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■オープニング本文 「別の大陸には紅葉狩りって言葉があるそうよ――」 おやつを食べながらの――休憩時間はとうに終わっています‥‥――ジルベルアの開拓者ギルド職員たちはおしゃべりはつづいていた。まず、それがどんな意味なのかということから話題になり――とうに休憩時間は終わっているのですが‥‥――ジルベリアにある風習とのちがいについての論議――だから休憩時間はとうの昔に終わっているのだと何度言えば―― 「なにかギルド長の声がするけど」 「わかった、すこしお話ししてくる」 しばらくの喧噪と、轟音、そして沈黙。 やがて戻ってきた少女たちは、 「彼も了解してくれた」 席に座りなおし、何事もなかったようにおしゃべりをつづけた。 「つまり落葉を見るってことね」 「なんという物好きな」 「異国には異国の風習があるんだから、そうは言わない」 「まあ、ジルベリアではない習慣だから評価のしようがないな」 「そう、秋は忙しい。作物の収穫はあるし、それが終わったら収穫祭をはじめとした祭りをいろいろやらないといけない。なにより冬の準備をしなくてはいけない」 「短い秋は飽きるまもなく過ぎ去っていく――」 そんな同僚達に会話に、ひとりが不思議そうな表情。 「紅葉を見たりはしませんけど、紅葉狩りってありません?」 「狩るって意味がわかっている?」 「だから戦うってことでしょ?」 菓子をぱくついたまま、やはり不思議そうな顔。 「戦っている?」 「ええ、ほら紅葉って凶暴じゃないですか」 「凶暴?」 なにか別のものと勘違いしているのではないかと思えてくる。 「だから凶悪な落ち葉ってひとを襲うものじゃないですか! だから騎士や開拓者の方々が毎年、秋になると紅葉を戦っているんでしょ?」 「それは、どこの秘境の話よ!」 「失礼ね、わたしの生まれた故郷よ!」 「失礼。じゃあ秘境じゃなくて異世界ね!」 「ひどいじゃないですか! わたしが何かヘンなことを言いました!?」 「言ったから、こういうことになっているの! この国のどこに――他国は知らないわよ――紅葉がひとを襲うのが当たり前な場所があるのよ! それが事実だったら、わたしたちは毎朝、掃除の前にギルドの前の道を箒で紅葉を退治をしていることになるじゃな」い!」 職員になる前には開拓者として、かなりの功罪を重ねた志体もちの職員が、窓の外を指さすと、赤や黄色に染まった葉が散っていた。 ぽん。 「おおぅ!」 「手を叩いて、おおぅじゃない!?」 その場にいる者たちの声がそろった。 「でも、そうするとあたしの田舎の紅葉ってなんなのかしら?」 ● 「諸君、我々はこの日を待った」 整列する騎士たちを前に騎士が声をあげた。 「さきの戦いから一年。またも、この季節がまわってきたのだ。街を村を、そして我々を襲う、あの赤い化け物と戦わねばならない! この地を、民を、家族を、子供を、そして恋人を守らん! さあ、あの森に戦いに向かおうぞ! そして、命令はひとつだ。戦い、そして生き残れ。以上だ!」 シンギという名前の騎士隊長の一喝に、兵たちがおおぅっと叫び、盾を叩き、剣と槍で地面を叩いた。 大地と盾が太鼓のような声を上げ、兵たちは戦歌を唄った。 うむとシンギはうなずき、手をあげて歩き出すと兵たちが彼につきしたがって隊列を組みながら門の外へと向かった。 街道にならぶひとびとは歓声をあげ出立する兵たちを祝し、祈り、最後の一兵までもが門を抜けるのを待った。そして、その列が過ぎ去っていくと、やがて人々は弁当を手に持ち街の近くの丘へと向かった。 