|
■オープニング本文 ●弐音寺 その日、沢繭は戦火に包まれた。 「頼重殿! 第一防衛線、もう持ちません!!」 弐音寺のお堂の中央に静かに佇む最上 頼重に向け、配下の兵が悲痛な叫びを上げる。 「‥‥くっ。物量で押してくるか」 そんな報告に、頼重はギリッと唇をかんだ。 「第一防衛線へ伝令! 防衛線を放棄し、第二防衛線へ兵力を集中させろ!」 「はっ!!」 頼重の指令を受け、兵士は駆け足で部屋を後のし、戦場へと舞い戻る。 「‥‥頼重殿」 頼重の隣に陣取る副官が、恐る恐る声をかけた。 「皆まで言うな」 しかし、頼重はギュッと瞳を閉じ、短くそう呟く。 「まさか、このような事になろうとは‥‥」 そんな頼重の悲痛な表情に、副官は朝のあの時の記憶を辿り始めた――。 ●朝 「明けましておめでとうございます。振姫様」 領主屋敷の大広間では、領主振々を囲み新年恒例の挨拶始めを行っていた。 「んむ! あけましておめでとうなのじゃ!」 囲む家臣たちを満足げに見つめ、振々は無い胸を張る。 「振姫様、家臣一同を代表しまして私が乾杯の音頭を」 「んむ! まかせるのじゃ!」 上機嫌の振々は脇に控える頼重の言葉に、大きく頷いた。 「では、皆の者。新年を祝い、乾杯と行こう」 振々の許可に、頼重は立ち上がり杯を掲げた。 そして、それに倣うように、家臣一同が立ち上がる。 「では――。今年もよろしく頼むぞ、皆。乾杯!」 『乾杯!』 頼重の掲げた杯に合わせる様に、家臣一同が杯を掲げた。 「よ、頼重殿!!」 新年を祝い杯を一気に呷る一同にあって、一人の家臣がそれに気付いた。 「うん?」 と、突き出す指を震わせながら訴える家臣に頼重は、その指し示す先を視線で追う。 そこには――。 「うー‥‥。う?」 頬を真っ赤に染め雌伏の表情を浮かべる振々。 「なっ!? 姫様!?」 咄嗟に頼重は振々の杯を取り上げた。 「うぅーー!」 しかし、取り上げられた杯に未練がましく手を伸ばす振々。 「うわ、酒臭っ!?」 目の前で飛び跳ねる振々が吐き出す息は、明らかに酒気を含んでいた。 「誰だ、姫様の杯に酒を注いだのは!?」 頼重は犯人を探す為一同を見渡すが、皆首を大きく振り自分ではないと主張する。 「お主ら‥‥! ひ、姫様‥‥?」 そんな一同を恨めしく見つめる頼重を、突然黙りこんだ振々が着物を掴む。 「‥‥」 「え? 今なんと?」 頼重の言葉に答えたのか、振々はぼそぼそと小さな声で何かを呟いた。 「‥‥戦じゃ!!」 明らかに座った目で一同へ向け言い放った振々。 『はぁぁぁあ!!??』 家臣一同、振々の豹変に開いた口がふさがらなかったのは言うまでもない――。 ●領主屋敷 「姫様! 港の制圧完了いたしました!」 「うむ」 片膝をつき首を垂れる兵士の報告に、振々は満足気に頷く。 「残るは仇敵頼重が待つ、弐音寺唯一つ!」 そして、振々は軍配を手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。 「弐音寺を囲む様に兵を展開! 退路を塞げ!!」 いつもの言葉足らずな物言いからは想像できないほど、はきはきと指令を下し、バッと軍配を振るう振々。 「はっ!」 そんな振々の言葉に兵士は短く、そして大きく答えた。 「ふふふ‥‥。頼重、お主の命運、尽きたり!!」 兵士が去り、再び一人となった部屋で、振々は小さくほくそ笑んだのだった。 沢繭の覇権を賭け、今ここに、はた迷惑な戦が始まった――。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リーナ・クライン(ia9109)
22歳・女・魔
