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■オープニング本文 魔槍砲。 それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。 ●安州 この日、朱藩の首都『安州』に一丁の銃がもたらされた。 「はぁ、お話になりません。ここに居ても時間の無駄の様ですね」 「なっ!? 王の御前で、時間の無駄とは何事かっ!」 荘厳な造りの居間を、派手な装飾品が彩る。 呆れる様な溜息をつき、席を立ちあがろうとした黒藍に向け、老齢なる氏族が声を上げた。 「交渉の進まぬ席程無駄なものはありません。生憎、こちらはあなた方ほど暇ではありませんので」 晒される怒りにも、黒藍は顔色一つ変える事無く席を立ちあがる。 「ひ、暇っ!? 商人の分際で、国を預かる我々を暇だと――」 「もういいって」 額に浮いた血管が切れんばかりに激昂する老氏族を、止めたのは輿志王の声であった。 「王っ! この者を即刻、国王侮辱の罪で処断なさいませっ!!」 「もういいって言ってんだろ?」 「いいえ、よくありませぬ! これは――」 「黙れ‥‥それとも何か? 俺の言う事が聞けないってのか?」 その一言に部屋の温度が数度下がったように感じる。 「い、いえ‥‥そのようなつもりでは‥‥」 まるで火縄の焼ける銃口を向けられた感覚に、老氏族はすごすごと席に着いた。 「すまんな。部下が取りみだしちまった」 だらしなく玉座に座する輿志王は、脱力しきったその体とは裏腹に、黒藍を鋭く差すような視線で見つめる。 「いえ、こちらも少し言い過ぎた様ですわ」 そんな視線を真正面から受ける黒藍は、何事も無い様に作り物の笑みを輿志王に返した。 「俺もアル=カルマで散々探したんだけどな。見つけられなかった。流石商人の情報網ってとこか」 「お褒めに預かり光栄ですわ」 歳を重ねた落ち着きのある笑顔。 黒藍は何処となしか妖艶にも見える微笑みを輿志王に向ける。 「で、ぶっちゃけいくらで売る?」 そんな不遜な態度を逆に楽しむように、輿志王は黒藍に問いかけた。 「1丁50万文」 「なっ、馬鹿なっ!? 暴利が過ぎるぞ!!」 と、短く答えた黒藍に、先程すごすごと引き下がった老氏族が再び噛みつく。 「うっ‥‥」 再び口を開いた老氏族に輿志王が視線だけを送り無言の圧力をかけた。 「何本持ってる?」 「望む数を」 「ふむ‥‥とりあえず10丁貰おうか」 「お、王っ!?」 まるで露店の団子でも買うかの様な王の決断に、老氏族は思わず立ち上がる。 「ありがとうございます」 しかし、そんな老氏族の狼狽を意にも介さず、黒藍は作り物ではない心からの笑みを浮かべた。 ●鍛冶屋街 満足に舗装もされていない土が剥き出しの道。 互いが互いに寄り添う様に隙間なく建てられた掘立小屋。 どす黒い黒煙がもうもうと上がり、辺りには硝煙の匂いが充満する。 豪奢を好み派手を良しとする安州の一角にあって、こここそが最もこの国の本質を表している場所であろう。 「‥‥」 そんな鍛冶屋街にある一軒の工房。 「なんぼ見ても変な構造やなぁ‥‥」 机に置かれた珍妙な武器を眺め、鉄砲鍛冶『宗吉』がぽつりと呟いた。 見た目は細身の槍。しかし、持ち手の部分には引き金があり、まるで長銃の様でもある。 「ほんで、ここに宝珠っと」 そして、銃身部分には紅く輝く宝珠。 「これを改造ねぇ」 誰に語りかけるでもなく、宗吉は机に置かれた武器を取り上げた。 「長さは‥‥2mちょっとゆぅとこか。重さは長銃と変わらへんか」 手に持つ武器の名は魔槍砲。 新大陸アル=カルマで使用される武器らしい。 宗吉はこの珍しい武器を色々な角度から眺めたり振ったり。 「ま、助っ人さんも来てくれるゆぅことやし」 そして、散々眺めていた魔槍砲に興味を無くしたのか、宗吉は無造作に机に戻すと、 「考えんのはそれからやな」 散歩にでも出かけるのか、軽い足取りで自らの工房を後にした。 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂
