黄泉がえりの鐘
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/28 01:25



■オープニング本文

「状況はわかったけど、ひどいものよ」
 旅姿の女がギルドに入ってくるなり、そう言って、手近にあった椅子に腰掛けると、ギルドの仲間を呼んだ。
「あ、酒もつけてね」
 テーブルに坐ると、ひさしぶりに開拓者としての仕事をこなしてきたギルドの職員が食事を待つ間に、別の職員がやってきた。
「お仕事、ご苦労さま」
「これもギルド員の勤め。といっても、臨時ボーナスのすこしは出てもいいわよね」
「まあ、それはあとで考えておきましょう」
 あからさまに見える場所で背後でギルドで一番えらい人が、耳を塞いで聞こえないふりをしているが、とりあえずは後でお話しをする必要があるだろう。
「それで、ことはどこまで悪化しているのかしら?」
「非日常が完全に日常になっているというところね。明日は、おじいちゃんとおばあちゃんが生まれる日なのよ。なんて子供に話しかける母親なんてシーンを見たときには、耳と正気を疑っ――まあ、あんなことになってしまえば、どこまで正気をたもれているのか部外者にはわからないところね」
「あるいは、それを当然のものとして受け止めねば自分が壊れてしまう……か」
「さあ、わたしだったらさっさと逃げだしてしまうんだけどね」
「風は空を飛べるけど、土と岩はそこに残るしかないのよ」
「――それでだけど……」
 開拓者として、故郷を遠い昔に離れたきり、いまいろあってそこへは戻っていない女は聞こえないふりをして話をつづけた。
「あといやなところでは死者の姿をしたアヤカシもたくさんいたわよ。昼間っから百鬼夜行というのも乙なものね」
 瘴気を斬ったという剣をふるった手を、いまはフォークを持つ手に変えて出てきた食事を腹におさめる。
「そうなると、開拓者を投入するしかないのかしら?」
「あ、そうそう。例の鐘、あれも見てきたけど、あの鐘には祟り神たちがついているわよ」
 気がついたら数人前をたいらげて、さらに食後のデザートを数人分、追加で注文。
「それをつぶせばいいのかしら?」
 解決の糸口が唐突に見つかった。
 が――
「まるで見てきたような話しぶりね」
「そりゃあ、この手で確認したもの」
「目じゃなくて、手で?」
「さわって、鍵で扉が開くのも確認したわ。あそこの階段と扉にあった罠は全部解除したけど、さすがに一体一で戦うのもなんなんだから、逃げて帰ってきたけど」
「それで鍵はどうしたの?」
「もちろん扉は閉めなおして、鍵は、もとあった同じ建物の地下にあるアヤカシがうじゃうじゃいる地下墓地の真ん中になぜかあった机の引き出しの中に返してきたわ」
「えッ!?」
「えッ?」
 しばらく、無言になって、帰宅したばかりの職員は、ぽんと手を打った。
「あッ!?」


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425
20歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
国無(ic0472
35歳・男・砲


■リプレイ本文

「さて、説明をねがいましょうか?」
「へっ?」
 真っ暗な部屋に閉じ込められ、目隠しをされる。
 椅子に坐ったまま縄でぐるぐるにくくりつけられ、腕と足には鍵付きの鎖までされる始末。私がなにをやったのかと叫べば、いらない仕事を増やしたせいだとの冷たい返事。
 詰問ならば、詰問らしく――と、言いかけて、これを仕掛けた女が最近、密偵を主人公にした読み物にはまっていたことを思い出した。
 ああぁぁぁ――
 どんなつまらな本から影響を受けたのかは知らないが、これでは詰問というよりも査問会だ。
 周囲にぐるりと囲んだ数人の気配を感じる。
「ちょ、ちょっとまってよぉぉぉぉぉ」
 こほんという咳がした。
「ただいまより、あなたに対するギルドとしての尋問を始めるわ」
「あの、鐘の音の事で伺いたい事があるのですが、よろしいでしょうか? なるべく詳しいと助かります♪」
 こんな場で陽気な声をだすのはよしてほしい。ありもしない本音なるものをつい想像してしまう。
「伺う事は二つ。鐘の鳴る時刻と、鐘の鳴っている間に、気になった動きがなかったか」
「鐘は時間的に鳴るものと、不定期に鳴るものがあったかな。音が違っていたみたいだから、別の鐘かな? あと、おかしなことは鐘が鳴ったときに、誰かが再誕したくらいからな」
 すでに得ている情報と一致する。
 一致はするが、それだけでしかない。
「全く、罠を解除して鍵は閉まってくれたですって? ……親切な事ね、少なくとも罠の分だけは助かったわ」
 ……ああ、怒っている。
 間違いなく、そのため息はあきれかえって、怒ってさえいる。
「どうして鍵を置いてきたのかしら? 貴女のうっかり?」
 さらに追い打ちを掛けるように別の声がする。
 こくり、こくり、首を縦にふる。

 ――本当に?