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●沢繭 戦局は刻一刻と変わりつつある。 「敵軍、第二防衛線突破!! 残った者は全て弐音寺下の最終防衛線へ後退しました!」 いつもは平穏な時を刻む弐音寺に、悲痛な叫びが木霊した。 「‥‥残った者は?」 弐音寺の石段を駆け上がってきたのであろう、息を切らした兵士に、頼重は静かに問いかける。 「はっ! 最上様を含め10名程が残るのみとなっております!」 頼重の問いかけに、兵士は偽りの無い報告を上げた。 「聞いての通りだ」 と、頼重はそんな兵士から視線を外し、後ろに控えた者達へ声をかける。 「新年早々、大変な事じゃのぅ」 緊迫する戦況にも、まるで他人事のように朱鳳院 龍影(ib3148)が呟いた。 「まったくだな‥‥。いくら酒の席の戯れとはいえ、ここまで大事にしてしまうとは‥‥」 と、龍影に言葉に頷いた雪斗(ia5470)は、呆れる様に深く溜息をつく。 「それにしても、振々ちゃんにこんな才能が眠っていたなんてねー」 一方、リーナ・クライン(ia9109)は感心するように頷いた。 「はた迷惑な才能だ。付き合わされる兵士が不憫でならない」 そんなリーナの言葉に、竜哉(ia8037)は怪訝そうに答える。 「頼重おじさま〜♪」 4者4様の感想を漏らす堂内に、一際場違いな声が響いた。 「うん? ――おぉ!?」 そんな呼びかけに振り向いた頼重に、ガバッと抱きついたのはケロリーナ(ib2037)であった。 「けろりーな、おべんとう作ってきたですの♪」 頼重の胸の内から顔を見上げ、ケロリーナはにこりと微笑む。 「差し入れか。すまんな助かる」 そんなケロリーナの笑顔に、頼重はその頭を撫でつけた。 「えへへ、褒められたですの☆」 「‥‥色々思う所はあると思うが、なんとか姫様の暴走を止めてくれ」 ケロリーナの頭を撫でながらも、頼重は佇む四人に向かう。 「うむ、私達に任せておけば容易い事じゃ」 「振々ちゃんの采配と私達に力量、どっちが勝つか楽しみだねー」 「‥‥」 「大事になる前に、収拾をつけなければな‥‥」 「はいですの♪」 頼重の言葉に答える5人。 こうして、沢繭防衛隊に最後の希望がともされた。 ●屋敷 「振々様、明けましておめでとうございます」 部屋の中央で軍配を握り佇む振々に向け、万木・朱璃(ia0029)が礼を尽くした。 「何をしに参った?」 しかし、振々は顔見知りの朱璃に対しても、表情を崩さず淡々と問いかける。 「え、えっと、相手に開拓者の援軍が来たと聞いて、振々様のお力になろうと思いまして‥‥」 そんな振々のいつもと違う迫力に押され、朱璃は思わず声音を小さくしてしまう。 「‥‥ふむ。頼重の奴、小癪な真似を」 朱璃の報告に、振々は小さく舌打ちすると、瞳を閉じた。 「あの‥‥振々様‥‥?」 見た目はいつもの我儘姫。しかし、その雰囲気はまるでどこかの大将軍を思わせる。 朱璃は、恐る恐る声をかけた。 「‥‥なんじゃ?」 瞳を開けた振々はやや眉を顰め、答える。 「えっと‥‥何かお手伝い出来る事は‥‥」 「いらぬ。そこで見ているがいい」 朱璃の申し出は、あっさりと拒否された。 「そんな‥‥」 「何を考えてここに参ったかは知らぬが。下手な動きはせぬ方が身のためだ、と忠告しておこう」 「う‥‥」 振々の最後の言葉に、言葉を詰まらせた朱璃は、すごすごと部屋を後にした。 ●弐音寺 「――という訳だ」 最終防衛の準備に追われる外の喧騒とは打って変わり、静寂が支配する堂内にて、竜哉と頼重が対峙する。 「‥‥話はわかった。数は用意できぬが薬は用意しよう。それに、収拾出来た際には、街に御触れを出そう」 頼重は竜哉の言葉に大きく頷いた。 