ミル・エクレール(ib6630)
13歳・女・砂
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
リラ=F=シリェンシス(ib6836)
24歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●安州 「魔槍砲ねぇ、中々面白い玩具じゃねぇか」 目の前に横たわる珍妙な銃を前に、子供の様に目を輝かせる鷲尾 天斗(ia0371)。 「その浪漫わかりますっ! 女の子の夢ですよね、魔砲!」 そして、別の意味で目を輝かせるルンルン・パムポップン(ib0234)。 「あんまり侮ってたら、手痛いしっぺ返しを食らうよ?」 そんな二人に、リラ=F=シリェンシス(ib6836)が呆れた様に声をかける。 「リラの言う通り。アル=カマルでも、使える人間は限られてる、難しい武器だよ」 リラに続き、アル=カマル出身のミル・エクレール(ib6630)が真剣な眼差しを皆に向けた。 「見れば見るほど不思議な武器ですね。銃の機構に宝珠を利用しているものは他にもありますが‥‥これはまるで別物、なんですね」 そんなミルの言葉に、御調 昴(ib5479)は感慨深く頷く。 「うん、ほんと。世界にはまだまだ不思議なものが沢山あるよね。宝珠をこんな風に使うなんて‥‥ほんと面白い!」 と、天斗と同じく目を輝かせる神座亜紀(ib6736)。しかし、彼女は魔槍砲そのものよりも、一風変わった構造に興味があるようだ。 「それで俺達の元に依頼が持ち込まれた訳か。機構を解明し、矛にする為に」 と、オーラス・カノーヴァ(ib0141)は初めて目にする魔槍砲の興味深く見下ろし呟いた。 ●広場 鍛冶屋街の外れに設けられた試射場には、多数の職人が集う。 「論より証拠、撃ってみるのが早いでしょうね〜」 そんな試射場の隅に、ディディエ・ベルトラン(ib3404)は、一丁の銃を持ちこんでいた。 「鷲尾さん、反動がきつい様ですのでお気をつけて〜」 「おうさ、任せときなっ!」 そして、隣には魔槍砲を構える天斗。 腰を深く落とし、両手で持った魔槍砲を腰横で構え、合図を待つ。 「それでは、お願いします〜」 手帳片手に見つめるディディエの合図に、天斗は的に照準を合わせる。 「ほんじゃ、いっくぜぇっと!」 そして、手元の引き金を引いた――。 まるで大筒の如き轟音。 その音に、周りで試射を行っていた鍛冶屋達が、何事かと振り向いた。 「‥‥威力は申し分なさそうですね〜」 塞いでいた耳から手を離し、ディディエが残煙を上げる魔槍砲を見る。 「うへ‥‥なんだこれ‥‥」 爆炎が起こす反動は何とか押えこんだ。しかし、襲う疲労感に天斗は眉を顰めた。 「どうです?」 声をかけるディディエに、天斗は大きく一息つき魔槍砲を地面に下ろす。 「ふぃ、槍としてはまぁ、普通だけどなぁ。この砲撃は改良の余地ありまくりだ。一発で練力半分以上持ってかれたぞ?」 「ふむ‥‥半分以上とは穏やかじゃないですね〜。やはり、練力消費を克服することが最優先ですね」 天斗の感想を事細かに手帳に記して行くディディエ。 「それでは次のテストに移りましょうか〜」 「ほいよーっと」 そして、二人はこの珍しい武器の特徴を掴むべく、何度となく試射を試みたのだった。 ●小屋 「一番気になるのは、練力消費の件でしょうか」 宗吉の鍛冶小屋の一角に設けられた設計室。 「だね。そこをまず何とかしなくちゃ、始まらないでしょ」 集まった開拓者達は、魔槍砲改造の為の話し合いを始めていた。 