おいでませ南瓜の湯
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/25 20:14



■オープニング本文

 この宿『みみずく苑』には露天風呂がある。
 夕方には夕日が美しく、夜には星のよく見える広い温泉だ。
 宿の主人は名を一木昌純(いちき まさずみ)といい、お雪という妻と共に商売を続けていた。
 人気なのは温泉と鮮魚を使った料理。そして今年の春に従業員として入った(不本意ながら)女装少年、カケル。このカケルの起こした騒ぎでギルドの世話になったことのある昌純は、開拓者に決して少なくはない恩を感じている。
「そういう訳で、開拓者の方々に恩返しをしたいのです」
 たまたまこの宿屋に泊まった南橋石斑魚の前に正座し、昌純はそう言った。
 昌純がお茶を運んできた際に石斑魚がギルドと自分の話をしたところ、恩返しの話になったのである。
「恩返し、というと具体的にどんなことを考えているんだ?」
「本当は豪勢なものにしたいのですが、未だそのような余裕はなく‥‥しかしせめて、ということでこの宿の新作風呂を堪能してもらえればと思っています」
「新作?」
 石斑魚が聞き返すと、見てもらった方が早いかもしれません、と昌純は石斑魚を露天風呂に案内した。
「これです!」
 昌純は自信満々な声で言う。
 しかし石斑魚はズレた眼鏡の向こうから思わず二度見した。
「何か季節感のあるものを、と思案した結果、こんな感じになりました」
「‥‥浮いているのは何だ?」
「旬の南瓜です」
「多すぎないか」
 そうですか? と昌純は初めてそんな意見を貰ったという顔で返した。
 湯の色は濁った白色をしており、そこに中身をくり貫いた大小様々な南瓜がぷかぷかと浮いている。その数、ざっと見ただけでも二十近く。
「命名・南瓜の湯です」
 これでは南瓜が入浴客である。
「‥‥ご主人、話がある」
 とりあえずここに開拓者を入れるという、ある意味罰ゲームじみた事態を回避するため、石斑魚は元の部屋へと昌純を引っ張っていった。


「あ、マシになってる」
 通りかかった少女‥‥否、少年のカケルがそんなことを言う。
 黒髪が少し伸びたためか、女物の着物がよく似合っていた。
「お前もおかしいと感じていたか」
 新生・南瓜の湯を腕組みして眺めつつ、石斑魚はカケルの方を振り返る。
「そりゃ思うよ、あんな光景見ちゃったら。でも僕の立場的に注意なんて出来なくってさ」
「なるほど。まあこれで大丈夫だろう、客もギョッとせずに済む」
 改めて見回し、石斑魚はそう返した。
 湯には乾燥した南瓜の花が浮き、壁には橙色の和紙で作った筒。筒の中にはお香が入っており、緩やかに煙を上げている。
 本当は湯の色を黄色にする等の趣向を凝らしたかったが、技術が追いつかなかった。
「‥‥聞いたけど、ここに開拓者を呼ぶの?」
「ああ」
「前に世話になった人が来るとは限らないんだろ?」
「それでも恩返ししたいらしい」
 どうやら昌純は開拓者という存在すべてに感謝しているようだ。
「ふーん。まあ僕もちょっとは接客を頑張ってあげるか!」
 背伸びし、カケルは鼻歌を歌いながら廊下へと戻っていく。
 明日にはギルドに話を持ち込むか‥‥と、石斑魚は夕焼け空を見上げた。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
レヴェリー・L(ib1958
15歳・女・吟
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
ミリート・ティナーファ(ib3308
15歳・女・砲


