開幕の鐘は鳴らされて
マスター名:まれのぞみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/03 02:28



■オープニング本文

「兄貴!」
 血相を変えて男が荒々しく扉を開けて部屋に入ってきた。
 マントの下でいかつい肩を大きく揺らし、大きな眼はぎらぎらと光り、どれほどの距離を走ってきたのか、冬の最中だというのに額からは汗が流れている。
 そんな弟の顔を見ると、青ざめた顔の兄は首を横に振った。
 脇にいた召使いの少女が、男の兄と目と目で語り合うと、その部屋を出て行った。
「遅かったな」
「おそ‥‥」
 その言葉に弟は愕然とした。
「な――なんだって!?」
 兄を押しのけ、弟はベットにすがりつく。
「あ、あ、あ――」
 力もなく膝を落とすと、嗚咽が漏れ涙が流れた。
「かあちゃん‥‥」
 戦場にあっては、たとえどのような大けがを負っても泣き言ひとついわなかった男がさめざめと涙を流す。
 彼たちの母親が死んだのは南方叛乱から数ヶ月の後のことであった。
「こんど陛下の親衛隊になれそうだって言うのに‥‥」
 その戦いで功のあった男は、兄の尽力による親しい貴族たちに口添えしてもらうことにも成功し、このほど栄えある親衛隊の候補として、皇帝に直接拝して最終面接を受けることとなったのだ。
 前々代の当主が戦場で不手際を起こし、当時の皇帝の激怒を買い、没落した家にとっては再興の絶好の機会だというのに、それを最も望んでいた女性はもうこの世にはいない。
 兄弟ががんばってこれたのは家名の誇りはもちろん、なによりも誇り高く、二人を育てた母のためであったのだ。
 その母が死んだ。
 それでは、いままでは、そして未来は何なんだ。
 なんのために――
 ふたりの心に冷たい風が吹く。
 風を招く声がする。
「えっ?」
 その時、ふたりは確かに声を聞いた。
「な、なんだよ!」
 母の胸元の鏡が輝いている。
 いつしか二人の目はうつろになっていた。
「いいのか‥‥」
「ああ‥‥」
 誰としゃべっているのだろうか。
 二人の男たちが、ぶつぶつと明晰な言葉にならない会話に会話をかわす。
 そして、男が最後の理性をふりしぼった。
「バカを言うな! 俺は陛下の忠実な騎士なんだぞ!」
「どうかしら?」
「なッ――!?」
 男たちは息を呑んだ。
 そして、それが男たちにとって最後の抵抗であった。
「抵抗はムダ。そう生半可な抵抗はムダよ――」
 鏡はささやき、男たちはつぶやく。
「殺される。殺される。俺たちは皇帝に殺される――母」
 まるで根拠のないことをつぶやくと、それは心の中で現実となり心をむしばむ。
「殺されるのを待つくらいならば‥‥ハハヲコロシタコウテイノイノチヲ――」
 ふらふら
「まったく男というものはいらぬ意地を張るから困る。心には正直になりなさいな。殺意もまた人間の本質なのですから」
 どこかで声が唄っていた。

