【聖夜】OPセレモニー
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/07 23:20



■オープニング本文

 鍵を指でまわして、口笛を吹いて、淑女は扉を開けた。
 部屋の棚には整然と料理の材料がならんで、いまかいまかと料理になる時を待っている。
「楽しみだわ」
 どんなおいしい料理をここの名物にできるのかしらと、オルガは聖夜に開くアーマートーナメント会場の開園式のことを考えていた。
「トーナメント会場……あら――!?」
 そういえば、ここの名前がまだ決まっていなかった。
 名称をどうしようかしらと考えながら屋敷の中を行く。
 テラスには適度な間隔で椅子がならべられ、ひとが集まって試合を観戦し、談話することができるようになっているし、現在の広間にはテーブルがならべられ当日は立食パーティやダンスパーティが開けるようになっている。
 また寝泊まりのできる階上の小部屋では、職人たちが最後の仕上げをしている。
 もともとが貴族の屋敷であったから装飾品などはついているが、主人が違えば趣味も違ってくるのだ。
 外に出てみれば、近所の村の子供たちがはしゃいで、庭の木々に飾り付けをしてまわっている。
「あらあら――」
 と、そこへ声がした。
「申し訳ございませんが」
 おつきの騎士が足早に駆けてきた。
「どうしたのかしら?」
「陛下から手紙が――」
「あの人から?」
 そばに他人がいないことを確認すると、手近にあった部屋に入る。
 騎士はなにも言わずともあたりに注意を払い、胸元から手紙を取り出した。
 癖のある文字が男の直筆であることを物語る。
「めずらしくも――」
 ない、と言いかけてオルガも目を疑った。
 裏には蝋を溶かして封がしてあり、その紋は皇帝の印があったのだ。
「勅命ということかしら?」
 すくなくとも私用で使うようなものではない。
 かつては夫である皇帝に仕える騎士であった妻にも、その意味がわかる。
 すこし緊張しながら封を切り、手紙に目を通す。
 二度、三度――
 まず自分の目がおかしくなったのかと思い、次いで読み間違いをしたのではないかと疑い、やがて自分がたぶらかされていたことに気がつくと、笑い出してしまった。
「皇帝の勅令よ! ここで聖夜のパーティを開きなさいって!?」



■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 守紗 刄久郎(ia9521) / サーシャ(ia9980) / ユリア・ソル(ia9996) / フェンリエッタ(ib0018) / アイリス・M・エゴロフ(ib0247) / アレーナ・オレアリス(ib0405) / ニクス・ソル(ib0444) / フィン・ファルスト(ib0979) / レビィ・JS(ib2821) / ライディン・L・C(ib3557) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / シーラ・シャトールノー(ib5285) / 御凪 縁(ib7863) / ゼス=R=御凪(ib8732) / 土岐(ib9815) / 円寿寺 遊記(ib9816


■リプレイ本文

 料理人の朝は早い。
 まだ会場の準備もすんでいない時間だというのに、すでに調理コンテストの参加者たちは調理場に立って、材料の下ごしらえをしている。
 ライディン・L・C(ib3557)は鍋に材料を放り込み、豚肉と人参玉葱セロリを水と塩で 煮込んでダシをとっている。
 礼野 真夢紀(ia1144)も鍋の前に立ち続けて何時間になるだろうか。
 豚肉を一口大に切り、下茹でしている。
 ぐつぐつと煮える鍋を前に、頭はフル回転。
(天儀だとお醤油と砂糖とお酒だけど、ここではワインとハーブ多め。お醤油は風味漬け位にしてっと……)
 各地でさまざまな逸話を作っているだけに料理に対するアイデアは泉の水のように、わき出てくる。そうだ、こんな料理はどうだろうか。
「マヨネーズに卵のみじん切りと玉葱のみじん切りを加えた物に付けて食べるか選べるようにしてみましょうか!」

