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■オープニング本文 ●此隅 「あーん♪」 「あーん♪」 匙に掬った粥を相手の口へと放り込む。 「うん、やっぱりハニーの作る芋粥は最高だよ」 もぐもぐと咀嚼を繰り返す仮面の男は、満足げに微笑んだ。 「そんな‥‥照れちゃいます」 男のまっすぐな瞳に、女は頬に両手を当て、もじもじと俯く。 「どうして照れる必要があるのさ。俺は素直な感想を言ってるだけだよ」 「あ、ありがとう‥‥」 「ハニー」 「あ‥‥ポンジ様」 ●神社 「ここは?」 「えっと、恋愛成就の御利益があるって神社なんですよ」 此隅にある神社。人気のない境内に森のざわめきと鳥の囀りだけが木霊していた。 「へぇ、それはそれは」 長い石段を登り、開ける境内。 厳かにたたずむ神社が二人の眼に飛び込んできた。 「あ、あの‥‥ポンジ様、手が‥‥」 その時、瞳の手を暖かい感触が包む。 「いいだろ? 俺達はもう――」 見つめ下ろす優しげな眼。 「だめっ!」 瞳はぎゅっと握られた手を振り払い、ポンジに背を向けた。 「ハニー? どうして手を放すんだい?」 「だって、私達、まだそんな‥‥」 「‥‥ふっ。照れた君も可愛いよ」 ポンジは背を向け恥ずかしがる瞳の肩に、そっと手を置き囁きかける。 「そ、そんな‥‥」 「さぁ、俺達の未来を神様にお願いしに行こう」 振り返った瞳に向けられるのは、いつものあの優しげな眼。 「あ、ポンジ様‥‥」 ポンジは瞳の手を引き、境内を進んだ。 ●湖畔 「あ、ポンジ様。鳥が」 「お、鳥達が水浴びに来てるね」 此隅の郊外にある小さな湖は、日の光を反射しキラキラと水面を揺らしていた。 「見てください、あの二羽。じゃれ合ってますよ」 「本当だね」 静かに揺れる湖面で戯れる水鳥達。 二人は、その仲睦まじい姿を静かに見つめていた。 「とても仲がいいんですね」 「ああ、俺達と一緒だ」 そんな言葉に、ふと見上げた瞳の目に飛び込んできたものは、ポンジの真剣な眼差し。 「え?」 「あの鳥はつがいになると、一生相手を変えないっていうよ」 「そ、それって‥‥」 じっと瞳の眼を見つめ、語りかけてくるポンジ。 「俺達と一緒だ」 「ポンジ様‥‥」 そう言って、にこりとまるで子供の様に微笑むポンジの笑顔に、瞳は釘付けになった。 ●夜 「ポンジ様見て下ださい。星空がとても綺麗です」 「ほんとだ」 此隅近郊の小高い丘。遮るものの何もない丘の頂上で、二人は天を見上げていた。 「すごい星の数‥‥まるで宝石箱をひっくり返したみたいにキラキラ輝いてる‥‥」 雲一つない夜空には満天の星々が、その輝きを競うかの如く瞬き煌めいている。 「人の手では決して造れない美しさだね‥‥。でも」 「でも?」 「君の美しさに比べれば、この満天の星空さえ霞んで見えてしまうよ」 「ポ、ポンジ様‥‥?」 「ハニー。君は綺麗だ」 「あ‥‥そんな‥‥」 もじもじと俯く瞳の肩をポンジがすっと抱き寄せた――。 ●長屋 「‥‥」 いつもの長屋。 いつもの時間。 いつもの‥‥彼。 「どうしたんだい、ハニー?」 覗き込んでくる心配そうな顔。 「‥‥」 「ハニー?」 違うのは私? それとも彼? いつからこうなったのだろう。 幸せな時‥‥そう思えていたのに。 「‥‥違うわ」 「違う? 何が違うんだい、ハニー」 もうやめて‥‥。 そんなの望んでないの‥‥。 「違う‥‥違うの‥‥違あぁぁぁうううのぉおおぉぉっ!!!」 「ハ、ハニー‥‥?」 「違うの‥‥こんなのポンジ様じゃないっ!!」 それが本心? そう、きっとそう。 この幸せだった時間は、きっと幻。 「な、何を言っているんだい? 俺はポンジだ‥‥よ?」 今のあなたは、あなたじゃない‥‥。 「ポンジ様‥‥あのかっこよかったポンジ様に戻ってっっ!!」 悲鳴にも似た瞳の慟哭が、此隅の長屋町一帯に響き渡った――。 |
