頼もしきは開拓者
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/21 22:24



■オープニング本文

●此隅とある孤児院にて
「きゃぁぁぁーーー!!」
 突然、甲高い悲鳴が部屋に響いた。
「大丈夫、大丈夫だから、怖くないからね‥‥」
 無きむせぶ女のこの背中をぽんぽんと優しく叩くのは、この孤児院の職員、多紀。 
「これじゃ、おちおちお昼寝の時間も取れないね‥‥」
 その横で小さな男の子を抱きかかえあやしているのは、同じく職員の美里だ。
「さぁ、もう一度お昼寝しようね」
 女の子は背中を叩かれ安心したのか、すやすやと寝息を立てだす。
「こっちも寝たみたい。――これでよしっと」
 美里に抱かれていた男の子も、布団へ戻され寝息を立てる。
「さぁ、今のうちに戻りましょう」
「うん、そうだね」
 二人は寝息を立てる子供達の部屋から、音も立てず退室した。

「ふぅ‥‥やっぱり心の傷はそう簡単には癒えないわね‥‥」
 職員の控え室に戻ってきた多紀は、美里にため息混じりに呟いた。
「あら、多紀だって小さな頃は‥‥」
 むふふと美里は小さく笑う。
「も、もう! 小さい時の話を持ち出すの無しっていってるでしょ!」
 そんな相方に多紀も困ったように怒る。二人は共にこの孤児院の出身。同じ年の二人は打ち溶け合い親友として、恩あるこの孤児院で不幸に見舞われた子供達の世話をしていた。
「でも、最近ほんと多いよね、ここに来る子‥‥」
 先程のふざけた表情も消え去り、美里は真剣な表情で相方を見やる。
「ええ、魔の森の拡大もあって、被害も増えてるみたいだから‥‥」
 多紀の表情は沈んでいる。
「そうだよねぇ‥‥何か明るい話題でもあればいいんだけどね‥‥」
 控え室で二人は、ともに思案に暮れる。
「あ!」
「ど、どうしたの?」 
 美里の突然の奇声に、多紀は驚き問いかける。
「開拓者に頼むってのはどうかな!」
 天啓を得たりとばかりに美里は拳を握る。
「え‥‥? 開拓者の方に頼むって、どうやって子供達の恐怖を拭うの?」
 美里の突拍子もない発案に、多紀も困惑気味だ。
「え、えっと‥‥そ、そうだ! 英雄譚を語ってもらうっていう案はどうかな?」
「英雄譚‥‥?」
「そう、英雄譚! 開拓者の方ならアヤカシを倒した話とかいっぱい知ってると思うの」
「確かに、知ってるとは思うけど‥‥あの子達にそんな難しい話、分かるかしら‥‥?」
 美里の案は悪くないとは思う。ただし、相手が子供で無ければ。
「う、そうかも‥‥あ! じゃ、演劇で演じてもらうっていうのはどうかな?」
「なるほど‥‥それなら、子供達にも分かりやすいわね」
「でしょ! あとは開拓者の皆さんの演技力に期待‥‥かな?」
「そうね。そこが問題よね‥‥」
「ま、大丈夫でしょ! なんて言ったって開拓者だもん!」
「その自信はどこから来るのか‥‥」
 呆れ笑いに多紀は、してやったり顔の美里を眺めていた。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
静雪 蒼(ia0219
13歳・女・巫
南風原 薫(ia0258
17歳・男・泰
紫夾院 麗羽(ia0290
19歳・女・サ
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
静雪・奏(ia1042
20歳・男・泰
ミル ユーリア(ia1088
17歳・女・泰
水津(ia2177
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●舞台
「みんな、げんきかなー?」
 闇夜が辺りを覆う頃、篝火に照らされた壇上で多紀が一際元気な声で子供達へ手を振る。集まった子供達も元気よくこれに返事をした。
「うんうん! みんな、今日はすごい人達が来て――キャ!」
 子供達の返事に満足げに頷いた多紀の言葉が悲鳴と共に途絶えた。
『シャー!』
 突如現れる多数の人影。全身黒の衣装を纏い、胸元には炎の紋章を戴いた人影は、多紀を取り囲み、今まさに襲いかからんとしている。
「まてぇい!」
その時、壇下から声が上がる。鉄傘を広げた南風原 薫(ia0258)だ。
「お前達の好きにはさせないぞ!」
 注目が薫に集中したのを見計らい、舞台袖より水鏡 絵梨乃(ia0191)が踊りでる。
『シャー!?』
 突如現れた二人の乱入者に黒子衆が戸惑いの声を上げた。
「雑魚は引っ込んでな!」
 黒子の一人が床に倒れた。スッと現れた酒々井 統真(ia0893)の一撃を受けたのだ。
「多紀さん、大丈夫ですか!」
「後はあたし達に任せて、下がって!」
 多紀を守るように静雪・奏(ia1042)とミル ユーリア(ia1088)もその姿を現す。
「さぁ、みんな! 子供達にいいとこ見せるぜぇ!」
 鉄傘を掲げた薫がひらりと舞台へ舞い上がる。
『おう!』
 残る4人の声が揃った。そして、多紀を囲むように構える5人の泰拳士。
「平和な世を脅かすアヤカシども! 俺達開拓者がいるかぎり、お前たちの好きにはさせねぇ!!」
 ビシッと人差し指を黒子衆に突きつけ、統真が高らかに宣言した。

