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■オープニング本文 ●ギルド控室 ここはとあるギルドの、とある控室。 決して日当たりが良いとは言い難く、その部屋には夕刻の西日が強烈に差し込んでいた。 「むむむ〜‥‥」 そんな部屋で一人机に向かう女性。 このギルドの受付嬢の一人、十河 吉梨であった。 「どうしたものでしょうか〜‥‥」 机に視線を落とし、うーんと唸る吉梨。 「吉梨? 何してるの?」 そんな時、すっと音も無く開かれた扉から吉梨の同僚である、畠山 縫が顔を覗かせた。 「あら〜、縫ちゃんじゃないですか〜。どうしたんですか〜?」 部屋に現れた同僚に、吉梨は顔を上げにこりと微笑んだ。 「それはこっちの台詞よ。うん? 何それ」 と、相変わらずのほほんと笑顔を向ける同僚に、溜息混じりで答えた縫は、ふと机の上に置かれた物に視線を落した。 「さすが縫ちゃん〜。お目が高いね〜!」 そんな縫の仕草に、何故か自慢げに答える吉梨。 「いや、意味がわからないから。で、それは何なのよ」 しかし、縫は吉梨の冗談を真顔で返した。 「も〜、縫ちゃんはからかい甲斐が無いです〜」 そんな縫に吉梨はぷぅと頬を膨らませ、不満顔。 「吉梨にからかわれるようになったら、私もギルド引退ね‥‥」 「縫ちゃん、ギルド引退するの〜!?」 フッと遠くを見つめた縫に、吉梨は驚愕の表情を向けた。 「で、そんなどうでもいい話はいいのよ。それは何なの? いい加減答えてくれる?」 しかし、縫は吉梨のどうでもいいツッコミをバッサリと断ち切る。 「む〜‥‥。えっとですね〜、これは先日の来客者の方の忘れ物なのです〜」 再び問いかけてくる縫に、若干不満げな表情を浮かべながらも吉梨が答えた。 「へぇ‥‥。随分と立派な物の様だけど」 「そうなんですよ〜。だから対処に困ってまして〜」 「なるほどね。それで唸ってたのね」 「ですです〜」 と、二人は再び机の上に置かれたある『モノ』に視線を落した。 それは、豪奢な装飾が施された、巨大な機械弓であった。 「これだけ立派な物だと、無くされた方は困っていると思うの〜」 「それはそうでしょうね」 「でしょでしょ〜! だから何とかしてあげたいと思うんだけど〜‥‥」 「ふーん‥‥」 そんな些細な忘れ物にも真剣に向き合う同僚の姿を、縫は感心したように見つめる。 「じゃ、吉梨が探してあげればいいじゃない」 「え〜!?」 「気になるんでしょ?」 「それは気になるけど〜‥‥」 縫の言葉にも、吉梨は目を泳がせ落ち着かない。 「これも立派なギルド員としての仕事だと思うわよ?」 「そうかな〜‥‥?」 「ええ、きっと持ち主は待ってると思うわ」 「待ってる〜?」 「そう。だからギルド員である吉梨が届けてあげないとね」 「そ、そうだよね〜! うん、私探してくるよ〜!」 縫の言葉に背を押される吉梨は、使命を胸に控室から駆けだした。 「さてと、これは面白い事になりそうね」 と、部屋を駆け出て行った吉梨を和やかに見つめた縫がニヤリと口元を釣り上げる。 「どうやって楽しんであげようかしら――ってあれ?」 邪な笑みを浮かべる縫がふと机に視線を落とすと、そこには何故かそれが存在していた。 「‥‥ちょっと、吉梨っ!!!」 吉梨が持っていったはずの機械弓を慌てて取り上げた縫は、吉梨が出ていった出口へ視線を向ける。 「ふふ‥‥さすが吉梨。やっぱりそうこなくっちゃね」 機械弓を手に、呆然と立ち尽くす縫は、何故か闘志を燃やしていたのだった――。 |
■参加者一覧
天宮 蓮華(ia0992)
20歳・女・巫
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
