小村の美女コンテスト
マスター名:まこと
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/29 05:43



■オープニング本文

 農業が盛んな村で、若い男たちが協議を重ねていた。
「大会の締めはやっぱ美女だろ! 美女!!」
 近郊の都市に農作物を販売し、そこそこに潤っている村である。
 しかし、議題は近年減り続けている村の人口についてだった。
「だよな〜〜!!! 大食い大会に料理上手競技に苗の早植え競争、男前投票に美女投票! 村で作った作物を大盤振る舞いして屋台を何種類か出せば完璧だよな!!」
 農作物の出来は天候や害獣におおいに左右される。
 100を植えて100や120実れば良いが、70や50、運が悪いと0なんてこともありえる。
 そこで、農閑期には出稼ぎに近くの街へ行く家が多いのだが、そのまま帰ってこなくなる者が増えてきた。
 自分ではどうすることもできない不安定な生活から抜け出すために、農繁期でも積極的に街へ行く者もいる。
「美女かぁ、いいなぁ。って、ところで美女って集まるのか?」
 何とか村の知名度を上げたいと有志が集まって考え抜いた策は、一風変わった祭の開催だった。
「村長の孫娘さん姉妹とかは?」
 先程まで、美女ひゃっほーと大盛り上がりを見せていたのが嘘のように渋い顔になる男達。
 さもありなん。この村には適齢期の未婚の女性が殆どいなかった。
「いやー、さすがに5歳と3歳じゃ美女は駄目だろ。お手伝い競争ならいいかもしれんが」
 農業は重労働である。疲れても誰も替わりはおらず休めない。自然豊かといえば聞こえはいいが、多種の虫や鳥、獣との戦いの連続。老いても作業内容は変わらず、言うことを聞かない体に鞭打つ日々。
 自分たちのような苦労はさせたくないと後継ぎとは関係のない子は、こぞって街に行儀見習いに出す家が多いのも無理からぬことだろう。
 もちろん自主的に残っていたり、跡目になる可能性の高い者は村にいるが、女性かつ未婚となると片手の指が余る程の人数しかいない。
「旦那がいても出ればいいと思うけど、爺婆様達が許しませんよね、わかります」
 この地方では、容姿を競い合うこと自体が、余り良いことではないと思われている。
 もちろん若い者は男女問わずお洒落をしたいし、はっきり言ってモテたい。
 そういう若者達が、喜んで投票しようと村に足を伸ばすことを目的にしているのだが、さりとて人生の先輩達をないがしろにするわけにもいかない。
「美女投票って絶対に目玉になるから何とか開催したいんだけどなぁ」
 内密に各競技への打診を行っているのだが、美女投票だけは誰からも色よい返事が貰えそうにない。
「よし、いっそのことお金で解決しよう」
 八方塞がりになった男達が考えついたのは開拓者ギルドへの依頼だった。
 駄目で元々と開き直って出した依頼は、拍子抜けする程すんなり審査を通ってしまった。

 受ける女性開拓者が集まるかは、天のみぞ知るである。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
御鏡 雫(ib3793
25歳・女・サ
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔


■リプレイ本文

●祭の数日前
 別々の日程で3人の女性が小村を訪れていた。

 最も早く村に着き、そのまま滞在していたのは雁久良 霧依(ib9706)だ。
 彼女は、村の古老や社守に村の伝統の舞いや神楽歌を学びたいと真摯に願い出ていた。
 当初はその容姿も相まって胡散臭い目で見ていた古老達であったが、雁久良の真剣な姿勢と吸収の速さ、そして今回の祭に対する思いに胸打たれ、いつしか惜しみなく神楽を伝授していた。

 薬膳の食材を育て村の収益を安定させる案を基に、薬膳材料の栽培に関する策を持って村に姿を現した御鏡 雫(ib3793)は、村を囲む手つかずの山と村の食風景を見てあることに気づいた。
「…これは一財産じゃないか。草案を用意する必要なんてなかったねぇ」
 泰では先を競って収穫される物が放置されていることに軽い驚きを感じながらも、その緑の瞳は楽しげに燦いていた。

