名付け親、募集してます
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/24 02:23



■オープニング本文

「いやあ、順調に育ってくれてるようで良かったねぇ」

 武天のとある村で、二人の女性が眠っている赤ん坊の顔を左右から覗き込みながら嬉しげに言う。
 右に座っているのが美代という名の女性で、この女の赤ん坊の母親。
 左に座っているのがその美代の幼馴染である彩花で、その彩花も腕に男の赤ん坊を抱いていた。
 この二人の赤ん坊は仲の良い美代と彩花が「同じ時期に産もう!」と約束した結果だった。二人とも身内が近い場所に住んでいないため、互いに支え合って子育てをしていこうということになったらしい。
「あ、そういえば美代‥‥」
 彩花が昨日したのと同じ質問をしようとしたが、それを感じ取った美代は彩花がすべて言い終わる前に苦笑いを浮かべる。
「名前でしょ?」
「そうそう、もう決まったのかい?」
「それがねぇ‥‥亭主にも相談してるんだけれど、あの人ってばこの子本人にばかり興味があるみたいで、名前にはほんと無頓着なのよ」
「うちもまだ決まってないんだよ、うちの人も頑張って考えてくれてるみたいなんだけれど、仕事から帰ると絶対にお酒を飲んじゃうから話にならないのよねえ」
 俺が決めるから任せとけぃ!と言われたので任せていたら、酔った席で突然命名ポチなどと言われた時は釜で殴ってやろうかと思ったくらいだ。しゃもじは投げつけたが。
 しかし美代も彩花も互いのことはよく知っている。
 二人とも良い名を子供に与えたいという気持ちはあるのだが、ネーミングセンスが最悪なのだ。
「あたしらが付けても、将来それが子供の足枷になっても嫌だしねぇ‥‥」
「そうだよねえ‥‥。ねえ、だったらいっそのこと知識のある人に任せてみない?」
 彩花の提案に美代が首を傾げる。
「この辺に名付けを仕事にしてる人なんて居たかな?」
「違う違う、ギルドってところに所属してる開拓者だよ」
「開拓者ぁ?ちょっと彩花、別にあたしらはアヤカシ退治を頼もうっていうんじゃ‥‥」
 更に違う違う、と彩花は首を振る。
 ギルドに所属している開拓者なら身元ははっきりとしているし、何より一般人よりも様々な経験をしている。色んな知識も有しているかもしれないし、自分たちには思いつかないことも彼らなら思いつくかもしれない。
「なるほどねー‥‥」
 美代はしばし考えるように間を空ける。
「‥‥ねえ彩花、それならついでにこっちも頼んでいいかな」
「ついで?」
 彩花の疑問に答えるため、美代は赤ん坊を起こさないよう静かに立ち上がるとふすまを引き、その向こうから箱を持って来た。
 箱の中にあった――否、居たのは二匹の白い子猫。
「ね、ねこ?」
「大人しいでしょ?じつはね、昨日亭主が拾って来ちゃったのよ。飼う余裕なんてないって怒ったんだけれど、その‥‥あたしも猫好きだし‥‥」
 つまり飼うことにしたらしい。
「でもこっちの名前も決まらなくてね、なぜか猫なのに犬の名前ばかり思いついちゃうの」
「あらら‥‥それは大変だね、合わせて三つも名前を考えなきゃならないのか‥‥」
「で、もし良かったらこの子たちの分も頼めない?」
「あたしは良いと思うよ。じゃあ早くこの子らに名前をあげたいし、依頼しに行こっか!」
 うんっと頷き、二人は出て行く身支度を始めたのだった。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
白拍子青楼(ia0730
19歳・女・巫
雲母坂 優羽華(ia0792
19歳・女・巫
ジョン・D(ia5360
53歳・男・弓
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
紅明(ia8335
20歳・女・弓
濃愛(ia8505
24歳・男・シ
玖堂 紫雨(ia8510
25歳・男・巫


■リプレイ本文

●出迎え
 真昼の長屋はこの季節でも陽光が当たって暖かく、日向ぼっこには最適な気温だった。
 依頼者の家を訪れた開拓者たちを美代と彩花のふたりが出迎える。
「いらっしゃい! 男衆は仕事に行ってて居ないけど、ゆっくりしてっておくれよ」
 彩花が嬉しげな笑顔で手招きをする。いよいよ我が子に名前をあげられると気分が高揚しているらしい。
「玖堂紫雨と申します。宜しくお願い致しますね」
 会釈する玖堂 紫雨(ia8510)。二十代半ばに見える彼だったが、実際の年齢は四十も後半、もうそろそろ五十に手が届くというところである。
 それぞれ主婦ふたりに挨拶した一行は、赤ん坊の居る部屋へと向かった。

