捧玉抱く海の王
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/09 22:33



■オープニング本文

●とある漁師町
「今日も大漁だったな!」
「ああ、
 朝の漁が終わり獲物片手にぶら下げた二人の漁師が、白い砂が広がる浜辺をゆっくりと家路についていた。
「お、おい! あれを見ろ!」
 と、突然一人が声を上げる。
「うん? ひ、人!? 大変だ!」
 別の漁師が指差す方向を見やると、そこには波打ち際に横たわる人影。
 二人は手に持った今日の夕飯を放りだし、急いで波打ち際へと駆け寄った。

「おい、しっかりしろ!!」
 漁師が人影を助け起こす。
 水に濡れ所々破けて入るが、その身形から見るにどこぞの商人か。
「う‥‥うぐっ‥‥げほげほっ!!」
「息はあるぞ!」
「ふぅ、よかった」
 商人風の男が盛大にむせた事に、漁師達は安堵の表情を浮かべた。
「おい、お前さん。大丈夫か?」
 瞳を開け虚ろな瞳で辺りを伺う商人風の男に、漁師が問いかける。
「う、うぅ‥‥こ、ここは?」
 降り注ぐ太陽の光に目を顰めながらも、商人風の男は何とか喉の奥から言葉を絞り出した。
「ここは、武天の外れにある漁師ま――」
「船はっ!? 私の船は!!??」
 そんな質問に答えようと、漁師が話しかけた瞬間、商人風の男は支えられた腕を払い除け飛びおきる。
「ここは何処だ! 私の船はどうした!!」
 まるで子を奪われた母親の様に、商人風の男は動揺し取り乱す。
「おい、お前!」
「商人さんよ」
 取り乱し胸倉をつかむ商人に、漁師の男は落ちついた声で話しかけた。
「とりあえず、これでも飲んで落ちつけって」
 と、漁師は掴みかかる商人に、水の入った水筒を差し出した。
「う、うむ‥‥」
 呆れる男の表情と、差し出された水に毒気を抜かれた商人は、素直に水筒に口をつけた。


「なるほどなぁ」
「どうだろう、金はいくらでも出す! なんとか頼む!」
 水を飲んで落ちついた男は、漁師達の予想通り、朝廷お抱えの商人であった。
 その商人によれば、朝廷に献上する予定の宝珠を積んだ船が、ある海域で嵐にあい沈没してしまったと言う。
「何度も言うがよ、あの海は俺らでも近づかねぇ」
 縋りつく様な商人の嘆願にも、漁師は困った様に首を横に振る。
「なぜだ!」
 これも何度も説明した。商人の船が沈んだという海域は、漁師達にとってはまさに悪魔の海域。
 遠浅のなだらかな海底が続く、一見穏やかな海域であるそこは、数多の魚が生息する絶好の漁場なのだ。
 しかし、
「だから言ってるだろ? あの海には怪物が住んでるんだって」
 そこに居る豊富な魚達は、怪物を呼んだ。
「そ、そんな‥‥! では、私の船はどうなるのだ!」
 その漁師の言葉に、商人は砂浜に両手をドンと振り下ろす。
「そうだなぁ、ギルドにでも依頼したらどうだ? 開拓者なら何とかするんじゃないか?」
 そんな商人を不憫に思った漁師は、商人に一つの提案をした。
「開拓者‥‥?」
「そうそう。アヤカシとか俺達には手に負えない事を解決する奴ら――」
「それ位知っている! そうか、そうだ‥‥奴らならやってくれるかもしれない‥‥!」
「そ、そうか。なら話は早いな。早速、ギルドに行けばどうだ? ここなら隣町のギルドが近いぞ」
「うむ! 世話になったな! この礼はいずれまた!」
 商人は、先程の沈んだ表情を一変させ、

「開拓者にねぇ」
「うん?」
 走っていく商人の背を眺めながら、漁師の一人が呟いた。
「倒せるのか? 怪物って『沈牙』の事だろ?」
「ああ、そうだけど‥‥無理かな?」
「どうだかなぁ。ミイラ取りがミイラにならなきゃいいけどな」
「うーん‥‥早まったか?」
 と、腕を組み、首を傾げた漁師達は、自分達も恐れる魔の海域の方角に視線をやった。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
ロウザ(ia1065
16歳・女・サ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
夜刀神・しずめ(ib5200
11歳・女・シ
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
宍戸・鈴華(ib6400
10歳・女・サ