暗転。

「フフフ‥‥焔の導きのより、この世にアヤカシの破壊と恐怖を‥‥」
 闇に突如生み出された『火種』の炎を照らし出される水津(ia2177)が不敵な笑みと共に玉座へ腰を下ろす。
「――焔の魔女様、ご報告が」
 その脇で膝を折りかしずく漆黒のローブを纏った紫夾院 麗羽(ia0290)が顔を上げ言葉を発する。
「ムラサキか、許す、述べよ」
 『火種』の炎から視線を外すことなく、水津は淡々とその発言を許可する。
「はっ! 先日捕らえました開拓者の幻惑、完了いたしましてございます」
 その言葉と共に麗羽の脇に姿を現したのは、黒き衣を纏い、特徴的な青髪を黒き布で覆った静雪 蒼(ia0219)だ。
「‥‥これでまた一人、焔の虜が‥‥ククク‥‥」
 黒に染まった蒼の姿に、満足げに笑う水津。
「行け、お前達! この世を恐怖と絶望に染めよ!!」
 立ち上がり両手を大きく広げた水津の声に、麗羽と蒼は短く返事をすると、その姿を闇に溶かした。

暗転。

「ふん! この程度かぁ、アヤカシなんざ俺達の敵じゃねぇな」
 くるりと鉄傘を器用に回し、薫が地に伏した黒子衆を見下ろす。
「みんな、もう大丈夫だから、安心してね!」
 ミルは観客席の子供達へにっこりと微笑む。
「ククク‥‥頭に乗るなよ、開拓者ども!」
「なっ!? きゃぁ!」
 突如舞台袖より麗羽が現れる。ミルは突然の一撃を受け吹き飛ばされた。
「焔の魔女様が僕、このムラサキが貴様らを冥府へと導いてやろう!」
 麗羽は高らかに名乗り上げるとローブを脱ぎ捨てた。そこに現れたのは禍々しい仮面に際ど過ぎる衣装を纏った姿。
『きゃぁぁ!?』
『おおぉぉ!!』
 その姿に子供達からは悲鳴が、そして男性職員からは歓声が上がる。
(おいおい、麗羽の奴気合入ってんなぁ)
(少しやりすぎな気もしないでもありませんが‥‥)
(まったく、目のやり場にこま‥‥絵梨乃、よだれよだれ)
(――おっと、いかんいかん)
(あいたたぁ‥‥まぁ、子供達は怖がってるしいいんじゃないの‥‥?)
「ふっ、開拓者程度に我が手を出すまでもない。出でよ、アヤカシの子よ!」
 開拓者の裏の声にも負けず、麗羽は声高に叫ぶ。
「さぁ、お前の実力見せてもらおう!」
 麗羽に脇から歩み出たのは小さな人影。
「はい‥‥ムラサキ‥‥姉様」
 命令を下す麗羽に、恍惚の表情で頷くのは蒼だ。
「ま、まさか蒼なのか!?」
 虚ろな瞳でこちらを見据える黒き蒼の姿に、奏が驚愕の声を上げる。
「‥‥開拓者‥‥滅せよ‥‥」
 静かに響く蒼の声。
「フフフ‥‥手が出ぬか」
 蒼を前に手を出せぬ開拓者の姿に麗羽は満足げに笑う。
「行け! 奴らにアヤカシの恐怖を思い知らせてやれ!」
 虚ろな瞳を揺らせ蒼がコクンと頷く。そして、手に『火種』の炎が生み出された。
「やめるんだ蒼! 正気なのか!?」
 黒い妹の姿に奏は必死に声を上げるが、対する蒼に反応はない。
「くっ! 眼を覚ませ!」
 反応のない妹を前に焦燥に駆られた奏は、蒼に詰め寄ろうとするが。
「ま、待て奏! あの子は本気で攻撃してくるぞ!」
 それを統真が必死に制す。蒼の炎は、演出効果を上げるために水津が放った『力の歪み』を受け、一際大きさを増していた。
「兄妹だったとはな‥‥おもしろい! 手始めにその男から始末してしまえ!」
 麗羽の指示に蒼がコクンと頷く。
「やめろ、やめるんだ蒼!!」
 奏の声は蒼に届かない。業を煮やした奏は静止を振りきり蒼に駆け寄るが、それを見計らったかのように蒼の手から炎が解き放たれた。
「危ねぇ! ――ぐはぁぁ!!」
 咄嗟に奏の前に出た薫が鉄傘で炎をかろうじて弾くが、その勢いを殺しきれず傘ごと宙に舞う。
「薫さん!!」 
