猫を探せ!
マスター名:まこと
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/01 00:09



■オープニング本文

 開拓者ギルドの各部屋にて、依頼調役と受付職員とのミーティングが行われている。
 よくある風景のはずだが、一室だけ進行に問題がでている部屋があった。
「新しい依頼は、猫を見つけ出し所定の位置に返す仕事になります」
 依頼調役の淡々とした説明に首をかしげる受付職員。
 思わず単純な疑問が口からそのまま出てしまう。
「猫ですか? 耳があって尻尾がある猫ですか?」
「そうです」
 予測済みの質問だったのであろう。依頼調役の返答はあっさりとしたものだった。
 それでも現状が理解できないのかしたくないのか、受付職員は矢継ぎ早に質問を重ねる。
「アヤカシのオヴィンニクや化け猫じゃなくて?」
「普通の猫です」
「さわり心地がよくて丸くなって目がひか」
「くどいです」
 言葉を途中で遮られた受付職員の耳がしゅんと垂れてしまったが、依頼調役は素っ気なく調書を読み上げてゆく。

 それによると、さるやんごとなき令嬢が大事にしている猫が所定の部屋から逃げてしまったらしい。
 令嬢の私室から出ていないのは確実なのだが、部屋が広すぎて探索しきれず、依然12匹が行方不明のままだという。
 そんな依頼されても・・・・と絶句したのは受付職員である。
 上層部としては少しでも開拓者ギルドの知名度を上げるべく、持てる力を存分に使ってスマートに依頼を完遂して欲しいとの事である。以上。


■参加者一覧
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
澤口 凪(ib8083
13歳・女・砲
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文

●現地集合
 豪邸という言葉がよく似合う屋敷の中で、開拓者4人が挨拶を交わしていた。
 彼らは普段の物々しい装備とは違い、軽装に身を包んでいる。
 逃げ出した飼い猫を少しでも驚かさないようにとの配慮であった。
「吟遊詩人の中書令と申します。よろしくお願いします」
 丁寧な 物腰で挨拶をしたのは中書令(ib9408)である。
 今回の捜索では紅一点の逆、つまり、彼のみ男性である。
「砲術士の澤口ってぇもんです、よろしくどうぞー」
 澤口 凪(ib8083)が手を挙げながら明るく挨拶した。
 人懐っこくどことなく小動物じみた印象を与える少女だ。
「巴 渓だ。お前らラッキーだぞ〜。なんせ年がら年中、完全武装で生活してるからな。こんな女みてえな俺の恰好は、かなり稀だぜ? あー体が軽い!!」
 体に旗袍を纏い伊達眼鏡をかけた巴 渓(ia1334)は、屈託のない笑顔で他の面子に話しかけている。
 とても歴戦の泰拳士とは思えない見事な着こなしだ。
 浪士組の件を知る者がいればそのあまりの変わりように驚愕していただろう。
「巫女の神座早紀と申します。どうぞよろしくお願いしますね」
 控えめに微笑みながら神座早紀(ib6735)がぺこりと会釈した。

 侍女の説明によると令嬢の私室は、手の甲を上にした(爪が見えている状態の)左手の配置に近いらしい。
 手の平が猫の間、親指がリビング、人差し指が寝室、中指に相当する部屋は無く、薬指が衣装部屋、小指が趣味の間になっている。
 現在地は腕の部分にあたる令嬢専属侍女控えの間だ。
 私室の5部屋に扉はなく、代わりに侍女控えの間の出入り口が2重扉になっており、猫が逃げた場合の脱走対策となっているそうだ。

 猫の間には全部で14匹の猫がおり、依頼前に何とか捕まえて猫の間に戻したのが2匹、餌を食べに現れるが捕まえられない猫が7匹、所在不明が5匹。
 今回の依頼は、猫の間の2匹以外の12匹を保護することである。

