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■オープニング本文 ラズヴァリーヌと呼ばれる、破棄された都市の地下に未知の空間が見つかったのは、たんなる偶然からであったし、そのような領域ならばと開拓者ギルドが調査隊を出したのは必然であった。そして、そこで駆け出しの開拓者たちが出会ってしまった悲劇は、偶然であったのか、必然であったのか―― 「おい、大丈夫か?」 男が仲間に声をかける。 つい先日、ギルドでたまたま酒の席を同じにして、そのまま同じ依頼についた仲間たちだ。ふりかえった時、男は、そこに確かにその顔を見た。しかし、すぐに目を疑った。 一瞬のうちに、その首がなにモノかの手によって刈り取られたかと思うと、かつて仲間であった首なしの肉体は、そのまま前のめりに倒れていった。 「くそ!」 いまとなっては、この依頼を受けたことを悔いるより他になかった。 「風が襲ってきているんだ! 首を落とされる前に逃げるよ!」 廃墟を幾つもの――広大な死者の領域をたったの数体の――影が走っていく。 また、ひとつ悲鳴がした。 ふりかえると、探索の拠点として作ったキャンプがはるか後方に見え、そこへつながる道の真ん中に、仲間の上半身が見えた。 なにかの罠にはまったかのか、あるいは別の理由なのだろうか。 鎧を着たその下半身が、地面に食われたかのように見えない。目を疑う間なく、そのままずるずると、その姿は上半身まで地面に中に消えていった。 「くそ!」 街全体が奇妙奇天烈だ! その後も、つぎつぎと仲間がやられ、手負いのまま、ついに出口にたどりついた時には、仲間は自分も含めて三人ほどになっていた。 激しく息をしながら、地上への螺旋階段に足をかけ、ふりかえったとき、開拓者たちの目に、それが映った。 「おい、あれはなんだ!?」 ひとりが、指をさした。 誰もいないはずの漆黒の狭間に、ぽっと青い炎があがり、一筋の炎が、一点、一点と崩れた道筋の左右に灯っていくと、廃墟は死の都の素顔をのぞかせる。 青々と燃える道の先には、爛々と燃える巨大な赤い炎の門があって、その眼前には、いまひとたびの疾風とともに、炎の竜巻が巻き起こり、一体の焔の騎士が召還された。 巨大な黄金色の騎士――ひと、それをアーマーと呼ぶ。 炎の巨人が大剣をたずさえ、まじりともせずに仁王立ちしている。 まさに門番である。 なにを守っているのか、あるいは待っているのか。 不気味な鐘の音がしてきた。 「どこから――」 いつしか地下の都に鳴り響く音は、遠く、深く、のぞき込みこむことすらかなわぬ深淵の奥底から聞こえてくるようであった。 「な、なんなの?」 いつの間にか、アヤカシの騎士の周囲には不気味に灯る十二の炎があった。 そして、その異変はすぐにギルドに伝えられたのである。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
シマエサ(ic1616)
11歳・女・シ |
■リプレイ本文 ラズヴァリーヌの地上には、地下都市を探索する為の拠点がある。 開拓者ギルドが作ったテント村で、職員たちが開拓者たちが地下で手に入れた情報の収集と分析を行う為に準備したものである。 その晩、そこは不穏な空気に満ちていた。 惨事の起きた現場への出入り口は、第一級の警戒態勢で、地下への進入口にはロープが貼られ、頑強そうな開拓者たちがガードとして張り付いている。 テントから緋桜丸(ia0026)が出てきた。 その手には廃墟の地図があって、ぴょんぴょんとしながら、シマエサ(ic1616)がのぞきこもうとしている。生き残った若い開拓者たちの調子はよくないので、職員たちが聞き取り調査をして描いた地図だという。 (ないよりも、ましか……) 期待していたほどのものではないが、ないよりはよいだろう。それに、あの姿を見ると、無理を言う気にはならなかった。 ● 焚火がたかれ、マントを肩からかけたまま座り込んでいる数人の姿があった。 影が近づくが、誰も顔をあげようとしない。 時間はたったのに、いや、たったからこそ苦しいのだろうか。 ファムニス・ピサレット(ib5896)がちょこっと座ると、そこには膝をかかえ、忍ぶように泣き続ける女がいた。 失敗したことが悔しいのか、見てきた地獄が頭の中を繰り返しよぎって苦しんでいるのか――ただ、先輩としてやれることは言葉をかけ――いや、だまって抱きしめてあげることだけだった。 