片割ヲ想ウ
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/24 18:49



■オープニング本文

●むかしのはなし
「大人になったら‥‥!」
 木陰で少年が少女の肩に手を置いて言う。
「大人になったら、アヤナのことを迎えに行くから」
 少女、アヤナはそれを聞いて目に涙を溜めた。
 少年はこれから遠いところへと引っ越してしまう。この村に帰ってこれる可能性は低い。
 しかし、アヤナはその言葉を信じてコクンと頷いた。
「わかった、待ってるよ。だから‥‥その時は」
 アヤナと少年が半分ずつになった貝殻の飾りをそれぞれ手に持つ。
 そして示し合わせることもなく、二人で同時に呟いた。

「これを一つに戻して、一緒になろうね」


●進む道の先に
 約束した日は二人が二十歳になった年の、三月某日。
 あれから手紙を何度か送り合うことはあったが、別れてから実際に顔を合わせることが出来るのはこの日が初となる。
 しかし問題があるのです‥‥と少年、否、元少年である酒井弥助(さかい・やすけ)は言った。
「村に行く途中、必ず通らねばならない沼地があるんですが、そこにアヤカシが出るそうなのです」
 ギルドの受付嬢は頷く。
「先日報告がありました。なんでも大きなヒルの姿をしているとか」
「ええ、それに一体ならまだ良いのですが‥‥四体ともなると‥‥」
 弥助は声を沈ませる。
 そのアヤカシは人の二の腕くらいの大きさをしており、フォルムは縦縞の入ったヤマビルに似ている。
 色は黄土色のものと黒に近いものが居るらしい。それがぬかるんだ沼の中から突然飛び出してきて、人間の腹や喉に張り付いて血肉を啜るのだ。
 沼地は普通に踏みしめることの出来る地面もあるが、所々に沼が点在しており、その沼の存在に足を乗せてみるまで気付かない‥‥ということの多い地だ。
 現に毎年何人か、枯葉で隠れる等した沼に突っ込む者が居るという。
 底なし沼は無いらしいが、足場が悪く相手に地の利があるのは明白だった。一般人が一人で横断するには危険すぎる。
「そこで開拓者さんに護衛を頼みたいのですが、受けていただけますか?」
 弥助は縋るような目で見て言う。
 その手には、片方だけになった貝殻の飾りが握られていた。


■参加者一覧
那木 照日(ia0623
16歳・男・サ
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
燕 一華(ib0718
16歳・男・志


■リプレイ本文

●突入前にお話を
 日差しがあまり届かず、沼の付近は湿気った空気に包まれていた。
 開拓者八人と弥助は周囲を警戒しつつ歩いてゆく。
「小さい頃の、約束‥‥果たしに行く、んだね。アヤナさんって、どんな、人‥‥?」
 紗々良(ia5542)にそう問われ、弥助ははにかみながら答える。
「黒髪の可愛い女の子で、人にも動物にも優しく接すことの出来る子でした。成長してからは手紙でしか知らないので外見は変わっているかもしれませんが」
「そう、なんだ‥‥でも少し羨ましい、な。お嫁さんにもらうって、約束出来るのって‥‥」
 紗々良が小さな頃は周りにそういった人物は兄しか居なかった。しかし兄妹なのだから約束出来ようはずもなく、そんな経験は終ぞ無かったのだ。
 弥助はなんだか照れてしまったのか、あたふたしながら笑って誤魔化す。
「その約束、弥助にとって凄く大事な事なんだね‥‥だってほら、さっきから何かあると貝殻飾りを触ってるんだもん。僕ももう一度会いたい人が居るから、よく分かるな」
 しかし天河 ふしぎ(ia1037)にそう指摘され、誤魔化すのは失敗してしまった。
「そ、そういうふしぎさんも、そのゴーグルには何か思い入れがあるんですか?」
「え?あ、いや、恋人は別にちゃんといるんだぞっ‥‥会いたいのは、これをくれた船長なんだからなっ!」
 無意識にゴーグルに触れていたふしぎは真っ赤になり、咳払いをした。
 その様子にくすりと笑いを漏らしつつ、新咲 香澄(ia6036)が弥助に向かってグッと拳を握る。
「アヤカシのことが心配かもしれないけれど、ちゃんと村まで無事に連れて行ってあげるから安心してね!」
「はい、ありがとうございます‥‥頼りにしていますね」
 弥助は会った時と同じように頭を下げた。


