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■オープニング本文 蝉の鳴き声がそこかしこで聞こえ始めた頃。 貸本屋の南橋石斑魚がこの村を訪れるのは二度目だった。 一度寄った時に本を貸し、徒歩で一日の隣村でも商売した後に回収のために立ち寄ったのだ。 「っと、ここが最後か」 暑いからと通り過ぎるところだった。 顔を扇いでいた扇子をしまうと、石斑魚は表札を確認してから玄関へと向かう。 そこで名字を呼ぶと、すぐに一人の男――この家の主人である山木信郎(やまき・のぶろう)が出てきた。 「おや、南橋さん!」 「こんにちは。本の返却をお願いしたいんだが‥‥」 「暑いところすみませんねぇ、ちょっと部屋から持って来るんで中で待っててくださいよ」 信郎はそう言うと石斑魚を客間に通し、台所に寄って何か言ってから襖の向こうへと歩いていった。 石斑魚が正座して待っていると、現れたのは盆にお茶をのせた女性だった。年齢こそ石斑魚よりも年上だが、美人と言っても差し支えない顔形をしている。 「麦茶です、どうぞ」 「ああ、ありがとう」 そこへ黒本を持った信郎が戻ってきた。 「いやあ、面白い本でしたよ。これを書いた人は何と聡い‥‥」 感層を述べかけ、盆からお茶を持ち上げたところだった女性に気がつく。 「あっ、私の妻の恵美子です」 紹介し、夫婦で頭を下げる二人。 聞けば半年前に結婚したばかりなのだという。 「この前は買い物に出ていたので、南橋さんとは初対面ですね」 と、にこにこしていた信郎の顔が曇る。 「‥‥家のことを外に持ち出すのはどうかと思うんですが、ちょっとだけ相談しても良いでしょうか、南橋さん」 「あなた」 「恵美子、第三者の意見も聞いてみたいんだ」 そう言う夫の顔を見、恵美子は引き下がる。 「良いが‥‥そんなに良い意見は出せないぞ?」 何かに巻き込まれるフラグではないだろうか。 そんな慣れ切った感覚に身を任せつつ、石斑魚は信郎を促す。 「じつは――」 山木家には信郎と恵美子の他にもう一人居る。 それが恵美子の連れ子である永太郎だ。 信郎は初婚だったが、恵美子は再婚だった。一緒に暮らすようになった最初の頃から永太郎は信郎のことを避けており、夕飯もしぶしぶ一緒に食べている感じだったという。 永太郎は七歳。もう子供によってはそれなりの知識がある年齢だ。 「父親でない私を怖がっているのかもしれません」 信郎はそう肩を落とす。永太郎がこちらに向ける目は、赤の他人を見る目なのだという。 どうにか距離を詰めたいと様々な案を出した信郎だったが、片っ端から撃沈。 今もいくつか案はあるが、もうどれが成功しそうなものなのか見当もつかないらしい。 「で、その案っていうのは」 「ええと‥‥まず一緒に遊ぶ、ですね。ただ永太郎は大人しい子なのでお絵描き等が良いかもしれません」 他には字を教える、昔話を聞かせる、花を一緒に育てる。 ああ、それとこれが一番有力なんですよ、と信郎が言ったのは寿司作りだった。 「寿司?」 「ええ、先日出前を取ったんですが気に入ったようでしてね。家で一緒に作ったらどうかなと」 石斑魚はジッとしたまま数秒黙り込み、永太郎のことをよく知っているであろう恵美子を見た。 「その永太郎って子、人見知り激しいんじゃないか?」 「えっ‥‥あ、はい、赤ん坊の頃からそうで」 「他人との接し方が分からないから信郎さんとも打ち解けられないんだろう、それに‥‥失礼だが友達の数は?」 恵美子は少し目を泳がせた後、多くはないです、と答えた。 石斑魚はパチリと一回だけ手を鳴らす。 