乳神さまを探して
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/27 22:42



■オープニング本文

 乳神。

 いつ頃からかは明確にはわからないが、この村で古くから祀られている神様である。
 小さな社には女性の姿をしたご神体が安置され、ここへ来る者は胸のことで悩む夫婦であったり乳の出に困る若い母親であったりと様々だった。

「村長ー!村長ーっ!!」
 昼時が終わり、村長が縁側でお茶を啜りながら日光浴をしていると、向かいの道から村の若者が血相を変えて走ってくるのが見えた。
「これこれ、そんなに走ると転んでしまうぞ」
 案の定躓いてよろめく若者だったが、そんなことなどお構いなしに口を開く。
「た、大変です、乳神さまの社が!」
「あぁ社か、補強作業も昨日終わったと聞いたが‥‥」
「屋根も扉も周辺に四散しています!」
「何!?」
 村長は危うく取り落としかけた湯のみを盆の上に置き、若者に連れられて乳神の祀られている社へと急ぐ。
 着いてみるとそこには見るも無残な姿になった社があった。
 扉は片方しか残っておらず、屋根はやや離れた場所に砕けて落ち、扉の片割れはその逆方向に落ちている。供えてあったらしい菓子もぼろぼろになって四方に落ちていたが、なぜか大きな塊だけは見当たらなかった。
「なんというお姿に‥‥」
 このまま召されるのではないかというほど震える村長だったが、あることに気づいて更に顔色を悪くした。
「ご神体は、どうしたんじゃ?」
「えっ‥‥。あっ!ありません!」
 村長の呟きを聞いて若者が確認に走り、そして村長と同じように青い顔をして叫ぶように言った。

 面白い名前の神を祀っていると稀に余所者から言われることがあったが、乳神はこの村に溶け込んでおり、村人にとってはあって当たり前の存在であった。と同時に大切にもされており、その大切な乳神の社が壊れご神体が無くなったというニュースは瞬く間に村中に広がった。
 広がればそれなりに情報は集まってくるもので、社破壊の犯人は翌日には見つかったのだが、村長の顔色は優れない。
 それというのも犯人は見つかってもご神体が見つかっていないからである。
 犯人は村長の前で正座させられ、母と父の両方からゲンコツをもらって涙目になっている少年少女の四人。
「みんなで玉遊びをしてたら社に当たっちゃったんだ‥‥」
「ひ、必殺技が出来たからみんなに見せたくて」
 必殺技といっても力一杯、指先が赤くなるほど強く蹴るだけらしい。
「社が壊れてご神体も飛び出しちゃって、早く元に戻さなくっちゃと思ったんだよ」
「でも、でも野犬が沢山来てさ、怖くなってみんなで逃げ帰っちゃった‥‥」
 供え物の匂いにつられて来たのだろう。砕けた菓子と共に落ちたご神体は、その野犬が咥えてそのまま山中に入ってしまったのだという。
 ごめんなさい!‥‥そう声を合わせ、子供たちはわんわんと泣きながら謝った。


「‥‥そのご神体を山の中から見つけてきてほしい、ということですね?」
「そうですじゃ」
 ギルドの受付を前に、俯いた村長が首を縦に振る。
 あの後村の衆で野犬を追い払い山中を探したが、どこへ行ったのかご神体は見つからず、また破片などの類も見当たらなかったらしい。
「わかりました。しかし乳神‥‥とは珍しいですね」
「わしらは慣れておりますが、そう映りますか‥‥。ちなみに乳神さまは大層薄い胸をした女神だそうですじゃ、ご神体もその姿をしとります」
「胸の、薄い?」
 つまり――貧乳。
「乳神さまは自らがそういったお姿をされておるので、同じように胸のことで悩む者を哀れみご加護をくださるのです」
「な、なるほど。つまり同じ‥‥その、薄い胸の者もお参りに行けば立派になる、と」
 受付の女性は視線を下に向け、平たいそれを見てからパッと視線を外して聞く。
 村長は首を傾げながらも最初のように頷いた。
 きっと、実際にそういった効果がある訳ではないのだろう。しかしそれでもくすぐられるのが女心というものである。
「‥‥同じ悩みの開拓者が居たら、是非とも受けてほしい依頼になりそうですね」
 無事に解決したら、こっそりと休日に訪れてみよう。
 そんなことを思いながら、受付の女性は受理の判をタンッと捺した。


