なごり雪
マスター名:松原祥一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/10 22:41



■オープニング本文

 3月。
 その日は季節外れの寒い晩だった。雪が降っていた。

 男は、馬橋剛衛門と名乗った。年齢は還暦を過ぎたばかり。
 荷役をなりわいとし、今も商家の倉庫で仕事を務めているという。
「あたしは、人殺しなのでございます」
「爺さん、自首なら場所が違う」
 番所への道を教える職員に、男は首を振る。
「ふむ」
 職業柄、事情を抱えた人間は見分けがつく。職員は、また面倒事だと口を歪めつつ、男をギルドに招き入れた。

 馬橋は元山賊である。
 25年前に足を洗ったが、何人も殺している。女子供まで手をかけた外道だった。
 妻に子が出来て、山賊を止めた。ちょうど危険な仕事の後で、ほとぼりを冷ましたかった馬橋は荷役の仕事を始めた。
 しばらくしたら山賊を再開する気持ちだったが、1年後に妻が病気で亡くなる。幼子を残して強盗は出来ず、5年が経ち、10年が過ぎていくうちに、このまま足を洗おうという気になった。
 罪の意識に苛まれることもあったが、自首は怖かったという。

 所が、悪いことは出来ないもので先月仕事から戻ると家に見知らぬ女が待っていた。
「貴様の正体を知っている」
 女は、馬橋に両親と妹を殺されたと語り、のうのうと生きている彼を罵った。
「自首する」
「駄目だ」
 その程度では女の復讐心ははれない。
「娘が居るだろう」
 女は半年ほど前に馬橋の居所を突き止め、復讐の機会を狙っていた。馬橋の娘は父親の仕事先の主人に気に入られており、商人の薦めで武家の屋敷に奉公に出ていた。
「俺が死ぬ。だから娘には手を出すな」
「駄目だ」
 馬橋の娘は父に似ず、器量良しで人柄も善い。武家の主人にも気に居られ、彼らが仲人になって大店の次男坊と近いうちに祝言を挙げることになっていた。
 娘も商人も武家も、馬橋の前身が山賊とは知らない。
 女は、馬橋への復讐として、父親の素性をばらして娘を破滅させてやると言った。
「苦しめ」
 女を見つめたまま、どうする事も出来ぬ馬橋を見据えて、女は立ち去った。
 誰に相談する事も出来ず、苦しみ抜いた末に剛衛門はギルドにやって来たのだった。

「なるほど。話はよく分かりました」
 職員は依頼書にすらすらと内容を書き留めて、元山賊に微笑を向ける。
「つまり、その女を何とか説得して、娘さんに危害の及ばぬようにして欲しいと、そういう依頼ですな?」
「今更、あたしが何かを言えた義理で無いのは百も承知でございます。娘の、珠恵の幸せだけは‥‥あたしの命一つで償わせて欲しいと、先方に伝えて頂けませんか」
 職員は頷き、依頼を受け取る。


「ふん」
 馬橋が出ていくと、職員は依頼書を屑籠に捨てた。
「ええーっ!?」
 同僚の係員が驚いて声をあげる。
「こんな誰の得にもならない仕事、してられませんよ」
「ひどい、娘さんが可哀想とは思わないんですか?」
 憤る係員に、職員は溜息をつく。
「そんな事ばかり言ってるから、あなたはいつまでも駄目なんです。この仕事、下調べが大変だ。その段階で話を台無しにする危険もありますよ。上手いこと準備が整ったとしても、どう考えても八方収められる話じゃ無い。つまりは無駄骨です。うちの大事な開拓者に、そんなクズ仕事は回せやしない」
「人が嫌がる仕事でも、やってみるのが開拓者じゃないんですか」
「そんなのは、只の何でも屋だ。心得違いをしなさんな、何も命惜しみして言ってるんじゃない。ただね、皆の為に立派な仕事をするのが開拓者ってもんでしょう」
 自分のやり方に口出しするなと念押しして、職員は席を立った。

 この話を聞いていた者がいる。


■参加者一覧
黎乃壬弥(ia3249
38歳・男・志
无(ib1198
18歳・男・陰
魚座(ib7012
22歳・男・魔
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
キルクル ジンジャー(ib9044
10歳・男・騎
蟹座(ib9116
23歳・男・サ