「ならば話は早い。早々に首謀者を押えに行くか」 と、頼重の答えに満足気に頷いた竜哉。 「準備をしろ。ここには替え玉を置き、屋敷を急襲する」 そして、頼重に向けすっと手を差し出した。 「私にここを離れろと言うのか?」 しかし、頼重は竜哉の手を取らず、逆に問いかける。 「ここにいても事態は進まないだろう。ならば、共に行くのが最善。指揮官ならば、その程度は理解できると思うが?」 手を差し出したまま、竜哉は頼重に諭す様に語りかけた。 「‥‥申し出はありがたいが、私はここを離れるつもりはない」 「‥‥なんだと?」 竜哉の言葉を頼重は突っぱねる。 「‥‥」 力強い視線で見つめる頼重を、竜哉は無言で見つめ返した。 「残った兵を放っていくなど出来ぬ」 「‥‥」 その言葉に竜哉は無言で頼重を見つめる。 「‥‥こんな茶番に大層な使命感だな」 そして、竜哉はそう言い残し、部屋を後にした。 ●最終防衛線 「‥‥」 振々の兵士達は、敵の本丸を前にして動けずにいた。 「どうしたの? 来ないの?」 兵士達が不動の理由。それは目の前に佇むリーナのせいであった。 「来ないなら、こちらから行くけど」 と、リーナは軽く杖を振るう。 「‥‥!」 その小さな挙動にざわめく兵士。 「何をしている! 一斉にかかればいくら志体持ちとは言え、恐るるに足らん!」 動揺する兵士にあって、指揮官らしき男が怒声を上げた。 「あー、やるんだ」 指揮官の檄に、一斉に槍を構える兵士に向け、リーナは小さく口元を吊り上げる。 「どうなっても知らないからね?」 そして、リーナは恐れながらも命令に忠実に向かってくる兵士達へ向け、杖を向けると。 「無邪気なる氷霊の気紛れ――吹雪け、風!」 真一文字に横一閃。 「ブリザーストーム!!」 杖から生み出された霊気は、リーナと向い来る兵士の間を吹き荒れた。 「う、うわっ!!」 氷嵐が威勢よく向かってくる兵士達をとどまらせる。 「それ以上進むと、無数の氷像を作る羽目になるよ」 そして、リーナの止めの言葉。 兵士達は生れた氷原の前で微笑を見せるリーナに、戦意を失った。 ●大通り 「ふん。その程度か?」 兵士の槍の一突きをあっさりと避け、龍影が足を払った。 「傷付けない様にな‥‥」 そんな龍影に、共に囮となった雪斗が声をかける。 「それはこの者達に言うのじゃな」 二人は次々と向かってくる兵士達の攻撃を、ひらりひらりと避けていく。 「この‥‥一斉にかかれ!」 そんな龍影達の余裕に満ちた態度が癪に障ったのか、別の兵士が声を上げた。 「しかし、数が多いな」 「ああ、それもよく訓練されている‥‥」 背を預け合う二人。そして、その二人を大きく取り囲む50人は下らない兵。 向い来る兵士に致命傷を与えず攻撃を避け続ける二人。 その結果、相手の数は一向に減らず、この不毛な戦いは半刻あまり続いていた。 「おぉ‥‥なんか本格的だな!」 「兵士さん達、そんな奴らやっつけちゃえ!」 そして、兵士の更に外。沢繭の住民達がこの戦いの行方を固唾を飲んで見守っていた。 「‥‥なんじゃ。私達が悪者みたいではないか」 「仕方がないだろう、自分達は部外者だからな‥‥」 野次馬たちの声援は自軍の兵士達へ向けられる。 二人は疲れた様に一つ溜息をつくと、再び囲む兵士達に視線を向けた。 「埒が明かぬのぉ」 好転せぬ戦局に、こきりと肩を鳴らした龍影。 「どうするつもりだ‥‥?」 「こうするんじゃ」 と、雪斗の問いかけに答えるよりも早く、龍影は身をかがめ走りだした。 ●路地 「‥‥」 巡回する兵士達の視覚に溶ける人影。 「‥‥街の広さが仇になったな」 そう呟いた人影は、影から影へと身を移して行く。一路屋敷へ向けて――。 ●弐音寺裏道 「‥‥」 黒装束に身を包む兵士が音も無く弐音寺に忍び寄る。 「もうすぐか‥‥。相手は最上殿、皆心してかかれよ」 と、先頭を行く隊長は背後につき従う部下達に視線を向けた。 「隊長! あ、あれを!!」 その時、突然部下の一人が山頂を指差す。 「大声を上げるな! 一体何が――」 そんな部下を注意し、隊長格の男は指差された山頂を見上げ――固まった。 ごごごごご! 「こんな場所にも罠か!?」 隊長格の男は思わず驚愕の声を上げる。そこには、道とも呼べぬ獣道を勢いよく転げ落ちてくる大玉。 「隊長!」 「慌てるな! この程度どうという事は無い、林に入り避けろ!」 焦る部下達に隊長は冷静に指示を飛ばす。 ごごご――。 「‥‥これまで以上に慎重に進まねばならぬ様だな」 なんとか大玉を避けた兵士達はほっと一息をつく。 その時。 『まだおわりじゃないですの♪』 「な、何だ今の声は‥‥!」 突然林に木霊す謎の声に、兵士達に再び動揺が走った。 ばさっ! 「うわっ!?」 時を同じくして、木の上から降り注ぐ大量の粉。 「ぺっぺっ! なんだこれは!?」 降り注いだ白い粉に、兵士達はうろたえた。 「ええぃ! こんなもの! ただのこけおど――うおぉぉぉ――!!」 うろたえる兵士にあって気概を見せる隊長を、再び悲劇が襲う。 突如取られた足は、地面との抵抗を失いそのまま来た獣道を真っ逆さまに滑りおちる。 「た、隊長!? うおぉぉ!?」 そんな隊長を追う兵士達もまた、獣道を流れるぬるぬるの液体に足を取られ、坂を真っ逆さまに転げ落ちていった。 『おしおきかんりょうですの☆』 瓦解した工作部隊を満足気に眺め、謎の声は嬉しそうに呟いたのだった。 ●屋敷 「――工作部隊壊滅!」 「――主力、弐音寺前で足止めされています!」 「――第二陣、敵援軍に苦戦中!」 「‥‥」 次々ともたらされる報告を、振々は表情も変えず受ける。 「頼重め、なかなかやるではないか。のぉ、朱璃よ」 そして、そう呟いた振々は、ニヤリと口元を吊り上げると、部屋の隅に佇む朱璃に視線を向けた。 「相手方には開拓者も付いているようですしね」 「その様じゃな」 「ですから、私がお手伝いをと」 「‥‥」 何度も願い出る援助の声を、振々は一向に受け入れない。 (うーん、困りましたね) 見つめる振々は、脇に置かれた酒を一人、手酌で飲み干している。 (酔いが醒めるのを待つのはちょっと難しいかもしれませんか) 「‥‥いいだろう。ではお主の力貸してもらえるか?」 と、突然。再三にわたる申し出を、振々はようやく受諾した。 「は、はいっ! 喜んでっ!!」 突然変わった振々の思惑に、朱璃は不穏な何かを感じながらも、大きく頷いたのだった。 ●屋敷裏 屋敷の外周をわざと目立つように駆け抜ける雪斗。 そんな雪斗を、10名を越える兵士達が追いかける。 「さて‥‥観客も集まってきた事だし始めるか‥‥」 と、立ち止った雪斗はくるりと方向転換。追ってくる兵士達へ向かう。 「もう逃がさんぞ!」 追いついた兵士は、すぐさま雪斗を囲む様に布陣を引いた。 「‥‥さて、正月で鈍った体を存分に動かそうか」 じりじりと包囲を狭める兵士達に向け、雪斗はニッと小さな笑みをこぼし呟いた。 ●最終防衛線 「ほら、お屋敷で騒動が起きてるみたいだよー」 「はやくいかないと、振々ちゃんがやられちゃうですの☆」 屋敷での騒動は、弐音寺にまで響いてくる。 最終防衛線を護るリーナとケロリーナは、対峙する兵士達に屋敷を指差して見せた。 「くっ! 体勢を立て直す! 全軍、退け!」 隊を預かる長は、苦渋の決断を隊に下すと、弐音寺に詰めかけていた兵士達は、一斉に踵を返し屋敷に向け駆けだした。 