【ポ】愉快痛快誘拐犯?
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/07 19:34



■オープニング本文

●山の屋敷
 生い茂る木々が日光を遮る。
 夏であれば熱い日差しを葉が遮り、心地よい空間となるだろう。
 しかし、季節は冬。暖かな陽の恩恵を木々は邪魔をする。
 そんな森深い山の中腹に、一件の立派――であった屋敷が存在した。
「聞くも涙、語るも涙な話なんだ‥‥」
 元はそれなりの身分の者が避暑の地としていたであろう屋敷から久しぶりの人の声が。
「ふむ‥‥」
「彼女は、親の借金のかたに無理やり激務を続けさせられてる‥‥」
「‥‥なるほど?」
「もう借金は返し終わってるって話なんだ! それでも、あいつ等は彼女を解放しようとしないんだ!!」
「‥‥ふむ」
「なんだかんだと難癖つけて彼女をずっとこき使ってる‥‥。それこそ人に言えない様な事まで‥‥」
「‥‥」
身を削られる痛みに耐える様に語る男の声。その声をポンジはじっと聞いていた。
「俺は‥‥俺は彼女を救い出したい!」
 どんと机に拳を打ちつけ、男は目の前でじっと話に耳を傾けるポンジにその感情をぶつける。
「なんとか‥‥なんとかお願いできないだろうか?」
「‥‥許せねぇ」
 懇願する男の視線に、黙り込んでいたポンジが口を開いた。
「‥‥許せねぇな! わかった! 俺に任せとけ!!」
「おお! やってくれるのか!!」
 懇願するように語っていた男の声が明るいモノに変わる。
「ああ、この俺にすべて任せとけ! 必ず連れ戻してやるからよ!」
 そして、その嘆願に答える様に自信を漲らせるポンジ。
「すまない‥‥。もう貴方しか頼れる人がいないのです!」
「おう! 大盛りで頼ってくれていいぜ! 泥船に乗ったつもりで待ってな!」
「泥‥‥い、いや、よろしくお願いします!」
 深く深く頭を下げる男に、ポンジは豪快に微笑むと、風の如き速さで屋敷を飛びだした。

「‥‥ふん、アホは扱いやすいな」
 意気揚々と屋敷を後にしたポンジの背を眺め、男はニヤリと口元を吊り上げたのだった。

●神楽の街
 夜の帳が降り、すでに数刻。
 賑やかな神楽の街にも、ようやく静けさが訪れた。
「ふぁぁぁ‥‥、暇ね」
 湧きおこる欲求を抑えもせず、豪快に欠伸をかます神楽ギルドの不寝番『西渦』。
 昼とは打って変わって閑散とするギルドを、カウンター越しに眺めていた。
「なにかこぉ、刺激的な事件って無いのかしら‥‥」
 来る日も来る日も同じ光景。訪れる人は変われど、ギルド職員の業務にそれほどの変化はない。
 西渦はこの刺激の無い毎日に、どこか辟易としていた。

「はっはっはっ! 待たせたな! 俺、只今参上!!」

 そんな、平和な平和な丑三つ時。
 突然、ギルドに似つかわしくない高笑いが辺りに響き渡った。
「な、なに!?」
 その声に、うろたえる様に辺りを見渡す西渦。
「なんだなんだ?」
「アヤカシの類か!」
「こんな夜更けに迷惑な高笑いね‥‥」
そして、たまたま足を運んでいた数人の開拓者。
「おいおい、どこ見てるんだ。ここだよここ!」
 と、やや不満そうに
 それはカウンターの下から。
「え‥‥えぇぇっ!?」
 声に誘われ覗き込んだカウンターの下には、窮屈そうにポーズを決める覆面の男が一人。
 西渦は座っていた椅子をひっくり返し、もんどりうって倒れ込んだ。
「いたたた‥‥一体何が――え‥‥?」
 痛打した腰をさすりながら立ち上がった西渦。
「さぁ、逃げるぞ!」
「はへ‥‥?」
 突然腰に回された腕に抵抗らしい抵抗も出来ず西渦は状況が飲み込めない。
「気にするな、すぐに助けてやるからよっ!」
 そんな西渦にポンジはニヤリと口元を吊り上げ、天を見つめた。
「え、え、えぇぇっ――!?」
 そして、一瞬にして屋根の上へと飛びあがったポンジ達は、夜の神楽に西渦の悲鳴にも似た絶叫だけを残し、街から姿を消した。