 ●

 にっこりと笑って、女は自分の唇に指さした。
 男が面倒そうな顔をすると、誰も見ていないのはわかっているのに、あたりきょろきょろと見回し、それから軽く口づけ。
「オルガ、お前が相手だといつも調子を崩されるよ」
 捨て台詞を残してジルベリアでもっとも多忙な男はそそくさと部屋を出て行く。
「忙しい人なんだから」
 残念とつぶやいてオルガは帰宅の準備を始めた。
 打ち合わせは終わった。机に残された資料はまとめて暖炉の火に投げ入れて証拠隠滅。これで、あの陰謀もあの男と彼女だけの秘密だ。
「あと面接の準備って‥‥親衛隊長さんお仕事でしょうに。さてと帰ろうかしら‥‥と、その前に、土産の御菓子を用意しなくちゃ」
 部屋から廊下にひょっこりと顔を出すと、たまたま通りかかった騎士と目があった。新人なのだろう、まだ若い宮廷の騎士がこいつは何者なんだという顔をしている。
「こんにちは」
「こんにちはだと? 見かけない奴だな、その部屋で何をしている!」
「何って? 客だけど?」
「客だと? そこを陛下の私室だと知って言っているのか」
「あちゃあ‥‥」
 世間知らずの若者と出会ってしまった。
 どうやって説明しようかしらと考えていると、そこへ年配の騎士がやってきた。
「何をしているんだ?」
「先輩、あやしい奴です」
 若者がオルガの顔を指さし、彼女は笑顔で手をふって応えた。
「はぁい」
 老騎士は、頭を左右にふり、こう言った。
「たしかにあやしいやつだが、お前は殺されたいのか?」
「そうですよね」
 そう言って剣を抜こうとするところが、経験も頭も足りないお子さま故か。
「えッ!?」
 気がつくと若者は転倒し、剣はオルガに奪われていた。
「馬鹿者はお前だ。戦っていい相手もわからぬから、お前は未熟だと言われるのだ。よりにもよって鬼姫にケンカを売ろうとして、こう見えても陛下の側室なんだぞ」
「こうってなによ?」
「こんな乱暴な側室がいるわけがない!」
「一度、逝ってみる?」
「人生最大のイベントは戦場でと決めているのだよオルガ殿。めったに宮中に顔を出さぬから、こう言われるのだぞ。そもそも陛下の右腕として生きているのだから常に側にあるのだが側室たる者の勤めであろう。だいたいたが、そなたは昔からそうであった。才はあるくせにだ――」
「ああ、いいわよ。いいわよ。なんで結婚して引退した身なのに、現役の時と同じ小言を聞かないといけなのよ!」
 まちがいなく深夜まで続くに違いない老人のありがたいお話を途中でさえぎった。
 そして、何か言おうとする昔の上司の口を塞ごうとしたとき、
「あ‥‥あの――」
 か細い声がした。
「おや?」
「あら?」
 そこには、おびえたような表情の少女がいた。
「あなたは‥‥!?」
「騎士さま、助けてください! わたしの主人が大きな過ちを犯してしまいそうなんです!?」


■参加者一覧
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
クルーヴ・オークウッド(ib0860
15歳・男・騎
エラト(ib5623
17歳・女・吟
烏丸 紗楓(ib5879
19歳・女・志


