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■オープニング本文 廃都ラズヴァリーヌですか―― 「また、なつかしい名前を聞きましたね」 地図にも記載されることのなくなった街である。 彼女も記憶の片隅にしまいこんでいた名前を探すのに、しばらく時間がかかった。そもそも彼女が幼かった頃か、あるいはそれ以前かに起きた戦争かなにかによって滅び、それっきり再建されることのなかった街である。 なにを思ったのか、ひさしぶりにあった側室に夫はまず、その単語だけを伝えた。そして、つづけざまにこんなことを言い出した。 「アーマーをおもいっきり暴れさせるにはいい場所だとは思わないか?」 「アーマーを?」 わざわざアーマーのトーナメントを行う会場を新調したのに、また新しいおもちゃが欲しくなったのですかと妻は、ため息をつく。 「なに、最近、以前よりも思うようになったのだよ。アーマーの可能性というものにな」 「可能性?」 「そうさ、最近、新しいヤツをよく見かけるようになったろ。あれが都市で戦争をやったのならばどうなるのかと思ってな」 まるで、新しいおもちゃを目を輝かせて母親に自慢する子供のいいわけのようだ。 男の中の男のようにみえても、いつになっても男は男の子なのかもしれない。女は心の中でくすりと笑う。 「それで都市戦を前提とした戦いでどれほどアーマーというものが使えるのか、あるいは効果があるかというのに興味がでてな」 「直感的には開拓者が姿が建物に隠れながら逃げながら、隙をみて遠方から魔法でも打ち込んだら――」 そこまで言いかけたところで、夫の顔がむっとしかかっていることに気がついて、賢女は言葉をいいつくろった。 「そうですわね、そうなった時どうするかというイベントでも追加しましょうかしら?」 「いや、いらん! そうではない、わしは騎士たちのトーナメントを求めるのだ! あの時のような!」 そう言うと、夫は酒をあおると、ヴァイセ ローゼ――通称、白薔薇の館のオープニングセレモニーのトーナメントのことを昨日のことのように語りはじめ、やがて彼の夢見る機械兵団の話へと拡がっていくのであった。 それは長い一夜の語らいであったと、女は後に語っている。 |
■参加者一覧
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
アレン・シュタイナー(ib0038)
20歳・男・騎
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
将門(ib1770)
25歳・男・サ
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎
九条・奔(ic0264)
10歳・女・シ
ルプス=スレイア(ic1246)
14歳・女・砲 |
■リプレイ本文 黄金の髪が風に揺れ、アレーナ・オレアリス(ib0405)は両手を腰にあてての仁王立ち。 さっきから、じっと門の外を睨んでいる。 ウェントスが心配げな声をあげると、 「だいじょうぶ、あなたが悪いわけではありませんから」 その喉に手をやって、軽くさすってあげていた。 しかし、内心は声ほどに落ち着いてはいない。 なんの手違いか、アーマーが届いていないのだ。 そんな騎士の背後では、花火が上がって、鼓笛隊の音にあわせてアーマーが行進していた。 「おおお!すっげーーー!! アーマーがたくさんいるぜーーーー!!」 ルオウ(ia2445)が、その威容に感涙している。 「アーマーはもってないけど大好きさ! 男だったら嫌いな奴なんていねーよなー」 そんな彼は案内人として参加するつもりで、パレードを客ととも観覧していたのだが、この段階で客の誰よりも彼がいちばん大会を満喫している。 パレードの中には三体のアーマーがあった。 強襲駆鎧部隊リッターだ! メンバーはそれぞれ、アレン・シュタイナー(ib0038)、龍馬・ロスチャイルド(ib0039)、サーシャ(ia9980)。 宝珠を宝石のようにちらばめた機体あり、乱戦を想定して脚や腕を太くする工夫をしているものあり、赤龍を連想させる機体もありとそれぞれに個性的である。 子供たちが手をふっていて、コックピットから乗り出した騎士たちが、それに手をふって応える。 やがて、アレンが、他の二人に向かって言った。 