月下の雫石
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/17 21:18



■オープニング本文

●此隅
 武天が首都『此隅』。
 その街に濛々と真っ黒な煙を噴き上げる一角が存在する。
 そこは鍛冶屋の街。
 武天巨勢王の武を支える刀匠達の戦場である。

 そんな鍛冶屋街にある小さな広場――。

 かきーーーーーーん――。

 鉄が鉄を打つ音とはまるで異質な異音が街に響き渡った。
「ぐぅ‥‥!」
 思わず槌を手放した震える腕を憎々しげに見つめる兼平が呻きを上げる。
「お父さん!?」
 震える右手を左手で握りしめる兼平に、娘である香乃が駆け寄った。
「来んでいい!」
 しかし、兼平は心配そうに駆けよる娘を一睨み。
「で、でも! お父さんの身体が!」
 兼平の鬼気迫る睨みつけに多々良を踏んだ香乃は、せめて声だけでもと必死に呼びかけた。
「これしき、どうと言う事はないわ!」
 しかし、兼平は健気な娘の心配すらも邪魔だとばかりに言い捨て、鍛冶屋街の隅、小さな広場を占拠する巨石に向かいギッと睨みつけた。
「毎日毎日、日が昇ってから暮れるまで、ずっと叩き詰めじゃないっ!」
「割れるまで何日でも叩いてやるわっ!」
 そんな父を想う娘の叫びも、岩に向かう兼平にとっては邪魔でしかないのかもしれない。
「もぉ! こんなの諦めて、返したらいいじゃない!」
 それでも何度も大岩に弾かれる父の姿を見るに見かね、香乃が悲痛に訴える。
「ば、馬鹿者!! 巨勢王直々の依頼に、何と言う事を言う!!」
 しかし、兼平には自分の身体の事などより、巨勢王の依頼の方が重い。
 兼平は娘に対し、きつい言葉で返した。
「‥‥もう知らない! 勝手にすればいいのよ!」
 と、香乃はついに父に背を向ける。
「後ははめるだけなんだぞ‥‥!」
 去り行く娘の背から、兼平はふと横に目をやる。
 そこには木の塀に立てかけられた、刀身にぽっかりと穴を開けた二本の刀。
「待っていろ‥‥お前達を必ず巨勢王の手に握らせて見せる‥‥!」
 物言わぬ鉄の息子達に語りかけるように、兼平は呟いた。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
リスティア・レノン(ib0071
21歳・女・魔
ネネ(ib0892
15歳・女・陰
天ケ谷 昴(ib5423
16歳・男・砲
袁 艶翠(ib5646
20歳・女・砲


■リプレイ本文

●鍛冶場
 夜明けと共に、再び広場へ向かおうと兼平は草履に足を通した。
「お邪魔いたしますね」
 そんな兼平に、入口から声をかけたリスティア・レノン(ib0071)。
「誰だ」
「これはご挨拶が遅れました。ご息女の依頼で参りましたリスティアと申します」
 兼平の不躾な質問にも、リスティアは丁寧に首を垂れ答えた。
「ふん、また余計な事を」
 しかし、兼平はそんなリスティアを無視し、不機嫌そうに立ち上がると、そのまま外へと足を向ける。
「お待ちくださいませ」
 丁度すれ違う瞬間、リスティアは兼平に声をかける。
「宝珠は私達にお任せください」
「‥‥余計な事をするな。あれは俺の仕事だ」
 しかし、リスティアの申し出を兼平は拒否した。
「仕事? それは違いますわ」
「‥‥なに?」
「貴方にはもっと大切な仕事がある筈です」
「‥‥」
「大切なお子様を送りだす事。その為に今体力を使い切ってしまうのは、得策とは思えませんよ」
「‥‥」
「それに家族を大切に想わない人に、良い物は作れませんよ」
 入口ですれ違った態勢のまま言葉を交わす二人。
「‥‥ふん。あれは家族ではない」
 と、兼平はリスティアの言葉を鼻で笑い、鍛冶場に並ぶ打ちかけの刀達へ視線を移した。
「ただの人斬りの道具だ」
 刀を見つめ呟くその言葉には、どこか物悲しさが浮かぶ。
「‥‥それは申し訳ありません」
「いや、いい。お前の言う通り、俺は刀鍛冶だ。宝珠は任せよう。必ず取り出せ」
「はいっ。この身に代えましても」
 説得の言葉に、再び鍛冶場へと戻る兼平をリスティアは嬉しそうに見つめた。