 赤ん坊たちは布団をかけられすやすやと眠っていた。どうやら昼寝の時間のようだ。
 邪気のない寝顔を見て風雅 哲心(ia0135)が言う。
「産まれたばかりの赤子はやっぱり可愛いもんだ。‥‥まぁ、最初が肝心だ。いい名をつけてやらないとな」
「うちもお父はんとお母はんに付けてもろた名前は宝もんどすし、この子らにも大きくなってからそう思える名前を付けたげたいどすなぁ」
 雲母坂 優羽華(ia0792)も自分と赤ん坊ふたりを重ねながら言った。
 彼女の場合は双子として生まれたため、両親もきっと色々と悩みながらふたり分の名前を付けてくれたのだろう。
「そうや、美代はんと彩花はんにお土産があるんどす」
「あっ‥‥そうでした。私からも出産祝いがあるんですよ」
 優羽華の言葉に、終始緊張した面持ちだった紅明(ia8335)も反応する。
 手渡された物を見、美代と彩花がきゃーきゃーという声をあげた。
「ちりめん山椒ね、あたしこれ好きなんだよ!」
「オムツも助かるわ。もう何回も換えなくちゃならなくて大変だったのよ〜」
「猫じゃらしは後で試してあげよっか、きっと猫たちも気に入るよ」
「そうね。ありがとう、大切に使わせてもらうわ!」
 ふたりの反応に優羽華ははんなりと微笑み、明は笑みを浮かべながら安心する。育児に疲れる主婦たちの糧になったようだ。
 赤ん坊の傍らに移動した紫雨は、並んで眠る赤ん坊を見て家族を思い出したのか、目を細めた。
「私も名付けには迷いました。男女の双子でしてね、今回のように男の子の名前と女の子の名前、両方を考えるのにかなり悩んだ記憶がございますよ」
「うちの両親もこんな感じやったんかなぁ‥‥」
 紫雨の体験談に優羽華が呟く。その隣では打って変わって瞳を輝かせる白拍子青楼(ia0730)の姿が。
「赤ちゃんたち、すっごく可愛いですの〜♪」
 寝息をたてる赤ん坊たちには、まさにその言葉がぴったりであった。
「触ってもいいですかしら? 起こさないようにそーっとしますからっ」
「いいよいいよ、この子ってば神経がすごくズ太いみたいでね、ちょっとやそっとじゃ起きやしないのよ」
 美代は笑いながらそう言った。赤ん坊のこの性格のおかげで、初の子育てだというのに周りと比べるとかなり楽なのだという。
 うきうきと青楼が手を伸ばし、赤ん坊の手に触れる。大きさは大人のそれと比べると壊れそうなくらいに小さく、親指を握るだけで手の平すべてを使うのではないかというくらいだった。
「あっ、そうそう。子猫はあっちの部屋だよ」
「こっちでは赤ん坊が寝てるから別室に移してあるのよ。子猫らしくやんちゃで困っちゃうわ」
 そう言う美代だったが、顔は完璧に猫好きと分かるような笑顔である。


●子猫との対面
「わぁ、子猫ちゃんたちも可愛らしいですね」
 隣室に入って開口一番、カカカカッと後ろ足で頭を掻く子猫を見たペケ(ia5365)が両手を前で組む。
 子猫は元気そのもので、白いふわっとした体毛に風を受けながら棚の上に飛び乗ったり壁に張り付いたりしていた。部屋の端にはカラになったエサ入れが転がっている。
「だっこしてみても良いでしょうか? じつは子猫と触れ合う機会が今まであまりなくて‥‥」
「あっ‥‥それならわたくしもだっこしてみたいですわ。ふわふわしてそうですの♪」
「ふふ、可愛いものに目がない開拓者さんだねぇ。じゃあちょっと待ってて!」
 彩花が腕まくりをし、ちょこまかと縦横無尽に走り回る子猫を捕まえてまわる。捕まえるといってもあくまで優しく手で包むように、だが。
 そして捕まえられ大人しくなった子猫をペケと青楼にソッと預ける。
 触ってみた子猫の体は外見よりも華奢だ。触れた時は冷えていた毛並みも、しばらく撫でている間に人肌並みに温かくなってきた。
「このままにしておくと抱いて寝てしまいそうな勢いだな」
 ふわふわとした表情をしているふたりを見て、思わず哲心が笑みをこぼす。
「お兄ちゃんも後で触るかい?」
「それも良いが‥‥そうだな、俺は名付けの方に力を入れることにするよ」
 この赤ん坊と子猫たちが、これから健やかに育ってくれるように良い名前をつけよう――そう思う開拓者たちの前で、何も知らない子猫は大きなあくびをひとつした。