「各員の武運を祈る……決勝で会おう」 「アレンさん、サーシャさん、願わくばまた決勝にて。では、ご武運を。」 それぞれの言葉を残して、三人は別々の戦場に散っていった。 「はぅ♪ 駆鎧がいっぱいなのです〜♪ やっぱり駆鎧は素敵なのです。最高なのですー♪」 尻尾をぱったぱったとさせながら目を輝かせながらネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が、受付で参加を申請していた。予選はどこでもいいですよと言うと、 「それだったら――」 と近くにいたからくりにスタッフが声をかけた。 「私ですか?」 ルプス=スレイア(ic1246)がからくりらしい、どこかぎこちない風に首をかしげた。 「この方が、あなたと同じ予選地区なんですよ。案内をお願いできないかな」 「はい」 からくりはこくりと頷いて、ネプの手をとった。 「時間切れです――」 ターバンをまいたスタッフが申し訳なさそうにアレーナに伝えると、優勝候補筆頭であった騎士は、まさかの不戦敗となった。 「な、なんですって――!?」 文句を言おうとしたとき、脇から声がかかった。メガネをかけた着物姿の職員が声をかけてきたのだ。 「あの――この前のヴァイセ・ローゼのトーナメントで優勝された方ですよね?」 ● 「……で、ここはどこですか?」 周囲をきょろきょろ。 あたりではアーマーが戦っている。 廃墟から廃墟へと姿を隠しながらの、闇討ち、だまし討ち上等の戦いぶりだ。 「怖いところに来てしまいました! あれ、なんか音がしますぅ。ひゅるるる……って」 見事、ヴァナルガンドが爆風の中に消えた。 「無差別砲撃ですか。ご趣味がよろしいのですね」 獣人を戦場まで引っ張ってきたからくりは冷静な物言いで、状況を鑑みる。 「フォルツァもやられましたね」 まだ動けるが、いまの砲撃の風圧で関節部分に相当の無茶がいったようだ。 廃墟が壁になってくれたが、道には風圧を受けて動けなくなったアーマーが幾つも転がって――その内の一体に矢が突きささった。 隣の建物に身隠しながら矢を放つ、クルーヴ・オークウッド(ib0860)の駆るモラルタにやれたのだ。 「最悪です」 つづけざま、矢が放たれる。 一発がフォルツァに命中。 悪い時には、悪いことが重なるものだ。 その時、また、あの音がして、近くに起こった爆発に巻き込まるとフォルツァは擱坐した。そして、その爆風の吹き上げた土煙はモラルタの周囲にも拡がってくる。 クルーヴの本能が告げる。 逃げろ――と。 どこへ!? 壁を突き破って、モラルタの真横に顕れたアーマーがあった。 「やぁ!?」 アレン・シュタイナー(ib0038)のリーリエ・リッターだ。 百合の描かれた肩から衝突してきて、さらに土煙に身を隠し、モラルタの矢から姿を守ったかと思うと、次の瞬間には、モラルタの胸にランスを突き刺した。 遠距離を想定した戦いだったのに、奇策で接近された不運がクルーヴの敗因であった。だが、自分がやった戦い方であるながらもアレンには気にくわない。 うまくいったのは砲撃が爆発した幸運があったからでもある。 「嫌な感じだね……野戦の方がまだ解りやすいかね。どうかな?」 最後の力をふりしぼり矢を放とうとしたモラルタの半身をチェンソーを切り刻んで、一体の漆黒のアーマーが姿をあらわした。 「こちらは駆鎧なんて久々に出すんだよ。新しいのもいるようだが、性能を引き出せないならゴミだな」 雲母(ia6295)だ。 煙管を咬みながら、彼女は嬉々として、戦いに勤しんできたらしい。 その黒い機体には、すでに新しい戦歴の跡が幾つも見える。 「さて、貴様はどうだい?」 「小隊長として、そうやすやすと負けてやるわけにはいかんさね」 ダッシュで一気に近づく。 「久々に動かすからこそ、本気で確実に仕留める為に戦うんだよ」 くつくつ笑いながら、雲母も動く。 幾たびか、剣先をぶつけあうと、雲母は煙管を投げ捨てた。 「私を楽しませろ、愚図と雑魚ばかりでしょうがないんだ」 覇装がチェーンソー構え直し、リーリエ・リッターがランスを構えた直した。 「やれるだけやってやろうじゃないか! 突撃ィィっ!!」 リーリエ・リッターが突っ込んできて、盾を投げつけた。 「盾にはこういう使い方もあるさね」 「だから、どうした!?」 頭上から振り下ろしたチェンソーは、そんなものは気にしないとばかり盾ごと、盾のイラストの描かれた腕をも叩きつぶした。 