴィエは渡せなかった重箱に目を落とした。 「親や友達と離れ、見知らぬ土地へ行けと言われるのは悲しい。英太君が寂しさを抱えていたとしたら、尚更では無いでしょうか。戻ったら彼の話を良く聞いてあげて下さい」 何が正しいか、では解決できない問題がある。 「驚かしやがって。ただの変態じゃねえか」 三人が英太に追いついた時、少年は男達に取押えられていた。早速、伝授されたばかりの不思議な踊りを披露したが。 「‥‥?? 失敗した、だと‥‥」 「諦めては駄目です。もう一度、最初から」 両腕を高く掲げ、全身の力を抜き天地の気を感じる。全身をうねるように激しく振動させ、一心不乱に秘呪を唱える。 「‥‥あー、どこの変態のお兄さん方か知らねえが、俺は霞の親分の舎弟で亀衛門てもんだ。生憎と今は取り込み中でな、悪いが出直して」 云い終わらぬ賊の肩に、矢が突き立つ。 「私も、英太様のように悪しき者を討つ為に家を出たのです!」 篠目の一矢を合図に、乱戦が始まった。 「少々腕が立つぐらいで‥‥おい、数はこっちが上だ。あの変態どもを畳んじまいな」 亀衛門の号令で、十数名の賊が三人を囲む。 「ぜってー守るって約束したからな」 「この程度、なら‥‥変身、できなくても問題、ない」 賊も数名は志体だが、三人には余裕があった。ルオウを倒すほどの手だれは居なかったし、すぐに仲間が来てくれる。そもそも、英太が覚醒すれば一瞬だ。 「何で、僕は覚醒しないんだ」 「妄想やからね」 程なく賊達は鎮圧。代官所に引き渡したが、何も出来なかった英太の落ち込みは酷かった。この日の為に練り上げた筈の秘術は一つも形を為さず。 「気にするな」 「そうそう、まだ時が満ちていないだけですよ」 「手加減したんだろ? あいつら、只の盗賊みてぇだったし」 蹲った栄太を励ます仲間達。 「そう‥‥だな」 少年の心は挫けない。 いつか天儀を救うその日まで。 彼らの聖戦に終わりはないのだから。 つづきません |