風のアヤカシ
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/10 03:21



■オープニング本文

 村がある。
 ニード村と呼称される村は、山間の寒村であり、近くに希少な鉱物が発掘される鉱山がなかったのならば、とうに破棄が決まったような、山深い場所にある。近くの街へとつながる道も細く、狭い。ニード村の山道といえば、周囲に住む狩人さえも、面倒だと愚痴るような狭隘であり、そこへとつながる道は、まさに馬も通えぬような隘路と、数多くの吊り橋によってなっている。それゆえ陸路を使うことはまれで、空路……といっても、これはこれで狭い谷間を通らねばならないため飛空船乗りに神経を使う場所だと言われて評判が悪いのだが、鉱山から出た鉱物を運ぶためにはしかたない。
 だが、状況は悪いなりにいままではうまくやってこれたが、ここにきて問題が発生した。
「また飛空挺が墜落しただと?」
 村の守備隊長は飛び込んできた情報に呆然とした。
 これで今月に入って四件目の事故だ。
 すでに偶然として片付けるにはありえない数である。
 つづいて、別の事件もきた。
「山道で数件の人斬りが起きました! しかも犯人の姿が見えないそうです!」
 あわてて別の部下が飛び込んできた。
「こんどはなんだ!」
「吊り橋がつぎつぎと落ちています!」
「なんて、こった!?」
 そんな事件が多発したのだ。
 ことの重大性と、事件の特異性からことはすぐに開拓者ギルドへと回された。
「まるで、かまいたちみたいですね」
「かまいたち?」
 事件のあらましを上司に説明していた職員がぽつりとつぶやいた。
「天儀のギルドから回ってきたアヤカシのデータを見てないんですか?」
「見たが、空を飛ぶアヤカシの項目には入っていなかったぞ?」
「亜種でもいるんでしょうか? わたしの故郷では、かまいたちといえば空を飛ぶ、あるいは跳ぶと呼んだ方がいいのかもしれませんが、そうやって人を切ると言われているんです。あと夫婦――というのもヘンですが――つがいでいることが多いなんて昔話もあるんです」
「なるほどな。別々のアヤカシに、地方、地方で、たまたま同じ名前をつけてしまったこともあるかもしれんな。まあ、そういう学術めいた話は専門の奴らにやらせておけばいい。とりあえず、かまいたち亜種とでも呼称する敵の撃破の依頼をだすぞ」



■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
晴雨萌楽(ib1999
18歳・女・ジ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
キルクル ジンジャー(ib9044
10歳・男・騎