■参加者一覧
木戸崎 林太郎(ia0733)
17歳・男・巫
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
小野 灯(ia5284)
15歳・女・陰
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
花三札・野鹿(ib2292)
23歳・女・志
百々架(ib2570)
17歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●長屋 「‥‥」 ごろごろと猫のように喉を鳴らす水月(ia2566)は、実に幸せそうであった。 「ここがいいのかい?」 水月を膝の上に乗せ、優しく撫でるポンジ。 「‥‥」 目を細め頷く水月は懐からある書を取り出した。 「これは絵本? はは、リトルハニーはまだまだお子様だね」 「‥‥」 軽く笑い飛ばすポンジに、水月は頬を赤らめぷぅとふくれる。 「ごめんよ、読んであげるから大人しく聴いているんだよ?」 ふくれる水月の髪を撫でつけたポンジは本を開き、 「――昔々」 朗読を始めた。 バンっ! その時、突然大音を立て襖が開かれる。 「ぽんじ、へん‥‥!」 そこにはぷるぷると拳を振るわせ、目に涙を溜め訴えかける小野 灯(ia5284)の姿。 「ひどい‥‥あたしがいちばんって‥‥いったの‥‥わすれちゃった‥‥の?」 瞳を潤ませ灯はつかつかと二人に歩み寄る。そして――。 「ふけつ‥‥!」 ぱちんっ。 「っ!」 ポンジの頬を張った灯が、ポンジに泣き着く様にしがみつく。 「うぅ‥‥」 水月の腰かける膝と反対に腰掛け、灯はポンジの懐に顔を埋める。 「ごめんよリトルハニー。決して忘れた訳じゃない。俺は皆に等しく愛を与えているだけなんだよ」 と、そんな灯の頭をポンと撫でるポンジ。 「‥‥」 そんな二人にぷぅと頬を膨らませた水月がポンジの頬を抓った。 「たたっ。ごめんよ。君にも、ね」 ポンジは灯と同様に水月の髪を梳く様に撫でる。 「さぁ、リトルハニー達、愛の時間を堪能しようじゃないか」 両膝に赤と白の小華を抱えたポンジは、甘く切ない声で絵本の朗読に戻った。 「あっ! あの子ってばポンジ様にあんな事を‥‥!」 その様子を障子の陰から見つめる瞳は、はらはらと落ち着かない。 「瞳様、落ち着いてください」 そんな瞳の後ろから出水 真由良(ia0990)が宥める様に話しかけた。 「これもポンジ様を元に戻す為に必要なのです。そう、どんな些細な事でもその余りある実力を持って当たっては大騒ぎを起こし、その挙句周囲を脱力の渦に巻き込む、あの無駄に行動力あったポンジ様に」 と、憂う瞳で遠くを眺める真由良。 「そ、そうですよ‥‥ね?」 「はい。ですから今少しの我慢を」 落ち込む瞳に真由良は諭すように温かい言葉を掛ける。 「あっ! あの子ってばポンジ様にあんな事を‥‥!」 と、そんな二人の後ろから紫色の金切り声。 「喪‥‥越様?」 そこには大柄の美女(?)喪越(ia1670)が部屋の様子に手拭を噛んでいた。 「アチキというものがありながら、何あのデレデレぶりはっ!」 わなわなと拳を振るわせる喪越は、 「もう我慢の限界よぉ!」 ブチ切れた。 「こんの泥棒猫っ! アチキのポンジ様から離れなさいっ!」 障子を破壊し、愛の空間へ向け喪越が叫んだ。 「君は‥‥?」 「まさか‥‥まさか忘れてしまったのぅ!? あの夜、あんなにも愛を語り求めあったのにっ!?」 突然現れた喪越に首を傾げるポンジ。 「いいわ‥‥乗り越えてみせるっ! アチキの愛は本物なんだからっ! 受け取って――」 決意に震える喪越が、 「ポンジ様〜ん☆」 飛んだ。 ごすっ☆ 翻るドレス。靡く癖毛。蠢く筋肉。交錯する拳。 