三匹を斬る!?
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/29 00:17



■オープニング本文

 日が暮れて、日が明けた、
 ただそれだけのことだというのに、人間たちは年が変わった、あるいは暦が変わったなどとはしゃぐ。
 まったく奇妙なことだ。
 ただ時間が過ぎているだけであるのに。
 ひとでない、それらはそうささやきあう。
 やがて、自分たちの食料がなにを考えていようと知らぬし、関係ないではないかと嘲り笑って、それらは新しい仮面をつける。
 しばらく前に使ったヤギやかぼちゃの仮面は投げ捨てて、こんどは白磁の面である。
 まったいらな面を顔らしい場所に置くと、三体のアヤカシは人間の里から奪ってきた酒樽を杯がわりにあおるように呑む。
 一杯、呑むごとに陽気に、一杯、呑むごとに妖気を放出させて、それらの姿は変容する。みるみるうちに、その白面はみるみるうちに赤く染まり、体もまた、それにふさわしい四肢の化け物とになる。真っ赤な顔をした緑と黒の色模様の獅子にも似た化け物が、世に放たれたのである。

 ●

 年が明けても、町はもとに戻ってはいない。
 昨年の暮れ、この町で暴れた妖精の姿に化けたアヤカシは開拓者たちの活躍によって追い払うことは成功したが、それも重傷を与えたにすぎないというのが、開拓者たちの報告を詳細に分析したギルドの見立てであった。
 しかし、それ以来、アヤカシが町に襲来していないのも事実である。
 年が明けても、その不安定な状況がつづいている。
 そんな状態では、全力で責任をとらない仕事にあたり、その余力でその他の業務をこなすと悪口を叩かれる役人でなくとも資金や人材の投入を躊躇するのはしかたない。
 建物を作っては壊され、人員を派遣しては殺されるのでは無駄骨どころか、無駄死ということになってしまう。
 むろん、だからといって手をこまねいているだけでは統治能力を疑われるので、近くの砦から戦うついでに建築作業もできるからという理由で工作兵たちが派遣されている。
「……にしてもだ――!?」
 その部隊の隊長はさい先悪いという顔で、都の役人たちが手配した資材を前に、ただ立ち尽くすだけであった。
 食料を頼んだはずであるのだが、たんまりと搬入されたのは酒の山。
 どこをどうまちがったのか、あるいは誰かが発注を間違えたのかわからないが、頭の痛い問題である。
「水がなければ酒を呑めばいいさ」
 と兵たちは笑うが、酒はメシではない。
「天儀には、そういう鍋があるそうですよ」
「特殊な例を出すな!」
 市民への支給品でもあるのだ。酒で溶かしたミルクを子供に呑ませることができるわけないだろとぶつぶつ言っていると、哨戒にあたっていた部下が叫び声をあげて部隊のもとへ駆け寄ってきた。
 アヤカシの住む森の周辺を警戒させていたのだ。
「アヤカシが出てきた!?」
「ど、どうするんですか?」
「どうするってお前……勝てると思うか?」
「いいえ!」
「いい返事だ。逃げるぞ!」
 訓練の行き届いた部隊は、町の人間に逃げるように叫んで回りながら、そのまま一目さんで逃げ出した。
 ただの人間ではかなわないのがアヤカシである。
 逃げて、逃げて、振り返ると緑の体躯、赤の顔をした兄弟な犬のような三体のアヤカシが町の中を暴れていたが、やがて部隊が集まっていた場所で足を止めた。
 そして、資材をあさりはじめる。
 なにかを食べているかと思ったが、そもそも酒しかない。
 つまり――
「酒を呑んでいるのか?」
 呆然とする人間の前で、アヤカシは酒を飲み干し、そして、そのまま、眠ってしまった。
 やがて月が昇って、風が吹いて、ようやく目を覚ますと、三体のアヤカシは足をふらつかせながらもときた森へと戻っていくのであった。