■リプレイ本文

「人が嫌がる仕事でも、やってみるのが開拓者じゃないんですか」
「そんなのは、只の何でも屋だ――ただね、皆の為に立派な仕事をするのが開拓者ってもんでしょう」
 自分のやり方に口出しするなと念押しして、職員は席を立った。

 この話を聞いていた者がいる。

 少し時間を戻そう。

「今年はまだ三件ですよ」
 黎乃壬弥(ia3249)の眼前に、職員は指を突き出した。
「働き過ぎだな」
 頬杖をついたまま気の無い言葉を吐く。
「ご冗談。貴方ほどの腕なら、どんな依頼でも受けられるのに。どうです、休養はそろそろ終わりにしちゃ」
 職員は揉み手で依頼書の束を取り出しそうな勢い、壬弥は杯を空ける。
「いらっしゃいませ」
 開いた扉から、雪が入って来た。
 壬弥は、戸をくぐった初老の男を一瞥し、机に突っ伏す。
 大アヤカシとどんぱちやらかして以来、イマイチ仕事する気にならず、ギルドに足は運ぶものの、こうして酒を飲んで無聊を託っていた。
「詳しい話を伺いましょう」
 鼾をかき始めた壬弥に職員は溜息をつき、客に向き直る。

「ああ、迷子探しの。経費の清算ですか? 領収書はお持ちで? えっと、今日はもう遅いですから、書類は明日で構いませんよ」
 係員はキルクル ジンジャー(ib9044)の相手をしていた。
「りょうしゅうしょ?」
 キルクルは歴とした騎士(見習い)、但し、まだ10歳の少年。事務仕事には明らかにうろたえる。
「ギルドは朝廷の一機関ですからねぇ。民の税金で運営されているからには、色々と手続きが必要なんですよ」
「民のお金! 疎かには、出来ないです」
 騎士精神を刺激されたキルクル、苦笑する係員から書類を受け取り、黙々と格闘する。小さなキルクルには気付かず、職員はすぐ側で依頼の話を始めた。
「――あたしは人殺しだ。何度、自首を‥‥」
「!!」
 力を入れ損ない、紙を引き裂いた。
「‥‥」
 聞き耳を立てるキルクル。
 何やら重苦しい話をしている。混乱しかけ、キルクルは頭を振る。
(私には難しそうなので華麗にスルー。格好良い男は、時にスルー能力を発揮するのです!)
「ふん」
 どうにか書類を手直ししたキルクルが見ているとは知らず、職員は依頼書を屑かごに投げ捨てた。
「!!」
(こ、これはどうすれば?)
 係員が職員に詰め寄ったが。
 二人の口論は上の空、少年騎士の瞳は依頼書に釘付け。

「あれ、キルクル君は?」
 渋面で振り返った係員、少年騎士の姿が見えない。机には無惨な用紙のみが残されている。
「ガキがどーしたって? 知らねぇなぁ。便所にでも行ったんじゃねえ」
 通り掛かったのは蟹座(ib9116)、係員は肩を落とした。職員は不意に、寝ていたはずの壬弥も消えていると気づく。
「立ち聞きとは趣味が悪いですね」
「何だ? あぁ、俺は爺ィも小娘もどーでもいい。興味もねぇから心配すんな」
 大げさに肩をすくめ、表に出た蟹座は笑みを浮かべた。


