お菓子と竜と恋人たちと
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/01 22:23



■オープニング本文

 にぎやかであったバレンタインとホワイトデーも、ここ数日で終わりだ。
「さて、残ったこれはどうしようかしら?」
 菓子屋のおかみは、今年も稼がせて貰ったチョコやクッキーには感謝しつつも、余ってしまった材料の山を前にすこし困り顔だ。
 今年は予想外に多くの店で、同じような菓子が並んだので例年以上の客の奪い合いの結果、テーブルの上いっぱいとは誇張があるにしても、それに近い量が残ってしまった。
 収支としてはとんとんなのだから、これをどうにかすれば今年のシーズンも黒字で終わり、めでたしめでたしとなる。
「まあ、いいさね」
 例年どうりに安売りにでもすれば儲けはそれほどでないにしても赤字にはなるまいが――と、その時、扉を叩く音がした。

 ●

 この店の店頭には、
「ない?」
 あの店の店頭には、
「ない!」
 そして、さらに別の店頭にも、
「なぁいいいいい!?」
 期日を過ぎて、安くなったチョコやクッキーを買いあさることを例年の楽しみにしていて、今年もそのつもりで、ギルドに休暇届けを出して平日の朝から出かけたというのにまったくの不漁。どこの店からもすでにそれらは売り切れているのだ。
「これは事件よ! 大事件!? 絶対に、裏になにかよからぬことを考えいているヤツがいるわ! なにかの陰謀に違いないわ! 開拓者ギルドの全力をあげて解決すべきだと思うの!?」
 翌日、テーブルを叩いて仲間の職員たちに自分の出会った”怪異”を訴えかける女の子に、仲間の職員は肩をすくめて言うのだった。
「あ、それだったら――」

 ●

「だいぶできてきたようね」
「中身をいじるわけでもない外装のお色直しですからね、それだけだったら簡単な仕事ですよ……しかしですがね――」
 アーマーの手入れをしていた職人たちの親方はあきれたような返事をする。
 いまだ軟禁の身にある客人もあきれ顔だ。
「それにしても、無茶をしましたね。アーマーをお菓子で飾るなんて、子供が考えても、大人が実行に移すようなことではありませんよ?」
「だからよ」
 くすりとオルガは笑った。
「せっかく、このヴァイセ ローゼを作ったんですもの。ジルベリアの――いえ、世界中の人達にもっとアーマーとふれあってもらいたいじゃない?」
 白薔薇と名付けられたアーマーの闘技場がジルベリアにはある。
 そこの女主人は、なんとアーマー対人間たちの模擬戦をやろうと考えているのだ。むろん、ただの人間であったのならば勝負にならないだろうし、反対に志体もちであったのならば十二分に可能なのだが、それだけはおもしろくはない。
 そこでバレンタインやホワイトデーに売り損ねてたお菓子を集めて、なにやら企てているらしい。
「陛下にはなんと説明なされたんですか?」
「大丈夫、彼の頼まれごとを片付けてあげた御礼……というよりも、その頼まれごとの対価もである、正式な取引の結果よ」
 夫婦だけの秘密をほのめかすと、もう一度、くすりと笑って皇帝夫人は催しの準備を急がせるのであった。


■参加者一覧
クルーヴ・オークウッド(ib0860
15歳・男・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
能山丘業雲(ic0183
37歳・男・武
スチール(ic0202
16歳・女・騎


■リプレイ本文

 ジルベリアの年中行事ともいっていいことなのだが、雪の降る日も減り、しだいに気温も高くなってくると、普段は寡黙でおとなしい人々もどこかうきうきしたような態度を見せてくる。
 ジルベリアの民は、アル=カマルの民たちに比べれば遙かに気温の変化に繊細だと言われるが、平均気温が、ほんの数度、暖かくなっただけでもまるで服を一枚、重ね着したように暖かくなってくるのだ。冬の間、春を待ち続けてきた人々にとって、その訪れは心からの願いなのだ。
 雪も溶け、すこしでも地面が見えてくるようになれば、春の陽気に誘われての外出となる。そして空が晴れているともなればなおのこと、春の息吹を感じに、森へ湖へと出て行く者たちも多い。
 冬は家にこもることが多いので、その反動で雪のない季節は活発に外で活動するのだという。
 そして、あいにくその日はそんな絶好の観光日和。
 バレンタイン、ホワイトデーと財布に痛いイベントがつづいて、財布の紐を締めぎみなのか、恋人たちはどこか金のかからない場所へデートに向かったらしい。バレンタイン、ホワイトデーのつづきで狙ったカップルの数はまばらだ。
 代わりに、会場は子供たちの声があれている。
 それに連れられた保護者たちの数もまた同数か、それ以上いることとなる。
「結局は、こうなる運命か――」
 やれやれと腰に両手をあて、企画者は思い描いた幻想と、目の前の現実の差異に笑ってみせて、とりあず夫の人徳のせいだと責任を転換したところで、
「シーラさまがいらっしゃいました」
 お客さまですよと呼ぶ声がしたので、その場を立ち去った。