「ぐふっ‥‥見事よ‥‥」 「お前もな‥‥」 拳で語り合う二人の爽やかな笑み。 二人は互いの健闘を称え、ゆっくりと床に沈んだ――。 「‥‥」 「ぽんじ‥‥?」 床に沈んだポンジを少女達が揺する。 「団長さん、死んじゃった‥‥?」 「ぽんじ‥‥ぽんじ‥‥」 「――可憐な花に涙は似合わないよ?」 と、二人の呼びかけに答えたのか、ポンジがぱちりと目を開ける。 「団長さん‥‥!」 「ぽんじ‥‥!」 何事も無かったかのように起き上がったポンジに二人はギュッと抱きついた。 「心配掛けたね。もう大丈夫さ。さぁ、続きを楽しもう」 抱き着く二人の髪をそっと撫で、ポンジは再び朗読に戻る。 変わりなく甘い言葉を囁き続けるポンジに、真由良と瞳は落胆の色を隠せない。 「やはり、あの計画を発動させなくてはいけないようですね‥‥」 「あの計画‥‥?」 「はい。瞳様にもご協力お願いしますね」 「え、は、はい?」 にこりと微笑む真由良に瞳は思わず頷いた。 ●商家 「――という訳で、ご協力お願いねっ」 「くくく‥‥あの悪党をぶちのめせるのならば、喜んで協力しよう」 百々架(ib2570)の説明をどう曲解したのか、商家の主人は邪な笑みを浮かべる。 「えっと、ぶちのめすとかじゃな――」 「協力感謝する」 百々架を腕で制したニクス(ib0444)が、主人と堅い握手を交わした。 「ちょっと、いいの‥‥?」 そんなニクスに百々架が耳打ちする。 「誤解してくれた方が色々と都合がいいだろう」 「そうですね。仇敵を元に戻す為にわざわざ力は貸してもらえないでしょうし」 と、木戸崎 林太郎(ia0733)が落ち着き払って、百々架を説得した。 「でも仇敵ねぇ‥‥その怪盗ってよっぽどの凄腕なのか?」 邪な笑みを浮かべる主人を背に、花三札・野鹿(ib2292)が皆に囁きかける。 「噂じゃ、相当らしいよ? 色んな意味で」 「で、その怪盗が真人間になってると?」 「真人間‥‥かどうかは別にして、随分と変わってるみたいだね」 野鹿の疑問に百々架が記憶の手繰り説明する。 「今は依頼人と甘く切ないラブラブ生活を送ってるみたいだけど」 「それは‥‥今のままの方が平和なんじゃないのか?」 「‥‥ニクスさん、それは言っちゃいけない」 「うっ‥‥そうか、忘れてくれ」 林太郎のツッコミに恐縮したようにニクスがどもる。 「まぁ、頑張って立派な不審者に戻して上げましょう」 「林太郎、あなたも言うよね‥‥」 「そうでしょうか?」 「ま、いいけどね‥‥」 かくりと小首を傾げる林太郎に、百々架も苦笑い。 「では、参りましょうか。皆さん手筈通りに」 林太郎の言葉に、一同はこくりと頷いた。 ●夜 「あれが怪盗ポンジなのか‥‥?」 きゃっきゃと二人の少女の手を引き夜の街を練り歩くポンジの姿に、野鹿が懐疑の視線を向けた。 「ええ、正真正銘ポンジ様ですわ。元はそれはもう素晴らしく無駄に繊細で、空気も読まず吹き飛ばすくらい豪快な怪盗様でしたわ」 そんな野鹿に真由良がポンジの事を誇らしげに説明する。 「ふむ、なかなかいい男のようだが‥‥弟の方が良いな。うん」 その説明を聴いていたのかいないのか、なにか勝ち誇ったような表情でこくこくと頷く野鹿。 「野鹿さん、涎が‥‥」 「おっと、いかんいかん。危なく弟ラブな私の本性が周知の事実となる所だった」 林太郎の注意に、野鹿はふぅと額の汗を拭う。 「‥‥ともかく、作戦を実行しよう」 そんな野鹿をニクスは横目で見やりながら、一行に合図を送った。 ●通り 「‥‥あーん、です」 「あーん。――もぐもぐ。うん、うまい」 水月が差し出した饅頭を口一杯に頬張るポンジは満足気に頷く。 「‥‥ぽんじ、だれか、たおれてるの‥‥?」 「うん?」 と、水月との仲を邪魔するように灯がポンジの袖を引いた。 そこには大通りのど真ん中に倒れ込む人影。 