「それじゃあその寿司作り、パーティー形式にしちゃどうだ」 「で、でもそんなに知り合いは居ませんし」 「大丈夫、ツテはある」 書くまでもないことだが、ギルドのことだ。 (まあ、たまには開拓者にもこういう時間が必要だろうしな‥‥) 今まで会ったことのある者達の顔を思い返しつつ、石斑魚は二人と大まかな日取りを決め始めるのだった。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ラスター・トゥーゲント(ia9936)
10歳・男・弓
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
華表(ib3045)
10歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●皆で作ろう その日、山木家の台所からは酢の良い香りが漂ってきていた。 (なんで今日はこんなにお客さんが居るんだ‥‥!?) 来客があることは聞かされていたが、台所が狭く見えるほど来るとは思っていなかった。 永太郎は玄関まで離れた後、ふうと息をついてから壁にもたれかかる。 「そこで何してるのかな?」 「えっ、あ」 声のした方を向くと、永太郎に目線を合わせてしゃがんだ井伊 貴政(ia0213)が居た。 「べ、別に。向こうは人が多いから」 「ははは、たしかに多いねぇ。でも永太郎くんのスペースもちゃんと用意してあるんだ。良かったら来ない?」 「僕の‥‥?」 貴政は優しそうな表情を浮かべて頷く。 「一緒にお寿司を作れたら、きっとお母さんも喜ぶよ」 恐らく永太郎にとって一番身近であろう人物の名を出す。 永太郎は「でも」や「えっと」と悩んだ挙句、こくりと首を縦に振った。 ●酢の香りに囲まれて 焼いた塩鮭の身をほぐしていた礼野 真夢紀(ia1144)が顔を上げる。 そして台所の入口に貴政と永太郎の二人を見つけ、箸を置いて手招きした。 「これから鮭を酢に漬けるんです、やってみますか?」 「や、やっていいの?」 「はい、あたしは隣で胡瓜を切っておきますんで」 真夢紀は永太郎に箸を渡し、包丁に持ち替える。 恐る恐るといった手つきで酢に移していく永太郎。その横からトントントンという軽快な音が響いてくる。 「上出来上出来♪」 永太郎の手元を見て叢雲・暁(ia5363)がにこやかに言う。 そして、あっ、と気付いたような顔で自己紹介した。 「僕は叢雲暁。今日は宜しくね!」 「ぼ‥‥僕は山木永太郎。宜しく」 緊張した面持ちでそう返す永太郎。 暁は現在十歳くらいの姿に変装しており、永太郎は年の近い子への接し方がよく分かっていないらしい。 (緊張してる緊張してる。まあ、ゆっくりやっていこうかな〜) そんなことを考えつつ、暁はにこにこ顔で会釈した。 「よし、良い鰯が手に入ったでござる!」 真向かいでは四方山 揺徳(ib0906)が鰯と飛魚をまな板に載せ、嬉しそうに笑っていた。 「拙者はシャリと魚を別々に出すでござる、これはこれで趣があっムシャムシャうめえ!」 「もうお召し上がりになっているんですか‥‥!?」 驚いた顔をする華表(ib3045)に揺徳は親指を立て、空いた片手で口元を拭う。 「拙者の目に狂いはなかったでござる!」 美味だったらしい。 そこで横に居たラスター・トゥーゲント(ia9936)が首を傾げる。 「でもネタとシャリが別々って、それってお寿司ー?」 「こ、細けぇ事は良いでござる!刺身も寿司も美味しいから良いはずでござるー!」 「まあ‥‥たしかに美味しいし、いっか。