「開拓者の定義を、一職員の狭い物差しで勝手に決められても困るんだがなぁ」
 雪の降る夜道を、小走りに駆ける壬弥。
「馬橋さんと言いなすったね」
 男を見つけた壬弥は、顔馴染みの居酒屋に案内する。
「あたしの頼みを、引き受けて下さるのですか」
 困惑する馬橋。職員は開拓者の募集に一週間はかかると言った。委細構わず、壬弥はまず問題点を指摘する。
「そのようなもんだ。でな、お前さん、もう相手の術中に嵌ってんぜ」
「は?」
 相手の女は、なぜ馬橋の前に姿を現した。
 彼女の目的が、娘の結婚を台無しにする事なら、馬橋に己の存在を知らせるのは不利でしか無い。苦しめるために敢えて、とも考えられるが、別の見方もある。
「相手がばらすまでもない。俺を含めて、もう何人お前さんの素行知ってんだよ」
「おっと、そりゃ俺達の事かぁ? まあいいや、探したぜ爺ィ!」
 馬橋の背後に、蟹座と魚座(ib7012)が立った。
「いやーっ コンバンハ!」
 蟹座に引き摺られて来た魚座は、引き攣った笑顔を馬橋と壬弥に向ける。
「つまり、そーいう事だ。お前さんに自分でボロを出させるのが、相手の目論見なんだよ」
「何の話ぃ? あ、私は別に依頼を受けた訳じゃないんだけどねぇ」
 魚座は壬弥の隣に座り、手帳と羽根ペンを取り出す。馬橋は開拓者達のペースについていけず、ポンポンと質問を投げる魚座に、しどろもどろ。
「こらこら、君達。依頼人を困らせるもんじゃねえぜ」
「ハッ! 残念だったなぁ。俺の目的は女だけだぁ」

 依頼人から詳しい事情を聞く。
 いつもと変わらない光景だが、依頼は成立していない。
 自らの意志で、開拓者は勝手に動いた。


「何の、為に‥‥?」
 思わず馬橋を追いかけたが、キルクルは方向性を見失う。当然、馬橋の姿も見失っていた。
 そもそも、馬橋を助ける必要性は?
 依頼でも無いのに?
 これは職員が言っていたような立派なお仕事なのか?
 分からない。
 依頼であれば契約がある。請けた以上は従う道理。
 今回は依頼ではない。ならば自由意志(お節介)だが、キルクルはどちらにも肩入れする気持ちが湧かない。
「現在の事情によらず、罪は裁かれる、です」
「それが君の騎士道ね」
「復讐するは我にあり、です」
「‥‥それを言うなら、目には目を、じゃないかな」
 キルクルの相談に乗ったのは熾弦(ib7860)。
 途方にくれて戻って来たキルクルに声をかけたが、話を聞くうちに熾弦の中にも何かが生じた。
「私が思うに、その男性が死ぬことが、女性にとって何の意味も慰めもない、でしょうね。それはあくまでやったことに対する裁きであり、彼は何を奪われるわけでもない。彼への復讐であるならば、自分のされたことの意趣返しならば、彼は理不尽に奪われなければならない‥‥きっとその奪われるものが娘の幸せ、なんでしょう」
 淡々と語る熾弦。
「おお、難しい話、です」
「難しい問題。君は、正義の騎士になるのだね。でもヒトの気持ちは、正しさだけでは割り切れないんだ」
 熾弦は推察する。職員がこの依頼を受けなかった理由を。
「それにしても。どちらにも肩入れしない、見過ごさない、これでは動きようが無いと思うのだけれど?」
「そう、です」
 キルクルは考える。
 熾弦は少年らしさを感じた。これが依頼なら、そのような態度は許されないかも。だが自由意志、誰に憚ることがある。
「そうと決まれば、男の居場所を知らなければ、な。君の話では、職員はこの屑入れに捨てたらしいが」
 ゴミ箱を引っ繰り返す熾弦。
「探し物はこれですか?」
 職員達が其々の仕事に戻った後、ゴミ箱に取り残された依頼書を无(ib1198)が拾っていた。
「捨てる神あれば拾う神あり」
「挨拶は時の氏神か、誰も遣りたがらない厄介事だから有難い。今回はいつもの依頼のようには行かないよ」
「物好きで結構。厄介事を回避していては、学究の徒は務まりません」
 まず依頼書に記された馬橋の家に、三人は向かう。