「な、なんだったんだ‥‥?」
「さ、さぁ‥‥」
 残されたのは、たまたまギルドに足を運んでいた開拓者達。
あまりに一瞬の出来事に互いの顔を見合わせ呆ける。

 ひらひらひら――。

「‥‥うん?」
 そんな開拓者達の元へ天から1枚の紙が。
「なんか降ってきたぞ?」
「えー、どれどれ‥‥」
 拾い上げた一人が、その紙を手に取り書かれた文面を読み上げた。

 そこには、こう書かれてあった――。


『 拝啓 ギルドの皆様

 冬の厳しさも一段落ついた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
 早くも開花を始めた梅の花の色に誘われ、この度、西渦様の元へとはせ参じた次第です。

 突然の出来事で驚かれた事かと思いますが、どうかご容赦下さいませ。
西渦様には日々の激務を一時忘れ、心穏やかに過ごせる時間を御提供できればと思っております。

 では、用件のみですがこれで失礼させていただきます。
 まだ冷たい初春の風にも負けず、どうかご自愛下さいませ。

追伸:アジトを記載した紙を同封いたします。機会がありましたら、是非お越しくださいませ。

                                         敬具

                                         怪盗 ポンジ 』


「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥なぁ、これって」
「犯行予告状‥‥?」
「予告って事は無いだろ‥‥? もう攫った後みたいなんだから」
 ギルドの職員が誘拐されるという前代未聞の出来事にも、たまたまギルドに足を運んでいた開拓者達は何故か動じない。
「おーいギルドの人ー。職員攫われたぞー」
 そして、気の無い声でギルドの奥へと呼びかけた。
「‥‥反応が無いわね。皆いないのかしら」
 呼べど暮らせど反応が無い他のギルドの職員に、呆れる様に声を上げた開拓者の一人。
「どうするよ、これ‥‥」
 と、謎の犯行状を不幸にも受け取ってしまった開拓者は、汚物でも掴む様に指でつまみ上げたそれを、ひらひらと振った。
「‥‥とりあえず、張っておけばいいだろう」
 そんな様子に、落ち着きのある開拓者の一人が依頼書の貼ってある掲示板を指差した。
「でもよ、これって依頼なのか‥‥?」
「では、お主行くか?」
「張ってきまーーす!!」

 かくして、ギルドに集った開拓者達の機転?により、この前代未聞の出来事は依頼となった。
 参加者が集まる保証など、どこにもないのだが――。


 果たして、謎の男の願いは成就するのか!
 そして、攫われた西渦の運命は!

 次回! 『【ポ】愉快痛快誘拐犯?』 こうご期待!!


■参加者一覧
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
藤丸(ib3128
10歳・男・シ
春陽(ib4353
24歳・男・巫
後家鞘 彦六(ib5979
20歳・男・サ


■リプレイ本文

●神楽ギルド
 いつも開拓者達でごった返す神楽の街のギルド。しかし、今日は少し様子が違っていた。
 いつも受付達が詰めているカウンターには物々しい規制線が張られ、
「なるほど、犯行は一瞬であったと」
「‥‥」
 事情聴取を受ける水月(ia2566)は、岡っ引きの問いにこくこくと首を縦に振る。
「他に何か気がついた事はあるか?」
「‥‥‥‥‥まさか、駆け落ち?」
「へ?」
 ぼそりと呟いた水月。その表情は実に真剣なものであった。
「‥‥うんん、そんなはずないの‥‥団長さんには――」
 きょとんと見つめる岡っ引きを他所に、水月はブツブツと何やら呟く。