 なんにしろ、にぎやかな一日のはじまりだ。

 ●

「さあ、いらっしゃい! いらっしゃい!?」
 威勢のいい、ばかでかい声である
 ふだんならば繊細さに欠けていると眉をひそめる者もいるかもしれないが、いまは威勢とでかい声は客を呼び込むにはかかせない資質である。
 その声に顔を向けた子供の表情が突然、笑顔で崩れた。
 親の手をひっぱって、その人だかりに向かう。
 その中央に立つのは派手な格好の男。
 黒のマントに、クッキーやチョコを貼り付けたコスチューム姿の能山丘業雲(ic0183)だ。門前で、チラシをばらまく、その奇妙奇天烈な格好は、子供達の興味を惹くには十二分なものであったろう。
 お菓子の怪人、本人に言わせればお菓子の魔神ということになるのだが、子供たちにとっては、どちらでもいいことだ。
 おもしろい姿に興味津々。
 そこへ本日のヒーローである騎士殿も登場。
 子供たちをあおりながら、顔を覚えてもらうことに余念がない。
 そんな子供たちとは別に大人たちには、また別の楽しみがある。宮廷に仕える料理人や、有名店のパティシエの作ったお菓子が並ぶ出店や、ここがアーマーのトーナメント会場であることを思い出させるアーマーの陳列。
 アンティークな機体から最新のものまでさまざま。
「やっぱり、いいねー」
 クルーヴ・オークウッド(ib0860)は会場脇に作られた歴代のアーマー展示にまじって飾られた自身の新型アーマー、モラルタを見上げていた。
 いつものようにアーマーに乗り込んだり、張られたロープの中に入って、その足下から見上げるよなことはできないが、技師たちの手で整備し直されたその様子は、どこかふだんとは違った、すこし誇らしいものであった。
「白竜は、そうだなぁ、見学かぁ?」
 お菓子の怪人が、そう叫ぶと、お菓子で飾り付けられた白い炎龍が能山丘といっしょになって笑う。
 かかかと笑えば、かかかと応え、子供たちも真似して、かかかと笑って、それを眺めていた親たちも大笑い。

 なんにしろ開演までは、しばらく時間がある。

 ●

「あらあら本職にこられちゃったわね」
 お菓子職人には知られたくない理由――実は皇帝陛下のいただいたチョコレートやクッキーの大量処分を頼まれたのが、そもそもの発端であったとか、ドラゴンを飾るのに足りなかったチョコやクッキーは民間から金をつかってまで徴収したとか――多分にじと目で睨まれそうなことをやっているという自覚だけはある――自覚があって、それでもやるのだから性質が悪いのだが――すこし戸惑い顔。
 それに気づいてか、気づかずかシーラ・シャトールノー(ib5285)は普段どうりの態度であいさつをした。
「オルガ様、今回もよろしくお願いするわね」
 そういって、土産の入った箱を手渡した。
「まるでもふらの毛みたいに、ふわふわしているわね? どうやったのかしら?」
 中身は泰産の苺とジルベリアの牛乳を使った苺のババロア。
「企業秘密ですね」
 しっと指先を唇にあててシーラはウィンクしてみせた。
「いただき!」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)が、テーブルにそれが並べられると、まず手を出した。
 そもそも彼が会場に顔をのぞかせたのは、単に甘いものが食べることができると聞いたからである。
 さらに、そのまま手に持って食べられるよう、やや堅めに焼いたガトーの台座を手にして、左手のホイップクリームで薔薇を象った飾りを入れてある部分をまずがぶりつづいて本体もがぶり。
「何だか妙なイベントがくっついてんな。まあ面白そうだし、いっちょやってみっか」
 と参加までしてくれたのだ。
 ただまわりは事前打ち合わせの会議になっているので、なかなか手を出せないでいる。
「お菓子の飾り付けられたアーマーは借りるぞ。わしはアーマーは持っていないからな」
 あいかわらずのでかい声だ。
 お菓子魔神殿がドラゴンを扱うそうである。
「そういえば、クルーヴさんがなにか意見があるって言ってたけど……どうしたんだ?」
「あ、うん」
 窓の外をぼっとした顔で眺めていたクルーヴがはっとして応えた。
 あいかわらず会場に飾ってある愛機を惚れ惚れと見つめていたらしい。
 だが、意見を求められていることに気がついてクルーヴは表情をあらためた。
「二台目の火竜を準備して貰えませんか?」
「なぜかしら?」
「会場内で幌を被せて待機します。そして――」