 ●

「……ひらひらして落ち着かないなぁ。着替えてくれば良かったかな」
 レビィ・JS(ib2821)は、着慣れない自分の格好に違和感を覚えていた。
 なにか楽しむことがあれば、そうも考えなかったのかもしれないが、残念なことに、そんな些細なことが気になるほどに暇な時間があるのだ。
 館に入る門の前には、長い行列ができている。
 そして門前には騎士たちが立ち、二重、三重のやりとりや身分証明書の提示を求められ、ようやく前のひとりが終わった。つぎのひとりも、それ と同じやりとりがあって、のろのろとして行列はなかなか進まない。
 壁の向こうから、どっと大きな歓声があがった。
 どうやらトーナメントの予選がはじまったようだ。
 別の門でもまた、厳重なチェックが行われている。
「申し訳ありませんね。きょうは賓客が多いからと、警備が厳しいんですわ」
 ようやく門をくぐり抜けることができた御者が、すまなそうに馬車の中のふたりに向かって声をかていける。
 応えは無言。
 中は静寂の空間である。
 御凪 縁(ib7863)とゼス=M=ヘロージオ(ib8732)が互いに言葉もなく、向かいの席に座っている。話すことがないのではな い。しゃべりたいことは色々あるし、伝えなくてはいけない言葉もある。
 だが――喉まで出かかっている、その言の葉を紡ぐことができないでいる。
 窓の外で何かが動いた。
 巨大な影だ。
 二体の巨大な鉄の騎士たちがいる。
「――アーマーか!」
「空賊団『夢の翼』団長、天河 ふしぎ(ia1037) ウィングハートと共に、いざ勝負だぞ!」
 手には団旗をはためかせ髑髏マークを胸につけたアーマーが一声、マントをひるがえし地面を蹴った。
 土が飛び、木々が揺れる。
 相対するアーマーが剣をかまえ、衝撃にそなえる。
 夢の翼が――開いた!
 ウィングハートが背中のマントを手にしたかと思うと、それが敵のアーマーの視界を奪い、死角となった頭上からチェーンソーが振り下ろされた のだ。
「これが、空賊の戦い方なんだからなっ!」
 それが致命傷となってアーマーが膝をつくと、どっと周囲の観客から歓声があがった。
「やるものだな――」
「ああ」
 馬車からおりたふたりは、遠くにその景色を見ながら、それぞれの着替え室へと向かった。女性の着替え部屋から、ひとりの娘が飛び出てきた。
 窓が開いて、外から雪が迷い込んできたような、まるで風に舞う雪の精霊のような柚乃(ia0638)は軽やかに長い廊下を駆けた。
 ふと足を止める。
 窓の外では音を響かせながらアーマーが歩いてくるのが見えた。
 目を輝かせながら、窓にかぶりつくと、二体のアーマーが立ち位置について、次の試合が始まる。
「フェンリエッタ(ib0018)、行きます!」
 操縦桿に力を込める。
 日々の調整や鍛錬の成果を出し切っての力試しだ。
(まずは始まりに相応しい良い戦いをしましょ)
 策は練っている。
 正対せず武器届かぬ死角に入る。
 敵のアーマーが振り向きざま、剣をふるう。
 盾で受け――罠にはめた――迫激突。思わず体勢を崩した隙にスマッシュ!
 振り上げるでなく腕足の露出関節部に剣をつきさし、鋸刃を引きぬくとアーマーが足下から崩れ、やはり周囲の観客からやんややんやの歓声があがった。
 フェンリエッタは操縦席から身をのりだして、あたりの観客の歓声に応える。
 窓から手をふっている少女がいる。
 それにも手をふって応えると、相手もうれしそうにさらに手をふって、なにかを思い出したように駆けだしていった。
「料理コンクールの参加者はこちらに集まってください! 会場名称募集の投票は、こちら投票箱にお願いします。ええと、それと――」
 云々。
 まだ慣れないスタッフも多いのだろう。
 会場内は早くも喧噪とした場となっている。
 演奏家たちの席に柚乃が座ると、隣では土岐(ib9815)が周囲を見回し、舌打ちをすると、失礼と言ってその場を立ち去った。
「たっく……遊記どこにいったんだ?」