もぐもぐ」 「ラ、ラスターさんまであんなに沢山頬張って‥‥!」 がーんと軽くショックを受けつつ、気を取り直して華表は持ってきたかんぴょうと卵焼きを取り出す。 そして最後に取り出したのは新鮮な色合いの胡瓜だった。 「良い胡瓜だ、少し拝借しても良いかな?」 「ええ、半分はそのまま食べる用にこちらで切りますね」 柔和な笑みを浮かべ、華表はからす(ia6525)に数本の胡瓜をわける。 それを受け取り、手際良く切ったからすは卵焼きに取り掛かった。とはいえ卵焼きは既に完成した状態だ。今度はこれを縦長に切っていく。 「‥‥それは何に使うの?」 興味を持ったのか、作業を終えた永太郎が尋ねてきた。 「手巻き寿司だよ。他にはこんなものも用意してある」 言い、見せたのは蟹蒲鉾とレタス。 「お、お寿司にレタス、ですか?」 思わず反応してしまったのは信郎だった。 「海苔の代わりにレタスというのも面白いぞ、後で食べてみるといい。‥‥ああ、巻く時のコツを少し教えておこうか」 からすは永太郎たちの近くに移動し、手元を見せる。 「此方の方にシャリを乗せる。すると見栄えがよくなる」 「量はそれくらいの方が良いのかな」 「多すぎると巻いた時に不恰好になるな」 少し笑い、からすは続ける。 「上のほうにシャリを多く乗せると巻きやすくなるよ」 「うわ‥‥本当だ、売り物みたい」 目を輝かせた永太郎は凄いものを見つけたかのようにパッと信郎を見る。 しかしすぐにハッとし、不自然な動きで目を逸らした。 ‥‥慣れるにはまだ少し時間がかかりそうだ。 「これは何かしら?」 真夢紀の手元を見てそう聞いたのは恵美子だった。 「マヨネーズ、というものです。ジルベリア出身の人に教えてもらいました」 「ジルベリアには面白いものがあるのね‥‥」 「けれど卵やお酢から出来ているんですよ。塩などで味を調えたりしますが」 恵美子は目を丸くし、身近な食材からこんなものが生まれるのね、としきりに感心する。 と、その時玄関の戸を引く音が耳に入った。 「すまない、少し遅くなったね」 箱を抱えた衛島 雫(ia1241)が台所に入ってくる。今日は勇ましい姿ではなく、普通の町娘姿だ。 蓋を開けると、そこにはスズキとマグロが入っていた。 「急だったが買うことが出来たよ、早速作業しようか」 髪を背中で纏め、袖を結って留めてから手を洗う。 「捌けるのか?」 手持ち無沙汰といった風に料理本を熟読していた石斑魚がヒョイと覗き込んだ。 任せておいて、というように雫は片手を上げる。 「それより飯が足りなさそうだ」 「ああ‥‥じゃあ俺が追加で炊いておこう。失敗したら焦げた酢飯になるかもしれないが」 肩を竦め、石斑魚は米をとぐために机から離れた。 「えーいーたろうくんっ」 「うわっ!な、なに?」 突然腕に飛びついてきた暁にびっくりしつつ、永太郎は聞き返す。 「いくつか握れたんだけれど、味見してみない?」 酢の加減とかが気になるんだ〜、と暁は笑う。 永太郎はチラッと他の皆を見てみた。――味見や試食をしている者はそれなりに居るようだ。 「えっと‥‥じゃあ一つだけ」 「了解っ!それじゃあイカの握りはどう?こうしてレモン汁を塗って‥‥」 暁は白く艶やかなイカの上にレモン汁を薄く塗る。 「そして塩をかけると美味しいんだよ」 「こんな食べ方あったんだ」 今までかけるものといえば醤油、ちょっと変わったものでも青紫蘇しかなかった永太郎には物珍しかったらしい。 ぱくりと口に入れ、ほんの一瞬酸っぱそうな顔をする。 しかし嫌な酸っぱさではなく、イカの甘みを引き出す良い味加減だった。 