■リプレイ本文

●南瓜の湯!
 この日、みみずく苑はいつにも増して賑やかになっていた。
 その様子に嬉しげな顔をしつつ、昌純は集まった開拓者10人に頭を下げる。
「ようこそ、いらっしゃいませ。今回はゆっくりしていってください」
 心からお持て成しします、と昌純は早速部屋に皆を案内し始めた。
 その途中、荷物持ちをしていたカケルに猫宮・千佳(ib0045)が近寄って肩を叩く。
「にゃ、覗きせずにちゃんと仕事してたなんて偉いにゃ♪」
「‥‥! き、きみはあの時の?」
 彼にとって人生の転機となったあの日。
 その関係者である千佳に気が付き、カケルはぎょっとした。
「の、覗きは卒業したんだ。痛い目も見たし」
「それは良いことにゃ、撫で撫でしてあげるにゃ〜♪」
 あうあう言いながら撫でられるカケル。しかしあの時のことが少なからずトラウマになっているのか、腰が引けている。
 それを見て千佳は明るく、それでいて悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そんなに逃げないでちょっとお話するにゃ。しないと‥‥」
「し、しないと?」
「女湯に引きこむにゃよ?」
 一瞬無言になる。
 その後、部屋から露天風呂に案内される間、カケルは千佳とのお喋りに勤しんだのであった。


「へー、南瓜の花が入ってるのって珍しいね」
 ミリート・ティナーファ(ib3308)は脱衣所の出入り口から顔を出し、露天風呂を覗き込んで言った。
 白い湯には乾燥した南瓜の花が浮かび、くるくると回っている。
「早く入りましょう〜?」
 一足先に湯船へ向かっていたサーシャ(ia9980)がミリートに手を振る。
 その体にタオルや水着は無い。
 そしてミリートも今は同じ姿だった。折角だからと水着を着けずに入ることにしたのだが、やはり恥ずかしい。
「あぅ‥‥もう少し心の準備を‥‥ひゃっ!?」
「ほらほら行きましょう、日頃の疲れを癒せばきっとお肌艶々ですよ!」
 はしゃいだ様子でルンルン・パムポップン(ib0234)がミリートの手を引く。
 そのまま木製のイスまで連れて行き、桶にお湯を汲んだ。
「綺麗になればきっといつか王子様が‥‥ああ素敵っ、ミリートちゃんも一緒に王子様を見つけましょうねっ!」
「う、うん」
 まだ顔を赤らめているミリートが頷く。
 ルンルンはそんな彼女の背中を石鹸で洗い始めた。
「ありがとう、次は私が洗ってあげるね。洗いっこって楽しそう!」
 犬耳をぴこぴこと動かしつつ、嬉しそうな顔をする。ルンルンもつられて笑いつつ、桶のお湯をざあっと流した。
 湯気の中で交替し、今度はミリートがルンルンの背中を流す。
「そうだ!ミリートちゃんのヒヨコさんと、私のガマちゃんで対決しません?」
 ルンルンがそう言って、持ってきたガマ型の玩具を見せる。ミリートは足元に置いたヒヨコの玩具・ヒヨコッコをちらりと見た。
 ガマVSヒヨコ、IN温泉。
「‥‥!楽しそう‥‥!」
 斯くしてプチ異種格闘戦が始まったのであった。
 そんな様子を見つつ、湯の中から縁に寄りかかっていたサーシャが笑う。
「やっぱり女の子は可愛くていいですね〜」
「きみもそれに当てはまるじゃないか」
 一足遅れて入ってきた水鏡 絵梨乃(ia0191)が微笑み、レヴェリー・L(ib1958)と手を繋いで現れた。
「そちらも流しあいっこですか?」
「ああ、温泉に来たらこれをやっておかないとね」
 親睦を深めるためにも、と絵梨乃はレヴェリーをイスに座らせる。
 そして首を傾げた。
「タオル、取らないのか?」
「あ‥‥その‥‥」
 レヴェリーは耳まで真っ赤にして言い淀む。
「だ、だめ、かな‥‥マナー違反‥‥?」
「というより、これじゃ上手く洗えないよ」
「う‥‥」
 たしかにそうである。
 レヴェリーは仕方なくタオルを解き、背中を絵梨乃に向けた。絵梨乃はその背中にお湯をサッと掛ける。
 予想していた通りの触り心地を確かめつつ、嬉しそうに洗ってゆく。
 少し慣れてきたレヴェリーはルンルン達を見て、思いついたかのように言った。
「後で、私もお背中‥‥流しますね‥‥?」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしているよ」
 あ、と絵梨乃が何か思い出したという顔をする。
「そうだ、背中の他に前はどうする?」
 そしてレヴェリーは再度真っ赤になったのだった。