 そんな規制線の外。
「まぁ、この書体は」
 ギルドに依頼を探しに来ていた出水 真由良(ia0990)が、掲示板に貼られた依頼書に目を止めた。
「ふむふむ、なるほど‥‥相変わらずお元気な様で何よりですね。ポンジ様」
 見覚えのある依頼書を真由良は手に取る。
「へぇ、あのポンジさんですか。噂はかねがね」
 そんな呟きを耳にした春陽(ib4353)は、興味深げに声を上げた。
「ポンジ様に興味がおありなので?」
「ええ、一度会ってみたいと思っていた所です」
「では、ご一緒されますか?」
「おや、よろしいのですか?」
 春の陽気に誘われたのか、二人は会話に花を咲かせる。
「もちろん私も行くんだからっ!」
 と、そんな突然の声は真由良の背後から。
 声に振り向いた真由良の目の前には、ぐぐっと拳を堅く握りしめ、正義の萌えるルンルン・パムポップン(ib0234)の姿があった。
「まぁ、ご一緒いたしますか?」
「愉快痛快ゆかい犯を放っておくなんて、私の正義が許しませんっ!」
「よこくじょ――招待状もありますし、沢山で伺った方がポンジ様も喜ぶでしょうね」
「捕まえては千切っては投げて衣をつけて油で揚げてやるんですっ!」
「そうですわ。おはぎでも作って差し上げませんとね」
 まるで会話が成っていない二人であるが、何故か向かうベクトルは同じ。
「あ、なになに? 何か面白そうな事やってるの?」
 と、そんな謎の会話キャッチボールを繰り広げる二人を、藤丸(ib3128)が尻尾をフリフリ、興味深げに覗き込んでくる。
「はい、皆様でとある怪盗様からの招待にお呼ばれしようかと」
 そんな藤丸に真由良は笑顔で答えた。
「おー! 何それ、俺も行く行く!!」
「人数は多い方がいいですし、喜んでご招待いたしますわ」
 目を輝かせる藤丸に、何故か主催者側に立つ真由良は笑顔で頷いた。
 
 ここまで集まった参加者は、いつの間にか合流していた水月を加え合計5人。
「そうですね。後お一人くらい‥‥」
 と、最後の参加者を探す真由良は、ギルドをきょろきょろと見回した。
「ふぅ! さて、依頼の報告していっちょ気晴らしに小唄でも――」
「と言う訳で、参りましょうか」
「へ‥‥? はぁ!?」
 と、ふと目に入った後家鞘 彦六(ib5979)の腕を満面の笑みでがっちりと掴んだ。

 前代未聞の誘拐事件を解決すべく集まった、開拓者有志による西渦救出隊。
 果たして、結末やいかに!

●屋敷前
「たのもー!」
 森の奥に立つ立派な屋敷の正門の前、藤丸が大声で叫んだ。
「‥‥反応がありませんわね」
 しかし、中からは呼びかけに答える者は無い。
「もしかして、もうここにはいないのでしょうか?」
 そんな屋敷を前に、春陽は困り果てた様に首を傾げた。
「えー! 折角作ってきたんだぞ!?」
「そうですねぇ、私も一生懸命に作ってきたんですけど」
 と、二人はお互いの背に担がれた風呂敷を悲しそうに見つめる。
「このままでは、無駄になってしまいますわね」
 そして、そう呟く真由良もまた小さな風呂敷を持参していた。

「なんでボクが‥‥」
 そんな一行の最後尾、何故か連れてこられた彦六はぶつぶつと不満を口にしていた。
「‥‥旅は道連れ、世は情け、なの」
 と、そんな彦六に水月がぼそりと呟いた。
「うぐっ‥‥! でも、そのポンジだっけ? そいつがここにいる保障でもあるのかい?」
 お得意の前口上を先に言われた彦六。
「‥‥」
 そんな彦六に水月は力強く頷くと、懐から取り出した絵馬を天高く掲げた。

