【夢夜】ベビーパニック
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/09 18:39



■オープニング本文

 季節は真夏。
 とある都会の私立高校にて。
 二人の男子生徒が教室の引き戸を開けると、長い間使われていなかったのか上から埃が降ってきた。
「うわー‥‥この中から探すのかよ」
「先生も人使いが荒いよな」
 教室には様々な備品が保管されている。
 二人はさっき廊下で会った国語の教師に、この中からいくつか物を持ってきてほしいと頼まれたのだ。
 大体の場所は聞いていたが、保管されている物の数が多くて一瞬戸惑う。
「なあなあ、これ見てみろよ」
 片方の男子生徒が手招きして呼ぶ。
「そっちは関係ない古いやつばっかりだろ」
「いや、でも面白いものがあったんだって」
「面白いもの?」
 ひょい、と覗くと、男子生徒の手には手の平サイズの人形があった。
 赤ん坊の人形である。
 細部までリアルに作り込まれており、表面には木目のような模様が浮かんでいる。しかし木製ではなく、どちらかといえば陶器製のようにつるんとしていた。
「なん‥‥だ、これ?」
「気味悪いだろー? 説明書みたいな紙が一緒にあったぞ、でも読めないんだよな‥‥」
 そう言って古びた和紙を見せる。
 ‥‥達筆すぎるのか下手すぎるのか、一文字も解読出来ない。
「先生に聞いたら分かるんじゃね?」
「あー、そうだな。ここ管理してるの先せ――」

 ガチャン!

「‥‥‥‥」
 二人はお互いの顔を見たまま、視線を決して下には向けずに固まった。
 しかし目配せし、いっせーので下を見る。
 赤ん坊人形が真っ二つになって割れていた。
「‥‥俺?」
「ああ、完全にお前のせい」
 手の汗で滑ったのか、はたまた視線を向けてもいないのに転がして遊んでいたせいか。
 その両方かもしれないが、とにかく人形は割れてしまった。
「これって先生に言った方が良いよなぁ、弁償とかなったらどうしよう‥‥」
「う、うわあっ!」
「なんだよっ!?」
 叫んだ男子生徒が割れた人形を指差す。
 人形の割れた断面から灰色の煙が出ていた。
 しかも大量に出ているというのに、一向に止まる気配がない。
「何だこれ!」
「と、とりあえず逃げようぜ!先生呼んでくる!」
 可燃物が入っていて、それが燃えたのかもしれない――ふと浮かんだその考えの元、男子生徒は駆け出した。
 どう考えても火事やボヤのそれではない‥‥という事は、分かってはいたが。


 教師、南橋石斑魚は小さな子供をおんぶしたまま名簿に丸を付けていた。
「各クラスの約半分か‥‥厄介なことになったな」
 言いつつ最後に自分の名前にも丸を付ける。
 現在、全校生徒が体育館に集められていた。普段はお喋りのせいでザワザワしているのだが、今日はそのざわめきの中に赤ん坊の泣き声や笑い声が混ざっている。
 石斑魚はマイクの前に立つと説明を始めた。
「――呪いのようなもの、だと思ってほしい。本来は敵陣に放り込み、兵士達を混乱させるためのものだったらしい」
 話を聞く生徒たちの腕には、泣いたり笑ったり眠ったりしている赤ん坊。
 この子供は灰色の煙が校舎を覆い、それが消えたと同時に現れた子供だった。
 それぞれが親と認識している生徒、もしくは教師を持ち、その「親」の外見特徴を受け継いでいる。
「その子供たちはお前たちの未来の子供の姿をしている。が、実際には今ここに実在しないものだ」
 感情を有しているし世話も必要だが、死ぬことはないし、こちらに危害を加えてくることもないという。
 しかし手がかかる。
 だが放ってはおきにくい。
「その、なんだ。言いにくいことだが」
 石斑魚は咳払いしてから言葉を続ける。
「呪いの効果が無くなり、その子供が消えるまで6時間。その間、それぞれで面倒を見てくれないか?」
 学校の外に持ち出したくない「事件」なのだ。
 今から6時間なら、大体普段の授業と部活が終わり、皆が帰る頃と同じになる。
 石斑魚はそう言うと頭を下げた。

