あの森を討て
マスター名:松原祥一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/24 08:33



■オープニング本文

 ぞわ‥‥ぞわぞわ‥‥
 ‥‥どどどど‥‥‥!!!!

 ひくい地鳴りの音が、大きくなる。
 それは――『森』だった。
 動いていることに気付くまで、時間が掛かったのは、あまりに大きく、そして緩慢だったからに他ならない。
 泥のついた根っこが数mも振り上げられ、頭上から叩き落とされる。

 巨大な枝が岩を掴みあげ、異音をあげながら限界までしならせると、投石機のように勢いよく巨石が撃ちだされた。高々と空中に放り投げられた石は、放物線を描いて飛び、遠く離れた民家に命中。茅葺き小屋を粉々に吹き飛ばした。


 とある辺境の街から、森に襲われていると救援要請が届いた。
「どういう意味さ? まさか魔の森に足が生えて、襲って来たとでも言うの」
「おや、ご存知でしたか」
 根を足のように動かして、1時間で数十mといった非常に遅い速度で、木々の群れが移動しているのだという。
「移動する森の中央に、高さ30mを超える巨木がございまして、どうやらこの巨木が、森を動かすアヤカシの本体のようでございます」
 巨木アヤカシは何かが近づいたり、進路に障害物があると大きな石を飛ばして破壊しているそうだ。
 現在、動く森の進路には一つの街がある。街の領主は自警団を動かしたが、団長が馬ごと岩に潰されて撤退。いまは住民を避難させているが、合わせてギルドに森の討伐を依頼してきた。
「相手が樹木だと言うなら、やはり燃やすのが一番か?」
「生木は簡単に燃えないぞ。油など大量に用意すれば有効かもしれんが、巨大な松明を街に放り込むようなことになっては、目もあてられぬしな」
「巨木を仕留めるのが得策とは思うが、まわりの木もアヤカシなのだろう?」
「うむ。強くは無いが、枝やツタを絡めたり、鋭い葉を飛ばすものもあるそうだ」
 一つ一つはそれほど致命的な問題ではないが、確実に倒すには準備や作戦が必要なようだ。

 開拓者が街に着いてから、およそ三日ほどで動く森は街に到達する。
 それまでには街の住民達は、近くの村などに避難を完了する予定である。
 街と動く森の間は概ね平原だが、小さな林や低い丘などはある。川は無い。
 自警団の人数は20名ほど。原則、街の住民避難に動いているが、頼み込めば迎撃の準備などは手伝ってくれる。志体持ちは居らず、錬度は高くない。団長が圧殺されて及び腰であり、討伐に駆り出す場合は士気高揚の手段が必要と思われる。


■参加者一覧
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
来須(ib8912
14歳・男・弓
草薙 宗司(ib9303
17歳・男・志
正木 雪茂(ib9495
19歳・女・サ


■リプレイ本文

「よく考えたら‥‥森退治とか、岩が降るとか、少人数で対処するレベルじゃないよね。僕たちはバカですか」
 塹壕にもたれて、蒼空を見上げる草薙 宗司(ib9303)。
「臆したか! この程度の烏合の衆、蹴散らしてこその開拓者だ!」
 武者ぶるいを覚え、愛槍をしごく正木 雪茂(ib9495)。彼女はこれが愛馬との初陣で、腕が鳴ると言っていた。
「30人くらい居れば、もっと楽に戦えますよね」
「仕方あるまい。戦いはここだけでは無いのだ」
 今この時も、天儀中で人とアヤカシは争っている。ギルドは開拓者に勝算の無い仕事は回さないが、確実に安全な仕事も無い。
「もし僕らが負けて、アヤカシが勝ったら、彼らはどんな世界を作るのだろう」
「本当に大丈夫か? 不浄の世など、考えるだけ無駄だ! いやいや、そもそも我々は絶対に負けない!」
 宗司を怒鳴り付け、槍の穂先を向ける雪茂。
「怖気づくのは弱いからだ。貴殿も、鍛錬が足りぬようだな」
 二人は、開拓者としてはまだ駆け出し。田舎では負け知らずの若者が、世界は広いと現在進行形で実感中といったところか。
「怖いものは怖いです。仕事はしますけど――結局、どこでも僕は騎士なのかなぁ、なんだこれ」
「減らず口はここまでだ、新兵ども。来須(ib8912)の犠牲を無駄にするなよ、来るぞ!」
 頭上を飛び過ぎた駿龍が、戦いの合図。グレートソードを握る大男が、塹壕の間を抜けて敵――移動する森を見据える。
「ラグナ殿、前に出ては危険だ」
「奴の射程は身体で覚えた。いかな精密兵器も、射程外では‥‥っ」
 腕を組んだラグナ・グラウシード(ib8459)の真横に、巨岩が落下。
「ぶはぁ――突撃準備! レギ、来い!!」
 大剣を杖代わりに立ち上がる巨漢の声に、旋回した駿龍が陣地の前方に着地した。