 雲母(ia6295)はしっかりと洗い終えた体を湯に浸す。
 朱鳳院 龍影(ib3148)と体を洗いあった後に入る湯はまた格別だった。
「いいね、こうして月を仰ぎつつ酒を傾けるというのも」
 湯に浮かせた盆から杯を取り、くいっと飲み干す。
「私はおぬしとこうしてのんびり出来るなら、どこでも良いんじゃがの」
 龍影はそう言ってくすくすと笑い、雲母に体を寄せた。
 そのまま空になった杯へ新たな酒を注ぎ入れる。
 雲母はゆらゆらと杯を傾け、温泉の温もりと酒の美味さ、そして龍影と共に居る時間を満喫した。
「んー‥‥やっぱりいいなぁ、そうだろう?」
「うむ、そうじゃな」
 楽しそうな雲母を見て龍影は普段より柔らかい笑みを浮かべる。
 ‥‥ちなみにさり気に雲母が胸をたぷたぷと触ってきていたが、日常的なのか気にしていない様子だ。
 しかしそれをジーっと見る者が一人。
 きらきらと瞳を輝かせる千佳だった。
「いいにゃあ、あたしもスキンシップしたいにゃ」
 思い立ったが吉日、千佳はスススーっと湯の中を移動するとミリートの背中目掛けて抱きついた。
 抱き心地をしっかりと確かめ、すりすりと頬を寄せる。
「わわっ!?」
「にゃ!ミリート、疲れたりしてないかにゃ?」
「あっ‥‥千佳ちゃんか、びっくりしたぁ。うーん、お湯につかってると分かりにくいけど、ちょっとだけ肩が凝ってるような‥‥?」
「それじゃあマッサージしてあげるにゃ〜♪」
 千佳は小さな手で肩をとんとん叩いたり、力を入れすぎないように揉む。
 ミリートは湯の中で尾を振りつつ、にこにことそれを受けた。
「にゅふ、雰囲気のある温泉でマッサージするって楽しいのにゃ〜♪」

 そこから少し離れた所でつかっていた梢・飛鈴(ia0034)は小さく笑い、月を見上げる。
 上手く満月とまではいかなかったが、なかなかに美しい月である。
「ふー、こういうフロも久々アルな」
 ぐーっと手足を伸ばし、酒を一口飲む。
 口に含んだそれはすぐに体温と同じ温度になり、味も解けるように喉へ消えていった。
 飛鈴も皆と同じように何も着けずに湯に入っていたが、頭に着けたお面だけは外していなかった。
 これはポリシーである。どんなまったり空間でもそれは侵せない。
「‥‥サテ」
 ひとしきり酒を楽しんだ飛鈴は辺りを見回す。
 そして軽く泳ぎながら、ある場所へと向かった。その方角に居たのは――絵梨乃とレヴェリーだ。
 彼女らは飛鈴の接近に気付かずに話している。
「レンにはこれを」
 絵梨乃はお酒を飲めないレヴェリーのために用意した蜜柑ジュースを差し出した。
 蜜柑ジュースはほんのりとした甘さで、酸っぱさを感じさせない。
「美味しい‥‥。ありがとう」
 微笑し、レヴェリーは絵梨乃にお酌する。注いでもらった酒を口に運び、絵梨乃は星を眺めた。
 月の明るさはあるが、宿の照明以外に光は少ない。星も綺麗に見えた。
「レンも楽しんでるか?」
 レヴェリーを抱き寄せて聞く。レヴェリーは蜜柑ジュースを両手で持ち、こくり、と頷いた。
 満足げな笑みを浮かべる絵梨乃。
 ――その背に何者かがツツーっと指を這わせた。
「お邪魔だったアルか?」
 楽しげな雰囲気を纏わせた飛鈴だ。その言葉にレヴェリーが何故か顔を赤くしながら首を振る。
 背中へのツツー攻撃に少し驚いていた絵梨乃は笑い、飛鈴に手招きした。
「一人か?折角だ、一緒に酒を囲んで楽しもう」
「そうダナ、そっちの持ってきた酒も気になるアル」
 ちゃぷっと音をさせ、自分の盆を二人に寄せる。
 そのまま飛鈴と絵梨乃は酒、レヴェリーは蜜柑ジュースを和気藹々と飲んでゆく。
「‥‥にしてもバインバインなのが多いナ。何食ったらこうなるやら」
 飛鈴が他の開拓者を見回し、ぽつりと一言。
 それに絵梨乃が肩を竦める。
「飛鈴もなかなかのものだと思うが」
「個人的にはフツーくらいがちょうどいいアルがなー」
 殴り合いするには、と飛鈴はさらりと凄いことを付け足した。