「これで、勝ち上がりは――」 ルオウが、そう宣言しかけたとき、爬虫類を思い出させる覇装の黒い機体が、突然、土煙の中からふるわれた巨大な一撃に吹き飛ばされた。 「――ジャマモノハ、キエルダケナノデス」 ● 「まだ、いる!?」 双刀使いのアーマーをぬかるんだ地面に沈め、竜哉(ia8037)は心の中で、倒した敵の数をかぞえ、同時に参加者名簿を読み上げた。 間違いない、残っているのは―― 「からす(ia6525)!」 かつては船小屋にでも使われていたであろう、廃屋の影から、赤い龍にも似た異形のアーマーが、突然、襲い掛かってきた。 跳躍しての攻撃は、まちがいなく奇襲であったろう。 だが、この時のReinSchertの動きは常識を逸していた。竜哉の勘が勝ったといっていい。 「彼は、ニュータイプだとでも言うのですか!?」 自分でもわからないことをつぶやいて、からすは己の渾身の一撃が外されたことを悔いた。こうなってしまえば、技量の差がもろ出てしまう。 しかも、今日というきょうは、 「動きが悪い」 のだ。 からすは舌打ちをした時には、勝負は決まっていた。 そういえば、先日、開拓者ギルドに置いてあった女性向けの冊子の占いで、ここ数日で、最悪の日だと書かれていたことを思い出した。 ふふふ―― 「不幸と踊ってしまったようですね」 友人のアーマーが去った後、アーマーの外に出て、ぼろぼろになった愛機の顔を見上げながら、からすは笑った。 「ま、いいか。きみにとっていい経験になったんだろうからね」 ● そこは風が吹いていて、かつてあった庶民の住居は塵に戻り、ただ倒されたアーマーの数々が累々と横たわっているだけの地獄となっている。 「さあ、この会場の勝負もじきにつくぞ!」 滑空機を駆るルオウが実況をする。 残るは三体。 皇 りょう(ia1673)は他人には見えないことをいいことに、コックピットの中で胸元を大きく開くと、手を扇にしてあおいだ。すでに、肌は汗でべたべただ。 駆鎧起動の錬力消費が激しい為、動いては、止めてを繰り返してきたが、そろそろ限界だろう。疲労のせいか、目がかすんできた。 もとより本職のアーマー乗りではない彼女にとって練力の消耗は最初からわかっていた問題であった。だから、策としてふたつ考えた。短期決戦を挑むか、あるいは他がつぶし合うのを待つかである。だが――と、彼女は頭をふる――後者は、彼女の性分にあわない。ならば策はひとつ。 それにしても、ここは心地よい場所だ。 短くない間、ともに過ごしてきた機体の中で、ふと安らぎを覚える。 ゆっくり目をつむり、やがて目を開けたとき、彼女の心には期するものがあった。 勝ちにいく! 再起動の音――武神号の目覚めの声。 「さて、待たせてしまって申し訳ないですね。では、始めようか。良き試合を――我等に武神の加護やあらん!!」 口元が開き、赤い口元にのぞく犬歯が、まるで得物に襲い掛かる野獣の歯のように見える。彼女がふだん押し殺している――心の修羅が吠える。 武神号が突っ込んでくる。 まっ正面から、それを受け止めるように将門(ib1770)の機体、北辰が剣をはじくと、それに手をとられ、バランスを崩したように武神号が、わざと倒れた。 これは彼女が考えていた策だ。 (予選、決勝共に生身の剣技を元にした正攻法で挑むが、勝ちにこだわる姿勢も崩すつもりは無い。わざと転倒したように見せ、『ポジション・リセット』からの反撃を試みるつもりだ。一度見せた後は、本当の転倒でも相手は警戒するだろうからチャンスは一度きりしかない。戦場で迷いは死に繋がる。そこを突く) だが、それに敵はのってこなかった。 その思考を読んでいたように――あるいは、まったく同じ事を事前に考えていたのかも知れないが――巨大な刀がためらいもなく武神号の体に突き刺す。 むろん、それは同時に北辰の隙となる。 背後から突っ込んできた機体があった。 「もっと周りを見てしっかり考えないと――!?」 ふだん、自分が言われる台詞を、龍馬が、この時ばかりはと口にして仕掛けてくる。 二体のいる場所に向かって、半月薙ぎ。 戦闘可能でも、不可能でも確実に二体の動きを止めるつもりだったのだ。 さらに、ロートシルトは迫激突を使ってくる。 すさまじい攻撃だ。 バカにならないほどのダメージをくらったが、まだ潰れてはいない。生きていれば、まだチャンスはある。 「それにしても、すさまじい攻撃だよ!?」 しかし、すさまじいからこそ、それをしのぎきってしまえば次の次の、さらに次は存在しない。