ギルドのお仕事?
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/11 19:26



■オープニング本文

●此隅のギルド
「はい〜。確かに賜りました〜」
「ええ、そこにサインしてもらえるかしら」
「え? えっと、それは流石にギルドでは‥‥」
「ちょっと、そこっ! 勝手に依頼書を持って帰らないでっ!」
「生憎と〜、今相談役は不在でして〜‥‥」
「ちがうっ! ここよ、ここっ!」
「えっと、お手洗いはこの先を右に行った所にあります〜」
「そこ! 勝手に依頼書持って帰らないで!!」
「あ、これはこれはご丁寧に〜」
 まるで戦場かと思えるほどの熱気。
 ギルドは開拓者や依頼者でごった返しにごった返していた。

「ぬ、縫ちゃん〜‥‥」
「もぉ! 情けない声上げてないで、仕事するっ!」
 縋る様な視線を送る吉梨に、縫はイライラと声を荒げる。
「うぅ〜、縫ちゃん冷たい〜‥‥」
「もとはと言えば、貴方の!」
 ギルドには職員が二人。
 いつもは沢山のギルド職員で対応する案件も、今は二人の手で処理しなければならない。
「だって〜、まさか、あんな事になるなんて〜‥‥」
「泣き言いってないで仕事しなさい!」
 最早涙目を通り越して号泣寸前の吉梨に、縫は更に声を荒げた。

 この凄惨な事態は、先日起きたとある事件によるものだった――。

●先日
「どど〜ん! これがかの有名な『かすてぃら』なのです〜!」
 机の前に置かれたカステラの入った桐箱を前に、吉梨が胸を張る。
「おぉ‥‥」
「これがジルベリアの‥‥」
「ごくり‥‥」
 机に鎮座するカステラの入った桐箱を羨望の眼差しで見つめる者。そして、感嘆の声を上げる者。
 机を囲むギルド職員からは様々な感想が漏れた。
「へぇ、カステラじゃない。珍しい」
 と、そこへ一仕事終え控室へ戻ってきた縫が現れる。
「ふふ〜ん、そうでしょうそうでしょう〜。って、縫ちゃん、お疲れ様〜」
 机を覗きこむ同僚を吉梨は嬉しそうに迎えた。
「これ、吉梨が持ってきたの?」
「うん〜。とある情報筋からの秘密裏な提供があったの〜!」
 意外とばかりに吉梨の顔を伺う縫に、吉梨はぐぐっと拳を握り、自らの功績を示す。
「なんか、すごく胡散臭いんだけど‥‥」
 そんな吉梨の自信に、縫は怪訝な表情を向けた。
「そんなことより、早く食べましょうよっ!」
「早くしねぇと休憩時間が終わっちまうよ!」
 二人のやり取りに
「はいはい〜。焦らないでください〜。『かすてぃら』は逃げたりしませんから〜」
 と、そんな仲間達を宥める吉梨は、カステラの入った桐箱の蓋に手をかけ。
「じゃじゃ〜ん!」
 一気に蓋を開けた。
『おおぉ‥‥!』
 辺りからどよめきが漏れる。
 皆の視線を一身に浴び鎮座するカステラ。
 甘く芳醇な香り。
 うっすらと表面を覆う、赤銅色のカラメル。
 そして、新緑を想わせる真緑なスポンジ。
「あれ〜? 緑色ですね〜」
「ちょ、ちょっと‥‥」
「あ、なるほど〜。抹茶かすてぃらなのですね〜! 粋です〜!」
「多分違うから‥‥このカステラ、カビ――」
 息巻きカステラを切り分ける吉梨に、縫は声をかけようと――その時。
「いっただきまーす!」
「おい、抜け駆けするな!!」
「お前、これは俺のだぞ!」
 我先にとカステラへ手を伸ばす仲間達。
「わわ〜! 慌てなくても、みんなの分ちゃんとありますから〜! ――って、無くなった〜!?」
 カステラに群がる仲間達を落ち着かせようと身を乗り出す吉梨。しかし、当のカステラは早くも皆の胃袋の中へと消えていた。
「あぁ‥‥遅かった」
 カステラを美味しそうに食べる仲間達を、縫は呆然と見つめるしかなかった。