 ●

 しゃなりしゃな――あれ、じゃらじゃらって音がしているぞ?
 なんにしろ衣擦れというには、あまりにも騒々しい鉄帷子のような音を響きながせながら、人々の見守る中、女があらわれた。
 遠巻きに見守る人々の中心に立って、劇中の姫は語り始めた。
「ああ、わたくしの城は衝撃に強い円塔にしたものの、贅沢にも居住性を高めるために採光窓を増やしてしまいました……こんな所にもしも恐ろしいドラゴンが攻めてくれば炎が内部に入り込んでしまう! もっと迎撃性を高めた矢塔を増築しなければ!」
 御姫さまを演じるスチール(ic0202)は、ぐっと拳に力をいれる。
 妙な方向に力の入った演技だ。
「そんなに軍備施設としての城に執着する姫がいるかよ!?」
 すっかりアルコールのまわった観客たちからヤジが飛ぶ。
 なお、ジルベリアにはそんなヤジとは裏腹に、あの親の子供なだけに、そういうことばかり考えている皇女たちが幾人かいることを、義理の母親は知っていた。
 そういえば義理の息子のひとりもまた、父親と同じようにチョコレートの処理にこまって、なにやら企てたようである。さて皇帝がそちらに顔をのぞかせたが、いったいどんな騒動になっているやらである。
 さて、めずらしく顔をさらし、ひらひらのドレス姿のスチール姫である。馬子にも衣装という言葉もあり、なによりもヴァイセ ローゼの衣装係ががんばったとしかいいようがない。
 白薔薇にちなんだ白いドレスだ。スチールの希望にそって心臓や背中などの急所、さらにスカートの裾にも鉄を加工したブローチや巨大なネックレスのような装飾品で、おしゃれに飾っている。スチールの希望の衣装を大胆にアレンジしたものだ。そのまま制作したのならば、ただでさえ妙に筋肉がつき、高いヒールを履いているのに戦士のような隙がない歩き方をしている姫君なのだ。
「お前のような姫がいるか!?」
 あいかわらずのヤジに子供たちのやいのやいの歓声。
 そんな声が一層、大きなものになってしまう。
 むろん上流階級の最新ファッション好きだったら欲しがる物好きもいるかもしれんが、女性、子供向けには、もうすこしかわいらしいドレスにしてあげてもよかったかもしれない。
 なにはともあれ、彼女が今回のお姫さまである。
 わははは――
 笑い声とともに白い煙が会場の一角にあがって、ドラゴンの登場だ。
「はーっはっはっはっは! わしはドラゴン、悪のドラゴンだ!」
 お菓子で飾られた火竜の登場だ。
 子供たちが、いっせいに声をあげる。
 笑い声、泣き声、
 大人たちが、それをあやす声。
 このような場のお約束だろう。
 一瞬、腰に手をやり、盾をかまえるよう仕草をしかけたスチールが舌打ちしそうになった。目の前にでたアーマーの化けものは敵ではない。
「ああ、大きな恐ろしいドラゴン!」
 台詞は棒読み、素手だが、盾と剣を持っているように身構えやる気はまんまん。
「どこに、そんな好戦的な姫さまがいるんだよ!」
 あいかわらずのヤジ。
 しかし、やはりジルベリアにはそういう皇女がいて――
 ドラゴンのアーマーにつかまれ、足をばたつかせると、スカートがひろひらとなるが、どういう仕掛けになっているのか、もちろん鉄壁のスカートは謎のガードで中までは見えない。
 そんな姫をつかむとお菓子のドラゴンはゆうゆうと舞台を去る。
「どなたか正義の騎士様、あわれで非力な姫をお助けください!」
「まかせてもらおう!?」
 姫の退場とともに、声をあげてクロウの登場だ。
(俺はドラゴンと戦う騎士の役か。正直柄じゃないが、頑張って正義の騎士になりきってみるぜ)
 心には、そうつぶやきながら顔は凛々しく舞台の中央へ。
 どよめきが生まれた。
 淡い輝きをまとった霊騎にまたがり、騎士姿の青年があらわれたのだ。
 まちがい、今回のヒーローは彼だ!?
「ユィルディルン、参るぞ!」
 魔操槍を手にしたクロウの声に愛馬が応じ、舞台の端から、端まであっという間に駆け抜けてしまった。
 そして、幾つかの試練を越え、はやドラゴン退治。
 能山丘の操るドラゴンが、再びスモークの中からあらわれた。
 ドラゴンの肩にはスチール姫を載せ、繊細さに欠けるとまわりから謂われながらも
(落さぬように、落とさぬように――)
 ごほごほと咳をするスチールを座席からちらりと見て、目の前に騎士を置く。