●鍛冶屋街
 朝も早くから、もそこかしこで鉄が鋼を撃つ甲高い音が響き、もうもうと黒煙が立ち上る熱気溢れる。
「ごめんなさい。よろしくお願いします」
 一軒の鍛冶屋軒先から、鍛冶場に向かいネネ(ib0892)が丁寧に頭を下げた。
「あんまり遅くならないでくれよ? 明日も仕事だからな」
 と、答える刀匠に一人が冗談交じりの軽い口調でネネに答える。
「はいっ。出来る限り静かに叩きますから」
「静かに叩いちゃ割れないと思うよ?」
「あ‥‥そうなのでしょうか? えっと、じゃぁ、そっと叩きます」
「おいおい、それじゃもっと割れないと思うぞ?」
「あわわ‥‥えっとえっと‥‥」
 刀匠の言葉に慌てる様にきょろきょろと視線を彷徨わせるネネ。
「あまりからかわないでやってくれ」
 と、そんなネネに助け舟。天ケ谷 昴(ib5423)が苦笑交じりに現れた。
「はは、ごめんごめん」
 と、刀匠は一転、優しく微笑むとその笑みをネネに向ける。
「他の鍛冶屋には話してきた」
「そうか。じゃ、僕も断る理由は無いね」
「ああ、今夜中には終わらせる。少しの間、辛抱してくれ」
「おっと、すごい自信だね」
 自信気にそう語る昴に、刀匠は驚いた様に言葉をかけた。
「開拓者が6人総がかりで砕くんだ。それに、色々と考えがある」
 そんな刀匠に向け、昴は少し口元を釣りあげる。
「へぇ、それは楽しみだ。ま、気にせずやってくれていいよ。兼平にもよろしくね」
「は、はいっ。よろしくお願いします」
 ネネは刀匠の温かい言葉に、再び大きく首を垂れたのだった。

●広場
 鍛冶屋街にほぼ中央、開けた広場にどんと居座る大岩に、天河 ふしぎ(ia1037)が大槌を打ち下ろした。

 かきーーん。

 鉄が鉄を打つ音とはまるで異質な音が広場に響く。
「――いたたた‥‥。ホントに堅いや」
 跳ね返された衝撃は全てふしぎに還る。
 槌を持つ手を離し、しびれる腕を振るふしぎは。
「やっぱり宝珠に守られてるみたい」
 広場に鎮座する大岩をじっと見やった。
「ハァイ、塩梅はどう?」
 と、そんなふしぎの背後から袁 艶翠(ib5646)が声をかける。
「あ、艶翠。この通りだよ」
 佇む艶翠に向け、ふしぎは震える手を差し出した。
「やっぱりね。まぁ、何でもかんでも力押しじゃダメよね」
 そんなふしぎの横を通り過ぎ、大岩に歩み寄った艶翠は、岩を叩きながら呟く。
「艶翠もそう思うんだ」
「もちろん。力で割れるようなら、わざわざ私達に依頼なんて寄こさないでしょ」
「うん、そうだよね。――やっぱりあの話は」
 と、艶翠の言葉に深く頷いたふしぎは、ふと考え込んだ。
「何かいい考えでもあるのかしら?」
「え、あ、うん。ちょっと香乃に聞いたんだけど、この岩は夜に光る時があるんだって」
「岩が光るの?」
「うん。小さな光みたいだけど、変化があるのはその時だけだって」
「ふーん‥‥」
 そんなふしぎの言葉に、艶翠は口元に手を当てしばし考え込み。
「夜、もう一度来てみるべきかもしれないわね」
 と、ふしぎに向け提案した。
「だね。それまでもう少し考えを纏めてみるよ」
「ええ、じゃ夜に」
 そうして、二人は一旦広場を後にする。
 再び夜に集う約束を交わして。

