【ポ】ポンジの正体?
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/18 17:49



■オープニング本文

●此隅
 此隅に数ある番屋の一つは、その噂で持ちきりであった。
「――マジか‥‥?」
「ああ、確かな情報らしいぜ」
「いくらなんでも、そんな訳ないだろ‥‥?」
「それが、結構真面目な話らしくて、巨勢王も討伐に乗り出すとか何とか――」
 ゆらゆらと揺れる獣脂の明りが照らし出す屋内では、数人の男達がひそひそと声を交わす。
「話がでかすぎるだろう‥‥あんな小物相手に王が出てくるのか‥‥?」
「とは言っても、俺達で手に負えてないのは事実だろ?」
「いや‥‥まぁ、そうなんだけどよ‥‥」
 声を殺す男達の会話。
 皆誰しもが噂に興味を示し、そして、訝しんでいた。
「ともかく、俺達の仕事は岡っ引きだ。やらない訳にはいかないだろ」
「とは言えよ。アヤカシ相手に俺等なんかじゃ歯がたたねぇだろ?」
「まだアヤカシと決まった訳じゃないだろ?」
「仮にアヤカシじゃなくとも‥‥」
「ま、いつも逃げられてるしな」
「言うなよ。なんか泣けてくる‥‥」
 番屋には溜息やら憤りやら諦めやら、何だかよくわからない空気が渦巻いていた。
「しかし、あのポンジがねぇ‥‥」
 ふとした男の呟きに、皆がその人物に想いを馳せる。
「‥‥はぁ、めんどくせぇ」
 最後の呟き。
 その呟きに、番屋に集った男達は皆してうんうんと深く頷いたのだった。

●此隅郊外
 荒れ果てた田畑に一陣の風が吹いた。
「くっ‥‥ぬかったわ‥‥っ!」
 がくりと膝を折り吐き出す様に呟くサムライ。
「相手が悪かったな、出直して来なっ!」
 そんなサムライを見下ろし、腕を組み胸を張るポンジが言い放った。
「ぐっ‥‥お前の様な下賤の者に‥‥!」
 最早顔を上げる気力すら残っていないサムライは、悔しさを滲ませ呟く。
「げせん? げせんって何だ? 美味いのか?」
 そんな呟きに、ポンジは興味津津に問いかけた。
「無知なアヤカシ風情が‥‥っ!」
 しかし、その言葉がサムライの癪に触る。最後の力を振り絞り、怒りの叫びをポンジにぶつける。
「うん? アヤカシ? げせんってのはアヤカシの事か?」
「‥‥」
 尚も問いかけるポンジ。しかし、答える者はいない。
「おーい。なんだ寝ちまったのか?」
 完全に気を失ったサムライの背をポンジは指でツンツンと突いた。
「‥‥まいっか」
 いくら突いても反応を見せないサムライに興味を失ったのか、ポンジはすくりと立ち上がる。
「はぁ‥‥腹減ったな」
 そして、気温もめっきり下がった秋の空を眺めながら、小さく肩を落としたのだった。

●草陰
「あちゃ、あのサムライやられちまったぜ?」
「無駄に腕だけはいいよな、あいつ」
「ま、おかげで今まで全敗だけどな、俺達」
「だから、爽やかに言うなって‥‥」
 草陰から聞こえる男達の声。
 男達は先に行われた決闘を遠くから眺めていた。
「とはいえ、奴がアヤカシかも知れないって疑いがある以上、俺達じゃ手を出せない訳だ」
「アヤカシには見えないけどなぁ‥‥」
「まぁ、確かにいつものバカにしか見えないわな」
「だろ?」
「‥‥なぁ、噂広めたの、お前じゃねぇよな‥‥?」
「お、おいっ!? ななな、何言いだすんよ、急に!」
「おうおう、うろたえてるよこいつ」
「なっ!? ば、ばか言っちゃいけねぇぜ! なんで俺がそんなもん流さなきゃ何ねぇんだ!!」
「アヤカシなら、俺達の出番じゃ無くなるから、だろ?」
「ああ、確かに。アヤカシ相手なら開拓者の仕事だしなぁ」
「そそそ、そうだろ! 奴がアヤカシかもしれねぇんだ! さっさとギルドに報告するぞ!」
「だな。大義名分も立った事だし、正式に依頼に行くか」
「立ったのか? まぁ、アヤカシじゃなくても、あいつの相手は面倒だしな。いい機会か」
「違いねぇ」
 と、男達は草陰から身を起こし、その場を立ち去る。
「ほっ‥‥」
 最後の男が発した溜息一つを残して――。