 明王院 未楡(ib0349)が薔薇石鹸を手に村を訪れたのは祭り開催の3日前である。
 まず明王院は、村おこし運営会に対して運営への提案を行った。
「コンテストを開催する趣旨が、村の知名度アップと集客と言う事ですし…お祭り自体にも寄与する形で、コンテストを盛り上げては如何でしょう? 舞台上の一寸した挨拶程度で投票ですと『容姿を競う事』へ抵抗を覚える方が多い中では好ましくないですし、祭りの趣旨を尊重して候補者には、お祭りに寄与する行動をお願いし、そこで見せる働く姿や生き様、それらを含めて『あなたが好ましいと思う女性の姿』を示す方への投票…としたら、容姿を競うのは一寸と投票を躊躇って居た方々も、快く投票を楽しんで頂けるのではないでしょうか? それに…、そう言う試みとなれば、村の働き者の女性の方々も、参加してみようって思って頂けるかもしれませんしね」
 運営会は、明王院の提案に刺激されて可能な限り祭りの見直しと来年度への修正案の発議に追われた。
 さらに、明王院は各戸を周り野良仕事をしながらでも無理のない肌の手入れや、祭り当日の薄化粧の道具を差し入れていった。これは水仕事の多い女性達の間で大変好ましく受け取られた。

 新しい祭りが開催されると聞き、正直面倒だと思っていた村の女達だったが、薔薇石鹸や化粧道具、神楽の音色に楽しげな考え等を引っさげて訪れる開拓者にと、いつの間にか気分が高揚してゆくのだった。

●祭当日
 村おこし運営会が考えていた来客数は100人。欲を言えば200人くらい来て欲しいというものであった。ところが蓋を開けてみれば深夜組を含めて早い段階で来客が1000人を超え、あちこちで問題が発生し始める。顕著なのは食料と厠、それに迷子だった。
 こんなに人が集まってしまったのは、勿論、本日のメインイベントである美女投票のせいだ。
 開拓者なら誰でも見ることができる通常の依頼という形式で美女投票は開示されていた。
 さらにはその依頼が成立したとあっては、依頼を受けていない他の開拓者も気になるのは無理からぬことである。気になったなら話題の一つにものぼる。
 酒場でそんな話が出れば耳聡い者が食いつくのは如何ともし難く、ましてや普段、開拓者を近くで見ることができない一般民が目の色を変えて飛びつくのも頷ける。
 子供のなりたい職業の上位に必ず入る開拓者。その憧れの存在がアヤカシの危険なく好きなだけ見ることができるのだ。一般市民にとって逃す手はない。
 こうして好奇心を刺激された多くの一般民と野次馬の開拓者達によって、田舎の農道は足の踏み場もないほど賑やかな通りへと変貌したのだった。

「誰か一緒にうちの畑の野菜抜きに!」
 野菜を洗い終えた村人の声に反応したのはカルフ(ib9316)だった。
「私もお手伝いします」
 村人とは明らかに違う聞き覚えのない声に数人が振り返る。
「そりゃありがてえがあんたお客さんじゃ?」
 戸惑いながら述べられた言葉に、カルフは笑顔で持参した道具を披露する。
「少しでも皆様の日々の作業を軽くするために参りました。ご一緒させてください」
 取り出された洗濯用具に掃除道具、農作物を洗う道具に米ぬか、サイカチ、無患子。
「わ、わかった。じゃあ悪いけどお願いするよ。こっちだ」
 続々と出てくる道具に驚きながら村人達はカルフと共に畑へ向かった。
 数分後の彼らには、さらなる驚きが待っていた。

●男前投票
 大食い大会、料理上手競技が終わり、雁久良が準優勝した苗の早植え競争の決着がつく少し前、メイン会場では男前投票が開始された。
 出場者はそれぞれ筋骨隆々の男達だったが、一人だけ毛色の違う者が混じっていた。
 都育ち風のお洒落な雰囲気を醸し出すのは華御院 鬨(ia0351)である。
 他の参加者が力自慢のアピールをする中、女性票を狙った一人芝居で場を盛り上げる。
 さて、困ったのは審査員だ。
 この地域では、男前とは力自慢と同義だと捉えていたのだが、観客が最も湧いていたのは華御院の芝居だった。
 苦渋の策で、急遽観客の拍手の大きさで優勝を決めることになり、華御院と最も力持ちだった男が同着で第一回の男前投票優勝者に輝いたのであった。

●美女投票
「本日最後の競技になります美女投票を開始致します!」
 観客の割れんばかりの拍手と共に5人の開拓者が壇上に上がった。

 天女の様な羽衣と艶かしい雰囲気の黒布を纏った姿の華御院。
 屋台を手伝っていたときの割烹着を脱ぎ巫女装束姿になったのは明王院。
 胸から背中にかけて豪華な麒麟の錦糸刺繍の施された旗袍を着こなし、谷間をブルードロップで強調させ、仕上げにハイヒールを履きスリットを際立たせるのは御鏡。
 この村で暮らす普通の女性の衣類を借用し、自然体で着こなしているのはカルフ。
 脇の部分が完全に開いている改造巫女服に緩くさらしを巻くのは雁久良。

