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■オープニング本文 むかし、むかしのことじゃった。 村に乱暴者の子供がおった。 ひといちばん大柄で、腕っぷしも強く、いつも村人にケンカを売っては勝っては大喜び、負けたら大泣きで、毎日のように村人たちを困らせていた。 さて、そんな子供も大きくなって職につかなくてはいけない年齢になった。 その頃まで家の手伝いなどしたことのない若者は、さてと――腕を組んで考えた。 そして、やおら旅支度をはじめると、こう言い残して家を出て行った。 「サムライになるんだ!」 さて、旅に出た若者はしばらく歩いているうちに足を止めた。 道はふたつに分かれている。 森へ行くか、海へ行くか。 さて――ここでも、また腕を組んだ。 見たことのない魑魅魍魎のいる海へ行くか、親しくなくとも見知っているであろう人間という化け物がいる森へ行くか。 若者はしばらく考えて森へ行くことにした。 深い理由はない。 たまたま森の方が近かったからである。 歩いて行くと、森の方角から老人が歩いてきた。 背丈は低く、頭もすっかりまっしろになった老人だが矍鑠たる様子で、胸をはってやってくる。目を引くのは、なによりも腰にある二本の太刀らしきもの。一本はふつうの柄に入っているが、もう一本は血のついた布でぐるぐる巻きにされている。 そこで若者は、はたと気がついた。 サムライになるのに、自分は刀を持っていないではないか。 「どうしたのだ?」 まじまじと見ていたせいだろう。 老人が話しかけてきた。 「どこから来た?」と問えば、 「森から来た」応える。 「森には何かあるのか?」 「いまは否じゃ」と老人は首をふる。 「いまは?」 若者が首をかしげる。 「この刀で、アヤカシは倒してきたのじゃよ」 老人はかかと笑うと、若者は目をかがやかせた。 「刀があればアヤカシすら倒せるのだな?」 「ああ――」 「その話を聞かせてくれ!?」 若者が手を合わせて頼みこむので老人は、よっこらしょと道の端の石に腰掛けた。そして、太刀をふるう鬼を退治した顛末を語った。 「――まあ、運がよかったのじゃな」 「ぐるぐる巻きになった刀が鬼の持っていた物なんだな!」 「そうじゃよ」 「あんたの物じゃないんだな?」 「まあ、そうじゃな。これからギルドに寄って報償を貰うついでに、これをどうやって始末なり封印したりすればいいか相談に行くところなのだ。どうも性質の悪いものらしくてな、ひとを乗っ取っておっ――」 若者の目がぎらりとかがやいた。 「どうしたのだ?」 「あ、後ろを向いて貰えません。着物に蜘蛛か虫か‥‥なにかが落ちたような気がしたんです。取りますよ」 「そうか、悪いの」 老人が背後を向いたとき、若者は転がっていた石を片手に持っていた。 そして―― 「俺は、俺は‥‥!?」 老人の頭を石で砕いた若者は死体にはもはや興味を見せなかった。すばやくアヤカシの刀を手にすると、そのまま森へと逃げ込んでいった。 いや、帰って行ったのかもしれない。 その時、若者は姿こそ人間でありながらも心は、もはや鬼になっていたのである。 むかし、むかしのお話であったそうな。 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
滋藤 柾鷹(ia9130)
27歳・男・サ
ザザ・デュブルデュー(ib0034)
26歳・女・騎