■参加者一覧
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
六道・せせり(ib3080
10歳・女・陰
ディディエ ベルトラン(ib3404
27歳・男・魔


■リプレイ本文

●番所
「たのもー」
「なに奴だ!」
「乱暴はいけませんねぇ。まったく物騒な世の中になったものですな」
 十字に組まれた取り物棒で遮られた風鬼(ia5399)は、やれやれと首を振る。
「貴様! ここを番所と知っての狼藉か!」
 そんな風鬼の不遜な態度に、門番が激怒した。
「もちろん知っていますとも。私、そんなに無能に見えますかな? 風鬼しょっく‥‥」
 門番の怒鳴り声に、しゅんと肩を落とす風鬼。
「で、ポンジ対策本部は何処でしょう?」
 一転、先程までの憂いを瞬時に消し、風鬼は門番に問いかけた。
「貴様などに教えるか!」
 しかし、風鬼の代わり身は門番の怒りに油を注ぐだけ。
「そう言われましてもねぇ。依頼したのは其方でしょうに」
「お前、開拓者なの‥‥か?」
 風鬼の言葉に門番は慌てて、問いかけた。
「こんなに立派な開拓者に対して、何と失礼なお言葉」
 答える風鬼は静かに憤慨する。
「‥‥つ、ついてこいっ!」
「うんうん、感心感心」
 そして、風鬼は門番達の突き刺さる様な視線を一身に浴びながら、番所の中へと消えた。

●酒場
 此隅に数ある酒場の一つ。
「ん、おおきに」
 昼食時をずらして尚、繁盛を見せる店で六道・せせり(ib3080)が店員に礼を述べた。
「‥‥概ね良好っと。なんや期待外れやなぁ」
 給仕が去った後、呟いたせせりは机に置かれた焼き秋刀魚を一切れ口に放り込む。
「‥‥なかなかのもんや。さては理穴産‥‥やな?」
 口に広がる油の旨みに、せせりの口元が自然と緩んだ。
「それにこの焼き具合‥‥五行の炭つこぉてるとみた」
 じーっと、焼けた秋刀魚の皮を見つめるせせり。
「至高の一品‥‥ええやろ、その称号お前に贈ったる!」
 そして、せせりは焼けた瞳で見つめる秋刀魚へ、ビシッと指を突き立てた。

「お、お客さん?」
「っ!」
 突然掛けられた声に、はっと我を取り戻すせせり。
「なんや‥‥これもポンジとかぬかす盗賊の罠かっ!?」
 そして、ガタンと椅子を鳴らし立ち上がったせせりは、目の前で輝く焼き秋刀魚から距離を取った。
「こんなショボい罠にうちが引っ掛かるとおもてたら大間違いやっ!」
 そして、再びビシッと秋刀魚に向け指を突き出したせせりは、心配気に見つめる店員へ振り返ると。
「‥‥お代はここに置いてくで!」
 見つめる秋刀魚に後ろ髪を引かれながらも、なんとか酒場を後にした。

●此隅郊外

 コンコン――。

 廃れた農家の戸が乾いた音を上げた。
「ごめんください〜」
 続いて、どこか間の抜けた声が響く。
「ポンジ様は御在宅でしょうか〜?」
 しかし、幾度呼べど中からの返事はない。
「う〜ん、いないのでしょうかね〜?」
 反応が無い戸をじっと見つめ、ディディエ ベルトラン(ib3404)が呟いた。
「寝ておいでなのかもしれませんわね」
 と、ディディエの後ろで控えていた出水 真由良(ia0990)が声を上げる。
「‥‥起こしましょう」
 真由良の言葉に水月(ia2566)がグッと拳に力を込めた。
 その表情にはどこか使命感の様なものが感じられる。
「そうですわね。ここでじっとしている訳にも参りませんし」
 と、真由良がこくんと頷くと。
「ディディエ様、お願いいたします」
 ディディエに向けにこりと微笑んだ。
「‥‥はい?」
 突然掛けられた声に、ディディエはきょとんと呆ける。
「‥‥思いっきり」
 そんなディディエを水月も期待に満ち満ちた瞳で見つめた。
「え、えっと‥‥私は何をすればよいのでしょうか〜?」
「え‥‥?」
「‥‥」
 戸惑い問いかけるディディエに、真由良と水月は目を点にする。
「わ、私なにかまずい事を申しましたでしょうか‥‥?」
 驚く二人に、ディディエは不安げに問いかける。
「い、いえ、申し訳ありません。ポンジ様訪問と言えば、戸を蹴破っての侵入と相場が決まっているものかと思っていましたので‥‥」
「‥‥」
 答える真由良とコクコクと頷く水月は、今だ信じられないといった風。
「そ、そうなのですか‥‥?」
 そこまで言い切られてはディディエも頷くしかない。
「で、でしたら‥‥!」
「はいっ」
「‥‥」
 二人の期待に満ちた瞳を受け、ディディエの決心が固まった。
「お願いいたしますっ」
「‥‥がんばって」
 見つめる二人。
「い、いきますよ〜!」

