古城の地下迷宮
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/29 23:18



■オープニング本文

「それで兄さん、いよいよやるのかい?」
「いや、まだだ」
 男たちの声がする。
 ジルベリアにある、古い城の一室。
 寒い一日だが、いまは太陽が顔をのぞかせていて、それにあわせるように部屋の窓を開け放っている。
「まだ?」
「ああ、まだだ」
 それだけ言って兄はカップに口をつけた。
「……冷たいな」
「ええ――」
 突然、窓から冬の風が入ってきて、弟が窓をしめようとすると空がかっとかき曇り、遠雷がした。
「冬の嵐が来たみたいですね」
 そう呟いた時、兄が言った。
「そうだ、地下のことを覚えているか?」
「いきなりなんだい、兄さん?」
「地下にある監獄のことだ」
「昔、こんな天気の晩には乳母に昔話でよく聞かされて泣かされましたよ。あの封印された地下の部屋ですよね。なんでも化け物が出たので封印したとかなんかと、子供心には怖い話だったとうっすら覚えていますよ」
 弟が追憶に浸っていると兄が未来について語った。
「なにがあるか見てみたいと思わないか?」
「なにか?」
「ああ
 兄はそう言って黙り込んだ。
 ただ、その眼差しには、なにごとか試そうとする者の光があった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

「封印された地下室か、臭いものに蓋をしただけでなければいいんだがな」
 羅喉丸(ia0347)が、ぽつりと漏らした疑問はもっともなことであり、依頼に応じた開拓者たちは皆、心のどこかに、同じようなひっかかりを持っていた。竜哉(ia8037)が私見で応えた。
「ま、考え方が逆なのかもしれんがね――俺が気になってるのは、この地下迷宮が何時からあるかって事だな」
「いつから? お城の地下に牢獄って、それ自体は普通だよね!」
 と外では口にしながらも心の中では、
(お城の地下迷宮……かあ、恐い反面、何があるかワクワクするな)
 と戸隠 菫(ib9794)はときめきを覚えていた。
 開拓者たちの相談はつづく。
「迷宮に封じられたものに関して、あるいは封印に関して何かわかるかもしれない」
「あと気になるは『監獄』って呼び名だな。基本的にそれは『人』を入れるものを指す。他人に会わせる事もできない、でも城から直通。……貴人でも、捕えていたのかもね?」
「そうだな、かつて身分の高い者を監禁したり、神教徒を捕らえて弾圧するために使っていたのではない事を俺も祈っておくよ。無念を残したまま亡くなった者の怨念からアヤカシが発生しているかもしれないからな」
 部屋の外から声がした。
「よからぬ物が封じられているのであれば、対処しましょう。それがどのような物か我々も見極めなければならないのです」
 そう言って扉を両手で開けて入ってきたジェーン・ドゥ(ib7955)が皆に向かって語り始めた。
「貴族、乳母、執事の方々から地下や昔話について聞き込みをしてきました」
 地下について記載された本や手記を屋敷の図書室で見聞し、同じ場所で地下の見取り図らしきものを模写、そして錆びついた鍵を借用してきた騎士は言葉を紡ぐ。
「内容をかいつまんで言えば、あそこには盗賊団を捕まえていたそうです」
「盗賊団?」
「はい。当時、この周辺を荒らしていた盗賊がいたそうです。さんざん手こずりはしたものの首領とともに捕え、この城の地下にあった牢獄に閉じ込めたそうです。しかし――」