■参加者一覧
黒木 桜(ib6086
15歳・女・巫
羽紫 稚空(ib6914
18歳・男・志
影雪 冬史朗(ib7739
19歳・男・志
ゼクティ・クロウ(ib7958
18歳・女・魔
雪邑 レイ(ib9856
18歳・男・陰
陽葉 裕一(ib9865
17歳・男・陰
楠 柚葉(ic0171
16歳・女・弓
春凪 琥珀(ic0201
15歳・男・武


■リプレイ本文

「これでいいわよね?」
 彼女たちのレベルにもなればなれたものであろうに、ギルドの職員に、この仕事をやりたいと申し込んだ黒木 桜(ib6086)は羽紫 稚空(ib6914)に確認するようにふりかえる。男は肩をすくめて、正解だよと言った。
 カウンター越しに職員たちが、すこしうらやましそうな表情をして、やがて一息をついてひとりがいつものように説明をする。
「すでに知っているでしょうけど――」
 と、前置きをして一通りの流れが語られる。
 仕事内容の詳細説明はもちろん、いまさら聞き飽きた依頼に関する危険と、それに関するギルドの免責事項。さらに支給品の件などについても説明を受ける。
 そして、なによりも最低人数に達しない場合には開拓者の生命の危険を鑑みて、仕事そのものをギルドの方でキャンセルさせてもらうということである。
 この段階では、まだ参加者名簿に名前を載せるのだけで、正式な契約書を渡されない。
 契約書のサインは頭数がそろってからだ。
「経費削減にご協力くださ〜い♪」

 さて――

「はぁ……いいお茶ね」
 その日、その依頼に入ったのはふたりだけであった。
 待つ間、ギルドの職員が天儀の茶をだしてくれて、窓越しにさしこんでくる日差しの場所までテーブルを運んでは、ひなたぼっこをしながら、たわいもないおしゃべりをふたりで交わして終わった。
 たまには、こんな日もいいだろう。

 ●

 翌日も、彼女たちにつづいて依頼を受ける者はなかった。
 しかたないのでギルドの職員たちの誘いにのって、外で雪合戦をしたり、雪だるまを作ったり、雪ぞりをすべらしたりなどして、日を暮らす。
 夜、作ったかまくらの中に、ふたりだけでいるとギルドの人が甘酒や餅を運んできてくれた。さらに火鉢も用意してくれて、かまくらの中で餅を焼いたりしながら、ジルベリアにいながら天儀のような冬の一日を満喫。

 ●

 次の日も参加者なし。
 外は吹雪で、自然、暖炉ににじり寄ってしまう。
 たまたまギルドに避難してきた吟遊詩人の語る物語を、暖炉で焼いたケーキをいただきながら聞いているうちに、桜がうとうとしながら恋人の肩に寄りかかってくる。
 なんとなく幸せね気分のまま、その日も終わり。

 ●

 そして、日がさらにたって――

「だぁぁっぁぁぁぁぁ!!!?????」
 待てど暮らせど、待ち人はこず。
 ただただ時間だけがたち、つまり締め切りだけが近づいてくる。
 このままでは、仕事はキャンセルとなってしまう!
 メイドの格好をした職員にお茶をいれてもらい、ジルベリアの菓子をおいしそうにいただいている恋人を横目で見る。
 ノートを取り出して、どんな作戦を立てようかと、ギルドの資料とにらめっこしながら考え込んでいる。まだ、この依頼をあきらめていないようだ。
 ならば、楽しそうにしている彼女を悲しい顔をさせるかと思うと、いたたまれなくって、羽柴は駆けだしていた。

「桜、ちょっと出かけてくる!」

 ●

 さて、きょうも桜と羽柴はいっしょだ。
 テーブルで朝食をとっていると、毎日、お茶と菓子を運んできてくれるメイドがにっこりと笑って、きょうは別のものを運んできた。
「おめでとうございます。依頼人が裁定参加人数に達したので、依頼は成立しました」