 そして、一番非力なディディエの蹴りがアジトの戸に炸裂した――。

●どこかの小高い丘
 丘に長い影を落とす長身。
 風に靡くもずく酢――もとい、天然パーマ。
 どこか憂いを帯びた黒い瞳。
 一人の男が、遠くに見える一軒の農家を鋭くにら――。

「ぶぇっくしょぉぉいっ!!」

 折角の雰囲気をぶち壊し、盛大なくしゃみが丘を支配した。
「うー、さぶっ!」
 震える身をギュッと抱きしめ、喪越(ia1670)が呟いた。
「おっと、いいシーンが台無しだぜ。全天儀一千万の喪越不安の皆、ごめんよ!」
 一体誰に語りかけているのか、喪越はくるりと後ろを振り向くとウインクと共にぺろりと可愛く舌を覗かせる。
「ていくつー!」
 そして再び正面に向かった喪越は。
「ふっふっふ‥‥まさかアヤカシだったとはな。通りでこの俺が手を焼く訳だ」
 ニヤリと小さく口元を釣り上げる。
「今日こそ引導を渡してくれよう!!」
 そして、ビシッと太陽を指差し宣言した。

「‥‥キマった」

●農家
 ディディエの活躍?で、潜入に成功した三人。
「‥‥居ました」
 と、水月が今の中央を指差した。
「やっぱり寝ておいででしたか」
 ふぅと安堵の溜息と共に真由良が呟く。
「あ、あの〜‥‥」
 ポンジの姿を見つけ部屋へと踏み入った二人の後ろから、ディディエが情けない声を上げた。
「はい?」
「これ取って頂けませんでしょうか〜?」
 と、ディディエが指差すのは自身の足元。
 先程全力の蹴りをかました足が、見事に突き破った戸に刺さっていた。
「まぁ、大変。すぐに外しますね」
「お手数おかけしま――ぶっ!?」
 そんなディディエの惨状に真由良が踵を返した、その時。
「ちょっと邪魔するで」
 戸に足をつっこんだままのディディエを押しのけ、せせりが現れた。
「あら、六道様。成果はいかがでした?」
「出水の姐はんがゆぅとった通りやな。庶民の口から悪評はなかったわ」
「という事は、やはり人為的に噂が流されている、と」
「‥‥」
 真由良の言葉に、水月も懸命に頷く。
「まぁ、そぉゆぅことになるやろな」
 予想範疇の結果にせせりはつまらなさそうに呟いた。
「‥‥確かめればいいの」
 と、水月が再び居間で寝転がるポンジを指差す。
「せやな。その為にうち等が呼ばれたんやし」
「ですわね。では皆さん――」
 と、真由良が二人を見やり、二人の頷きを確認した。
 そして、三人は土足のまま居間へと足を上げたのだった――

「あ、あの〜‥‥私はどうすればいいのでしょう‥‥」
 一人残されたディディエは、抜けぬ足を見つめ途方に暮れたのだった。

●原野
「‥‥」
 吹き抜ける風がススキの原を揺らす。
 息を殺し、身を顰める。
「この俺の獲物を横取りしよぉなんざ、百年はえぇ‥‥!」
 小さく呟いた声には、揺るぎない決意が見えた。
 その視線は、件の家に近づく一人のサムライ。

「‥‥あれか」
 慎重に歩みを進めるサムライが呟いた。

 その時。

「待ちなっ!」
 サムライの背後を取る形で、喪越が立ちあがった。
「なんだ貴様‥‥」
 突然の声に振り向いたサムライは、咄嗟に刀に手を添える。
「ふっ‥‥俺が誰だと? いいだろう、答えてやろう! 俺は泣く子もはしゃぐ、元五行隠密部隊隊長(仮)喪越(仮)!」
 一方、喪越は余裕の決めポーズ。
「ポンジの首にお縄をくれてやるのは俺以外おらん! 大人しく退け!」
 そして、懐にから符を取り出し練力を練っていく。