すでに丘のあちらこちらにひとが陣取り、場所とり、酒呑み、飯喰い、流行歌を歌い、わいのわいの。宴がすでにはじまっている。 そして、メインイベントもじきにはじまる。 兵たちが森の前に集まりつつあった。 いまから眼下に拡がる平野で紅葉狩りが幕を開く。 かくして兵たちと赤い葉の生死を賭けた戯れ、戦争とも呼べる年中行事がはじまるのであった。そして、それはまた戦いを酒の肴にした宴会の日々のはじまりでもあった。 ● 「つまりアヤカシとの戦いを見せ物にしてんかい、あんたの故郷は!?」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
藍 玉星(ib1488)
18歳・女・泰
藤吉 湊(ib4741)
16歳・女・弓
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
南風(ib5487)
31歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ジルベリアの朝の空気は、秋だというのに早くも冷たい。 朝という時間は、冬という題名の夜の幕が終えた後、秋という演目が始まる昼の幕までの空気の入れ換えの間なのだろう。 そんな時間の中に、からす(ia6525)はいた。 日はまだ遠く、地平線のあたりで寝ぼけ眼のさまであるのに、茶会の前の娘――見た目の話であり、本当の年齢は‥‥いや女性は、その年齢さえも彼女の中でもっとも輝いていた頃のままなのであろう――は、しだいに明るくなってくる朝靄の中、ひとりで宴会の場となる場所を清めていた。 しだいに明けてくる日差しに彼女の息が白いことがわかってくる。 しばらくして日はすっかり昇った。 からすが寒そうに身を縮みこませていると、ちょうど、おしゃべりをしながら龍水仙 凪沙(ib5119)と藤吉 湊(ib4741)がやってきた。 「準備は万端だな」 「ええ、楽しみだね」 きょうの紅葉狩りのことを言っているのだろう。 「あ、それ――」 「これ?」 からすの声に龍水仙は持っていた桶を片手で持ち上げる。 「すこし、お借りできませんか?」 「あ、いいけど?」 にっこりと笑い、近くの泉で水をくみ、あたりに水をまく。 「みごとなものあね」 「ですよねぇ」 ふたりの傍観者は、茶をするという女の準備に感心していたが、 あれ? 箒を片付け、桶をふたりに返し、そうじを終えたはずなのに、最後に、木を揺らして、はらり、はらり――葉が地面に舞い散った。 唖然とした娘たちに向かって、茶人はにっこりと笑うのであった。 「これでいいのですよ。さて、おもてなしの準備ができました」 からすの肩で羽を休めていた、同じ名前の鳥が鳴くと、葉を踏む足音がしてきた。 いつしか、あたりは人だかりとなり、祭りの場となる。 「ジルベリアの紅葉狩りは、天儀の紅葉狩りとはずいぶんと違うみたいですの」 「紅葉‥‥あんまり好きじゃねぇんだよな。あの葉が落ちる度に、寒さが本気出して来るだろ? あんた」 ほほほと笑いながら弁当の詰まった袋と酒を持って十 砂魚(ib5408)と南風(ib5487)がやってきた。 前に席を見つけ、ござを敷き、弁当をひろげ、酒を杯に受け、まわりの酔っぱらいたちを巻き込んで、乾杯。 「さて、どうなるかな?」 目の前には戦場が拡がっていた―― 兵たちはすでに戦場に散り、森からの襲撃にそなえ緊張の面持ちでいる。 何年も戦いっているという兵もいたが、慣れたとはいっても緊張するという。当たり前か。かれらは志体もちではない。 それを言ってしまえば、かれらを率いる帝国の軍人もまた、ただの人間である。 