「さすが南橋先生、あの変な紙の文字を読めたんですね」
「でもなんでそんな呪いの品があそこに?」
 職員室に戻ったところで同僚がそう言った。
「‥‥ある国語教師が趣味で保管していたものだそうだ。今後の授業に使えるかと思ってな」
「‥‥」
「まさか呪いが本物だとは思っていなかったが」
「‥‥」
「本当だ」
 石斑魚は国語教師である。
 あの時は明言しなかったが、事件の原因を作った一人として生徒たちに説明させられたのだ。
「あうー?」
 視線を泳がせる彼の髪を、彼と同じような目つきの子供が引っ張った。


※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
白漣(ia8295
18歳・男・巫
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
ラヴィ・ダリエ(ia9738
15歳・女・巫
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
藤嶋 高良(ib2429
22歳・男・巫
ノクターン(ib2770
16歳・男・吟
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰


■リプレイ本文

●子供達の居る高校
 南橋石斑魚はまだ見慣れぬ光景を見ながらイスに座った。
 確かにこれは敵陣の撹乱に使える。
「むっ」
 しばし思考を放棄してボーっとしていると、何か大きなものが頭にしがみついてきた。
 間近で感じる風。うちわで扇がれているかのようだ。
 引き離してみると、それは竜の翼を持った子供だった。
「空、空ー!」
 そう言って教室へ入ってきたのは、一目で子供の親だと分かる金の翼と尾を持った九条・颯(ib3144)。
 短ランにズボンといった服装だが、れっきとした女性である。
 いつも授業中気だるげに外を見たり頬杖をついている生徒、と石斑魚は記憶していた。
「探しているのはこの子か?」
「あっ、空!ここに居たのか!」
 駆け寄り、更に別の場所へ飛んでいこうとしていた空を抱く。
「うー」
 空は不満げな声を出したが、颯は逃がさぬようしっかりと抱いたまま息を吐いた。
「ふう、まったく。ハイハイより先に空飛べる様になるのってどうよ?」
 突然現れた空はまず両手両足を使うよりも先に、その背中の翼を使った。
 そのため捕まえるのに一つや二つじゃない苦労をしたのだ。
「つうかオレは飛べないのにオレの子供はイキナリ飛んでるっていうのはアレか?潜在的にはオレも飛べるって事か?」
 颯は飛行するのにこの翼を使った事はない。
 それとも自分が飛べるようになってから作った子供なのか、いやそれとも空を飛べる別の生き物と子供を作ったらコイツが生まれるのか、と自問自答を繰り返す。
「普通の子よりもかなり手間のかかりそうな子だな」
「今度飛べるのか自分でも試して――うお!?居たのか先生!」
 驚く颯。座っていた石斑魚とその子供の姿が今まで目に入っていなかったようだ。
「丁度良いや、聞きたいんだけど学食で離乳食か何か作れると思うか?」
「それなら学食のおばさんが気を利かせて何か作っていたぞ、多分そろそろ出来る頃じゃないか」
「マジか!よし、無くなる前に行ってくる!」
 そう言うやいなや颯は空と一緒に教室を飛び出していった。
「かなり大量にあったから、すぐには無くならないと思うが‥‥」
 居る間にそう伝えられなかった程のスピードだったという。


「あら、お腹がすいたどすか」
 そう言いながら華御院 鬨(ia0351)は子供をあやしていた。
 学食で離乳食が手に入るという話をさっき聞いたので、見回りがてら行ってみるのも良いかもしれない。
 ちなみに鬨は三年生で風紀委員長をしている。
 普通の女生徒よりも柔和に笑い仕草も優しさを纏っているが、これでも男子の一人だ。女装は趣味ではなく女形の修行である。
 そんな鬨が子供の藍(あお)と一緒に歩いていると、廊下であたふたしている生徒を見つけた。
「どうしたんどすか?」
「あ、先輩!」
「子供がおもらししちゃったんですけれど、おむつの換え方が分からなくて」
 鬨は生徒達の子供を覗き込む。
 ‥‥なるほど、と納得してしまう状態だった。
「新しいおむつはあるん?」
「はい、ここに」
「ほなよう見ておいてな、おむつはこないな風にかえるんどす」
 藍を片方の生徒に預け、てきぱきとおむつを換える。
「まだ何回か換える事になるやろうから、次からはちゃんと自分でしいな?」
 にこりと笑い、鬨は藍を抱き直した。
 と、ジッと待っていた藍が襟を引っ張って口を尖らせる。どうやら早く何か食べたいらしい。
 まだ言葉の喋れない子供だが、学習能力の高さは親譲りだ。
 最初は自分と違い女の子なのに男の子っぽい外見なことに驚きもしたが、今はそれすらも良い事のようにしか感じられなかった。
「はいはい、早よ行こうな」
 頑張って、と生徒らに声をかけ、鬨はまた歩き出した。