「おい、どうした」
 その時、ススキを割り現れる一人の開拓者。
「何かあったのか?」
 更に一人追加。
「早く行こうぜ」
 更に一人追加。
「なになに?」
 更に一人追加。
「いや、同業者だ」
 続々と現れた仲間にサムライが、声をかけた。

「‥‥ふっ」
 総勢5人となったライバル達。
 しかし、喪越の顔色から余裕は消えない。
 と、次の瞬間。

「失礼しましたぁぁああ!!」

 まるで秋風の如く、喪越は颯爽と脱げる兎となった。

●居間
「団長さん‥‥?」
 居間に寝転がるポンジの背をツンツン突き、水月が呼ぶ。
「‥‥」
 しかし、ポンジの反応はない。
「お休み中でしょうか〜?」
 そんなポンジをじっと眺めるディディエ。どうやって戸から脱出したかはまったくの謎である。
「‥‥」
 しかし、ディディエの心配を水月が懸命に首を横に振り否定した。
「もしかして、誰かの手にかかって‥‥?」
 水月の言葉にディディエの声に緊張が走る。
「きっとお腹がすいて、餓死寸前なんですわ」
 しかし、そんなディディエに真由良がにこりと微笑み、衝撃の事実を告白した。
「‥‥はぁぁぁ?」
 真由良の解説に、せせりは呆気に取られ思わず素っ頓狂な声を上げる。
「え、えっと‥‥大丈夫なんでしょうか〜?」
「‥‥これ、持ってきたの」
 呆れるせせり、心配気に見つめるディディエを他所に、水月が持参した袋から小さなお菓子を取り出した。

 ぴくっ。

「‥‥お酒もあるの」
 続いて取り出した小さな瓢箪。

 ぴくぴくっ。

「うわ、わかりやす‥‥」
 そんなあからさまな反応に、せせりは呆れるよりほかなかった。


「ほんとに仰る通りでしたね〜‥‥」
 猛然と用意された食事を胃袋へ放り込むポンジに、ディディエは呆気にとられた。
「あ、これもどうぞ」
 と、突如伸びる手。
 丁寧に皿に盛られた、美しいまでの赤を発色する団子がポンジの前に差し出される。
「腕によりをかけて作ったようですよ?」
 何故か疑問形の差出人。そこには風鬼が似合わぬ笑顔を不気味に作っていた。
「むっ!」
 徐に団子を一口、口に含んだポンジが目を見張る。
「‥‥この大胆な中にも激烈な舌触り。まるで針の筵の上に座らされているかのような痛打‥‥」
 もごもごと団子を咀嚼し、だらだらと止めどなく汗を垂れ流しながら、ポンジが呟いた。
「美味いっ!!」
「ほぉ、流石怪盗ですな。この味がわかるとは」
 団子をむしゃぶり食うポンジに、風鬼満足顔。

 その時。

「たぁすぅけぇてぇええ!!」
 小屋の外から突然の悲鳴が聞こえた。
「あら、喪越様?」
 小屋に駆け込んだ泥まみれの塊を一目で見抜き、真由良が喪越に駆け寄る。
「おや、お客さんのようですね〜」
 と、戸へ目をやるディディエ。
「なんや? 同業者か?」
 そこには、喪越を追い現れた5人の開拓者の姿があった。

●原野
「また来たのか?」
「‥‥前の様には行かんぞ!」
 準備万端の開拓者達を前に、ぽっこりお腹のポンジは余裕の笑みを浮かべた。

「へぇ、これが珈琲ゆぅんか。変な色してんねんな」
「見た目はアレですが、とても芳醇な味わいなのですよ〜」
「この団子ともよく合いますな」
「そ、それはどうでしょう‥‥?」
「‥‥」
「どれどれ‥‥。うぎゃああぁぁ!!??」
「ほら」
「どう見ても苦しんでるで‥‥?」
「‥‥」
「喪越様、お酒を」
「んぐんぐ‥‥!? ぎゃぁぁぁあ!!」
「辛子酒ですな。なかなか通な飲み方を」
「決闘見酒と言うのもなかなかおつなものですね〜」
「そんな酒、死んでも飲みたないわ‥‥」
 一方小屋では、持ち寄られた美味?に舌鼓を打ちつつ、野次馬気分丸出しの一行。