●鍛冶屋
 鍛冶場の二階では。
「ふあぁぁ」
 兼平親子の住居である部屋で、鬼灯 仄(ia1257)は外の景色をぼんやりと眺め大欠伸。
「あの‥‥」
 そんな部屋の障子を隠れ蓑に、香乃が部屋の中を伺う。
「おっと、こりゃ失礼。どうかしたかいお嬢さん」
 やや着崩れた服を正し、部屋に現れた香乃へ向かう仄はにこりと微笑んだ。
「え、えっと、言われた物ご用意しました。夜には広場に届くと思います」
 そんな仄に、どこか警戒した様な香乃は、部屋へ踏み込まず廊下からそう告げる。
「おっと、そりゃあんがとさん。――で、なんでそんなとこに突っ立てるんだ?」
「えっ!? えっと、別に理由がある訳じゃなくて‥‥」
「へぇ‥‥ま、いいわ。とにかくありがとさん」
 押しても響かぬ相手に、仄はあっさり手を引くと、再びにこりと笑顔を向ける。
「あ、後、これ」
 と、そんな仄に香乃が盆に乗った徳利をすっと差し出した。
「おっ、気がきくねぇ。ついでに美人の酌もついてくるとなお嬉しいんだが?」
「っ! そ、それは‥‥」
「ははは。ま、成功したら、な」
「え、えっと‥‥はい」
 どこか照れたように静かに頷いた香乃。
 そんな香乃を仄は嬉しそうに見つめた。

●夜
 澄んだ空気の空には、満天の星空が広がる。
 雲一つない冬の夜は、辺りをより一層冷え込ませていた。
「‥‥変わった所は見えないですね」
「ええ、布を被せても効果ありませんわね‥‥」
 寒空の下、岩を入念に調べるネネとリスティア。
 しかし、何をしても大岩は昼の姿と変わらぬ姿を晒していた。
「月は出てるのに‥‥」
 と、ふしぎが雲一つない空を見上げる。
 そこには、下弦の月が此隅の街を煌々と照らし出していた。
「月は関係ない‥‥?」
 昴が黒い影を落とす大岩を見やる。
 噂にあった淡く光る大岩。しかし、目の前の岩に何ら変化はない。

 その時――。

「‥‥光り出したわ。今ならいけるんじゃないかしら」
 と、艶翠が大岩を指差す。
 大岩は、何の前触れもなく淡く緑色の光を放ち始めていた。
「きたきた! さぁ、月見がてら、いっちょやりますか」
 そんな艶翠の言葉に、一人遠巻きに見つめていた仄が重い腰を上げる。
「ネネの嬢ちゃん、準備はいいか?」
 そして、大岩へ向かうネネに声をかけた。
「はいっ!」
「いい返事だぜ。――その邪魔な力、とっとと消しな!」
 力強いネネの答えに、仄は抜き放った刀を大岩にかざす。
「精霊さん‥‥力を貸してっ!」
 そして、仄と同じくネネもまた、杖を大岩にかざした。
 瞬間、二人を包む淡い光。

 それは一条の光の帯となり、大岩を包み込む。
「待ってました」
 光が大岩を包んだ瞬間、艶翠が器用に長銃をくるりと回すと、銃口を大岩に向け。
「一点集中。狙い撃つわっ!」
 引き金を引いた。

 ぱんっ!