■リプレイ本文

●海
 遥か蒼穹の空には、白き山脈を形成する入道雲が。
 そして、小さな波頭を崩す穏やかな海は陽光を受けキラキラと光り輝いていた。
「沈没船で宝探し――ふん、面白そうじゃねぇか」
 舳先に立つ北條 黯羽(ia0072)は、握った拳をぽきりと鳴らす。
 商人の手配した小舟に乗りこむ一行は、目的地である海域へと船を進めていた。
「わはは! うみ! ひろい! みずたまり でかい!」
 黯羽とは別の船では、ロウザ(ia1065)船縁に掴まり海を見た喜びを全身で表現する。
「この海のどこかに鮫がいるんだよねっ! ボクが絶対退治してやるんだから!」
 ロウザと同じ船では、宍戸・鈴華(ib6400)がぐぐっと拳を握り海へ向け宣戦布告。
「りんか! たおす だめ! ろうざたち おとりやく! しっかり おぼえる!」
「むぅ、わかってるよっ! ボクとしては漁師さんに迷惑かける鮫は退治した方がいいと思うけど‥‥」
 皆で打ち合わせた作戦は、囮役がケモノを誘い、その隙に宝珠を回収するというもの。
 しかし、鈴華は遠回りなその作戦に、やや不満げに呟いた。
「だめ! けもの わるくない! あやかし ちがう!」
「うん‥‥そうだよね。でもでも、襲ってきたら戦うからねっ!」
「ろうざたち あしどめ! せんし でも あしどめ!」
「うぅ‥‥わかったよっ!」

「あっちは賑やかやな‥‥」
 意気揚々と船を進める囮班をぐったりと眺め、夜刀神・しずめ(ib5200)が小さく呟いた。
「はは。戦意向上、いい事じゃないか」
 共に行く船の上の二人を頼もしげに眺める黯羽。
「甘ぁ見て、墓穴掘らんかったらええんやけど‥‥」
 しずめの最後の言葉は、小舟に打ち付ける遠海の波がかき消した。

●漁村
 沈没した船を目指し海へと繰り出る数刻前。
「それほど危険な海域なのか」
 目的地となる海域の情報を集めようと村人の元へ向った、ロック・J・グリフィス(ib0293)は険しい表情で家々の隙間から覗く海を眺めた。
「はい、この村の漁師だけでなく、近隣の漁師達も近寄らないそうですね」
 問いかけともとれるロックの呟きに、御調 昴(ib5479)も神妙な面持ちで言葉を紡ぐ。
「しかし、行かない訳にはいかない。依頼を受けたのだからな」
「ですね。聞けば大切な宝珠だとか。もし手元に戻らないのであれば、商人さんの生活が‥‥」
「まぁ、商人の奴も必死だったんだろう。船に関する詳細な情報は容易に手に入った」
 と、ロックは懐から一枚の図面を取り出した。
「僕も漁師の皆さんの好意で水中眼鏡を借りれましたよ」
 同じく昴も手に下げた袋から、今日の戦利品を取り出した。
「水中眼鏡‥‥? 聞き慣れない言葉だな」
 聞き慣れぬ言葉に、ロックは訝しげに首を傾げる。
「この眼鏡をかけていれば、水中でも陸上と同じくらいの視界を確保できるのだそうです」
「ほう、それは凄いな」
「ええ、貴重な物だそうですが、例の海域に行くと説明したら貸してくれました」
「期待か?」
「どうでしょう。死出の土産出ない事を願います」
 港へと向かう道すがら冗談交じりに言葉を交わす二人。
 そして、二人はそれぞれの決意を胸に皆が待つ港へと足早に歩を進めた。