■リプレイ本文

 質素な部屋であった。
 引っ越し前に必要な物だけを運び込み、とりあえず生活ができるようにした。そんな感じの閑散とした部屋にテーブルと椅子がある。
 貴族の別宅とは思えぬ簡素な部屋の中で開拓者たちは出された茶を飲んでいた。
「ふむ――難儀ですね。今だからこそ、なのでしょうが‥‥」
 エグム・マキナ(ia9693)は腕を組みながら目を閉じる。まるで、教え子の不始末にどのような対処をしようかと頭をなやました教師時代の姿に戻ったかのようである。
 確かに微妙な問題なのだ。
「そもそも事件が本当に存在するのかしら?」
 声が聞こえたのだろうか、依頼主がそう口にしながら部屋に入ってきた。
 フェンリエッタ(ib0018)がいま一度、我が身の格好を確認して立ち上がると、部屋に入ってきた婦人に背筋を伸ばして騎士のあいさつをした
「お目にかかれて光栄です。ルーシー村のオルガ様」
(あら?)
 オルガの指先が自然な様子で、二度、三度、形を変えた。それは騎士たちが戦場で声をださぬまま、互いの意志を伝えあう符号のようなものであり、意味は多言は無用ということであった。
「みなさん、よくいらっしゃいました。このような漠然とした依頼でまことに申し訳ありません。そもそもお依頼したこと自体まちがいかもしれませんが、判断をくだすだけの時間もなく、最悪の場合を考えて、お呼びしてしまいました。何事もなく終わればそれこそ問題はないのですが‥‥」
「情報が少ないっていうか全然無いのでまず、オルガさんの所になぜこの話が舞い込んできたか聞きたいわね。誰かの密告だとすればそこから狙っているのが誰か分かると思うし‥‥」
 烏丸 紗楓(ib5879)の質問は直接的だが正論だ。
「そうですね、密告があったのは確かです」
 オルガは言葉を選んでいる。
「あ、もちろん私達は話を聞きたいだけで、密告した人を責めたり問い詰めたりはしないからね?」
 あわてて烏丸が自分の言葉をフォローした。
「隣の部屋で待っていますよ――」
 そう言われると、何人かが部屋を移動した。
 部屋に残ったエグムが口を開く。
「もし、生きて捕らえる事が出来ましたら、それまでと同様に遇しては頂けませんか? 処罰を軽くするのではなく、無くして頂ける事が最善ですね。ある程度調べる必要もありますが――彼らを罪に問うならば、推薦した人間もまた罪に問われる事は分かっている筈。果たしてその様な者がいるでしょうか?」
「そうですね。政治的にはそれがいい方法なんでしょうけど‥‥」
 オルガの言葉があいまいなのは彼女一人では決めることが出来ない事案だからであろう。
 なんにしろ――
「親衛隊の面接ならば、暗殺に最適……ですが、同時に疑われやすいと言う事です。暗殺を心から願う人間を推薦する者など、そうはいないでしょう。故に! 私はアヤカシが関与していると推察し――政情の安定が必須と進言致します」
 元教師の推論であった。
「となると拝謁を許される程の人の豹変は尚の事不可解。アヤカシの関与?」
「あるいはアヤカシを騙った人間の仕業かしら?」

 ●

 別の部屋に、その娘がいた。
 事件の通報者である兄弟の召使いだ。
 椅子に腰掛け、不安げに開拓者たちの顔を見ている。
「会場に来る人が犯人であるなら、相手の素性も十分承知の筈ですよね?」
 佐久間 一(ia0503)は主人にしようとした質問をより詳しい人物にする機会を得たわ
けである。
「はい――」
 もちろんと娘は応え、主人たちがいかに皇帝に忠誠を尽くす「人間」であるのかを語った。
「むしろ、その気持ちを汲んであげる為により良い方法を見つけたいだけだから何を見、何を聞いたのか‥‥教えてくれると嬉しいな」
 にっこりと笑い、烏丸が少女の肩をぽんぽんと叩いた。
 しかし、開拓者たちが最初に聞いた以上の新しい情報はなかった。
「様子のおかしくなった、おふたりの様子を、わたしもちらりと見ただけですから‥‥」
 当たり前のことを言っているのだが、同時に何か奇妙な違和感を覚えるような言い方だ。ただ、その何がわからぬまま時間は流れ、できる限りの情報が集められた。策が練られた。
 その中で、クルーヴ・オークウッド(ib0860)が一つの懸念を口にした。
「お兄さんは皇帝の近衛の中に居るのかなと考えます。その場合、暗示の起動条件は弟さんが皇帝の前にたつ時のはず‥‥」
 確認する限りでは騎士名簿に彼の名前はない。
 ただ現状を考えれば変装するなりして潜り込んでくる可能性も否定しきれない。ならば急ぐ必要がある。
 心はひとつになった。
 エラト(ib5623)が仲間達の意見をまとめる。
「騎士は面接前に屋敷内で取り押さえる」