 火薬の弾ける音が辺りに響いた。
「‥‥変化ありませんわね」
 淡く光る大岩を眺め、リスティアが呟く。
 艶翠の渾身の銃弾は、大岩の強度の前にあっさりと弾かれた。
「あちゃ、こりゃ不発か」
「あう‥‥」
 変わりなくその巨体を晒す大岩を前に、ポリポリと頭を掻く仄。そして、がくりと肩を落とすネネ。
「岩のくせに、やるじゃない」
 銃弾を放った艶翠は、大岩を苦々しく睨みつけた。

「やはり俺がやる」
 効果を見せぬ結果に兼平がしびれを切らし立ち上がった。
「おっと、まだ終わってないよ」
 と、そんな兼平の肩を昴が掴む。
「言われただろう? あんたは刀を撃つプロだ。石を砕くプロじゃない」
 そして、肩を掴んだ腕に少し力を込め、無理やり座らせた。
「問題解決は俺達に任せてもらう。これでもプロなんでね」
「‥‥ふん。好きにしろ」
「ああ、好きにさせてもらうよ」
 腕を組み再び椅子にどっかと座る兼平を、満足気に見つめた昴は、一行へと振りかえり。
「それじゃ、第二案いってみようか」
 一行に向け、そう告げた。

●深夜
 陽が落ちてすでに数刻が過ぎていた。
 辺りは歓喜を運ぶ風音以外、無音の世界。
「随分巨大な松明ですこと」
 目の前に組まれた木枠に、リスティアが感心したように声を上げた。
「ははっ、松明か。言い得て妙だな」
 そんなリスティアに、仄は感心したように声をかける。
 広場に鎮座する大岩は、持ち込まれた薪や石炭に覆われ、さながら大松明の様であった。
「このくらいでいいか」
 積み上がった薪に、昴が額の汗を拭い呟く。
「はぁ、疲れたわ」
 大量の薪や石炭を広場に運び終えた艶翠は、小さな石に腰をかけ深く溜息をついた。
「お疲れ様っ! これで一息ついてっ」
 そんな二人に、ふしぎが水を差し出し労う。
「この寒さで、氷もいっぱい用意できましたっ」
 ネネもまた、第二案の為に大量の氷を作り終えていた。
「準備できたようですね。では、点火いたしますね」
 と、一行が揃った事を確認したリスティアが杖を高々と天へと掲げ。
「――陽気な陽気な火の子供達。貴方達の遊び場が出来上がりましたよ。さぁ、いらっしゃい炎の精霊さん」
 そこにいるであろう目に見えない友人に向け、小さく囁きかけた。

 杖から生まれた炎の弾は、松明目掛け一直線に光の軌跡を刻む。

 夜空を真っ赤に染め上げる大松明の炎。
 幻想的にも見えるその光景に、一行は疲れも忘れ、目を奪われた。

「きれい‥‥」
 明るく、そして何より温かい炎の演舞に、ネネは幸せそうに呟く。
「いいねぇ、滾ってくるぜ」
 と、何が滾るのか不明だが、仄は炎を、そして女性陣を見渡し口元を緩めた。
「仕事しろよ、おっさん」
 そんな仄に、すかさず刺さる昴の釘。
「へいへい、わかってますよぉ」
 昴の言葉に仄は両手を上げ、つまらなさそうに
「ネネ、リスティア。お願い」
 そんな二人を他所に、ふしぎが声をかける。
「はいっ!」
「では‥‥」
 答えるネネとリスティアは、それぞれ持ち場に移った。

「大事な刀が生まれる時です、皆力を貸して」
 再び杖を掲げたリスティア。
「――冬を旅する雪の子供達。さぁ、おいでなさい氷の精霊さん」
 杖から噴き出す猛烈な寒気。
 熱せられた大岩を瞬時に凍えさせていく。
「えいっ!!」
 リスティアの吹雪に続き、ネネが桶一杯の氷を松明目掛け投げいれた――。

●丑三つ時
「‥‥」
 大岩を呆然と見つめる一行。
 岩は炎と氷の挟撃にも、その姿をまったく変えることなく佇んでいた。
「それでお終いか? 散々待たせておいてこの始末とはな」
 変わらぬ大岩の姿に、兼平は落胆したようにそう声を上げる。
「と、父さん!? 皆さん、まだ他の案もあるんですよね。ね?」
 と、香乃は悪態をつく父を諌めつつ、縋る様な視線で一行を見渡した。