色 愛(ib3722)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●ギルド控室 どさっ! 「ふぅ、これで全部よ」 机に積まれた書類を見下ろし、縫が汗を拭った。 「こんなに‥‥」 その書類の量にいつも柔和な天宮 蓮華(ia0992)の笑顔も若干引きつる。 「骨の折れる作業になりそうですね〜‥‥」 同じく量に圧倒されるアーニャ・ベルマン(ia5465)も困惑気味に呟いた。 「さぁ、好きに調べて」 そんな二人に縫は首をこきりと鳴らし溜息をつく。 「これって、見せてもらってもよかったんですか〜?」 机に置かれた書類をパラパラとめくりながら、アーニャが縫に尋ねる。 「構わないわよ。依頼履歴なんて、貴方達でも調べればすぐわかるでしょ?」 「それはそうなんですが‥‥」 「大丈夫、とっておきの秘密が載ってる書類は別にあるから」 尚も申し訳なさそうに書類を眺めるアーニャに、縫はニヤリと口元を歪めた。 「アハハ‥‥き、聴かなかった事にしておきますよ〜‥‥」 そんな縫の笑っていない笑顔に、アーニャの口元はヒクヒクと引きつる。 「そんなことより、犯人を探すんじゃなかったの?」 と、そんな二人に縫は苦笑い。 「そ、そうでした。アーニャ様、手分けして探してみましょう」 「ですね〜。ヒントがあればいいんですけど〜‥‥」 そして、二人は書類の山へ手を伸ばした。 ●入口 「へー、意外と栄えてるじゃない」 賑わう街の入口で色 愛(ib3722)が満足気に呟いた。 「さてと、早速取り掛かろうかしら」 そして、愛は目深にかぶっていたフードを外し素顔を晒す。 「まずは――」 艶めかしく髪を掻き上げた愛は、街へと消えた。 ●大通り 「――ありがとうございました」 見送る店主に、鹿角 結(ib3119)は丁寧にお辞儀した。 「これで5軒目ですか。一体何軒ハシゴしてるのでしょう‥‥」 茶屋を後にした結がぼそりと呟いた。 「すんなり見つかるかと思っていたのですけど、ちょっと考えが甘かったようですね‥‥」 涼を求め茶屋へと急ぎ足で掛け込む街人から逆行するように炎天下を歩く結。 吉梨の所在を追い散々歩きまわった脚は、暑さと疲労で随分と重くなっていた。 「次はあの店ですねっ」 滲む疲労を堪えグッと顔を上げた結は、額に滲む汗を拭い、次の目標へと歩みを進めた。 ●茶屋 「はふぅ‥‥冷たいです〜」 匙で掬ったあんみつを頬張り、吉梨は幸せそうな溜息をついた。 「こんにちはっ」 そんな吉梨にルンルン・パムポップン(ib0234)が元気に声をかける。 「はふぅ〜‥‥お代わりください〜」 しかし、吉梨は声に気付かずか、店の奥に向け追加を注文。 「え、えっと、こんにちわっ」 「あ、大盛りでお願いします〜」 「吉梨さん、こんにちわっ!」 「? あれ〜ルンルンさんじゃないですか〜。こんな所で何を〜?」 ようやくルンルンの存在に気付いた吉梨が、きょとんと問いかけた。 「お、美味しそうなあんみつですね。私もご一緒してもいいですか?」 「もちろんですよ〜。ここのあんみつは街でもなかなかの評判なのです〜」 と、ルンルンに微笑んだ吉梨は、すすっと隣の席を勧める。 「え、評判なんですか?」 「はい〜、寒天と黒蜜の具合が絶妙な味を醸し出していましてですね〜」 「ご、ごくり‥‥」 「あ、女将さん〜。追加でもう一杯お願いします〜」 甘味の話に喉を鳴らしたルンルンを、吉梨はにこやかに見つめ、あんみつを追加する。 「よかったら、ご一緒しましょ〜」 「う、うんっ!」 と、ルンルンは吉梨に言われるまま、あんみつの到着を今か今かと待つ。 二人は当初の目的を忘れ、極上の甘味に舌鼓を打った――。 ●大通り 「やぁ、偶然だな」 通りを行く吉梨とルンルンに、突然声がかかる。 「あれ〜? 佐竹さんじゃないですか〜。お久しぶりです〜」 くるりと後ろを振り向いた二人の前には、佐竹 利実(ia4177)が立っていた。 「お久しぶり。何してるんだ?」 「えっと〜、ルンルンさんと一緒にこの街の甘味を征服する野望に燃えていた所です〜」 利実の問いかけに、グッと拳を握る吉梨。 「‥‥そ、そうか。よかったら俺も一緒してもいいか? 今暇なんだ」 「おおぉ〜! これで戦力が3倍に! ルンルンさん、私達はやれるかもしれません〜!」 「う、うんっ! ルンルン忍法に不可能はないんだからっ!」 吉梨の勢いに押され、ルンルンもグッと拳を握る。 「さ〜、そうと決まれば急がないと〜!」 「今日の甘味は待ってくれないもんねっ!」 「さすがルンルンさん、伊達にニンジャは名乗ってませんね〜!」 「そ、そうかな?」 「はい〜!」 「‥‥盛り上がってる所悪いんだが、何か仕事じゃなかったのか?」 きゃっきゃと盛り上がる二人の姿に、利実は不安げに問いかけた。 「はっ! そうでした〜!」 「お、思い出してくれたか‥‥」 何かに気付いた吉梨に、利実はふぅと胸を撫で下ろす。 「藤屋の水羊羹が、そろそろ販売開始の時間です〜!」 「いや、ちょっと待て!? 甘味よりも他にあるだろう!?」 「何を戯言を〜! この街の平和は私達の手に掛っているんですから〜!」 と、吉梨は慌てる利実の腕をグッと掴むと、引きずる様に藤屋を目指し大通りを突き進んだのだった――。 ●ギルド 「それにしても立派な弓ですね」 選別作業を一段落させたアーニャは、ふと脇に置かれた機械弓を見やった。 「はい、とても綺麗な装飾ですよね」 弓術師としての性からか、人一倍弓に興味を示すアーニャを蓮華は温かく見守る。 「こんな弓‥‥私も一度撃ってみたいです〜」 そんな蓮華の言葉など耳に届いていないのか、アーニャはフラフラと席を立ちあがった。 「ア、アーニャ様‥‥?」 フラフラと弓へと向かうアーニャを蓮華が呼ぶが。 「ふふふ〜、ほんとに立派‥‥」 アーニャの反応はまるでない。眼下にある弓へ吸い寄せられるように手を伸ばす――。 「ア、アーニャ様!?」 アーニャのいきなりの行動に、蓮華が立ち上がり駆けつけようとするが、すでに手と弓の間に距離はない。 「だ、大丈夫ですか?」 と、アーニャの手が弓に触れる寸前。ギルドに戻ってきた結が腕を掴み止めた。 「え‥‥? あ、あれ? 私何を‥‥?」 グッと力を込め握られた腕に意識を引き戻されたアーニャは、きょろきょろと辺りを見回す。 「アーニャ様、大丈夫ですか?」 駆けつけた蓮華が心配そうにアーニャを見つめた。 「ごめんなさい。何か怪しい雰囲気だったので、つい」 アーニャの腕を離し、申し訳なさそうに語る結。 「いえ、結様。ありがとうございます。助かりましたわ」 「あ、いえ。よかったです」 「え、えっと‥‥私何かしてました‥‥?」 ホッと胸を撫で下ろす二人に、アーニャは恐る恐る問いかけた。 「覚えてないんですか?」 そんなアーニャに結が逆に問いかけた。 「えっと‥‥確か弓を眺めてて‥‥」 と、アーニャは再び弓に視線を向ける。 そして、二人もつられる様に弓へと視線を落とす。 「この弓‥‥魔性の香りがいたしますわ‥‥」 そこには変わらず豪奢な輝きを放つ機械弓が横たわっていた。 ●商家 「――話はわかった」 「そう、じゃやってくれるのね?」 とある商家の奥では、男と女の密談が繰り広げられていた。 「報酬の件は本当なんだろうな‥‥?」 男が怪訝な表情で女を見やる。 「もちろん。女に二言はないわ」 舐める様に見つめてくる男を、飄々とあしらう女。 