「どんな人間でも扱えなきゃ、意味ないわね」 「はいっ! はいはいっ!」 と、話が練力の問題に及ぶと、ルンルンがここぞとばかりに手を大きく上げた。 「なんや、元気なねーちゃんやな。なんかええ案でもあるん?」 「はいっ! えっとですね、魔槍砲に『弾』の概念を持ち込めないでしょうかっ!」 「へ? 弾?」 と、当てられたルンルンが嬉しそうに立ち上がると、自ら持ってきた案を発表する。 「そうですっ! 予め、練力や精霊力を蓄えた弾‥‥えっと、この場合宝珠とかになるんでしょうか。を、ですね装着させる事によって、扱う者の消費する練力の代わりにできないかなって」 「ふーむ、消費する練力をそもそも別のもんで代用する、ゆぅ事か?」 「はいっ! 名付けて、魔槍カートリッジ弾! どうでしょう!」 自信に満ちた瞳で宗吉を見つめるルンルン。 「それって‥‥魔槍砲にする意味ないんとちゃう?」 しかし、宗吉はどこか困った様にルンルンと視線を交えた。 「へ?」 「そもそも弾の代わりが練力であり開拓者やろ? 弾込めて云々やるんやったら、普通の銃にならへんか? ま、仮に弾作るゆぅても、作れる奴は天儀中探しても居らんやろけどな」 「あ、えっと‥‥」 「それに関して、僕からもいいですか?」 と、宗吉の返しに言葉を詰まらせるルンルンを助ける様に、昴が声を上げた。 「うん?」 「弾の構想は理想として、莫大な消費量を補う為に宝珠を使うというのはいい考えだと思います。例えば、グライダー用の増槽に使われている宝珠など、十分に練力を補えるかと思いますが」 「増槽に使われる宝珠って‥‥あんなでかいもん積まれんで?」 「ええ、そのままでは使えないでしょうから、小型の同属宝珠を利用して、消費練力の補助に出来ないでしょうか」 「うーん、補助なぁ‥‥例えばやで? その宝珠があったとしよ」 「はい」 「確かに補助にはなるかもしれへんけど、ほんま些細なもんやで?」 「些細、というと‥‥?」 「10分の1、いや、100分の1も補われんやろな。魔槍砲の練力消費、ほんま半端ないで? なぁお二人さん」 と、宗吉は試射を行ったディディエと天斗へ振り返る。 「ですね〜。鷲尾さんですら一発で練力半分ですからね〜」 「うむうむ」 宗吉の言葉に頷く二人。 「ゆぅわけで、弾の構想は実用性に欠ける。ま、それだけ志体持ちってのが、練力を蓄える『器』として上等、っちゅうことや」 「ふむ‥‥いい案だと思ったのですが‥‥」 「う、うーん‥‥」 技術者としての宗吉の言葉に、二人はうまくいい返せず黙り込む。 「そもそもさ。宝珠が一つだから問題なんでしょ?」 と、そんな二人に変わり、亜紀が手を上げ立ち上がった。 「うん?」 「一つで無理やり、練力の吸い上げと物理エネルギーへの変換をやらせてるもんだから、非効率な変換。果ては暴走までいっちゃうんじゃないかな」 亜紀は中央に置かれた魔槍砲に視線を落す。 「消費する練力は0に出来ないんでしょ? なら、消費する量を調整してやればいいんじゃないかな」 「と、ゆぅと?」 「宝珠を二つにするの」 亜紀は魔槍砲の練力の流れに注目したのだ。 「二つに? 増やせばええってもんちゃうで?」 「わかってる、それは踏まえた上で、二つ積む案を提案したの」 「うん?」 否定されてなお、自身の意見を通そうとする亜紀に、宗吉は首を傾げる。 「一つ一つに役割を分散させるの。一つで使用者から練力を吸い上げて物理エネルギーに変換、で、もう一つで変換された物理エネルギーを出力するの」 「ふむ‥‥おもろいかもしれんな」 「でしょ!」 感心する様に頷いた宗吉に、亜紀は嬉しそうに身を乗り出す。 「せやけど、機構を大分いじる必要があるわ。練力の変換率、練力の流量、火薬の量‥‥まぁ、言い出したらきりがあらへんけど、色々いじらなあかんねん」 「そ、それじゃ出来ないって、こと?」 