 ●

「――ある時、その盗賊たちは皆、化け物……アヤカシになったのだと昔の記録は語っています。そして、そのさい単なる狭い牢獄であったはずの空間はねじれたようになって誰も全貌を知ることのかなわぬ巨大な迷宮になってしまった。それが、ここができた経緯です」
 ジレディア(ib3828)は分厚い史書を閉じながら、ヒントを教えてくれた書物の精霊に再度、ありがとうとつぶやく。
 目の前には鉄の扉がある。
 何枚もの板が打ち付けられ、その隙間からしか覗くことができないが、まちがいなくそこには封印された扉があるのだ。
 ラシュディア(ib0112)が御伽噺だねとため息をつく。
「それっきり、ここは封印されたというわけかい?」
「はい。他に手段がなかったら――という話です。が、それが言い伝えである以上、長い時間がたつ間に事実にどれだけの尾ビレ背ビレがつきまくっているのか? なんにしろ、私が一番気合をいれないといけないのは封印解除ですね。下調べも終わりましたし、今回のメンバーでは唯一の魔術師でもありますし気合をいれて解除に臨みます」
 ジレディアの隣には扉の鍵を手にしたジェーンがいる。
 封印解除できないとロクでも無い者が出てくる可能性があるということもあり、三笠 三四郎(ia0163)は不動明王剣に手をかけ、注意深くあたりを見ている。
「まあ……偽装してある可能性は大なんですが……」
「鍵と術を同時に使わないといけないとは難儀な封印です」
「それだけ、中のものが恐ろしいのです」
 板をとりのぞくと、さらに扉のまわりに太い鉄の鎖が、まるでとぐろを巻く蛇のようにからみついていて、その鎖の両端には、蛇の目のような赤い宝石と鍵穴があった。
「これが封印かな?」
「はい」
 魔術師が手をかざし宝石に手をかざし、騎士が穴に鍵を差し込む。
 ジレディアがなにやらつぶやき、同時にジェーンが鍵を回すと、まるでその時をまっていたかのように鎖はふいに重力の虜になって落下した。
「これで封印は解きました」
「さて、これからがひと仕事だ」
 羅喉丸が両開きの大きな扉に軽く力を加え、開くには押すと引くどちらなのかを確認してから、力を加える。押せばいいようだ。
 三笠が手を貸す。
 しかし、サムライと泰拳士がふたりがかりで押してもびくともしない。
「ぎいぎいいっているし、動きそうなんですけどね」
「完全に錆びているのか?」
 はて油を差した方がいいかと二人が難儀している。
「あるいは――」
 竜我がひとりごつながら、周囲の地面や壁を叩いていた。
(聞く話だと、ここは埋められていてもおかしくはなかった。埋めなかった以上、いつか開けられることは想定しているはず。扉自体を調べてみようか? 開ける手段が鍵なのか仕掛けなのか、それくらいはね。紋章とかあったら特に注意だが? おや?)
 指先が壁の一角に空洞を見つけた。
 中にはスイッチがあり、触ると扉がゆっくりと開きはじめる。
「長い間封印されていた地下室ですか、気を付けて行かないといけないですね」
 緋乃宮 白月(ib9855)は扉の先に延びた、かび臭い闇の中をのぞき込んだ。

 ●

 人工の灯がつくと、迷宮が顔をのぞかせた。
 隊列を組んで足を踏み入れる。
(伝説の通りであるのならば借りてきた地図がどこまで役にたつのでしょうか?)
 ジェーンの胸が高鳴る。
 足音が地下に響く。
 胸が高鳴る。
 足音が響く。
 胸が高鳴り、足音が――止まった。
「こりゃあ、だめだね」
 先頭で歩いていたラシュディアは歩みを止めて頭をかいた。
 杖を抱えたジレディアが背後から、不安そうな視線を向けている。
 一歩でいやな予感がし、十数歩で予感が不安となり、五十歩も歩けば不安は現実のものとなった。借りてきた古地図と実際の道筋がまるで違うのだ。
「そもそもサイズが違うような気がするんですけど?」
 横から地図を覗きこむ緋乃宮は地図と現実の横道の数をかぞえてみた。
「なんにしろ迷う事よりも逸れる方が厳しいので、全員とは言いませんが何人かでマッピングを書き写させてもらいながら一丸となって進みましょう」
 三笠が提案をして、全員が地図を写した。
「時間はかかりますが、このような場でひとりで迷子になってしまうということだけはさけたいと思います。それに逸れた場合も落ち着いてマッピングを参考に復帰を目指してください。そして、その場合は……戦闘は極力避けましょう」
 準備はすんだ。
 カンテラがひとつでは不安だと、羅喉丸が空いてる手に松明を持つ。
 やはりラシュディアが先頭に立ち、そのすぐ後ろにちょこんとジレディアがつづく。杖で壁を叩きつつ、幼なじみの傍から離れないよう、邪魔しないようにしている姿がほほえましい。
 しかし、シノビは真剣だ。
 落とし穴はないか、急に壁が動いたりしないか、奥から岩でも転がってきはしないかと、色々考えられるだけに気が抜けない。
 入り口のように何らかのスイッチを刺激する事で作動する仕掛けもある可能性もある。
「ああいうのは、人が通ることで反応するものもあるから、見落としのないように注力するんだ」
 教えるように背後にささやく。
 ジェーンがカンテラをかかげ、頭上から崩落はないかと注意を払う。
「安全が確認されていない場所を不用意にさわらないようにしろよ」
 仲間に注意を促しながら羅喉丸が壁面に白墨で矢印等の印を書き込んでいき、探索済みなのかと、どちらから来たか分かるようにしていく。さらに戸隠が分岐路毎に壁と床に白墨で連番の数字をマーキングし、分岐点や曲がり角ごとにマップを書き加えている竜哉の
マッピングにも数字を加える。
「ここは99と! こうしておけば迷子になったときにマップと付き合わせられるもの!」
 そんな風に仲間たちが作業する中、緋乃宮はあたりの様子に注意を払っていた。
 いつ敵襲があるかわからないのだ。
「あ……れ?」
 最初、それは緊張のあまりに聞いた幻聴かと思った。
 つぎに、それがなんであるのかまずわからなかった。
 そして、ついに、それに気づいて緋乃宮は悲鳴をあげた。