■リプレイ本文

「アーマーに飛行機能があれば……!」
 キルクル ジンジャー(ib9044)の見上げる空は青く、高く、そして、その夢もまたそれ以上に遠いものであった。
 空と同じ色の眼差しに映る、まだ手の届かない場所に、それでも少しでも近づけようとするかのようにアーマーの手が動く。
 そばから小さな鳴き声がした。
 アーマーの首を横に動かすと、
「あ……鳥の巣だ」
 親鳥がぴぃぴぃと鳴いて、威嚇している。
 巣の中の小さな卵を守ろうとしているのだ。
「ごめんね」
 キルクルがアーマーの位置をすこし動かそうとすると、耳ざとく、その駆動音に気がついたのだろう。
「キルクル殿!?」
「は、はい!」
 仲間からの叱咤が跳んだ。
 からす(ia6525)だ。
 すこし上目遣いでアーマーを見上げると、すぐに自分の仕事に戻る。
「姿が見えずとも――視覚に頼らなければ良い事」
 鏡弦を鳴らす。
「このあたりにおるのは三体……夫婦というわけでもないのだろうな。あっちと、こっちじゃ。距離は、ここから離れるように移動しておる」
 そう言い終えると、空をまぶしそうに見上げながら、忘れていたことを補足するように付け加えた。
「忘れるところだったな。もちろん、あそこには一体がおるぞ」
 見た目にはキルクルのお姉さんと言ってもいいくらいの年頃の容姿をしているが、その言葉遣い、立ち振る舞いは、ずっと年上なのであろう。
 素敵な年の取り方をしている――そんな、いつか誰かが言った台詞と同じ事をキルクルは思った。
 操縦席の隅には、皇帝のポートレートがお守りの代わりに貼ってある。時々、それを眺めながら、まだ幼さすら感じさせる若い騎士は、あんな大人になれるのだろうかなと思うのであった。
 キルクルは声に促され、再び空を見上げた。
 見上げる空は先ほどと同様に、どこまでも高く、理想は遠かった。そして依頼の真実もまだ遙か遠くの山の頂上に見える幻のようなものである。
 それゆえ、事前の作戦会議中に鈴木 透子(ia5664)がおずおずといった態度で意見を述べたのもにべもないことであろう。
「知恵のあるアヤカシなのかもしれません」
 彼女が、そう考えるのには、もちろん理由がある。
「橋を切り落としにかかっていることからそう判断します。逃げ道を封じるつもりでそうしていたとしたら、油断できないアヤカシだと思います」
 もちろん、この想像には、その敵がアヤカシである以上、致命的な弱点がある。もちろん鈴木も、それはわかっているが、いかんせん情報が少なすぎるのである。
 すこし、いらついていたのだろうか。
 足下から、心配げな鳴き声がして、足をさするものがあった。
「大丈夫よ」
 少女めいたあどけない顔に、ほんのすこしだが笑顔が戻り、鈴木は、飼い犬の頭を撫でた。なにはともあれ、できることだけはするべきだろう。
「まず村の人達には終わるまで家から出ないようにお願いしておきます。ちょっと荒っぽい方法になると思います。だからよけい危なくなります」
 幼い容姿の娘は、だがはっきりと大人としての決断をするのであった。

 ●

「いけるね、ヨタロー?」
 モユラ(ib1999)の呼び声に、朋友の甲龍が叫び声で応え、急旋回をしながら、甲龍はアヤカシの背中をとろうとする。白いイタチ姿のアヤカシもまた、振り向きざまに両手の鎌を蟷螂のように構えて、うなり声ととも威嚇をする。
 まずは互いに直接は手をくださない。
 しかし、それゆえ神経を使う、背後の取り合いだ。
 距離をとり、あるいは距離を離しながら狭い谷間での鬼ごっこ。
 肌を切る風は春だというのに冷たく、開拓者は、アヤカシと戦う前に、その寒さと奮戦することとなった。
 アヤカシもさるもの、谷間の狭い空間を利用しながら逃げ、ヨタローも主人を気にしながらもぎりぎりのところで狭い渓谷を抜けていく。
 時には、きりもみしながら地面にぶつかりそうになり、あるいは急激な方向転換に振り落とされそうになりながら、それでもモユラは唇を噛み、ふるえる指先にいま一度、力をこめて耐える。
 辛い――だが、
「ヨタロー!?」
 さらにスピードを出せとモユラは叫んだ。
 ヨタローも叫び声あげ、一段とスピードをあげる。。
 信用していなければ、こんな曲芸めいたことはできないだろう。
(この子ならちょっとやそっとじゃーやられやしない! あたいも安心して跨がれるってもんさネ)
 その背中にしがみつきながらモユラは祈るように、あるいは自分を奮い立たせるように、つぶやいていた。
 そんな追いかけっこを眺める影がある。
(空を飛ぶ相手とはいえ厄介ですが、韋駄天ともに行くなら大丈夫でしょう人龍一体の境地、見せましょう)
 目をかっと見開き長谷部 円秀 (ib4529)が龍に行くぞと叫んだ。
「!」
 いままで、ただ眺めていたわけではない。
 アヤカシのスピードと回避のしかたをじっくりと観察していたのである。
 たとえ姿を消したとしても、それが空を飛んでいる以上、慣性の影響を受けているはずなのである。しかも、スピードが上がれば上がるほど方向変換も難しい。つまり、アヤカシの移動は予測できると男は踏んだのである。
 問題は、その相手がアヤカシであるだけに、この化け物がその束縛を受けるかということである。だが、それは実際に行動してからわかることだ。
 アヤカシの姿がモユラの眼前で消えた。
(――ここだ!)
 天狗礫を撃つ。
 鎌鼬が一瞬から一秒後に通ると予測される位置に何発か撃つ感じで一発目が当たらなくても連発すればそこを通る以上、当たらざるを得ないはずだ。
 そして、賭けは当たった。
 一発目がヒットしたのだ。
 アヤカシの姿が見えた。
 しかも、それは致命傷といっていいほどのダメージを与えている。
(弱い!)
 消えるアヤカシであるというのは、逆に言えば、そのような小細工をせねば生き残れないということなのかもしれない。
「視認ができた!」
 モユラは毒蟲を発動。
 アヤカシには、もはやあらがう術などありはしなかった。
「オイタが過ぎたね。陰陽師モユラが成敗仕るっ!」