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
御神楽・月(ia0627
24歳・女・巫
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
橘 琉架(ia2058
25歳・女・志
水津(ia2177
17歳・女・ジ
九条 乙女(ia6990
12歳・男・志


■リプレイ本文

●村長の願い
「お願いしますじゃ。どうか乳神さまを見つけてくだされ‥‥!」
 村長がぷるぷるとした動作で頭を下げる。
「頑張らねばなりませんな」
「早くしないとバチ当たりそうねえ」
 村長の様子を見て九条 乙女(ia6990)はそう言い、橘 琉架(ia2058)はご神体の行方を案じて呟く。
 これから探しに入るのは村を出てすぐのところにある、山。
 そんなに高くも広くもない山だが、方角によって景色のガラリと変わる特異な山である。
「見つかると良いのですが‥‥」
 山へと向かう途中、乙女は不安げにそうこぼし、
「‥‥それと、私の場違いさも困ったものですな‥‥」
 更にそう呟いた。
 参加者の女性率は一種の異様ささえ感じるくらいである。


●山へ向かう道
 剣桜花(ia1851)は巨乳である。
 ギルドの受付の女性が彼女を見て目を疑ったように、ここに居る皆が持っていないものを持っていた。
「はぁ、服がきついですね。でもこれ以上紐を緩めたらちく‥‥こほん‥‥見えてしまいますものねぇ」
「ぶはぁッ」
「ああっ!乙女君が大量の鼻血をっ‥‥!」
 桜花が水津(ia2177)に向かってこれ見よがしに胸を揺らせてみせたが、乙女がその余波を受けて鼻から鮮血を迸らせる。驚いた陽月(ia0627)が駆け寄るが、慣れた仕草で「だ、大丈夫です」と言って乙女は布を鼻に押し当てた。
 反論しようとした水津に桜花が哀れみたっぷりの目を向ける。
「いや、何も言わなくていいです‥‥ひんぬーに悩む宿敵殿がこの依頼に参加するのは必然。そのつるつるぺったんでまな板並みの胸が大きくなるのは天儀の理が変わらない限りありえませんが‥‥妄想する自由はあるでしょう」
「す、すぐに乳神さまを見つけて、小さくしてさしあげますよ‥‥」
 水津の目は本気である。
「むきぃ〜!あたしの式で、貴女のその肉を吸い取れたらどれだけ良いか!」
 地団駄を踏んでいるのは川那辺 由愛(ia0068)。
 由愛はこのメンバーの中でも平均に近い大きさではあるが、大きな胸に対する嫉妬心は変わらないらしい。怨念と間違えそうなおどろおどろしい気迫を発している。
 ではそれよりも小さい者はどうだろうか?
「ふっ、お主もやはり小さいこと気にしておったのじゃな」
 更に悔しがっているかと思いきや、胸を張って優越感に浸っていた。
 神町・桜(ia0020)は由愛の友人だ。桜は由愛も自分と同じコンプレックスを持っていると知り、満足しているらしい。
「ふんっ!無い胸張って威張るんじゃないのよ、桜?あたしの方が大きいのは確実なんだから」
「くっ!じゃがそれも今日までじゃ。乳神に祈ればお主程度‥‥っ」
 言いかけ、視界の端で揺れる桜花の胸を無言でジーっと見る。
「‥‥乳神に祈り、あの胸をわし等のものに!」
「‥‥不服だけれど協力してあげるわ」
 こうして乳により二人の意見がぴたりと揃った。

 そこから数歩離れたところで、雲母坂 芽依華(ia0879)が桜花へ近づいて聞く。
「桜花はん、どうやったらそんなに魅力的な乳になるんどすか?」
「どうやったら?」
 んー。と考えること数秒。数十秒。‥‥数分。
 結局「遺伝じゃないですか?」という結果に至るのに数分を要したのだった。