そっと、ふるえる肩を抱き寄せ、長い髪に顔をしずめ――こわくない、こわくない――ささやきかけ、おびえた子供をあやすようにファムニスが女の開拓者を抱き留める。 ぬれた眉がようやく上を向くと、ファムニスの青い瞳が、慈母のごとく、やさしくほほえんでいる。 「ねぇ――……」 なお、その女性が巨乳であったことは特記として書き記さねばならない事項だろう。 ● ランタンを揺らしながら、開拓者たちを見送る者たちの姿を背に、依頼を受けた開拓者たちが階段を下りていく。 「だいぶ降りてきましたね」 草薙 早矢(ic0072)が目を細めながら、遠くなった火の光をふりかえった時、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が、あっと声をあげた。 進んでいく先に光の漏れている場所が見えてきたのだ。 「あそこが入り口か」 地図の情報どうりだ。 「ここまでは、なにもなかったね」 そして―― 「おおぅ!」 突然、眼下が拡がった。 話には聞いていたが、広大な地下都市の跡である。そして、不気味なほど静かな空間には、煌々と燃える十二の炎があった。 突然、静寂が破られた。 「鐘の音……」 ファムニスが耳をそばだてると彼女から聞いたとおりの鐘の音がした。 「あ、火が消えた!?」 十二あった火のひとつが滅する。 「何かのカウントか?」 「炎は、12という数から時計を連想させますね。何かのタイムリミットなのかも」 「なるほど、12の炎……火時計という訳か」 「だとしたら……私達はアヤカシに挑発されているのかも知れませんね」 「面白い、全て消えぬうちに、でくの坊を滅してくれようぞ。どうだい?」 「う、受けて立っちゃいましょうかっ」 「そうだな。間に合わなけければ、恐らくはろくでもない事が起きるからの」 リンスガルト・ギーベリが意味ありげにほほえむのだった。 ● リンスガルトが松明をかかげた。 これより、地獄のはじまりだ。 「さて、どうやって地獄の前までたどり着くか」 弓の張りをいま一度、確認しながら草薙はなんとも言えない違和感を自分に感じていた。しかし、それがなんなのかわからぬまま、状況だけは進行していく。 深い理由もなく、単に自分が巫女であり、後衛であろうと考えファムニスが、とりあえず隊列の最後に並ぼうとした時、 「隊列じゃが――」 とリンスガルトが私見を述べた。 「背後からいきなり襲われる可能性を考えると、巫女のファムニスではなく、別の者が殿を受け持った方がよい」 すこし考え、かわりにわたしがと、草薙が最後尾ということとなった。 そして、それが仇となった。 「罠!」 リンスガルトが瞬走で、その罠を回避した。 その声に応じて、つぎつぎと開拓者たちがジャンプをして、口の開いた大地の牙から抜け出した。 最後! 「あぶない!」 しかし、遅い。 身につけた大鎧のせいだろうか。 足をすべらせ、草薙の体が、地面に転がり墜ちようとした。 事前に、 「ジャンプしたり罠を飛び越えたり察知するのはヘタクソな部類なので、そういうのは脚をひっぱるのでは――」 とぽつりと漏らしていたが、予言が悪い意味であたってしまったらしい。 その時、持っていた松明を投げ捨てて、シマエサがその手を握ると、間一髪、草薙は地面の口が閉まる前に救い出されたのである。 「直感が働いてよかったにゃ」 にっこりと獣人は笑った。 時計の音がした。 ● 風が鳴いている。 すでに指呼の先に金色の姿がある。 「廃墟にアーマーか……。何だか死の守護者みたいだな」 「狙えるか?」 草薙が弓に矢をつがえ、虚空に向かって放った矢が、空中でばらばらに崩れ散った。 「……でしょうね」 「あれが風の罠か」 事前に調べていたとおりだ。 「矢でよかったにゃ」 「首から上だったら冗談にならないものね」 「でも、どうします?」 五人は互いの顔を見合わせた。 「地図にはありませんが、遠回りしますか?」 「いやさ、アヤカシはさっさと倒すに限る」 緋桜丸が断言しかけた時、頭よりも体が自然と動き、かれらは一斉に闘いの姿勢をとっていた。 シマエサの忍刀が闇を切り裂くと、肉体を持った影が瘴気となって消え去っていく。 「囲まれたようね」 あたりには影のアヤカシたちの姿ばかりとなっていた。 我知らず、かれらの口元に微笑が浮かんだ。 