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■オープニング本文 あるところに挙式を間近に控えた一組のカップルが居た。 男の名を佐乃介(さのすけ)、女の名を夏美(なつみ)という。 「準備出来たかー?」 「うん、出来たよ」 これから夫となる佐乃介の問いに、白無垢に身を包んだ夏美が振り返って答えた。 二人とも二十代前半で、まだ衣装を着ているというより衣装に着られている感じがある。 佐乃介は夏美の隣に座ると、服のシワにならないよう気をつけながら背伸びをした。 「あとは待機しておくだけだな‥‥あー、緊張する!」 その様子にクスクスと笑う夏美。 と、その時部屋のドアを誰かがノックした。 「おっ、明太じゃんか!」 開けた佐乃介が喜びの声を上げる。 そこに立っていたのは佐乃介の親友である明太(みょうた)だった。花束を片手に持っており、にこにこと笑みを浮かべている。 「ちょっと早く着いてな、式場じゃ落ち着いて話せないだろうし先に挨拶に来たんだよ」 部屋の中に入った明太は花束を夏美に手渡し、そう説明する。 「他にも来てる奴は居たか?」 「ああ、入口の方に数人な。親族はもう別室に居るんだろ?」 頷く佐乃介に笑みを返し、明太は改めて夏美を見る。 「いやあ、本当に夏美さんは佐乃介にゃ勿体ないくらいだ」 「ちょっとちょっと、お世辞を言ったって何も出ないよ?」 いやいや本当だよ、と明太は歯を見せる。 それが嘘ではなかったと証明されたのは、それから少し経ってからだった。 ●ギルドへ 椅子を勧められて座った佐乃介はまだ興奮状態から抜け出せていない様子だった。 気を利かせた受付嬢からお茶を受け取り、やっと大きな息をひとつつく。 「落ち着いて説明してくださいね、ちゃんとメモをしますので」 「あ、ああ。大人気ないことをしてスマン」 佐乃介がギルドへ駆け込んできたのは、今日の昼過ぎ。 その時は物凄い剣幕で、受付嬢だけでなく他に用事があって来ていた者達まで全員目を丸くした。 なんとか落ち着きを取り戻した佐乃介はお茶を一気に飲み干して語り出す。 曰く、親友の明太が夏美というこれから妻になる女性を攫ったのだという。 しかも刃物――恐らく小刀――を持ち、式場へと立て篭もった。 式場は広いが、立て篭もっているのは奥の待合室。ここは新婦と新郎用の部屋で、大体六畳ほど。 出入り口は襖二枚分だけだが開けられないようにされており、窓は荷物で塞がれている。 外から中の様子を窺うことは出来なかったが、どうやら夏美は生きているらしい。 犯人である明太も「近づくな」と警告を発したことから、まだ存命中だ。 「なぜ彼はそんなことを‥‥?」 受付嬢の問いに佐乃介は下唇を噛む。 「昔から夏美のことが好きだった、らしい。俺より早く出会っていたら‥‥ってずっと喚いてやがった」 そして頭を抱える。 「あいつは子供の頃からの親友だったんだ。なのになんでこんな‥‥」 秘密基地を作ったり、珍しい虫を追いかけたり、川で二人してズブ濡れになったあの頃。 大きくなってからも出掛ける機会は多かったし、勤め先も徒歩数分という近さだった。 「でも、でもな。夏美をこんな危険な目に遭わせるなんていうのは許せない。どうにかして協力してくれないか?」 縋るような目で言う。 早くしないと、夏美が更に危険になる可能性が高い。 受付嬢は佐乃介の肩を叩いた後、ぐっ、と書類に判を捺した。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
千羽夜(ia7831)
17歳・女・シ
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