 ●

 目の死んだ男が歩いてくる。
 道の真ん中を右に左にと、まるで面接の恐怖から酒に逃げ、おぼれた者の目だ。そして、その眼差しは夢を見ている。
 いや、見せられている。
 心を苦しめるのは周囲の目と叱責の言葉。
 侮蔑の目、冷たい視線、あたりにないはずの眼差しが彼には見える。
 聞こえるはずのない、せせら笑い声が頭の中に響く。
 そして、それを諭す母の言葉。
(あのにくき男を殺せば、あなたは救われる――)
 偽りの母の言葉に身をゆだね、男は目的の場所へと向かう。
 屋敷に通される。
 男の入った部屋には、すでに数人の人影があった。
「ダレダ!」
 ささくれだつ心は棘のある言葉となる。
「腰の得物をお預かりさせていただきます」
「ナンダト?」
「どうしたんですか? もしかしたら緊張されているのですか? それでしたら、この曲でも聞いて気分を落ち着かせてください」
 エラトが奏で始めると、別の声がした。
「ところで、ぶしつけな質問ですが――貴方は何故親衛隊を目指されたのですか?」
「ナンダ?」
 操り人形の言葉に意志はない。
 ただの命令に反した行動に間違いと応えるだけだ。
 今回の場合もそうだろう。
 憎むべき皇帝に会い、コロス。
 それ以外を現在の彼は知らない。 
(そう、あなたは――)
「お母様がこんな事をお望みだと?」
 偽りの母の声をさえぎった声が男の心の底に響いた。
 声が聞こえる。
 意味がわかる。
「貴方も陛下の騎士でしょう!」
「オレハ‥‥オレハ――」
 その揺さぶられ心をさらにやさしく風が吹き付ける。
 茨のように心にからみついたアヤカシの束縛を旋律が剣となって切り裂くと、その目に生気が戻ってきた。
「何とか収まりましたか‥‥」
 両手の得物の活躍こそなかったが、いつでもそれを抜く覚悟のできていた佐久間はほっと息をついた。
「ここはどこだ?」
「正気に戻りましたか!」
「お前達は誰だ?」
「僕たちは――」
 クルーヴが自分たちの正体について語り、そしてこれからのことについての方針を語り始めた。

 ●


 思いの外、早く事件が解決した。
 事の子細を知った男はしばらく考え込み、苦渋のすえ、皇帝との面接を辞退することにした。
「己の弱さだからしかたない――」
 そう言い部屋を出て行ったが、はたしてどこまでが本心なのだろうか。
 そしてクルーヴの予想したとおり、屋敷には侵入しようとした不審者として兄も見つかり、その身が確保された。
 あとは反省会という名前の飲み会となる。
 場所は屋敷のまま食材と酒はご自由にということで、エラトが手早く作った料理がテーブルの上に並んでいる。
「できたわよ」
 早くもできたての料理とうまい酒に食事とおしゃべりがはずむ。
「物騒な話よね、でもまあ‥‥こういった場合は往々にして実行犯は捨て駒で他に黒幕がいるものっていうのは考え過ぎかな‥‥・前にあった大乱もアヤカシが唆してって話だったって聞いてるし」
「騎士達からも事情を伺い、できる範囲で内々に処理できる情報を揃えるようにしなくてはいけませんわね」
「郊外の質屋襲撃も気になるし‥‥。嫌な感じ。それもアヤカシ絡みなら思惑はこの件だけでは済まないかも」
 仲間の言葉に烏丸はどきりとした。
 さきほどオルガに頼まれて、彼女は、ある人物を心眼で見たのである。
 別の誰かが何気に、そのことを口にした。
「そういえば、それを聞いてオルガさんがあわてて出て行きましたよね。何があったんでしょうか?」