リリア(ib3552)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 「さて、これでいいかしら?」 深山 千草(ia0889)は額に流れる汗を拭きながら、一仕事を終えたなという満足げな表情をした。 「このような手もあるのですね」 とつぶやいて、ザザ・デュブルデュー(ib0034)は、千草の看板を一読した。 「ここより人斬りあり。危険につき、大回りすること」 「こうしておけば、すこしは森に近づくひとも少なくなるんじゃないかしら?」 手をぱんぱんと叩くと、千草はさぁと振り返った。 街道脇の並木に座り込む者たちがいる。 今回、人斬りを討伐にきた仲間はもちろん、たまたま道を通りすがってしまった商人たちだ。さすがに噂が拡がっているせいで近隣の者がここに近づくことはない。 運悪くかち合ってしまった行商がいるたちがたがいに顔をつきあわせながら、どうしようかこうしようかと語りあっていたが、そのうちに、どちらにしてもこうも暑くてはやっていられないと思いでもしたのか、飯を食べはじめたり、心地よい風の吹く木陰で横になったりしていた。 開拓者たちもまた日陰に座り込み、帽子を内輪代わりにしたり、水を飲んだりしながら涼を求めている。 「さてと――」 千草たちの呼び声に滋藤 柾鷹(ia9130)が、やれやれと言って立ち上がると、首や関節を軽く動かして視線を上げた。 見上げる空は、ただただ青く、そして広い。 「こんな空もあったものなんだな――」 あまりのまぶしさに目を細め、首の汗をぬぐう。 「さて、行くぞ」 その声に、もうひとりの男も立ち上がったが、ひとりが残っている。 嬉々というよりも、むしろ鬼気といった表情で霧崎 灯華(ia1054)が鎌を研ぎ続けているのだ。 「ひさしぶりに血を吸わせてあげることができますね」 研ぎ終えた鎌に頬を当て、浮かべるまなざしには狂気にも似た狂喜がある。 赤い唇の上をまるで蛞蝓にも似た薄紅の舌がちょろちょろと動いては、くすくすと笑う。 いまのごとき陽光ではなく、もしも夜中に月光のもと巫女の姿を見る者があったのならば、美しさと猟奇の落とし子である退廃的な恐怖というものを知ることになったであろう。美しくも、いや美しいからこそすさまじいものが世の中にはあるのだ。 「あらあら、あんなかわいい子が、あんなことしちゃって見ていられないわね」 やれやれ肩をすくめて見せると、真珠朗(ia3553)は灯華の頭を軽く叩くと、めっと言って、立つようにと促した。 昼の道を真珠朗は歩き始めると、仲間たちが、それぞれの足取りでついてくる。 夏の日差しはきつく、こんな時間に出てくるんじゃなかったという苦情が女性陣のあいだからあがるまで、それほど時間はかからなかった。 「夕方まで待てばよかったかな?」 「お化けがでちゃうよ」 「じゃあ朝早いうちがよかったのかしら?」 「日焼けしちゃうよ!?」 「そう言いながら、海に行ったら日差しのもと大はしゃぎして遊ぶんだろ?」 女の言う言葉は信じ切れないといった風な異性の突っ込みである。 真珠朗が足を止めた。 「あらあら、このくそ暑いのに、ご苦労なことね」 目を細めて遠くを見ると、その姿があった。 蜃気楼のゆれる道の真ん中で、鎧を身にまとった武者があぐらをかいて座っているのだ。この暑い中で、どのような表情をしているのかは仮面に隠れて見えはしない。 「橋の上にでもいるかと思えば、道の真ん中にいるとわね」 「なんの話ですか?」 「知らないわ。適当に言ったことだから」 「なに、それ?」 「敵は馬鹿のふりをしている小馬鹿か、本物の大馬鹿か興味深いところかな?」 「まあ、格好つけはそういんじゃなくてガキのやることって決まっていると、あたしなんかは思うんですけどね――」 ● さて人斬りと開拓者たちの対峙する場所から森をへだてて反対側を見てみると、三人の若者が歩いていた。 道の先にある、うっそうとする森は、どこか現実という海に浮かぶ島のようで、蜃気楼のようにも見える。 夏の強い日差しにうんざりするような顔をしながら、開拓者たちの口からは、ここが本当の海だったらまだよかったのにというため息が漏れる。 「こんな時に仕事ってのは、別の意味での難敵だな」 暑い、暑いと文句を言いながら男たちは森の中へと入っていく。 風があるだけ、森の中はまだましだ。 「さて、例の物がここにあるかな?」 鷲尾天斗(ia0371)の隻眼が獲物に狙い定めた餓狼にも似た鋭い眼光を灯す。 「さあな」 口数の少ない同行者は涼やかな表情で受け流した。 「おい、てめぇ! もうすこし盛り上げろよ。な、リリアさんも、そう思うだろ?」 