●日は戻って
「おい、早く報酬をくれっ!」
「父が‥‥父が‥‥! 早く開拓者の人達をっ!」
「おい! 順番抜かすなよ!!」
 ごった返すギルド。
 訪れる人の数は、衰えるどころか更にその数を増していた。
「縫ちゃん〜‥‥お腹空いたよ〜‥‥」
「私だって空いたわよっ! 今、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」
 涙目で切実な訴えを述べる吉梨を縫が一蹴する。
「うぅ‥‥このままじゃ、餓死しちゃうよ〜‥‥誰か手伝ってくるれる人いないの〜!」
「そんなのいる訳ないじゃ‥‥」
「縫ちゃん?」
 そこまで言って言葉を止めた縫に、吉梨ははてと問いかけた。
「いるじゃない。ギルドの仕事をよく知ってて、この場にいても不自然じゃない人達が」
 と、縫は視線を巡らしニヤリと口元を歪める。
「え‥‥? も、もしかして〜‥‥」
 そんな縫の視線を追った吉梨は、縫の眼に映る人々を見、呆気にとられたのだった。


■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
星乙女 セリア(ia1066
19歳・女・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
白 桜香(ib0392
16歳・女・巫
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰


■リプレイ本文

●ギルド
 賑わいを見せる此隅のギルド。
「え?」
 突然手を掴まれた万木・朱璃(ia0029)は、くるりと後ろを振り向いた。
「お暇そうですね〜」
 そこにはにこりと微笑む吉梨の姿。
「え‥‥? べつに暇ではないんですけ――」
「ささ、こちらです〜」
 朱璃が言いきるよりも早く、吉梨は掴んだ腕を引きカウンターの奥へ。
「え、え、え?」
 まるで状況が飲み込めぬ朱璃は連れられるままにギルドの控室へと連行された。

「まぁ、それは大変な事になりましたね」
 縫の言葉に困り顔の出水 真由良(ia0990)。
「で、どうかしら? 報酬は――まぁ、それなりに出すから」
「ええ、わたくしでよろしければ」
「そう、助かるわ!」
 縫はにこりと微笑んだ真由良の手を取った。
「あ、あの‥‥」
 そんな二人へ今にも掠れそうな小さな声が届く。
「?」
 その声に縫が振り向いた先には白 桜香(ib0392)が、申し訳なさそうにちょこんと立っていた。
「えっと、何か御用?」
「あの、お話聞かせていただきました。えっと、私もお手伝いさせていただければと思いまして」
「え? いいの?」
「はい、いつも皆さんにはお世話になっていますから、この機会に恩返しできればと」
「ありがとう、助かるわ!」
 真由良から手を離した縫は、今度は桜香の手を取る。
「お役にたてるかどうかわかりませんが、精一杯頑張りますっ」
「ええ、頼りにさせてもらうわ」
 桜香の笑顔につられる様に、縫もにこりと微笑んだ。
「なになに? 面白そうな話をしてるね」
 と、そんな三人の元へアルティア・L・ナイン(ia1273)が顔を覗かせる。
「これはアルティア様。依頼をお探しですか?」
「うん、っと言いたいところなんだけど、いい依頼がなくてさ。暇してる所なんだよね」
「まぁ、それでしたら」
「?」
「ふふ、いいことしましょ」
「‥‥いいこと‥‥仕方ないなぁ」
 にこりと微笑む真由良の笑顔と言葉に、アルティアの男が奮いたった。

 こうして、縫に連れられ控室に三名が追加された。

「なんだか面白そうな匂いがしますね」
 と、控室へと連れ去られる皆を眺め星乙女 セリア(ia1066)が呟く。
「なにか事件の匂いがね」
 と、そんな横で五十君 晴臣(ib1730)も開拓者の後姿を眺めていた。
「まぁ、気が合いますね」
「うん?」
 自分と同じものに興味を示した晴臣に、セリアはにこりと微笑みかける。
「どうでしょう、我々も行ってみませんか?」
「行くって‥‥?」
 と、セリアが晴臣に提案を持ちかける。
「はい、なんだか困っている様子でしたし――」
「困っているのです〜!!」
 そんな時、いきなり背後から声がかかった。
「あら、貴女様は‥‥」
 くるりと振り返ったセリアの瞳に飛び込んできたのは、先程控室に消えたはずの吉梨。
「あ、あれ? さっき奥に行っていなかったかい‥‥?」
 その突然の登場に晴臣も目を丸くした。
「そんな細かい事はどうでもいいのです〜! お暇でしたら是非手伝ってください〜!」
 と、驚く二人の手をガチリと握る吉梨。そして、そのまま引きずる様に控室へと向かう。
「ちょ、ちょっと待って!?」
「結果オーライと言う奴ですね」
 必死に抵抗を試みる晴臣と、なぜだか嬉しそうに吉梨の手を取るセリア。