彼らの開拓者としての勘が、経験に研ぎ澄まされ、鍛えられた熟練の開拓者としての知恵が、これを利用する機会だと察したのだ。 幸い、味方を巻き込んでまで技を発動させるほど鬼畜なアヤカシではなかったのだ。 斬ってはちぎり、ちぎっては投げ、黒い化物を屠りながら、かれらは黄金の守護者に辿りついいた。 「あと、四つ!」 いつしかアヤカシの周囲に見える炎は死を告げる数となっていた。 ● ファムニスが盾をかまえた。 黄金のアヤカシが体と同じ色の剣をふるうと、その刃が疾風によって、あたりの瓦礫を吹き飛ばし、ぐっと足に力を込めて立つ女に向かって、凶器となって襲いかかってきた。 「くッ――」 にぶい音をたて、盾がぼこぼこになる音がする。 直撃は避けられたが――このさい、腕の痛みは無傷として数える――無数の小石や、風に舞ったごみが目にはいってしまった。 自然、目を閉じてしまう。 さらに、もう一撃、疾風がくる。 「危ないにゃ!」 仲間の声を耳を捕らえた。 (えっ!?) どうしたらいい。 ふだんならば思考よりも先に動く体が、さすがに視野を失ったいまでは 目を閉じると、剣のぶつかり合う音が聞こえた。 「おい、お嬢ちゃん、大丈夫かい?」 目を開くと、そこには緋桜丸の大きな背中があった。 「あッ……」 「まったく、この化け物がよ……わくわくさせてくれるじゃないか」 仮面の下で、にやりと笑った口元に、血がしたたり落ちてくる。 「あ、怪我……」 「これくらい、なんてことねぇよ」 「なにをいってるんですか!」 盾を投げ捨てて、あわてて駆け寄って、治癒をほどこす。 ふたりの眼の前では黄金の騎士が、攻守一体の攻撃を繰り出すシマエサと、地を踏みしめながら、まるで風に揺れる華のような柔らかな動きで、鋭い武技の数々を繰り出すリンスガルトと戦っていた。と、鬼ごろしの異名を持つ女が、なにかを勘づいたように、背後に跳び去ると――実際、それがなぜなのかは本人にもわからなかったが――アヤカシの腹のあたりから、なにかがもこもことはえてきて、それが風よりも早く動いて草薙の放った一矢を受け止めていた。 「隠し腕!」 歯ぎしりするより、他にない。 それにしても今日という日は、なんという厄日なのだろうか。 前の依頼から、なぜか精神的な疲れがとれず――それゆえに、罠にかかったのでもあるが――必殺の技が使い切れていないのが悔やまれる。 「調子が悪いようだな。だが、気にすんな。最終的に俺たちが勝てばいいんだよ、お嬢さん」 肩をぽんと叩いて、治療を終えた緋桜丸が前線に戻った。 「さあ、俺が相手だ」 目の前の巨体を睨んで、両手の銃でぽんぽんと自分の肩を叩くと、黄金の鎧を身にまとったようなアヤカシを挑発してみせる。 そのくせ敵との距離、間合いを測り、それにいつでも防御体勢に移れるような姿勢であるのは、最初の開拓者たちとの違いだ。 これが経験の差なのだろう。 それに、挑発しているのにはわけもある。 そのあいだ、ふたつの影が、アヤカシの背後、脇に移動し、シマエサとリンスガルトが攻撃の形を整えた。 「さあ、最後の舞踏会と行こうか! ごついお嬢さん!」 鐘がふたたび鳴った。 「あと、三つ!?」 ● (黄金鎧のところまで来たら、奔刃術で戦う) それが、心に決めていたプラン。 距離を取り、敵の側面に回り込み、刀でカモフラージュしながら、シマエサはふとこから手裏剣を取り出した。 が―― 遠くにいた時にはわからなかったが、炎にきらきらと輝く鎧は、目をちかちかとさせ、幻惑させる。敵の目にあたる部分や、装甲薄いとこに手裏剣撃ち込もうと狙うが、装甲にはじかれ、うまくいかない。 機敏な動きをするわけではない―― その時、四本の腕の一本が動いた気がした。 「えッ!?」 次の瞬間、シマエサの手から刃が落ちた。 なにが起きたのかわからなかった。 自分がしでかしたことの意味を理解できぬまに、突然、激痛が肩に走る。 「後ろにさがってください!」 巫女の声がした。 あわてて、ふりかえった時、彼女は光の矢が肩を射貫いていたことを知った。そして、それは仲間たちも同様だった。 「な、なに!?」 「見えなかっただと!」 「化生の者め」 距離をとらないといけないのか。 いや、それでは決着はつけられない。 ならば! 覚悟を決めて、ふたりが突っ込む。 リンスガルトと緋桜丸は黄金騎士に近づいて、接近戦を挑む。 