 身を挺して自分を庇った薫の行動に、奏も正気を取り戻す。
「奏の妹が相手じゃ、手が出せないよ!」
 攻め手を封じられ、ギリリと歯を鳴らすミル。
「‥‥邪魔‥‥消えて‥‥禍つ‥‥闇風‥‥!」
 追撃とばかりに蒼が『神風恩寵』に黒く染めた花びらを乗せ発動させる。その姿はまるで黒き風を纏う闇巫女。
「ぐっ! これは瘴気の霧か‥‥!?」
 黒き風を受けた統真が苦しげな表情と共にがくりと片膝を付く。
「まずい、みんな下がって!!」
 ミルの声に反応するのは苦しげな声だけ。黒き風はすでに開拓者を取り囲んでいた。
「アーハッハッ!! もうよい下がれ。後は我が止めをさす!」
 蒼の攻撃をなすすべなく受ける開拓者の姿に、麗羽は上機嫌で蒼に命令した。
「‥‥はい‥‥ムラサキ‥‥姉様‥‥」
 麗羽の言葉にうっとりとその表情を変化させた蒼は、スッと身を引く。
「無様だな、開拓者ども!」
 麗羽の瞳には嗜虐に満ちた光が浮かぶ。そして、ゆうに2mはあろうかという大太刀を抜き放つと。
「死ねぇ開拓者ども! 貴様等などアヤカシの足元にも及ばぬという事を身をもって知るがいい!!」
 狂気に満ちた怒号と共に、麗羽は大太刀で開拓者を斬りつける。
「‥‥」

 突如傷つき倒れる開拓者に降り注ぐ光の雨。そして虚ろな瞳に一筋の涙。

「‥‥奏兄はん‥‥みんな‥‥」
 搾り出すようなか弱き声が舞台に漂った。
「なに!? 『神風恩寵』だと! ばかな、幻惑は完璧のはず!」
 焦るのは一方的に攻撃を仕掛けていた麗羽。攻撃の手を止め、蒼へと視線を送る。
「これは‥‥? 助かった!」
 蒼の放った癒しの風に立ち上がるのはミル。そして、他の開拓者も次々と立ち上がった。
「ちぃ! 行け! 自爆でも何でもして開拓者を止めろ!!」
 大きく後に跳躍した麗羽は、蒼を開拓者へ向け突き飛ばす。
「‥‥滅せよ‥‥」
 仲間を仲間とも思わぬアヤカシの行動にも、蒼は無表情に従い開拓者めがけて駆け出す。
「蒼! すまない、これで目を覚ましてくれ!!」
 立ち塞がるのは奏。突出する蒼の鳩尾へと目にも留まらぬ一撃を放った。
「きゃぁぁ!」
 奏の一撃をもろに受け、蒼は舞台端まで吹き飛ぶ。
「くそっ! 所詮は開拓者か! もう貴様などいらぬ! お前達行け!」
 倒された蒼に焦る麗羽は、黒子衆に号令を発する。
「今こそ反撃の時! 行くぞ統真! 開拓者の底力、あいつに見せつけてやろう!」
「おうよ!」
 背を預けあう戦友二人の眼に英気が満ちる。
「その身に刻め、我が蹴技!」
 絵梨乃がカツカツと足を踏み鳴らす。
「その身に刻め、我が拳技!」
 統真がパキポキと拳を鳴らす。
『俺(ボク)達の技、防げるかっ!! いくぞ! 双技『乱れ転輪』!!』
 二人の叫びは正義の心。その軌跡は交わる螺旋。統真と絵梨乃は体を入れ替え、無人の野を行くが如く黒子衆を蹴散らし麗羽へと迫る。
「砕け! 『拳帝烈空掌』!!」
 麗羽の正面へと踊り出た統真は溜めた力を一気に解放、渾身の正拳突きを見舞う。
「ふん! その程度、防げぬ我ではないわ!!」
 一方、受ける麗羽は手に持つ大太刀で統真の渾身の一撃をかろうじて受け止めた。
「まだまだぁ! 行け、絵梨乃!!」
 渾身の一撃を防がれた統真の表情に焦りはない。そして相棒の名を呼ぶと。
「頭ががら空きだ! 喰らえ! 『蹴王覇天墜』!!」
 統真の背を隠れ蓑に高々と舞い上がった絵梨乃が落下の勢いを駆り、麗羽へ必殺の踵を振り下ろす。
「なっ!? ぐああぁっ!!」
 完全に注意を引き付けられていた麗羽は、上方の急襲になすすべなく吹き飛んだ。
「やったぜ!」
 統真と絵梨乃が吹き飛んだ麗羽を見、がっちりと握手をかわす。