緊張した面持ちで額に汗を浮かべながら、それでも己を律し、あちらこちらを行き来しながら兵たちに声を掛け、あるいは鼓舞しながら歩いて回っている。 「それでは、よろしくお願いします」 隊長は、兵たちとともに、今回の戦いの参加者にもあいさつをかかさない。 開拓者たちだ。 羅喉丸(ia0347)は緊張をほぐすように体をのばしながら開戦の時を待っている。けして強くない相手であるというし、きょうはよい訓練日よりになるであろう。 見上げた空は青く、高い。 遠くに冬の空の到来を感じる。 やんややんやという声がする。 見れば、そばには袴に銅丸、針金。胸には霊刀をかかえ、不安げにあたりを見まわす少女がいる。 「町道場に通う侍の子弟が間違って参加しちゃった」 そんな演出をしますとは彼女の言い分だ。このリィムナ・ピサレット(ib5201)、本来は魔術師である。だが、このようなおもしろそうな催しには、おもしろい見せ物を催そうと、なにごとか企んだらしい。 「よろしくお願いします!」と大声で挨拶しつつ一礼。 どこか、こっけいさとともに、計算高さも見えるのは、彼女が天然なのか、狙っているのか、あるいは生来の人気者気質なのか羅喉丸にはわからなかった。 わからなかったといえば、こんな声もする。 「戦いの場らしくないアルね」 わりと小柄な少女が、はぁとため息をついていた。 藍 玉星(ib1488)だ。 かわいらしい顔がすこし戸惑ったような表情に見えるのは、これから始まる戦いにではなく、もちろんそれ以前に理由があるのであろう。 丸いお団子頭がきょろきょろ。 「世の中は不思議ある。わからないことだらけね」 わからないついでに、こんな娘もいる。 「はぁ‥‥これが有名な紅葉狩りなんですね?」 耳をぴんと立てながら趙 彩虹(ia8292)は、すっかり勘違いした様子で紅葉狩りの雰 囲気を楽しんでいた。 「でも、なにか戦いがはじまるみたいな雰囲気ですよね?」 趙はそばの男に声をかけた。 「それに観客が、なぜあれだけ離れた場所にいるんでしょうか?」 モハメド・アルハムディ(ib1210)は笑っている。 「ナァム、そうですよ紅葉狩りです。でも、これは本来の紅葉狩りとは違うのです。つまりですね――」 しばらくつづいたモハメドの説明に、えぇと趙が声をあげる。 「ラー・ムシュキラ、お気になさらずに。このような勘違いは私にもよくある事ですから。タマーム、タマーム!」 異国にありては、異国の風習に苦労するが異邦人というものである。 ちょうど、その時、まわりがわぁっと沸いた。 「あ、この土地の紅葉狩りがはじまりますよ――」 喚声が前線から、歓声と十の打ち鳴らす太鼓の音が背後から聞こえてくる。 戦いがはじまったのだ。 かならずしも戦闘を得意とするわけではないので、ふたりの異邦人たちは兵たちが陣取る背後で、まずは戦いの推移を見守ることにするつもりだ。 戦端が開かれた。 「矢でも鉄砲でも持ってこい!」 前の方で隊長が叫んでいた。 すぐに矢やら鉄砲が空に向かって放たれたかと思うと、空から襲いかかってくる紅葉の群れ。いままで青かった空を赤と黄色に染めあげ、錦のごとく彩ったかと思うと、ふいに踊るように舞い散り、あるいは急降下。 「まじですか!?」 突然の襲来に、趙の目がまん丸。 「気をつけないといけないある!」 モハメドの肩に誰かの足が乗ったかと思うと、勢いをつけてさらに一段のジャンプ。そのまま手套でアヤカシを、はたいて、落とす。さらに、落下しながら投げる、蹴る。さらにアヤカシは霧散。落下と同時に、地面を蹴りつけて跳躍すると、つぎの戦いへと向かっていった。 藍の修練のたまものだろう。 