四本の腕が攻守を兼ね備え、簡単にはダメージをくらわないが、そこは戦い慣れた、開拓者たちが、それでもなお協力とコンビネーションでアヤカシに隙を作り、弱点とおぼしき、鎧の隙間に攻撃を加える――その体をまとう隙間から、蛇の姿をした黒い炎が襲いかかってきた。 「ちっ!?」 ひとりは銃身で払いのけながら、指先を素早く動かして、反撃をその蛇ごと、鎧のどてっぱらに一撃を加え、そのまま背後にふきとばされた。 もう一人は蹴り払う。 腕に火傷をおった者に、足に同じ傷を受けた者が告げる。 「汝も炎による攻撃は避けにくかろうが、食らっても巫女を信頼し、耐えて戦闘続行じゃ」 砂迅騎と巫女がうなずいた。 そして、事告げた女はひとり、鎧の首を狙いにいく。 「首を置いていきな」 しかし、人とアヤカシ、手刀と手刀がぶつかりあって、うまくはいかない。 そして、その隙をついての発砲とつづく。 ● 「さて――」 肩の怪我を治療し、前線に戻ろうとするシノビに弓術師が声をかけた。 「時間を稼げますか?」 「……にゃ?」 「あ、いえ、一撃をあてるためにアヤカシに隙を作っていただきたいのです」 覚悟を決めた弓術師の目がある。 「おう、にゃ。それに、アーマーのように見えて、実はすっげえ機敏なのにゃ。攻撃はよく見て回避するにゃよ」 あれだけ痛められたくせに、解けもしない難題に喜んで挑戦し続ける子供のようにシマエサがかけだしていった。 ふっと――息をつく。 まるでうなくいかない日なのだ。 それでも、ひとつくらいは―― 草薙 早矢が弓に矢をつがえる。 戦う仲間の背中を見つめ、敵の意外と機敏な動きに戸惑いながらも心を落ち着かせる。 シマエサがアヤカシの周囲をまわりながら、いつでも攻撃できる態勢をとり、緋桜丸があいかわらず巧みな位置取りで、決定的とはいわないが効果的なダメージを与え続けている。 と、その時、女が跳んだ。 瞬風の空力加速用い敵の目算を狂わせようと動いた結果なのだが、その時の、リンスガルトの姿は、アヤカシの目には何人にも見えたかもしれない。 「いただきだ!」 緋桜丸の一撃が下半身に命中し、鎧がすこし傾き、体勢を戻すまで、ほんのすこしだが時間ができた。 (――願わくは、あのアヤカシの真中に射させ給え。これを射損ずるならば、弓を折り、自害しなければ申し訳が立ち申しません。今一度、故郷へ帰らせたいと思し召さば、この矢、外させたもうな……) 祈り、唱え――そして、指先から矢を放つ。 弦のはじく音がして、矢がすさまじいスピードで敵に近づく。 アヤカシの四本の腕の動きすらかわすほどの早さで矢が、その額に一撃があたると、黄金色の鎧がぐらりと体勢を崩し、膝をついた。 ふっと長い髪が落ち、草薙の体も倒れた。 ファムニスが駆け寄ると、その体には致命傷になるような怪我は見あたらず、息をしているのもわかった。精神的ななにかが切れたかのような、そんな姿だ。 そして、アヤカシも大きくゆらいでいる。 大きな隙ができた。 「やっちゃえ!?」 ファムニスが仲間に応援をおくった。 おう―― 前列の三者が、その力と、技のすべてをアヤカシにぶつける。 シマエサの刃が、鎧の首をかっきると血のように、炎がふきあがり、ついに膝をついた。 好機到来。 リンスガルトは大地を踏みしめ、身構える。 体内の気が沸き上がってくるような彼女の気持ちと、なによりも体そのものを活気づかせると、一躍、リンスガルトの体が、 八極天陣、泰練気。 アヤカシの体に、リンスガルトの放った渾身の一撃がたたき込まれると、その体よりも、なお神々しい黄金の輝きが奔流となって鎧の中に注ぎ込まれていく。 鎧の隙間から放たれる光は、目を細めないといけないほどまでにまぶしくなり、やがて、爆発的に放たれた炎と光の爆発は、やがて、それそのもの崩壊へと姿を変えた。 黄金の鎧は内部からはじけ、五体バラバラになって四散すると、もう一躍。 リンスガルトは鎧の首と胴体を斬撃で一刀した。 そして、刎ね飛んだ首に向かい、緋桜丸が皮肉なあいさつを送った。 「おまえの役目は終りだ。オヤスミ……金ピカ」 銃声がとどろき、黄金は黒い瘴気へと戻った ● 鐘が鳴ったとき、そこにはふたつの炎が残った。 ひとつは時計、ひとつは門。 燃えさかるそれらをどうにかする策を、開拓者たちはとりあえずは思いつくことはできなかった。とりあえずは依頼はこなしたのだ。ここは一端、地上に戻ろう。 「炎の門か……更なる調査が必要じゃな」 という言葉とともに。 |