「森の木々が風にそよいでいる――遅すぎると、動いていることが分かり難いです。気づいたときには岩でペシャンコ」
「まこと、蝸牛のようじゃわい。だが、そのゆるりとした足取り‥‥此処で少しばかり止めてもらおうか」
 穴の一つに隠れていた鈴木 透子(ia5664)と椿鬼 蜜鈴(ib6311)は、それぞれの術を解放。
 地面から立ち上がった石壁が、開拓者と森を遮った。それだけではない、いつのまにか周囲を霧が満たしている。視界を消す程では無いが、心身を蝕む瘴気の霧。
「目晦まし程度ですが」
「引っかかってくれると良いのう」
 ストーンウォールを張り続ける蜜鈴。長い詠唱が必要なので、本来は敵前で使える術では無いが、敵が遅い上にラグナ達が囮になってくれている。
「ここはわらわに任せい。おんしには算段があろうが、のう?」
 煙管を玩び、紫煙をくゆらせる蜜鈴。死を撒き散らす戦場に似合わぬ艶姿。
「おっとっ‥‥はい、お任せします」
 瘴気を散布していた透子は泥に足を取られかけ、ずれた市女笠を直すと陣地を託して退いた。

「ペケっと参上です」
 両腕に鎧を装備したペケ(ia5365)は、森アヤカシ前列の足元‥‥もとい、根元に鋼拳を叩き込む。太い根を断たれ、前のめりに倒れかける木アヤカシ。
「はわわわ!!」
 ペケは一撃離脱で駆け抜ける。襲いかかる鞭のようにしなる枝や、絡みつくツタを間一髪、かすり傷ほどで避ける。開拓者と言えど、絡め取られ、押し包まれれば命は無い。
「ギリギリですーっ。石が降って来たら、お陀仏だったかも‥‥おおっと!?」
 不意に黒い影が落ち、横跳びに避けるペケ。降ってきたのは岩でなく、大量の泥。
「動く森に足りぬ機動力、それを補い余りある正確な投石。厄介な相手だが、俺達には強敵に備える術がある。――勝負だ」
 斬竜刀「天墜」を構えた琥龍 蒼羅(ib0214)は足並みの乱れた森に吶喊。立ち塞がる大木を、文字通り、真っ二つに切り裂いた。