 途端、掲げた絵馬が光輝き、天を指す――様に水月には見えるらしい。

「‥‥」
 突然の水月の奇行?に、一行は思わず息を飲む。
「‥‥いらっしゃいませんわね」
 と、しばらくの沈黙ののち、真由良が残念そうに呟いた。
「そんな事で来る訳ないだろ!? どこの召喚相棒だよ!?」
 不機嫌極まる彦六は、じっと絵馬を掲げて動かない水月を問い詰める。
「‥‥来るの」
 そんな彦六の怒りに、水月はしゅんと項垂れた。
「うっ‥‥ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
「‥‥大丈夫、なの。こんな事でめげていられないの」
 謝る彦六に、水月は気丈に首を振り、何か決意したように門を見つめた。

●堀
「ふっふっふー!」
 立派な堀を前に、両手を腰に当て不敵な笑みを浮かべるルンルン。
「ルンルン忍法にかかれば、こんなお堀なんて赤絨毯と同じなんだから!」
 侵入者を阻む為に作られた堀さえも、ルンルンにとっては栄光の赤絨毯に見えるらしい。
「ポンジさん! あなたの命も風前のまきびし! 誘拐なんかしちゃう悪い子には‥‥積木に代わってお仕置きよっ!!」
 どどーんと塀の向うの屋敷を指差すルンルン。
 迷走する目的と共に、ルンルンは水の上へと一歩を踏み出した。

●門
「招待いただいたのに迎えが無いとは。さて、どうしましょう?」
 重厚な門を前に、春陽は皆に問いかける。
「ルンルンさんが開けんの待てばいいんじゃね?」
「招待したんだから、名乗り上げれば開くさ!」
 春陽の問いに答える藤丸をおいて、彦六がズイッと前に出た。
「やいやいやい! 招待しておいて門を開けねぇとはどういう領分だ! そんな不義。お天道様が許しても、このボクが許さないぞっ!!」
 半分とばっちりの様な気がしないでもないが、彦六の怒りは止まる事知らない。
 いつの間に用意したのか『傾奇者 天下一』と書かれたノボリをはためかせ、門へ向け盛大に啖呵を切った。

『‥‥』
 しかし、相変わらず返事はない。
「いい覚悟だね。そっちがその気なら――」
 返事の無い招待主に、彦六の怒りは遂に限界を超え、ゆらりと門へと。
「‥‥」
 と、その時。彦六と門との間に水月が割って入った。
「‥‥きっと、団長さんは操られてるの」
 怒る彦六の瞳を見つめ、水月は訴えかける。
「は? 操られてる‥‥?」
 突然の言葉に、彦六の拍子が抜かれた。
「私が確かめるの‥‥!」
 と、止まった彦六に背を向け、門へ向かい符を掲げた水月は、
「団長さん‥‥今助けるの!」
 こみ上げる涙を堪え、渾身の白狐を放った。

●前庭
「出てきやがれ、ポンジ!」
 破られた門をいち早く抜け、藤丸が辺りを探る。
「中も無人ですか。ふむ、これは困りましたね」
「これだけ派手に登場したってのに、出迎えもないとか、どんだけだよ!」
 しかし、辺りに相変わらず人の気配はない。
 腕を組み頬を膨らせる藤丸と、困った様に辺りを伺う春陽。
「もしかして、場所を間違えましたかしら?」
「えー!? ここまで来て、そんなの嫌だぞ!!」
 困った様に首を傾げる真由良に、藤丸は駄々をこねた。
「このままでは無駄になってしまいますね‥‥お百姓さんに申し訳が立たない‥‥」
 春陽は背負った風呂敷を眺めた。

「‥‥団長さん」
 と、その傍らでは、破壊された門の瓦礫の脇にしゃがみ込み、どこか幸せそうに呟く水月。
「まぁ、こんな所に」
 そこには、瓦礫に押しつぶされノビるポンジの姿があった。

