霞初月の梟
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/01 19:03



■オープニング本文

 ホーウ。

 目が慣れてなお何があるのか判別し難い闇の中、そんな鳴き声が響いてきた。
 間延びしたオカリナの低い音に似ている。
「やだ、何かしら‥‥」
 隣家の手伝いに出ており、暗くなってからやっと解放されたのがついさっき。
 その女性、松子は夜道を急いでいたが、謎の鳴き声に思わず足を止めた。
 松子はこの道の先にある農場の嫁だ。早く帰ってお風呂に入りたい一心で暗い道を小走りに進んでいたが、鳴き声が気にかかって仕方ない。

 ホーウ、ホーウ。

「また聞こえた‥‥」
 辺りを見回す。とはいえ提灯があっても数メートル先ともなれば真っ暗だ。
 道が間違っていなければ、左右は林のはずだが――と思った瞬間、白い影が三つ飛び出す。
 松子が悲鳴をあげて尻餅をつくと、その白い影は四つに、五つに、六つに、七つにとどんどん増えていった。
 その内一体がクルンと首を反転させると、其処此処にとまった他の白い影も一斉に首を反転させる。
「きゃああぁぁっ!!」
 それを見た松子は草履がその場に落ち、着物が土まみれになるのも構わずに、転がるように走りながら逃げ出した。
 その後を追うように鳴き声だけが響く。


 ――梟の姿をした十数羽のアヤカシを退治してほしい。
 そんな依頼が舞い込んだのは、しばらくしてからの事だった。


■参加者一覧
玖堂 真影(ia0490
22歳・女・陰
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
空音(ia3513
18歳・女・巫
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
ギアス(ia6918
17歳・男・志
九条 乙女(ia6990
12歳・男・志
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
夏 麗華(ia9430
27歳・女・泰


■リプレイ本文

●林の夜道
夜風で木々がざわざわと揺れる。
道の隣に佇む林は暗く闇に沈んでいて、人を寄せ付けない雰囲気に包まれていた。
白い梟の姿をしたアヤカシが目撃されたのはこの道を真っ直ぐ進んだ先である。
「久々の戦闘依頼‥‥気を引き締めて行かなきゃ!」
玖堂 真影(ia0490)が気合を入れ、行く先にある道をじっと見つめた。
「それにしても真っ白い梟って可愛らしいのに、アヤカシなんて残念ですねぇ‥‥」
「倒すのは気が引けますが、致し方ありませんね」
眉をハの字にする空音(ia3513)を見て、夏 麗華(ia9430)も気持ちを決めて自らの武器をさする。
アルティア・L・ナイン(ia1273)がそんな皆を見回して言った。
「さて、それじゃあ迅速に禍を断つとしようか」


●白い影
まずは囮として九条 乙女(ia6990)、浅井 灰音(ia7439)、ギアス(ia6918)、真影の四人が隊列を組んで道を進む。
アルティアと御凪 祥(ia5285)、空音、麗華の四人は後発隊として距離をあけて歩みを進めていた。
「この時間帯、ちょっと不気味だなぁ」
「ギアスくんは暗いのが苦手?」
少し、と答えたギアスを頑張ろう、っと真影が励ます。
梟のアヤカシには羽音がほとんどない。となれば、聴覚を頼って探すなら気をつけるべきは鳴き声だろう。
特徴的な鳴き声だ。聞き逃さないように、と四人は辺りに注意を配る。
「‥‥なかなか現れませんな」
乙女が刀に手をかけたまま小さな声で言う。
「これで誘い込めないかな?」
灰音が持参した松明に火をつけた。
最初にアヤカシを発見した女性も光源である提灯を持っていた。もしかしたら良い囮になるかもしれない。
ゆらゆらと火を揺らしながら、足を進める。
しばらく歩いたところで、低いオカリナのような音が微かに聞こえてきた。
「‥‥!」
ギアスは足を止める。
微かだった音――鳴き声はあっという間に大きく、そして数を増やした。それにつれて木々の枝の上に見えだすボンヤリとした白い影達。
「きたっ!」
乙女と灰音がそれぞれ心眼を使う。
数は周囲に居るだけでも十四羽。陰に隠れて目視出来ない者も居た。襲ってこないところを見ると、どうやらこちらが何者なのか窺っているところらしい。
「ギアス殿、合図を!」
「わかったっ」

ピイィィィィ――ッ!!