 ●

 御凪が襟元を窮屈そうにしながら、あたりを見回している。
「やっぱ洋装は慣れねぇな……それにしても、ゼスもあんな綺麗な服着てくるのか?」
 皇帝主催の晩餐会である。
 数日内には都で別の皇帝主催の大パーティがあるため、郊外での催しには老いた貴族たちは遠慮し、名代として多くの若い貴族の子弟も集まって いるため、そのきらびやか衣装の集まりは絢爛豪華でありながらも、どこかういういしさがある。
「マスクはどうした?」
 佇む御凪に聞き慣れた声が届いた。
「こんな派手なもん付ける気になれねぇな」
「何の為の仮面舞踏会だ……俺がつけよう」
 男に仮面をつけ、ついでに服装を整える。
「っ……ああ、ありがとう……」
「やっぱ思った通りお前が一番綺麗だな」
「……――そうだ。おまえは舞の心得は有るがダンスは知らないと言っていたな。俺も体格差で流石にリードしきれない。ダンスはせず眺めている か」
 壁に花が咲き、音楽が奏でられると部屋中に踊りの花々が咲き乱れた。
 やがてフルートを奏でていた黒いチャイナドレスの女が立ち上がって、踊りの輪に加わった。
「どうですか?」
 こちらも貴族らしい男の誘いに、ごく自然にのって女は踊った。
 久方ぶりの踊りだ、
(ステップを忘れていないか心配でしたが大丈夫のようですわ。それに、舞踏会なんて久し振り……大帝陛下の勅命ですから今日くらいは両親も許 してくれますわね)
 心に話しかけるのは、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)。
 ジルベリアの貴族の娘なれば、その程度の技量は当然であったかもしれない。
 だが、心に傷を負う者にとっては、幸せすらも、かつての日々の扉を開ける鍵であり、不幸を呼ぶものである。
 ああ、あの幸せであった日々――
 涙がこぼれる。
「どうされました?」
「すみません、目にゴミが」
 ちょこりと腰をかがめあいさつをして、マルカはテラスに出た。
 背中から声がした。
「よいフルートの音を奏で、よい踊りをしていたのだがどうしたのだ?」
 仮面をした銀髪の男が声をかけてくる
 今日はめずらしい老体であることは手を見ればわかる。だが、朗々たる声に老いはない。むしろ溌剌とした。不思議と魅力のある人物で、マルカ は両親の不幸についてつい語っていた。
「まあ、俺だったら例え殺されたことが子供を不幸にすることならば、それこそ自分を殺した相手よりも、まず自分を恨むな。身勝手か? 親など 子供がからめば世界でもっとも身勝手なものだ!」
「……はい!」
 心の中をさらけだして、だいぶ気楽になった。
 この男の言うとおりだ。
 気を取り直しもう一度ダンスを踊ろう。
「あの者たちの娘か。やはり美しく、そして――強くなったものだな」
 娘が去り、男がこぼすと、人探しが通り掛かった。
 ニクス(ib0444) 。
 故あってはいまは騎士ではないが、今日は愛機とともにトーナメントに参加している。
「ユリアはどこだ?」
 ただ、いまは別のことに夢中だ。
「今日は義兄であるニクスを応援したりしています! あら、私が出ていたら義兄さまに遅れはとりませんよ」
 自分のアマリリスは壁の花だというイリス(ib0247)が、そんな風にさっき笑っていた。だが、問題はその後につけて加えた言葉だ。
 婚約者が来ている!
 ニクスは、彼女との隠れんぼに負けた事はない。