「知らないよ」 リリア(ib3552)の返答もつれないものだ。 「ひでぇな」 全然、応えていない様子で天斗は笑う。 「それにしてもな――」 「それにしても?」 篠田 紅雪(ia0704)が応じる。 「一つ気になったんだが、なんであの馬鹿武者はこの森を離れないのかねぇ」 「それを調べにきたのだろ?」 そうだそうだと少女も同意。 「気になると夜も眠れないので確かめに行くって言い出したのは、どこの誰よ!?」 「俺だな」 しらっと天斗は言ってのける。 「それに、なんぞ、私に手伝えることはあるか‥‥? って言っていたのは誰だっけかな?」 「私だな」 「まぁ、あっちは人が多いから大丈夫だろうと、思ったんでしょう?」 紅雪のすくめた肩が、その返事だろう。 「それに、人に盗られたくない物って言うのは一番奥に隠すか自分の手元に置いておくって言うが‥‥」 「なんにしろ、ここまでは普通の森ですが‥‥おや?」 紅雪の目元が、わずかだが笑った。 栗鼠が目の前にあらわれたのだ。 そんな態度に、ふたりは気がついていない。 「森林浴にはちょうどいい季節だねぇ」 場違いなくらいのんびりしたリリアの態度だ。 「まぁ、何も無くても構わんか。そんときゃ戻ればいいんだし」 「じゃあ、私は楽させてもらうわね。アナタ達強いんでしょ?」 リリアが唇をとがらせる。 「おいおい、なにを突っかかってくるんだ?」 天斗は、年下の女の子を相手にして、いかにも楽しそうだ。 「おや?」 同行者たちの声には興味がなさげな紅雪だが、森の生き物には興味があるような視線を送っている。 栗鼠の姿を目で追っていくうちに、それを見つけ、はっとした。 「出番は無さそうですし‥‥他の人にお任せしましょうか」 そうとつぶやいた時、紅雪の警告が飛んだ。 「えッ? なに――」 くらりと世界がゆがむ感覚をリリアを覚えた。 ● 事前の作戦に従い真珠朗が動くの確認すると、まず柾鷹が鎧武者に声をかけた。 「強い者であるかはしかとは申せんが、拙者らと手合わせ願おう。一対一でなくては駄目か?」 「タタカエレバヨイ」 武者は立ち上がり、刃を抜いた。 (あれが――) 柾鷹は目を細め、我知らず心の内を漏らしていた。 「もしまだ人であるなら、太刀から引き離す事で正気に戻るやもしれん」 祈りにも似た声だ。 だが神のお告げが、その希望を砕いた。 「甘いわね」 戦えるということに高揚を覚えている巫女の声だ。 「はじまりますね」 ザザも避けられぬ戦いと心を決めた。 千草が抜刀し、一歩踏み出した。 一陣の風がよぎった。 隼襲を使って柾鷹が強襲をしたのだ。 「一の太刀!」 阿見の刃が敵の胸に打撃を与える。武者が、うめく間もなく二刀目が入る。 「お願い!」 精霊の力を宿し、朱天という名前とは異なった色にかがやいた千草の太刀が襲ったのだ。 強烈な二撃により、武者の鎧がぼろぼろになった。 「あたしの蛇から逃げられると思って?」 ふらつく武者にあまたの式がまとわりく。 ザザが攻撃を加える。 会心とはいえぬ振りだったが、式が動きを止めてくれていたのが幸いした。 ザザの剣が武者の刀を砕いた。 親指を立て灯華に感謝を送る。 「いいタイミングだった!?」 「ちょっと!あたしの見せ場、ちゃんと残しておきなさいよ!」 束縛のおかげで、それが致命的とも呼べる、予想以上の一撃になったのだ。 ようやく、ずたぼろとなった武者の反撃となる。 柾鷹の鎧が、武者の折れた刃の一撃をはじいた。 「なまくらだと――?」 それは本命ではなかったのだ。 ● 「――‥‥さん」 「‥‥さん 「リリアさん!」 (えッ?) リリア、はっと目を開ける。 (ここ‥‥) 忘れたい、見慣れた風景だ。 あの窓も壁も、この長机も、そして座っている椅子も、身につけている服までも、消去することができるのならば記憶から消してしまいたい――そして、このふたり―― 黒い影となってリリアの前にいる。 覚えている。 いや、忘れることなどできるはずなどない。 彼女の生家であり、あの両親なのだ。 「なんでできないんだ!」 