「まだ、はじまったばかりですから‥‥」 数に勝る敵に少数の精鋭たちが挑みかかる。しかも、勧善懲悪――むろんアヤカシというのはわかりやすい絶対悪なのだ――。見る分には、これほどのスペクタクルはないであろう。 「えぃえぃ、おぅ!?」 リィムナが拳を振り上げて戦いに赴く。 まるで近所の道場にゆく子供である。 「えい、やっ、とぉ」 霊刀をふりまわし、アヤカシを倒して回る。 たしかに一刀のもとに伏せることのできる敵だ。 だが、空を覆うほどの敵の数は伊達ではない。とくに中央の精鋭でもなく、ましては志体をもたない一般の兵たちは、その奮闘もやや及ばずと行ったところか、はやくも奮戦むなしく、ほころびてくる戦線がある。 そこへ、羅喉丸が飛び込んできた。 「こうだ!」 何回目だろうか。 すでに戦線など崩壊し、乱戦となった合戦会場。 情報が交錯し、隊長が行方不明という未確認の情報まで飛び込んでくる始末だ。こうなれば、あとは兵ひとりひとり、開拓者各々の判断で戦うしかない。 さきほどまでは、あちらで戦っていたかと思えば、こんどは瞬脚で駆けていって、こちらで戦う。危ない場所があると聞けば、兵とアヤカシの間に飛び込んで入り込み、蝶のように舞い、蜂のように襲ってくるアヤカシを斬る。 一閃、あまたのアヤカシが消散。 「つまらぬものを斬ってしまった――」 羅喉丸はにやりとする。 よい鍛錬になるとは思っていたが、期待以上だ。体の底からわき上がってくる戦意にもののふは興奮していた。 別の場所では、兵たちの隙間をついては五文銭が飛ぶ。 「鍛錬に丁度いいな。舞い散る木の葉は良い的になる」 からすの姿も、その中にあった。 ただ、すでに彼女のいる場所は戦闘が終わり、敵を掃討し終えている。 「さて、これでよし」 からすは観客に向かって大声で叫んだ。 「一等席など、どうだい?」 おいで、おいでとやると、しばらくざわついていた観客の一部が、よりよい場所を求めて移動はじめた。まったくもって、見せ物である。 さて、その頃、前線の背後にいたはずのふたりの場所にもアヤカシの魔の手が迫っていた。モハメドが左右長さの違う得物をふりまわさなくてはいけないまでになっている。風の術でアヤカシを攻撃していた趙の耳がぴん。 「あ、なぎがなにかはじめるみたいだ!」 「お友達ですか?」 「うん、ちょっと約束があってね」 えぃっと戦場のど真ん中に竜巻を召還! 「なにをするんですか!?」 「わぁ、きれいだな」 滝壺の渦に紅葉が巻き込まれ消えていくように、天という青い水底に赤や黄色のアヤカシは溶け込みながら、どこか遠くへと消えていった。 「雑魚は一掃しましたね」 「そこで、あたいらの出番や!いくで!」 「はいな」 そこへ人垣をかき分けて千両役者の登場。 藤吉と龍水仙だ。 ふたりとも、その手には水の入った桶をもっている。 藤吉が前口上。 「さあさあ皆はんご照覧あれ! これより演じるは天翔ける龍の戯れ! お楽しみませい!」 龍水仙が大龍符。 「ほな、派手に魅せたるでぇ」 空に向かって、桶の中の水をばらまくて――事前、準備として地面に水はまいてあるが、そこは見栄えというものである――水龍へと変化。 それに応じるかのようにアヤカシもまた、小さな魚が集まり、大きな魚を騙るように、あたりにただよっていた紅葉が集まり、凝縮し、やがて赤い龍の姿をとった。 赤と青の龍の出現に、観客は大歓声。 「大歓声というのは大喝采、そして笑顔で終わらせるべきある」 まず紅砲のあいさつ。 「いい敵だな!」 すっかり気分が高揚した羅喉丸だが、戦いに心底、酔っているわけではない。醒めた頭はある。 「俺から離れろ! あれを使う」 からすがうなずき、こんどは観客を避難させた。 