 周囲に被害が及ばぬように注意を払いながら、子供たちの表情を見ては怖がらせないように気にしながら、戦いの間をとる。
 子供たちの顔からは、いまから始まる戦いに、わくわくとしているのがわかる。
 ジルベリアの民の尚武の気風は幼年期から、あるものらしい。
「ほう、おぬしがわしの敵となって立ちはだかるか。悪くない。かかってくるがいい!」
「今日がお前の最期の日だドラゴン!」
「できるかな、坊主!?」
 お菓子のドラゴンが動く。
 騎士も、愛馬を駆る。
 アヤカシとの戦いでは、決して見せることのない派手な動きで、会場のあちら、こちらへと動き回る。
 紙一重で、当たらぬようにドラゴンは腕を動かし、尻尾をふるい、あるいは当たらぬように騎馬を操っては回避する。
 一進一退の戦いを演じてみせる。
 動いて、動いて、やがて仕留める時だ!
「やぁ!?」
 ドラゴンの腕を霊騎が駆け上る。
 おおっ――
 どよめきの中、ヒーローの一撃がドラゴンの胸に決まり、肩から飛び降りたスチール姫がクロウの胸に飛び込んでくる。
「姫は返して貰う!?」
「おお、なんとゆう強敵! だが、わしはただの偽物だ! 本物のドラゴン様は、あちらだっ!」
 お菓子のドラゴンの操縦席から放り出された――もちろん、自分から降りたのだが――お菓子怪人の指さした先にあった箱の山が、がらがらと崩れ、真のドラゴンがあわれた。薄くチョコレートの塗られた、金箔ならぬチョコレート箔のドラゴンだ。
「うッ――」
 騎士は鼻に手をやった。
 あまりにもチョコレートの匂いがきついのだ。
(準備までの時間がなかったからな――)
 そして操縦者もまた鼻をしかめていた。
 二体目の真ドラゴンを操縦しているのはクルーヴだ。
 一体目の戦いを舞台裏で見ていて、能山丘とスチールの退場とともに登場するのはシナリオ通りである。
 さらなる戦いの予兆に観客たちも驚き顔。
 だが、それはすぐに歓声へと変わる。
「さあさあ、こっちよ!?」
 シーラたちスタッフが観客たちに移動を促す。
 戦い方が先ほどと違うので、バトルフィールドも変わってくるのだ。
「ありがとうございます」
 アーマーを制御しきるのは大変な作業だ。しかも、クロウにあたらないぎりぎりの攻撃をしないといけない現状では、さらに周囲まで気を回して戦うことができるか――やってみせます!?
 ドラゴンが動いた。
 騎士も動く。
 さきほどは違って正面からぶつかりあう戦いだ。
 まっ正面で衝突したかに見えた騎士とチョコレートのドラゴンは交差しあって、互いに技をぶつける。
 槍がつきささり、火が噴かれる。
 さらに、それが二撃、三撃。
 あまりにも見事な戦いに、動き始めていた周囲の足も止まってしまった。
「こっちです!?」
 スタッフたちの声は悲鳴となっている。
 しかし、その声は観客の耳には届かない。
 さらに戦いはエスカレートする。
 幾度かの衝突が起こり、地に騎馬が倒れ、騎士が地面に叩きつけられた。
 興奮した観客たちの波が境界線を越えて、あふれだそうとする。
「こら!」
 シーラも劇に参加するつもりだったが、それどころではない。
「なんだよ!」
「なんだよじゃないの!」
 言うことを聞かない子供の首根っこを捕まえて、騎士は跳んだ。
 ほんの一瞬前まで二人がいた場所にドラゴンの足が下りてくる。
 ドラゴンの足もとまで観客が入ってきているのだ。
 ふだんアーマーの決闘がおこなわれる場所を臨時の野外劇場にしたのが祟ったか。
 本来は劇で使うつもりだったが、こうなってはしかたない。
 シーラはガードを使い、盾を掲げてドラゴンと観客の間に割って入る。ドラゴンとぶつかってしまうようなら、ドラゴン側に合図を送りつつ、なるべく小さな衝撃で受け流せるよう、やってみるつもりだ。
 そして、手を打たねばはならい。
「アンフェルネ、後方で見て警告と指示お願いね」
 主人の言葉を承知して、からくりが合図を送る。
 最悪の場合まで対処を考えておいたかいがあった。
 ――承知つかまった。
 予定よりも場所を移動しているが、会場の一角に白いアーマーが登場し、それを見たドラゴンと騎士がじりじりとそちらへ向かう。。
 再度、勝手に移動しようとする観客をこんどこそはスタッフに守衛、さらに主催者まで駆り出して止めた。しばらく、混乱はあったものの、なんとか場は落ち着いた。