千代田清顕(ia9802)
28歳・男・シ
賀 雨鈴(ia9967)
18歳・女・弓
豊姫(ib1933)
23歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●花婿 人生の晴れ舞台なのに気の毒だ――集まった開拓者達はそう同情した。 「明太の気持ちも分からんでもないが、ここまでするのは無粋だな」 景倉 恭冶(ia6030)は両腕を組んで言う。 本当なら今頃、二人は幸せそうな笑みを浮かべて夫婦になっていたことだろう。 その片割れである佐乃介は今、明太の立てこもる部屋から少し離れた所まで来ていた。 「大丈夫か?」 青い顔をして椅子に座る彼を心配したのか、千代田清顕(ia9802)が声をかけて握り飯を差し出した。 「腹が減っていては良い事も悪い方にしか考えられない。まずは腹を満たして落ち着くといい」 「ああ、すまん‥‥」 そういえば長い時間、何も食事を取っていなかった。 握り飯を受け取り、それにかぶり付く。 「説得役は出来そうか?」 豊姫(ib1933)が問うと、少し強ばった顔をして佐乃介は頷いた。 今回は初めに佐乃介が明太の説得をする。 それがもし失敗した時の作戦も考えてあったが、皆説得の成功に期待していた。 「でも少し不安だよ、カッとなって殴っちまわないかってさ」 「‥‥夏美さんは私達が絶対に助け出すわ。酷かもしれないけれど、ここはグッと抑えて」 そう千羽夜(ia7831)が言う。 きっと、この中では一番佐乃介の言葉が明太の心に響くだろう。 それが良いものか悪いものかは試してみないと分からないが、佐乃介は意を決したように首を縦に振った。 開拓者達は佐乃介から明太との思い出話を聞いたり、見取り図と建物を照らし合わせたりしながら準備を進めてゆく。 ●説得の言葉 説得には顔を合わせることが一番効果的だったが、そう簡単にはいかない。 そこで賀 雨鈴(ia9967)が「怠惰なる日常」を演奏し、明太の戦意を削ぐことにした。 「本当は偶像の歌で支援したかったけれど‥‥ごめんね」 一度に二つは演奏出来ない。 雨鈴は申し訳無さそうにしたが、自分の力で頑張ってみると佐乃介は答えた。 「明太!」 固く閉まった襖の前まで行き、名前を呼ぶ。 ‥‥返事はない。 「明太、居るんだろう。話がしたい、時間をくれ」 また返事はない。 しかし今度は何かが動く音がした。 ス、っと襖が半分だけ開き、いつの間にか猿ぐつわを噛まされた夏美と共に明太が顔を見せる。 「明太‥‥」 「話をする状態じゃないと思うが」 一触即発か――そう思い、近くに待機していた守紗 刄久郎(ia9521)は身構えたが佐乃介はかぶりを振る。 「それでも聞きたいんだ、お前が何を思ってこんなことを起こしたのか」 「聞いて何になる?もう戻せるものなんて何一つ無いんだぞ」 「いや、まだやり直せる。お前は俺の親友なんだから」 明太はギリッと音がするくらい唇を噛む。 「その言葉は嫌いだ」 お前は親友だ親友だと言いながら、いつも俺の先を行く。 そう明太は吐露した。 幼い頃、カブトムシを捕る罠を作ったのは自分なのに、大きいものを手に入れるのは佐乃介ばかりだった。 他の仲間に認められるために川へ飛び込んだ時も、上がってみれば仲間は皆佐乃介の作った小船に夢中になっていた。 そんな時に湧き上がってきた感情を明太は恥じたが、成長するに連れ、それも大きくなっていった。 そうして大人になった頃、明太は花屋で働く女性に恋をする。 しかし数日後、その女性とは佐乃介の彼女として紹介され再会した。 明太が行動を起こすのが遅かった訳ではない。全てタイミングが悪かったのだ。 