あたりに人影はない。 これで―― 「油断はしない。我が最大の奥義で迎え撃とう。」 剣をかまえる。 「破軍崩震脚」 大きく足踏むと、衝撃が四方に分散する。 それは、遠くの観客の場所まで届く。 あたりの客とすっかり宴のまっただなかにある十と南風 「ほぉ。ありゃ大したモンだ」 そんな南風の手にある杯の酒が振動で小さく波立つほどであった。 そうであるのならば、それをまっ正面から受けたのならば、どうか。 衝撃波がぶつかり、爆発する! 土煙があがり、白煙にのぞく龍の表情は苦しげで、鱗が落ちるように、アヤカシの体から赤や黄の葉が落ちていく。 霊刀で天を指し、リィムナは大声で叫んだ。 「はあぁっ!剣気充分!我が秘剣の数々、とくとご覧に入れましょう! 雲耀!」 霊刀を上段から振り下ろすと雷鳴とどろき、 「霧氷閃!」 下段から振り上げると、雪が舞い、 「聖煌斬!」 八双から斜めに薙ぎはらうと、天からふりそそぐ光の槍が龍に突き去った。 そこに向かって青い龍が口を拡げ、襲いかかる。 「これで最後や!?」 火を吐きながら水龍が赤龍に襲いかかったかと思えば、アヤカシの模した炎を敵もまたはき出す。しかし、炎に引き寄せられ、やがて蛾が炎に焼かれるように蛾にも似た紅葉の化け物もやがて火にかき消されてしまう。やがて二体はからみあい、水龍がアヤカシの喉元に食らいつく。赤い龍もまた青い龍に噛みついた。二匹の蛇が、たがいを喰らうかのように、その二体の赤と青がまざり、とけあい、やがて空へと向かって昇竜していく。 最後に開拓者の手で一本の矢が放たれた。 矢先が触れた瞬間、その巨大な青赤の球体ははじけ、花火のように散り、紅葉はかき消えた。 「我に断てぬものなし!」」 驟雨の中に藤吉は仁王立ちをするのであった。 ひとときの静寂、そして、万雷の拍手、喝采、そして大歓声。 「男前な上に、やる事が粋ってのは、ありゃ、反則だな」 くつくつと笑い、やがて南風もまた大笑しながら手を叩き、その戦いを褒め称えた。見事に舞った龍に称賛を惜しむ必要はない。 「さてと――」 モハメドが笛を吹き、余興がはじまる。 観客席の中で動きがあった。 「お触りは駄目ですの」 ご相伴していた酔っぱらいをいなし十は南風を追う。 「酒は大丈夫かい?」 「酔精の宿った水がどうしたのですの?」 「なら、いい。いいか、僕がアッチ、君がアッチ。早く倒した方が、美人の酌を貰える‥‥と言いたいところだけど君に酌をして貰えばいいな」 「なにを言っているんですの?」 口ぶりこそわからぬ風だが、襟元を直すように衣装に駆けられた指先は、懐の銃を確認する。 「やれやれ、冬の使者様がお越しだ」 魔術師の呼んだ雪が、まだ残っていたようだ。 森のそばにくる。 「ある人物に、こう言われてな――『紅葉言うたら、普通は木に生えてるアルが、この紅葉アヤカシが飛んで来る先にも、木の姿のアヤカシが居たりするアルかな? 名物になってるようアルし、今のところ危険も無いみたいアルが、念の為に確認はしておくのが良いと思うのコト』ってな。それで注意を払っていたんだが、おい、あれ!」 ひとつの影がある。 「こんなところに‥‥隊長さん?」 その鎧は見覚えがあるものであったし、催しの前に本人とも会い、きょうの件で打ち合わせもしている。近づき、手をとると、もはやその体はすでに冷たかった。 ふたりの獣人は、たがい顔を見合わせ、うなずくと、あたりに宙を払った。 その時、まるで操り人形の糸をひっぱったように、突然、隊長が立ち上がった。 「生き返った?」 「でも‥‥」 そんな声に応じることなく、双眸に死者の色を浮かべ、かつては隊長であった「物」は、その場を去るのであった。 |