ギアスが吹いた呼子笛の甲高い音が闇を切り裂くように響き渡る。
それと同時に灰音がショートボウを構え、一番見やすい位置に居た梟へと照準を合わせた。
「近づかれる前に‥‥落とす!」
バスッと放たれた矢が梟の胴に命中した。それでもほんの少し急所から外れたのだろうか、その梟がバタバタともがく。白い羽根が散り、周りの梟が一斉に飛んだ。
あれだけ飛び立ったというのに、本当に驚くほど音がしない。
「ッ!」
しかし爪は確実に肌を切り裂き、髪を引っ掛け集中力を奪おうとする。
「数が多い‥‥こうも接近を許すなんてね!」
ショートボウからダガーへと持ち替えた灰音が、今まさに真影へ襲い掛かろうとしていた梟を切り落とした。
「しかし体力に自信はないようですぞ」
「耳が頼りにならなくても、目で見えるなら!」
素早く踏み出したギアスが、二羽で行動していた梟へと巻き打ちを食らわせる。モロにそれを受けた梟は勢い良く木の幹に激突した。
「彼の者に癒しを!急々如律令!」
細かな傷を負った仲間へと、真影の治癒符で現れた式が飛ぶ。式は淡い光を放ちながら形を変え、皆の傷を覆って癒した。
「はあぁっ!!」
そこへ駆けつけた後発隊の祥が跳躍して槍を振り下ろす。
事前に精霊剣を使っていたため、4mもある槍は仄かな青白い光を立ち上らせていた。それは梟を思い切り地面に叩きつける。
「皆さん、頑張ってください!」
空音はやや離れた後衛で神楽舞「防」を使用し、皆の防御力を強化した。
ゆったりとしたその舞いの隣を駆け抜け、アルティアが飛び出す。
「いくぞアヤカシ。我が身は風よりも速いと知れッ!」
彼の体は赤い色に染まっていたが、それは泰練気法・壱によるものだ。
繰り出した乱剣舞が連続で梟を襲い、その白い体を地面へと落とす。土ぼこりが舞い、その梟はぴくりとも動かなくなった。
「あと少しですっ!」
アヤカシから距離を取っていた麗華の弩から唸りを上げて矢が発射され、ガッ!と梟を木に固定させる。
隊列を崩さぬよう気をつけつつ、乙女も飛んできた梟目掛けて刀を一閃させた。
「そちらにも一羽ゆきましたぞっ」
「了解!」
乙女の声に素早くギアスが反応し、真横から向かってきていた梟を返り討ちにする。
自分からは視界に入らねば対処しにくい敵だったが、第三者からの指示があれば素早く応じることが出来る。
補助に回っていた空音らも梟の姿を注意深く見、その行動を仲間に伝えた。
「後ろから来てる‥‥最後の一羽だよ!」
そう響く真影の声。
「終わりだ!」
アルティアの槍が梟の胴体をとらえ、そのまま共に風を薙ぎ、草を巻き込んで吹き飛ばす。
弧を描いて地面に落ちた梟は、他の仲間がそうであったように、そこから動くことはなかった。


●仕事の後のお楽しみ
「それにしても凄い数でしたね、一時はどうなることかと思いました‥‥」
ここは道の突き当たりにある農場だ。ここに着くまでの間に辺りは完全に闇に包まれていたが、周りに提灯が吊られているため明るい。
その中央では石で組まれた窯の上に鉄板を置き、焼肉がじゅうじゅうと音をさせて焼かれていた。
「なに、それでも無事に完遂出来たんです。夏殿も今はこの美味な焼肉を味わいましょう!」
「そう‥‥ですね、ではいただきましょう」
あの後乙女は心眼を再度使い、辺りを調べた。結果、もう近辺にあのアヤカシは居ないことが分かったのだ。これで安心して焼肉を楽しむことが出来る。
農場の主はとびきり良い肉を用意してくれたらしい。香りからして巷に出回っている安い肉とは違っている。
麗華が美味しそうにそれを口に運ぶのを見て、乙女は微笑んだ。
微笑んで、息を整える。そして――
「焼肉、最高ですぞおおぉぉぉぉ―――っ!!」
ここが山だったなら山彦がいくつもの山を越えそうなくらいの声量で叫んだ。
楽しみにしていたのだ、これくらいは良いだろう。
乙女は箸に何枚もの肉を挟み、大食いという言葉が霞むくらいの勢いと気迫で口を動かした。
一体この肉達はその華奢な体のどこに入っているのだろう、と麗華はちょっぴり心配になる。
「んん〜、おいしー♪」
そこではギアスも同じく焼肉に舌鼓を打っていた。
長い髪がかからないようクルクルと巻いて一纏めにした彼は、一口一口をじっくりと味わいながら至福の表情を浮かべている。
「やはり食べ方、楽しみ方も人それぞれですねー‥‥」
「ん?何か言ったかな?」
「いえ‥‥ふふ、私も負けていられません」
笑い、麗華も小皿へと焼肉を取っていった。