 ●

「さあ、料理コンテスの開始ですよ−!?」
 ハンドベルが鳴った。
 ああ、彼女はコンテストに興味があると言っていたんだとニクスが思い出したとたん、今度は彼を探していた竜哉(ia8037)に見つかっ た。
 試合開始前の集合がかかったんだと叫ぶなりニクスをさらっていく。
「ええぃ!」
 ニクスの口惜しそうな悲鳴もじきに、最前列に円寿寺 遊記(ib9816)が陣取ったキッチンの入り口には人だかりの騒動に消えていく。
「料理長決める大会の試食とかできんかのぅ? げにまこっと、作られた料理は旨いんじゃろうなぁ……♪」
 じゅるりと舌なめずりをすると、キッチンは戦場となった。
 そこには婚約者の予想どうりユリア・ヴァル(ia9996)がいる。
「調理は任せてコーディネートのみよ! 観戦しながら食べられるのがコンセプトよ。焼いた小麦粉生地を器にして提供、クレープ以外は一口サイ ズで木の楊枝も付けるわ」
 と料理人に伝え、
「炙り豚肉の柚子胡椒かけ、肴の練り物の天儀の甘辛煮、塩アイス。季節の果物とソ―スはチョコ、珈琲、林檎ジャムクリームのクレープ」
 さらにコース料理の内容を反復して伝えた。
(あら?)
 シーラ・シャトールノー(ib5285)も包丁を握りながら、自分と同じ事を考えている人間もいるものだと思った。
 そうは言っても、ひとはひと。
(まずは観戦しながら食べやすいよう、パンケーキで具を包んだものを。パンケーキは塩と小麦粉、砂糖を使い、厚めに仕上げるわ)
 自分は自分の考えを貫くまでだ。
 それが終わると、次は自分もコース料理にとりかかる。
 具は猪肉を細かく叩き、じっくり炒めた刻み玉葱に柔らかくする為のすりおろした林檎、アル=カマルのサフランとローリエ、胡椒のブレンドと 醤油、味噌、ワインを合わせ、グレープシードオイルで炒める。
 スープは豚のばら肉を煮込み、塩とサフラン、ローリエを入れ、白菜、人参、芋と川魚を入れて煮込む。さらにデザートは林檎にアル=カマルの シナモンを掛け、薄く伸ばしたパイ生地を幾層にも重ねたもので包み焼き上げる。
 コンセプトが同じであるのならば、あとは味の差だ。
 こうなれば、あとは自分の腕を信じるしかない。
 むろん、他の参加者も口にこそしないが、心の中では同じ事を思っているだろう。
 礼野は、こんな料理を作っていた。
 肉の下茹でに使ったお湯を捨てずに冷ますとまず灰汁とラードを丹念に取り除く。
(これにアル=カマルの調味料でカレー味にして人参や蕪や玉葱や馬鈴薯を刻んで入れてスープにお肉の彩と添え物として甘藍とカリフラワーを蒸して、ハーブで香り付けをしたオリーブオイルをかけるか……あら?)
 キッチンに場に似合わぬ歓声があがった。
 ライディンが口も軽やかに観客相手に自分の料理のレシピを紹介していたのだ。
「猪、野趣溢れるこいつを上品にワインとオリーブ油、香草に漬け、ダシとトマトでソースを作って、小麦粉で生地を作り、ラビオリ、マカロニ、 猪肉に野菜も沈めるんだ」
 どれもこれもこった料理ばかりで、観客たちは、どんな料理ができるんだと口々に言う。
「珍しいかい? 冬の逸品スープラザニア! 外はパリッと中はしっとりとろとろ野菜もぐつぐつ、さあ、できあがり」
 入り口の観客から黄色い歓声があがった。
「あ、一つ味見いいかな? ……熱ゥ!?」
「おやおや、ごめんね。愛の美食家渾身の一品、舌どころか、心も体も温まりますよう……召し上がれ?」
 差し出された皿に手をかけて、円寿寺は大きく口を開けた。
「はーい、あーん!」
 ぱくり、ぱかり。
「たっく……オイ遊記! 料理大会の方に気ぃとられてんじゃねーよ!」
 ずるずると円寿寺を引っ張って、ふたりは退場となった。
「あーれー!?」