 ●

 村へとつづく道。
 街道は意外なほどの人があふれていた。
 噂が噂を呼び、故人を偲ぶ人々が藁をつかむように集まってきているというのだ。
 巡礼の道になろうとさえしている。
 いまは馬上の人である竜哉(ia8037)は考えていた。
「死の記憶を持ちながら、なお活動するか……。しかし、幾ら個別の記憶を持つとはいえ……アヤカシが死者に何のロックもなしに自らの弱点を話させるような真似をするだろうか?」
 その答えはやがて、自分の血や肉を代償に学ぶことになるのだが、それはまだほんの先の話だ。
 隣ではヘスティア・ヴォルフ(ib0161)もまた自問している。
「素体となったのはなんだろうな? 蘇る為の素体、埋められた土のみなのか、それとも核があるのか?」
 それもじきにわかることであった。
 倉城 紬(ia5229)の祈祷――加護結界――を受けたうえで村に入り、仲間たちが墓参りをしている間、そこを警護していたときのことだ。
 酔っぱらった老人と、ほろ酔い顔の若い青年がやってきた。
 なんでも老人は先日、黄泉帰った者で、生前、約束していてもできなかった孫との酒呑みを堪能しているということらしい。
 わずかだが良心が咎めるが、これも仕事。なにくわぬ顔をしてお神酒を勧めてみせると、
「もっと、うまい酒をよこせ!?」
 との返しである。

 ●

 ルオウ(ia2445)が墓に花を添える。
 仲間たちも詳しくは知らないが、なんでも友人のものだという。
「ポール……終わらせに来たぜ」
 また来るな、と立ち上がりざまに手を振ってみせる。
「前に来たのね、私は知らないのだけれど」
 トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)が声をかけてくる。
「まぁな」
 その時、ルオウの表情は髪で隠れていた。
 そばでは倉城が目を細めながら、例の鐘のある塔を見つめて……いや、睨んでさえいる。
 村に入ってからすぐに、例の鐘がある塔の鐘が収まっている場所を瘴索結界の「念」で調査した結果、予想は的中。
「黒も黒、まっくろなくらい瘴気があふれている!?」のだ。
「やはり、あそこか」
 槍を両肩に載せていた樹邑 鴻(ia0483)が、槍を降ろし、肩をまわしてこりをとる。
「それにしても――」
 ルオウはつぶやく。
 以前とは空気が違っているように感じた。
 この前、ここに来たときは、村も死者が蘇るということを信じたくとも信じ切れないという違和感の中にあったような気がする。
 それがいまや――
「そうね。それにしても、死者が生き返る……魅力的な話よね。私は間違ってるとか言えないわ。私だって大切な人が生き返るなら……こんなに嬉しい事はないもの」
 初めて、この村に立ち寄る仲間たちが、区別のつかぬ生者と死者の交わる村人たちを見て違和感を感じないほどだ。
 まったく違和感のようなものが村人たちの間から消え去って、。日常と非日常の境界がなくなってしまったといっていい。
 おかしくなるのならば、全員でおかしくなってしまえばよいのだ。みんなで狂ってしまえば、狂乱すらも当然のこととなる――そんな、どこか空虚な空気があるように思えた。
「皆、疲れてしまい、憑かれてしまったのかもしれなわいね」
 煙管を咬みながら国無(ic0472)がつぶやく。
 巫女と、同じような格好をした娘たちが同時に応じた。
「ならば祓えばよろしいのです!?」

 ●

 まずは鍵を取りにいかねば始まらない。
 もしもの時のために全員でかたまっての移動となる。
 墓地を出て村の道を行く。
 視線を感じる。
 はじめは村人たちに刺激を与えない様に、自然体となって他の面子の側に付きつつ、トラブルに備える。
 つづいて、どこか不審な人物たちが近づいてきた。
 こうなれば、わざわざ騒ぎを起こす必要はない。
 さらに人が集まり、目の前に人の壁ができる。
 人の波を掻き分ける。
「わるぃ……いかなきゃなんねんだ」
 静かに剣気を使って威圧して歩みを進める。
 まるで波を割って進むように開拓者たちが、その場を過ぎ去ろうとするとと、あたりの視線も集まり、さらに人が集まる。
 静かに時は満ちていく。
 誰かが腕をのばした。
 開拓者たちが走り出す。
 それでも立ちふさがる者がいて、自然、誰かの肩か体か、足か、なんにしろ体の一部が偶然ぶつかってしまって、それが合図となった。
「おいおい。話をしようって時に、暴力は無しだぜ?」
 周囲の人数が多い時は背拳を使用し襲ってくる者を抑えたり、、誤って傷付けない様に、槍の柄で足を絡めて転ばせたり、槍の柄自体を障害物として動きを止めたりするが、それも時間稼ぎでしかない。
 ついに、ひとりの村人――アヤカシが襲い掛かってきた。
 目をふせていたトゥルエノが顔をあげ、
「――だから言うわ、あなた達は間違ってない。……でも……ごめんなさいね」
 剣を抜き、目を閉じ、細い剣をふるうと、斬られたモノは瘴気となって消え去り、開幕の鐘が鳴らされた。