 そして、また二人加わったのだった――。

●控室
「うふふ、どうでしょう?」
「とてもお似合いです」
 ギルドの制服を纏い、くるりと身を翻す朱璃を桜香が褒め称える。
「一度着てみたかったんですよねっ」
「あ、私もです。なんだか得した気分ですね」
 そう言う桜香もまた、きっちりとギルドの制服に袖を通していた。
「装飾品は大丈夫なんですよね?」
 一方、着替え終わったセリアは更なるお洒落に余念がない。
「ええ、問題無い様ですよ」
 そんな様子を真由良がにこやかに見つめた。
「結構自由なんですね。制服というくらいですから、もっときっちりとしたものだと思っていました」
「あまり気にしなくてもいいみたいですね」
 と、真由良は吉梨にすっと視線を向ける。
「でしたら、思い存分っ」
 同じく吉梨に眼をやったセリアは、ここぞとばかりに持ちこんだ装飾品の数々を身につけていった。

●廊下
「いやぁ、眼福眼福」
「まったくだね」
 控室から続々と出てくる女子達を見つめる晴臣とアルティア。
「さてと、着替え終わったみたいだし僕達も行こうか」
 と、アルティアが立ち上がり晴臣に手を伸ばした。
「行く‥‥って、なんで私の腕を掴んでるんだい?」
 掴まれた腕を訝しげに見つめ晴臣が呟く。
「晴臣くんも手伝うんだろう?」
「手伝うのはわかる。うん、そこは問題ない。で、アルティア。カウンターは反対方向だと思うんだけど?」
 再び問いかける晴臣。アルティアは晴臣の腕を引き控室へと向かっていた。
「着替えないといけないだろ?」
「着替える必要性を感じないんだけれど‥‥?」
 アルティアの膂力に引きずられながらも、晴臣の必死の抵抗。
「郷に入れば郷に従え、って奴だよ」
 しかし、返す笑顔は邪まな色を含んでいた。

●控室
「後は紅を引いて――」
 澄まし顔のアルティアに、嬉々と化粧を施して行く真由良。
「すごいですね‥‥まるで本物の女性みたいです」
 その変わり行く様に桜香は感心し見入っていた。
「ほら、何せ元がいいから」
 と、アルティアはニヤリと口元を歪め答える。
「あ、動いてはいけませんわ」
「おっと、ごめんごめん」
「それにしても、すっかり女性ですね」
 着々と出来上がるアルティアの化けの皮。そんな姿にセリアも感動していた。
「もともとアルティア様は中性的なお顔立ちですから、少しお化粧すれば」
「どうなっているか、楽しみだよ」
 手を休めず化粧を施す真由良に、身を任せるアルティアも声を弾ませ答えた。
「ところで」
 と、そんなアルティアから視線を後ろに向けた朱璃が呟く。
「晴臣さんはどうしましょ?」
 そこにじっと座る晴臣に向けて。

「いや、待て。落ち着こう皆」
 迫りくる一行を、椅子に腰かけ手を突き出した晴臣が冷静に押し止める。
「可愛い君達の頼みだ。私も無碍にはしたくない。しかしだ、これがギルドの制服? 確か、ギルドの制服は着物に法被が通例だよね」
 と、晴臣は机の上に置かれた矢絣模様の着物を指差した。
「おぉ〜、よくご存じですね〜」
 と、そんな晴臣の解説に吉梨が感心したように頷いた。
「残念ですね。制服はギルドによって自由なものらしいですよ? ここの制服はこれ」
 続くセリア。制服の端を摘み上げ晴臣に見せつける。
「可愛い、ですよ」
 と、その横では桜香もにこりと微笑んだ。
「往生際が悪いよ、晴臣くん」
 そこに銀髪の美女が現れる。
「‥‥アルティアかい?」
「まさか友達の僕だけにこんな格好させるほど、君は薄情じゃないよね?」
「お、おい‥‥」
 じりじりとにじり寄るアルティアは。
「さぁ、共に未知の世界へ踏み出そうじゃないか」
 椅子ごと逃げ腰の晴臣の肩をガチリと掴んだ。
「皆、やっちゃって」
 満面の笑みで振り返ったアルティアの言葉に、答える女子4名が再び晴臣に迫る。
「待て待て待てぇぇええ!!」
 皆に取り囲まれた晴臣。
 その絶叫が控室に響き渡ったのだった――。