「‥‥りんたろー‥‥じゃなかった、おんなのひとがたいへんな‥‥の!」 灯の指さす先には、地面にへたり込む女性の姿。 「おっと、これはいけない。すぐにお助けしないと!」 ポンジは二人の手を振り払い、一目散に女へ向け駆けだした。 「お嬢さん、どうされましたか?」 倒れ込む女に優しく声をかけたポンジが、すっと肩を抱く。 「‥‥」 しかし、女は声が出ないのか潤む瞳でポンジを見つめるだけ。 「‥‥」 と、女は懐から手帳を取り出すと、何やら書き記し始めた。 「うん? ‥‥っ!? ハ、ハニー!」 女の書き出した文字に釘付けとなる。 『瞳、攫われる』 そこにそう書かれてあった。 「お嬢さん、ハニーはどこに!?」 ポンジは女を優しく抱き、じっと眼を見て真剣に問いかける。 「‥‥」 その視線を潤む瞳で見返す女は、西の方角をすっと指差した。 「案内できるかいお嬢さん!」 「‥‥」 ポンジの言葉にこくりと頷いた女はすっと立ち上がり、ポンジの腕を引き夜の街へと消えた。 ●商家 「はぁはぁ‥‥ここかっ!」 散々遠回りしたあげく、ポンジと女は目的の商家に到着した。 「‥‥」 息を切らすポンジとは対照的に、女は息一つ乱さずこくりと頷く。 「ハニー!」 女の肯定にポンジは一目散に門へと突進していった。 バンっ! 近所迷惑な程の轟音を響かせ開く門。 「ハニー!」 「おーっほっほっほっ! よく来たわね、ヘタレ怪盗さん!」 と、そこに立ち塞がったのは、妖艶に蒼髪を乱し厚化粧を施した真由良だった。 「なんだお前は! ハニーをどこへやった!」 「ふふふ‥‥心配しないでも無事よ。今はね」 「どういうことだ!」 不敵に微笑む真由良の言葉にポンジの顔色が変わった。 「ここを通れたら教えてあげる。お前達、やっておしまいっ!」 動揺するポンジの姿を楽しいそうに見つめた真由良は、ばっと腕を振るう。 『はっ!』 と、現れる二つの影。 「おまえに恨みは無いけど、これもお仕事なんだよ」 「これが噂の怪盗か‥‥お手並み拝見といこうか」 真由良の背から現れたニクスと野鹿は、それぞれに獲物を構えポンジに迫る。 「くっ‥‥!」 迫りくる用心棒達を前に、怯むポンジ。その時――。 「ちょーっとまったっ!」 突如、闇夜を斬り裂く桃色の奇声が辺りを支配した。 「なに奴!」 その奇声にニクスが辺りを伺う。 「ふっ! よくぞ聞いてくれたわね!」 その言葉に一同の視線が門の上に向けられた。 そこには月に照らし出される人影。 「ぷりてぃせくしぃ――以下略な、怪盗黒猫とは、私の事よっ!」 さっくり自己紹介を完結させ、怪盗黒猫と名乗る者は庭へと降り立った。 「邪魔するなら容赦しないぞ?」 ポンジを庇うように降り立った百々架に、野鹿が切先を向ける。 「邪魔、大いに結構よ! 障害が無いと燃えないわっ!」 しかし、百々架も一歩も引かない。 「面白い。俺が相手をしよう」 そんな不敵な百々架に、ニクスが一歩前へ出る。 「できるわね‥‥」 「お前こそな‥‥」 二人の間に流れる緊迫した空気。 「‥‥参る!」 ニクスが剣を振った。 「その程度っ!」 ザっ! 「ぐはっ!」 ニクスの斬撃を華麗に避ける百々架。そして、とばっちりを喰らうポンジ。 「すばしっこい奴だなっ! 行くぞ、逆巻け業炎!」 ニクスの攻撃に続き、野鹿の炎武が百々架を狙った。 「当たらないよっ!」 ゴォ! 「ぎゃぁぁ!!」 しかし、野鹿の炎撃をも華麗にかわす百々架。そして、とばっちりを受けるポンジ。 「手酷くやってますね‥‥このままでは芝居が続かない。仕方ありません」 門の影から中の始終を見守っていた林太郎が気を練り始める。 「彼の者に癒しを! 神風恩寵!」 湧き起こる風が、ポンジへ向け吹き込んだ。 「そうはさせないわっ!」 しかし、ポンジを押しのけ癒しの風を一身に浴びる百々架。 「ぽんじが‥‥ぴんち‥‥なの!」 あーあと呆れる林太郎の横で、フルフルと震える灯。 