「それでは5人の皆さんには、自己紹介と自慢の技を披露して頂きたいと思います!」
 喝采を受けて一番手の華御院が舞台の中央に進み出た。
「皆はん、華御院鬨と申しやす。しがない役者どすが、宜しゅうお願いしやす」
 男前投票の直後であり名前と顔に覚えがある観客はざわめいたが、華御院は素知らぬ顔で礼儀正しく、嫋やかで清楚な雰囲気で挨拶する。
「折角やし、一つ舞わせていただきやす」
 困惑顔の観客に有無を言わせぬ微笑みで舞い始める華御院。
 その舞は、歌舞伎舞踏の一つであったが改作が加えられていた。
 横踏と紅焔桜で素早いステップを行い、精霊魔法の込められた黒夜布レイラが桜色の燐光を纏うと、動くごとに風に揺らぐ枝垂桜のような閃きが散り乱れる。
 白梅香が知覚に作用し、白く澄んだ気を纏わせ、まるで梅の香りが匂ってくるような舞を舞う。
 幻想的な女舞に観客は大いに酔いしれた。
 華御院が最後のターンをきめ、その動きが止まると割れんばかりの喝采が会場に轟いた。

「続いては屋台を手伝って下さいました方です。美味しいお料理をありがとうございます。どうぞ!」
 巫女服になりボンキュボンの抜群のスタイルが顕になった明王院は頬笑みながら言葉を発した。
「小料理兼民宿『縁生樹』の女将をしております、明王院未楡と申します。新鮮な食材を用いて腕を振るう機会を頂きましてありがとうございます。皆様、沢山食べて下さいね」
 気取らず、自然体でただ静かにお辞儀し次に番を譲った明王院に肩透かしを食らった者がいた反面、会場からは熱狂的な拍手が沸き起こった。
 明王院が手伝っていた屋台関係者や祭りの運営委員、それに肌の手入れを指南された村の女達だった。
 特にあかぎれから解放された女達の感謝は、大きな大きな拍手となって会場に響き渡った。

「続きましては、本部医務室にて無償診察をして頂いている方です。宜しくお願いします!」
 朝からの治療の疲れを見せず、御鏡は軽く手を振りながら舞台中央に進んだ。
「医師の御鏡 雫だよ。あたいのPRってのは特にないけど、折角なんで一言失礼するよ。
この村の娘さん達は新鮮食材を節度良く食べ続けてるだけあって健康そのもの。働き者な器量よしばかり」
 そう言うと会場に合図を送る御鏡。即座に運営委員会により観客にパンが配られた。
「それは代表的な薬膳食材の松の実をパン生地に練りこんだ物だよ。松の実パンはこの村の名物で貧血の改善、疲労回復、免疫亢進、そして老化を防ぐ働きがあるのさ。松の実自体は泰のあたりで一般的な食材だね」
 泰で一般的と言われ恐る恐る口にしたパンだったが、いつものパンとは一味違う美味しさに観客は舌鼓をうつ。
 実は今現在、松の実パンはこの村の名産ではない。事前に村に入った御鏡が食用になる立派な松林を見つけて思いついたのが松の実を使った料理だった。
 食用になると説明しても顔を顰めていた村人に手伝ってもらい、手を松脂でベトベトにしながら収穫した松ぼっくりから実を取り出し、調理法を覚えてもらう。
 時間はかかったが、この地方で一般的なパンに練りこむことで普段から摂取することができると考えた。またパンであればある程度保存も効き、街へ売り込むことも可能だ。
「この村の娘さん達は他とは肌艶が全然違う。あたいとしては、素朴さに隠れた美しさに目を向けて欲しいとこだね」
 そう言うと舞台袖に戻って行った御鏡に、観客が暖かい拍手を送った。

「続いての方は、屋台の下ごしらえ班を手伝って下さいました。どうぞ〜!」
 この村の日常の衣類を着用したエルフの女性は、多少長い耳に髪をかけると口を開いた。
「私の名はカルフと申します。特技は主に魔法ですが、魔法も併用した農作業や日々の家事のお手伝いが可能です。本当かどうかはこれからお見せします」
 舞台下から大量の泥つきの野菜と汚れた野良着、さらに少量の水が持ち込まれる。何事が始まるのかと食い入るように見つめる観客の前でカルフは野菜の泥を落とし始めた。
 瞬く間に水が汚れていくが、その度にカルフが唱えたキュアウォーターで綺麗な水に戻っていく。さらに洗浄が終わり、生で食べられる野菜はフローズで冷やした水に浮かべられる。
 同じ要領で、野良着を洗った汚れた水は、キュアウォーターで無駄にせず使う。
 最初の少量の水だけで、全ての洗い物が終わったことに驚愕する観客。
 先程一緒に野菜を洗う作業をしていた村人も、汚れた野良着が新品のようになるのを見て改めて驚いている。
「こういうこともできる、という事を皆様にお伝えするのが参加した目的です」
 ぺこりと頭を下げるカルフに満場の拍手が起こった。