●海上
 もうずいぶん沖に来た。夜も明けきらぬうちから船を出し、今は太陽が天高くにある。
「ここだ」
 地図と羅針盤。そして六分儀を器用に操作し、ロックが目的の場所を指示した。
「皆さん、これを」
 と、ロックの言葉に昴は先程借りて来た水中眼鏡を皆へと手渡す。
「この眼鏡をかければ、水中でも陸の上と同じ視界が得られます」
「そんなもんがあるのか。すげぇな」
 受け取った見慣れぬ眼鏡をまじまじと見つめる黯羽。
「素潜りをする漁法があるそうで、そこで使う物だそうです」
 珍しそうに眺める黯羽に、昴はにこりと微笑みかけた。
「おぉ! すごいね! 目が痛くないよ!」
「おお! しょっぱい! でも みえる! うみ きれい!」
 渡された水中眼鏡をつけ早速とロウザと鈴華は船縁から身を乗り出し、顔を海につける。
 燦々と輝く夏の日差しは波を抜け海底へと届く。
 ゆらゆらと揺れる光に銀の鱗を光らせる小魚達。
 更に深き場所では真っ白くなだらかな海の砂丘が静かに佇んでいた。
「あ、あの大きいの、船じゃないかな?」
 と、顔を海につけながら鈴華が海の底を指差す。
「確かに特徴は一致しとるな」
 同じく顔を海につけそこを覗きこむしずめが答えた。
「商人の船に乗っていた航海士の技量に感謝だな。沈没寸前だというのによく記録に残してくれた」
 と、ここの海域まで案内してくれた海図を眺めロックが呟くと、懐から取り出した1輪の薔薇を徐に海へと投げた。
「さぁて、船は見つかった。早速準備に取り掛かるかね。ロウザ、鈴華、昴は囮班。いいな?」
「ろうざ たたかう! ろうざ つおい!」
「まっかせといてっ! ぎったんぎったんのめったんめったんで、ふかひーれげっとだよっ!」
「はい、身命にかけまして」
 黯羽の言葉に意気揚々と答える3人。
「残りは宝珠回収班だ」
「ああ、船の構造は把握した。宝珠まで一直線に案内しよう」
「頼りにしてんで、ロックの兄はん。うちはちょっと小細工や」
 と、しずめは牽引してきた5艘の船を見やる。
 海に浮かぶ船でさえ攻撃してくるという『氾牙』対策の囮の為に引いてきたのだ。

「さぁ、行くぜっ!」
 黯羽の合図に、5人は頷き海へ向かう。
 そして、一斉に宝珠の眠る海へと飛び込んだ。

●海中
 水中眼鏡のおかげで視界は良好。
 しばらく雨も降っていなかったのだろう。浮遊物もない澄んだ青が一行を包んでいた。

 ロウザは海中独特の浮遊感の中、一挙手一投足を試す様に体を動かす。
 森育ちのロウザにとって、海中は未知の領域。淡水である湖とはまた違った感覚に、初めは戸惑っていた。
 しかし、天性の勘か、それとも自然が教えるのか、ロウザはものの数分で水中での行動の間隔を掴む。
 一方、共に囮として潜った鈴華もまた、慣れぬ水中活動に四苦八苦していた。
 息も継げぬ水中では、例え開拓者といえども行動が著しく制限される。
 しかし、鈴華もまたものの数分で水中活動のコツを掴んだ。
 ロウザとはまた違った、天性の勘がそうさせるのだろうか、それとも、幼い頃に境遇から身につけた野性的な感がそうさせるのか。
 更にもう一人の囮役、昴。
 水中での心得は漁師に聞いたのか、その身は実に軽装であった。
 その細身の体を覆うものは布一枚のみ、手には一丁の宝珠銃、ただそれだけを持って昴は脅威漂う海へと臨む。
 水中での行動を阻害する装備は無い、しかし、昴には一対の龍翼があるのだ。
 本来、水中では役に立たぬであろう翼。
 しかし、昴は自らの意思が通った一対に、使命を与えた。
 水を掻き、水を裂く、水を回し、水を打つ。
 陸上では飛ぶことさえかなわぬ龍翼は、水中にて昴の翼となったのだ。

 囮となる三人は、噂のケモノが徘徊するといわれる海域を目を凝らし見つめた。
 幸い、海の中は陽光に照らされ遠くまで見渡せる。
 後は、現れるのを待つだけ。海の王と噂されるその牙を――。