●捜索の前に
「糠秋刀魚とエビフライの匂いで誘き出すからどっかで調理させてくれないか」
 巴の言葉に侍女の1人がしずしずと進み出た。
「お嬢様の寝室や我々の控えの間に簡単な調理場があるのですが、魚ですと少し匂いが残りますので厨房をご使用下さい。ご案内致します」
 そのまま巴と神座は調理のために侍女控えの間から退出していく。
 残った二人は唯一の出入り口である現在地で隙間がないかチェックを行っていた。
「猫達の普段の食事を用意願えますか」
 中書令の言葉に数人の侍女がそろそろと退出していく。
「ここの侍女さんは何てぇか・・・・・・上品な方が多いねぇ」
 おっとり、ゆっくり、遅いをあえて上品と言い換えて澤口が独り言のように呟いた。
 中書令が無言で頷く。
 飼い猫とはいえ、その速さは普通の人間の比ではない。あの侍女達では2匹捕まえただけでも上等といえよう。
 ギルドに依頼が回って来るわけだと誰にともなく考えていると、用意ができたらしい巴と神座が食欲をそそる匂いと共に戻ってきた。
 案内された大きな厨房の片隅で、二人が鮮やかに料理を作るのを少し離れたところから屋敷専属の料理人達が熱い視線を込めて見守っていたのは余談である。
 巴が持参した七輪に炭を入れ糠秋刀魚を焼き始めると「おお〜!!」と、神座が愛用の調理器具でエビフライを揚げると「うおお〜!」と歓声があがり、やり辛いと思ったのも余談である。

●捕獲開始
「さぁて、いっちょやりやすか!」
 澤口の言葉に頷く面々。
 侍女控えの間の扉を開けて閉めるとそこに数人が並べるだけの空間があった。その先の透明な扉が令嬢の私室に繋がっている。
「私の妹も猫好きですけど、流石にお金持ちはスケールが違いますね」
 透明な扉の先にある猫の間は3階をぶち抜いた吹き抜けになっていた。
 猫の間以外は通常の1階より少し高いが吹き抜けではないようだ。
「どの部屋からもいつでも猫が見れるってか」
 吹き抜けの中心に巨大で豪奢な檻があり、中には自然を模した猫達の為の生活空間がある。
 中心に鎮座する大きな木を模したモニュメントに2匹の猫が鎮座し、見知らぬ開拓者達を注視していた。
 広さに唖然とする神座の間近でニャーという猫なで声が聞こえる。
 匂いに釣られて駆けてきた3匹の猫が扉の前でしっぽを立てて待ち構えている。ニャーニャーいいながら扉をペシペシ叩いている姿は大変愛らしい。
「熱烈なお出迎えだな。ここからは臨機応変にいくぜ!」
 侍女がゆっくりと扉を開けた瞬間、前方と足元から巴の持つ糠秋刀魚目掛けて猫が飛びかかってきた。
 背拳と運足を併用した巴は、すっと体をひねり2匹を同時にかわしつつ空いた手で1匹を確保する。もう一匹は中書令の手の中でジタバタしていた。
 3匹目は、エビフライを目の前にしてあえなく澤口に捕獲される。
 あまりの早業に口を開けたまま固まっている侍女を促し、3匹を猫の間に戻す。
 その間にも 神座のひらめく巫女服に誘われたまだ幼い猫が、袴の紐へ果敢に猫パンチを繰り出していた。
 当然そのまま神座に捕獲され、大人しく猫の間へ連行されていく。
 侍女達があたふたと猫の間に普段の食事を持っていくのを横目に見つつ中書令が口笛・小鳥の囀りを使った。
 それに合わせて神座が羽扇で料理を扇ぎ、匂いを撒き散らす。
 堪えられずふらふらと集まってくる3匹の猫を他の面子が苦もなく捕獲した。
「ちょいと部屋が香ばしくなったな。後で換気しといてくれ」
 泰国の猫人間が夢中になった糠秋刀魚は普通の猫にも効果があったようだ。
「これで残りは5匹ですね」
 侍女曰く、捕獲した7匹はちょこちょこ餌だけ食べに来るが、捕まえられなかった猫であるという。健康状態も良好だ。
「二日も出てこねぇってぇなると変な所にいるんかもしれませんねぇ・・・・」
 澤口の提案で彼女は猫の間の入り口を見張ることになった。
 餌と水の準備でバタバタと出入りしている侍女達の隙を突いてまた脱走されないようにとの気配りである。
「各部屋の探索に移りましょう」