 ●

「水が迫ってくるよ!?」
 地下で波の音を聞いたのだ。
「まずい!?」
「つ、津波!?」
「違います! あれは――!?」」
「そんなのは現在はどうだっていい!?」
 このような場所で水攻めにされたら開拓者といえどもひとたまりもない。背後に振り返ったとき、突然、光が絶えた。
 カンテラや松明の光が風もないのに、突然、消えたのだ。
 いや、それらは灯ってはいるし、なによるも闇に慣れてきた目には動いている炎がうっすらとだが見えるのだ。
 しかし、輝いてはいない。
「これは魔法です!?」
 ジレディアが仲間たちにあわてないようにと叫んだ。
 そのとき、背後から迫ってきた波が幾本もの手となって開拓者達の腕を足を、体を首を、あらとあらゆる箇所につかんだ。
 アヤカシだ!
 引き寄せ、引っ張り、どこかへ連れ去ろうとする。
「ジレディア!?」
 ラシュディアが黒い波間から手をのばし、すでに黒の水に飲み込まれ、手しか見えなくなった昔なじみの女の腕をつかんだ。
 引き離そうとする黒いアヤカシを蹴飛ばし、その胸に抱く。
 そんなジレディアに向かって黒い津波の姿をしたアヤカシが再び襲ってくる。
「まずい――」
 攻撃も回避もまにあわない。
 その時、彼の目の前で閃光が爆発して、雷鳴が轟くと、アヤカシの一群が消滅した。
「アークブラスト――」
 胸の中で小さなつぶやきがしたかと思うと、ジレディアは大きく息をつき、ラシュディアの中で崩れた。
「……――!?」
 残った津波が、人のような形を取って、口らしきものが大きく開こうとした。
 ジェーンが叫ぶようなそぶりを見せたアヤカシの喉と口を切り裂く。
「これで仲間は呼べないでしょう」
 勝負はついた。
 やがて、静寂が戻ってきて状況がしだいにわかってきた。
 羅喉丸が点呼を取る。
「残ったのは、これだけか?」

 ●

 そこはどこなのだろうか。
 迷宮のどこかで三笠はアヤカシの群れと戦っていた。
 練力を温存するために、弓と精霊剣を使い分けての戦いだが、なんとかやっていける。
 幾つかの角に番号がふってあるが、いまは見ている場合ではない。
「待った!?」
 そこへ牽制攻撃をかけてアヤカシと間合いを取りながら、追いかけっこをしていた戸隠が姿をあらわした。さらに緋乃宮が全力で回避をしながら、別の角からあらわれる。
 奇襲さえしのげれば、恐れるに足りない敵だ。
「前で戦える人は十分いるから、後ろからのフォローに回るつもりだったのだがな」
 アヤカシを切り捨てながら最後に竜哉があらわれた。
 かくして、たがいに背中をあわせながら、四方八方から迫ってくるアヤカシの一団を開拓者たちは黒いアヤカシを闇に消し去った。
「ここに56って書いてあるよ」
「それでは、ここか」
 自分で描いた地図を見直し竜哉は位置を理解した。
「おや?」
「羅喉丸さんの呼子笛ですよ!?」
 パーティーが分断された場合、呼子笛を定期的に鳴らしながら進み、自分の居場所を知らせることになっていたのである。
 竜哉は又、呼子笛で、それに応えた。