●育った沼の子
「枯れ葉に隠れていて判別できない沼地もあるようなので、心眼と人魂を使いながら捜索しつつ移動しましょう。遭遇したらすぐ咆哮を」
 各務原 義視(ia4917)の言葉に、確認するように先遣班の燕 一華(ib0718)、ふしぎ、那木 照日(ia0623)が頷く。
 その後ろに続くのは護衛班。
 こちらは雲母坂 芽依華(ia0879)、橘 楓子(ia4243)、紗々良、香澄の四人だ。
 先遣班はまず一華の用意した長い棒で沼を突きながら歩を進めた。なるべく歩きやすい個所を選び、弥助らを誘導してゆく。
「広い沼ですね‥‥」
 照日が頭上にも注意しながら呟くように言う。
「確かにね‥‥そろそろローテーションを組んで心眼と人魂を使おっか」
「戦う前に練力が切れてはいけませんし、各自三回までに抑えられるよういきましょう」
 ふしぎに同意した義視がそう言い、人魂を使用して見づらい場所を覗いていった。
 先遣班が交互に心眼と人魂を使う中、護衛班の香澄と芽依華も同じように二つを交替で使いながら前進してゆく。
 沼は静かで、周囲の木々にも生き物の姿は見られない。
 と、香澄がぴたりと足を止めた。
「どうしました?」
「あっち‥‥あの大きな葉っぱの隣で、何か泡みたいなのが上がってきたよ」
 香澄が指差す先を見、義視が少し進んで一華に心眼を頼む。
 しばらく無言になった後、一華が皆を振り返る。
「何か居ますっ」
「しかしあちらはまだ気付いていないようですね」
「それじゃあ‥‥」
 一華は焙烙玉を取り出し、他の皆はいつでも動けるように武器を構える。
 バッと投げられた焙烙玉は宙を舞い、アヤカシが居ると思われる位置に落下。直後、耳を押さえたくなるような音をさせて破裂する。
「でた‥‥っ!」
 泥の中から跳ねるように飛び出してきたのは噂のヒル型アヤカシだった。
 大きな口が付いており、サメのような鋭い二枚歯がびっしりと並んでいる。
 そのアヤカシがこちらへ向かって来る前に、照日がスゥと大きく息を吸い込んだ。
「鬼さんこちら‥‥手の鳴るほうへ‥‥!」
 咆哮の効果を持ったその言葉に刺激され、ズチャッと地面の上に着地したアヤカシは脇目も振らずに先遣班へと突進してきた。
「ふしぎ、頼むよ!――急々如律令!」
 直後、義視が氷柱でそのアヤカシをふしぎの方へと吹き飛ばした。
「邪魔をするな、アヤカシ‥‥」
 炎魂縛武の炎を纏った斬馬刀を構える。
「僕達は、弥助の約束を繋ぐ道になる‥‥炎精招来、烈風火炎斬っ!」
 強く打ち付けられたアヤカシは粘着質な液を吐き出し、くるくると空中を舞う。
 更に前へと押し出たふしぎは桔梗突を繰り出し、まだ何が起こったか理解していないアヤカシを一刀両断した。
 ゴーグルの位置を直し、上手くコンビネーションを組めた義視に言う。
「まずは一匹、だね」

 二匹目はすぐに姿を現した。
 大きく迂回して進んで来たのか、なんと真後ろから突然現れたのだ。
「危ない、下がってて‥‥」
 後ろも警戒しながら歩いていた紗々良は弥助を庇うようにしながら、先遣班へと知らせるために呼子笛を吹く。
「ちょいと、お寄りでないよ!しっし」
 楓子は広げていた鉄傘を追い払うように動かす。
 彼女はナメクジのような生物が苦手なため、頭上を注意するという名目の元、こうして鉄傘を常に差していたのだ。
 もちろんいざという時には弥助を守るためにも使うつもりだ。
「こっちには来させないよ!」
 香澄の放った火輪が飛び、アヤカシを怯ませる。
「わ、わわわ‥‥!」
 皆に遅れること数秒、ようやっと間近にアヤカシが居ると知った弥助が目を瞬かせた。その時、前の方から声が飛ぶ。
「左にも居ますっ‥‥」
 走ってくる照日の指差す方向、そこにも泥を被ったアヤカシが姿を見せていた。
 鳴き声ではない空気の漏れるような音をさせながら飛び掛ってくる。
「うわぁっ!」
「弥助はん!」
 芽依華に押されて弥助は間一髪のところで避けたが、腕を切ったらしい。血が数滴地面に零れる。
「あんた‥‥覚悟しいや!」
 鞘に収めていた刀を抜き、再度飛び掛ってきたアヤカシに向かって一閃。
 アヤカシはのたうちながら地面に転がり、大きく痙攣して動かなくなった。
「飾りが‥‥」
 落としてしまった飾りに血の流れる手を伸ばす弥助。
 それを代わりに拾い、香澄が治癒符を押し当てる。
「貝殻、もう落としちゃダメだよ?」
「す、すみません、気が動転してしまって」
 青い顔をしている弥助の背をさすり、護衛班でその周りを囲むように移動した。
「動かれると困るんでね、そこでジッとしてな!」
 楓子が呪縛符をアヤカシに向かって放つ。呪縛符から現れた式はアヤカシの体に絡みつき、自由を奪った。
 そのまま勢いが殺される前に二撃目の斬撃符を発動させる。
 アヤカシは後方へと吹き飛ばされ、少し離れたところでグタリと体を横たえた。
「大丈夫どすか?」
 芽依華は弥助の様子を見、残った血を拭き取っていく。
 怪我の方の心配はしなくて良さそうだ。
「も、申し訳ない」
「ええんよ、これから恋しい人に会いに行くのに汚れとったらカッコつきまへん」
 綺麗になったのを確認し、先遣班と合流して先のことを話し合う。
 ここまでで倒したアヤカシは三匹。――あと一匹、どこかに居るのだ。