 数日前。
「準備する時間があるのは幸いだな。先ず、迎撃地点を定めたい」
 蒼羅は用意された地図に目を落とす。簡素な地図には、街と動く森の現在位置、それに周辺の地形が記されている。
「私は、この平地が良いと思う」
 雪茂が指差したのは動く森寄りの平地。予想では明日、動く森が通過するはず。
「一日あれば、形にはなるだろう。私も手伝わせてもらう」
 期限は三日だが、なるべく街から離れた場所で戦った方が被害は少ない。一当てして倒せなかった場合、次の攻撃を行う猶予がある。
「一理あるのう。じゃが、おんし忘れておらぬか。人手はあの者らだけじゃぞ?」
 煙管で外を差す蜜鈴。
「確かに。あのへっぴリ腰どもに、一日で防御陣地を作れってのは荷が重過ぎる」
 肩をすくめた来須を、雪茂は睨んだ。
「いくら将を討たれたとて、街を守るのは自警団の役目! それを我らに任せきりとは‥‥気概が足りぬのだ!!」
「俺に怒るなよ。ただなぁ、連中の気持ちも考えてやんな」
 割に合わない仕事だと来須は小声でぼやく。
「森が来るとか、なんかおぞましいですね。まあそれを潰せば、コッチの株も上がるんでしょうけど」
 宗司は淡々と言い、仲間を見回す。
「動く森なんて私も聞いたことないですよ。でも、何とかしなくちゃですから、褌締めて頑張るです」
 褌に手をかけて気合を入れるペケ。
 開拓者たちの議論は、いつ迎撃するかに絞られていた。明日か明後日か、それとも明々後日か。迎撃地に関しては、基本的には掘れるだけ穴を掘り、あとは開拓者のフォーメーションと連携の確認といった所だ。
「ところで、鈴木の姿が見えないが?」
「百姓達に聞きたいことがあると言って出掛けたぞ」


 森に近づく二匹の飛龍。
「来須!? 低すぎだ、もっと高度をとれ!!」
 高空を飛ぶラグナは、来須の駿龍が低空から侵入するのを見ていた。
「見物だけで帰る気はねえよ。やれる事はやっとかねえとな。何のために二騎で飛んでると思ってんだ」
 風読のゴーグルをかけ、長弓を構えた来須。駿龍に森に突っ込むコースをとらせた。
「俺の得物がどれほど効くか分からねぇ。ザコい木で試し撃ちだ‥‥くそったれ!!」
 弓術師の視界いっぱいに、巨岩が写る。
「来須ぅーーーーっっ!!」
 直撃、墜落する来須の駿龍。迷わずラグナは急降下した。
「‥‥運が悪かった‥‥ぜ」
 血を吐く来須を担ぐラグナ。
「馬鹿野郎、こんな所で死ぬんじゃない!」
 振り返ると、巨木は第二射の準備に入っていた。
「うおおぉぉぉっっ!!」

「偵察に行った開拓者が、やられたそうだ」
「団長と同じだ。こんなところでグズグズしてたら、俺達も岩の下敷きだぞ」
 鍬を捨てて、作りかけの空堀から逃げ出す男たち。
「何をしている、持ち場に戻れ!」
 宗司に腕を掴まれ、抵抗する自警団員。
「こんな穴なんて、掘っても無意味だ!」
「岩は確かに防げぬが、時間稼ぎにはなろうて。もう少しで良い、協力しておくれ」
 両手を合わせ、蜜鈴は頼んだ。
「か、開拓者でも勝てねえじゃないか」
「言うてくれるのう。じゃが、来須は我らの中でも一番の小物‥‥等と気取るつもりは無いが、負ける気はせぬのう。おんし等に戦えとは言わぬ。じゃが、街を守るために、手伝うておくれ」
 自信満々の蜜鈴に、青年たちは立ち尽くした。
「俺達がこいつを作ったら、奴を倒して、くれるのか?」
「ジルベリア騎士の名にかけて!」
「滅してくれようぞ」
 開拓者達の気に圧されて、作業に戻る自警団員。様子を見ていた者達も、穴堀を再開する。
「あー、僕何やってんだろ」
「それにしても飛竜すら墜とすとは、桁違いじゃの。よく命があったものじゃ」