 ●

 殺傷事件が報告されている地点、落とされたつり橋の付近。
 ここ数日、事件の現場を渡り歩いていたカンタータ(ia0489)とその連れが尋ね歩いた場所である。
 今日は吊り橋の下の川のあたりを周囲を重点的に調査している。
 ちょうど先ほどから、からすたちがやってきて、このあたりにアヤカシの気配があると注意をしてくれた。
 鈴木の手配のおかげで村人たちは家にこもり、このような場所に出てこないので、その意味での心配はない。それに、現状ではアヤカシの妨害もなかったので、これといった問題もなく調べをつづけることができている。
「カンタータ殿、それはなんだ?」
 からすがカンタータの持ち物に気になるものを見つけた。
「橋の調べはすでについているから、すでに修理用の縄も用意したの」
「ご苦労なことね」
「まったくだ」
 鈴木と風雅 哲心(ia0135)は苦笑い。
 ジルベリアの遅い春の日差しにきらめく川面のそばで、開拓者たちはほんのすこしだけ憩いの時をもった。
 音がした。
 空を見上げると、カンタータの頭からかぶったローブの下で小さな笑いが起きた。
「つがいでとは、一匹目がこん棒で叩いて転ばせて、二匹目が鎌で斬りつけてって話ですかねー」
 上空でアヤカシが一体、仲間たちの手によって屠られたことを確認したのである。
 ローブで顔を隠したカンタータの頭の上に、ちょっこりと座った羽妖精のメイムは目を細めながら、その薄紅色の瞳には、霧散し、瘴気と供に消滅していアヤカシの姿が映っている。
 黒衣の予言者が再び告げた。
「すぐ隣にいるぞ」
 おぉと風雅が応じる。
「さあ、行くか!」
(では行くぞ、我が主よ!)
 翠嵐牙の姿が形を崩しながら光の粒となり、あたりに散ったかと思うと、磁石に吸い付く砂鉄のように集まって風雅と同化する。
 この術、人間と朋友はひとつの姿となる、金剛の鎧と言う。
 なれば、
(我が主よ、あのような雑魚はまとめて片づければよかろう)
 風雅の耳ではなく、頭の中に、その声が直接鳴り響いたとて不思議ではない。
 朋友とはただの友でも、ましてや供ではない。
 心からの仲間なのだ。
「開けた場所ならトルネード・キリクで行くんだがな、場所が場所だから今回は無理だ。ここで落盤事故を引き起こしでもしたら目も当てられん」
「……近くにいるな。いくら隠れても無駄だ!……轟け、迅竜の咆哮。砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」
 当たった!
 正直、当たるとは思っていなかった。
 だいたいの勘で、気配のする方角に牽制の為の一撃を加えたにしかすぎないのだ。だが、もちろん表情には、そのような驚きは出さないし、口には、それが狙ったものであったとさえ言う。
 アヤカシも当たったことが信じられなかったのだろう。
 狼狽し、悲鳴にも似た鳴き声をあげると、自棄にでもなったのか風雅に向かって突っ込んできた。
「こっちに来たか、ならば迎え撃つまで。……響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け―――アークブラスト!」
 それで片が付いた。
「だいたい書物で確認したカマイタチと能力的にはいっしょくらいか」
 カンタータは納得をした。
 どうやら、今回の依頼の敵は事前の予想通り、透明になる術を手にしたカマイタチといったところであるしい。
「あと一匹、残っておる!」
 からすがなおも叱責した。
 だが、その姿は見えない。
 最初から姿を消しているのだ。
 その時、キルクルの乗るアーマー、レイピアが大きく揺れた。まるで風に遊ばれる小屋といった感じである。
「アーマーを狙いおったか」
 カンタータは
(なにか――!?)
 その時、橋の修理の為に持参した荒縄が目に入った。
 天恵がきた。
「川に向かって火を放って」!」
 カンタータは上空に向かって叫んだ。
「なんだかわかんないけど!」
 モユラは迷うことなく、上空から火炎獣を放つと、それは川面ではじけ、爆発した空気は川の水を四方へと吹き飛ばした。あたりに雨がふり、アヤカシの姿がずぶ濡れになった!
「逃がさないんだよ、たぁっ!?」
 メイムが空中で一回転、重さを利用して、アーマーソードを振り下ろした。
 アヤカシの姿が可視化した。
 再び、動き出そうとするアヤカシをアーマーの手が捕まえる。
 しかし、その時、アーマーの駆動音が消えた。
「未熟者め、練力を使い切りおったか」
「くそ!」
 風雅と長谷部は舌を鳴らした。
 アーマーが邪魔となって、すぐには攻撃できないのだ。
 女性陣の魔法が跳び、アヤカシに傷を与えるが、まだ生きている。
 アヤカシの姿が、再び、消えようとしてる。
「まずい!」
 男達の攻撃が指一つだけ届かない。
「逃がさない!」
 鈴木の呪縛符が、アヤカシを縛った。その時、アーマーの操縦席を蹴破ったかと思うと――あとで、直してあげる!――キルクルが飛び出てきて、
「これで!」
 大槍がアヤカシを貫いた。