歴戦のサムライには、それが痛いほどわかっていた。 ――ついに、その時がきた。 「せっかく駆鎧同士で戦いを楽しむ機会に『かくれんぼ』で終わっては興醒めだからな」 反転攻撃の機会が訪れた。 「駆鎧は騎士の専売特許って訳じゃないんだぜ」 一体一の戦いを光かがやく大剣が征し、ロートシルトは戦闘不能となった。 かくして、そこの勝者は北辰となった。 ● そして、最後に残ったのは北地区のみとなった。 ● 「市街戦の経験は少ないですからね〜、楽しみです」 ノーヴィルギエヴィートのコクピットの中で、サーシャ(ia9980)は高鳴る気持ちを抑えるように両手を何度も握りなおしているが、心が騒ぎ、胸が踊ることを隠すことはできない。 実際、開拓者といえども、街を破壊してもかまわないから街中でアーマーで暴れてこいなどと、めったには言ってもらるものではない。 ならば、 「大会で、やれるだけやるんです」」 と、彼女も気合いが入っている。 そう言えば、過去にはなにかの宗教施設であったらしい、この地域での戦いだが、賓客としていらしている某皇帝陛下は、この地区を特に念入りに破壊できないものかなどと、酒を呑みながら語ったらしい。かの御仁の宗教嫌いは相当なものである。 「あら?」 サーシャは、そこでお宝ほしさに迷い込んできた珍客を捕まえた。 情報を得るつもりであったが、 「消えた! なくなった!」 などと、意味不明なことを言って去っていった。 後を追おうとしたとき、敵影を柱のそばに見つけた。 あわててノーヴィルギエヴィートに騎乗した時、 「行くぞ、シュナイゼル!」 のかけ声とともに、ニクス(ib0444)が襲い掛かってきた。 間一髪で回避する。 石畳みの脚もとは心許ないが、気にして戦うしかないだろう。 しかし、実際、この地区での戦いは接戦であった。 最後の最後まで、戦いの結末がわからない。 幾度も剣が打ち込まれ、技を繰り出し、それでも決定的な勝機がどちらに傾いてはこない。 千日戦争か――誰もが、そう思いかけたとき、そこに九条・奔(ic0264)が状況を変えるべく参戦してきた。 待っていれば、勝手に勝利が転がり込んできたのかもしれないのに、 「楽しくないじゃないですか!」 と、いう理由だけで乗り込んできたのだ。 「さあ、バトルロイヤルだ!?」 これにはルオウの中継にあおられた観客たちも大喜びだ。 だが―― 「あれ?」 天井から飛び降りてきたKV・R−01 SHが、地面に着陸したかと思うと、あっとういう間に見えなくなってしまった。 「しまったぁぁっぁぁ!?」 陥穽に落ちていきながらも、それは、やけに楽しそうな声であった なんにしろ、その乱入がサーシャの集中力を、ほんの一瞬だけきらせることとなった。 そして、均衡した状況を崩すには、いや、あまりにも力が均衡した状態だったからこそ、それが致命傷となってしまった。 力が同じであるのならば、それを越えればいいだけなのだ。 土煙を突き破って、かがやくオーラに包まれたシュナイゼルが眼前に迫ってきた。 「オーラチャージ!?」 サーシャは理解した。 オーラチャージの爆発力は、それが味方であり、敵がアヤカシである時には心強いスキルだが、それが一旦、全員がほぼ同じ程度の能力であった時の模擬戦においては、破壊的であり、あるいは反則的であると言っていい技に早変わりする。。 振り下ろす敵の剣がすでに目の前にあった。 「ごめんなさい――」 それが強襲駆鎧部隊リッター隊員の、その戦いにおける最後の言葉となった。 ● 「おい、地下迷宮に落ちたヤツが見つかったんだって?」 「ああ、なんでも地下の大聖堂のような場所で見つかったらしい。初めて見つかった場所みたいで、開拓者ギルドの方では大騒ぎらしいぞ」 「そうか、それで彼の状態はどうなんだ?」 「アーマーは修理がきくレベルだったし、本人の体は大丈夫なようだが、なんでも記憶があいまいなんだそうだ」 「まあ、強いショックを受けたせいだろうな――あの彼のように……」 いたたたと頭を押さえるネプがスタッフの視線の先にいた。 「僕がなにをしたんですか?」 そんな彼の質問には、誰もかれもが言葉をにごかしていた。 そばではアレンたちが頭をかかえていた。 「まさか、全滅だとはな……」 一人くらいは決勝にいけると踏んでいたが、世の中はそれほど甘くはなかったらしい。 