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■オープニング本文 その露天風呂で商売を始めたのは数十年前のこと。 初めは上手く軌道に乗り、それなりに良い暮らしを出来るくらい稼ぐことが出来たが、三年前に付近で起こったアヤカシ事件の影響で人気が一気に落ち、苦しい生活を余儀なくされていた。 しかし宿の主人による宣伝活動、そしてサービスの向上を図り、やっと今年に入って収入が上を向いてきたのである。 「それなのに‥‥」 いつかは起こるトラブルだろうと思っていた。 思っていたが、まさかこの大切な時期に起こるとは‥‥と主人は頭を抱えて唸る。 覗き。 男女を隔てる壁の薄くなるこの風呂という空間において、これほど迷惑なものはない。 何度か従業員総出で捕まえようと試みたが、その度に逃げられていた。 しかし最近の目撃証言から分かったのだ。その覗きの犯人はまだ外で虫を捕りに走り回っていそうな十代前半の少年である、と。 「‥‥お雪」 主人は妻を呼び寄せる。 いくら子供とはいえ、覗きを不純な目的で行っているのなら、そのままにしておく訳にはいかない。 だがこれで前科者にするのも後味が悪い‥‥と主人は思っていた。 「はい」 「なるべく波風を立たせずにアイツを捕まえるには、どうしたら良いと思う?」 「どうしたら‥‥。ギルドに、お願いしてみますか?」 やはりお前もそう思うか、と主人は両腕を組む。 開拓者を数人派遣してもらい、覗き少年を捕まえる。 そしてその後、この宿で真面目に働いてもらうのだ。もちろん給料は他の者より少なく、だが。 これが主人の考える最良の、そしてこちらの譲れるギリギリの線をゆく対処法だった。 「仕方ない、まずはギルドへ行くか‥‥」 主人はそう言い、重い腰を上げた。 少年は木の上で木の実を齧りながら、足をぶらぶらとさせる。 視線の先にある露天風呂に人影は無いが、ひとたび客が来ればその客が必ず訪れる場所であった。 「ここは良いポイントだなぁ〜♪」 周りは木々に囲まれているため、接近するのに苦労しないで済む。 あとは衝立の隙間や穴を探すのに少し手間取るくらいだ。 「あー、しかし最近ぺったんこな女の子ばかり来るんだよなー。そろそろ別のも見たいや」 貧乳も好まない訳ではないが、まあそれはそれ、これはこれである。 少年は大きく伸びをすると、次なる覗きポイントを探しにスルスルと木から下りていった。 |
■参加者一覧
シュラハトリア・M(ia0352)
10歳・女・陰
神楽坂 紫翠(ia5370)
25歳・男・弓
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
神咲 輪(ia8063)
21歳・女・シ
神喰 紅音(ia8826)
12歳・女・騎
白霧 はるか(ia9751)
26歳・女・弓
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●湯殿 囮作戦。 それが今回、開拓者達が覗き少年に対して取った作戦だった。 「いやはや。貸切と言うのは良いものだな、大いに羽を伸ばせる」 ネオン・L・メサイア(ia8051)は温泉に向かって歩きながら大きく伸びをし、息を吐きながら力を抜く。 緑色のビキニを着用している彼女だったが、どうしても豊かな胸が強調されていた。 「やー‥‥気持ち良いのですよー‥‥」 神喰 紅音(ia8826)も温泉を堪能している様子だ。 ――作戦のことを気にせずに本気で楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。 そんな紅音の背中にソーっと指を這わそうと近づくのはサーシャ(ia9980)。 「にゃにゃっ!お姉ちゃん抱きつく後こちがよさそうにゃ♪そんなわけでジャンピング抱きつきにゃー♪」 しかしそう言って抱きついてきた猫宮・千佳(ib0045)に阻止されてしまう。 