「ば、馬鹿な‥‥!」
「だから言ったにのよ」
 それは一瞬の出来事であった。
 圧倒的優位だと思われた開拓者達。
 しかし、5人皆が膝を折り憎々しげにポンジを見上げていた。

「団長さん‥‥!」
 ポンジの余裕を敏感に感じ取り、水月がすっと符をかざす。
「白さん、黒さん、茶とらさん、三毛さん、他にもいっぱいの猫さん‥‥」
 そして、放り投げた符が実を結んだ。
「皆、お願い‥‥!」
 水月の指示で可愛らしい鳴き声を上げ襲いかかるにゃん子達。
「うおっ!?」
 にゃん子達の呪縛は、見事ポンジを捉えた。
「ちゃぁぁんす!!」
「ですわね」
 この絶好の機会を逃す二人ではない。
 喪越と真由良の二人は、それぞれの符を手に練力を練り上げる。
「あ、やるのですね〜」
 と、ディディエの杖が光を帯び。
「皆さん、がんばってくださいね〜」
 陰陽師二人に向け神速の加護が降り注いだ。
「では早速」
 ディディエの加護を受け、腑を放つ真由良。
「今日は少し趣向を変えてみました。如何でしょう?」
 真由良の放った符は実を結び大蛇と成す。
「ぐおぉぉ!?」
 そして、神速の大蛇は身動きのとれぬポンジの身体に巻き付き締め上げた。
「そして、この俺!」
 真由良の大蛇がぎりぎりとポンジを締め上げる中、喪越がニヤリと口元を歪める。
「この日の為に仕込んだ新ネタ、今こそ披露ぅ!!」
 不可視の圧力がポンジに襲いかかる。
「ぐぼあっ!?」
 術に捉えられたポンジは盛大に吐血。
 がくりと力無く首を垂れた。
「なに、このえげつなさ!?」
 自ら放った術式に嫌悪感を覚え、喪越何故か涙目。

 呆気にとられる開拓者を他所に、一行は華麗にポンジを打ちのめしたのだった。

「おおきに。おかげで怪盗をとっ捕まえる事が出来たわ」
「‥‥お、おい」
 ぼろぼろになったポンジに縄をかけつつ、せせりが開拓者達ににやっと微笑む。
「うち等が先客やねん。
 動けぬ開拓者達に背を向け、せせりはポンジのお縄を頂戴した。

●番所

 ブチブチブチ――。

「ぐほっ!?」
 風鬼がポンジの髪の束を引っこ抜く。
「いいですか? アヤカシならば身体から離れた部分は瘴気となって消えるのです。これで消えませんね? ね?」
 抜け落ちた髪の束を岡っ引き達へずずずいっと差し出す風鬼。
「うっ‥‥」
「‥‥」
 風鬼の差し出した髪の束に、ヒクヒクと頬を吊り上げる岡っ引きを、その円らな瞳で水月がじっと見つめた。
「‥‥」
「じー」
「‥‥」
「じー」
「うっ」
 水月と風鬼の真っ直ぐな視線。岡っ引き達は良心の呵責に苛まれる。
「ま、これで依頼達成やな」
 と、せせりが徐にポンジの縄に手をかけ。
「な、何を!」
「何をて、依頼達成やろ? こいつ捕まえたし、アヤカシやないと証明したし。という訳で、後はご自由に」
 そして、せせりはポンジの縄を解いた。
「なっ!?」
「――はっはっは!」
 縄を解かれたポンジ。
「あ、これお土産の珈琲豆です。お土産にどうぞ〜」
「お、すまねぇな!」
 高らかに決めポーズを決めるポンジに、ディディエが珈琲豆を手渡す。
「お気をつけて〜」
「じゃぁな、お前ら!」
 ポンジは一向に向け、ビシッと敬礼。
 そして、群がる岡っ引き包囲網を軽々突破し、番所から飛び出した。

「喪越様、よろしかったので?」
「ん?」
 颯爽と秋空に消えたポンジを見つめる喪越に、真由良が問いかける。
「折角、ポンジ様を捕まえましたのに」
「なぁに、また捕まえれば済むってだけだ。という訳で――」
 そして、喪越は徐に十手を取り出し。
「ポンジ、逮捕だー!!」
 ポンジを追い秋の空へと消えたのだった。