●船内
 水は深みを増すごとに、胸を圧迫する。
 いや、胸だけではない。足、腕、頭――全身余す所なく加わる水圧は、三人の行動を著しく制限していた。

 すでに海面は遥か頂上。
 黯羽は蜘蛛の糸の様にか細く垂らされた荒縄を眼で追った。
 荒縄の端は海面へと続き、反対側は自分の手首に結ばれる。
 そして、もう一方の手で腰に下げた水筒の有無を確認した。
 革水筒に入れられたのは空。水中では決して得られる事の無い、空気を積め込んで来た。
 万が一の為に、用意した命綱を今一度握りしめた黯羽は、取り出した符を沈没船へ向け投げ放った。
 体を包む水が空気を外へ吐き出せと執拗に胸を圧迫する。
 それは、例え船内であっても同じ。
 しずめは嵐により破損した隙間から洩れる僅かな光を頼りに、船内を進んだ。
 船内の構造はすでに頭の中に叩き込んである。
 目指すは最下層の船倉。船が横倒しになっているのが好都合だ。なにせ、深度を気にしなくていいのだから。
「ふぅ‥‥」
 丁度頭一つ分ほどの小さな空気だまり。
 ロックは船内を捜索中見つけたこの空気だまりで一呼吸ついた。
「‥‥荷が少ないな」
 それは船内を進んでいた時に気付いた小さな違和感。
「嵐に会った時に投げ捨てたか。懸命な判断だな」
 しかしそれは、船乗りであれば当然の行いをした結果だ。ロックは懸命に船を沈めまいとした水夫達の行いに敬意を表すように黙祷し、再び海の中へ身を沈めた。

●水中
 とても人では出せぬ速度で、黒い巨大な弾丸が鈴華を襲う。
 しかし、鈴華は黒き弾丸が吐き出す殺気を敏感に感じ取り、最小限の動きでその軌道を避けた。
 ここはまさに死地。地の利は完全に相手にある。三人は次々と迫り来る鮫の襲撃を何とかいなしていた。
 しかし、それもいつまで持つかわからない。
 陸上で半歩横にずれるのは容易い。しかし、ここは水中なのだ。半歩ずれようとするだけで、全身の筋肉を酷使する。
 野生の勘。ロウザは上下逆さまのまま鮫の攻撃をかわしながら、腹へ痛恨の一撃を見舞った。
 天性の勘。鈴華は殺気を垂れ流す鮫の攻撃を紙一重で避けながら、背中へと強烈な一撃を与える。
 周到な準備と水中で開花した龍翼の威力。昴は龍翼を羽ばたかせ、推進を得る。そして、向い来る鮫に銃の柄で鼻っ柱への痛烈な一撃をお見舞いした。

 三人は圧倒的不利なこの状況にも、持てる全ての才能を駆使し果敢に立ち向かっていた。

 もう数えきれぬ程の交錯を重ねた末、突然、鮫達の攻撃が嘘の様に止んだ。
 いきなりの事に、三人は背を寄せ合い警戒をするように辺りを見回す。
 しかし、鮫達が攻撃する気配は完全に消え失せていた。

 その時。

 海底付近にゆらりと白い影が姿を現した。
 『氾牙』。三人はその姿を一目見ただけで、噂のケモノだと確信する。

 海中に降り注ぐ陽光が照らし出す白亜の肢体。
 時おり開く口から覗く、数えきれないほどの鋭利な牙。
 そして何より特徴的なのは、殺気漲る鋭い眼光を放つ左右二対の眼。
 それはまさに、海の王と呼ぶにふさわしい威風堂々とした姿だった。

 圧倒する程の雄々しきその姿を、三人は呆然と眺めていた。
(‥‥っ!)
 突然、ロウザか鈴華と昴の手を掴むと海底へ向け引きこむ。
 突然の事に、一瞬呆気にとられた二人だったが、ロウザの行動を瞬時に理解した。
 海底を這う様に泳ぐ氾牙は、海上から一本伸びた縄をその鋭い四つの眼で追い、目標を定めていたのだ。

 囮を買って出たつもりが、囮に踊らされた。

 周到に狡猾に完璧に獲物を狩る。
 海の王の実力を見誤ったのは自分達であったと。
 三人は瞬時に理解した。

 そして、ロウザに導かれる形で二人は、全力で海底へと向った。

●船内

 ドウっ!!!