それを自覚してそんな星の下に生まれた事を呪いもしたが、昂ぶった気持ちは静まらなかった。 「こういう運命には実力行使で向かってくしてないんだよ、佐乃介」 「明太、お前っ‥‥」 ピシャリッ!! 言い終えた明太はまた襖を固く閉じてしまった。 自分にも、そして夏美にも非があった訳ではない。明太だってやりたくてやった訳ではないだろう。それを知り、佐乃介の顔はさっきより青ざめていた。 「佐乃介、こっちへ」 離れた所で待機していた水鏡 絵梨乃(ia0191)が近寄り、手を引いて部屋から距離を取らせる。 「この後のことも考えてあるから心配するな。気を確かにな」 「‥‥わ、わかった。すまん」 絵梨乃はポンと肩を叩き、次の作戦のために料理の載ったお盆を持つ。 料理はしらすの入った握り飯と味海苔を巻いた卵焼き、そしてシメジの入った薄口の味噌汁だ。 これは予め聞いた明太と夏美の好物を参考に作ったもので、差し入れという名目で持って行き懐柔するためのものだった。 ちなみに作ったのは料理の得意な万木・朱璃(ia0029)である。 「これで明太さんの気持ちが少しでも落ち着いてくれると良いのですが」 朱璃は少し心配げに言う。 それに、ちゃんと聞いた通りの料理を再現出来ただろうか。 「まあ‥‥私に三人のことは分かりませんが、料理は嘘をつきませんしね」 成功を信じて待っています、と朱璃は絵梨乃を見送った。 ●飯 明太はイライラしていた。 なぜさっき自分は不用意に外へと出てしまったのだろうか。 それは「怠惰なる日常」の影響だったが、それを知らない明太は頭を掻き毟る。 「‥‥」 そんな姿を見ながら夏美は怯えていた。 さっきの話を一緒に聞き、少しは同情したが理不尽すぎる。 なぜこんな目に遭うのだろう、これからどうなるのだろう、そう考えると座っていても足が震えた。 そこへ襖の外から声がかかった。 佐乃介ではない、若い女の声。 「あの、これ、お腹が空いてると思って持ってきました」 明太が眉を顰める。 「なんだ」 「ご飯です。あの、頼まれただけでこれ以上は知らなくて‥‥」 飯、という単語に腹が反応する。 様々な決意をしてここまで来た。腹ごしらえもしてきたが、さすがに時間が経ち過ぎている。 このままでは空腹で力が出せない。 「‥‥そこに置け」 「う、受け取ったことを確認させてもらえませんか?」 断りかけた明太だったが、雨鈴の偶像の歌により相手の言葉が重要であるかのように錯覚した。 チッと舌打ちし、夏美を盾に襖を開ける。 するとそこには気の弱そうな、それでいて物腰の柔らかい女性が立っていた。 先ほどまできびきびと動いていた絵梨乃その人だったが、明太は露ほども知らない。 「夏美さんにも、食べさせてあげてください」 「夏美、に?」 「はい」 「‥‥」 返事はせず、明太はそれを受け取って襖を閉める。 自分が腹を空かせているのと同じく、夏美も腹を空かせているだろう。 明太は言われるまで気付かなかった事に少なからずショックを受けていた。 「‥‥毒見も兼ねて食ってくれ」 「‥‥」 「ほら早く。‥‥あ」 猿ぐつわがあっては食事を取ることは叶わない。 調子の狂った明太は「くっ」と声を漏らし、夏美の猿ぐつわを取って、そして毒見と言いつつ料理を全て譲った。 ●二人の様子 「俺は何か情報を得ることが出来たら、一旦皆の元に戻ろう」 「私は二人を見張っておくわね」 屋根裏に侵入し、明太と夏美の様子を探るのはシノビである清顕と千羽夜の役目だ。 二人は抜足でゆっくりと移動し、予め聞いておいた別室の物置の天井から屋根裏に入る。 慎重に進んでゆくと待合室の上まで行くことが出来た。 光源の無い屋根裏は暗かったが、音はよく聞こえる。 「‥‥」 食器の音。 