「美味しい‥‥これ好きかも」 「白身の薄造り系の握りにも合う味付けだよ、いっぱい作っておくから楽しみにしててね〜!」 暁はレモンの他にカボスやライム、ユズ等も用意してきている。味のバリエーションは広そうだ。 「あっ、そうだ。後でこの方法をお父さんにも教えてあげてくれる?」 「えっ?」 「美味しいものは分かち合わないとっ!」 話しをするきっかけになれば、と暁はそう提案した。 永太郎は少し逡巡する。 「でも、話を聞いてくれるかどうか‥‥」 「大丈夫だよ、話を聞いてくれない父親が一緒にお寿司作りをすると思う?」 それを聞いて永太郎は少しだけ笑い、後で言ってみる、と約束した。 華表がジッとこちらを見ているのに気付き、貴政が手を止める。 「どうした?」 「あ、いえ‥‥可愛らしいお寿司だなと思いまして」 はにかみつつ華表は貴政の作っていた寿司に視線を戻す。 「ああ、手まり寿司なんだよ。ちょっと気合を入れて作ってみようと思ってね」 手まり寿司は一口サイズの小さな寿司だ。食べやすい上に可愛く、目で見ても楽しむことが出来る。 貴政は雫の買ってきたマグロの一部を使い、赤い手まり寿司を作って皿に並べているところだった。 「こうして円状にならべて、真ん中の空いた部分に細く切った卵を入れると――」 「花、ですね‥‥!」 「正解」 他にも魚をミンチ状にして上にそえたもの、薄い卵焼きで酢飯を包んだもの等ある。 「可愛いですね」 青紫蘇の実の塩漬けから塩抜きをしていた真夢紀が言った。 「そっちも順調かい?」 「はい。手巻き寿司は用意出来たので、ちらし寿司の仕上げに取り掛かっています」 そこへ石斑魚が追加の酢飯を持ってきた。 真夢紀はそれに胡瓜や塩漬け、そして永太郎の手伝った鮭の酢漬けを入れ、しゃもじで米を潰さないようにしながら掻き混ぜる。 「ちらし寿司を作るのも結構な重労働だね‥‥」 「完成した時のことを考えれば何てことありませんよ」 貴政にそう答え、真夢紀は手を止めてすりごまを追加した。 ●色とりどりの‥‥ 「握り寿司にー、手巻き寿司、ちらし寿司、手まり寿司、押し寿司ー!」 ズラッと並んだ寿司たちを見てはしゃぐのはラスターだ。 「よーし、いっぱい食べるぞー!」 「喉に詰めないよう注意、でござるよ?」 その時はお茶を沢山飲むよー、とラスターは揺徳に答えた。 食卓には真夢紀の作った紫蘇ジュースやからすの用意した煎茶、華表の持ってきた緑茶などが並んでいる。いざという時は選り取り見取りだ。 「おや?」 揺徳は部屋の出入り口でどこに座ろうか決めあぐねている永太郎を見つけた。 皆と普通に会話出来るくらい慣れてきたとはいえ、生来要領が悪いらしい。 「少年、ちょいと手伝って欲しいでござる」 揺徳は箸を手に持ち、それを並べていこうと永太郎に手招きする。 ぎこちなく手伝う永太郎を見つつ、それが終わると自分の隣に座るよう誘導した。 永太郎から見て左側が揺徳、そして右側が――信郎だ。 「それじゃ、いただきまーす!」 ラスターが勢い良くそう言い、寿司を口にひょいひょいと入れていった。 「美味そうに食べるね」 くすりと笑い、からすも箸を手に持つ。 からすが用意したのはお茶の葉の押し寿司だ。 味付けには山椒が使われており、茶葉と紛茶の上に海老の載った、味だけでなく見た目も落ち着いた寿司だった。 「これ‥‥初めて食べたけれど、素敵ね」 恵美子の感想にからすは笑みを浮かべる。 「お茶もおかわりがある、必要なら言ってほしい」 「ええ、お願いするわ。‥‥あら、温かいお茶なのね」 からすの淹れた煎茶を見て言う恵美子。 ものによっては魚脂がとても多い。