「おや、抱きつくのが好きなんですか?」 「好きにゃー!」 「それじゃあこちらからもっ」 きゃあきゃあバシャバシャと音をたてる二人。 阻止されてもサーシャの目的はスキンシップを取ることだったので、不都合なかったらしい。 ‥‥もちろん、スキンシップは囮のためである。 「な、ななななんなんだよ今日は!」 いつもの場所から様子を窺っていた少年は、わなわなと拳を震わせ、そしてその拳で鼻血を拭いた。 ここへ入りにくる女性達を今までずっと見てきたが、こんなにも美女美少女揃いなのは今回が初めてだ。 「神か、神が僕にご褒美をくれたんだな!」 勘違い甚だしいことを言い、グッと手を握る。 そしてもっと近くで拝もうと、足が自然に前へと動いてしまう少年であった。 その気配をいち早く察知したのは、タオルを身に巻いたシュラハトリア・M(ia0352)だった。 「それにしてもぉ‥‥んふふぅ。よりどりみどりだねぇ♪」 もう少し少年の目線を釘付けにしておかねばならない。 シュラハトリアはスゥーっと湯の中を移動し、先に居たネオンの体に触れる。 「う、わっ!?」 「ネオンちゃんはぁ、普段どんなものを食べてるの?とぉっても大きいから気になっちゃってぇ〜」 「い、いや、特に変わったものは‥‥しかし弓を使う時は、これが邪魔なんだ。我的にはもう少し小さい方が‥‥」 弓使いも大変なんだねぇ、とシュラハトリアは触れたまましみじみと言う。 「でもぉ、おっきい方が良いって人が居たら‥‥見せてあげたい?」 そしてネオンにチラッと目配せした。 恐らく少年は目を離してはいない。 「そうだな」 察したネオンは自分の胸に触れ、少年が興味を持つように会話を進めていく。 「もしも居たら、我はこの水着を目の前で脱いでも良いな、ふふふふ‥‥」 「わぁ〜、大胆!」 「にゅ、なんの話してるのにゃー?」 「‥‥そっちこそ一体どうしたんだ?」 声を掛けた千佳はサーシャに前から抱っこされている状態で、なぜか移動には紅音まで巻き込まれていた。 ちなみに紅音はサーシャに連れられている状態だが、それでも温泉を楽しんでいる様子だ。 それからシュラハトリアとサーシャが何やらディープな会話に突入している中、紅音が端に居た神咲 輪(ia8063)を呼んだ。 「輪さんも混ざりませんか?」 その言葉を聞き、少しホッとした顔で近づく。 基本的に受身になることの多い輪は、どうやって皆の会話に混ざろうか考えあぐねていたのだ。 と、そこへ飛びつく千佳。 「お姉ちゃんもゲットにゃ〜♪」 「きゃー!?」 「あっ、ずる〜い。シュラハもまぜてぇ」 ばしゃばしゃー!っと湯の飛び散る露天風呂。 ネオンはそれを見、これは目を離せないだろうなと腕組みしながら思った。 ●少年捕獲 一方その頃、捕獲班である白霧 はるか(ia9751)と神楽坂 紫翠(ia5370)はゆっくりと少年が居るであろう場所へと向かっていた。 捕獲には人数が少ないかと思われたが、一般人の少年相手ならば不足はないだろう。 「しかし、覗き少年ですか‥‥まだ若いのに、今頃から‥‥道踏み外してます」 紫翠が嘆かわしいと呟く。 「思春期の男の子にはよくあることなんじゃないですか〜?」 はるかはキョトンとした顔で返した。紫翠は困ったような笑顔を浮かべて、立てた手の平を左右に振る。 「捕まえたとして、更生する気は‥‥あるんでしょうか」 「捕まえてみたら分かりますよ〜。あっ、ほら、居ました〜」 見れば、前の方に視線をがっちりと固定した少年らしき人物が居た。 囮班は上手くやっているらしい。 「‥‥真剣ですね〜」 「で、ですね‥‥」 紫翠は少年に気付かれないように咳払いし、二人でそろりそろりと近づいてゆく。 一瞬思っていたより大きな足音をたててしまいビクッとしたが、少年は全くと言って良いほど気付いていなかった。 そして――。 「つかまえましたよ〜」 「んぐっ!?」 はるかに後ろから抱きつかれ、同時に口元を塞がれた少年は妙な声を出した。 