「‥‥本当にお前を――」 「何度も言わせないでくれる? がっつく男は嫌いよ?」 「なっ!? が、がっついてなんかいないだろ!」 「そう? それならいいんだけど」 「当たり前だ! それよりも約束忘れるなよ! 絶対だからな!」 そう言い残し、男は足早に場を後にする。 「‥‥簡単なものね」 と、残った女は何度も後ろを振り返り後にする男に向け小さく呟いた。 ●ギルド 「結様。吉梨様は見つかりましたか?」 選定作業の合間に、蓮華が結に問いかけた。 「あ、はい。今はルンルンさんと佐竹さんがご一緒されてるはずです」 「まぁ、それでは足止めは完了という訳ですね」 結の報告に、蓮華はグッと拳を握る。 「それじゃ、この弓を持っていかないとですね〜」 「はい、一応用心のために、風呂敷に包んで持っていきましょう」 「ですね〜。なんだか変な気分になっちゃいますし‥‥」 結が用意した風呂敷に弓を包むのを眺めながら、アーニャが呟いた。 「本当に、この弓の持ち主さんは誰なんでしょうね」 そして、三人は弓を抱えギルドを後にした。 ●大通り 「――では、先の広場で」 謎の使命に燃える吉梨と、その吉梨に腕を引かれる利実を眺め、アーニャが呟く。 「はいっ!」 壁を背に秘密の情報交換に胸躍らせるルンルンが、瞳を燃やし元気よく返事した。 「藤屋の甘味はすごく栗が大きいのです〜!」 「そ、そうか‥‥」 「口に含んだ瞬間にはじける――あれ、ルンルンさん?」 駆け足で戻ってきたルンルンに、吉梨が小首を傾げ問いかける。 「一足先に偵察に行ってきましたっ!」 「おぉ! 流石、よい仕事しますね〜!」 「だって、ニンジャだもんっ!」 そんな他愛もない会話をしながら、大通りを行く三人。 「おい、そこのギルド員」 と、突然三人を呼び止める声がした。 「はい〜?」 「お前だろ、例の弓の持ち主を探してるってのは。その持ち主、俺だから返してくれ」 「へ?」 ずんずんと吉梨に近寄ってくる男は、不躾に手を差し出した。 「早く返せ――」 「うーん。あんた怪しいな」 何かに焦る様に吉梨に詰め寄る男の前に、利実が割って入る。 「な、何だお前!」 「身なりはよさそうだけど、俺の想像していた人物じゃないな」 怯む男の姿を、じっと見つめ利実はきっぱりと言い放った。 「何が目的かはわからないが、拾得物の虚偽取得は犯罪だぞ」 「う、嘘じゃない! あの弓は俺の物だ!」 利実の詰問に必死で返す男。しかし、その瞳は不安げに左右に揺れていた。 「証拠はあるんだろうな?」 「そ、それは‥‥」 「‥‥どこで聞きつけたのか知らないが、怪我しないうちにさっさと帰った方がいいぞ」 と、利実は男を冷たい視線で見下ろす。 「ぐっ‥‥! お、覚えてろ!」 明らかな動揺を見せる男は、命の危機でも感じたように一目散に逃げ出した。 「捨て台詞も、三下丸出しだな」 逃げる男を利実が呆れたように見つめた。 「‥‥」 目の前で繰り広げられるやり取りをじっと眺める吉梨。 「吉梨さん?」 そんな吉梨に、ルンルンが問いかけた。 「‥‥はっ! そうでした〜! 私には大切な任務が〜!」 吉梨が顔を上げると突然駆けだす。 「き、吉梨さん!?」 「お二人とも〜! 甘味の野望はまた今度です〜!」 「行っちゃった‥‥」 「まぁ、結果的に思惑通りになったからいいだろ?」 小さくなる吉梨を眺め、二人は小さく呟いた。 ●広場 「あら、吉梨様。こんな所でお会いするなんて偶然ですわ」 近道の広場を駆け足で通過する吉梨に、蓮華がにこやかに声をかけた。 「あれ〜? 蓮華さん、それにアーニャさんに結さんも。どうしたんですか、こんな所で〜」 と、偶然鉢合わせた三人に、吉梨は足を止める。 「縫さんに頼まれて、これをお届けしたんです」 不思議がる吉梨に向け、結は用意した包みを取り出した。 