 ●

 ドラゴンと騎士の間にアーマーが突然、あらわれ立ちはだかった。
「助太刀に参りました!?」
 それはスチール姫の声だった。

 えッ――?

「そいつはやらせはせんぞお、悪竜!」
 とても姫とは思えない言葉遣いである。
 それも、とてつもなく、うれしそうな声である。
 さきほどまでの棒読みはどこに行ったのか、こちらが素と思える女騎士の搭乗したアーマーの登場だ。
 これまた意外な演出に観客たちはわいた。
 もはや、ここまでくれば成功も失敗もない。
 あとはただただ派手でやればいい。
 流れとは、そういうものだ。
 女性めいた白いアーマーが騎士を守るように立ちはだかり、クロウは再び騎乗した。
「さあ、これで最後にしましょうかチョコのドラゴン殿――姫も待っていらっしゃるようですし」
 距離を取り、突撃!
 騎馬と騎士、さらに魔槍砲が一体になる。
 イェニ・スィバーヒ。
 みずからの心技体、そして愛馬とのそれらをもひとつにして突っ込む、捨て身の一撃だ。
「行け!?」
 スチールのアーマーの背中を駆り、さらに跳躍。
 人馬は一体となって、大空へ舞い上がった。
 そして、天上から振り下ろされた槍はドラゴンを捕らえた。
 もちろん、見た目の体裁整えつつ当てるだけで本当にダメージを与えないように加減――はした。だが、そこへ容赦のないアーマーの一撃が加わったのだった。

 ●

 戦い終わって、日が暮れて――

 お菓子をばらまきながら倒れたドラゴンの前で、クロウは魔槍砲を掲げつつ会場を駆け抜け観客にアピールをする。
 子供たちは、はやお菓子に夢中。
 会場に散らばったお菓子やチョコを集めては、その場で食べ始めたり、友達や親といっしょにほおぼったりする。
 出店もある。
 シーラが両手一杯、さらにアンフェルネの両手にも買いそろえたお菓子がある。
 店に持ち帰って、試食も兼ねてのレシピ研究だ。
 どんなアイデアが使われているのか、作り方を推測してみたり、どうにもこうにも良い所が見つからないものは失敗の要因を分析したり――あら、どうしたの?
「いえ、とてもうれしそうな顔をしているんだなとおもいまして」
「……そうかもね」
 からくりの言葉に首を縦に振って料理人は帰途の仕度を始めた。
「あら?」
「どうしたの?」
「あちらに、みなさんがいらっしゃるんです」
 ああ、そうね――
 劇の出演者たちが残った菓子を観客に配って回っていた。
 あるいはクロウが霊騎に興味を持った子がいたら乗せてあげたり、子供たちから、ありがとうとか、かっこよかったと言われては手渡されたお菓子を子供たちと食べたりしている。
 お菓子の怪人も、あいかわらず大人気でくたくたになるまで子供たちと白竜とともに遊んでいた。

 なお無愛想な目付き悪い表情のまま、お菓子を配っていたスチールの周囲には当然のように子供たちは集まってこなかったが、ある種の趣味を持った大人が多数集まっていたとのことである。

 世の中、広いね。