そしてそのまま抱きかかえられ、仕切りの一部を避けて露天風呂へと突入。少年はザバーン!っと湯船に沈められ、パニックになりながらも浮上する。 その目に初めに映ったのは、なぜか平静を保ったままな女性客達。 普通、ここは驚かないか? まさか‥‥と思ったと同時に「逃げなくては!」と思ったのか、少年が湯から出てダッシュする。 「逃がしませんよ‥‥!」 しかしそう言って紫翠の滑らせた石鹸を思い切り踏み、その場でスッ転んだ。 「いだぁ!って、え、何!?」 「ごめんなさい、ちょっと我慢してね?」 次に少年を襲ったのは、闇。 輪が手拭いで少年の両目を覆ったのだ。 じたばたとする彼を取り押さえ、シュラハトリアが意味深な笑みを零す。 「だいじょぉぶだよぉ、シュラハ達が優しぃくシてあげるから、ねぇ?」 「し、し、してって何!?っていうかどこ触ってるの!?」 「それを女の子に言わせるなんてぇ‥‥ふふ、おマセさんだねぇ」 「確かにおマセさんなのですー」 お仕置きには参加せず、にこにこと見物していた紅音が相槌を打つ。 「わ、わー!わーっ!」 それでもなお逃げようともがく少年にはるかが近づいた。 はるかは衣服の下に水着を予め着用しており、近づきながら服を脱ぎ捨ててゆく。 そうして少年の脇腹に手を沿え、 「こちょこちょこちょ〜」 華麗な手つきでくすぐった。 「う、わはっ、ちょっ‥‥あははははっ!!」 悶え苦しむ少年。生来のくすぐったがりなのか、とてつもなく効いている。 「楽しそうにゃー♪」 「ふぎゅっ!?」 真っ暗闇の中、突如自分の腹の上に降ってきた重みにおかしな声が出た。 その原因となった千佳は楽しそうに少年に抱きついたままハシャいでいる。 「ま、待っ、息が‥‥!」 「ほう、息がどうしたって?」 ぐるっと少年の体と顔の向きが変えられ、同時に何か柔らかいものが顔面に押し付けられる。 ネオンは前からがっちりと少年をホールドし、完全に逃げられなくしていた。 「男たるもの、卑劣な真似はするんじゃない。判ったか?」 「覗きは駄目なのですよ」 「むぐっ、むぐぐっ」 まともに返事になっていないものの、少年が何度も頷く素振りを見せる。 ネオンが縛りを解くと、少年はぜえはあと肩で息をした。 そんな少年の背を宥めるように撫でつつ、輪が言う。 「これに懲りたら、今後は覗きなんてしちゃ駄目よ?」 「わ、わかっ――」 頷いた拍子に取れる少年の目隠し。 改めて間近で見ることになった、美女美少女の肌、肌、肌。 「‥‥あ」 気付けば止まったと思っていた鼻血がたらりと垂れていた。 「‥‥」 「‥‥い、いや、これは」 「‥‥」 「しっ、自然現象だよ!仕方ないんだって!」 ゆらりと近づくサーシャに慌てふためきながら弁解する少年だったが、鼻血は空気を読まずに流れ続けている。 「待って!待って待って、だから意思とは関係無っ‥‥ひぃー!」 何やら赤く見えるオーラを纏ったサーシャにより、少年は今日何度目か分からない叫び声を上げた。 「あ〜‥‥皆さん‥‥やり過ぎていないと良いんですがね‥‥」 一足先に脱衣所へと出ていた紫翠は、少年のものと思われる何とも形容し難い悲鳴を聞きながら呟く。 しばらくして再度何かが湯の中へと落ちる音がしたり、女性の笑い声が聞こえたり、桶のカンコンッという小気味良い音がしたりと騒がしくなったり静かになったりを繰り返す。 「トラウマに‥‥なったりして」 同じ男性として、紫翠はちょっぴり少年に同情した。 ●捕獲後 宿の主人の隣で妙に姿勢正しく立つ少女‥‥否、少年。 少年は輪の発案により女装させられ、以後ここで働いて罪を償うことになっていた。 「一度女の子の立場に立ってみれば、覗かれる側の気持ちも分かると思うの。‥‥それにしても似合うわね」 確かに似合っていた。本格的な成長期に入ったらどうなるかは分からないが。 「‥‥女の人は‥‥怒らせると怖いという事を、覚えておいた方が‥‥良いですよ」 紫翠の忠告に少年は髪飾りを揺らして力強く頷く。