 しかしその時、突如禍々しき笛の音が舞台に響いた。

 開拓者の活躍に歓喜の声を上げていた子供達の声が、恐ろしい音色に凍りつく。
「ふんっ‥‥使えぬ奴らよ」
 音に乗って現れたのは水津。倒れ伏せた麗羽を、まるでゴミでも見るかのように冷めた視線で見下ろす。
(うほぉ、水津の奴もこれまた気合入ってんなぁ‥‥)
(ずいぶん出番が遅くなりましたからね‥‥)
(ほんとノリノリ‥‥鬱憤溜まってんでしょうねぇ‥‥)
(うわ、こわ‥‥いや、まじで目がやばいって‥‥)
(なんや、本業の開拓者より似合ぉてますなぁ‥‥)
(あれはさすがに可愛くない‥‥)
 開拓者達も思わず一歩仰け反るほどに、水津の迫力は神掛かっていた。
「ほ、焔の魔女様‥‥ど、どうか、お助けをっ!」
 統真と絵梨乃の攻撃を受け、瀕死の麗羽が水津にすがり付く。
「‥‥目障りだ」
 水津はすがり付く麗羽に一瞥をくれ、『火種』を発動させる。
「ひぃ!? お待ちください、焔の魔女様!! どうか、どうか今一度反攻のキカイヲォォ!!」
 麗羽の身体を炎が包む。後に残るは焦げた仮面と灰となった装束のみ。
「ククク‥‥待たせたな、開拓者ども。この『焔の魔女』自ら相手だ‥‥かかってくるがよい! アヤカシの真の力、思い知らせてくれよう!!」
 水津は構えを取る開拓者達へ向け邪悪な笑みを浮かべた。

「う、うちは何を‥‥?」
「蒼! 気がついたんだね!」
 奏の腕に抱かれた蒼が瞳を開けた。その姿はいつもの青の巫女。見事な早着替えである。
「奏兄はん‥‥?」
「ごめん、蒼! 再会を喜んでる暇はないんだ! 力を貸してくれ!」
「え‥‥? アヤカシ‥‥と、みんな‥‥?」
 奏の視線にあわせるように蒼が捕らえたのは、水津へ向かっていく開拓者の姿。
「うん! うちも戦いますぇ!」
 奏の腕から抜け出た蒼は、しっかりとした足取りで大地を踏みしめ、水津へ力強い視線を送った。