 ●

「よく集まってくれた」
 羽柴がうなずいた。
「俺の伝書読んでくれたんだな、小隊用を使っちまったが……」
 あたりから椅子を持ち寄って、テーブルにまるまると、今回の依頼を受けた開拓者たちが顔をそろえた。
 雪邑 レイ(ib9856)がふっと笑う。
「伝書が届き、人手が足りないとあり、駆けつけた。偶然とは言え、まさかまた一緒に組むことになるとはな」
 明快な意思が介在するのならば、それは偶然とは言わないのではないかと突っ込みたいところだが、せっかく集まってくれた仲間に文句はいえないし、言わない。
「んで集まってくれて……マジサンキューな、助かったぜ。なんせ、人数俺と桜二人じゃいくらなんでも心細いは、締切間近で人いないわでさ……。んで、ダメもとでかけさせてもらったんだが、吉と出たから助かったぜ」
「稚空は小隊への伝達、たいへんだっただろう……」
 影雪 冬史朗(ib7739)は本当にごくろうさまでしたと言いながらも、どこかあきれ顔。
「人数いないからといえど、まさか全員が月光天羽空の隊員になるとは思いもよらなかった……」
 見回せば、日頃、みなれた顔、顔、顔。
 ただ、顔は知っていても、開拓者としての本当の実力をたがいに把握しきっているわけではない。考えようによっては、互いをより知るいい機会かもしれない。
「楠と琥珀は初めての依頼か。頑張れよ! 楠は俺がうまくカバーしてくから、どんどん攻撃してくれよな!」
 その言葉に楠 柚葉(ic0171)はにんまりとすると、
「手練の奴と一緒に戦闘とは、初めて仕事する私にとっちゃありがたいことだな! 頼りにしてるぞ?」
 バシバシと音が鳴るほど景気よく稚空の背中を叩いた。
 さらに、呵々と笑ってはこんなたちの悪い冗談を言う。
「――私の弓がもしお前に向かったときは、……うまくかわしてくれ!」
 そんな弓術士に対して、同じように初めての依頼を受けた武僧はやや緊張気味。
「今回が初めてのお仕事ですが、足を引っ張らないよう頑張りますので、宜しくおねがいします」
 合掌して、ぺこりと頭をさげた春凪 琥珀(ic0201)はいかにも若い僧侶の風貌である。
 そんな風に、あいさつが終わったところで、誰かが冗談めかして言った。
「そういえば、今回の依頼内容はお前達の結婚式だと聞いたが?」
「だれから、そんな情報を?」
「この手紙に――」
「書いてねーよ!」
 あきらかにからかうような仲間たちの態度と、そう言われた途端、顔をまっかにして、きゃあきゃあと騒ぐ黒木嬢の耳元に、ギルドの職員が耳元に追い打ちでなにごとかささやく。
 思わず、相方の服の裾をちょんちょんとやって、
「ねぇねぇ――」
 と伏せ目がち。
「どうしたんだ桜?」
「ぎ、ギルドでね、はねむーんとぱっけーじんぐしたけ、け、け、けったいなものを売っているんだって!?」
「はいっぃぃぃぃぃっ?」
 フォントを数倍表示にしたいくらいな大きな声で叫ぶと、羽柴が目をぱちくりさせた。
「ああういういしいなぁー」
 いらぬ知恵――まちがって伝わったようだが、どうでもいい――を与えた職員たちは、そんな恋人たちの姿を菓子代わりに休憩の茶を喫するのであった。

 ●

 さて――……こほん。
 表情と声をあらためて本題に入ろう。
「まずは、今回の依頼の目的の再確認です」
 黒木は仲間たちに語りはじめた。
「3体の妖を退治すること」
「そうです。作戦ですが、今回は駆け出し参加と言うことで、なんと参加者全員が我が小隊員が参加することになりました! ですから、ここは連携も醸し出し、うまくやっていけたらなと思います」
 ぎゅっとして黒木は作戦を伝えた。