「低空飛行が、幸いしました」
 透子は来須の治療を手伝った。
「当てるだけでも尋常じゃないですが、わずかに浅かったみたいです」
 来須も駿龍も命に別条は無いが、さすがに動けない。
「戦線離脱か、運がねえな」
「とんでもない。あたし達は、すごく運が良いです」
「?」
 巨木の投石は、まさしく飛ぶ鳥すら撃ち落す必殺武器。開拓者達は表情を厳しくした。鈴木透子以外は。
「余り出したく無いですけど、これを使いましょう」
 透子が取り出したのは北面候王直筆の感状。戦功を称える賞状で、特にどうというモノではないのだが、ハッタリが効く。
「偵察のおかげで、最新の位置が分かりました。予想通り、森は直進しています。すると、二日後にはほぼ確実に、この場所を通過します。ここで戦いましょう」
 地図の一点を示す透子。
 何も書かれていない平野だが。
「僥倖でした。運よく迎撃可能な場所が在っても、夜間は避けたい所でしたし、少し遅いですけど昼間のうちに決着がつくと思います」
「そこには、何が在るんだ?」
「水田です」
 透子は水田の持ち主への保障を頼んだ。理由を聞いた領主は承諾する。


※以下はラグナらが上空から見た森の略図

   ×××
  △××××
 ×△×△×△×
××△×△△×××
×××○◎○△××
××△×○××△×
 ××△×△××
  △×△×△
   ×××

↓進行方向

(◎巨木 ○大木 △中木 ×小木)


「ぺっぺっぺ‥‥泥んこですよ。でも、やっぱり投げる石が無いみたいですねー」
 ペケは水田の中を転がりながら木々の攻撃を避ける。
 田畑とは、詰まるところ最も岩の少ない土地。接近する開拓者に気づいた巨木は、岩を探した。だが、愚直な農夫が毎日、土を掘り返し、漁り尽くされた水田に、彼の弾丸は存在しない。
「もし岩を作り出せたら、どうしようと思いましたが、出来なかったようです」
 無事接敵した仲間達を見て、水田に水を入れた透子は胸を撫で下ろす。偵察の情報で、おそらく大丈夫と踏んではいたが、アヤカシ相手に絶対は無い。
「まだ油断は出来ないです」
 戦場に急ぐ女陰陽師。
「うぉっ」
 虚しく泥さらいを続けていた巨木は、大きな枝を地面に突き刺してすくい取った泥を投げ始めた。投石に比べれば威力も射程もお粗末だが、まともに浴びれば大きく体勢が崩れる。
「敵も必死、泥試合よのう。負けてはやれぬが、退屈はさせぬて」
 石壁を越えてきた木々に、吹雪を叩き付ける蜜鈴。
「むっ」
 木の葉が舞い、つむじ風に乗った鋭い葉が蜜鈴を切り刻んだ。女魔術師はよろめき後ずさりながら焙烙玉を転がす。最前列の大木の根元が爆ぜる。その隙に蜜鈴は石壁の後ろに隠れた。
「‥‥少々、疲れたのう」
 魔術師は術と道具を駆使して、森の前列を進行を妨害した。前列の機動力破壊を狙ったペケ、水田のぬかるみ、自警団の作った空堀も相乗し、密集陣形を取っていた森は、大きく形を崩していた。

「感謝する。今こそ巨木を討つ好機!」
 霊騎いかづちに跨る雪茂は、上空のラグナが指し示す森の隙間に突撃する。彼女に続くのは宗司、蒼羅、透子。
「どんな相手だろうとたたっ斬る。それだけだ!」
 進路を阻もうとする大木にロングソード「ガラティン」を振り下ろす宗司。枝を切り落とすが、幹に届かない。側面の大木が鋭い枝を宗司の背中に突き立てる。
「たーたーたー」
 木々に囲まれながら四神剣を振り回す透子、彼女の掲げる呪いの頭形の目が爛々と輝いた。その瞬間、宗司を狙った大木が捩れ、塵と化す。
「雪茂、一人で突出するな。互いの背中を守りながら戦うんだ」
 巨木を守る大木を抜けない雪茂を、蒼羅が助けに入った。
「お、おう!」
 頭では分かっているが、雪茂は場数の違いを痛感する。もっとも、彼女くらいの実力で乱戦を制する者が居れば怪物だが。