●リビングルーム
 リビングルームに向かうと中書令が超越聴覚を駆使して猫らしき声や足音などを探す。
「この部屋には上の方に1匹・・・・あそこですね」
 中書令が指差す先は人の背丈より高い位置にあるレリーフだった。
 大層風格のある人物像の腰のあたりから、しっぽらしきモノが生えていた。
 頭隠して尻尾隠さずである。
「さて、どうやって捕まえるか」
 巴は思案する言葉と同時に、膝を少し曲げて垂直に跳ぶと猫を捕まえた。
 己の胸辺りまで跳躍していたが、それ以上に滞空時間が長い。
「おまえ案外簡単に捕まったなぁ」
 巴は侍女に猫を渡しながら耳のあたりをぐしゃぐしゃと撫でた。
 大人しい猫は目を細めて気持ちよさそうに連れられていった。
「実は降りたかったのでしょうか?」
 神座が小首を傾げて問う。
「登ったはいいが降りれなくなっていたのかもしれませんね」
 そう言うと中書令は微笑みながらリビングルームを後にした。

●寝室
 超越聴覚を使い続ける中書令だが、にわかに小鳥の囀りを併用した。
 紫の瞳が僅かに曇る。
「寝室内にはいないようです」
 念のため、目視で寝室をくまなく探す。
 ベットの下、簡易調理室、付属の浴室にトイレ。
 調理室の通気口が一部剥がれていたので侍女に伝える。
 どうやら自然と外れてしまっていたようだ。
 淡いピンクで統一された部屋に、やはり猫はいなかった。

●衣裳部屋
 人が数十人は住めそうな部屋に、ところ狭しと衣服と靴が飾られている。
 箪笥には下着と肌着類が入っているらしく開けないようにとのことである。
「・・・・息遣いが弱くて下の方としか」
 超越聴覚を使う中書令の言葉に衰弱という不吉な単語が頭をよぎる。
 衣服に男性が手を触れるのは不味かろうと考慮し、ここで中書令と澤口が交代した。
 澤口は下の方の狭い隙間や、妙にできた空間がないかつぶさに確認する。
 隙間や空間に猫がいないのを確認後、3人は型崩れしないように吊るされた衣服の森の中を端から捲り、スカートやフリルの影まで確認する。
「似たような服が多すぎだろ」
 巴の愚痴に苦笑する澤口と神座。
 早く見つけようと一心不乱に衣服の間を探し回るがやはり見つからない。
 手の空いた侍女も参加し、日が随分動いた頃、澤口が小さな声をあげた。
「・・・・・・・・こんなところにいやがった」
 下の方を探していた彼女は靴を一足持っている。
 そこにはお腹を出してバンザイの姿勢になっている幼猫がすやすやと眠っていた。

●趣味の間
 中書令が超越聴覚を使うまでもなく1匹が見つかった。
 しっぽをゆらせながらトコトコ歩いていた。
 だが、目が合うや猛然と奥の方へと逃げていく。
 巴、神座、中書令が追うと、そこには本物と見まがうぬいぐるみの猫・猫・猫。
 猫はぬいぐるみが大量に置いてある一角に潜り込んでしまったようだ。
「もう1匹あちらの方から気配がします」
 猫をモチーフにした鞄が置いてある一角を指差す中書令。
 だが、そこに猫はいない。
 ぬいぐるみゾーンは中書令と巴、鞄の方は神座と澤口で分担して捜索することになった。