 ルーティア(ia8760)は校庭で子供として現れた男の子、レーヴェと一緒に遊んでいた。
 レーヴェは母親と同じ白い髪と青い目を持っている。
 その白い髪にきらきらと陽光を反射させつつ、今は母と一緒にトンボを追っていた。
「あっ、飛んでっちゃったか」
 芝生の上まで来たところで、トンボは一気に空高く飛んでいってしまった。
 仕方ない、と座ろうとしたところでルーティアはあることを思いついて手を叩く。
「そのまま、そのまま」
 レーヴェを立たせ、優しく声をかけつつ少し離れる。
 そして両腕を広げてレーヴェを呼んだ。
「よし、こっちだ。おいで」
 きょとんとしていたレーヴェだったが、すぐに笑顔になりよろよろしながら彼女に近寄っていく。
 しかし五秒程経ったところで転倒し、顔を上げてみると笑顔は泣きそうな顔に変わっていた。
 ルーティアはゆっくりと近づいて抱き起こす。
「よしよし、泣くな。男はどんな時でも、自分のために泣いちゃいけない」
「う、う‥‥」
「よし、良い子だ。もう一回、できるか?」
 頷いたかどうかは分からないが、レーヴェはルーティアの腕を掴んで自分から立ち上がった。
 ルーティアがそっと離れ、一秒‥‥五秒‥‥十秒。
「よく出来たじゃないか!」
 自分の元へ自らの足で歩いてきた息子を抱き締め、頭をわしわしと撫でる。
 撫でた頭からは、太陽のいい匂いがしていた。

「温度はこれくらいかな」
 藤嶋 高良(ib2429)は部室で自分の赤ん坊、嵩斗の世話をしていた。
 部室には今のところ高良たちしか居ない。
 嵩斗は高良と同じ綺麗な黒髪と黒い目をしており、先程から興味深げに望遠鏡を触っている。
 ミルクの準備を終えた高良は哺乳瓶を持って嵩斗に近づいた。
「嵩斗もそれに興味があるのか?」
 高良の入っている部活は天文学部。
 ここには他にも赤道儀や生徒たちの撮った星や月の写真があった。
「ここから覗くと遠くが見えるんだ、とはいえ室内じゃ意味がないけれどね」
 言われた通り望遠鏡を覗き、嵩斗はきゃっきゃと喜ぶ。
 その仕草が可愛いと思いつつ、高良は嵩斗を抱き寄せて哺乳瓶を口にあてがった。
「あれ?」
 しかし飲まない。
 温度は図書館で見た本の通りにした。哺乳瓶も汚くはない。
 だが嵩斗は口すら開いてくれなかった。
「うーん、知識だけじゃうまくいかないものだね。って、痛たた‥‥お願いだから頬を引っ張らないで」
 嵩斗は哺乳瓶よりも高良の頬がお気に入りのようだ。
 ご飯はもう少し後にしようか、と高良は嵩斗を抱き上げ、気分転換のために廊下へと出ていった。