「えっと‥‥どうしましょう」
 小声でネネが一行に囁きかける。
「どうしようって言ってもなぁ‥‥」
 そんな問いかけに、仄は答えに困りポリポリと頭を掻いた。
「やはり何か他の要因が働いているのでしょうか‥‥」
 事前に観察した大岩に光る以外の大きな特徴は無かった。
 リスティアは少し困った様に呟く。
「これだけしても効果ないんだ。後は総がかりの力技しかないだろう」
「結局、力技の出番なのね」
 深い溜息をつき呟いた昴の言葉に、艶翠も力無く答えた。
「――皆、待って」
 と、大岩へ向かおうかとした一行に、ずっと沈黙を保っていたふしぎが声をかける。
「さっきから光をずっと観察してたんだけど――」
 そして、すっと山裾に沈みかけた下弦の月を指差した。
「月の光と反応してるみたいなんだ」
 煤で覆われた大岩からうっすらと漏れる光。
 それは光り出した宵の口よりも、幾分光量を増したようにも見える。
「光? それでしたら破壊を試みる前に色々と調べましたが」
「うん、でもほら。今は少し変わって見えない?」
 かくりと小首を傾げるリスティアに、ふしぎは大岩を指差す。
「‥‥確かに。ほんの少しではありますけど、光に変化があるようにも見えますね」
「ですね‥‥月が沈んだからなんでしょうか。光が強くなった様です」
 じっと大岩を見つめるリスティアとネネ。
「って事は何だ。月の光だけじゃなく、他の何かも関係してるって事か?」
「うん、きっとそうだと思うんだ。例えば新月の時じゃないとダメだとか」
 仄の問いかけに、再び月に視線を移し答えるふしぎ。
「新月って、今日じゃダメじゃない」
 と、同じく月を眺める艶翠が溜息混じりに呟いた。
「なんだ、今日は無駄足って事か?」
 がくりと肩を落とし
「う、うん‥‥。日を改めて来た方がいいのかも――」
「いや、その説が正しいなら、もう一つあるぞ」
 と、申し訳なさそうに語るふしぎに、昴がふと声をかける。
「え?」
「月が天儀にもたらすものがもう一つある」
 謎かけにも見える昴の言葉。
「‥‥潮、ですか」
 その言葉に、リスティアが答えた。
「あ、そうかも!」
 リスティアの言葉に、ふしぎが嬉しそうに声を上げる。
「やってみる価値はあるだろう」
 皆で導き出した結論に、昴も力強く頷いた。

●広場
「じゃ、やってみるね」
 苦無を構えるふしぎに、5人は頷く。
 そして、5人の了解を得、ふしぎは大岩目掛けて力一杯投げつけた。

 パキン――。

「あ‥‥」
 深々と突き刺さった苦無に、ふしぎは思わず声を上げる。
 ただの飛び苦無に、今までびくともしなかった大岩は呆気なくその身にひびを入れたのだ。
「これまたあっさりと」
 あまりの呆気なさに仄が呆れる様に呟く。
「時間がない。急いで砕こう」
 と、槌を構えた昴の言葉に、一行は頷いた。


 次々に振り下ろされる槌が大岩を砕く。
「見えましたっ!」
 岩を透過してなお光り輝いていた宝珠がついにその姿を現した。
 それは強烈な緑の閃光を放つ双子の宝珠。
「綺麗な宝珠ですわね」
「ふぅ、一時はどうなると思ったが」
「結果良ければすべてよし、でしょ」
 広場を照らす宝珠の輝きを一行はしばし見つめ続けた。


 後に、取り出された双子の宝珠は加工され、二本の兄弟刀の核として打ち上げられた。
 白の刀身を持つ二本の刀は、岩をも切り裂く堅刀となる。
 『千仇刀・月沙/月黎』と名付けられたこの兄弟刀は、巨勢王と共に千のアヤカシを斬り裂き、刃毀れ一つする事は無かったという――。