 高価なぬいぐるみもあると侍女に言われ、げんなりしながら乱雑に置かれたぬいぐるみを一体ずつ避けていく。
 侍女達も手伝ってくれてはいるが当分かかりそうだ。

 一方、手当たり次第に鞄を退かす澤口の横で、しばし考え込む神座。
 すると何かを思いついたのか、やおら1つの鞄を触りだした。
 途端に「ウウーッ!」という威嚇音が聞こえる。
「よくおわかりになりやしたね」
「同じ鞄を持っているのですが、この鞄ってなぜか猫が入り込むんですよね」
 隙間から見えた猫の目は目やにで塞がりあまり見えていないようだ。
「具合が悪そうですね」
 神座と猫の周りを爽やかな風が包む。神風恩寵の力だ。
 唸るのをやめた猫は、鞄ごと猫の間に輸送された。

 他方、ぬいぐるみゾーンでは巴が脱力してへたり込んでいた。
「どうされましたか?」
 侍女の腕の中に先程逃げた猫がいた。
「いえ、その猫が、私達が探していた反対側から出て、自ら侍女殿の腕の中に入っていっただけです」
 巴はへたり込んだままジト目で猫を見るが、くつろいでゴロゴロ言うだけである。
 全くどこ吹く風だ。

「ところで、全部回ったが1匹足りなくないか?」
 へたり込んだまま指折り数えて巴が言う。
「実は寝室に妙な手ごたえがあったのですが・・・・」
 中書令の一言でさっと寝室に向かう開拓者達。
 先程つぶさに探した筈だがいったいどこにいたというのだろうか。

●寝室再び
 今までついてきた侍女達が、年配の1人を残して寝室にこなかった。
「こちらの調理場の壁の向こうに猫らしき反応があるのですが、壁の中ですので先程は除外しました」
 中書令の言う壁の向こうは、配置でいえば左手の中指の位置だった。たしかに庭になっており、部屋はない。
「あなた1人ってことは壁の中は秘密の通路かナニかかい?」
 澤口の指摘におもむろに頷く侍女。言われてみれば室内と外との間の壁が通常より幾ばくか厚い。
「少し手こずりそうな予感がしますので4人で参りませんか」
 中書令の言葉に首を捻りながらも追従する3人。
 先導する侍女が浴室に入り、レリーフをあちこち触ると壁面が音もなく開いた。
「ここを進めば調理場の裏に着きます。勝手に閉まる仕組みになっておりますので、わたくしは扉を押さえております。どうぞお行き下さい」
 ぽっかりと空いた通路は、どこからか明かりが入っているだろう、埃っぽいが暗くはなかった。
 道なりにしばらく進むと中書令が口を開いた。
「やはり・・・・3匹ですね」
 1匹は大きな白と茶色の猫だった。
 残り2匹はとても小さく白と黒のブチ模様が愛らしい。産まれたばかりの小さな小さな子猫だった。
 警戒をあらわにする親猫に白猫の面を被った神座がそっと近づき捕獲する。
 巴、中書令が子猫を捕獲し、澤口が持参した布で包む。
「最近来た猫です。あまり動かないとは思っておりましたが妊娠していたとは」
 戻ってきた開拓者達の手元を見て驚く年配の侍女は、他の侍女を呼び寄せると猫医者の手配に追われた。

●猫の間にて
「何と言うか、壮観ですね」
 猫の間の中心に位置する巨木を模したオブジェに猫達が鈴なりになっているのを見つつ、神座が苦笑交じりにぽつりと呟いた。
 やっと落ち着きを取り戻した猫達は思い思いに毛づくろいに励んでいる。
「あ、そうだ。またいなくならないように鳴り物つけてあげちゃどうでしょう? お洒落にもなるしねぇー」
 澤口の言葉に同意する侍女達。
 実は鈴付きの首輪はもうあつらえてあるという。
 何故つけないのかと尋ねる開拓者達に、侍女達から笑顔つきのお願いが放たれた。



「嫌がる猫に首輪は、たしかに難しいですね」
 こうして捕獲作戦の第二の幕があがるのだった。