どうやら片付けているところらしい。 超越聴覚を使用し、なるべく多くの情報を得られるよう工夫する。 (事前の情報にあった間取りと違わぬようだな) 清顕は音の反響からそう判断する。 その隣で千羽夜が室内を覗ける場所が無いか探り始めた。 きちんとした作りの建物だが、古いためチラホラと光の漏れる場所があったのだ。 なんとか待合室内を見れる隙間を発見し、千羽夜は清顕を呼び寄せる。 「‥‥?」 夏美に猿ぐつわが無い。 食事の時に外したのだろうが、それなら終わった後にもう一度付けるはずだ。 夏美は一言も発さず、明太の前に座っている。 しばらく待ったが、どうやら明太が何かを夏美に話そうとし、そしてその度に言葉を飲み込んでいるようだ。 あまり長い間様子を窺っても事態は動かない。清顕は得た情報を持ち、仲間達の元へと退いていった。 「夏美に危害が加わる可能性が低くなった、ってことか」 報告を聞き、刄久郎が自分の顎に手を当てる。 「いや、でもそれは二人きりだからかもしれへんぞ」 自分達や佐乃介の姿を見たら態度を豹変させるかもしれないし、自衛のために夏美を盾にするかもしれない。恭冶はそれを危惧した。 「安心しい、いざって時はウチが取り押さえたるから!」 疲れた顔をした佐乃介を慰める豊姫。 きっと夏美もこの佐乃介と同じように不安な気持ちになっているだろう。 「早く助けたらんとな‥‥」 待合室の閉ざされた襖を見遣る。 次は、いよいよ突入だ。 ●部屋の中へ そろそろ日も落ちてきた頃。 屋根裏に戻った清顕は千羽夜に突入のことを伝え、二人の覗いていた隙間の上に立つ。 ミシッ、と音がしたが、明太がそれに気付くよりも先に清顕は板を蹴り抜いた。 「なッ‥‥!?」 全く予想していなかった場所からの侵入に、明太の体が固まる。 ハッと気付いて小刀を持った時には、夏美は千羽夜に保護されていた。 千羽夜は夏美確保成功の合図に呼子笛を吹き鳴らす。 「おらァッ!」 刄久郎が出入り口を塞いでいた荷物を襖ごと飛龍昇で打ち破った。 「お、お前らッ‥‥、‥‥!?」 小刀片手に夏美に向かって走り寄ろうとした明太だったが、刄久郎の咆哮に思わずそちらの方を向いてしまう。 「大丈夫ですか、夏美さん」 駆けつけた朱璃が縄を解き、夏美の両手を自由にした。 手首に薄く出来た痣を見、豊姫が怒号を発する。 「たわけッ!こないなことしても誰も幸せにならへんぞ!お前自身も不幸やし、第一いっちゃん好きな夏美さんを不幸にさせて楽しいか!?」 「っ!!」 痛いところを突かれたのだろうか、明太の顔が歪む。 「お‥‥お前らに俺の気持ちが分かるものか!」 そう叫んで走り出した明太の目の前に畳が立ちはだかった。 清顕の畳替えしだ。進行を邪魔され、思わず明太は畳を切りつける。 「好きな女を怯えさせてどうするんや、お前も男なら自分より相手の気持ちを優先したれや!」 「ぐっ!」 恭冶の剣気に気圧されて小刀を取り落とす。 慌てて拾おうとするも、それは豊姫に蹴り飛ばされてしまった。 「さっきはどうも!」 絵梨乃が瞬脚で人と人との間を走り抜け、戸惑う明太を押さえ込む。 ばたばたと暴れる明太の目に絶望が過ぎった。 (終わる、終わる、俺が‥‥ここで‥‥終わる) それは衝動的なことだったのかもしれない。 明太は舌を出し、それを噛み切ろうとした。 「そんなことをして何になるの!?」 早駆で背後に移動した千羽夜が、明太の首に手刀を打ち込む。 ガクンと脳が揺れ、明太の意識が飛ぶ。 そのままの勢いで舌を噛まぬよう豊姫が受け止め、ふうと一息。 夏美も無事で、明太も生きている。 誰一人として死人は居ない。 ●決着 「必ず助けるって言った通りでしょう?」 待合室での悶着には決着が付いたようだ。 