●捜索開始・南
 桜の提案により、ご神体発見の合図は狼煙で行う事になった。山火事が心配だが、消火に気をつけていれば大丈夫だろう。
 芽依華、乙女の二人がご神体を探しに向かった先は山の南。山への入口があり、竹の多く生えている方角だ。
「乙女はんは何でこの依頼を受けはったんどす?」
 土を掘り返す乙女を眺めながら、芽依華が浮かんできた疑問をそのまま問う。
「受けた理由ですか?依頼を見た瞬間に、他人事とは思えなかったから、ですな」
「へえ、何か似た境遇にあったんどすか?」
「そ、それよりも掘るのを手伝ってくださいよ。いつまで経っても終わりませんぞ」
「うちか弱いどすから、箸しか持ったことあらしまへんのや〜」
 協力を求められ、よよよと演技がかった仕草で言う芽依華。反して半眼になる乙女。
「芽依華殿ー‥‥」
「え〜、しょうおへんなあ。‥‥しゃあない、うちも手伝うたるわ」
 しぶしぶといった感じだが手伝ってくれるらしい。ホッとして、乙女は掘るのを再開した。

 しかし順調に掘り進めていった二人だったが、モグラが突然現れて驚いた以外、残念ながら特にこれといって気になるものは見つからなかった。
 残るは北、東、西である。


●川の北
 北の方角には川が流れている。浅いが下流では村人達が生活用水として使っている川だ。
 水は夏には丁度よい温度だったが、今は秋も終わる寒い季節。しかも岩肌がぬめっており、もし転んだら怪我の可能性もある。
 ここへ足を運んだのは、由愛と琉架の二名。
「この川の中に沈んでたら厄介ね‥‥調べてみましょうか」
 と由愛が人魂を放とうとした瞬間、耳に届いたのはバシャーンッ!という盛大な水音だった。
「な、なにしてるの!?」
「落ちてしまったわ‥‥」
 由愛は滑らぬようにと細心の注意を払っていたが、琉架は無用心に水面を覗こうとしてしまったらしい。着物も透けるほど水を吸って寒そうだが、幸い怪我はないようだ。
「さすがにこの時期の川は冷たいわね。まあどうせびしょ濡れだし、このまま川の中を探すわ」
「タフねぇ‥‥じゃあ気を取り直して」
 人魂を解き放ち、視覚をリンクさせて水の中を探す。
 犬の水飲み場になりそうなところを中心に、まさに血眼といった風に岩の隙間まで探した。その集中力たるや獲物を狙う狩猟者の如くだ。
「ふふ、ふふふふ‥‥乳神さまぁ〜何処に居るのかしら?」
「タフね‥‥」
 自分と同じセリフを返されたが、そんな事は気にせずに探し続ける。
 だが日が落ち始め体が冷えてもご神体らしきものは見つからず、結局琉架に止められ――もとい諭され、由愛は捜索を断念したのだった。


●危険な西
 西の方角は村人でも滅多に近づかない場所だ。なぜなら崖があり、他にも急な斜面が多いからである。
 どうやらそのせいで犬を含んだ他の動物もあまり居ないようだが、これ幸いと様々な鳥が住み着いていた。
「これは地道に行くしかないわね」
 ここへ探しに来たのは桜花ただ一人だけだった。
 役立ちそうなスキルも所有していないため、単純に己の感覚を頼りにするしかない。

 ――ギャアギャア! グァグァ!!

 桜花を侵入者と認識したのか、鳥達が鳴いて騒ぎ立てる。
 しかし桜花の大きな胸、そして派手な色合いの衣装を見てか近づいては来ない。
「ふふ、この間に探させてもらいましょうかねぃ」
 斜面を滑り落ちないように移動してゆく。その時、草陰に落ちる白くて固そうなものが視界に入った。
「‥‥なぁんだ」
 これはと思い手に取ってみるも、それは鳥の卵の殻。
 しばらく探し続けたが、どうやらここにもご神体はないようだった。