 まず、私を覗いたABCの三つの班がそれぞれ一体ずつ持ち場につき戦っていただきます――

「それじゃ、黒木隊長さんの護衛しっかりね」
 羽柴にてをひらひらさせクールに言い捨てゼクティ・クロウ(ib7958)は持ち場へと向かった。
 すでにアヤカシの出る廃墟の町へたどりついている。
 雪をのける者もいないので、降り積もった雪で道と野原の区別がつかないほどの土地である。その頭上には、晴れ渡った夜空に傾く月だけがある。
 昼間はふっていた雪はいまはやみ、雲ひとつない冬の空。
 その宵と同じ季節の二つ名を持つ魔女は、作戦にしたがって準備をすするめる陰陽師に声をかける。
「あら、雪邑さんとはあなたの初依頼で組んだ依頼よね? あれからかなり上達したみたいじゃない? 期待してるわよ?」
「ああ――」
 それだ言って黙々と男は作業をつづける。
「あら、いけず。さて、作戦だけど敵にお酒を置いておくのと同時に雪邑さんの地縛霊を仕掛けておく方法だったわよね?」
「これでよし」
 その問いには直接は応えない。
 ただ、ふっと笑って、自信のほどを見せた。
「仕掛けは……いや――舞台は整った。あとは、あのアヤカシという俳優たちが、どのような演技を見せてくれるかだな。さて、アヤカシは甘酒は好むだろうか?」」
 さて黒木も天儀の酒を用意してくれていたのだが、こっちの方がいいですよといって樽に入った甘酒――どうやら昨日の余り――をギルドの職員たちが用意してくれたのだ。
「さて、あとはアヤカシを待つだけだな」
 やがて月が中天にさしかかるころ、どこからか笛とも太鼓とも、あるいは歌声とも聞こえる奇妙な音がしてきた。
「森か――」
 三体の姿が見えた。
 まるで祭り囃子にも似たそれは、どこか獅子舞を思い出させる。
 そういえば天儀には獅子舞という舞踏があるが、実はあれには前ふりがあるという。猩々舞というものであり、もとは猩々というアヤカシが暴れて、それを獅子が退治するという流れを舞踏にしたものだという。
 それがいまでは前段が省かれて、後段のみが巷間に広まっている。
 ならば、この演目の前段と後段はどうなるであろうか。
 風にのって酒の香りが辺りにただようと、アヤカシどもは、鼻のような場所を動かせ、それに気がついた。
 空ではなにかの鳥らしきものが、こっちこっちと誘っている。
 陽葉 裕一(ib9865)が放った人魂だ。
 鳥の姿で囮にして、一体を右側へ追いかけさせ離れさせるつもりなのだ。
 それが功をそうしたのかどうか、アヤカシどもは離れた場所にそれぞれ置かれた樽を見つけると、なんのためらいもく三方にわかれて樽へと向かった。
 ――まずは分断成功。
 樽を両腕かかえこみ、天板を壊して、長い舌で酒をなめまわすうちにアヤカシの動きは緩慢なものとなってくる。しまいには、大きな体を横たえて、大いびき。
「おやおや、お酒が過ぎるとろくな事になりませんよ。お酒というのは飲んでも飲まれるな……といいますでしょうに……と、聞こえていないようですね。」
 春凪は、くすりと笑った。
「成敗するしかなさそうですね」
 こちらの場所では陽葉の仕掛けた地縛霊が牙をむいた。
 突然、雪の中に隠されていたそれが目を醒ますと、各所で眠りこけえているアヤカシどもをしばりあげたのだ。

 ●

 B班では戦いが始まっていた。
「さて、稚空が囮になるというが……まずは奴の気をこっちに向けなきゃならんな」
 楠は、ならばと瞬速の矢で威嚇をしてアヤカシの注意を散らせると、そこに羽紫がフェイントと瞬風波をうまく使い、動き周り敵の注意を惹きつけ、さらに楠に弓で狙わせる。
 強射「朔月」で狙い撃つ。
 アヤカシは仲間の安否を確認するように左右を見回したのも僥倖だった。
「お前の相手は俺たちだ!」
 そして、痛みのあまりのけぞったアヤカシの隙を見て月鳴刀で大技決める。
「よ! 俺の華麗なる動き、見てくれてるか?」
 背後の恋人に手をふると、
「よそ見はダメです」
 と(期待どうりの?)お叱りが飛んだ。