突入時に今にも走り出しそうだった佐乃介。その彼を宥めていた雨鈴はニッコリと笑う。 「ありが、とう。良かった‥‥ありがとう、本当に‥‥」 豊姫らに付き添われて出てきた夏美を見て、安心した佐乃介が膝を折る。 「お礼は良いのよ、それよりも夏美さんを安心させてあげて」 佐乃介は頷き、夏美の元に走り寄る。 そしてその体をきつく抱き締めた。 「良かった、無事に助け出せて‥‥」 ほっと息を吐き、千羽夜は二人を見る。 仲睦まじい姿。これから夫婦になる、幸せそうな男女の姿だ。 「‥‥」 少し羨ましいと思った。 千羽夜は無意識に隣の恭冶を見、あの二人のように恋人同士になった自分達を想像する。 二人で手を繋いだり、ご飯を食べたり、優しく抱き締めたり――。 「ん、なんや?」 「なっ、なんでもないわ!なんでもないっ!」 真っ赤になって目を逸らされ、恭冶は首を傾げる。 「ま、これで上手いこと行くといいんやけどねぇ」 明太にはこれから罪を償ってもらうことになる。 普通の世界に帰ってこれるのがいつになるかは分からないが、また落ち着いて佐乃介と言葉を交わし、そして関係を修復してくれることを願わずにはいられなかった。 隠されていた気持ちを吐露した今、二人で本当に本心からの会話を出来るはずなのだから。 佐乃介と夏美の姿を見て、何か思うところがあったのは千羽夜だけではなかった。 「‥‥‥‥」 刄久郎は悩んでいる。 自分の想い人に告白をすべきか、否か。 (ま、まあ悩んでも仕方ない!) この人を幸せにしたい。その一心で刄久郎は声を絞り出した。 「好きだ!」 言われた相手は、雨鈴。 雨鈴は目をまん丸にし、思わぬ告白にしばし固まった。 そして段々と恥ずかしくなってきた刄久郎と共に頬を朱に染める。 「わ、わっ、私‥‥」 耳の先まで赤くした雨鈴は大いに照れた。しばらくまともに言葉を紡ぎ出せなかったくらいだ。 なんとか深呼吸をして自分を落ち着かせ、慎重に、慎重に返事をする。 「守紗さん」 「お、おお」 「私も――好きです」 口に出して伝えると、恥ずかしさはどこかに行ってしまっていた。 「いやしかし、私もあそこまで想われてみたいものですねぇ」 朱璃が夏美の痣の様子を確認し終えてから言う。 「た、楽しいものじゃないわよ?」 「うふふ、冗談ですって。冗談」 そして真剣な表情を浮かべる。 「それよりも‥‥これから大変かもしれませんが、頑張ってくださいね」 それは事件のことでもあるし、これから始まる夫婦生活のことでもある。 少し立ち直った夏美は朱璃に頼もしい笑顔を見せた。 一方その頃、清顕は意識を取り戻した明太の前に立っていた。 「明太さん、何故こうなる前に気持ちを打ち明けなかった?」 「‥‥」 「佐乃介さんとの関係が大事だったから追い詰められたのか」 明太は下を向いている。 「もしそうなら‥‥いつか幼馴染としてやり直して欲しい」 「それを佐乃介が許す、のか?」 上げた顔は憔悴しきっていた。 「佐乃介は許すと思うで」 歩いてきたのは豊姫だ。 「ウチは佐乃介ん様子も見とったけれど、あいつ夏美のことだけでなく明太のことも心配しとる様子やった」 それに、と続ける。 「説得の時の佐乃介の言葉、嘘やったとは思えないやろ?」 やり直せる‥‥。 その言葉が今やっと明太の心に沁みた。 声を押し殺し、涙は流さず、明太はただただ自分の行動を悔いるように唇を噛んだ。 あの夏の日のように、あの秋の、冬の、春の日のように。 また親友として語り合い、そして昔よりも本音で向かい合う。 それを出来るかどうかは、これからの明太達にかかっている。 それぞれ前を向いて歩んでいくことになる佐乃介と明太の二人。 その二人の無事を見届け、開拓者達は式場を後にするのだった。 |