●東に獣
「犬のことじゃし、どこかに埋めて隠していると思ったのじゃが‥‥さて、どこにあるのやら」
「我々の希望の星とも言うべきお方ですからね、早くお救いしなくては!」
「うむ、念願のために尽力しよう。隠し場所は‥‥隠して時間は経ってないじゃろうし、見ればわからぬかのぉ」
 東には桜、陽月、水津の三人が向かっていた。
 この方角はごつごつとした岩が多いが、紅葉した木々の美しい場所だ。仕事でなければ弁当を広げて紅葉を眺めたいくらいだった。
 そう思っていたのは桜もらしい。
「しかし中々綺麗な紅葉じゃのぉ。依頼でなければゆっくり見ておくのじゃが」
「また来れば良いですよ、無事に見つかればいつでも参拝出来るわけですから‥‥」
 水津の言葉に「おおそうじゃ」と手をぽんっと打つ。
「この陽月、全身全霊を乳神さまとやらの捜索にお捧げします!乳神さまぁ、乳神さまぁ、いずこでいらっしゃいますかー?」
 普段の彼女からは想像できぬほど一心不乱に探すのは陽月だった。
 ほっそりとした体つきの陽月は胸のため、というよりも太るためにこの依頼を受けたらしい。胸はいわば脂肪の塊であるのだから、無事見つけ出して祈れば女性らしいふくよかな体になる事も出来るかもしれない。
 その姿を見て負けてはいられないと、桜は色とりどりの落ち葉が敷き詰められた地面を、水津は野犬が雨露をしのげそうな岩場を探しに向かった。
 しばらくして陽月の耳に届いたのはガサガサッという落ち葉を踏み鳴らす音。そしてなぜかリンリンという音。
「ま、まさか、熊?」
 音は背後からしているため、姿は見えない。振り返っても良いものだろうか。
 吹きやすいよう加工された法螺貝をぎゅっと握ると、いざとなったらその大きな音で怯ませて逃げよう!と振り返る。
「‥‥!」
 そこに居たのは茶色い熊だった。若干形がおかしいが人ほどの大きさがある。
 陽月は叫びそうになるのを抑え、なぜかぷるぷる震えている熊に向かって思い切り法螺貝を吹き鳴らした!
 ‥‥が。
「ま、まっ、待ってくだされ!わしですじゃ!」
 熊――の毛皮を羽織った村長が両耳を押さえて慌てて言う。
「驚かせて申し訳ないですじゃ、ここにはむかーし熊がおったと思い出したんで、念のために熊避けの鈴を持って来たんじゃ」
「な、なんだ、びっくりしました‥‥」
 陽月はバクバクと鳴る胸を押さえ、拍子抜けといった風にその場にへたりこんだ。

「何か聞こえたかのぅ?」
 集中して探していたため、何か凄く場違いな音がした気がしたが、本当に鳴っていたのか曖昧としている。
 桜は気を取り直して地面に違和感のある場所がないか探すのを再開した。
 サクサクと落ち葉を踏み、視線を巡らせる。
 こうしている最中にも木からヒラリと葉が落ち、土の見える範囲を減らしていたが、最近掘られた場所があればすぐに分かるだろう。
「む‥‥?」
 一部だけ土の色が新しい場所があったが、しかし。
「さすがに乳神のご神体といえども、こんなには小さくないじゃろうなぁ」
 それは親指ほどの大きさだった。
 試しに掘り返してみると、そこから出てきたのはまだ光沢の残る大振りなドングリ。
 どうやら小動物の非常食だったらしい。さすがにこれにお参りする訳にもいかず、桜はやれやれとそれを埋めなおした。
 さて次は、と腰を上げた瞬間、やや遠い場所から水津の声が聞こえた。
 今度はちゃんと聞こえた。曖昧とはしていない。桜の耳が確かならこう言っていたはずだ。
「見つけた‥‥!」
 と。

 水津は岩場を中心に探していた。
 岩場には洞窟のような所が多く、落ち葉もあり巣として機能しそうな場所だったからである。
 もし野犬がご神体を『戦利品』として埋めた場合、それは自分の縄張り、つまり巣の付近であるだろうとも推理していた。
 そうして彼女は犬の毛が多く残った岩穴を発見した。中も獣臭く、最近まで何かが住んでいたのは確実だ。
「この周りが怪しいですね」
 最近掘り起こしたような跡はないかと見回す。
 そして見つけた。ただし三ヶ所も、だが。
「さ、さすが野犬、といったところでしょうか‥‥」
 ご神体以外にも強奪してきた物があったのだろう。
 掘ってみると一ヶ所目は子供用の球、二ヶ所目は鳥の頭蓋骨で、水津は思わず悲鳴をあげかけた。
 そして、三ヶ所目。
「あっ‥‥」
 そこに埋まっていたのは、無残にも胸を抉り取ら‥‥否、最初から胸のない女神の形をしたご神体。
 そうして驚きと共に口に出した声を、桜が聞き取ったという訳である。