「最後となりました。この祭りに先立ち、当村の古老より神楽を伝授された方です。お願いします!」
 入念に身支度を整えた雁久良が笑顔で舞台中央へと歩む。
「巫女見習の雁久良霧依よ♪ 特技は…やっぱコレかしら♪ よろしくね〜♪」
 そう言うと扇と神楽鈴を構え、巨乳を揺らしつつ一回転する。
 野太い歓声が上がる中、伝統の調べにのせ優雅に舞を舞う雁久良。
 途中、神楽歌も披露するとその懐かしさに涙する村人もいた。
「普段は村を離れていても、祭りの時だけは必ず村に帰り伝統の歌や踊りで一体となり、帰属意識と明日への活力を得る…そんなお祭りにしていけたらいいわね」
 そうしていたずらっぽく笑うと、雁久良は激しい動きのある舞を披露した。
 今までの舞とは打って変わった型破りの舞に仰天する観客。
「外見を磨く事は、結局のところ心身を練磨する事に繋がります。内側も磨かなければ、魅力的には見えませんもの」
 舞い終え、弾む息でそう告げると雁久良は笑顔で話を結んだ。

「以上で終了になります。投票の間、しばしお待ちください!」
 和やかに終了するかと思われた美女投票だったが、時間が経つにつれ会場のあちこちで喧嘩が起こっていた。男前投票と違い、観客の収まりはつきそうになかった。贔屓の出場者を勝たせんと殴り合いに発展しかける者もいる。
 慌てて舞台に上がった運営委員は額に汗をかきながら、決定した事項を大声で観客に叫んだ。
「今年は運営として祭り自体に不手際が多く、折角ご足労頂いたお客さんの皆さんに申し訳なかったです。美女投票に関しましてですが、ご承知のように全員開拓者ギルドの依頼を受けてくださった開拓者さんです。今年度は順位は無しで! 順位つけるの申し訳ないです!」
 意外な話に腹の虫が収まらない観客もいたが、舞台上からの美女達の直接の目配せに、罵声は尻すぼみに消えていった。
「本当に祭りに参加して頂いて嬉しいです。皆さん神様です!」
 こうして美女投票はあえて決着をつけずに参加者全員が優勝となった。
 副賞の金一封が運営委員会の手により開拓者に渡される。

「男なのにこないな評価をもろうて、修行の成果がでている証拠どす」
 華御院はしれっとした態度で爆弾発言をしたが、なぜか会場は笑いの渦に包まれた。
「わっはっはっは。すげえな舞だけじゃなく冗談も一流だよ」
「さっきの男前投票、まんまと騙されたぜ!」
「いよっ! 名演技!!」
 人は信じたいものを信じる。
 特に否定も肯定もせずに、華御院は男装の女神として副賞を受け取った。

 村おこし運営会に対する提案が大いに評価され、叡智の女神として副賞を受け取った明王院は、夫持ちという事実を披露したことで、落涙する観客が後を絶たなかった。

 薬膳材料の発見と当日の無料診療所から医薬の女神として表彰された御鏡は、感謝する村人に医師として出来る事をしただけと言い、治療費を請求せぬまま村を後にした。

 魔法の意外な使い道や利便性を伝えたカルフは魔術の女神として高く評価された。彼女の技を聞いた街の魔術師の協力で人々の日々の作業は軽くなり生活に余裕が生まれた。

 神楽の女神として報償を授与された雁久良は、趣味である伝承や伝統文化の調査を終えてから帰っていった。村の幼い子供が大変懐いており涙、涙の別れであったという。

 多数の人を集めた小村の祭りは、何とか終りを迎え、村人達は自分の村への自信と愛着を深めた。
 街から村へ移住しようとする者もいるらしく、早速祭りの効果が出ているようだ。
 開拓者ギルドに足向けて寝られねえなとは村の古老の言葉である。

 こうしてギルドの依頼は大成功を収め、5人の開拓者達の勇姿は人々の記憶に長く残ることとなった。