身を以ってそれを知ったらしい。 「さて、終わったことですし私は料理を戴こうと思うのですよ。露天風呂はゆっくり楽しみましたし」 「それじゃあ、あたしはお風呂〜。まだ堪能してませんしね〜」 紅音が伸びをして言い、はるかが露天風呂の方を振り返って言う。 ではご案内します、とそれぞれ主人とその妻が案内をし、開拓者一行はそれぞれ楽しむために歩を進め始めた。 綺麗に切って飾られた赤身魚、そして白身魚を見て紅音は小さく手を叩く。 「凄いですね、見事なのです」 「うちのウリの一つですから。どうぞ、おかわりも用意してあるので好きなだけ召し上がってください」 お言葉に甘えて‥‥と紅音は刺身に醤油をつけ、つやつやの白米と一緒に口へと運ぶ。 刺身に筋は無く、生臭さは感じられず美味だ。 「‥‥!美味しいのですよ」 「本当ですか?どうもありがとうございます」 にこにこと嬉しそうな主人を見、自然と笑みを浮かべる紅音だった。 「む、シュラハトリアは?」 ふたたび露天風呂へと訪れたネオンは、絶対にこの場に居るだろうと思っていた少女の姿が無いことに気付く。 「少年に用があるって出てったにゃ〜」 「何の用かは分からないが、あの少年も大変だな‥‥」 掛かり湯をし、湯へと身を沈める。 二度目の入浴となるが、今度は水着無しでの入浴だった。また新しく感じられる湯の感触を楽しみつつ、空を仰ぐ。 「これでゆっくり出来る」 「にゅ‥‥やっぱりお姉ちゃん大きいにゃ。あたしのとは比べ物にならないにゃ!」 「そういえばシュラハトリアも言っていたな‥‥そんなに羨ましいものなのか?」 千佳はうんうんと頷く。 「おや、皆さんもこっちでしたか」 サーシャも入ってきて会話に加わる。 こっちのお姉ちゃんも大きいにゃ‥‥と千佳は何かを再確認したのかしょげ返った。 「私達の真似をすれば、将来大きくなるかもしれませんよ?」 「にゃにゃっ、ほんとにゃ!?」 「ま、まあ希望は捨てるなということだな。‥‥サーシャは帰るまでどうするつもりなんだ?」 聞くと、サーシャはにっこりと笑った。 「のぼせる前に上がって、涼んで、また入浴です。ふやけるまで入りますよ」 「お姉ちゃん達の真似‥‥。よしっ、あたしもご一緒するのにゃ!」 「ち、千佳、早まるな!」 説得には少々時間がかかったという。 「やっぱり〜安心して入れる温泉はいいですね〜」 タオルを巻き、それを手で押さえて温泉に浸かるはるかがのんびりとした声を出す。 隣に居た輪が笑顔で頷いた。 「何の心配もなく入れるのは良いことよね。けれど‥‥」 「けれど〜?」 「あの子、大丈夫かしら」 輪は少年の今後を心配しているらしい。 今後ちゃんとやっていけるのか、その辺りが特に心配だという。 「大丈夫ですよ〜、皆であれだけ説得したんですから〜」 説得と言って良いものか微妙だったが、はるかはそう言って励ます。 「だから今はのんびり温泉を楽しみましょ〜?ほら、隙ありです〜っ」 「わわっ!」 突然お湯をぱしゃぱしゃとかけられて驚いた輪だったが、くすくすと笑って仕返しをする。 少年にもきっと、この日のことを振り返って笑い話にする時が来るだろう。 今はただ、それを願うばかりであった。 それからしばらくして。 皆が上がり静かになった露天風呂に入ってきたのはタオルを巻いた紫翠だった。 「さてと。たまには、やるかな」 盆に載せた酒を湯に浮かべ、自身はふちに腰掛けてから笛を取り出す。 笛の澄んだ音が月の浮かぶ夜空へと吸い込まれてゆく。 色んなことのあった一日だったが、こうして笛を吹いていると落ち着くことが出来た。 月の隣で光る星を眺めながら、紫翠は一曲綺麗に吹ききった。 後日、たまたまギルドを訪れた宿の主人からの報告によれば、少年は真面目に働いているという。 接客はまだ不慣れで危なっかしく、客から本当に女の子だと思われてヘコんでいることもあるらしい。 ‥‥ちなみに風呂には掃除の時以外あまり近づきたがらないそうだ。 |