 ●

「BURUAAAAA!!!」

「FUNGAAAAA!!!」

「WRYYYYYッ!!!」

 すさまじい叫声があがってアーマーが乱舞する。
 まさに狂戦士とも呼べる戦いぶりで、見ている観客たちも、それに応えるようにエキサイトする。
 戦っているのは守紗 刄久郎(ia9521)。
 わけがあってしばらく失踪していた男が戻ってきてみると世間は色々変わっていて浦島状態という逸話を持つ戦士だが、鎧に乗ると獣の如き性格 に変貌することに変わりはない。
「あの戦い方――」
 長い髪を揺らしながらアレーナ・オレアリス(ib0405)はその戦いぶりを眺めながら、それが短期決戦しか考えていないことに気がつい た。
 ふと自分の戦い方と重ね、思い当たることがある。
 作戦はこうするべきね――と小さくつぶやいて背中を向けると、時間切れ、試合終了の鐘が轟いた。
 その途端、守紗のアーマーが倒れた。
 スタッフがかけよってきて強制的に入り口をこじ開ける。
「おい、どうした?」
「大丈夫ですか?」
「うぼぁー……」
 中には真っ白に燃え尽きた守紗の姿があった。
「燃えたよ、燃え尽きた、真っ白にな……――」
「守紗さーん!? なんで死んで――」
「いや、死んでねぇから、さっさと医務室に運べ。あと、運搬用のアーマーを呼べ!」
 会場内には最上級の職人や医療スタッフを取りそろえてる。オルガがあらゆる手腕、人脈を使ってかき集めたらしい。また設備も最新鋭のものが あり、だからこそ、新型機がこれほど多数参戦しても問題ないのだ。
「いい子ね――」
 フィン・ファルスト(ib0979)がアーマーの装甲を撫でている。
「色んな意味であたしのランスロットを継いでんだし、頑張ろう、ガラハッド!」
 愛機を換えての挑戦だ。
 どこまで上手にやれるか――接近後はいきなり相手の足下から盾ごとタックルをぶつけるように迫激突を仕掛け、バランスを崩したら斬撃で追撃。
「うわ、スゴイ、パワフルなだけじゃなくって反応も良いや……!」
 実戦のそれは、彼女の想像以上に動いていくれたのだ。
 さらに――
「こういう催しは心躍りますからね〜〜」
 サーシャ(ia9980)は軽口を叩きながらも心には、
(作りたてだから慣熟済んでないけど――)
 と秘して、新しい機体の特性をいかした戦い方はどのようなものであるべきかと試しながら戦っていた。
 まさに試し切りで相対しているのであり、機体の可能性の追求であった。実は、それこそが皇帝の望むとこでもある。
 サーシャは相手の攻撃を盾で弾きその反動を利用しつつ踏み込んで斬ったり、弾く勢いのまま盾で殴りつけて体勢を崩した所を突いたりするスタイルで戦っている。
 そして、新型はいままでのところでは乗り手の要望に確実に応じてくれていた。
「次は同じ機体のフィンさんか!」
 また、おもしろい試合となりそうである。

 なんにしろ、ほぼ同じ腕であるのならば旧型との戦いに新型が勝利するのはまちがいないのである。

 ●

 もちろん新型だから、常に強いというわけではない。
 会場から再度、大歓声がした。
 新型アーマーの目玉とも言っていい機体、火竜が登場したのだ。
「私としても道楽で所有してない事の証明になる」
 からす(ia6525)は操縦桿に力を込めた。
「勝ちにいく!」
「では、新型の実力確かめさせて頂きますか」
 旧型のアーマー、ヴァイスリッターが、それに応えるように動く。
 火竜のボーガンは、まるで当たらない。
 だが、この機体ならば――必勝の思いがからすの心をよぎる。
 ならばと近づき、
「火炎放射を撒いて眼眩まし!? って――!?」
 炎を剣でたたき割って、ヴァイスリッターが幻想的な色に身をかがやかせながら突っ込んでくると、物語の騎士が竜を退治するように頭上からオー ラ剣がふりおろして、勝負があった。
 撃沈した火竜の上ではからすが、旋回しながらかーかー。
「これじゃあ、また道楽で所有しているっていわれるじゃない!?」
 操縦席から出てきた女がめずらしく泣きごとを言うと、目の前で同じ名前の鳥が鳴いた。
「ばかぁ!?」
「かぁー!?」