「おおぉ‥‥丁度取りに行こうかと〜! 有難うございます〜!」 袋をを受け取り、吉梨は何度も頭を下げ礼を言う。 「渡して大丈夫だったでしょうか〜‥‥」 包みを解く吉梨を眺め、アーニャが不安げに呟いた。 「た、多分‥‥?」 と、答える蓮華を余所に吉梨は包みに手をかけた。 「‥‥」 「お、おい。大丈夫か?」 手にした弓を眺める吉梨に、利実が声をかける。 「うふふふ‥‥」 しかし、吉梨は怪しい笑みと共に、何故か弓を矢に番え始めた。 「な、何してる!?」 吉梨の暴挙に詰め寄った利実を、吉梨は虚ろな瞳で見上げ。 「ふふふ‥‥」 超至近距離から、矢を放った。 「お、おわっ!?」 まさに間一髪。何とか弓を避けはしたが、利実の頬には一筋の血が滲む。 「ちっ‥‥」 捉えきれなかった目標に向け小さく舌打ちした吉梨は、辺りをくるりと見渡す。 「なんだか、やばくないですか〜‥‥?」 自分達を見つめる吉梨に、アーニャは頬を引きつらせた。 「やはり曰く付きの代物だったのでしょうか‥‥」 新たな矢を番える吉梨を遠巻きに見つめ、蓮華も不安げに呟く。 「ふふふ‥‥」 そして、新たな矢を番えた吉梨は、まるで弓に操られでもしているようであった。 「吉梨さん、落ち着いてっ!?」 射線から逃げながらも、ルンルンが必死に叫ぶ。 「か・い・か・ん‥‥」 恍惚の表情を浮かべる吉梨は、逃げ惑う一行へ向け乱射を開始した――。 「な、何事なのよっ!?」 合流する為戻ってきた愛が、その光景に茫然と立ちすくむ。 「うふふふ‥‥」 そんな愛を怪しい視線が捕えた。 「愛さん、危ないっ!」 茫然と立ちすくむ愛に、吉梨がその弓先を向けた瞬間、結が身を投げる様に飛び出し愛へ体当たりする。 ヒュン――。 刹那。愛の頭上を通り過ぎる矢。 「な、なんなの!?」 「危なかったです‥‥」 間一髪窮地を逃れた事に安堵する結。そして、今だ事態が把握できずに倒れ込む愛。 「とにかく、あの弓を吉梨さんから奪わないとっ!」 向かってくる矢を苦無で弾き、ルンルンが叫んだ。 「この状態で、無茶言うな!」 矢を刀でなぎ払う利実も、防戦一方だ。 「吉梨様っ!」 不敵に微笑み弓を乱射する吉梨に、蓮華が徐に近づいていく。 「蓮華さんっ!?」 蓮華の突然の行動にアーニャは悲痛な叫びを上げるが、吉梨が放つ弓に牽制され、近づく事が出来ない。 「‥‥」 鬼気迫る足取りで吉梨へと近づいて行く蓮華。 「ふふふ‥‥」 しかし、その蓮華の姿を捉えた吉梨が蓮華を標的に定めた、その時。 パンっ――。 「はっ‥‥へ?」 辺りに響く乾いた音。 突然の衝撃にふと我に返った吉梨が、キッと自分を見つめる蓮華を見上げた。 「悪い子はお仕置きですわ」 と、呆ける吉梨に蓮華は更に手を伸ばし。 「いだいだいだっ!?」 両頬をぎゅ―っと抓り上げた。 「なんだったんだ‥‥」 蓮華の愛の折檻を受け続ける吉梨を眺め、利実が呟いた。 「こんな危ない物ギルドにおいて行くなんて、許せないっ!」 阿鼻叫喚の事態に、ルンルンはひどくご立腹。 「結局、この弓は何だったのでしょうか‥‥」 地に落ちてなお、豪奢な輝きを放つ弓を眺め、結が呟いた。 ●ギルド 「そう、結局分らなかったのね」 『はぁ‥‥』 縫の言葉に、一同は盛大な溜息をつく。 結局弓の持ち主はわからず危険物と認定され、研究施設へと移送された。 「まぁ、いいわ。どういう物かわかっただけで十分よ」 と、落胆する一行に縫はにこりと微笑み。 「――じゃ、次はこれをお願いね」 一行へ向け縫が何かを取り出した。それは――。 「全く、ギルドはゴミ捨て場じゃないっていうの」 縫の姿が隠れるほどの大きな籠に満載された忘れ物の数々であった――。 |