「ぽんじ‥‥まけちゃだめ!」 と、灯は懐から長細い棒を取り出した。 「あめのもと‥‥なの!」 そして、灯は小さな体に渾身の力を込め、ピンチのポンジに向け投擲。 ザクっ。 正飴の一撃がポンジの喉に突き刺さる。 「ぽんじ‥‥おいしい?」 「美味しい‥‥よ がくっ――」 灯の渾身の気遣いに、ポンジはついに事切れた。 「‥‥不甲斐ない用心棒達っ!」 明らかに優勢な用心棒達を前に、真由良は何故かご立腹。 「退きなさい、私が止めを指してあげるわっ!」 と、真由良は懐から一枚の符を取り出した。 「‥‥ここは退いた方がいいのか?」 「自分もやりたいのか? ま、少し疲れたし任せよう」 と、何やら呟いた二人は武器を納め身を引いた。 「喰らいなさいっ!」 真由良の放った符が斬撃を帯びる。 「ぐっ!」 「‥‥だめ!」 真由良の斬撃がポンジを捕えたかに見えた、その瞬間。白き人影がポンジと斬撃の間に割って入った。 「きゃっ!」 「っ!? リトルハニー!」 斬撃に吹き飛ぶ水月をポンジは呆然と見つめる。 「‥‥団長さん、ごめんなさいです‥‥」 「もう喋るな!」 力無く倒れる水月の身体をそっと抱き上げるポンジ。 「団長さんなら‥‥きっと、瞳さんを‥‥助けられるって、信じてます‥‥」 最後の力を振り絞るように言葉を紡ぐ水月。 「やめろ! もう喋るんじゃねぇ!」 「団長さん‥‥頑張ってください‥‥です」 そして、にこりと微笑んだ水月は、かくりとポンジの腕へその身を預けた。 「ちっちぇの!」 力無く寄り掛かる水月の身体をギュッと抱きしめ、ポンジが吠える。 「ポンジ! 思い出してっ!!」 水月を抱き悲しみに暮れるポンジに百々架が声をかけた。 「お、俺の‥‥」 百々架の言葉と共に、ポンジの中の何かが呼びかける。 「立ってポンジ! その子の為にも!」 「この子の為‥‥」 百々架の声が再びポンジの耳朶を打つ。 そして、ポンジは腕の中で眠る水月に視線を落とした。 「そうだ‥‥この子の――」 がすんっ! 「ごはっ!?」 決意に震え立ち上がったポンジを、突然の衝撃が襲った。 「ポンジ様〜ん☆ 浮気はだ・め・よ?」 衝撃で再び地に伏したポンジの顔面を踏み拉き、喪越堂々の再登場。 「あんた達、よくもアチキのポンジ様を‥‥っ!」 折角立ち上がったポンジを見下ろした喪越は、この場に会した一同に視線を巡らせた。 「許さない‥‥許さないんだからっ!! ――うぎゃあぁ!?」 「あら、喪越様。いつの間に」 と、その瞬間、真由良の放っていた炎が喪越を襲う。 「うわ‥‥容赦ないな」 「女とはかくも恐ろしい者なのか‥‥」 真っ赤な炎に包まれる喪越を、野鹿とニクスは頬を引きつらせる。 「ちょ、ちょっと!? 何をしくさってくれるのかしらっ!?」 しかし、喪越の嫉妬の炎はこの程度の炎などもろともしない。 「アチキとポンジ様の仲を引き裂く泥棒猫達‥‥ゆるせな――」 ごすっ☆ 「ひでびゅっ!」 炎の中で不敵に微笑んだ喪越。しかし、その顎を突然の衝撃が襲う。 「な、なんだ‥‥この熱く滾る血潮は‥‥!」 拳を突き上げ立ち上がったポンジは真っ赤に燃え盛るように、真っ赤に燃え盛っていた。 「ぽんじ‥‥?」 喪越を打ち上げ立ち上がったポンジに、灯が不安げな視線を送る。 「はっはっはっ!」 闇夜に劈く高笑い。 「待たせたな、俺、只今参上!!」 いつもの台詞。 いつもの決めポーズ。 紅く燃え盛り、ポンジ復活の時である。 「元に戻った‥‥のでしょうか?」 「どうやらそうの様ね。はぁ、楽しかった」 脱力の林太郎と、陽気に笑う百々架。 「ポンジ様‥‥おかえりなさい」 笑い声を響かせるポンジを、真由良はそっと見つめた。 開拓者達の助成(?)を受け、ポンジは本来の姿を取り戻した。 こうして見事復活を遂げた怪盗ポンジ。その英雄譚が再び始まる――のかもしれない。 |