父の怒声が響き、母なヒステリーな声があがる。 「お父さんの言うとおり、なんであなたはこの偉大な魔術の系統に生まれたというのに、まるで才能がないの!?」 手が飛び、リリアの小さな体が床の上に転がった。 「おまえなどいらない娘だ!」 「家を出て行きなさい。穀潰し!?」 世界はゆがみ、心を握りつぶそうとする。 (いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘、いらない娘――力が欲しいか――) ● 「さて、このあたりでいいかしら?」 真珠朗は人斬りの背後にまわると足を止めた。 仲間たちの連携がうまくいっていて、すっかり勝負がついているようにも見える。 「あたしがやらなくても終わりそうじゃない」 そうは言っても念には念を押すべきだろう。 「正直、あんたにゃ恨みも興味もないんですけどねぇ。これもお仕事でして。恨むなら神様とか運命とかにしてくださいねぇ」 狙いを定め、指先を突き出し、 「バーン!?」 背後からの空気撃が、致命的なものとなった。 なにが起きたのかわからぬまま武者は逝くことになったのである。 膝を屈した時、頭上に死に神の手がのびる。 一閃、死に神の大鎌が首をはねると、武者の首が飛んだ。 血を流しながらころころと転がり、それは巫女の足下で止まるのであった。 ● 「やめてよ!」 がくりと膝が崩れかかったリリアを大きく、暖かな腕が受け止めた。 「なにをやっているんだ?」 「えッ?」 どうしたのだろう。 天と書かれた眼帯がまず目に入った。つづけざま、にやにやとだが、どこか優しげな隻眼のまなざしがあった。 「どんなイヤな夢を見せられたかしらんが、ひとさまの心の古傷をえぐろうとはふてぇ奴だ! 失った瞳にかけて許せないアヤカシだ」 「アヤカシ?」 「錯乱にかかっていたみたいですよ」 流浪を、その住まいとする剣士もまた、どこか追憶を振るきるような口調でいうと仲間を呼ぶべく笛を吹いた。 「聞こえるか? それより、あの祠が見えますか?」 「祠?」 森の中に素人が作ったような、形の崩れた小さな社があった。 「太刀が祀ってあるな。‥‥しかも性質の悪そうな」 「太刀?」 「昔話にあった鬼の刀ですよ。アヤカシは鬼ではなく、太刀であったということでしょうね」 「じゃあ‥‥」 「ひとの心につけこんだんでしょう」 リリアは愕然とし、きっとした目で、それを睨んだ。 「どうでもいいけど、いい加減、手を離してよ! この女好き!」 「役得だよ」 「なにが役得よ!?」 頬をふくらませ、天斗から離れるとリリアは武器を手にした。 「弱いのから潰すって事‥‥? ナメないでよね!」 ● すでに物言わぬ首にザザを手をあわせ、やがてその仮面をはいだ。 「――!?」 全員が声をのむ。 それは確かに人間の顔ではあった。 だが、その形相は、まさに鬼と呼んでもよい鬼気としたものであった。 はたして、ひとの表情がここまで悪意をたたえた醜いものになるのには、どうすればよいのだろうか。 「なにが、これまで――」 このひとであった者を駆り立てたのであろうか。 ザザにはわからないことであった。 それに、なぜアヤカシではなくなまくらだったのかもわからない。 「アヤカシは心なり――」 誰かがつぶやいた。それでは心のない機械もアヤカシになるのだろうかとザザは、ふと思った。 ● 「やれやれ、骨折り損のくたびれもうけだったな」 「いや報奨が出るだろ」 「だったな――」 終わった、終わったと天斗は体をのばした。 アヤカシを退治し、森を出る頃には、日もかげり、夕暮れ近づいてきていた。 次の宿場まで急いでいるのだろう。 商人たちが駆け足で森へと向かっていく。 遠くに武者を倒した仲間たちの手をふる姿が見えた。 涼を含んだ風が吹いた。 さて、これから戦勝祝いに、酒でも飲みに行くのだろうか。いや、その前に、風呂か水浴びか。 「行くぞ!」 「わかったよ」 口では反抗的に言いながら、リリアは酒を呑みながら、仲間が、なぜ開拓者になったのか聞いてみようかと思った。 |