●控室
「原因不明の食中毒ですか‥‥」
 業務の内容を説明する縫を前に、真由良がふと呟いた。
「怖いですよね」
 と、真由良の呟きに答える朱璃。
「本当に何のせいだか‥‥」
 ひそひそとこの事件の真相に思案を巡らす二人。
「えっと、二人とも聞いてるの‥‥?」
 そんな二人に、講師である縫が呆れる様に声をかけた。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。人員は確保できたんですし。――幾分不本意だけれど」
 と、そんな縫の肩に手を置き、晴臣が耳元で囁いた。
「それに時間が無いのでは? そろそろ行きませんか?」
「そうですね。お客様も待っている事ですし」
 晴臣に続き、聞いた話を簡潔にまとめた手帳を手にセリアが立ち上がる。
「そ、そうね‥‥」
 と、セリアの言葉に縫も不承不承頷いた。
「では皆さん〜、よろしくお願いします〜」
 間延びした吉梨の声に立ちあがった開拓者達。
「いざ、戦場へ。ギルド員見習い、出陣です」
 セリアの声に、一行はこくりと頷き、お客が待ちに待つギルドへと足を踏み出した。

●ギルド
「――はい、依頼金が5万文でお間違えありませんね?」
「頼む! 早くしてくれ!」
「落ち着いてくさい。すぐに精査しまして募集いたしますから」
 どんと机を叩く依頼主を落ち着いた笑顔で諭し、朱璃はてきぱきと書類を分けていく。
「では、こちらに印鑑をお願いできますか?」
「そんなもん持ってきてないぞ!」
「でしたら署名でも構いませんよ」
 焦る依頼人に、落ち着いた声で語りかける朱璃は、再びにこりと微笑む。
「こ、これでいいか?」
「はい、確かに承りました。参加者が決定するまでしばらくお待ちくださいね」
 署名を終えた男に、朱璃はぺこりと頭を下げた。

「朱璃さん、お疲れ様です。お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございますっ」
 一仕事終えた朱璃に、桜香がすっとお茶を差し出した。
「すごいですね。なんだか堂々としていて‥‥」
「普段やっている事を応用してるだけですから、大したことじゃありませんよ」
 しきりに感心する桜香に、朱璃は接客と変わらぬ温かい笑みを向ける。
「私なんて、この人の多さに酔ってしまって‥‥お役に立てなくてごめんなさい」
 しかし、桜香は自分を責めるように呟くと、しゅんと俯いた。
「わわっ、そんなの気にしないでください! お仕事は適材適所です! 開拓者の仕事も同じですけど、自分にあった仕事をすればいいんですっ!」
「そ、そうでしょうか?」
「はいっ! 桜香さんの絶妙なお茶出しも流石ですよっ! 依頼人の皆さんも、ほら」
 と、落ち込む桜香に朱璃はギルドの一角を指差す。そこには桜香の差し入れたお茶や菓子に舌鼓を打つ来客者達。
「ふふ、茶店だと勘違いされてしまうかもしれませんね」
「あっ、それは大変です‥‥!」
 微笑む朱璃の言葉に、桜香はハッと両手で口元を押さえた。
「わわ、じょ冗談ですから!?」
「え‥‥?」
 真剣に心配する桜香に、朱璃は慌てて訂正する。
「と、とにかく、まだまだお客様はいらっしゃいます。頑張りましょう!」
「えっと‥‥はいっ!」
 そして、二人は再びそれぞれの担当へと戻っていった。