●名前を、ふたりに
 いよいよ本題だ。開拓者たちはそれぞれが考え、検討してきたことを美代と彩花に話す。
「私は声にした時の印象が良い名前にしたいですね」
 そう言ったのはペケだ。
「個性が出ていて、それでいて人に呼ばれた時に嬉しい名前です。‥‥もちろん名前負けしないように気をつけなくちゃいけませんが」
 容姿を現す文字を入れたのに、それが本人の顔の作りとかけ離れた名前だとしたら、成長してからそれを気にする少年少女も居るかもしれない。幸い赤ん坊の顔は母親に似て良い部類のようだが。
 その横では明がやや固い表情で赤ん坊ふたりを見ていた。
 いわば人の人生でかなり重大だと言える場面に立ち会っているのである。そう思うと途端に緊張してきたが、「緊張なんかしてないで、気合を入れて頑張らなければ!」と自らに気合を入れた。

 名前の候補はなんと全部で十六個。
 もちろん子供の分と子猫の分は別々だったが、どれも美代と彩花には思いつかなかったものばかりだった。
「さすが開拓者さんたちだ、頼んで良かったよ!」
「この中から決めるのね。男の子で一番多いのは善大、女の子は秋良かー‥‥」
 美代が「んー」と唸りながら考える。
 男の赤ん坊、つまり彩花の子供の名前候補は賛成者の多かった順に善大(よしひろ)、平治(へいじ)、たいよう。
 美代の子供である女の赤ん坊の名前候補は、同じく賛成者の多かった順に秋良(あきら)、美花(みか)、彩生(さき)、美月(みつき)、いぶき。
 すべて考えた者の想いが詰まった良い名前だ。それ故に悩む。
「わたくしが考えたのはたいようくんと、いぶきちゃんですわ。子猫さんの名前と繋げると四季になるようにしました♪」
「へえ〜! ハイカラな名前だと思ったら青楼さんが考えてくれたんだね」
「私の方は平治と彩生ですね。平治が平和に物事を治められるように、彩生が自らの彩で生きられるように、という意味です」
「なるほど、そういう意味を込めて漢字を選んでいくのもアリなんだ‥‥!」
「響きも素敵だねぇ」
「俺は善大と美月だな。ふたつとも親から一字取った」
 込めた想いは善大が「誰よりも心身ともに大きく、そして善い行いをしてほしいという願いから」、美月が「月のように美しく、穏やかな子になってほしいという事で」だと哲心が少し照れくさそうにしながら語る。
「親の名前‥‥あー、そうそう! そういやあたしらも親から一字もらったのよ」
 彩花の言葉に美代がそうそう、っとぱちりと手を叩く。
「じゃあうちの子には善大って名前をあげようかな‥‥あ、あとで亭主に言うのが恥ずかしいけれどねぇ」
 夫の名前は善治である。きっと善治も面食らった顔をするかもしれないが、喜んでくれるだろう。
「美代はどうするんだい? さっきから何度も唸ってるけれど」
「いや、ちょっと悩むのと緊張するのが同時にきちゃってさ」
 美代はスーハーと深呼吸する。
「あたしは‥‥一番選んでくれた人の多かった秋良にするよ。ちょうど季節も合っているしね」
「善大に秋良ですね、呼びやすい名前ですし良いと思いますよ」
 なりゆきを見守っていた濃愛(ia8505)がこくりと頷いた。よしゆき、も、あきら、も舌に負担をかけず自然に発音出来る響きである。あだ名も付けやすそうだ。
「良かったです。それでは‥‥次は子猫さんですねっ!」