 ノクターン(ib2770)は演劇部に所属している男子生徒だ。
 しかし普段から役作りの一環としてセーラー服を着ており、今もまるで女子生徒のようだった。
「まてまて、これが俺の子供だって?」
 腕組みをし、子供――セレナーデという女の子をまじまじと見、言う。
 セレナーデはノクターンに何から何までそっくりだったが、性別だけは違っていた。
「確かに似ているけど‥‥はあ、何の冗談だよ全く」
 ノクターンはそう言って俯く。
「だ、大丈夫か?」
 通りかかった石斑魚が声をかけたが、ノクターンはそのままぱっと顔を上げてセレナーデの頬をツンツンつつく。
「面白いじゃないか、母親役っていうのも」
「‥‥結構大丈夫そうだな」
「だってこういう機会じゃないと楽しめないだろ?」
 確かにまたとないチャンスだ。沈んだ気持ちで過ごすには少々勿体無い。
 ならば目一杯楽しんでやろう、とノクターンはまずはセレナーデのことを知ろうと行動し始めた。
「見た目は本当にそっくりだな‥‥癖まで似てる気がする」
「うー?」
「声はさすがにまだ似てるか分からない、か」
「あーぅ!」
 グイッ!
 ツインテールの片方を引っ張られ、ノクターンは目を白黒させ、石斑魚はギョッとした。
「こ、このっ、首を痛めたらどうするんだ!」
 引き離そうとするが、意外と子供の握力はあるもので、なかなか離してくれない。
 数分経ってからやっと離させることが出来た。
「はあ、はあ‥‥こ、この悪戯好き、一体誰に似やがった‥‥」
 そう言うノクターンも悪戯好きである。
「まあ最初の内はこういう事もある。別に気にせずとも――」
「今度はこっちからくすぐってやる!あっ、こら逃げるなっ」
「――ここは強い親になれそうな生徒ばかりだな‥‥」


●美味しいものを、皆で
 バタバタという足音。ガラッと開かれる戸。
「ラヴィ!」
 飛び込むように教室にやってきたジルベール(ia9952)は、最愛の彼女であるラヴィ(ia9738)を見つけると満面の笑みを浮かべた。
 対してラヴィもジルベールを見つけ、笑みと共に頬を紅潮させる。
「まぁ、可愛らしい男の子。その子がジルベールさまの赤ちゃんですか?」
 ラヴィはジルベールの髪の毛を執拗に引っ張る子供を見て言う。
 所々跳ねた茶色の髪といい、薄い青色をした瞳といい、彼にそっくりだ。
「トゥールっていうねん。愛称はトゥーリーや。ラヴィの赤ちゃんは‥‥」
 ふわっとした雪色の髪の毛に左目が茶色いオッドアイの女の子を見つけ、ジルベールは思わず声を上げる。
「ラヴィの赤ちゃんめっちゃ可愛いんやけど!」
「セルフィーユっていうんです、セリーって呼んであげてくださいね」
「名前も可愛いなぁ‥‥ほーら、俺がぱぱやでー。ぱぱってゆってみ、ぱぱって」
 セルフィーユは目を丸くしてジルベールを見つめ、がしっとその腕に掴まった。
 どうやら彼のことを気に入ったらしい。
「‥‥ぱぁ」
「惜しい!」
 だが可愛いからと許してしまうのだった。
 しばしセルフィーユに頬ずりした後、「あっ!」と声を上げる。
「トゥーリー、何勝手にラヴィに抱っこしてもろてるねん!」
「ふふ、甘えんぼさんなんですのね♪」
「泣き止まんくて大変やったのに、こいつ‥‥い、今は許したるけれど、ラヴィは俺のんやからな!」
「ジ、ジルベールさま、大声でそう宣言されますと‥‥」
 真っ赤になってもごもごするラヴィ。
 将来がなんとなく想像出来る場面であった。
「あっ、そうです、ジルベールさま達も家庭科室に行きませんか?フレンチトースト等を作ろうかなと‥‥」
 本当は得意なお菓子を作ってあげたかったが、それは大きくなってからのお楽しみだ。
「ラヴィの手作り料理か。ええな、俺らも行くで!あっ、後で俺特製の玩具も作ったるからな」
 子供達にそう話しかけつつ、教室を出る。
 するとそこに見回り中の石斑魚が歩いていた。
「ああ、二人のところにも子供が現れたんだな」
「はい、可愛い子達ですわ♪」
「せや、玩具作ったら南橋先生の子にもあげるわ!」
 玩具?っと石斑魚は首を傾げ、すぐに得心して自分の子を見る。
「そうだな、こいつも退屈しているだろう」
「任せとき!代わりに単位くれとか言わへんから安心してや?」
「そ、そこは信じている」
 そうして校庭に行くという石斑魚と別れ、二人は家庭科室へと向かった。
「いやぁ‥‥しかしこうしてると4人家族みたいやな?ラヴィ」
「は、はい、いつかはこんな風に‥‥。は。いえっ、何でもないですわ」
 真っ赤になるラヴィを見て和むジルベール。
 そして‥‥、
「て、痛い痛い、噛み付かんといてやトゥーリー!」
 対抗心を燃やしたのか、かぷりと噛み付くトゥールだった。