●壱の棟
 囲炉裏を囲む床の間。
 一行は、勝手に壱の棟へと上がり込んでいた。
「いやぁ、酷い目にあったぜ!」
 ごろごろと喉を鳴らす水月の頭を撫でつけながら、ポンジは豪快に笑う。
「まさか、開けに来ていただけた所だったとは‥‥申し訳ありません」
 そんなポンジに、真由良はぺこりを首を垂れた。
「でも、よかったよ! これが無駄にならなくなった!」
「そうですね。やはり、食して頂く方があっての料理ですから」
 藤丸、春陽は互いを見合い、にかっと嬉しそうに微笑む。
「お! 差し入れか!!」
 そんな二人の言葉に、ポンジが食いついた。
「ええ、いつもお腹を空かせていると伺いましたから」
 と、そんなポンジに春陽は担いでいた風呂敷を下ろした。
「うお!? すげぇ!!」
 ドンと音が鳴るほど巨大な風呂敷。
 その中身は、蓋が閉まりきっていない重箱であった。
「サイズの合う容器が無かったもので‥‥」
 と、目を輝かせるポンジに、春陽は申し訳なさそうに重箱の蓋を開けた。
「こ、これ食っていいのか‥‥!?」
「はい、お口に合えばいいのですけど」
 重箱の中身は、まるでメロン程もあるおにぎり群。
「いっただきまーす!!」
 そんな巨大なお握りを物ともせず、ポンジは口いっぱいに頬張った。
「おい! 俺もちゃんと作ってきたんだぞ!」
 そんなポンジに向け、ぷぅと脹れる藤丸。
「おおぅ!?」
 頬張った口のどこに余裕があるのか、ポンジは更に藤丸のお握りまでも口へ放り込む。
「どうだ? 美味いだろ? そうだろうそうだろ!」
 一心不乱にお握りにかぶりつくポンジを眺め、藤丸は満足そうに頷く。尻尾を嬉しそうに揺らして。
「ってさ、こいつ誘拐犯なんだろ? こんなにほのぼのしてていいの‥‥?」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。腹が減っては戦は出来ぬと申しますし」
 ほのぼのとお握りを頬張る一行に、不安げに声を上げた彦六を真由良が宥める様に声をかけた。
「そ、そうか! 戦か! うん、それならば!」
 当初の目的を忘れ、一行は二人が拵えたお握りの味に舌鼓を打った。

●弐の棟
 真っ暗な闇に時折差す光。
 潜入に成功したルンルンは、西渦を探す為、一路弐の棟の天井裏をほふく前進で猛進していた。
「‥‥」
 天井裏にへばりつくルンルンが、物音に耳を凝らす。
「西渦さん、一体どこに‥‥」
 ポンジに攫われ、屋敷に捕らわれているであろうギルド員をルンルンは必死で探していた。
「早く見つけないと‥‥あんなことやこんなことに‥‥!」
 暗闇で表情はわからないが、きっとよろしくない事を考えているのであろう。
 その妄想がルンルンを更に焦らせた。

 ――。

「っ!」
 その物音は突然だった。
 ほんの微かな囁きがルンルンの耳へと届く。
「見つけたっ!」
 微かな音を感じ取ったルンルンは、ほふく前進のまま猛スピードで天井裏を駆け抜けた。

●壱の棟
 お握りをたらふく味わった一行は、食後のおやつに真由良のおはぎを頬張っていた。
「それにしても、どうしてこんな事をなさったんですか?」
「うん? こんな事って、なんだ?」
 真由良の問いかけにポンジはかくりと小首を傾げる。
「そうだ! お前は親から相手を招待する時、人を攫えって教わったのか!? いい大人がかっこ悪い事してんじゃない!!」
 とぼけるポンジに、彦六の溜まりに溜まった怒りがついに弾けた。
「‥‥親は‥‥いねぇんだ」
「うぐっ‥‥! そ、それはすまない‥‥」
 折角切った啖呵も、悲しそうに項垂れるポンジに威力を失う。
「‥‥わかった。攫ったギルド員さんの居場所を教えれば、今回の事は大目に見――」
「ああ、あいつらなら、奥の建物に居るぜ?」
「‥‥へ?」
 あっさりと白状したポンジに、彦六は思わず拍子抜け。
「‥‥西渦お姉さんを取り戻しに行くの」
 ポンジの告白に、頭を撫でられていた水月は、当初の目的を思い出したのか、キッと奥に建物を見つめる。
 そして、ポンジを加えた6人は、一路奥の屋敷へと駆けだした。