魚脂が口に残っていると、次に食べた物の美味さが半減してしまうのだ、とからすは説明した。 「じゃあおいらもそろそろグイッと飲んだ方が良いかなー?」 貝の次はカツオ、その次はスズキ、マグロ、イカ、ウニと食べていたラスターがそう言うと、恵美子が微笑ましそうにくすくすと笑った。 そんな母の顔を見、自然と永太郎の肩の力も抜けていく。 「あ‥‥」 さて自分も食べようと思った時、醤油点しが近くにないことに気付いた。 視線を巡らせ、信郎の右手側にあることに気付く。 「‥‥」 立てば取れる。 しかし――少し考え、永太郎は信郎の袖を引いた。 「し、醤油、取ってもらえる?」 信郎は目を瞬かせ、そしてハッとしてから醤油点しを取って渡した。 しばし二人は沈黙する。 初めに口を開いたのは永太郎の方だった。 「えっと‥‥。こ、このイカの美味しい食べ方、知ってる?」 ●親の心 寿司はどれもこれも人気で、一つしかない醤油点しはあっという間に空っぽになった。 それに醤油を足して戻る最中、信郎は廊下に出ていた雫を見つける。 「手ごたえはどうだい」 「まだよく分かりませんが‥‥妻も永太郎も喜んでくれているようで嬉しいです」 その返答に雫は微笑む。 「新しい家族か。私も似たような経験をしたな」 「衛島さんも、ですか?」 「ああ、まあ、私の場合は幸いにも娘たちの方から懐いてくれたけどね」 子供の考えを知るのは大変だよ、と雫は頬を掻く。 「永太郎もそういう風に懐いてくれれば良いのですが‥‥」 あ、でも、っと信郎は笑顔を浮かべる。 「さっき永太郎から話しかけてくれたんですよ。イカの食べ方まで教えてくれて‥‥!」 「ははは、その調子なら打ち解けられるのも時間の問題かもしれないね」 「ええ、いつか自然にお父さんと呼んでもらえるよう頑張ります」 永太郎が、恵美子をお母さんと呼ぶように信頼を込めて呼んで欲しい。 信郎はそう言い、息子の待つ部屋へと戻っていった。 ●宴の終わり 「これ口直し用、良かったらどうぞ」 ふわりと香る紫蘇の匂い。 貴政は真夢紀から紫蘇ジュースを受け取り、カラン、と氷を鳴らす。 この氷は真夢紀が氷霊結で作ったもので、魚や傷みやすいものの運搬でも大活躍していた。 「ありがとう。しかし‥‥手巻き寿司が楽しくて食べ過ぎたかもしれないな」 「ラスターさんのように横になっても良いと思いますよ?」 お腹一杯お寿司を食べたラスターは座布団を枕にし、すうすうと寝息を立てていた。 「はは、それも良いけど今はこれを楽しませてもらうよ」 紫蘇ジュースを一口飲み、笑う。 寿司パーティーはもう終盤、そろそろ片付けに入ろうかというところだ。 恵美子と暁、からす、石斑魚は既に台所へ洗い物に行っていた。 使い終わった調理器具を水に浸けたままだったのだ。それに加え、現段階で使い終わった皿や箸などを洗っている。 「さて、飲み終わったら台所組を手伝いに行こうかな」 言って、貴政は大きく伸びをした。 玄関から一歩出ると、道は暖かなオレンジ色に染まっていた。 「今日はありがとうございました」 「いや、こちらこそ」 頭を下げる信郎と恵美子に開拓者たちは会釈する。 「お寿司美味しかったよー、またしたいなぁ!」 「またやることになったら、是非立ち寄ってください」 ラスターに笑いかけながら信郎がそう言う。 「では‥‥今日はこの辺で御暇しますね」 「永太郎君、お父さんたちと仲良くするんだよ〜!」 「お二方もあまり無理はしないようにな」 そうして開拓者たちは山木家の人々に手を振り、その場を後にした。 九人を見送る信郎と恵美子。 ――その足元には、いつもより信郎の近くに居る永太郎の姿があったという。 |