●この子たちの名前は?
 明に促され、今度は子猫二匹の名前を決めることになった。
 候補に挙げられたのは多い順に白菊(しらぎく)、小白(こはく)、雪(ゆき)、白(はく)、コウ、清(すず)、もみじ、こゆき‥‥の八つ。
「白は見たまんまだな、初めて見る者でも一発で覚えられるだろう」
 哲心が人差し指を立てる。たしかに白色を連想させる名前は他の候補も含めて覚えるのに苦は無さそうだ。
「白菊は私が提案させていただきました。菊は秋を象徴する花の一つ、そしてその香りは魔除けにもなるといいます」
 その名を持つ子猫が子供と一緒に成長し、子供の傍に居ることでその子を護る存在になってほしい‥‥紫雨はそういう想いを込めたのだという。
「私からは清、そしてコウを。あまり聞かない読みかもしれませんが、よく似合っていると思うんです」
 明は字も美しいものを、と選んだらしい。慣れぬ漢字でも毎日使っていればすぐに慣れるだろう。
「わたくしはもみじちゃんとこゆきちゃんですわ。小さくて可愛かったのと、肉球が紅葉みたいだったんですの♪」
 思い出して青楼が「きゃーっ」と声を上げる。もう完全に子猫の虜になってしまった様子だ。
 その様子に微笑んでから、美代がまた唸り始める。
「美代ー、あんたも結構優柔不断だねぇ」
「そ、それなら彩花も一匹分決めてよ。あたし頭の中がぐるぐるしちゃって‥‥!」
「しっかたないねえ、それじゃあ‥‥」
 美代より前にずずいっと出て、彩花が「よしっ」と手を打つ。
「こっちの子は小白! 白も良かったけれど見たナリが小さいからね、あと響きがカッコいいでしょ?」
「よかったな、小白。お前にも今日から名前がついたぞ」
「呼べる名前があるのは嬉しいことですね」
 哲心がぐりぐりと子猫、小白の頭を撫でる。濃愛もそれを見て和んだのか手を伸ばして優しく撫でた。
 次はいよいよ美代が決める番である。
「もう片方は決まったのに、こっちの子に無いのは可哀想ね。‥‥うん、よし、早く決めてあげるわ」
 すっ、と子猫の顔を見てはきはきとした口調で言い放つ。
「あんたはもみじ。いいわね?」
 もみじは思い出深い木なのだという。なんでも夫と出会った時に沢山目にしたとか。彩花のように夫から一字もらうのは気恥ずかしいが、しかしやはり夫婦の繋がりを誰かにあげたかったのだろう。
 子猫はきょとんとした顔をしていて返事はないが、尻尾をにゅうと立てた。
「あ、喜んでますね」
「良いタイミングじゃないか」
 そのつもりはなかったのだろうが、本当に良いタイミングだったのを見て濃愛と哲心が噴き出す。
「さーあて、これで決定!小白にもみじだね。これから改めて仲良くやるんだよ?」
 彩花が快活に笑う隣で、美代が「ふう」と息を吐いてから頭を深く下げた。
「ありがとね、これで呼べる名前がみんなに付いたよ‥‥本当に、ありがとう」
「そ、そんなに感謝されることじゃないですよ。ねえ、みなさん」
 慌てる明だったが、人に感謝されるという経験に思わず目頭が熱くなっている様子だった。


●初めて呼ばれた名前
 昼寝から目覚めた赤ん坊は、それぞれ初めて自分の名前というもので呼ばれた。
「ほら善大、これがあんたの名付け親たちだよ」
 なにやら口をもごもごさせる善大を抱き、慣れない響きを口にしながら彩花がやってくる。
「ふふ、秋良もちゃんと恩人のことを見ときなさいね」
「そうだ‥‥そこのおふたりさん、抱いてみるかい?」
「ええんどすか? ほな抱っこさせてもらいましょか」
 優羽華が善大を彩花から受け取る。ずしりと重く両手でないと支えていられないが、これが本物の赤ん坊の重みというものなのだろう。
 と、何やら胸にもぞもぞとした感触が。
「あ、むにむにしよっても、うちのはお乳出まへんえ?」
「わっ、ちょっと善大! あんた早速親の悪いとこ見習ったのかい!?」
 どうやら父親の善治は女好きらしい。もちろん善大にそのつもりはなく、単純にお腹が減っただけなのだが。
 くすくすと笑う優羽華を見て、彩花は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「今はまだこんな世の中だが・・・この子らが大きくなった時には、争い事がない世の中になっててほしいもんだな」
「そうですね、この子たちには少しでも良い思いをしてもらいたいものです」
 哲心の言葉にペケが頷く。その前にはどうやって旦那をゲットしたのかや、どうすれば子供が授かれるのかという優羽華と青楼の問いに目を白黒させている美代と彩花、そして抱かれた善大と秋良。
 当人たちには顔を赤くするような事態らしいが、戦場で思い返せば護りたいと思えるような平和な光景なのだろう。
 その光景に双子の子供と、そして今は亡き妻のことを重ねた紫雨が羨ましそうな――それでいて寂しそうな表情を浮かべ、しかしすぐに柔和な笑顔を浮かべて新米主婦ふたりに歩み寄る。
「育児はこれから毎日が戦のようになりましょう‥‥ですが、おふたりで協力なさるのなら心強いですね」
「あぁ、料理はあたしが教えて、あたしは美代に裁縫を習うんだ。助け合い精神万歳!ってね」
「ありがとう紫雨さん、これから立派にこの子たちを育ててみせるわ」
 さっきまで照れていたのに母親の顔を見せるふたりに、紫雨は笑みを返した。

 これから大きくなって物心がついた頃に、この子たちが名付け親のことを聞く日がくるだろう。
 その時世界が、今より良いものであるように――。
 開拓者たちはそんな想いを込め、四人と二匹の幸せを願ったのだった。