 ●

 仲間が集まって、作戦を練っている。
 この先に、この迷宮の主がいるのだ。
「ご丁寧に、看守部屋なんて看板がついているんですからね。なんの冗談か、単に昔の名残なんでしょうか?」
「ここは彼を封じ込める為の場所ともいえるので、それなりの力が有ると判断して油断せずに戦いましょう」
 ラシュディアが腕を組む。
「元が監獄だって話だ。捉えたものを逃がさないように、通路にも色々と仕掛けがあるだろ。特に『看守』が扉を閉めた後は。俺たちからして入り口になる扉が閉まってからが勝負だな」
 なんにしろ最後の打ち合わせが終わり、最後の扉が開いた。
「勝負!?」
 頭に二本の角のあるヘルムをした巨人が石の椅子に腰掛けていた。
「まさに、鬼監獄長だな」
 竜哉が軽口を叩くと鬼が立ち上がり、自慢の筋肉をふりまわしはじめた。
 あたりの壁や天井さえ壊れるほどの豪腕だ。
 それが、一撃、二撃と開拓者達を襲う。
「危ない!?」
 それまで攻撃を避けるようにしていた羅喉丸が仲間の身代わりになって、その攻撃を受けた。
「さすがに、これはきいたぞ」
 盾で受け止めたとはいえ、腕が重い。
 その一撃、一撃が重いのだ。
 そこへ戸隠が跳んできて、一仕事。
「こっちの反撃の番だな」
 攻撃では、まず骨法起承拳で攻撃し、手数を武器に、さらにスキルを連発する事で威力を補う行動に出た。
「行きます!」
 ジェーンの愛剣がうなり、アヤカシの腕に、足にと傷を与えると、獄長はうっとうしそうに腕を左右にふるうが、ジェーンはよけ、緋乃宮もまたひらり、ひらりと回避する。
「こっちだね!」
 避けたついでに隙を見つけ、膝に向かって爆砕拳!
 きっと、うっとおしい白猫に向かって長がにらんだ、その時、胸元に誰かが入ってきた。
 金色の髪が揺れたかと思うと、胸元に刃を突き立てて間髪入れずに捻り抜く。突きたてた刃を引き抜くと瘴気が吹き上がった。
 ラシュディアだ。
 それに攻撃しようとしたとき、落雷が邪魔をした。
 アヤカシの攻撃範囲から離れた場所には、さきほどの遭遇戦の傷を戸隠に癒されたばかりのジレディアが杖をふりあげ魔法を唱えている。
 大きいだけに、当たれば痛い攻撃をしてくる敵との戦いがつづいた。
 やがて――後ろに下がっていた竜哉が前に出て、鋼線「黒閃」をアヤカシの体に巻き付ける。
「これで終わりにさせてもらう」
 剣に精霊が宿り、聖堂騎士剣がうなると、それが致命傷となって、アヤカシの体は塩の彫刻に次第に変わっていったかと思うと突然、瘴気となって消え去っていった。

 ●

「やれやれ――」
 勝負を決めた竜哉は剣を柄に戻しながら、監獄内を感慨深げに見回した。
「何があったのかはさておいても、よほど逃したくなかったものらしい。本来捕まえていたものは、どうなったのやら?」
「あれ、なにをやっているんですか?」
「出来た地図を依頼人に渡しておくさ。今後の改築に役立つだろうし」
「これからどうなさいますか? 私は再度迷宮内にアヤカシが居ないか調査、掃討したいと思っています。報酬に口止め料が含まれておらず、危険性があると判断すればギルドに詳細を報告するつもりですが……」
「後は帰るばかりですが、余力が有れば日記や日誌を回収して証拠としたいです」
 そんなことを仲間たち言っていたとき、壁を調べていた羅喉丸はそこに血で記された思わしき、一文を見つけて声を呑んだ。

 オレノ宝ヲカエセ!?