 馬橋剛衛門は貧乏長屋に住んでいた。娘の珠恵が奉公に出てからは一人暮らし。ギルドから戻った馬橋は仕事に出る気力も無く、ぼんやりと破れ障子を見つめていた。
「黎乃壬弥から、家で大人しくいろと言われたのですね。それに蟹座と魚座ですか。‥‥なるほど」
 无はまず他の開拓者の存在を確認する。
「お仲間では?」
「仲間です。早速ですが、馬橋さんの活動区域と、その女の姿形を教えて頂きたい」
 女の事は殆ど知らないようだ。
 年齢はおそらく30代というから、馬橋の山賊時代にはまだ子供。顔に見覚えのある筈もなく、また心当たりも意外に多い。どうしようも無い外道。
「娘が無事なら、あたしはどんな風に殺されても構わないのでございます。それで勘弁して頂けるものでは無いでしょうが」
「伝えましょう」
 覚悟を訊ねるつもりの无だったが、殺される気満々の男に改めて問う気にもなれず。
「こっちこっち♪」
 外に出た二人を、路地裏から魚座が手招きする。
「すると動いてる開拓者は俺達を含めて、五人かね」
 長屋の側の空き地で、壬弥と蟹座が待っていた。
「いや六人だ」
 熾弦は、キルクル ジンジャーのことを伝える。
「あのガキ、長屋に張り付いてるのか。これだから何も考えてねえ子供はよ」
「和して同ぜず。考えているから、此処に居ないのですよ」
 壬弥は无と情報を交換した。
「私は女の素性を探ってみます」
「雲を掴むような話だぜ?」
 壬弥や蟹座は女が再び現れるのを待つ作戦だった。
「来ない時の事も考えた方が良いでしょう。非効率ですし。実行を阻止するには、迅速に行動しなくては」
 无は史料や瓦版などを探るつもり。だが、25年前の山賊剛衛門の足跡を辿るには時が経ち過ぎていたし、時間も無い。

「って事で、この家の周囲は私達が見張ってるから、心配いらないよ♪」
 馬橋を励ます魚座。
「有り難い話ですが、娘の方は‥‥」
「うーん。先に相手を確かめないとね」
 娘や武家が事情を知らぬ以上、迂闊に接触できない。情けなさに震える馬橋は愚かな父親、凶徒の面影は無かった。
「でも山賊が子供の為とは言え、25年間コツコツと荷役をやって商家の信頼を得るまでになったのはご苦労だったと思うンだよね」
「とんでもねえ」
「私もさー、今、堅気がしんどくって‥‥脅迫して来る女なんてサッサ殺っちゃえば楽なンだよ。子の為に堅気になれた人だもの、子の為に人殺しになる事だって出来た」
「‥‥」
「貴方はそうしなかった。すっかり堅気なんだね」
 禁忌を拒絶する心。魚座には無いもの。
「娘さんにしたってそうだよ。世間じゃトンビが鷹‥‥なんて言うけど、一人で大人になれない。一生懸命育てたから、良い子に育って良縁にも恵まれたんでしょ」
 堅気には堅気の戦い方を。
「だからその25年を信じてみない? 皆がその女のいう事を信じるか、馬橋さんの25年を信じるか」

「‥‥そんな事を、な」
 熾弦は魚座の話を聞いて一瞬、複雑な表情を浮かべた。
「伝えておこうと思う」
 熾弦は馬橋に、開拓者ギルドが依頼を請けないことを教えた。混乱させると承知で、彼女は馬橋に話に来たのだ。
「魚座君の言にも理はある。だが、私は逆の考えだよ。女が何かする前に、早々に自首してしまいなさい」
 過去は隠そうとしても消えない。
 結果、娘が幸せになれないのなら、それがあなたが奪ったものの重さと心得よ。
「自分で自分の罪に向き合う時、よ」
 こんな話は釈迦に説法だ。馬橋は心中で、今も悩んでいる。答えの無い議論。それが分かっていても、熾弦は彼に伝えた。彼女自身、答えを探している故か。

「誰だ、おめぇ?」
 蟹座に前方を遮られ、踵を返した魚屋の退路を壬弥が塞ぐ。
「へい! 橋本の若旦那から、馬橋様にお届け物で。義父になる方が、病で伏せっているんで、滋養のある物でも食べて頂こうと」
「体捌きが素人じゃねえ。近頃の魚屋はシノビの心得もあるのかね」
 物陰からガン見してるキルクルを入れると三対一。魚屋は口を歪めた。
「騒ぎを起こして困るのはそっちだろ。仕方ねえ、玄人同士、場所を変えて話をつけようじゃないか」
 魚屋は二人に対して自分は同業者だといい、女の頼みで復讐の手伝いをしていると語った。
「お前達、何であのゲス野郎を守ってるんだ? まさかギルドが人殺しの依頼を受けるとは思わなかったんだが」
「親の罪を娘に背負わせることはない」
 壬弥は娘を持つ身だ。思う所があるのだろう。
「心外だな。可哀想な娘に、嘘偽りのない事実を教えてやるだけだろ」
「どーでもいい。それより女に会わせろ、な。話はそれからだ」
 蟹座は真剣だ。
「あー‥‥良いぜ。危害は加えないと約すなら、会わせてやっても」
「決まりだ」
 蟹座は戦斧を掴み、魚屋の足元に放り投げた。
「是非もねぇな」
 苦笑し、二刀を引き抜く壬弥。
「あれ? お前ら俺の話を信じるのか」
「サムライなめんな」