「お疲れ様―、気をつけてね?」 一斉に退却した兵士達の背に向け、リーナが手をフリフリ。 「リーナおねーさま、けろりーなたちも行くですの♪」 「あ、そうだねー。振々ちゃんに会いにいこっか」 そして、二人は兵士達の後を追い、ゆっくりと屋敷へ向かったのだった。 ●屋敷裏 「このぉ!」 「‥‥そんな突きじゃ自分は捉えられないよ」 訓練された兵士達による見事な連撃。しかし、避ける事に特化した雪斗は難なくかわして行く。 『きゃぁ! 白髪のお人がんばってぇ!!』 「うん‥‥?」 突如、野次馬から上がる歓声に、雪斗は思わず振り向いた。 舞う様に戦う雪斗の姿に、今まで兵士側の声援を送っていた野次馬達はその声援の矛先を変えた。 「‥‥変な雲行きになってきたな」 飛び交う黄色い声援に、兵士達の攻撃を避けながら、雪斗は苦笑い。 「‥‥まあいい。これでおとりの役目は果たせるな」 ●夜半 陽が落ちる。 早足に去った夕暮れは、長い闇夜を呼び込んだ。 「お主、一体何をやっておる‥‥」 「ははは‥‥どういう訳かこういう成り行きになっちゃいまして」 屋敷の正門で対峙する龍影と、朱璃。 「どうした朱璃。とっととやらぬか。大見得切ったのはお主じゃろう」 と、後ろに控える振々が、朱璃に向け言葉を放った。 「‥‥と言う訳なので――行きますっ!」 「面白い。かかってこい!」 そして、二人は屋敷の正門を舞台に激突した。 「とりあえず、死んでおけ」 「そ、そんなぁ‥‥」 「いつまでもこんな事をしていては埒が明かぬじゃろう」 「そ、そうですけど‥‥」 拳を交える二人は、振々に聞こえぬよう小声で申し合わせる。 「あれー? 熱いバトルの真っ最中、かなー?」 「あ、振々ちゃんもいますの☆」 そんな二人の元へリーナとケロリーナが駆けつけた。 「ほれ、これで3対1じゃ。諦めろ」 「うぅ‥‥」 拳を交える龍影の後ろに、二人の姿を確認した朱璃涙目。 「さっきまでの威勢はどうした。開拓者と言っても所詮その程度の実――」 そんな、3人を前にじりじりと後退する朱璃に、振々が呆れた様に声をかけた。 その時。 「‥‥そこまでだ」 「むっ!?」 その声はすぐ後ろから。 正門での戦いを見つめていた振々は、突然姿を現した竜哉に腕を取られる。 「茶番は終わりだ。いい加減目を覚ませ」 そして、動けぬ振々の口元へ、竜哉は無理やり小さな丸薬をねじ込んだ。 「ににに、苦いのじゃ!!」 「‥‥それが酒に負けたお前の罪だ。存分に噛みしめろ」 ばたばたと暴れる振々の身体を押さえつけ、竜哉は丸薬を無理やり飲み込ませる。 そして――。 「――む? ぬしは誰じゃ?」 皆が見つめる中、きょろきょろと辺りを伺う振々。 「振々様、私がわかりますか‥‥?」 そんな振々に、朱璃が恐る恐る声をかけた。 「朱璃であろう? へんな事をきく奴じゃな」 返ってきた答えは、いつもの振々の物。 「振々ちゃんが元にもどったですの☆」 元に戻った振々に嬉しそうに飛び付いたケロリーナ。 「むっ! なんじゃ何事じゃ!」 ケロリーナの熱い抱擁を受けながらも、振々は事態が飲み込めない。 「振々ちゃん、ちょっと酔っぱらってたんだよー?」 そんな振々に、リーナが苦笑交じりに答えた。 「酔っぱらって‥‥? 振はよってなどおらんのじゃ!」 「はた迷惑な領主じゃの‥‥」 喚き散らす振々に龍影は呆れる様に呟いた。 「‥‥さて、兵士達にも灸をすえてくるか」 振々を囲む一行から外れ、竜哉は独り兵士達の元へと向かった。 こうして、新年早々勃発した沢繭大戦争(仮)は、開拓者たちの活躍によって呆気なく幕を閉じる。 そして、この騒動は『新春大訓練会』と称され、沢繭新年の名物イベントになった――とか。 |