「見事に女しかいないな」
 ははあ、と感心した様子でからす(ia6525)が呟く。
 彼女はここに来るのが一番最後になっていた。罠伏りを用いて荒縄による捕縛罠を設置していたからである。
 もちろん覗き対策の、だ。
 ちなみにカケルを疑ってのことではない。普通の覗きを警戒してだ。
 入浴前に彼と話してみたが、十分反省しており覗きをしそうな雰囲気ではない、っとからすは知っていた。
 足だけ湯につけ、景色を楽しむからすにサーシャが話し掛ける。
「彼、大人しくしてました〜?」
「ああ、カケル殿のことか。とても大人しくしていたよ、文句を言いながらだけれどね」
 覗き事件の時に居合わせたのかい?とからすが聞くと、サーシャは頷いた。
「うふふ、もう大変でしたよ。‥‥カケル君の方が」
「物凄い目に遭ったようだね。まあ再犯の心配が無いからいいか」
「そういえば‥‥気になっていたのですが」
 サーシャは糸目を更に細める。
「なぜ未だに女装を続けているのでしょうか?」
 あの場の罰ゲームのようなノリでやらせたように記憶している。
 しかし半年近く経った今でも彼はあの姿をしていた。
 ひょっとして、とサーシャは真顔になる。
「‥‥そういう趣味に目覚められたとか?」
「どう、だろうなあ。罰として受け入れてるようでもあったけれど」
 嫌よ嫌よも何とやら、というものだろうか。
 ふーむ、とサーシャは腕組みする。
「‥‥これは確認せねば」
 数時間後のカケルもやはり苦労しそうだった。
 確認のための作戦を練りつつ、あ、と何かにサーシャが気付く。
「からすさんも何も着けない派なんですね」
「これか?まあね、心配することは何もないし。こんな子供の貧相な身体を見て欲情する者なんて一部だろう」
「ふふ、どうでしょうかね〜?」
 意味深な笑みを浮かべつつ、サーシャは「じゃ」と片手を上げて離れる。
 その先にはばっしゃばしゃとじゃれ合う千佳達が居た。
 それに加わったサーシャの両手が(揉む的な意味で)唸るのを見つつ、からすはふっと笑う。
「楽しそうなのは良いことだな」