 ●

 別のポイントでも戦いはつづいた。
 ただ、戦いといってもすでに掃討戦の雰囲気があるのは、その作戦が完璧なまでに決まったからであろう。
 地縛霊がアヤカシを縛り付けるところまでは語った。
 その後である。
 ゼクティがまず、お酒に気を取られ罠に掛かったアヤカシの足場の雪を氷で硬めると、滑って素早さを活かせないようにするどころか、そこでアヤカシはすってんころり。
 よっぱらいが氷の上で転がるようにして尻餅をうつと、これはチャンスとばかりにアムルリープで眠らせる。
 眠ったら一気に攻め込みましょ!
「あなたの実力、拝見させてもらうわよ♪」
「青き炎よ、魔性を滅ぼせ……火炎獣召喚!」
 さらに魔女も加勢。
 それも氷技であるブリザーストーム。
「何故かすぐ氷技つかっちゃうのよね……」
「えッ?」
 氷の魔女の異称を持つ女の氷の魔法は、天然のものにちがいないと炎の陰陽師は思うのだった。

 ●

「しかし、こうなるとな……」
 影雪は持ち場であるC組で、陽葉や春凪とともに一体を狙っていた。
 携帯している酒を何箇所かに予め置き、置いた酒の場所に地縛霊を仕掛け、罠にかかったところを一気に攻め込む。
 他の箇所と同じ戦法である。
 だが、結果は違った。
 フェイントで敵の攻撃を避けながら、技に縛られた敵に居合をブチまける。
 陽葉も
「火輪、招来!」
 攻撃を加えるが、まだまだ倒れる様子は見えない。
 どうやら三体の中で、もっとも強力な敵を引き受けてしまったらしい。
 しかも、他の二体とは違って酒に弱くないのか――いや、見た目はふらふらしているので酒精は利いているのであろうが――ついには縛りをふりほどいて、むしろ開拓者たちに向かって襲いかかってくる。
 戦線移動し、狭まり、すでに自分たちの敵を片付けた黒木たちも加わる距離になっている。
「お酒って人格を変えてしまうとききますが、妖にも効果があるのでしょうか? だから、こうして暴れてしまっているのでしょうか?」
 よろよろと歩いては、アヤカシが腕をふるう。
 ふらふらな状態でふるうのだから目標もなにもあったものではない。
 しかし、実力の差はいかんともしがたく、こんな状態であってもあたる時には、あたるものなのである。
「しまった!?」
 突然、のびた腕が背後にいたはずの黒木へ向かう。
 万が一を考えていたが、その万が一である。
 瞬風波の威力を使って駆けつけると、黒木の壁となって羽柴が吹き飛んだ。
 そして、当たってしまえば致命傷を受けるのは道理。
 げぼ――
 血は吐きながら、地面に大の字で倒れ込んだ羽柴は腕を動かそうとして、その激痛で、骨が折れていることを知った。
 春凪が駆け寄ってきて印を結ぶと傷が癒えていく。
 前もって瞑想をしていたので、初めての依頼で、ピンチだが気持ちは落ち着いている。
「そうだ、落ち着いていれば……勝てる!」
 そして、荒い息の下から聞こえる羽柴の言葉の通りの結果となった。
 さすがのアヤカシも、弱ったところを開拓者の数で押されれば対抗する手段はない。
 誰の一撃であったか、しらじらと朝の明ける直前の暗闇の中の激闘の中で放たれた、その攻撃に、ついにアヤカシは命を落とし、東の空から差し込んでくる日の光の中に消散していった。
 戦いは終わった。
「稚空!?」
 目に涙を浮かべた黒木が抱きつかれ、まだ傷の癒えきっていな男は再び骨の折れる音ともに悲鳴をあげた。
 あたりに注意を払いながらも一息つく。
 春凪の吐く煙草の煙が朝焼けの空にたなびくと、ごめんなさいという声ととも、あの呪文が聞こえた。

「精なる光よ、彼の者を包み込む癒しの光となれ 愛束花!」