 女は裏長屋から程近くの安宿に泊まっていた。
「風花と申します」
「思ったより若ぇな」
 二十代に見えたが、34才だという。
「剛衛門は、どんな様子でございますか」
「苦しんでるぜ、今にもおっ死にそうだよ」
「当然です」
 顔立ちは艶やかだが、能面のように無表情で生気が感じられない。どこか患っているのか、衰弱して見えた。
「心が壊れてやがんな。ククク、俺好みの復讐鬼ってとこか。なぁ、ねーちゃん俺と飲みに行かねぇ?」
「行きません」
「クックック‥‥そー来なくちゃね」
 温度の無い答えに、蟹座は嬉しげだ。
「一つ聞きてぇ。25年以上も昔の恨みを、何故今になって?」
 隠す事でも無いと女は素性を語った。
 女の生家は三州屋という酒問屋。店は25年前に馬橋とその仲間に襲われ、20人程居た店の者で、生き残ったのは幼い風花と女中一人。風花は復讐を誓ったが、山賊は野に潜伏し、手掛かりは無かった。
 馬橋を知ったのは偶然から。時が過ぎ、風花は遊女に身を落としていたが、たまたま一人の客が寝物語に25年前の惨劇を語った。山賊仲間から聞いた話だと言う。風花は天意を感じ、懇意にする開拓者の協力を得て追跡を始め、ついに馬橋まで辿り着いた。
「ふむ。満願成就して。その後。お前さん、どうすんだよ」
「家族の所に行きます」
 仇も仇持ちも死にたがり。
 仲間を辿って来たのなら、恐らくは『罪の証拠』を持っている。厄介だ。
 開拓者は根気よく彼女を説得した。魚座や熾弦も顔を出し、それでも風花には暖簾に腕押しだったが、魚屋の方が折れた。
「お前さん達を敵に回したくない。娘の結婚までは待つ、馬橋は自首する、破談になっても文句は言わない、この線でどうだ?」
「忝い」
 話はまとまった。

「復讐者は風花と聞きましたが、本当ですか?」
「本当だ」
 調査に出ていた无が戻り、血相を変える。
「そんな筈は無い。風花は半年前に死んでいる」
 仰天した開拓者らが魚屋を問い詰めた。
「俺は、橋本の大旦那に馬橋の素性調査を依頼されたシノビだ。風花は俺が看取った。今回のことは依頼主の意向だ。まさか、こんなに早く風花まで辿り着かれるとは」
「効率良く人手を使ったので」
 迅速に結果を出すため、无は身銭を切った。

 橋本家では魚屋を使って揺さぶりをかけ、馬橋がまだ山賊なら娘共々追い出し、改心していたら娘は頂く、という筋書きだった。魚屋には馬橋を殺す役割まであったらしいが、看破されて彼は退場する。

 じぃぃぃぃぃっ
 キルクルは馬橋を監視していた。新たな罪を防ぐため。
「??」
 様子がおかしい。彼が戸をあけると、天井から男の体がぶら下がっていた。
「!!!!」
 騎士剣を抜きうち、首に絞まった綱を断ち切る。
 床には、娘と開拓者に宛てた遺書が落ちていた。


 間一髪、馬橋は息を吹き返した。知らせを聞いて、娘と共に橋本の次男坊が駆けつけて来た。二人とも、本気で父親を心配している。
「すまねぇ、すまねぇ‥‥」
 体が思うように動かぬ様子の馬橋は、ただ詫びの言葉を繰り返した。