悔しそうに見上げてくる亜紀に、宗吉はにこりと微笑んだ。 「いや、できることはできる。ただ、すぐには無理やな。相当時間かけて構造弄らなあかん」 「そ、そっか‥‥」 そして、しゅんと項垂れる亜紀の肩をポンと叩く。 「おもろい案を色々とありがとな。せやけど、ちょっとばかし実用的なもんがない、かな」 そして、宗吉は一行を見渡し、 「今回は現実的な所で、宝珠の交換って事にしとこか」 そう提案したのだった。 ● 昼食を終え、再び集った一行。 「そもそも、なぜ火砲のみなのだ」 と、再び始まった議論の中、オーラスがふと呟く。 「うん?」 「魔術に様に、氷砲、雷砲など様々なバリエーションがあってもいいと思うが」 「へぇ、おもろいこと言う兄ちゃんやな」 突然の提案に、宗吉は感心する様な好奇の声を上げた。 「面白い? 魔術を扱う者からすれば、炎のみという方がおかしく感じるのだがな」 「そうゆぅもんなんか? まぁ、雷を生み出す宝珠もない事はないからなぁ。確かに組み込めれば、そらすごい武器になるやろな」 「ならば試す価値はあるだろう?」 パイプに火を入れ、紫煙を燻らせながらオーラスが続ける。 「あかんあかん。そもそもこの魔槍砲に使われとる宝珠自体、練力を物理エネルギーに変換する宝珠やで? 構造からして別もんや」 「適合する宝珠が無いと」 「今は、やな。ま、宝珠はいろんなもんが見つかっとるし、今後兄ちゃんがゆぅ様な宝珠も見つかるかもしれへんな」 「まずは発掘ありき、という訳か」 「夢がある話やろ?」 「どうだかな」 ニヤリと微笑む宗吉に、オーラスは答えを画¥はぐらかし、煙を大きく吸い込んだ。 「宝珠の事で、ボクからも、いいかな」 と、オーラスに続き手を上げたのはミルだ。 「ほいほい? どんどん意見出していってや」 「うん。えっと、例えば、槍の穂先に風宝珠をとりつける、って言うのはどうかな?」 宗吉の言葉に静かに立ち上がったミルは、言葉を続ける。 「風宝珠を? 爆炎撒き散らして、爆風にでもするんか?」 「うんん、違う。その逆」 「逆?」 「爆炎は広がるから、威力が散ると思う。だから、狙いをつける為に、風宝珠を利用するんだ」 「へぇ、爆炎に指向性をつけるゆぅ訳か」 ミルの言葉に、宗吉は感心したように頷いた。 「そう言うの? 確か、風宝珠は竜巻が起こせる、って聞いたから」 「確かに可能な話やな。でもまぁ、飯前の話でもあった様に、宝珠を増やすんはなかなか大層な作業になるんや」 「うん、それは聞いた。だから、いつか、でもいいんだ」 「そやな。構想としては理にかなっとる思うし、実現させてみたい一本やな」 「ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい」 期待を込めた宗吉の言葉に、ミルは不器用に微笑んだ。 ● 休憩を挟み、再び白熱を見せる設計部屋。 「宝珠の暴走、これも大きな問題ですね」 昴が魔槍砲の問題の一つを取り上げた。 「宝珠に負担をかけ過ぎているから、暴走なんていう事が起こるんだろう」 と、オーラスが冷静に分析する。 「だから、宝珠を二つにして!」 「せやから、すぐにはできへんて」 どんと机を叩いて立ち上がった亜紀の頭を、宗吉はぽふぽふと撫でながら諭した。 「宝珠の出力を押える。それなら暴走は起きないんじゃない?」 と、リラが皆に問いかける。 「ダメだろなぁ。押えようと思っても、勝手に吸われるし」 しかし、実射を行った天斗が首を振りながら答えた。 「そもそも、消費練力の調整機構が無いというのが欠陥だろう」 「それもそうだけど、暴走は無くならないんじゃない?」 「いつ、暴走するか、わからないのは、怖いね」 「例えばなんですが‥‥」 と、白熱する議論にあって、昴がすっと手を上げた。 「宝珠と使い手の間に『弁』を設けることはできないでしょうか?」 