 ●

「どうしたのです? せっかく衣装を用意しましたのに」
「あんな派手な格好などできるか? わしはサンタクロースかなにかか?」
 舞踏会場から戻ってきた夫に妻は笑いかけた。
「あれだけうれしそうに新型アーマーを発表して、違ったのかしら?」
「戯れるな!」
 そう叫んで、酒をあおる。
「早くも新型がやられたか!?」
「同じ技量だったのならば先ほどの戦いにように新型が、旧型に数倍するでしょうが、いまの戦いのように技量が違いすぎますとね」
「技術が人を凌駕するのはまだまだ未来の話だな。それにしても、いまの戦い、あれほどの強者がまだいたとはな。わしの目も、まだまだ節穴だ……だが、あの紋章は?」
「どうしました?」
「なつかしいものを見たと思ってな」
 実際、そのアーマー乗り手は名人であった。
 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)もまた、それを実体験することとなった。
 火竜と人狼も一応持ち込み、どれで参加するか悩んでいる。
「はぅ……新しいのも使いたいのです……けど、やっぱり……はぅ〜……」
 悩みに悩んだ末、彼が選んだものも、また旧型の遠雷であった。
「優勝して見せるのですよ、ロギ!」
 短期決戦。オーラダッシュで急接近、半月薙ぎで回避し辛いように攻撃を仕掛ける。自慢の動輪で、相手の後ろに回りこんで半回転、全力のゲートクラッシュを叩きこむ。
「はぅ!一撃必殺なのですっ!」
 桃色の機体が放った城の扉する砕く一撃をだが、アーマーとしては異常といっていいレベルでヴァイスリッターが回避すると、やはり勝負はあっ た。
 渾身の一撃必殺とは、すべてを捨てての一撃であり、それを外した後にはなにもない。

 いや、ある――敗北という、あまりも重い二文字が。

 ●

「ふふん、観客を沸かせるような内容にしないとね」
 赤と黒と。
 まさに異形と呼ぶにふさわしい異彩を放つ機体に乗り込み、竜哉はリラックスした気分でいた。
 あくまで駆鎧は手足の延長なのだ。なにも特別なことをしようというのではない、常の力を出せば勝てると彼は確信していた。
 それは開拓者としての自負である。
 目の前には新型アーマー人狼、ガラハッドがいる。
 サーラの機体と三回選で戦い、同機体ながら、そのカスタマイズもあって準々決勝まで勝ち上がってきた。
(後の先狙い――)
 ガラハッドが突っ込んでくるのを、目で負いながら、竜我は心の中でつぶやく。
 眼前に振り下ろされる剣劇を受けるように、剣をかまえる。
 ガラハッドが強烈な一撃を加える。
 一撃、二撃、しだいに竜我の機体とフィンの機体がぶつかりあうほど近づいた途端、竜我は剣を捨て、フィンの体が前方に乗り出してしまった。
 剣は囮であったのだ。
 近づきすぎた。
 半身をのけ、足を出すとガラハッドの体勢は崩れ、それを投げ、転ばせてしまえば、あとは竜我の手の内。
 斬撃ではなく、衝撃を加える。
 これはきつい一撃で、機体よりもまず、中の人間がまず白旗をあげた。