●湯の歌
「ん‥‥?なんじゃ?」
 雲母の汗を手拭いで拭いていた龍影が顔を上げる。
 どこからともなく綺麗な音色と歌が聞こえてきたのだ。
 それはレヴェリーの口笛と、ミリートの歌だった。
「なかなかに趣きがあるじゃないか」
 雲母は目を伏せてそれを聞き、口元に笑みを浮かべる。広い空間で湯につかりつつ、綺麗なものを聞くというのもリラックスするのに最適だった。
「白いお湯に、耳を楽しませてくれる歌と口笛‥‥」
 ほー、っとうっとりするルンルン。
「この二つが身も心も綺麗にしてくれて、お肌艶々‥‥もう王子様がいつ来ても良いかもっ!」
 はきゃー!っと顔を覆い、その衝撃で流れていきそうになる盆を慌てて止める。
 そこには酒とおつまみがのっていた。無くなっては大変だ。
 ちなみに先ほど行った異種格闘戦だが、引き分けになっていた。
 二人ともいつの間にか温泉を楽しむ方向にシフトしていたのだ。恐るべし温泉パワー。
「温泉作法もきっちり守っているし、罰も受けなくてすみそうです♪」
 ぐっと拳を握るルンルン。
 ‥‥彼女は水着で温泉に入ると法律違反で天儀10里四方所払いか、磔獄門になると思っている。結構本気で。

 少し離れた所から聞こえる音楽を聞きつつ、石斑魚はちらりと隣を見る。
 そこには「ついでだから入ってこい」と昌純に放り込まれたカケルが湯につかっていた。
「‥‥少年」
「な、なにさ」
「今回は覗こうなんて考えるんじゃないぞ」
「だ、だからもうしないって!ほんとに!」
 黒髪を振り乱して主張するカケル。
 一度周りに広まった悪い話はなかなか消せない。それを身をもって体感するのであった。


●夜は明けて
 スズメが障子の向こうで楽しげな鳴き声を振り撒いている。
 荷物を纏め終わった開拓者達は、宿の出入り口に集まっていた。

 昨晩はレヴェリーと一緒の部屋に泊まった絵梨乃は「うーん」と背伸びをする。
 その隣でからすはカケルの背を叩きながら仕事を頑張るように言っていた。
 入浴後、暖かい茶を持参して少し離れた所にある木に登り、からすは風呂を外からも楽しんでいた。その時にカケルの仕事をする姿を見かけたのである。
 何かと反抗的な面もあるようだが、仕事に関してはきちんとやり遂げているらしい。
 それを確認したからこそ、からすは今後のためにも、と声をかけたのだ。
「ま、まあいつか周りに認められたい‥‥とかは思うから、頑張る」
 ぼそぼそと答え、カケルはこほんと咳払いをした。
「また来た時にどうなってるか楽しみアルな」
 飛鈴がカケルを見て言う。ちょっぴりプレッシャーのかかったカケルだった。
 ちなみに飛鈴はあの後ものぼせぬ内に出た後、しばらくしてからまた温泉を楽しんでいた。一度だけでは勿体無いというものだ。
「温泉で食べるおつまみっていうのも格別だったのです‥‥っ」
 ルンルンがお腹をさすりながらほわりとする。
 お湯につかるのも楽しかったが、ついつい酒とおつまみのことを思い出してしまう。
「湯上りのいっぱいは格別だったにゃ♪」
「ああ‥‥そういえば凄い飲みっぷりじゃったのう」
 龍影がその時の光景を思い返しつつ言った。
 風呂から上がった千佳はお決まりのポーズで牛乳を一気に一瓶開けていたのだ。
「今度は皆もしてみるといいのにゃ♪ あっ、そうそうっ」
 千佳はカケルの手をぎゅっと握る。
「また遊びにくるからその時はよろしくにゃ〜♪」
「そ、その時は負けないからね」
 ついつい思い出してビクビクしてしまう自分に対して。
 カケルは千佳の手を握り返して頷く。


 帰り道を案内する石斑魚を先頭に、開拓者達は温泉宿を後にした。

 途中、振り返ると下げられた頭二つと振られた手が一本。
 ――それは開拓者達の視界が木で遮られるまで、ずっとずっと見えていたという。