 ●

 鐘が鳴り出すと、村は戦場へと姿を一変した。
 生きながら死者の目をする人々の眼前で、生者と死者が踊る。
 開拓者たちはもちろんだが、あるいは死者こそが、生きているということをの大切さを一番わかっていたのかもしれない。あるいは失ったからこそ、再び手にいれたそれをいとおしむ。それが例え、生前と同じ体と、まったく同じ記憶とまったく同じ感情を与えられたかりそめ魂を持つアヤカシだとしてもだ。
 イキタイ――タベタイ――
 しかし、それが人を食べようとするアヤカシの本能であった。
 理性は本能には逆らえない。
 アヤカシが開拓者を襲い、それが一刀のもと瘴気に返る。
 あるいは、村人に襲い掛かるモノまで出てくる始末だ。
「どうも、面倒だね」
「望みは、なにか?」
 竜哉が仮初めの生者たちに向かって叫んだ。
 口が動く。

 タベタイ――イキタイ――ソシテ、シニタイ――

「いろいろ、ご希望があるものですね」」
 竜哉の手から黒い鋼線の糸が四方に拡がり、あたりの木々や家々にからみつき、その周囲が巨大な罠となった。
「さて、その内、いくつの希望を叶えることができるかね?」
 夕日を背に、彼はそう呟いた。

 ●

 地下墓地へとつづく階段を降りる。
 
 リィムナ・ピサレット(ib5201)が首に鎖をつけてカンテラをつり下げている。
 その光源が消えない範囲で、ルオウと樹邑が先行する。
 じきに地下に降りた。
 扉を開けると、地下墓地が目の前にある。
 足を一歩、踏み入れた途端、地面から手が、腕が、腐った顔が地面の中からあらわれた。
 ゾンビだ!
「俺が引き受けよう。お前は鍵を目指せ!」
 樹邑が槍を握って、ゾンビたちの前に立ちはだかる。
 ルオウを襲おうとする群れに向かって槍が振るわれる。しかも、背後から襲ってくる敵にさえも、まるで背中に目があるような戦い方で応戦する。
 しかし、目的はある。
 ルオウを狙う敵を優先撃破だ。
 アヤカシ群が自分を意識し始めたら、後衛の攻撃圏内を意識し、孤立しない様に気をつけながらつかず離れず攻撃を繰り返す内に、ルオウが鍵のかかってない机から鍵を見つけ出した。

 ●

 夕闇が近づく中、ヘスティアが倉城とともに、地下墓地に降りていった者たちが帰ってくるまで、その扉の前を護っていた。
「なかなか骨の折れる仕事だね」
 数だけはいる。
 しかも、どれがアヤカシで、誰が半狂乱となった人間なのかまるでわからない。
 しかたないので手加減をしながら気絶させることとする。
 おもいっきり斬ればいいだけのお仕事とは違って、これはこれで技術がいる難事だ。
 ならばと国無が策を講じた。
 土のにおいを唯一の違和感を手掛りにして、
「素体が泥人形なら、形・外見を崩せないかしら?」
 ぽいと水筒を投げて、その頭上に向かって、発砲。
 晴れた空に雨がふる。
 むろんアヤカシとして人間の肉体を持つ、それらが崩れるようなことはない。
 可能な限り攻撃以外の何かで村人が信じる根拠を潰し、中で燻る違和感を、村人自身が広げる事象が起きればと思っているが、
「そう、うまくはいかないのねぇ」
 ということとなる。
 さらに敵襲はつづく。
「無駄遣いをさせてくれる」
 舌打ちをする者がいる。
 こんな時と場所には、不似合いなまでのまどろみを誘う曲が聞こえる。
 戦いの途中だというのに、なにを――ヘスティアもまた眠気を覚えた。
 頭をふって、それをのける。
 と、眼前では襲い掛かってこようとした人々が眠るように倒れ込んでいった。
 最後の一人も倒れると、
「成功!?」
 そこには地上に戻ってきたリィムナたちの姿があった。