 ●

「頑張ってくださいね」
「わかっている」
 リーガの歌姫の見送りにニクスは応えながら、シュナイゼルを会場へ向けた。
 準決勝だ。
 反対の山ではすでに婚約者の幼馴染みが決勝の出場を決めている。
 ニクスは会場を目指しながら思考を巡らせた。
 相棒との絆は誰より上だと自負しているが敵の腕も確かなのは間違いない。なにより面倒なのは、そいつが使っていた術だ。
 それをどうしのぐかが問題であった。
 屋敷のテラスの正面の舞台に立つと、すでにヴァイスリッターが待っていた。
 開始の鐘が鳴った。
 結局、ユリアを見つけることはできなかった。
 初めてのことである。
 だが、会場のどこかで見ていることはわかっている。
 ならば、
「ボクの勝利の女神だ、見ている前で無様は晒せん」
 彼の目の前では、オーラに身をまといヴァイスリッターが突っ込んできた。
(くる――)
 かまえた。
 振り下ろされた一撃で、あたりに土煙が舞う。
 しかし、それが晴れたとき、そこにあったのは無傷のシュナイゼルであった。鉄壁防陣で耐え凌いのだ。
 だが、それは攻撃を捨てたことでもある。
 二撃、三激とヴァイスリッターが剣をふるう。
 さすが一撃のようにダメージがないというわけにはいかない。
 しかし、これは肉を切らせて骨を切る作戦なのだ。
(これを耐えきれば――)
 ヴァイスリッターのオーラが急に消えていく。
 時間ぎれだ。
 隙ができた。
(このチャンスを――)
 盾を手放し武器や防具を手で掴み鉄鎖腕砲で弾き飛ばして首に突き付ける――つもりだった。
「なんだと!?」
 予想外の行動だった。
 ヴァイスリッターは手にしていた武器を手放したのだ。
 そして、逃げの一点。
(なぜだ? 術の時間が切れたからか? 時間!?)
「――まずい!?」
 相手の策がわかった時には、まさに時間切れであった。
 終了の合図が鳴ったのだ。
 ニクスは悔しがり、相手もまた操縦席の中で悔し涙を流していた。
「助けられた……私はルールに助けられたのだ――」

 ●

「残念だったわね」
 地上に下りるとユリアが待っていた。
「その格好は?」
「あなたが優勝したら冠を授ける女神役をやるつもりだったんだけどね」
 くすりと笑って、おたがい敗者ねと言うとコンテストで作ってきた――もちろん料理人がだが――料理を手渡した。
「決勝がはじまるわよ。どこまで楽しませてくれるかしらね♪」
 そばではサーシャとフィンも決勝の開始を待っている。
 他にも、このトーナメントに参加した者たちが、かたずを呑んで試合を待っていた。
 そんな時、背後から呼ぶ声がした。
「やぁ、お疲れ様! 調子は……ああぁぁぁ?」
 はじめは誰かと思ったが、すぐにドレス姿のレビィだと気がついた。
 いかにも着慣れていない物を着て、履き慣れない物を履いているかわかろうというものだ。立ち上がると、すこし恥ずかしそうな顔で照れ笑い。
「ライディンさんも来てるよ。料理持ってきてくれるってさ」
 そういう背後では、その彼がテーブルまで拡げて、決勝を観戦する客にふるまいはじめていた。
「よーし、頑張れー!」
 最後の勝者になる権利をもった二体の鉄巨人が躍動した。

 ●

 アーマーが倒れると、どっと歓声があがった。
 優勝者が決まった!
 ヴァイスリッターの操縦席から騎士が立ち上がる。
 腰まで伸びた長い髪を揺らし、ほっそりとした女性の姿を認めたとき、観衆のあいだからは、かつてないほどの大歓声があがった。
 これほど美姫が無骨なアーマーを操っているとは思ってもいなかったのだ。
 アレーナが、手をあげて応えるさまは舞台女優もかくやという姿。
 歓声の中に、ひとつの声がまじった。
「よくやった!」
 その叫び声にはっとした。
 ジルベリア大帝がいたのだ。
 テラスに手をかけ屋敷から皇帝は叫び続ける。
「そなたの祖父や父たちのことは、よく覚えておるぞ。オレアリス家の娘よ! いまでは斜陽となっておるが、その家名を恥じぬよう、かつての名 家を復活させてみせい! そなたならばできるぞ! 次代の帝国をになう若き白薔薇の騎士よ!」