●最後の一匹
 今までよりも慎重に沼地を進むと、心眼を使っていたふしぎがピクリと反応した。
「近くに居る‥‥多分、沼の中」
「右ですか」
 義視はゆっくりと右側にある大きな沼を見た。左側は普通の地面なため、アヤカシが潜んでいるとするとこの沼しかない。
 と考えた瞬間、ぎらりと光る歯が沼から現れ、一番近くに居た照日へと襲い掛かった。
「‥‥!!」
 照日は十字組受でそれを受け止め、体を引くことでダメージを減らす。
 数が多ければこのまましばらく耐えるつもりだったが、残るアヤカシはこの一匹のみ。照日は素早く乞食清光に両手を添えると、強烈な一撃をアヤカシに叩き付けた。
「あと少しです‥‥っ」
「やって、みる‥‥!」
 ギリリッと弓を構える紗々良。悶えるアヤカシに狙いを定めるのは難しいことだったが、数秒の後に紗々良は矢を放った。強射「朔月」である。
「当たった!」
 弥助が歓喜の声を上げる。
 瀕死のところに貫通する一撃を食らい、アヤカシは動かなくなった。

 やがて黒い霧となり、風に乗るようにして消えることだろう。


●弥助とアヤナ
 遠目からでもそうだと分かる女性が、村の入口で心配そうに道の先を見ていた。
 その姿を視界に捉えた香澄が弥助の背中をポンッと押す。
「ほら、早く行ってあげなよ♪」
「は、はいっ」
 弥助は大きく息を吸い込み、片手を上げて彼女の名を呼んだ。
「アヤナ!」
「――‥‥弥助ちゃん!」
 子供の頃の癖が抜けずにちゃん付けしてしまい、ハッと口を押さえたアヤナに構わず弥助は彼女をギュッと抱き締めた。
 それから片方だけの貝殻を取り出し、アヤナに見せる。
 アヤナもそれを見て照れ笑いを浮かべた後、同じ貝殻を手の平に乗せた。
 それを一つに合わせ、嬉しそうに、幸せそうに顔を見る。

「こういうのって良いよね。微笑ましい」
 少し離れたところから見守っていた義視が言い、皆が頷く。
 先のことなど何も心配しなくて良い。自然とそう思えるような光景だった。
「ああ〜、らぶらぶどすな〜。ほんまに羨ましおすえ‥‥うちもそういう相手いぃひんかなぁ〜」
 芽依華が自分の頬に手をあて、夢見る乙女のような瞳でうっとりとする。
 しばらくキラキラとしたオーラを飛ばした後、ハッと我に返って咳払いをした。
「あわ‥‥早く祀に会いたくなりました‥‥」
 照日は自分の大切に思う者を思い出したのか、少しそわそわとながら帰るべき場所がある方角を見る。
「でも無事に二人が会えて良かったですねっ」
「うん、良かった。‥‥弥助、アヤナ、お幸せにね」
 一華の言葉に頷いたふしぎは、照日と同じように恋人のことを想いながら頷いた。
 再会を見届けた一華は明るい笑顔を浮かべ、この場の誰もが思っていることを口にした。
「どうか二人ともお幸せに、ですっ♪」