●弐の棟
「‥‥あ、悪趣味すぎる」
 盛大な音を立て開かれた襖の奥から覗いた光景に、彦六は思わず頬を引くつかせる。
「あ、あんな所に」
 と、春陽が指差した先には、薔薇の花畑の中に静かに眠る西渦の姿が。
「まぁ、お姫様みたいですわね」
 まさにそれはどこぞの国の姫を思わせる。真由良はうっとりとその姿を見つめた。
「‥‥綺麗なの」
 と、そんな西渦の姿に憧れに似た感情を抱いたのか、水月は羨望の眼差しを送る。
「花粉症になりそうだけどな!」
 そんな一種幻想的な雰囲気をぶち壊し、ポンジが高笑いをかました。

「寝てんのか?」
 薔薇の匂いがきつすぎるのか、藤丸が鼻をつまみながら眠る西渦に近づく。
「そのようですね」
 と、巨体を揺らし春陽もまた西渦へと近づいた。
「‥‥別になんにもされてなさそぉだな」
「ええ、危害を加えられていなかったのはよかったですね」
 すやすやと寝息を立てる西渦の姿に、藤丸、春陽はほっと胸を撫で下ろした。

●庭
「西渦さん‥‥僕の想いを受け取ってくれただろうか‥‥」
 燦々と降り注ぐ陽光を一身に受け、宴楽はそわそわと早足に弐の棟へと向かう。
「話は全て聞かせてもらいました!」
「だ、誰だ!?」
 突然響いた声に、今までの浮かれた気分を一転、宴楽は焦った様に辺りを伺った。
「泥棒のうわごとは寝て言えなのです! ――あれ‥‥うわばみ、でしたっけ‥‥?」
「上前じゃない‥‥?」
「そう、それ! ありがとうございます!」
 突然のボケに思わずつっこんだ宴楽に、声の主は丁寧にお礼。
「い、いや、それほどでも‥‥」
「でも、悪い事は悪いのです! ルンルン忍法で成敗です!」
「え? 何? 脈略なし!?」
 と、突然姿を現した声の主に、宴楽は盛大に尻もちをついた。
「ルンルン忍法――『この人誘拐犯』!」
 尻もちをついた宴楽を見下ろすルンルンは、素早くその背に回りこみ、札を背に貼りつけた。そして――。

「皆さん! 犯人さんはここです!!」
「‥‥えぇぇっ!?」

 屋敷中に響く大声で、犯人の居場所を皆へと知らせた。

●大団円
「‥‥大人しく観念するの!」
 背中に貼られた札を頼りに、一行は宴楽を追い詰める。
「ひ、ひぃ!?」
「多忙な西渦様に良き休日をありがとうございます。でも、もうお仕事の時間ですので」
 と、真由良は笑顔で、宴楽の身体に縄をぐるぐると巻きつけて行った。
「あのさー、あんたすげぇかっこわりぃ」
 蓑虫状態の宴楽に向け、まるでゴミでも見下ろす様に蔑んだ視線を向ける藤丸は、
「相手にされねぇのは当然だよな」
「うぐっ‥‥」
 鋭く尖った言葉のナイフを突き立てた。

「はぁ‥‥やっと終わった。これで思い存分弾けるね!」
 と、お縄についた宴楽を見下ろし、彦六が自慢の三味線を取り出し、弾き語りを始める。
「まったく人騒がせな奴だぜ!」
 そんな彦六の楽を背に、ポンジがお決まりの高笑い。
『お前がな!!』
「はっはっはっ! 褒めるなよ!」
 皆の一斉のツッコミにも、ポンジは照れたように大笑いを続けた。


 こうして、真白な廃人となった宴楽を残し、一行は屋敷を後にする。
「むにゃむにゃ、お腹一杯‥‥」
 春陽に背負われる西渦は、夢の中で幸せな想いをしているのだろう。
 一行はそんな西渦の姿を微笑ましく見つめ、帰路へと着いたのだった。