 ●

 塔へ至る。
 地下へ降り、あとには天上へと向かう。
 錠を解かれた扉を開けば、高くそびえる塔は二重の螺旋の階段を備え、外の空と同じ空を、その内に秘めていた。
 塔の中では、白く星々のように青白い火が燃えているのだ。
 しかし、それは
「アヤカシ――」
 であると、あの職員は証言している。
 国無の銃声が塔の中に響く。
 もはや生者の姿は開拓者達しかない。
 あとは暗闇なら延びるアヤカシと死の手のみ。
 それを、はじきかえしながら螺旋の階段を昇っていく。
 剣がふるわれ、魔法が飛ぶ。
 アヤカシの魔の手が迫る。
 耳栓で耳を塞いでも、心に響く鐘の音。
 ああ、見える――見える――見える――遠き幻。遠き過去。やすらぎの時代よ、黄金の日々よ――
「思い出を汚すな!?」
 心に浮かんだ祖母によく似た容貌の女が叫び、
「私の心に――触れるな!?」
 サムライが口元をゆがめる。
 鐘の音は心をむしばむ。
「ならば、対策方法は決まっている!?」
 歌い手の癒しの魔法が救いの手となる。
 あるいは自らの力で、その魔の手から回復する者もある。
「これで何度目だ――」
 樹邑は肩で息をする。
 わざわざ二重螺旋階段で、他のメンバーと別れたおかげでアヤカシの目を引きつけることはできたが、この塔に住むアヤカシの半分を引き受けてしまったようだ。
「なに、まだやれるさ!?」
 樹邑は槍を石の階段に突き立て、アヤカシを挑発した。
 そして、別の階段の仲間がどこにいるかと目で追った。
 見上げる階上は虚空で、漆黒の夜空。
 アヤカシの燈火がふりそそぐように、さえぎるものとてない階段の開拓者たちを襲う。己を盾とし、剣と換え、それでもかれらは進んだ。
 そして、頂上にたどりついた時、かれらは見た。
 鐘がある――鐘があった――鐘ばかりだ!?
 かれらが目にしたのは十にならんとする鐘と、そのひとつ、ひとつに腰を下ろした青白い揺れる人の姿をしたアヤカシども。
 子供ような姿をした、それらは空を飛び回った。
 鐘から、鐘へと、まるで鬼ごっこをするように飛び回る。
 銃声が鐘へ逃げ込もうとするアヤカシを屠った。
「やりぃ!?」
 生き残ったアヤカシが仕返しにくる。
 歌い手がアヤカシの魂を砕き、アヤカシが開拓者たちの心を砕こうとする。
 ふたつの音と歌が競い、争う。
「祟り神……それがアヤカシなら滅ぼすだけだよ!」
 リィムナは、そう意気込んでいたが、十体ほどの小型祟り神の群れだったとは予定外であった。
「これだけいれば、どんな呪いだって成就しそうね」
「あるいは、本当の神にだってなれるかもな」
 ふんと鼻で笑って、神という名前を冠する化けものにルオウは挑んだ。
 剣がふるわれる。
 魔法が交差する。
 そんな中、国無が腹から血を流した。
 倉城があわてて駆け寄って、その傷を癒す。
 壁に背中をもたれかかって治療を受けていると、彼(彼女?)の目には巫女の片割れに見える女が口をとがらせる。
「孤独な死に神ぶって」
「あなたこそ、神に挑むの? 巫女なのに」
 苦痛で顔をゆがめながら、伊達男は笑った。
 えッ――
 リィムナはすこし戸惑ったような顔をして、やがて、くすりと笑った。
 彼女の姿を見間違えたらしい。
 リィムナはしばらく、その勘違いを訂正しないでおこうと思った。
 それに、じきに片がつくのだ。

 ●

 最後の一体となった。
 残ったアヤカシが鐘から姿を出す。
 まさに一夜の激戦であった。
 かつての塔は、もはやかつて塔であったものに姿を変えている。
 四方の壁には穴が開き、崩れた壁からは夜空と、しらじらと明ける朝焼けがそれぞれ見える。
 東側の壁からは昇ってくる朝日を背にして開拓者たちは、闇に姿を消そうとするアヤカシを睨んだ。
 あと一撃――
 かれらが四方に散った。
 アヤカシが飛びかかる。
 だが、ひとり、そのアヤカシを敵にしない者がいる。
 駆ける。
 狙うは目に見えるアヤカシではない。
 その本体!
 鐘に向かって気力も使って渾身の力を込めて打ち込む!
 ありったけの気持ちと気力を込めて叩き割る!?
「こいつで……終わりだああ!!」

 ●

 その朝、村から死者が消えた。
 あとには生者だけが残った。
 いまから思い返すと、あれはまるで春の夜の漠然とした夢かうつつかもはやわからない日々で、まるで夢の中のようなできごとであったと人々は噂しあったという。

 その日、村は永い悪夢から醒めたのだ。