「やっぱり運動した後の食事は格別だね、どんどん箸が進むよ」
アルティアも乙女と同じく胃の収納率が半端無いのか、ひょいひょいと鉄板から肉を取っていっていた。今焼かれている肉の全てを食べ尽くさん勢いである。
と、その時二対の箸が一枚の同じ肉を挟んだ。
「‥‥」
「‥‥なぜ離さない?」
アルティアの箸と、祥の箸だった。
両者譲らず己の方へと箸を引いたため、肉が今にも千切れんばかりに伸びる。
その肉が肉汁を飛ばして真っ二つになったのを皮切りに、アルティアと祥による肉の奪い合いが勃発した。
「二刀遣いは伊達じゃない事を教えてあげようか」
「む‥‥!?」
右手に箸、左手にも箸を持ったアルティアが不敵に微笑む。両手を使うことに長けた彼だからこそ出来る芸当であった。
激化してゆく奪い合いの最中、そうっと手を伸ばしたのは灰音。
ずっと野菜だけを拝借していた灰音だったが、二人の隙を見計らって焼肉を狙いに来たのだ。
が、相手の顔よりも手元に集中していた二人にすぐ見つかってしまう。
「あ。‥‥喧嘩している暇があったらさっさと箸を動かしたらどうかな?ほら、焦げるよ?」
誤魔化すように言い、その流れでひょいっと一枚口に運ぶ。
言った通り本当に肉は焦げ始めていたが、それすらも旨みを引き出していた。


●乳搾り組
焼肉の他に用意されていたもの。それは乳搾り体験。
「本来は夜間にすることじゃないんだけれどね、最近この子達調子が良いみたいだから」
牛の背を撫で、女性――松子が笑う。
こちらを選択したのは空音と真影の二人だった。
空音はじーっと乳牛を‥‥否、乳牛の立派な乳を見ている。
「凄い‥‥乳牛って、ないす巨乳‥‥あっ、べっ、別に羨ましくなんかないですよっ!?」
「あははっ、誰もそこまでツッコんでないですよ?」
こほんと咳払いをし、空音は改めて乳牛を見る。
「間近で見るととっても大きくて、円らな瞳がきゅーとですね。動物が大好きなので触れ合えて良かったです♪」
「あたしもこんなに大きいとは思わなかったわ」
「うふふ、それじゃあとりあえず絞り方の説明をするわね」
松子にレクチャーしてもらい、二人は牛の横にしゃがむ。
まず人差し指と親指でしっかりと挟み、上の指から下の指へと順番に力を入れるように絞ってゆくのだという。
この時に力を入れすぎると牛が嫌がるが、緩すぎても上手く絞れない。
試行錯誤しながら言われた通りにすると、二人ともすぐにコツを掴めたのか、白い牛乳が専用のバケツの中へと迸った。
「わ、わっ、これを続けていけば良いんですね」
「そうそう、上手い!」
あっ、そうだ、と真影が松子に顔を向ける。
「これをお土産に持ち帰ることって出来ます?」
「え?ええ、日持ちしないから気をつけなきゃいけないけれど、季節柄寒いから大丈夫だと思うわ」
後で専用の瓶を用意するわねと松子が言うと、真影は嬉しそうな笑みを浮かべ、それが少し恥ずかしかったのかちょっと照れながら乳絞りに戻った。

白い梟のアヤカシは全て討たれた。
その日、農園からは夜遅くまで賑やかな声が響き、肉を焼く炎の明かりが絶えなかったという。