●願う事
 発見の狼煙により、開拓者達は社の前へと集まっていた。
 土だらけ、またはびしょ濡れ、とそれぞれ苦労をうかがわせる風体をしていたが、ご神体が見つかったという事実が表情を明るくしている。
「本当にありがとうございました、さすが開拓者さまですじゃ!」
 村長、そう言ってご満悦である。
 社は簡易ではあるが作り直され、乳神さまのご神体はその中にきちんと収められていた。
「無事に見つかったことですし、私達もお参りしても良いのですよね?」
「もちろんですじゃ」
「では‥‥」
 陽月は前に歩み出て、ぱんっ、と両手を合わせる。
 そして声に出さずに何かを願った後、被っていた笠を社に掛けた。
「乳神さま、寒かったでしょう。どうか暖まってくださいませ」
 では次はうちが、と芽依華が片手を挙げる。
「芽依華殿も‥‥ご自身の胸の事を?」
「惜しいどすなぁ」
 乙女の問いに笑みを返し、手を合わせて願う。
 うちとうちの姉はんのんが、もっとええ形になっとくれやす――と。
「ご利益ってあるのかしら?胸が大きいと肩が凝るから、良い事ばかりじゃないと思うけれど」
「琉架さん、それでもひんぬーにはやらなくてはならないのですよ‥‥」
 そう社に向かうのは水津。
 一歩一歩が重く、激しい想いを込めて歩いているかのようだ。
「乳神さま、どうか仇敵さんの胸を小さくっ‥‥そして世界をひんぬー色に!!」
 仇敵とは桜花のことである。彼女らは今まで巨乳と貧乳を巡るバトルを繰り広げてきた仲であった。
「必死になってお祈りしても9割ぐらい遺伝だと思うんですけど。おかーさまもおばーさまも大きかったですしねぃ‥‥大体巨乳って邪魔だし肩凝るし良い事ありませんよ?」
「皆さんそう言いますが、肩が凝るのとぺたんこの悲しさ、どっちが良いかと聞かれたら前者の方が良いに決まっているでしょう‥‥!」
 桜花の言葉にそう返す水津。何かを悟っている言葉だ。
「ぬ、確かにご神体もぺったんこじゃな」
 桜が社を覗き込んで言う。改めて見るとご神体の胸の無さは同情したくなるくらいだ。
「じゃがこれに祈れば!」
 桜は手を合わせ‥‥ようとして、ビシッと由愛を指さした。
「わしの胸を大きくして、あやつの胸を小さくして欲しいのじゃ!」
「な、何をお願いしてるの!」
「む?間違えた。あやつの胸を小さくして欲しいのじゃ!」
 改めて桜花を指さす。偶然間違えたのかわざとなのかは分からないが、それが由愛の心に炎をつけたのは確実だ。
 由愛も負けず劣らず凄い気迫で祈る。
「胸を。あたしに胸を。とにかく胸を!せめて平均くらいには!ついでに身長もあわ良くば‥‥ッ!!」
 壮絶と表現しても過言ではないくらいである。
 そこで桜花がぽつりと言う。
「服を買い換えないとぽろりしてしまいそうですね‥‥胸が薄くなるよう、ちょっとお祈りさせてくださいな」
 びしっ、と何かに亀裂が入ったような音がした。あくまで気のせいだろうが。
「あぁ、もう!本気で吸い取れないかしら、あの胸を。むきぃ〜〜!!」
「乳神さま、どうか薄くなった分の胸を私に‥‥!」
「胸だけでなく他も平均並みに太らせてくださいっ‥‥」
 かなり騒々しい中、ご神体探しはこうして幕を閉じたのだった。

 数日後、忍んでお参りに来た受付の女性と桜が鉢合わせたりとハプニングもあったが、その後ご神体が姿を消す事はなかったという。