「どうした、その程度か開拓者ども! 蚊ほども効かんぞ!!」
 無防備に開拓者達の攻撃を受け続ける水津の表情は、邪悪な笑みのまま。
「な、なんて硬さだ!?」
 攻撃を繰り出す薫の頬に一筋の汗が。
(水津の奴、硬すぎねぇか‥‥?)
(まぁ、自称『鋼の乙女』だからなぁ‥‥)
(さっき間違って本気で打ちこんだんだけど、まったく効いてないよ‥‥)
(あ、俺も。ったく、巫女に弾かれる拳って‥‥自信無くなってくるぜ‥‥)
(ちゃんと最後はやられてくれるんですかね‥‥)
 ひそひそと語り合う開拓者は、奏の最後の一言に言いしれぬ不安に襲われる。
「ふんっ! こそこそと作戦会議か? 余裕だな、開拓者ども!!」
 そんな一行の姿に、苛立ちを表した水津が新たな『火種』を生み出す。
「灰となれ、正義を語る者共よ! 焼け焦げもだえ苦しみ、そして死ね! 『無明・炎禍』!!」
 放られた『火種』はゆっくりと放物線を描き、開拓者達の中央へぽとりと落ちた。

 刹那、炎が弾ける。

『ぐあぁぁ!』
 爆発を中心に吹き飛ぶ開拓者。水津は放った『火種』に『力の歪み』をぶつけ、弾けさせたのだ。
「かぁ‥‥んなもんかよ、炎のアヤカシよぉ!」
 壁を背に薫が威勢よく声を上げるが、その顔には悲痛な色が浮かぶ。
「くそぉ、何か手はないのか‥‥」
 統真の苦々しい言葉に。
「みんな! 開拓者の方々に、声援を送るのよ!!」
 舞台下で見守っていた美里が、迫真の演技に息を飲んでいた子供達へ声をかけた。
「がんばれ、かいたくしゃ!」
「まけないでぇ!」
「そんなやつやっつけろー!」
 次第に増す子供達の声援は波と成り渦と成る。
「ぐぅぅ‥‥目障りな声め!」
 今までの余裕に満ちた笑みを崩し、子供達の声援に目に見えて苦しむ水津。
「みんな、ありがとう!!」
 子供達の声援に答えたのはミルだ。
「勇気百倍! やってやんぜぇ!」
 薫も、ダンっと床を踏み叩く。
「敵は怯んだ! 皆、いくぞ!」
 統真の声に、一行は『おう!』と声を合わせる。

「疾駆、風の如く!」 
 絵梨乃が脚を高々と上げ、左手へ。
「静徐、林の如く!」
 奏が拳を構え、右手へ。
「不動、山の如く!」
 薫が鉄傘を掲げ、正面へ。
「侵掠、火の如く!」
 統真が拳を鳴らし、左手へ。
「鳴動、雷の如く!」
 ミルが気を溜め、右手へ。 
「雄智、陰の如く!」
 最奥の蒼が『神風恩寵』で一行を包む。
『超えろ限界! 受けろ正義の技!!』
 声は一つ。5人の泰拳士は『泰練気胞壱』を発動。そして、奏と統真が駆け、ミルと絵梨乃が飛ぶ。
『終技『天元争覇・千手乱舞』!!』
 4人は同時に水津へと襲いかかった。
「なにっ! ぐぅ!! だがしかし、この程度では倒れんぞ!!」
 4人の同時攻撃を受けて、なお水津は耐え凌ぐ。
「まだまだぁ!」
 残った薫が鉄傘を槍に見たて突進する。
「終撃『妖滅・錫戈砲』!!」
 薫の最後の一撃が水津へと突き刺さる。それと同時に開かれる鉄傘。
「ぐおおぉぉぉ! 口惜しや‥‥だが、人の恐怖がある限り、我は何度でも蘇るぞぉぉぉ‥‥」
 最後の一撃をその身に受けた水津は大きく吹き跳び、断末魔の叫びを残し霧に消えた。
『アヤカシ討伐、これにて完!!』
 6人揃ってポーズを決める開拓者。そして、劇は終了とばかりに緞帳が静かに下ろされた。

●終劇
 緞帳が開く。
「みんな! 応援ありがとう!!」
 舞台に並ぶのは6人の開拓者。ミルが元気よく手を振り、子供達へ挨拶する。
「アヤカシはボク達開拓者がやっつけたからな。もう怖がる必要は無いぞ!」
 隣で絵梨乃も力強く声を上げる。
「開拓者が協力してりゃ、アヤカシなんかにゃ負けねぇ!」
 少し照れ交じりに薫も子供達を勇気付ける。
「うんうん! でもねみんな、アヤカシはみんなが怖いって思う心が大好物なんだよ。だから、いつまでも怖いって思うんじゃなくて、立ち向かう勇気を持ってね!」
 一呼吸おいて。
「開拓者はいつまでもみんなの味方だからね!!」
 ミルの声に子供達から割れんばかりの拍手と歓声が送られたのだった。