 ジルベールとラヴィの二人が到着する少し前、家庭科室で腕を揮っていたのは白漣(ia8295)だ。
「幼児用のお菓子は普段作ったことがないけど‥‥レシピもあるし大丈夫だよね!」
 調べたレシピを参考に、手際良く調理を進めてゆく。
 その傍らで机の下にある棚を弄っている子供が一人。
 白漣と同じ赤い髪の毛と、別の誰かから受け継いだ黒い目を持った子供だ。
 名前を響(ひびき)といい、女の子のような顔立ちだが好奇心旺盛な男の子だった。
「響っ!それは後にしておやつ食べようね」
「う?」
 おやつ、という言葉に反応したのか、泡立て器を片手に持っていた響が顔を上げる。
「よしよし、大丈夫。すぐ出来るから」
 微笑んで頭を撫で、泡立て器を元の場所に戻してから作業の続きに取り掛かる。
 そうして数十分後――出来上がったのは、幼児用の柔らかいボーロだった。
「ん、完璧!」
「なんやなんや、ええ匂いがしとるな」
 ひょこっと顔を覗かせたのはジルベールとラヴィの二人だ。
 丁度良い、響と遊んでもらいつつボーロの味見もしてもらおう、と白漣は笑顔で二人とその子供達を呼び寄せる。
「美味しいっ‥‥!ラヴィのも出来上がったら食べてくださいね♪」
「うん!子供達も食べ足りないみたいだしっ」
 きゃーきゃーと転がりながらボーロを奪い合っている子供達。
 そんな様子を見つつ、朗らかな顔で白漣が言う。

「僕の子、ほんとう可愛いですよねっ!」

 ‥‥その後、親馬鹿披露大会が開催されたのは言うまでもない。


●別れの時
「――もう、六時間経ったのか」
 最初に異変に気付いたのは高良だった。
 嵩斗の体がスゥっと透き通ってきたのだ。
 それぞれ示し合わせた訳ではないが、最後は空を見て見送ろう、と子供を抱えた親達が校庭へと出てくる。
 校庭は既に橙色に染まっていた。
「長いようで短かったですね‥‥」
 最後の瞬間まであやそうと、高良は嵩斗を抱いてゆっくりと揺らす。
 術によるものとはいえ、やはり消えるとなると寂しかった。
「何時になるかは知らんが、また未来でな!」
 颯は子供の安心する、とても溌剌とした笑顔で空を見送る。
「ええ子やったけど、うちはどないな親になっとるんやろうか」
 消えゆく藍を見つつ呟くように言う鬨。
(その場合母親と父親、どっちなんだろうか‥‥)
 呟きの聞こえた石斑魚は、ついついそんな心配をしてしまうのだった。
「未来でもよろしくね」
 白漣はおやつを食べれてご満悦な響を撫でる。
「響のおかげで未来が楽しみだよ」
「確かに楽しみになったな」
 笑い、ルーティアは教室に帰ったら皆に子供の作り方を聞こう、っと波乱の巻き起こりそうな事を考えていた。
「また会おうな、約束だぞ」
 そう言って頭を撫でると、レーヴェはにこりと笑みを浮かべた。
 セレナーデを抱いたノクターンも、子供と一緒に夕日を見る。
 別れの言葉を言おうとしたところで、またもや引っ張られるツインテール。
 しかしこの悪戯も、今後子供が生まれるまでお預けになるのだ。
「んじゃ、またな。悪戯は程々にしておけよ」
 ふ、と笑い、ノクターンはぽんっと頭を撫でた。
「遠い未来かもしれませんけれど、またお会いしましょうね?」
 寂しげな顔をするラヴィと、その肩を抱くジルベール。
「ラヴィとまた会いたかったら、ぱぱの子になってまた生まれてくるんやで、トゥーリー。その時までお前の大好きなラヴィは俺が守ってるからな」
 トゥールはジッと父親の顔を見、偶然か頷く仕草を見せる。
「ラヴィ、もっといろんな事を学んで、セリーの、‥‥トゥーリーの‥‥優しくて強いお母さんになりますわ」
 ぎゅっと二人を抱き締める。
 そこへジルベールの囁くような声が降った。
「――おやすみ」

 日没と共に消えた沢山の子供の声。
 耳に残る程聞いたその声に再会出来るのは、また数年‥‥または数十年後の事である。