 間近で巨樹を見上げる。太い幹はねじれ曲がり、全身が皺だらけでゴツゴツとした瘤が至る所に盛り上がり、その姿は巨大な老人のようだ。巨木は開拓者を歓迎するように大きな腕を振り上げた。
「また泥ですか‥‥え?」
 大木の陰に避難する透子。思惑は外れた。不意に大木が消え、視界が開ける。
「上です!!」
 前列を突破してきたペケが、体当たりするように透子の体をさらった。直後、巨大な棍棒が彼女達の居た場所に落下した。
「‥‥化け物め」
 振り下ろした棍棒を、ゆっくりと引き戻す巨木。叩き付けたショックで枝は折れ、泥にまみれたソレは、透子が盾にしようとした大木である。
「周りの木々はあなたの盾であり、剣というわけです‥‥なるほど」
「納得している場合ですか!? いけない、皆回避を!!」
 宗司が叫ぶ。
 巨木は投石時のオーバースローにやや角度を付けて、棍棒を振り抜いた。棍棒ならぬ大木は叩きつけられた衝撃で木端微塵。さらに二体ほど巻き添えを食って砕かれた。さすがに投石のようには行かないのか、狙いは甘く、開拓者は無傷。だが威力、攻撃範囲ともにデタラメである。巨木は自爆を意に介さず、再び近くの木をむんずと掴んだ。
「予想外、逃げます?」
「簡単には逃がしてくれそうもない。それに、危険な相手だ。ここで断ち切る」
 透子と蒼羅は覚悟を決める。
「分かりました。背中は僕達が守ります」
「心得た」
 宗司と雪茂は巨木に背を向け、取り囲む大小の木々と向い合う。
「勝利は目前ですよー、一気に畳み掛けるです!!」
 ペケの転がした焙烙玉が巨木の足元で爆発。わずかに傾いた巨木は、見当違いの方に棍棒を投げつけ、数体の木アヤカシが瘴気に還った。
 真っ先に飛び出したペケは、巨木が引き戻す前に太い枝を駆け上った。そのまま幹に拳を突き入れる。
「か‥‥固っ。でも負けないですよ!」
「抜刀両断、ただ‥‥断ち斬るのみ」
 巨木に相対する蒼羅。斬竜刀もこの相手では短剣に見えるが、あろうことか、ペケを乗せたまま棍棒を振るう巨木と正面から打ち合った。
「ぐはっ!!」
 派手にすっ飛ぶ蒼羅。どれほど技に秀でようと、まともにやれば体重差は如何ともし難い。止めを刺そうと巨木は次の木に枝を伸ばすが、枝の先が斬られて掴めない。
「まず、一本」
 負傷して膝をつくが、さらに一歩踏み込む蒼羅。心は秋の水の如く、北面一刀流奥義の境地で刀を振る。だけでなく、蒼羅の相棒である飄霖が光の粒子と化し、斬竜刀に青白い光が吸い込まれた。
「これで決める!」
 命を見捨てた蒼羅の連続攻撃、斬竜刀が森を伐採する。さしもの巨木も勢いを失うが、一撃で状況を変える力はなお健在。枝を新しい木々に伸ばすのを、ペケと透子が阻止している。
 ぐらりと巨体が揺れた。攻撃に耐えきれず、巨木の左足が斬り落とされる。
「‥‥やったようじゃの」
 蜜鈴は空堀から顔をあげ、霧散する巨木を見た。
「おんしも御苦労じゃの」
 後方にいる弓術師に笑いかける。
「最後ぐらいは、働かねぇとな」
 まだ満足に動けない来須は少し離れた場所から援護射撃に徹していた。巨木が木を振り回し始めた時は生きた心地がしなかったが、安堵の息を洩らす。
「お疲れさん」
「何を言うておる。まだ森を滅する仕事が残っておるぞ。おんしは寝ていた分、働いて貰おうかの」
「俺は怪我人だぜ?」
「ふふ‥‥ここには、怪我人しかおるまい」
 ぼろぼろの蜜鈴は微笑し、主の危急に駆けつけた天禄の体を撫でた。
 統制を失った森を殲滅し、開拓者らが帰還したのは少し後のことだ。