 ●

 武勲一等。
 そんな気分なのか、キルクルが「森のベアおじさん」なるよくわからない歌を、うれしそうに口ずさみながらアーマーの後片付けをしている。
 からすは茶を喫しながら男たちと供に、ギルドへ送る書類の打ち合わせをしていて、
「あのかまいたち、本当につがいだったのカナ? ちょっと悪いことした気もしないでもないケド……」
 モユラもまた冒険の片付けをしながら、そんなことをつぶやいていた。
「こればっかりはね、加減はしてやれないよ――」
 まったくその通りだと思いながらも、鈴木の頭の中では別の疑問が沸くのであった。
(本当にあのアヤカシは子を守るために、邪魔になりそうな人や船を襲っていたのでしょうか? 人間や動物のようにアヤカシが子を宿すのかしら?)
 擬人化はわかりやすく、人間にもそれが理解しやすい思考方法である。だが、それは同時に危険な考え方だとも言う。それは人間とは違う思考の存在を無意識の内に黙殺する可能性があるからである。
「あ――」
 ローブが夕暮れの風に弄ばれ、金色の髪がばっと空に拡がった
 その時、その冒険ではじめてカンタータ・ドレッドノートは、その素顔をさらしたのだった。彼女が口をとんがらせて、風に文句を言っている。
(聞いてくれるはずもないのに――)
 その時、鈴木は自分の問いは風はなぜ吹くのだと、風そのものに聞いていることと同じなのだと気がついた。

 世界の深淵に横たわる謎の真実を解き明かすには、まだ天儀の人間の経験は浅く、その答え知るほど大人ではなかったのかもしれない。