「まだまだってことですよ」 「そうそう、アーマーは大会本部の方で、明日の朝までに修理してくれるみたいですし、明日の決勝を楽しみましょう」 ● 陽光が朝霧ただよう王宮の中に差し込んでくる。 王宮と呼ばれてはいても、かつての栄華は一夜の夢。すでに明けた朝には、夜の残滓はありはしない。 これからここは、現世の栄華の夢を追う者たちの戦いの場となる。 戦いの開始を告げる鐘が鳴る。 起動音が、霧の中、各所で響いてくる。 「さあ、決勝の始まりです!」 あいかわらず空からはルオウの実況が聞こえてくる。 かつての王宮は霧の中に浮かぶ島のようになっていて、ルオウの司会ぶりが会場をわかせる。 まず、最初にエンカウントしたのは、同じ戦い方を選択した者たちであった。 巨大な刃と、巨大な斧がぶつかりあう。 オーラに身を包んだ、巨兵が衝突する。 ほぼ同時に、王宮の別々の場所で戦いがはじまった。 最初に勝負がついたのは、司会のルオウが思わず両耳を押さえるほどの轟音をあげて、二騎がぶつかりあう方。 光を帯びた大剣がアーマーの装甲を叩き、斧が装甲を殴り飛ばす。 しかし、技量は同じようなものであっても、ぶつかった時の衝撃が違いすぎる。 技すらも凌駕する、文字どうりの力の差が勝負を決したといっていい。 大きくのけぞりながら北辰の体が崩れた。 「俺も、まだまだか――」 ポジションリセットは――駄目か! 操縦桿を無意味に動かし、機体が完全に動かなくなったことを確認すると将門は自分の未熟さを悟るより他になかった。 「片方の勝負は決まりました! さあ、ヴァナルガンドがたどり着くの先か、あるいはオーラに輝く二体のどちらの勝ちが先に決まるか、さあ、どうだ!?」 ヴァナルガンドの進んでいく先では、戦いが、あまりにも力の均衡した者同士の戦いが続いていた。そして、そのような戦いの勝敗を決めるのは、それぞれの技量の差ですらなく、すべては、きままな女神の手にゆだねられることとなった。 「えぇぇい」 勝敗が決した時、ニクスには、なにが敗因なのかわからなかった。 あるいは、コックピットの脇に飾ってある新妻の絵を見ながら、女神とは嫉妬深い存在であるのだと彼は思い出すより他になかったかもしれない。 さて、帰宅してから、彼にとっての勝利の女神様にどのような言い訳をしようか――それは、この戦い以上の難事のように彼には思えた。 きつい戦いとは、同時に相手にとっても苦しい戦いであるということである。 それは、竜哉とっても同じであった。 最後の敵が来る前に、管制を確認するが、予定外にダメージを受けすぎた。 アーマーの間接部からは悲鳴が聞こえる。 オーラダッシュの連発で機体に無理を重ねすぎたせいだろうか。 「来たか!?」 霧の逆光の中に、巨大な薄紅の巨人が姿を見せた。 「こないんですか? こないようならこっちから近づく。ただそれだけなのです。駆鎧は小細工なんていらないのです! 」 にっこりと笑って、少女に顔をした、隻眼の男が近づいてくる。 試しに一振りすると、疾風が吹いた。 もう一度、振ると、今度はアーマーがまるで子供が投げ捨てたおもちゃのように、軽々と空を飛び、壁にぶつかった。 起動不能になるほどのダメージが入った。 アーマーが、近づいてくる。 アーマーが、立ち上がろうとする。 あはははは――無邪気な笑い声とともに、巨大な斧が振り下ろされ、戦斧の使い手は乱戦の王者となった。 ● 「おおぅ、優勝が決まったぞ! 今回の大会の優勝者、乱戦の勝者は……ネプ・ヴィンダールヴだ!?」 ● 「ちょっと、お待ちなさい!」 すっかり晴れ上がった王宮に声が響いた。 玉座のあった場所の真上に、一体のアーマーの姿があった。 「……っと、おっとここで大会本部から連絡だって?」 ルオウのもとに情報が入った。 「おおっと、ここでサプライズだ! なんとスポンサーの推薦で白薔薇の騎士と、優勝者の模擬戦が決まったらしいぞ!」 昨晩、皇帝に一晩かかって説得されたというアレーナの目は血走っていて、かなりハイテンションであるようだ。 「陛下! 勝利の栄光を貴方に!?」 白薔薇の騎士が、アーマーを駆って戦場に乗り込んでいくと、にやっと笑ってルオウが、観客と、アーマー乗りをあおった。 「さあ、ここでさらに朗報だ! 時間もたっぷりあるし、アーマーバトルの再開だ!」 「今度こそ勝つぞ!」 待っていたとばかり、リッターの三人が参戦を決し、まだ戦い足りない、あるいは悔いの残るアーマー乗りたちにとっての、第二戦の開始の合図となった―― |