「ふふ、じゃお願いね」
 にこりと微笑む銀髪の美女。
「お、おう! 任せろ!」
 そんな笑みに、開拓者の一人はどぎまぎと頷いた。

「なんであんなにノリノリなんだろう‥‥」
 そんな様子をカウンターの影から見つめる晴臣が呟いた。
「郷に入れば郷に従えって仰っていましたし」
 隣でせっせと受付をこなすセリアがカウンターにその大きな身体の半分を隠す晴臣に話しかける。
「あれはどう見ても楽しんでいるようにしか見えないんだけど‥‥」
「お仕事も楽しんでしませんとね。――あ、いらっしゃいませ」
 そんな晴臣を他所に、セリアはカウンターへ訪れた依頼主の対応を始めた。
「タローがいなくなったの!!」
「タローさん、ですか?」
 カウンターから顔だけを覗かせる小さな来客者にセリアが問いかける。
「さがして‥‥!」
「調査依頼ね。その人の詳しい特徴とかわかるかな?」
 小さな依頼者にもセリアは丁寧に受け答えをしていく。
「えっとえっと、まっしろでふわふわもこもこなの!」
「真っ白でふわもこ‥‥。もしかしてもふら様?」
「ちがうの! タローなの!!」
「そ、そう‥‥」
 必死に訴えかけてくる依頼者にセリアは困った様に首を傾げた。
「早く探して!!」
「う、うーん‥‥これは、十河様に確認してこないといけませんね」
 と、セリアは徐に隣へ視線を移すと。
「という訳で、五十君様。交代です」
 隣でじっと聞き耳を立てていた晴臣にキラーパス。
「え‥‥? ちょ、ちょっと待ってよ!?」
「少し待っててね。その間このお姉さん?とお話しておいて」
 席を立ち小さな依頼者ににこりと微笑んだセリアは、すたすたと奥の控室へ足を向けた。
「‥‥」
「‥‥」
 残された二人は、無言のまま見つめ合う。
「晴臣くん、何を固まっているんだい?」
 と、そんな晴臣の肩を叩いたのはアルティアだった。
「ア、アルティア」
 一方晴臣は、頬をヒクヒクと引き攣らせながら答える。
「晴臣くんって、意外と照れ屋だったんだね。なんだか新しい一面を発見できた気がするよ」
「うん、なんだ。それは私の台詞だよ、アルティア‥‥」
 驚きを隠せないアルティアに、呆れた様に呟く晴臣。
「お二人とも、依頼者様をほったらかしていてはだめですよ?」
 と、そんな二人の元にセリアが戻ってきた。
「おっと、ごめんなさいね。依頼の内容を聴きますね」
 セリアの声に、アルティアはぼーっと成り行きを眺めていた小さな依頼者に声をかける。
「――この晴臣くんが」
「‥‥えぇぇ!?」
 再び振られたキラーパス。
 その言葉に小さな依頼者は、晴臣に向け必死に訴えかける。
 それを頬を引くつかせながらもにこやかに対応する晴臣。

 二人はその様子を生温かく見守ったのだった。


「緊急の依頼です。どなたかお受けいただけませんか?」
 依頼書の張り出された掲示板を前に、真由良が声を上げる。
 しかし、依頼内容に見合わぬ報酬額に、受けると手を上げる者はいなかった。
「うーん、困りましたわね」
 一向に埋まらぬ依頼者卵を眺め、真由良がふぅと溜息一つ。
「依頼書がわかりにくかったのでしょうか‥‥あ、そうですわ」
 と、自分が作成した依頼書を眺めていた真由良がポンと手を打った。
「――こうして、こうしてっと」
 そして、依頼書に何やら書き足して行く。

「できましたわ」
 そこには『ギルド員との個別会合可』と加筆されていた。
「これで依頼の内容を詳しくご説明――」 
「うおぉぉ!? まじか!」
 と、加筆された依頼書に一人の男が大きな声を上げた。
「あら?」
「この、ギルドのお姉さん方とお食事会ってのは本当だろうな!?」
 戸惑う真由良に詰め寄る開拓者。
 どこをどう読み違えたのか、男は加筆された内容に目を血走らせていた。
「え‥‥ええ」
「そう言う事なら早く言ってくれよ! 俺が受けるぜ!!」
 戸惑い頷く真由良に、開拓者は素早く依頼書に自分の名を書き込んだ。
「聞いたぞ。その依頼、私も受けよう」
「僕も受けるよっ!」
「お、おい押すな!」
 男の大声が呼び水となる。
 どこで聞き耳を立てていたのか、今まで見向きもされなかった依頼書に男達が我先にと群がる。

「ちくしょ!! 取り逃がした‥‥!!」
「こんなチャンスは滅多にねぇってのに‥‥」
 埋まった依頼書を前に、がくりと膝を折る無数の男達。
「‥‥結果オーライと言う事で」
 瞬殺された依頼書を眺め、真由良は呟いたのだった。

 突如採用されたギルド員候補生たちの活躍?によって、ギルド業務は事無きを得たのだった。
 謎の怪奇食中毒事件の真相は闇の中のままに――。