 ●

 トーナメントが終わると、舞踏会が本番となった。
 土岐はひっぱってきた円寿寺にトランペットを見せニカリと笑う。
「俺達は、こっちだろ?」
「舞踏会の役者は揃ったかの?」
「おうよ! リードする側は男であれ女であれ、コケてたりして相手に恥かかすんじゃねーぞ! おっしゃあ!開始すっぞマスカレード! 遊記、 主旋律行けっ!」
 円寿寺が奏で始めると、柚乃がそれに音楽を重ねる。
 何気に、幻想交響楽団を織り交ぜてみたりもする。
「お嬢さん……余った料理貰えないかの?」
 円寿寺が隣に座っていた白服の少女に頼むと、コンテストで大賞となったシーラのパン料理が手渡された。礼野とライディンの為に、わざわざ特別賞が提供されたほどの絶品コース料理よりも、こうして食べることができるというポイントが、高く評価されたらしい。
 それを腹におさめると、別のパートの連中ががんばっているとので、ちょっとしたおしゃべり。
「うーむ……知り合い同士じゃったら仮面は要らないと思うんじゃけど……大人ってややっこしいのぅ」
「隠してるのは顔じゃなくて、己らの本心なんじゃねーの?」
 奏でられる音楽はテラスにいる恋人たちにも届く。
 いまこそ心の仮面を投げ捨て本当の自分を、思いを伝える。
 あの日と同じ月が見守っている。
「この間のお前からの想いに返事をしなければならないと思ってな」
 想い人にゼスは告げる。
「正直……とても嬉しかった。今まで俺を求められた事がなかったから――だから……もしお前が良ければ……」
 御凪は、ただ頷いただけであった。
 ゼスは言葉をつづける。
「俺を求める言葉を声を想いを聞きたい。何度でも……何度でも……一番近くで――」
 御凪は思い人を抱き寄せた。
 胸の中で、彼女の言葉がやがてきえていった。
「この先……お前の心が変わっても構わない。だが……ずっと傍にいて欲しい……」

 ●

 円寿寺のおしゃべりは続く。
「そうじゃ……会場の名前が募集されてるらしいからの、わしも一つ応募をしてみたんじゃ」
「なんて名称で?」
「オンシジウム・ホールじゃ!」
「オンシ……なんだそりゃあ?」
「オンシジウムという花じゃ。花言葉は共に楽しむ、遊び心とかじゃ! アーマーで闘うにしろ、料理で競うにしろ、みーんな楽しんじょるなり!」

 ――その通りね。

「なんだ?」
「この会場の名前なんだけど……、ヴァイセ ローゼ、つまり白薔薇というのはどうかしら?」
 オルガはおもむろにそう切り出していた。
「わからんな? 勇騎の聖城という意味でブレイブキャッスル、なんてあるが、どうだろ? 栄光の闘技場という意味でアリーナ・スラヴァーというものあるしな。奇を照らして天儀の言葉で鎧選演武場などという洒落たものもあるぞ?」
 だが、オルガはそれには首を横にふって答える。
「しばらく考えていたんですよ、ここがどういう場所であるべきかとね」
「アーマーのトーナメント会場であり、お前はここを――」
 言いかけた言葉を妻が遮る。
 彼女の頭には、きょうという日に出会った、こんな風景がある。
「ここは美しい雅な場所だけどアーマー対戦したりする場所だし、凛々しく白バラの名を借りヴァイセ ローゼというのは?」
 壺に飾ってあった薔薇の花を抜くと――料理コンテストに参加していた人間だから名前は知っている――ライディンがテーブルの一輪挿しに、それをさしながら会場の名称に募集しようと思うんだと言いながら、自分の作ったコース料理を食べる仲間たちに同意を求めていた。
 仲間たちがどのような返事をしたのかまでは、ちょうど試合を観戦する他の客達の声にかき消されてしまったが、オルガには、いかにも、この場所にあるべき姿のようにも思え、夫にこう語りかけた。
「ここはまだ蕾にしかすぎない場所なのですよ。人々が歌い、恋し、食べ、戦い、どんな未来が待っているのかわからない。だから、わたしはここをまだ花の蕾と呼びたいのです。それに、あなたも優勝者を白薔薇の騎士と呼んだじゃないですか!」
「いや、あれは……」
 夫は勢いで言った言葉に後悔をおぼえ、そんな彼に妻は小さな声で応える。

 あなたもわかっているはずです。
 古い花はいつか枯れ、その座を新しく咲いた花に譲る。それが、季節移ろいの当然の理のように、若い血が、やがて古い血に変わることが歴史の理なのです。
 そして、ここは、そういう者たちの為の場所なのですよ――ヴァイセ ローゼ……言いにくいのならば正式名称はヴァイセ ローゼ、通称としては白薔薇の館とも呼びましょうか?

 と……。