 突然の衝撃が船体を揺らし、ようやく船倉へと辿り着いた三人を壁へと打ち付けた。
 一般人であればそれだけで気絶するほどの衝撃にも、開拓者である三人は何とか耐える。
 しかし、壁へと叩きつけられた三人は、衝撃に貴重な空気を肺から強制的に吐き出した。
 吐き出る空気をそれ以上逃すまいと口元を押えた黯羽が、他の二人の様子を見やる。
 体の大きなロックは、黯羽と同様、肺の空気を幾程か持って行かれた。だが、体勢を立て直している。
 しかし、しずめがまずい。小さな体は衝撃により飛ばされ頭を打ち付けた様で、額から血を流し水中を力無く漂っていた。

 ドウっ!!!

 再び襲い来る強烈な衝撃に、ついに均衡を保っていたはずの船体が傾いだ。
 水中を漂っていたしずめを捉えたロックが、自身の服を口で引きちぎり傷口に当てる。
 ロックはしずめを抱えながらも、必死で目の前に漂う宝珠が入っているであろう木箱を探った。

 ドウっ!!!

 三度目の衝撃に、ついに船体が動き出した。
 目的の物はもう目の前にある。しかし、あと一掻きが命取りとなる。
 船体を揺らす衝撃は正確な間隔を刻み今も続け、傾いだ船体は徐々に更なる深みへ向け歩の速度を上げた。
それはまるで終焉へのカウントダウン。
 このままでは確実に人の生息できぬ深みに至る。

 ドウっ!!!

 四度目の衝撃が、進退を決めるには最後のチャンスだといわんばかりに二人に選択を迫った。
 その時、意識を取り戻したしずめが船底を指差す。
 そこには、氾牙の突撃によって出来た小さな亀裂があった。

 ドウっ!!!

 五度目の衝撃。しかしそれは、氾牙の一撃ではない。
 しずめの指示した亀裂に、黯羽の斬撃符が炸裂したのだ。
 切り刻まれた木片が海中に弾ける。
 そして、その爆風を切り裂き、船内の三人が飛びだした。

 何とか船内から脱出した三人に、駆けつけた三人が合流する。
 脱出した三人と、駆けつけた三人。砂丘の頂上付近で合流した6人は、改めて今置かれた状況を確認した。

 目の前には悠々とその白亜の肢体を晒す氾牙。
 そして、海底への道をゆっくりと滑り落ちる沈没船。
 頭上には数えきれぬ程の鮫が獰猛な牙を研ぎ、氾牙が狩るおこぼれを狙っていた。

 肺が空気を欲し、鳴動を繰り返す。
保険で持ちこんだ空気はすでにない。そして、目の前には敵。

 四面楚歌。

 一行の脳裏にその言葉が浮かんだ。
 手練の開拓者であっても、この深度では実力の何分の一を発揮できるかもわからない。
 ましてや、肺に残る生命の息吹は尽きようとしているのだから。

 前にも進めず、かと言って空気を求め海上へ至る事も出来ない。
 諦めるしかないのか――。
 そう、誰かが思った。

 その時。

 突然、昴が海底の砂地に宝珠銃の銃口を突き刺す。
 そして、溜めに溜めた練力を指先に込め、引き金を引いた――。

 精霊力の銃弾がその威力を爆発させ海底の砂を一気に巻き上げる。
 その威力は、海底の砂を海上にまで押し上げる程であった。

 真っ白に煙る海中で、昴は次弾を直上へと向け――引き金を引いた。
 初弾により巻き上げられた砂が、次弾の弾道に切り裂かれ道となる。

 巻き上げられた砂がまるで煙の様に壁へと。
 直上への光弾は、一行を誘う道へと。

 昴の作ったこのチャンスに、一行は残る全ての力を振り絞り、海上へと向け海底を蹴った――。

●海上
「ぷはっ!」
「早く船に上がれ!」
 海上に浮く7艘の小舟に、しがみ付く様にして這い上がる。
「はぁはぁ‥‥」
「死ぬかと思ったー!」
 船へと這い上がった一行は、船縁から海を除きこんだ。

 水面下には、まるで雪降る様にゆっくりと海底へと戻る砂。
 そして、獲物を見失い活発に動き出した鮫達の姿があった。

「‥‥氾牙は小舟も狙うと聞く。早くこの海域を離れよう」
 全ての目的は失った。最早ここに居る意味はない。
「‥‥」
 絞り出されたロックの言葉に意気消沈する一行から発せられる返事はなく、遠くに霞む天儀本土へ向け、櫂をこぎ出した――。