「弁‥‥ほぉ、弁か」 「はい、一定量以上の練力が流れた場合、強制的に閉じる弁を機構の中に埋め込む事が出来れば、暴走を阻止できると思うんです」 すっと視線を落し考え込む宗吉に、昴が続けた。 「問題は技術的な物ですが‥‥可能でしょうか?」 「宝珠が起こす熱量を感知して――うん? ああ、いけるかもしれへんな」 と、昴の問いかけに一人の世界へと浸っていた宗吉がハッと顔を上げる。 「おお。暴走は止められるのですね?」 「ま、やってみなわからへんけどな」 「ねぇねぇ。それなら、砲撃に特化する事も可能なんじゃない?」 と、昴の案に頷いた宗吉を見てリラが声を上げた。 「確かに暴走の危険性が無くなれば、練力消費はあるにせよ、気にせず砲撃でるかもしれんな」 「一本は砲撃特化で、決まり。ね」 「そやな。それで行ってみよか」 にこりと妖艶に微笑むリラに、宗吉は頷いた。 ● 夜の帳が落ち、小屋に行燈の灯がともる。 「朝の実験で思ったのですけど、砲撃を使うにしても反動が大きすぎるかと思うんですよ」 ディディエの切り出した話題に、議論は移っていた。 「耐えれない程じゃねぇし、そんなに気にする事もないんじゃねぇ?」 実際に撃った天斗が何気なしに答えるが、 「使用される皆さんが、鷲尾さんみたいにムキムキじゃありませんからね〜」 ディディエは袖を捲り、自身の貧弱な力こぶを作って見せた。 「肩とか外れちゃうんですか‥‥?」 と、そんなディディエにルンルンが恐る恐る問いかける。 「ええ、この通り」 「ひぃぃっ!?」 そんなルンルンにディディエはわざと肩を外して見せた。 「と、まぁ冗談はさておき」 がくがくと震えるルンルンを見やり、肩をはめたディディエは何事もなかったかのように話を戻す。 「同属以外の宝珠は使えないという事でしたけど、小さな宝珠を使う事はできるんじゃないですか?」 「小さな宝珠?」 ディディエの言葉に、宗吉は思わず問い直した。 「言わば、変換量の少ない宝珠です。まぁ、大きさと変換量が比例しているかどうかは分かりませんけど」 「‥‥ふむ、それはたぶん行ける筈や。変換量を可変にせぇへんのやったら、小さしたら消費も減る。それに宝珠を入れとくスペースは小さくする分には問題あらへんし」 「お? それはそれは」 視線を落し考え込む宗吉に、ディディエは意外とばかりに声を上げた。 「それって、小型化ってこと?」 と、ミルがディディエに問いかける。 「いえ、私は砲撃の威力を押えて、反動軽減できればと。魔槍砲自体はそのままですよ」 「そう、なんだ。残念」 ディディエの答えに肩を落とすミル。 「今は無理でも、行く行くは小型化の可能性もあるだろう」 そんなミルにオーラスが声をかけた。 「そして、その改造、連射性も期待できるんじゃないのか?」 そして、オーラスは考え込む宗吉に問いかける。 「うん? ああ、そやな。一発の消費が減るから、連射もできるやろな。まぁ、火薬が持つ限り、ゆぅ条件付きやけど」 「ふむ‥‥火薬も改良の余地があったか」 返ってきた答えに、今度はオーラスが考え込んだ。 ● 練力出力の可変化。瘴気、精霊力の利用。練力の常時供給。魔槍砲自体の小型化、大型化。物理エネルギーの一時貯蔵構造。 様々な議論が交わされ、様々な意見が出された。 実現可能な物。不可能な物。どれも、この新しい武器に込められる期待の表れであろう。 「――こんなとこか。ほな、発表するで」 そして、宗吉は一行に向け、まとめ上げた改造構想を伝える。 練力改善の為、質の良い宝珠と交換された一本。 砲撃を最大限に生かす為、弁を取り付け暴走対策を行った上で砲撃特化させた一本。 威力を押え、小出力で安定性と連射性、そして反動軽減を狙った一本。 まだ見た事の無い新たな魔槍砲3本の構想を持って、宗吉は改造へと乗り出した。 そして時を同じくし、新たな魔槍砲開発計画も、次の段階へと進んでいた――。 |