 ●

 同じ屋敷の別の部屋のことである。
 オルガが、事の発端となった召使いの娘を呼んだ。
「なんでしょうか?」
「どうやら事件は解決したようよ。陛下に会う前に捕まえたそうだから、あなたの主人
たちは問題にもなるようなこともないわ」
「そう‥‥ですか」
「そうよ。本当にお世話になったけど――」
「‥‥――?」
 何が起こったのかわからなかったかしれない。
 気がついたときには、娘の腹から赤い血がしたたり落ちていた。
 オルガの手には短剣がある。
 鏡の向こうで何かが立ち去っていった。
「こういう仕事なの――ごめんなさい。あの騎士の言葉でようやく気がつくなんて、わたしも鈍くなったものね。そのくせ確信が持てなかったから、あの心眼持ちの娘さんに頼んで――」
 アヤカシに憑かれた者はもはや人間ではない。
 なぜ兄弟がアヤカシに憑かれたのか。
 鏡があったから。
 なぜ母親が鏡を持っていたのか。
 誰かが鏡を用意したから。
 アヤカシの憑いた鏡を誰が?
 誰が――アヤカシが――アヤカシの憑いた娘が準備したのだ。
 兄弟の身近にいる者ならば簡単なことだったろう。そして、みずからでシナリオを書き、自分で事件をしらせる。それもひとつの目的のために。
「終わったようだな」
 扉が開いて、ひとりの偉丈夫が姿をあらわした。
「あら、あなたの仕事は終わったのですか?」
「廊下で待っておったら肩を落とした若者が来おったわ。あのような者など、一目見、二言、三言しゃべらせれば、言葉をかわすにふさわしい人物かどうかなどわかる。あとのことは訓練や教育など専門の奴らにやらせればいいのだからな」
 それだけ言うと男は手近にあった椅子に腰をおろした、
「それでだ――」
「なんでしょう?」
 ほっとしたような表情となって、オルガはただうなずいた。
「どうせらば、今回の件はあったことにはできぬか?」
 その言葉に目を見開いたオルガは、やがて目を細めると、
「それこそが犯人の本当の狙いだとわかっておりましょうに、お人の悪い――」
 男の望みをすぐに察したのだ。
「だからどうした?」
「危うい橋をお望みになるのだなと思ったのですよ」
「ふむ、そういことか。だが、この前の叛乱が気になっておるのだ。人間だけを相手にするのならばともかく、噂どうりアヤカシまで我に刃向かうとなると、ちと面倒でな、まずは人間の方を片付けておきたいのだ」
「そのためにあえて焚きつけますか?」
「貴族どもや宮廷の中におる者たちの日頃から口にする、我に対する忠誠心なるものを実際に目で見てみたいしの」
「ならば開拓者たちの薦めるとおり沈黙こそが良策かと」
「いや、今回は愚策を弄しようと思う。言ったであろう部下の忠誠心なるものを見てみたいのだとな」
「彼女の忠誠心を?」
 昔からの悪友の顔が頭をよぎる。
「来たるであろう炎の時代には、さびた剣、なまくらの剣など役にたたぬからな。彼女だけではない。すべての者達を見てみたいのだ。我についてこれるのか、ついてこれぬのか。現在ならば許される。どうでもいい事案だからこそできる無茶だ」
「玉体の御身を危険にさらしかねない事案を、どうでもいいなどと‥‥」
「しおらしいことを言うな。わかっておるぞ、そなたのことだ、たとえ今晩、我が死んだとしても翌朝には次の皇帝が我の業務を引き継いでいるのであろう? で誰を擁立する気なのだ? 長男か? あの娘たちの片割れか? それとも別の誰かか――まあ、よい」
 すでに夫婦ではなく、かつての皇帝と騎士がそこにいた。
「なんにしろ、再び乱の兆しとなるかもしれませんよ? 覚悟の上でおっしゃっているのですか?」
「そうなったら、それを叩きつぶせばよいだけのことだ」
「力なき民たちには迷惑な仕打ちですわね」
「ならば、それも護ってみせればよいのかの? 我に刃向かう者どもにもアヤカシにも打ち勝ち、そして民も護ってもみせる。それならば文句はないであろう」
「難しいことを」
「それごときができぬで、なにが皇帝ぞ!」
 男はかかと笑うのであった。